生田「道重さんスパゲッティーを食べませんか?」12
番外変
「ちょっとぉ、狭いんだから動かないでよ」
「み、道重さんだって動いてるじゃないですかぁ」
もう1時間近く薄暗いロッカーの中で生田と密着している。
いったいどうしてこんな事になってしまったのか。
.
「は? かくれんぼ?」
始まりは佐藤の思い付きだった。
誰も見つけられず、警備員さんに探してもらう程のかくれんぼ王となってしまった佐藤が
リベンジ企画と称して自分が鬼になって制限時間いっぱい探すと言い出したのだ。
制限時間は2時間。
機材トラブルの影響で撮影の再開まで2時間以上かかると先程伝えられたので
別に問題があるわけではないけれど、絶対途中で飽きるなこの子。
こちらも体力的に2時間も狭いところに隠れ続けるのは厳しい。
まあ適当なところに隠れてすぐに見つかればいいか、と軽く考えたその時、
佐藤が続けて言った一言にさゆみは久しぶりにやる気スイッチがONになるのを感じた。
「さいごまで見つからなかった人はまさがマッサージしてあげます!」
「ッ! まさの…マッサージ……っふふ」
「なんでわらってるの?」
「あゆみんツボ浅すぎ」
笑いを堪えて身を震わせる石田を横目にさゆみの体も震えていた。
あの程度のダジャレで爆笑してるわけじゃない。
武者震いというやつだ。
案外体出来上がってる幼女の全身マッサージとか、なにそれやらしい。
絶対勝つ。
『みにしげさん、足ってこのへんですか?』
『あー、もうちょっと上』
『ここですかぁ?』
『もっと上、もっとう…ah!』
自身の想像にゴクリと喉が鳴る。
なんて素敵なシチュエーションだろう。
「ど…どこに隠れてもいいんだよね?」
興奮で震えそうになる声を必死で抑え込む。
野生の勘で「……やっぱりみにしげさんはいいです」なんて断られたら困る。
もうやる気まんまん丸なのに。
幸い佐藤は察知しなかったようで、笑顔で1階ならどこでも良いと答えてくれた。
むしろいつになく真剣なさゆみに喜んでいるようだ。
子供の純粋さに心が痛むの。
ごめんね、佐藤ごめんねぐふふ。
現在の時刻は13時。開始時刻は15分後。
みんなどこに隠れようか廊下をウロウロしているけれど、さゆみの行先は既に決まっている。
これでも11年目、この建物の構造は9期以降の子達よりずっと理解してるの。
1階であるこのフロアには当然上階への階段があるわけだが、その脇に普通に歩いているだけでは
見落としかねない影の薄いステルスドアがある。
中は物置部屋になっていて鍵はかかっていない。
以前そこに人が余裕で入れる大きさのロッカーが一つあるのに気付いて、
メンバーを連れ込んでギューしたり何かに使えるんじゃないかと中を見たことがあるが
空気穴が幾つもあいていて戸を閉めても日中は明かりが射しこむ快適そうな造りだった。
あそこなら2時間くらい余裕で隠れられるだろう。
ふふん、残念だったわね佐藤。
子供の柔軟な発想に打ち勝つだけの知識がさゆみにはあるのよ!
「勝った! アロマオイー……え?」
「あー、道重さぁーん」
勝利を確信しお目当ての部屋のドアをガッチャ バーン! して雄叫び(WAO!)を上げようとしたその時、
KYの能天気な声で現実に引き戻された。
相手は既に例のロッカーの戸に手をかけている。
思い通りいかない事ばかりなの。
「な、なんでこの場所を」
「新垣さんとメールしてて、こういうとこあるよって教えてもらったんですぅ」
ガキさん、なんてことしてくれたの。
押し倒して今度こそガキさんのお豆ちゃんをリアルエチュード……。
いや、今はガキさんへの仕返しプレイの構想は後回しにして
生田に違う場所に行ってもらうのが先ね。
「生田、ズルはいけないよ。自分の力で探さないと。てことでここはさゆみが隠れ」
「ここ最初に見つけたの田中さんだって新垣さん言ってましたよ」
「ぐぬぬ」
確かにさゆみもここの事はれいなに教わったけれど、
プライベートではれいなの名前も出さない殺伐ガキさんはどこへ行ったの。
さゆみがほんのちょっと目を離した隙に交流を深めて、これだから舞台なんて。妖精ェ。
「じゃ衣梨はこのロッカーに隠れるんで、道重さんは他のところにどうぞ」
さゆみが過去の屈辱に歯ぎしりしてる間に
生田はチャっと指を2本額にあててロッカーにinしようとしていた。
さながらこれから飛行訓練に赴く戦闘機パイロットのようである。
やだかっこいい。
ってなるわけもなく。
幼女の合法マッサージを阻むものはイケメンであろうと許さないの。
即座にロッカーに半身を滑り込ませて生田の侵入を阻止する。
「さゆみもここに隠れるつもりだったんだから、先輩に譲りなさいよ」
「かくれんぼの前に先輩も後輩もありません」
「やなのやなの、さゆみが隠れるの!」
「衣梨が先に来たんですぅ!」
なんだかんだ言ってどちらかが入ってしまえば、残りの一人は諦めざるを得ない。
腕力ではかなわないけど、立場とテクニックではこちらに分がある。
いざとなれば秘蔵のガキさん画像で交渉すればいい。さゆみ負けない!
