生田「道重さんスパゲッティーを食べませんか?」4

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578名無し募集中。。。
>>342


先だって行われたユニットの販促イベントで、上手く歌えなかったと珍しく落ち込んでいた里保を見たから気負い過ぎたのだろうか?
衣梨奈は、その日、別のイベントで自分が所属するユニットの代表挨拶をすることになっていた。
(失敗はできんっちゃね・・・。えりな、みんなの代表やけん)
そう思って、何度も何度も練習したのに。
本番前にも練習して、そこでは何の問題もなくこなせていたのに。
どうして自分はこんなに本番に弱いのだろう・・・?
OGの先輩たちが呆れたような溜息を吐く。
ひとり新垣さんだけは、ハラハラしながらこっちを見ているのも感じる。
先輩が、さゆみに向かって小声で何を教えてきたのか、と詰るのも聞こえていた。
ここで泣いてはいけないと自分を奮い立たせたが、内心、衣梨奈は声を上げて泣き出したいという葛藤と戦っていた。
自分の不甲斐無さにも腹が立ったが、何よりもまだまだ体調を崩しているさゆみに余計な気を遣わせているのが辛かった。
何せ初日には眼帯をしたままイベントをこなしていたのだ。前にも体調を崩して倒れているのだから余計な心配はかけたくなかったのに・・・。
イベントが終わって捌けるとき、そっと温かい手が衣梨奈の肩に触れた。
その手の主を見るのが辛くて、とうとうそっちには振り向けなかった。

「泣いても笑っても最後のライブだよ!」
隣のホールに移動し、最後の仕事、夜のライブに挑むため、舞台袖で気合を入れる。
自分たちの出番は、二番目だ。
それまでに立て直さなきゃ・・・。
と、衣梨奈が思っていた矢先、誰かに背後から肩を突かれる。
振り返ると、進行役のれいなとさゆみが立っていた。
「生田、見とき」
れいなはニヤッと笑う。
さゆみも悪戯っぽい笑みを浮かべている。
二人は目を合わせ、不敵な笑みを浮かべながら舞台へと出ていった。
これは、自分達をお手本にするべく“よく見ていろ”ということなのか?
こんな気分のところで、そんな笑みを見せられたらいやでも緊張が高まる。
衣梨奈は、ガチガチになりながら舞台を注視していた・・・が。
579名無し募集中。。。:2013/03/06(水) 20:54:57.61 0
「えー、ピャピコ・・・パシヒコ・・・パシフィコ横浜へお越しのみなさん!」
初っ端から噛み捲りのれいなの第一声に思わずずっこけた。
「ひな祭りコンサート、Thank you forever love、あれ、違ったかな?えーっと、Thank you for your love?、うん、for your love!」
何をトチ狂ったか、さゆみまで思いっきり間違えながら、慌てた風情で手に持った進行表を確認しながらのトークである。
しかし、観客の反応を見ると、会場中が呆れているのでは無く嬉しそうに爆笑している。
最早ここまで来ると間違いではなく話芸とでも言えそうだ。
研修生で構成された新ユニットを紹介し終えると、登場した彼女達と入れ違いに舞台袖へと引っ込んで来る。
「見とった?」
さゆみとれいなはニヤニヤ笑いながら衣梨奈に問いかけ、二人して衣梨奈の頭や肩をポンポンと叩く。
ポカンとした衣梨奈だが、同時に、あれ程までに力みかえっていた肩の力が抜けているのも分かった。思わず苦笑いを返す。

さて、出番だ。
新曲と先輩達がかつて歌っていた曲の二曲を歌い終え、自己紹介に入る。
何だか今日はみんな言葉が引っ掛かる。それを聞いて、ふっと気が引き締まった。
「生田衣梨奈です。今日はみなさんが笑顔になる魔法を掛けます!」
えぇーっ、と客席から声が上がる。が、それに構わず言葉を続ける。
「ちちんぷいぷい、魔法にかーかれっ!」
さらに大きなえぇーっという声が上がる。が、そう言いつつもあちこちで笑い出す客が、客席のそこかしこに見えた。
「ほぉら、笑顔になったでしょ?」
客席は、一斉に笑い声で包まれた。
舞台袖では心配そうだったさゆみとれいな視線が、温かいものに変わった。衣梨奈の楽しい気分もますます高まってきた。
その後また数曲を歌い、最後の歌のとき、移動舞台に乗って客席の外周を通った。楽しい気分よ、大勢のお客さんに届け!とばかりに、ありったけの笑顔で一生懸命に手を振った。
ふと見ると、小田など、舞台から身を乗り出して手を振っている。手を振り返すお客さん達も、みんな、こっちが嬉しくなるような笑顔だ。
580名無し募集中。。。:2013/03/06(水) 20:55:13.10 0
やっつ! やっつ! えりなくん
やっつ! やっつ! えりなくん
いっ! くっ! たっ! やっつ! えりなくん! 
581名無し募集中。。。:2013/03/06(水) 20:56:05.80 0
コンサートが終わると、新垣さんが衣梨奈を待っていてくれた。
「生田、お疲れさん」
「あ、新垣さん、見ててくれたんですか!ありがとうございます」
そのまま新垣さんに連れられて、新垣さんの楽屋に移動する。
「ところでさ、この間の話だけど」
「?」
訝しげな衣梨奈の顔を見て、新垣さんが苦笑した。
「ちょっとぉ、あんた、もう忘れちゃったの?さゆすけと話できる場所作るって言ってたじゃん」
「あ・・・そうでした」
コンサートに夢中で、すっかり忘れていた。
思い出してしまうと、さゆみに話したいことのあれこれが頭に浮かび、コンサートの熱気で紅潮している頬がますます熱くなる。
「実はさ、今日あたりちょっとどっかで、って狙ってたんだよ」
「え?本当ですか!」
思わず衣梨奈の声が弾む。
「でもさ、何だかあのコ体調悪そうでしょ?だから今日は見送ったから」
「えぇーっ!そんなぁ。だったら喜ばせないでくださいよぉ」
「何かのときにまた計画するから。暫くは辛抱してな」
「それは・・・でも、そうですよね。えりなも道重さんに負担掛けたく無いっちゃから・・・」
「まぁまぁ、そんなにがっかりしないの。・・・よし、今日は私が代わりにチューしてあげよう!」
「えー、何が代わりですかぁ?新垣さんへのチューなら散々してるじゃないですかぁ」
「でもさぁ、私からのチューなんて特別じゃなぁい?」
「そうですけどぉ」
最早何の屈託も無くなり、まるで姉妹のような新垣さんとの仲だからこそ、こんな冗談でも笑っていられる。
二人は、楽屋で久し振りに我を忘れてはしゃぎまくり、周りのことすら見えていなかった。
だから・・・・・・だから。
楽屋のドアがほんの少し開いたことも、ドアの陰でさゆみが唇を噛み締めて目を潤ませながら踵を返したことも気付かなかった・・・。