野田佳彦首相は記者会見し、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働(福井県おおい町)について
「国民生活を守るために再稼働すべきだというのが私の判断だ」と表明。夏場の電力確保だけでなく、
エネルギー安全保障や日本経済に不可欠と述べ、関西を支えてきた福井県やおおい町に「敬意と
感謝の念」を新たにした。
「首相が国民に向けてはっきり責任を持って言うべき」とする西川知事の厳しい注文に言葉を
尽くして応えた形だ。知事は同意に向けた障害はなくなり慎重に所定の手続きを進める。政府は
再稼働準備を急ぐだろう。
国会では首相の政治生命が懸かる社会保障と税の一体改革関連法案の修正協議が始まり、緊迫した
状況で異例の会見だ。だがこれも国の地元に対する配慮の欠如、原子力政策をめぐる政府の一貫性の
なさに起因していることを肝に銘じるべきだ。
福井県は基幹電源に位置づける原発に40年余り貢献してきたはずだが、東京電力福島第1原発事故で政府、国民世論も「脱原発依存」に一変。地元は置き去りにされてきた。政府の姿勢を
明確にし、リーダーシップが問われる首相の「覚悟」を求めるのは当然のことであろう。
県は原発事故以来、緊急安全対策や安全基準を求め、原子力安全専門委員会で問題点を詳細に検証、
その都度、追加対策を求めてきた。県が必要とした「特別な監視体制」は、福島の事故を教訓に、
原子力災害対策特別措置法に基づく現地対策本部長に副大臣を充て、即応可能な体制を取るためである。
こうした県の対応は、ひたすら安全確保の実効性を追求してきたものだ。ぶれることなく立地自治体としての責任遂行に努めてきたといえる。
それに比べ政府や消費地である関西圏の対応はあまりに問題が多く、身勝手ではないか。
「安全は不十分」と政府を批判しながら、電力不足の回避へ再稼働を「容認」し、
かつ「夏場限定」を要求する関西の首長。当事者能力が疑われる言動は世論を背景にし、結果として立地地域悪者論にすり替えている。
野田首相は4日の内閣再改造後の会見で「原発は日本の発展に必要」と強調した。同じ趣旨の発言をしてきており、政府は「これで十分」と先を急いだ。それでもなお踏み込んだ発言を
要求する西川知事の主張は想定外だったのだろう。しかし、これまでの会見は国民に正対したものではない。原発に対する不信や不安感が強まり、明確なメッセージが必要だった。
知事は「長期的にはエネルギー源の多角化が検討されるが、中期的には原発は引き続き必要」と
している。政策面でどう反映されるのか、首相は「8月をめどにエネルギー政策を決める」としか述べなかった。
夏限定の再稼働を明確に否定した首相だが、関西圏をどう説得するのか。本県の「要望丸のみ」で
会見したものの、腰の定まらない民主党政権、言葉は丁寧だが具体性に欠ける首相の姿勢に大きな変化は見られない。
世論調査では再稼働反対が依然50%を超えている。再稼働の同意はリスクが大きい。原発は
地元を支えてきたが、今後進むも退くもいばらの道だ。国が地元と同じ「現場感覚」を持たない限り、地域は苦難にさらされたままである。
◎原題は『大飯再稼働 首相会見 ぶれない原子力政策必要』
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/editorial/35131.html