生田「道重さんスパゲッティーを食べませんか?」10
真・1話
「昨日のうさピー激熱やったんやけど!!」
「ああ、なんか道重伝説の話があったんだっけ」
「そんだけじゃないっちゃ。衣梨みたいな人が好きらしい」
「……は?」
「道重さんがついにスパ釣りに本気出してきた!」
「……おまえは何を言っているんだ」
昨夜のうさピーの興奮が治まらなくて一緒に登校してる里保にも
感動をおすそ分けしてあげようと思って伝えたのに、
里保は溜息を吐いて死んだ魚みたいな目で衣梨を見上げてきた。
いつもの事とはいえ朝一のこの反応、ちょっと心折れそうになるっちゃ…。
「いやホント、マジに衣梨みたいな人っちゃん」
「また何かいいように解釈してるんでしょ」
「違うもん! 絶対衣梨やもん!」
「家に帰ったら聴いてみるよ」
「衣梨が説明してあげる!」
「いらない。たぶん聴いた方が早いし」
「説明したいのにー!」
衣梨が地団駄踏んでる間に、さっさと信号を渡っちゃう里保。
いつもは衣梨が先歩いとるのにぃぃぃ。
「ふぅ……」
仕事が終わって、なんとなくマネージャーさんについて事務所まで来てしまった。
特にすることもないので事務所の廊下をぶらぶら歩く。
里保は学校終わったらそのままピーベリーで名古屋に行ってしまった。
衣梨も仕事あったっちゃけど、学校で『今日これから仕事で名古屋でさ(ドヤッ)』みたいなのやりたい。
聖も亜佑美ちゃんと仙台ロケ行っとぉし。
いいなぁ……。
「あ!」廊下の先のドアから道重さんが出てきた。
その姿を見た途端くさくさした気分が吹っ飛ぶ。
道重さんとラジオの話したい!
つい駆け出しそうになったけど、慌てて早足に切り替えて追いかけた。
事務所の部屋の中にはまだ仕事中の人がいっぱいおるけん走ると怒られるかもしれん。
パタパタ…スタタタ……
え、なんか距離縮まらないんですけど…、道重さん歩くの早すぎるやろ。
仕方なくなるだけ音を立てないように走って階段の踊り場でようやく追いついた。
ホッとしたのもあって階段を降りる勢いのまま道重さんの腕に抱き付く。
「道重さーん!」
「っ! ……あ、なんだ生田か。はぁ」
急に抱き付かれて道重さんは凄く驚いたらしく、衣梨にも分かるくらい体がビクッと震えた。
衣梨やと知って胸を撫で下ろしていたけど、そんなに驚くもんかな?
まさかお化けと勘違いしたとか?
まあいいや、それよりも。
「んふふふ」
「なに、ご機嫌じゃん」
「聴きましたよラ・ジ・オ」
「は?」
もう道重さんってば、とぼけちゃって。
あれだけのネタを釣り師を目指す衣梨が気付かないとお思いか。
「衣梨のこと話してたじゃないですかぁ」
「ああ、あれね。生田的にはどうだった? 合ってた?」
「バッチシですよ!」
「そう? ふーん」
予想外のところで笑いが起きる生まれながらのバラエティメンであり
常に自然体で行動していて、狙った顔より普段の顔の方が褒められる。
もうこれ完全に衣梨そのものやん。
やだ、まとめてみたら衣梨ってかなりスペック高くない?
なんでこれでヲタ人気が微妙なのか。解せぬ…。
「聴いてたなら丁度いいや。さゆみの態度って、正直どう思う?」
「え、態度ですか? んー」
態度ねぇ。あからさまに釣りすぎかってことやろか。
それなら全然大丈夫やと思うけど…。
計算得意なだけあって釣りも慎重なんかな。
「もっとでも大丈夫ですよ」
「え、ホント?」
「はい!」
「そっか。……あは、よかった。安心した」
「んふふふ。気にしすぎです」
「そうかな? ふふ、そうかもね」
……はっ!
今気づいたっちゃけど、さっき衣梨ってば道重さんに釣りについて意見を求められた?
しかも、衣梨の答えを聞いて安心しただなんて…!
ヤバイ。釣り師として認められたって感じで超嬉しい。
晩ご飯はこの感動を記念して明太子スパ食べよう。
「あ、でもさ、なんかあったらさゆみにも相談していいからね」
「相談?」
「ガキさんより相談し辛いかもしれないけど、一応今のリーダーなんだから」
「は、はい」
え、どゆこと?
釣りに関する相談かと一瞬思ったっちゃけど、新垣さんとかリーダーってことは仕事のことかいな。
なんでまた急に……
「ってあれ? 道重さんなんか目赤くないですか?」
「あー、そうなの。ものもらいかな」
「病院行った方がよくないですか」
「まあそうなんだけど、時間無いし。ものもらいの目薬持ってるからそれ点してちょっと様子見るよ」
片方の目だけ真っ赤になってて、変な感じ。
道重さんの赤い目の下に指を当ててちょっと下に引っ張ってみる。
当たり前やけど衣梨お医者さんじゃないけん、ようわからん。
そのままうーんと唸ってたら「こら、うつったらどうすんの」と手を叩き落とされた。
勝手に触って怒られるかなと思っとったけど、そっちは気にならなかったらしい。
「ものもらいって誰かにうつしたら治るんでしたっけ」
「え、そうだっけ。でもものもらいなんて誰にうつすの」
「衣梨とか」
「うつされたいの? ていうか、あんた仕事どうすんのよ」
「あ、そっか。残念」
うつったらスパスレ爆釣りなんやけどなぁ。
よく少女マンガであるうつしたら治るよからの
おまえら何してうつったんだよヒューヒュー、みたいな。
「残念って……」
「道重さん?」
あれ…何か眉間に皺が寄ってるんですけど……。
まずい。もしかしてプロ意識ないと思われた?
よく見ると顔もちょっと赤い。
怒りの血潮ってやつかいな |||9|;‘_ゝ‘)ヒィィ
「や、ややや、違うんですよ。えっと、道重さん早く治って欲しいなっていう、あの、
気遣いというか、それだけなんで、お、おおお先に失礼しますぅぅ」
あわあわ言い訳しながら後ずさりして、一礼の後階段を駆け降りる。
ふぅ、あぶないあぶない。衣梨怒られるのは正直苦手なんよね。
「てなわけで、マジ焦ったっちゃ。むぐんぐ」
『えりぽんさぁ、ご飯食べながら電話するのやめようよ…』
「里保も食べたい? 明太子スパ」
『電話越しに無理言わないで。それにウチもう食べたもん』
「そ?」
『てかさ、書き起こし見たんだけど、あれえりぽんの事ってわけじゃないと思う』
「えー! 衣梨やって!!」
『えりぽんの話は後半で別にやってたじゃん』
「衣梨は普段からキャラ変わらんって話やったっけ、なんか前半が衝撃的すぎてあんま覚えとらん」
『おいおい』