生田「道重さんスパゲッティーを食べませんか?」6

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DVDマガジンの撮影が終わり、楽屋へと戻るメンバーは口々に今日は楽しかった、とか久しぶりにこんなに笑ったとか、みんなテンションが高くえらく上機嫌だった。
衣梨奈も勿論そうだったのだが、ただ1人だけ、さゆみだけは黒く濃い影をその身に纏っていた。
その姿を見つめていると、さゆみと目が合った。さゆみは笑う。でもその笑みはいつもの笑みではなく、取り繕っただけの感情がない笑みだった。
衣梨奈は無意識のうちにさゆみの方に向かって歩き出していた。
近くまで行くと椅子に座っていたさゆみが立ち上がる。目だけで会話する2人。
「ねぇ、生田。トイレ付き合わない?」
「はい、喜んで」
「喜んでついてこられても困るんだけど・・・」
苦笑するさゆみの手を取る衣梨奈。
それは形式だけの会話だったが、未だ楽しそうに騒いでいるメンバー達は2人の動向についてあまり気にしておらず、どうやらそれは無駄な徒労だったようだ。
そのまま2人は楽屋を出る。しばらく並んで歩いていたが特に会話はなかった。
だが人気のない廊下の角まで行くと、さゆみは突然足を止めて衣梨奈に抱きついてきた。
急な展開に驚いた衣梨奈だったが、右手は肩に左はその細い腰に回してしっかりとさゆみの体を抱きしめる。
さゆみは衣梨奈の首筋に顔を埋めたまま口を閉ざしていた。
だが突然ありがとう、生田。とくぐもった声が顔の下辺りから聞こえてくる。
「・・・怖くなったの。このまま時間が過ぎることが、私の知らない未来にすごい勢いで進んでいくことが、急に怖くてたまらなくなった」
さゆみは悪夢に怯える幼い子どものように衣梨奈の腕にしがみつく。
「・・・道重さん」
「分かってる。っていうか当たり前だよね、時間は過ぎるものなんだから」
さゆみが嗤う。衣梨奈は黙ってさゆみの体を強く抱きしめた。
正直何を言っていいか分からなかった。ただ何を言ってもきっとこの人の寂しさは埋められない、何を言ってもこの人の悲しみを癒すことはできないだけは分かる。
衣梨奈は顔を深く俯けると悔しさから下唇を強く噛み締めた。
すると静かにさゆみは顔を上げ、優しく笑いながら手を伸ばして衣梨奈の頬に触れる。
「こうやってるさ、なんかさゆみの卒業式みたいだね」
「卒業なら泣いてますよ」
「・・・それなら今泣いてよ、生田」
さゆみは少しだけ意地悪く笑うと、軽く体を起こしていつものように衣梨奈の唇を奪う。
重なった唇は官能的に柔らかく衣梨奈の理性をゆっくりと崩壊させ、さゆみに掴まれた腕から背徳な熱が広がっていく。
だが衣梨奈は不意にいつかさゆみが卒業がしたら、この柔らかさも熱も愛しさで全て失われるんじゃないかと思った。そう思った途端に全身に鳥肌が立った。
それからさゆみがさっき言っていた言葉の意味がようやく理解できたが、唇が塞がれているため声に出せない。
だから後頭部に手を回して自分の方に引き寄せると、衣梨奈は泣きながらさゆみの歯を割って自分の舌を差し入れると強引に絡めた。