東京電力柏崎刈羽原発6号機が法令で定められた定期点検に入り3月26日に停止し、北海道電力
泊3号機が同じく5月5日に停止した。日本の54基(福島第一原発の1号機―4号機を除くと50基)ある
すべての原発が止まった。これを受けて、かねてから原子力に反対していた反核運動家、また、
空前の反原発ブームに乗り、にわか反原発となった政治家、マスコミ関係者、フリージャーナリスト
などが歓喜の声を挙げている。
しかし筆者は、このまま原発の再稼働ができないこと、経済性を無視した再生可能エネルギーへの
巨額の補助金の導入、脱原発という結論ありきのエネルギー政策は、日本の将来にとってきわめて
大きなマイナスになると確信している。原子力エネルギー、放射線の健康被害、経済へのインパクト、
再生可能エネルギーの将来性など、さまざまな識者やジャーナリストが正反対の意見を述べるなど、
百家争鳴といった感じではあるが、実際にはこれらの問題にはきわめてクリアな答えがある。
残念ながら、日本のテレビ局のプロデューサーや、大手新聞社の論説委員は、十分なアカデミックの
教育を受けておらず、彼らは視聴者、読者のウケだけを考え、衆目の関心を引くセンセーショナルな
極論をいう専門家やジャーナリストの声を大きくするだけであった。正しい情報を国民に知らせよう、
国益のために真摯にエネルギー政策を議論しよう、などという考えはまったくなく、それはいまに
始まったことではないが、筆者はとても残念だ。
それでは本稿では、日本が原発を止めるとどうなるのか簡潔に述べたいと思う。これから書くことは、
なんら目新しいものではなく、昨年の3月11日に福島第一原発で事故が起こってから1カ月もしない
うちに、一定レベルの知識を持ち合わせていた専門家にははっきりとわかっていたことであり、残念
ながら、その予測の多くが現実のものとなってしまった。結論を先にいうと、日本が原発を止め続ける
と、日本、つまり日本人は莫大な金を失い、そして多くの命も失う、ということだ。
まず、原発を止めることによる直接のコストは、原発を代替するための火力発電所の追加燃料費である。
現状では原発を代替できる技術は火発しかない。化石燃料価格などによるが、この追加燃料費だけで
年間3兆〜4兆円ほどになる。国民一人当たり年間3万〜4万円にもなり、日本の年間生活保護費の総額
よりも多く、年間防衛費に匹敵する巨額の金が失われる。生活保護費は、国内での所得移転であるが、
化石燃料の購入費は、富が中東などの産油国に流出していくだけである。実際に2011年度の貿易収支
は4兆円以上の赤字となり、1979年度に記録された第二次石油ショックの3兆円の赤字を上回り、過去
最大の赤字額となった。(※続く)
◎
http://blogos.com/article/41721/?axis=&p=2 (※月刊VOICE 7月号掲載)