7話
「はぁ」
「どうしたの?」
「里保ぉ、衣梨は無力っちゃぁ」
「は?」
ラボ初日を終えて、狼の反応を確認した。
あゆみずきスレが立ち、さゆ里保スレが立ち、唇スレ興奮、とカプヲタ大喜びだったというのに
肝心のスパスレはといえば、殆どが道重さんの発言で盛り上がっていたのだ。
しかも、ブログ用にと道重さんに頼まれ撮影したHelp meのケーキとの写真まで
『生田に撮ってもらったら口元が変だった』なんてネタにされ
道重さんの無駄のないスマートな釣りに、今の衣梨では太刀打ちできないと痛感した。
「心配して損した」
「酷い! 里保は冷たいっちゃ」
「はいはい」
「悔しいです!」
「そういうのいいから」
「梅しいです!!」
「そんなことしてないで台本でも覚えなよ」
「……うぅ」
釣りで道重さんに認められてからのバラしは諦めた。
今日はさり気なく会話から『スパスレ釣ってるんでしょ?』と聞き出すっちゃ。
「あああ、あのぅ。きょきょ、今日のお弁当なんでしょうねぇぇ?」
「なに? 声裏返ってるけど、そんなお腹空いてんの?」
「や、ええーっと。そう、そうなんです」
「まだしばらく来ないから、そこのお菓子でも食べて我慢しな」
「……は、はい」
はい。お弁当→スパゲッティの流れ終了ー。
うぅ、ど、どうすればいいとかいな?
「あ…ぁ、ぁの!」
「どうしたの? そんな今日緊張する?」
「い、いえぇ」
どうしよう。完全に不審がられとる。
やっぱり衣梨には直球しか投げられんみたい。
「道重さんって……、スパゲッティ好きなんですか?」
「ん? あぁ、好きだけど?」
「そうですか……、やっぱり…」
「あれ、生田も好きじゃなかったっけ?」
「え! なんで知ってるんですか!?」
「え、だって前になんかで見たよ。さゆみと一緒だって思ったの覚えてるもん」
「!!」
なんかでって何!?
でも怖くて聞けん!
もしかしてアレかいな、おはガールん時に棒状のモノの食べ方変えてバレかけた件。
メンバーの狼率みたいなスレで毎回書かれとぉけど、道重さんもチェックしとったんかな。
でもその頃スパスレないし……あ!
狼見とるんは前からバレてて、ラボでスパスレ釣ろうとしたのも知っとぉよって事か。
あの時は反応薄いと思ったけど、抜かりないっちゃね……。
「そんなに前から衣梨のこと知ってたんですね…」
「まあメンバーのことは大体知ってるよ、さゆみメンバー超好きだからね。ふっふふふ」
「さすが道重さんです……」
「前といえば、覚えてる? 去年のラボん時さ、出番前に緊張してさゆみに泣き言言ってたの」
「あ……」
そういえばそんな事もあったなぁ。
あの時は緊張して自信もなくて完全に鬱モードに入ってて
ワッチされてるかもと思わないでもなかったけど、
どうせ衣梨のなんてうpされないだろうとネガティブ全開で道重さんに泣きついたんだっけ。
「あんときは『私はかわいくなれないです…』とか言ってたのに、
今じゃ私が一番って感じでガンガン前出てくるよね。すべるけど」
「道重さんを見習ったんですよ。かわいいって言い聞かしてるんです」
「鏡じゃなくてファンの人に向かって?」
「その方が効果ありそうじゃないですか?」
「生田って変」
「変じゃないですよぉ」
去年のラボの頃を思い出す。
あの頃は新垣さんがいて、いつも引っ付いてまわってた。
ラボ中も引っ付きすぎて狼でも笑われてしまってたくらい。
「あ、思い出しました。あのラボで新垣さんと道重さんと楽屋一緒になって…」
「あー、あんたがガキさんガキさーんって大喜びしてたやつね」
「違いますよー、道重さんもいたから楽しかったんですって」
「なにそれ、Mか」
「なんでそうなるんですかぁ」
「だってさゆみに弄られて悦んじゃったんでしょ?」
「喜ぶの意味が違いますっ」
「いいじゃん、ドMで売っていきな」
「やですぅ、だってそれじゃはるなんと被るじゃないですか」
「被んなきゃいいの?」
「はい」
二人同時に吹き出す。
道重さんとはこういう掛け合いが楽しい。
「やっぱ生田変だわ」
「だから変じゃないですぅ」
「って話で盛り上がったっちゃ。いやぁ懐かしかねー」
「ふ、ふぅん…」
「ん? 里保どうしたと?」
「別に……」
「あ、それより見て見て! 道重さんのブログなんやけど」
「ブログ?」
「ほら! 明太子スパゲティやって! 釣りキター!!」
「ああ、道重さんの大好物なんだよね」
「あれ、そうやったっけ?」
「知らないの?」
「うーん、覚えてないだけかも。あ、でも明太子スパ衣梨も好き」
「そうだよね。つまり…」
「確かに釣りとか抜きにしてもおいしそー。衣梨も今日食べようっと」
「……はぁ」