185 :
名無し募集中。。。:
それは、本当に偶然だった。
実際に目にしていながら、これが現実だと思いたくなかった。
そう、願わずにはいられない出来事だった。
あろうことか、憧れてやまない先輩と、信頼してやまない同期が、みんなの目をそっと盗んでキスをしていたなんて。
そして、見詰め合って甘い言葉を囁き合っていたなんて。
(どうして・・・・・・?)
今出来ることは、浮かんだ涙を零さないよう堪えることだけだった。
「お疲れ様です、道重さん」
「あ、フクちゃん、お疲れ様」
憧れの先輩は、いつものように柔らかい笑顔で返事をしてくれた。
いつもだったらそれだけで幸せな気分に包まれる筈なのに、今日だけは気分がどうしても弾まない。
「あの・・・ちょっと・・・」
「ん?何、相談事?」
「ええ、まぁ・・・」
先輩はちょっと眉を詰め
「んー・・・何か心配だなぁ。じゃ、こんなところで立ち話もなんだから、こっちでゆっくり話そうか」
と、空き部屋に導いてくれた。
デスクの前の椅子を引いて私に座るように促し、自分は近くのパイプ椅子を持ってきて、向かい合わせに腰掛ける。
「さ、他には誰も居ないよ。何聞いてもさゆみの中に収めとくから」
「はい」
「何があったの?」
「・・・」
「こんなに思い詰めてるなんて、フクちゃんらしくないよ?どうしたの?」
迷いながら、私は言葉を紡いだ。
186 :
名無し募集中。。。:2013/04/29(月) 17:49:51.57 0
「・・・あの」
「うん」
「・・・」
駄目だ。言葉が続かない。この場でもまだ認めたくないからかもしれない。
でも、今でしょ。
真っ直ぐ視線を合わせてくれるうちに、言わなきゃ。
「・・・道重さん、いつからえりぽんとあんなコトしてたんですか!」
思い切って吐き出した言葉は、震えていた。
先輩の顔がさっと青ざめた。瞳が泳ぎ、動揺が隠し切れない。
「あ、あんな、コト、って・・・?」
「隠さないでください。えりぽんとのコトです」
「い、生田とさゆみが、どうしたって・・・」
「見たんです。えりぽんとキスしてるトコ」
先輩は観念したように俯く。
「・・・そっか・・・見られちゃったんだ・・・」
先輩の体から力が抜けた。普段私たちを引っ張っていってくれるいつもよりも、ひと回りもふた周りも小さく見える。
「そうだよね・・・軽蔑するよね・・・」
「・・・違います」
「え?」
「どうして、えりぽんなんですか?」
「?」
「あの・・・道重さん・・・」
震え声のまま、次の言葉を探した。見詰める先輩の視線が痛い。
「・・・・・・聖じゃ、駄目だったんですか?」
187 :
名無し募集中。。。:2013/04/29(月) 17:50:56.92 0
視界がぼやける。駄目、大好きな先輩の姿が霞んじゃう。
「聖も、道重さんのことが大好きです。それでも、聖じゃ駄目なんですか!」
先輩は立ち上がり、こっちにそっと歩み寄った。そして、ふわっと私を両腕で包んだ。
「駄目な筈、無いじゃない」
「だったら・・・!」
「でもね、ごめん、自分に嘘はつけないんだ」
「う、嘘って・・・」
「一緒に居るだけで楽になって、気持ちがホントに落ち着いて、掌の温もりがホントに心地良くって、抱き締められたときに凄く温かくなって・・・」
お願い、それ以上言わないで。
でも、聞きたい。
・・・自分の気持ちが分からない。私、どうしたいの?
優し過ぎる眼差しで、先輩は語っていた。
聞きながら、ぽろっと涙が零れた。
「聖も、道重さんと一緒に居たいです」
「フクちゃん・・・」
「道重さんに抱き締められたい。抱き付いて、道重さんの温かさ、感じたい。疲れたときには、よしよしって頭撫でて・・・」
188 :
名無し募集中。。。:2013/04/29(月) 17:52:39.27 0
「疲れてるのは今じゃないの?」
息を呑んだ。それは確かにそうだけど・・・。
「ずっと無理させちゃってるもんね。ごめんね」
今でこそ元気になったように振る舞ってるけど、病後すっかりやつれた先輩に言われる言葉じゃないよ・・・。
「頑張ってくれてるの、ちゃんと見てるから」
両腕に力を入れて抱き締められると、我慢していた涙がぽろぽろ溢れ出た。
片腕が肩から外されたかと思ったら、頭に掌の感触を感じた。ゆっくりと頭を撫でてくれる。
何だか、小さな子どもみたいでちょっと恥ずかしい。
「辛かったらいつでもおいで。こんなことくらい、いつでもしてあげるよ・・・」
先輩は、そっと額にキスを落とした。先輩の体温と唇の柔らかさに、包み込むような優しさを感じて涙が止まらなかった・・・・・・。
漸く泣き止んだ聖が部屋を出ていくと、数瞬の後、入れ替わるように膨れっ面の衣梨奈が入ってきた。
「道重さん、酷い!」
「ちょ、ちょっと生田、いきなりどうしたのよ!」
「何で聖にはあんなにやさしく話しかけてるんですか!」
(あんたにも邪険にした心算は無いけど)
「えりなだって頑張ってます!」
(うん、知ってる)
「だったらあんな風に頭撫でてくれても良いでしょ!」
(あんたががっつくからそんな余裕が無いんでしょーが)
「聖にばっかり、ズルい!」
突っ込みの言葉を、さゆみはいちいち呑み込んだ。
このテンションのときに反論すると、このコは暴走しかねない。
189 :
名無し募集中。。。:2013/04/29(月) 17:54:01.71 0
さゆみはふうっと息をひとつ吐いた。
「で、どうすれば良いの?」
「えりなも頭撫でて欲しい」
「はいはい、おいで」
やっと膨れっ面が治まった。
ニカっと笑ってさゆみの傍に寄ってくる。
やれやれ、これじゃ飼い主の傍で尻尾振ってる犬みたいだ。
先刻まで聖が座っていた椅子をさゆみの椅子にぴったりと寄せ、キュッと抱き付いてくる。
こうしてると可愛い後輩なんだけどなぁ・・・。
頭を撫でてやると、嬉しそうにさゆみの胸に顔を埋めてくる。
いつもはこの体勢に入るとすぐにちょっかいを出してくるが、今日はそういう気分じゃないらしい。
いつもとはまた違う気分で愛おしくなり、先刻のように額に唇を持っていこうと頭を抱き寄せ、目を閉じた。
刹那。
グッと頭を抱き寄せられて唇が重なった。
「!」
「えへっ、甘ぁい。やっぱりこっちの方が良かっちゃん」
「あ、あんたねぇ・・・」
さゆみは目を白黒させる。
「考えてみれば、コンナコト出来るのはえりなだけですもん」
唖然とした表情のさゆみに畳み掛ける。
「今度は大丈夫ですよ。ちゃんとドア閉めて鍵掛けてきました」
「あんたってコは・・・」
「だけど道重さん、声抑えてくださいね」
真っ赤になったさゆみの胸に掌を被せ、太股を擦る。
さゆみの呼吸が早くなり、椅子から落ちかけて慌てて衣梨奈の首に抱き付く。
唇を深く重ねて舌を絡ませ合った後、衣梨奈は、いつの間にかはだけた服の向こうに顔を埋めて胸の膨らみにそっと唇を寄せた。