>>342 先だって行われたユニットの販促イベントで、上手く歌えなかったと珍しく落ち込んでいた里保を見たから気負い過ぎたのだろうか?
衣梨奈は、その日、別のイベントで自分が所属するユニットの代表挨拶をすることになっていた。
(失敗はできんっちゃね・・・。えりな、みんなの代表やけん)
そう思って、何度も何度も練習したのに。
本番前にも練習して、そこでは何の問題もなくこなせていたのに。
どうして自分はこんなに本番に弱いのだろう・・・?
OGの先輩たちが呆れたような溜息を吐く。
ひとり新垣さんだけは、ハラハラしながらこっちを見ているのも感じる。
先輩が、さゆみに向かって小声で何を教えてきたのか、と詰るのも聞こえていた。
ここで泣いてはいけないと自分を奮い立たせたが、内心、衣梨奈は声を上げて泣き出したいという葛藤と戦っていた。
自分の不甲斐無さにも腹が立ったが、何よりもまだまだ体調を崩しているさゆみに余計な気を遣わせているのが辛かった。
何せ初日には眼帯をしたままイベントをこなしていたのだ。前にも体調を崩して倒れているのだから余計な心配はかけたくなかったのに・・・。
イベントが終わって捌けるとき、そっと温かい手が衣梨奈の肩に触れた。
その手の主を見るのが辛くて、とうとうそっちには振り向けなかった。
「泣いても笑っても最後のライブだよ!」
隣のホールに移動し、最後の仕事、夜のライブに挑むため、舞台袖で気合を入れる。
自分たちの出番は、二番目だ。
それまでに立て直さなきゃ・・・。
と、衣梨奈が思っていた矢先、誰かに背後から肩を突かれる。
振り返ると、進行役のれいなとさゆみが立っていた。
「生田、見とき」
れいなはニヤッと笑う。
さゆみも悪戯っぽい笑みを浮かべている。
二人は目を合わせ、不敵な笑みを浮かべながら舞台へと出ていった。
これは、自分達をお手本にするべく“よく見ていろ”ということなのか?
こんな気分のところで、そんな笑みを見せられたらいやでも緊張が高まる。
衣梨奈は、ガチガチになりながら舞台を注視していた・・・が。