生田「道重さんスパゲッティーを食べませんか?」10
続・7話
「Help me」
「え?」
「リピートアフターミー。へるっみー」
「へっみー」
『またなんか変なこと言い出したな』みたいな呆れた顔をしつつも、
ちゃんと復唱してくれるあたり、なんだかんだいって里保は付き合いがいいっちゃね。
「って何で急に英語?」
「いやぁ、つんつべの放送見たんやけどさぁ、小田ちゃんめっちゃ上手かったやん」
「ああ、モノマネも上手いし耳がいいのかな」
「それな! 衣梨達に足りんのはそれっちゃ!」
「それ?」
「モノマネが上達すれば歌唱力も上がるっちゃん」
「そ、そうか?」
道重さんはモノマネが苦手、小田ちゃんはモノマネが得意。
つまり、歌の上手さとモノマネの上手さは比例するということなんだよ。
ナンダッテー
やばい。今日の衣梨めっちゃ冴えとる。
「やけん、小田ちゃんにモノマネを習おう」
「習おうって、ウチも?」
「YOUもトゥギャザーしちゃいなぜ!」
「混ざってる混ざってる」
早速、楽屋にやってきた小田ちゃんを捕まえて
挨拶もそこそこにモノマネを教えてくれるよう頼み込んだ。
最初は先輩達の急な頼み事に驚いとったけど、歌が上手くなりたいと伝えると
里保の手を取って「鞘師さんさすがです。お二人の友情に感動しました」と言い出した。
どういう意味なん……。
なんかすごく不愉快な予感がするっちゃけど、とりあえず快諾してくれたようなので
撮影の待ち時間に楽屋から少し離れた廊下の隅に集まって教えてもらうことにした。
楽屋やとモノマネ大会が始まってみんな歌唱力上がってしまうけんね。
むふっ、突然歌唱メンになってビックリさせてやるっちゃ。
「よし、早速始めよっ。簡単なやつからでいいけん、なんかある?」
「うーん。では、工藤さんの声を真似してみましょう。『くどヴはる゙かです!』 どうぞ」
「『くどぉはるかです!』 うわ、どぅーの声きついっちゃ」
「『くどーはるかです!』 確かにあの声はなかなか出ないね」
「喉で息を掠れさせる感じなので、それを意識して…」
喉を意識してやってみても、全然上手くいかん。
里保なんて変なところに力を入れてしまったのか咽込んで涙目。
衣梨達と小田ちゃん、いったい何が違うんやろ。
間にそれぞれの出番を挟みつつ、小田ちゃん先生の丁寧な指導を受け続けること3時間。
衣梨達にも徐々に特訓の成果が見え始めた。
「で、声を出すと…『くどヴはる゙かです!』 おおお、里保もやってみ」
「『くどヴはる゙かです!』 わ、だいぶ似てきた気がする」
「どう? 小田ちゃん似とぉ? 小田ちゃん?」
先生に判断して貰おうと見ると、小田ちゃんは目をまん丸にして硬直していた。
なんだ、なにがあった。
「どうしたと?」
「あ……、い、生田さん! その声で譜久村さんを呼んでみてもらえますか?」
「え? いいけど。『み゙ずきー』」
「きゃぁ!」
え、なんでそこで黄色い声が上がると?
謎の反応に戸惑う。
「今呼んだのってえりぽん?」
声に振り向くと、聖が楽屋のドアから顔だけ出してこちらを不思議そうに見ていた。
衣梨が呼んだ声がどぅーっぽかったようだ。
ふむ、これで次の新曲はソロパートがっぽりやね。
「どうかしたの?」
「呼んでみただけー」
「えええ、道重さんと話してたのにぃ。はるなんに取られちゃうよぉ」
「あ、ご、ごめん」
頬を膨らませてドアを閉める聖を見送って思い出す。
そういえば、今日の撮影から道重さんが復帰して、聖にしては珍しくガツガツ話しかけとったっけ。
はるなんには譲らないよと言わんばかりに牽制しとったけど、
肝心のはるなんはそんな聖の姿にひたすら萌えていた。
萌えながら映像を目に焼き付けようと、ただでさえ大きな目を見開いていたので
傍目には牽制しあっているように見えなくもない。
真相を知っている衣梨達から見ると " REC中 " 以外のなにものでもないっちゃけど。
そんなすれ違いを繰り広げる二人に道重さんは苦笑い。
はるなんの趣味は知られていないらしいけん、
内心『さゆみフクちゃんのものじゃないんだけどなぁ。ドゥフフ』といったところか。
復帰早々ハーレム満喫とか、道重さんも楽しいやろうね。
ていうか、衣梨今日一言も道重さんと喋ってない気がする。
チョコの感想とか聞きたいんやけど、今日は無理っぽいなぁ。
はぁ……。
何かお腹痛くなってきた。
聖に怒られたからかな。
もう、小田ちゃんてば変なリクエストして……
チラリと小田ちゃんの方を見ると、なんだか目を輝かせて衣梨を見ていた。
例えるなら " ディ○ニーランドにいる時の新垣さん " みたいな目だ。
な、なんなの? エリーマウスなの? 世界一のマスコットキャラクターなの?
