6話
「衣梨思い付いたっちゃ! 道重さんの前で衣梨が釣って『お、こいつやるな』からの
『実は衣梨もやってるんですよぉ〜(ドヤァ)』って流れ。自然やろ?」
「無理がある」
「よし! このラボでなんかスパスレ用のネタ入れてみるっちゃ!」
「ホント人の話を聞こうよ…。ていうか1分間トークで入れる気? あれ誰と組むかわかんないじゃん」
「う……」
確かに一番ネタを入れやすそうな1分間トークだけど、相方が誰かは事前にわからない。
じゃあ殺陣かなぁ。
本当はアドリブでぶっこんで、道重さんを驚かせたいところやけど
今回は安全を考えて事前に相談しよう。
テンパって失敗したらいかんけんね。
「あのぅ、道重さん」
「どした?」
田中さんが欠席だからか、道重さんもちょっとソワソワしてる。
「殺陣なんですけど、ちょっと思い付いたのがあって」
「お、なになに?」
「ボケるところなんですけど、道重組が勝って二人が勝ったぞーってなっとぉ時に
衣梨が銃で撃つんです」
「ほぉー、そのこころは?」
「『見つめ合ってる二人を見て、ついカッとなって…。出来心です刑事さん!』って」
さあ、釣り師の道重さんはどう反応する?
真顔をキープしつつ内心wktkテカチャンス状態。
「火サスかぁ。いいんじゃない? スタッフさんに言ってどこで入れるか相談しよ」
「え……」
「ん?」
「や、は、はい」
あれ…反応薄くない?
予定ではニヤリと笑みを交わしあって心通じる展開やったのに。
おかしいなぁ。
戸惑いながら、スタッフさんに話に行って殺陣メンバーに周知する。
狙いに気付いたはるなんがニヤリと目配せしてきたけど、正直複雑。
本来なら道重さんにその反応されると思っとったのに。
結局ネタはそれ一つしか入れられないまま、ラボが始まってしまった。
1分間トークの相手ははるなんやったけど、新垣さんの話でついつい熱くなってしまった。
どんなネタ仕込むか悩んでて新垣さんのメールに即レスできんかったから、
つい狼の癖で"放置"って単語を使ったんやけど、聞こえが悪いけん焦る焦る。
なんとか終わらせたと思ったら、今度は道重さんに
「新垣さんって言った瞬間、さゆみがもういいぜって言いそうになった」
と先手を打たれてしまい更に焦る。
これまた道重嫉妬キターってなるやん。
今日は衣梨がやるなって思ってもらうつもりなんに…… ○| ̄|_
ガックリしとったら聖がいつもの無自覚ネタ放出をやりだした。
「亜佑美ちゃんと……宝物のような時間」
「大阪に3泊して…」
これはスレ立ってしまうわ…。
今日はネタ祭りなんかいな。衣梨のネタの印象薄くなるっちゃ。
ぐぬぬぬぬ…。
ふと、さゆみずき派のはるなんはどう思っとおかな?とチラリと表情を伺ったら
『アリだな。これもな』って顔で頷いとった。
ツボがわからん。
そして道重さんの1分間トークはといえば。
「うん。わかるわかる。あー、わかるわかる。わかるわかる」
「さゆみ家族も…同然…?」
里保と組んで変態スレをガッツリ釣りにいっとった。
里保も理解してるのか素なのか、微妙に距離とっとる。
やっぱり道重さんはすごい。
司会と演者を両立しながら釣りもこなしてる。
なんだか道重さんが遠く感じてしまう。
衣梨もいつかそんなことができるようになるんかな…。
その後、すっかり意気消沈してしまった衣梨は2回目で道重さんと1分間トークという
幸運に恵まれるも何もネタを入れられずに終わってしまった。
「「はぁ」」
袖にはけて思い切り溜息を吐いたら、誰かの溜息と重なった。
「え、里保? 大丈夫?」
「だいじょぶ…だけど、……はぁ」
カーテンを掴んで明らかにぐったりした様子。
そういえば、田中さんの歌割は殆ど里保に振られたんやった。
ダンスが得意な分、歌に割ける余裕があると見られているのか
それともセンター経験を見込まれてなのか。
羨ましいけど、今の衣梨が同じことをやれるかというと難しい。
「里保、こんな大変な時に衣梨の相談乗ってくれとったっちゃね」
「それは言わない約束でしょ、おとっつぁん」
「ありがとう。でも」
「え、ここスルーするんだ」
「里保ってもしかして……」
「っ!」
「もしかしてさ」
「……や、ちが…そういうんじゃ」
ギュッと手を握ると里保は弱みを見せたくなかったのかビクリと震えた。
手が冷たい。やっぱり疲れとるんやね。
「里保ってものすごいお人よしっちゃないと? なんか心配! 詐欺とか引っかかりそうやん」
「……」
「気ぃつけんと…?」
「……」
あれ? なんか俯いてプルプルしとる。
もしや感動して泣いてる?
「どうしたと?」
「ウチはえりぽんみたいにおバカじゃありません」
「なっ、衣梨バカやないし! 里保のアホ!」
「えりぽんのバァーカ」
そのまま里保は衣梨の手を離してさっさと行ってしまった。
せっかく心配してあげたんに……。
やっぱ里保はようわからん。