生田「道重さんスパゲッティーを食べませんか?」4

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56名無し募集中。。。
>>1 乙です
スレ上げ兼ねてお目汚しに前スレ703-705の続きをば・・・


衣梨奈は、ひとり外で泣いていた。
誰にも知られないように声を殺して。
どうして泣いているのかも分からずに、一人で泣いていた。
新垣さんのイベントには自分も映像で参加していたからなのだろうか?頭に浮かぶことは無かったし、それだから今日の仕事中も安心していた。
衣梨奈の脳裏に浮かぶ面影は、ただひとつだけ。
(道重さん・・・)
あの日の、淋しそうで切なそうだったさゆみの顔が頭に焼き付いて離れない。
さゆみとれいなが倒れた今日の仕事は、正直不安で辛かったけど
「みんなで、道重さんと田中さんに安心して貰える仕事をしようね」
という聖の呼びかけと、傍に居た飯窪の大きな頷きに背中を押されてこなせた。だから、仕事に対しての悔いは無いと思う。
たったひとつ、さゆみにあの日のことを聞くことだけができなかった。それだけの筈なのに、そのたったひとつが衣梨奈の心に大きく圧し掛かっていた。
(どうして?えりな、新垣さんが好きやった筈っちゃろ・・・)
それなのに、どうして、さゆみの顔ばかりが浮かぶのだろう?
答えは出なかった。

さゆみは、数日を休んだだけで、面やつれしたままで仕事に復帰した。
みんなは勿論さゆみの復帰を喜んだが、同時に、辛そうに仕事をこなすさゆみに問いかけることすらためらわれる有様だった。
衣梨奈は、そんなさゆみを見る度に心に暗い影が差すのを止めることができなかった。
当然、二人で話をすることもできない。だから、あの日のことを聞くこともできない。
それが気掛かりなだけだったのだと思っていたのに、こんなに気が重いのは何故?
笑顔を作ることはできたけれど、心の影はどうしても晴れない。
それでも、みんなの前ではいつものとおりに振る舞っていた。同期の聖や香音や里保も、勿論後輩達も、衣梨奈の影に気付くことは無かった。
皮肉にも、衣梨奈の様子に気付いたのは、さゆみただ一人だった。
57名無し募集中。。。:2013/02/21(木) 23:39:20.26 0
「生田、ちょっと」
「はい、何ですか?」
「うん・・・ちょっとこっちに来て」
歯切れの悪いさゆみの言葉に、また何か失敗をしたのだろうかと思った。
恐る恐るさゆみの傍に行くと、さゆみは怒りの表情を浮かべるよりも、むしろ微笑んで衣梨奈に話しかけた。
「ちょっとさ、向こうの部屋に行こうか?」
「え?」
衣梨奈を別室に導きながら
「生田、何か悩みでもあるんじゃない?」
「いえ、そんなことは・・・」
「隠さなくても良いよ。あんたの様子がおかしいのは分かってるんだから」
「・・・」
「だからさ、忙しいのに時間を貰ってガキさんを呼んだんだよ」
「にい・・・がきさん、ですか?」
「うん。多分、あんたが心を許して話ができるのはガキさんだけだから。さゆみ達には無理だろうからさ」
「そんなこと・・・!」
「分かってるから良いの。自分に素直になって悩みを打ち明けておいで」
「道重さん、あの・・・」
「ほら、こっちだよ。ゆっくり話をしておいで。その後はもう上がっていいからね」
優しく語りかけながらさゆみがドアを開けた先には、新垣さんが座っていた。

「さゆから聞いたよ。何かさ、あんたが悩んでるみたいだって言ってた」
「・・・」
「あのコ、人を見る目は確かだからね。他のコは気付いて無いだろうけど、って」
「・・・」
「やっぱり図星だったんだね」
ソファーに隣同士に座った新垣さんに、ふわりと肩を抱かれた。いつもなら物凄く嬉しい筈なのに、何故か心は晴れないままだった。
「どうしたのよぉ。生田らしくないぞぉ」
軽く肩を揺すられて、憧れて止まない新垣さんが衣梨奈だけを微笑みながら見詰めて話をしてくれる。それでも心は晴れない。
どうしてだろう?部屋から出ていった道重さんの背中が、今、堪らなく、恋しい。
58名無し募集中。。。:2013/02/21(木) 23:43:01.53 0
「・・・生田?」
「・・・あの・・・」
「うん、どした?」
「新垣さん・・・」
「うん」
「・・・気になるひとが、居るんです」
「あらら、クラスの男の子でも好きになっちゃったのかな?」
「違います!」
「こらこら、そんな怖い顔しないの。で、そのひとの何が気になるの?」
「どうしてだか、分からないけど・・・」
「うん」
「いつも、淋しそうなんです」
「うん」
「だから、あの、こんなこと新垣さんに言うのは違うのかもしれないけど・・・」
「構わないよ。言ってごらん」
不意に、衣梨奈の目に涙が浮かんでぽたりと落ちた。
「それに気付いたの、えりなだけ、でした。だから、誰にも、言えなくて・・・」
「うん」
「だから、だから、その・・・」
涙は止まらなかった。しゃくりあげながら話す声が震える。
「ゆっくりで良いよ。言ってごらん。生田はどうしたいの?」
「・・・あの」
「うん」
「えりな、傍に、居たいです。そのひとが、淋しいなら、ずっと、傍に、居てあげたい」
59名無し募集中。。。:2013/02/21(木) 23:44:00.88 0
>>51
ちゃんぽんが違う意味にしか見えない
60名無し募集中。。。:2013/02/21(木) 23:44:21.41 0
「あぁ、そっかぁ・・・」
すっと抱き寄せられ、ふわっと両腕に包まれた。
「あんたもやっと親離れしたのかなぁ・・・」
「・・・え?」
「新垣さん新垣さん、って来てたときより、ちゃんとあんたと話したような気がする」
「・・・」
「ま、ちょっと淋しいような気もするけどね。そういう気持ちが持てるようになったの、凄く良いことなの、分かる?」
「いえ・・・」
「難しいことだからね。無理に分かろうとしなくても良いよ」
「・・・ごめんなさい」
「謝ることなんかないよ。良いことなんだから」
「・・・」
「それでさ・・・聞いても良い?」
「あの、何を・・・」
「誰だか、さ。無理なら言わなくても良いけど」
「・・・道重さん、です」
「あぁ、そうだったんだね・・・」
「本当にごめんなさい。新垣さんと、話、してるのに!」
「だからさ、良いことなんだから謝らないの」
「新垣さん・・・」
「生田はさ、さゆも本当は淋しがり屋だって知ってた?」
「え?」
「口には出さないけどね」
「・・・知りませんでした」
「あのコを置いてさっさと卒業しちゃった私が言う資格は無いかもしれないけどね」
「・・・」
「傍に居てあげてよ。今度はさ、私がさゆと話できる時間作ってあげるから」
新垣さんの気遣いと言葉が堪らなく嬉しかった。
それでも。いや、それだからこそ、なのだろう。
新垣さんが無邪気な程に大好きだった以前の自分を思って、衣梨奈は、新垣さんの腕の中で、ひとしきり、泣いた。