「きゃーやたー!」
不意に隣から聞こえてきた歓声に目が覚める。
薄闇の中でスマートフォンの明かりに照らされ衣梨奈の目が
爛々と輝いているのが分かった。若者は元気だな、と思う。
立て続けに二度高みに追いやられたさゆみの体はまだ起き上がれそうにない。
「……なに?」
「んふふ、見てください道重さん!」
眠りを妨げられて不機嫌なさゆみに気付かないのか
興奮した様子でスマートフォンの画面を眼前に押し付けてくる。
このテンションの時に構うと碌なことが無い。
シーツを引っ張り上げて無視を決め込むことにした。
「おやすみ」
「やーん!見てくださいよー」
「……」
「読み上げますよー」
「……」
「新垣さんがもし男子だったら娘メンバーで誰と付き合いたいですか?
って質問に衣梨奈と付き合いたいってー!きゃー!」
また眠りの世界に旅立とうとしていた意識が覚醒した。
前々から思っていたが、この子はなんて無神経なんだろう。
いくら体だけの関係とはいえ、もう少し思いやりを持てないものかと
嬉しそうに抱き付いてくる体を受け止めながらゲンナリする。
さゆみにとって寂しさを埋めるためのこの触れ合いは
8つ下の後輩にとってはスポーツ程度の感覚のようだ。
あの大雪の夜、いかにも無害そうな顔をしたこの子供に
性の手解きをしたまではよかった、だがその後の関係はどうだ。
楽屋でも頻繁に欲望を滾らせた目で見つめてくるわ、
二人きりになればいつでもどこでも盛り出すわ、
事の最中は何も喋らず人の顔を凝視してきて不気味だわと散々なものだ。
そのうえ時々寝落ちまでする始末。
「んふっ、聞こえました? ねぇ道重さん、ねぇねぇ」
相手選びを間違えたかなぁと思っていると
返事が待ちきれないのか鎖骨にゴツゴツ頭をぶつけ始めた。
基本的にこの動物は待てができないらしい。
鼻息荒く首筋を甘噛みしてきたところで
脂肪の少ない背中を抓り上げる。
このテンションでの三回戦目はさゆみの体力が持たない。
「いだだだだ!」
「うるさい」
「なんで抓るんですかぁ」
「眠れないから」
「一緒に喜んでくださいよー」
「なんでさゆみが喜ぶのよ」
「えーと、衣梨奈が喜んでるから?」
「……」
「寝ないでくださいー」
「はいはい、よかったよかった。その調子であり余る性欲もぶつけてきな」
投げやりなさゆみの言葉に衣梨奈の表情が変わった。
「へ?」と間抜けな声を上げてキョトンとしている。
「へじゃないでしょ。せっかくだからお願いすれば?」
「なっなんでそうなるんですかぁ」
「なんかおかしい?」
「変ですよぅ」
体力のないさゆみとしては正直相手が分散されるのはありがたい。
というのに、当の本人は眉をハの字にして困っている。
「いいじゃん、好きなんでしょ?」
「や、あのぅ、えー…」
「なによ」
「新垣さんはそういうんじゃないんですよ」
「どういうこと?」
「道重さんならわかりません?ファン心理っていうか」
「……んん…」
一応悩んでみるけれどよく分からない。
あれだけイチャイチャと抱き付いているのに今更なにを気にしているのか。
「なんかこう、清らかでいてほしいみたいな。ファンとして」
「いや、あんたメンバーでしょ、一緒に活動してたでしょ」
「メンバーですけど衣梨奈にとって新垣さんは神と言っても過言ではないんですよ。
なぜならあの舞台の時にジャンヌ…」
「その話長くなる?」
「4、5分かかります」
「じゃあもういい」
「えー…」
「道重さんが振ってきたのに…」とまだ語り足りなそうな衣梨奈を放っておいて考える。
清らかであってほしいから触れられない、ということは
敬愛する新垣さんは汚せないが、さゆみなら思う存分汚せるということだ。
失礼にも程がある。
それにしても里沙でもダメなら誰ならいいのだろう。
若い子の体力に合わせるのはダンスだけで手一杯だというのに
最近ほぼ毎日のように相手をさせられている。
他の相手も探してもらった方がいいかもしれない。
「生田さぁ、なんでさゆみと寝るの?」
「え?」
「そりゃ最初に誘ったのはさゆみだけど、他の人と寝たくなったりしない?」
「しっ、しないですよ、なんでそうなるんですかぁ」
「いや、フクちゃんとかさ。仲良いじゃん」
「聖とはそういうんじゃないです! ホントです!」
「え…なに焦ってんの」
「や、やっぱり……こういう事は好きな人としないと」
「……は?」
乙女回路全開の上目使いで見つめてくる衣梨奈を呆然と見返す。
――こいつは何を言っているんだ?
突然の清純発言にさゆみは困惑した。
なにを今更、である。
散々関係を持った相手にカマトトぶる理由が分からない。
そのままたっぷり10秒ほど見つめ合い、堪えきれなくなった様子の衣梨奈に
「もう!恥ずかしい!!」とぎゅうと抱きしめられて我に返った。
「え、ちょっと待って、なに?」
「うー、道重さんが言うまで言わないでおこうと思ってたのにぃ」
「さゆみが?」
「だって道重さん、いつまでたっても好きって言ってくれないんですもん。
付き合ってるのに」
…んん?
不穏な言葉が聞こえ、眉間にしわがよる。
いや冷静になれ、聞き間違いという事もある。
さゆみは必死で自分を奮い立たせた。
「……なにって?」
「だってみち…」
「もっと後」
「付き合ってるのに?」
「……オゥ…」
やっぱり付き合っていたらしい。
なんでそうなった。
さゆみから付き合うなどという言葉を発した覚えはない。
となると衣梨奈からということになるが、二人の会話を思い出そうにも
衣梨奈からの一方的なマシンガントークを受け流した記憶ばかり。
頭が痛くなってきた。
「……もう寝る」
「えええ!ここは道重さんも『私も好きよ!』とか言ってラブラブするところですよ!」
「うるさい」
「酷い!」
「リーダーの言うことは?」
「ぜったー……えええぇぇ!」
「寝なさい」
「……うぅ」
不服そうに口を尖らせながらも肩口に擦り寄ってきた衣梨奈の頭をぽんぽんと撫で
眠りに落ちようと目を閉じて、そこでちょっと待てよと思い返す。
今まで付き合っていると思っていたということは、これまでのベッドでの無礼の数々、
里沙に恋人候補に選ばれた事を嬉々として報告する無神経さ、
全て衣梨奈にとって恋人に対する通常の行いということになる。
さゆみは一つ息をつくと、衣梨奈の安心しきった脇腹を思い切り抓り上げた。
>>444-450 道重「…んっ……いいよ…」
生田「……」
道重「…あ…あぁっ…いくたぁ…」
生田「……」
道重(な、なんか言えよ!)
道重「生田気持ちいい?」
生田「……」
道重「ここ?それともこっち?」
生田「……」
道重(な、なんか喋れよ!)
|ノハヽ
|9|‘_ゝ‘) ←ナマタ's Eye アイドルのかわいい瞬間を見逃さないぞ!
|とノ
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