生田「道重さんスパゲッティーを食べませんか?」4

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617名無し募集中。。。
>>581


最近、衣梨奈はさゆみのことが気になって仕方が無い。
体調が悪い所為かとも思ったが、それにしたって、ふとしたときに遠くを見詰めるような目をすることが多くなった様に見える。
口数もめっきり減り、以前には興味津々で聞いていた筈の、同期のれいなが話すバンドの話すらも上の空で返事をしている有様だ。
(どうしたんっちゃろ・・・道重さん)
淋しそうな目をしているのだけならば、れいなの卒業が気に掛かっているのだろう、と判るのだが・・・。
衣梨奈は、思い余って新垣さんにメールを送った。
最近さゆみの様子がおかしい、と。
多分、新垣さんも気になっていたのかもしれない。普段ならばその日のうちに返事が来ることなど滅多に無いのに、このときに限ってその日のうちに電話がかかってきた。
「あ、生田?」
「新垣さん・・・」
「どうなの?さゆすけの様子は」
「あの・・・ぼんやり遠くを見詰めてたり、田中さんと話をしてるときも上の空だったりするんです」
「え・・・?」
電話の向こうで新垣さんが息を呑む様子が、徒ならぬ状態であることを物語っていた。
「田中っちの話まで?ちょっと・・・それ、いつ頃から?」
「最近のことですけど・・・あんな道重さん、普段見ないから気になって・・・」
「そう・・・分かった。明日、レッスンあるんだっけ?」
「春コン近いから毎日あります」
「じゃあさ、明日、時間見計らって行くから」
「え?だって新垣さん、舞台稽古があるんじゃないですか?」
「それはそうだけどね。何かさ、こっちの方が大事な気がするんだよね。だから生田、レッスンが終わって着替えたら待ってて」
「は・・・はい」
最後の方はむしろ新垣さんに気圧されていた。
618名無し募集中。。。:2013/03/07(木) 22:56:23.04 0
「ね、えりぽん」
翌日のレッスンの休憩時間中、衣梨奈は聖に呼び止められた。
「やっぱり道重さん、相当具合悪いのかなぁ・・・」
「いきなりどうしたと?聖」
「あのね、私、道重さんの代わりにヤンタンに出ろって言われたんだよね」
「そうなんや・・・」
「うん。だからさ、道重さん相当悪いのかな?って・・・」
「そうやね・・・でもさ、うつる病気やからっちゃない?さんまさんとかにうつしたら悪いし」
「そう・・・そうだね、そうかもね。だったら私、道重さんの分も頑張ってこなきゃ!」
「うん、頑張り、聖」
正直なところ、衣梨奈は、さゆみの助けになれる聖が羨ましかった。そして、じぶんの無力さを思い知らされたような気がして、悲しいような淋しいような気分が抜けなかった。
レッスンが終わり、汗を拭きながら更衣室に向かう途中、衣梨奈は、物陰から突如にゅっと出てきた手に肩を掴まれた。
「・・・!に、新垣さん!」
「しっ!私のことは気付かれないようにして」
「な、何でですか?」
「誰にも気付かれたくないの。良いから着替えて、荷物持ってこっちに来て。みんなにも気付かれないようにね」
「あ、はい」
衣梨奈は、何食わぬ顔で更衣室へ行った。先に着替えていた里保が驚いた顔をする。
「あれ?えりぽん随分前にレッスン室出てかなかったっけ?」
「うん、まぁ、ちょっと」
「何か怪しいなぁ。・・・ま、良いけどね」
「そうそう。気にせんといて」
「そう言えばさ、道重さん、ちょっと疲れちゃったからレッスン室でしばらく休んでから帰るって」
「ふーん」
どうやら他のメンバーは誰も新垣さんに気付いていないようだ。
内心ドキドキしながら衣梨奈は着替えを終え、一旦みんなと一緒に玄関を出てから、そっと回り道をして戻り、新垣さんのところへ行った。
619名無し募集中。。。:2013/03/07(木) 22:58:12.90 0
「みんなは?」
「帰りました。道重さんはレッスン室で休んでから帰るそうです」
「うん、なら、丁度良かった」
「何がですか?」
「さゆすけの様子を見るのに。生田、一緒においで」
「はい」

さゆみも既に着替えを終え、レッスン室の椅子に座っていた。
気付かれないようにそっとドアを開け、二人でさゆみの様子を窺う。
暗がりの中、一人で座っているさゆみは、あらぬ方向をぼんやりと見詰め、時折大きな溜息を付いている。
その様子が、何故か、衣梨奈には泣いているように見えた。涙など流している訳では無いのに。
新垣さんの顔が微かに青ざめた。
「うわ・・・これ、ちょっとヤバいかも。生田、あんたにはあのコのこと、どう見える?」
「あの・・・何だか分からないけど、泣いてるように見えます」
「やっぱり。あのコ、独りだけ残るんだもんね。精神的にキてても・・・」
「独りだけって?モーニング娘。になら、えりな達も居ますよ?」
「あんたねぇ・・・年の離れたコ達の集団に、独りでポツンと残るんだよ?辛くたってだれにも頼れないし、そもそも話もできないでしょうが」
「あ・・・」
新垣さんは、ドアを閉めると、真顔になって衣梨奈に向き直った。
620名無し募集中。。。:2013/03/07(木) 22:58:57.91 0
「ね、生田、ひとつだけ確認していい?」
「はい?」
「あんたの気持ち、本物だよね。さゆみんと話をしたいってのも、あのときのリベンジとかって考えてないよね?」
新垣さんには、体を重ねたあの日の出来事もすべて話していた。
最初はちょっと呆れ顔をしていた新垣さんだったが、あのときのさゆみの様子と衣梨奈の気持ちを聞くと、そのことについても納得をしてくれていた。
「勿論です。えりなの気持ちは変わってません。ただ、傍に居たいだけですけん」
「うん。じゃあさ、会社じゃ碌な話もできないだろうから、どこかのホテルの部屋を用意するよ。そこできっちり二人だけで話をしな」
「ホテルの部屋?」
「そう。誰かに聞かれる可能性があるところじゃ、あのコ本音が出せないでしょ?」
「あ・・・そうですよね」
「あのコにはみんなでパーティーやろうとか適当に誤魔化して誘っとくからさ」
「はい」
「そうだ、あんた、私が前に言ったこと覚えてる?」
「えーっと・・・初めはえりなは喋るなってことと、出ていきそうになったら引き留めろってことですよね」
「馬鹿、肝心なとこが抜けてるよ。あのコが素直じゃないってコト」
「そう言えば・・・」
「多分、最初はあんたが傷つくことも言うかもしれない。でもね、そのときは私の今の言葉を思い出して。そして、きちんとじっくり話をしなさいね」
「はい!ありがとうございます」