>>20 「みっちしっげさぁーん!」
突如、素っ頓狂な声が聞こえた。と同時に、バタバタっという足音が近づいてくる。
驚いて振り向いたさゆみに、天真爛漫な笑顔で佐藤が飛び付いた。
「きゃっ!佐藤、危ないでしょ」
あまりの勢いに受け止めきれなくて、さゆみがよろめいた。
何とか転ばずに済んだものの、ひとつ間違えば大怪我をする。
思わず叱り付けようとして衣梨奈は腰を浮かせたが、次の瞬間、さゆみを見てはっとした。
さゆみは佐藤を叱りながらも柔らかい顔で笑っている。叱る声も、何だか嬉しそうに聞こえる・・・いや、あれは叱ってないな。
さゆみの笑顔に機先を制されて、衣梨奈は呆けた表情を顔に貼り付ける。
「あーっ、佐藤さん、ずるーい!」
「まーちゃん、道重さん捕まえてて!」
小田と工藤まで駆け寄ってきた。二人は、走りながらも正面から抱き付いている佐藤を器用に避け、それぞれ左右から抱き付く。
「もーっ、あんたたちまでぇ」
「えへへ」
「道重さん、ケータリング来ましたよぉ。ゴハン食べましょー」
「はいはい。だけど、これじゃ動けないからちょっと離れようね、三人とも」
「はーい」
体を離しはしたものの、佐藤と小田はさゆみの両側でしっかりと手を繋ぐ。工藤はさゆみの背後に回る。
手を繋いだ二人はさゆみの手を引っ張り、思わず及び腰になったさゆみを工藤が後ろから押しながら歩く。
何だかなぁ・・・あれじゃお母さんが子どもに甘えられているみたいだ。そりゃ、確かに年齢差はあるんだけど。