と、気を引き締めた瞬間。
幼女丸出しの元気な声が耳に飛び込んできた。
「はじめますよぉーー!!」
時計を見ると13時15分。
くっ、しまった。
生田ともみあってる(性的な意味ではない)だけで、15分も経っていたとは。
時間は止まんねぇっすなの。
もし万が一ロッカーを生田に取られた場合、他の隠れ場所を探す必要があるけど
今廊下に出れば見つけてくださいと言わんばかり。
予測のつかない行動に定評のある佐藤がこの部屋のドアを開けてみないとも限らない。
室内に少しでも身を隠せる場所が無いかあたりを見回すが碌な場所がない。
角度次第で丸見えの机の下くらいか。
「どうしよう」
「とりあえず一緒にロッカー入りましょ」
「え、二人で?」
「優樹ちゃんがこの部屋の前通り過ぎてから移動すればいいですから」
「それもそうか」
生田に勧められるまま、ロッカーの中に二人で入る。
ロッカーの壁に面した奥側にさゆみ、戸の側に生田が収まった。
体力のないさゆみが後ろにもたれる事まで考えているのかはわからないけど
そうだとしたら素直にありがたいと思う。
それでも、どうしようもないKY度と合わせて±0というところだが。
広めのロッカーとはいえ二人で入ると狭い。
大きめの空気穴のおかげで光が多く入る分圧迫感はないけど、気を抜くと手足が相手にぶつかる。
まあ佐藤が遠くに行くまでの我慢だ。
暫く息を潜めていると、佐藤の声が近づいてきた。
「どーこかなー、どーこかなぁー」ってあの子ホントに幾つなの。
節をつけて歌っぽくしてるけど、あんな居場所バレバレの鬼ってどうなのと思う。
隠れてる側にとってはありがたいけど。
佐藤はこの部屋に気付かなかったようでドアを開ける事もなく通り過ぎて行った。
「ふぅ、とりあえず第一陣はやり過ごしたか」
「出ましょうか」
「そうね。開けてもらっていい?」
「はい」
ガッ
「……」
「……?」
ガタッ…ガコガコ…ガッ
「……」
「おい」
「んふ?」
意味もなくニッコリ笑いかけてきた。
無駄に爽やかな笑顔の生田と暫し無言で見つめ合う。
「顔が引きつってるよ」
「道重さんたら酷いっ! 気にしてるのに!」
「誤魔化すな!」
この生田のテンパり具合でどういう状況なのか予想はつくけど、聞かない事には話が進まない。
900 :
名無し募集中。。。:2013/09/16(月) 20:01:11.99 0
えりぽん
「開かなくなったんでしょ」
「……」
「開かなくなったんだよね?」
畳み掛けるように問うと、段々いつもの情けない顔になってきた。
既に目が潤んでいる。
「……ま、マサえもぉ〜ん!」
「ばっ、呼ぶな!!」
「なんでですかぁ」
「勝負はまだ終わってない! ここで諦めたら試合終了だよ!?」
「もうそれどころじゃないですぅぅぅ」
「そんな弱気じゃこの芸能界やっていけないよ!」
「かくれんぼに何があるっていうんですかあぁぁ」
何ってナニだよ、と言いたいところだけど言ったところで、佐藤の合法マッサージの魅力なんて
この子には理解できないだろう。それに説明するのもめんどくさい。
「とにかくかくれんぼ終わるまでは大人しくしてて。終わったら叫ぶなり蹴破るなりしていいから」
「蹴破りはしません」
「むしろ蹴破って欲しくて言ってるんだけど」
「じゃあ道重さん、衣梨の代わりにロッカー弁償してくれます?」
「やだ」
「ケチんぼ」
「今のさゆみの趣味、貯金だから」
「うわっ、寂しい」
「卒業したら幼稚園開業するんだ……」
「やめてください、色んなフラグ立ちすぎです」
色んなってどういう意味なの。
子供達の成長をおはようからおやすみまで見守ることがさゆみのささやかな夢なのに。
最近みんなさゆみのことを色眼鏡で見過ぎなの。