ロンドン五輪がたけなわだ。TVや新聞などの大メディアを見る限り、消費税も、原発も、
有力政治家の不倫も、オスプレイも、みな影が薄い。
今回の五輪で非常に印象的なのは、「判定」の不安定さだ。男子体操団体の内村航平選手の
あん馬の演技、ボクシングの男子バンタム級2回戦の清水聡選手の試合の判定がいったん出た後に覆った。
そして、何とも印象的だったのは、柔道男子66キロ級の準
>>617-621々決勝の旗判定で、いったん
青3本で負けた海老沼匡選手の判定に、審判委員からクレームが付き、審判委員と審判員の
協議の後に、再度の旗判定となり、今度は白3本で海老沼選手の勝ちになったケースだ。
審判委員は、試合のVTRを参照しつつ、確信を持った様子で
>>622-625当初の旗判定を問題にした。このケースには、2つのポイントがある。
1つは、採点・判定の評価方法の問題だ。
これまで人間による判定に権威を持たせてきた世界が、高精度の動画再生を、多くの観客
・視聴者が直ちに見ることができるようになると、VTR判定を重視せざるを得なくなってきた。競技によってレベルは異なるが、正確な記録が共有されることで、ごまかしが効かなくなってきた。
経済の世界でも、「時価評価」をごまかす制度を残そうとする試みは失敗と後退を続けてきた。
インサイダー取引のようなかつてなら発見も立証もしにくかった犯罪も、データの活用で摘発と
裏付けが容易になった。
加えて、海老沼選手のケースが特に印象的だったのは、判定の権限と責任が、審判にあるのか、審判委員にあるのかが不明確だったことだ。
審判委員が最終判断をするなら、そもそも審判の判定は不要。プロのボクシングのように、
試合の進行を仕切るが採点はしないレフェリーがいればいい。審判が2度目に上げる旗を変え、
その説明すらないことは非常に納得しにくかった。
>>1-5 このケースを下敷きに日本の政治を見ると、審判の役割で表に立つのが政治家で、「こちらに
旗を上げよ」と指示するのは官僚だ。実質的判断者と、責任を取る人の不一致は、柔道の判定でも国家の運営でも気になる。
ところで、柔道の日本男子は、今回、金メダルがゼロだった。この競技の相対的凋落は、
家電などの製造業での日本企業の競争力低下に重なる。
>>1-3 日本の柔道に必要なのは、おそらく、外国人コーチを招いて、戦い方と鍛え方の戦略を見直すことだろう。また、柔道は日本の「お家芸」だというこだわりは、捨てるべきだ。
経済でも日本が「ものづくり」で一番であるべきだというこだわりは無用。
日本柔道の金メダルが、おおよそ日本的でないアグレッシブさを前面に出した女子の松本薫さんだけだったことは示唆的だ。
●男子100キロ級で一本負けした穴井隆将選手。日本柔道も家電も再起が期待される
http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/images/20120809/ecn1208090735002-p1.jpg ◎執筆者/山崎元(やまざき・はじめ)
経済評論家。1958年北海道生まれ。東大経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、
メリルリンチ証券、山一証券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員
研究員、マイベンチマーク代表取締役。
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