続・1話
「はー、道重さんは忙しいっちゃねぇ」
スパスレに書き込まれてた週末のスケジュールを見て改めて思う。
今日の東京と月曜の大阪はラボ3回まわし、その間の日曜は東京・京都で写真集の握手会。
ここ暫くは田中さんが体調を崩していつも以上に気を張っているのか
休憩時間に一人ボーっとしている姿をよく見かける。
やっぱり疲れとるんかなぁ。
「なに呑気なこと言ってんのさ。ウチらも忙しいでしょ」
「でもぉ、ほら、こうやって文字にしてみるとさ」
「うーん。まあ後輩にできる事って限られるからね。田中さん大丈夫かな」
「衣梨に出来る事ってなんやろう?」
「あるの?」
「あ、あるに決まっとぉやん!」
「……」
「な、ちょ心配そうな顔せんで!」
とは言ったものの……。
どうしよう。なんも思い浮かばん。
威勢のいいことを言ってしまったてまえ里保には相談できない。
やっぱり衣梨なんて…とうじうじスマフォを弄る。
いかん、このままやと去年のラボと同じ鬱モードに陥ってしまいそう。
「切り替え切り替え!」
「うぐっ!」
「わわっごめんはるなん!」
「おりゃ!」
「ぐべぇ! …あ、ありがと…くどぅー」
急に叫んだので近くで饅頭を食べていたはるなんが驚いて咽てしまった。
即座にくどぅーが回し蹴りを食らわせて事なきを得たが
それに普通に感謝するはるなんはやっぱり根っからのドMらしい。
その様子を見ていたら、なぜだか気持ちが落ち着いたけん
夜中にスパスレに書き込まれてた生さゆ年表をながめて再度考えてみる。
道重さんが衣梨に求めるもの…。
とりあえず思い付いたこと全て試してみるしかない。
行動力が衣梨の最大の武器やけんね。
@アイドル話でリラックス
アイドル鑑賞が共通の趣味なんやから、これは確実にイケる。
鏡の前で髪をとかしている道重さんに声をかける。
ふふふ、衣梨が楽しませてあげますよ。
「道重さん!」
「んー?」
「見てください! この生写真の新垣さんかわいくないですか?」
「あぁ、かわいいかわいい」
「え……」
あれ?
予想と違う反応に面食らう。
『わぁ、かわいい!』
『ふふふ、でしょう(ドヤッ)』
『でもまだまだ新参ね。ほら生田、さゆみ秘蔵のガキさんフォルダが火を噴くわよ!』
『ひゃっほーい!』
みたいな流れになると思ったのに。
あ、そうか。動画派か!
「道重さん!」
「もー、なに?」
「じゃん! 新垣さんを応援する会 第一回会合のDVDです! 一緒に見ませんか?」
「今日そんな暇ないでしょ」
「ご飯食べながらとか…」
「台本チェックしたいの。ごめんね」
「……はい」
失敗した。
よく考えると、前から新垣さんの話振ってもあんまり乗ってきてくれんかったんよね。
聖にもアイドルに関しては衣梨とは話合わんけど、道重さんとは合うって言われたことあるし
そのせいかな。
でも諦めの文字は衣梨には無い。
別の方法でアタックしてやるけんね!
A成長を見せつけ安心させる
甘え下手な道重さんは後輩に頼れんけん疲れるっちゃ。
ここは成長した衣梨を見せつけて…
『やだ、生田ったらいつの間にそんなに』
『頼ってくれてもいいんですよ(ドヤァ)』
『ステキ!(ジュンジュワー)』
我ながら完璧すぎて怖い。
ヤバイ衣梨天才かもしれん。
「見てください、道重さん!」
「?」
「むぐ…んぐぐ、ほらっ!」
「え、なに?」
「トマト食べられるようになったんです!」
「あ、そう。おめでとう」
「はいー!」
「それだけ?」
「はい!」
「じゃあそろそろ生田も着替えな」
「……はい」
また失敗。
トマトくらいじゃ頼るほどの成長を感じてもらえなかったみたい。
うぅ、衣梨の才能がもっと開花されれば……。
衣装に袖を通しながら次の作戦を練る。
さすが道重さん、やっぱり一筋縄ではいかんっちゃね。
B変1さんを喜ばせる
もし変態スレの釣りにほんの少しでも真実が含まれるなら、
衣梨がすべきことは……ただ一つ。
意を決して道重さんに近づく。
せーのっ!
「失礼しまっす!」
「わっ、なにいきなり!?」
「どうですか、道重さん?」
「どうって重いよ!」
「落ち着きません?」
「落ち着くか!!」
ベシッと膝の上から叩き落とされてしまった。
見上げると道重さんの呆れた顔。
ど、どうして?
前は膝の上おいでってニヤケ面で言っとったのに、乙女の純情弄ぶとか……
汚い、さすが変1汚い。
「もぉ、何なの今日は?」
「えっと、あの……」
「さゆみそんなに生田のこと放置したっけ?」
「へ?」
「割と構ってる方だと思うんだけど」
「や、そういうわけじゃなくて」
「じゃあどういうわけなの。言ってみなさい」
腕を組んでジロリ。
なんなのこの威圧感…、
たった一人でベリーズさんより怖いとかどういうことなん ((|||9|;‘_ゝ‘)))ブルブル
「み、道重さん疲れてるんじゃないかなって思って」
「思って?」
「疲れが和らぐかと」
「マジか…」
「効果ありませんでした?」
「むしろより疲れたよね」
「うそぉ!」
絶対うまくいくと思ったのに…。
成功して里保に自慢して聖に自慢して香音ちゃんに自慢して…
モー女で披露して新垣さんに報告して…
狼に"生田衣梨奈ちゃん世界一優しいのお知らせ"とか立ったりして
それをサイゾーが記事にしたりして芸スポで生田衣梨奈伝説が…
みたいな展開を密かに妄想しとったのに……。
夢敗れた衣梨がしょんぼりしてたら、道重さんが衣梨の頭を両手でわしゃわしゃしてきた。
親方のかわいがりか! と恐る恐る目線を上げると意外にも笑顔。
もう怒っとらんのかな?
「道重さん?」
「まあ色々考えてくれたことは嬉しいよ。完全に間違ってたけど」
「す…すいませんでした」
「でもちょー疲れた。今日は生田に仕返ししよっと」
「仕返し?」
「弄り倒してやるから、覚悟しときな」
「は、はい」
「これ相手生田だったらどうすんの? いいところ見つけるの大変!」
「青汁も生田には飲まれたくないだろうね」
宣言通りラボで嬉々として衣梨を弄る道重さん。
やばい、この人完全にドSの顔しとぉやん。
ぐすん。
衣梨の癒しはどこにあると?
とりあえず癒しの肌と言われる聖にスキンシップ。
さすがマシュマロボディ…いつもながら胸元が迫力満点やね。
…ぐぎぎ。
ああ、色んな意味で新垣さんが恋しい。
「というわけでうまくいかんかったっちゃ」
「うん、当然だね」
「3つともいい案やと思ったんやけど」
「マジか…」
「道重さんも同じ反応やったけど、どこがダメなんかな?」
「全部」
「……」
里保のS対応が今日は妙に胸に刺さる。
ホントに新垣さんに会いたくなってきたっちゃ…。
それにしても、どうしたら道重さんを元気にしてあげられるんかなぁ。