>>1 乙です
スレ上げ兼ねてお目汚しに前スレ703-705の続きをば・・・
衣梨奈は、ひとり外で泣いていた。
誰にも知られないように声を殺して。
どうして泣いているのかも分からずに、一人で泣いていた。
新垣さんのイベントには自分も映像で参加していたからなのだろうか?頭に浮かぶことは無かったし、それだから今日の仕事中も安心していた。
衣梨奈の脳裏に浮かぶ面影は、ただひとつだけ。
(道重さん・・・)
あの日の、淋しそうで切なそうだったさゆみの顔が頭に焼き付いて離れない。
さゆみとれいなが倒れた今日の仕事は、正直不安で辛かったけど
「みんなで、道重さんと田中さんに安心して貰える仕事をしようね」
という聖の呼びかけと、傍に居た飯窪の大きな頷きに背中を押されてこなせた。だから、仕事に対しての悔いは無いと思う。
たったひとつ、さゆみにあの日のことを聞くことだけができなかった。それだけの筈なのに、そのたったひとつが衣梨奈の心に大きく圧し掛かっていた。
(どうして?えりな、新垣さんが好きやった筈っちゃろ・・・)
それなのに、どうして、さゆみの顔ばかりが浮かぶのだろう?
答えは出なかった。
さゆみは、数日を休んだだけで、面やつれしたままで仕事に復帰した。
みんなは勿論さゆみの復帰を喜んだが、同時に、辛そうに仕事をこなすさゆみに問いかけることすらためらわれる有様だった。
衣梨奈は、そんなさゆみを見る度に心に暗い影が差すのを止めることができなかった。
当然、二人で話をすることもできない。だから、あの日のことを聞くこともできない。
それが気掛かりなだけだったのだと思っていたのに、こんなに気が重いのは何故?
笑顔を作ることはできたけれど、心の影はどうしても晴れない。
それでも、みんなの前ではいつものとおりに振る舞っていた。同期の聖や香音や里保も、勿論後輩達も、衣梨奈の影に気付くことは無かった。
皮肉にも、衣梨奈の様子に気付いたのは、さゆみただ一人だった。