「す…すごい! 本物の生田君みたいでした!」
「え?」
混乱する衣梨に追い打ちをかけるように、小田ちゃんからすごい発言が飛び出した。
衣梨と里保の動きが止まる。
生田…君?
え、生田君って、まさか、あの?
里保も同じことを考えたらしく、顔が引きつっている。
「小田ちゃんてもしかしてエロッキスレ…」
「ちょ、ストレートすぎるよ!」
「常駐してます」
「小田ちゃんもサラッと答えないで!」
なんてこったい。
【悲報】小田ちゃん狼住人のお知らせ
とっさにスレタイが頭に浮かんだっちゃけど、正直あまり意外に感じない。
だって年齢のわりに雰囲気がエロいっていうか。
だけん、
1 自分:名無し募集中。。。[] 投稿日:2013/02/21(木) 21:19:00 0
エロッキスレ常駐してるらしい
2 自分:名無し募集中。。。[] 投稿日:2013/02/21(木) 21:19:39 0
知ってた
みたいな感じ。
え? 自演じゃないよ?
だって衣梨はROM専だもの。
あれ、でも鞘師君には食いつかんって事はもしかして。
「小田ちゃんって衣梨…じゃない。生田君が好きなん?」
「はい、素敵ですよね。生田君って」
夢見る少女のようなキラキラした瞳で衣梨を見つめてくる小田ちゃん。
な、なんか顔が熱いっちゃ。
「あ、そ、そう?」
「えりぽんの事じゃないから」
「わ、わかっとぉよ」
即座に突っ込んでくる里保にそう返事はしたものの、やっぱり嬉しい。
衣梨自身ではないとはいえ、衣梨をモデルにしたキャラが褒められるのは気持ちがいいっちゃ。
「なんていうか、生田君って行動力があって引っ張って行ってくれそうなんですよね」
「斜め上に行きそうだけどね」
「ちゃらちゃらしてるようで一途だし」
「ストーカー体質だからかな」
「お調子者だけど、心は熱いっていうか」
「暑苦しいってこと?」
「もう里保うっさい!」
少しはいい気分に浸らせてくれればいいのに。
里保ってホントにSに目覚めてしまったんかいな。
「ふんだ。いいもん。衣梨の方がモノマネ上手かったもん」
「え、なに、その拗ね方」
「やーい、下手くそー」
「いや、えりぽんも相当下手でしょ」
「はぁ? 里保の方が下手やろ」
「透明感(笑)」
「観察力(笑)」
「えっと、殴り合いですか?」
「――でさぁ、その後えりぽんったら力瘤見せたり触らせたりしてドヤ顔してんの。
小田ちゃんがきゃあきゃあ言ってくれるからってもう浮かれちゃってさ。
ホンットえりぽんって乗せられやすいよね」
「そ、そうだね」
「ん? どしたの? 元気ないね」
「いや、なんでもないよ。あ、しるこサンド食べる?」
「食べたーい!」
「取ってくるね」
「やったぁ!」
のん気に鼻歌を歌い出した同期を尻目に、バッグの中身を探りながら溜息を吐く。
何という事だ。
つい先日一番普通そうだった亜佑美ちゃんが里保ちゃんに迫るようになってしまい
枕を涙で濡らしたばかりだというのに、小田ちゃんまでだなんて……。
「やっぱり芸能界って、変な子しかいないのかなぁ」
光井さん。
あたし、もうどうしたらいいのか分かりません……。