京都大学が東京・品川の「京大東京オフィス」で開く連続講座「東京で学ぶ 京大の知
」(朝日新聞社後援)のシリーズ7「新しい社会、そのための経済政策」。5月23日に
あった第2回は、京都大学先端政策分析研究センターの中澤正彦准教授(財政金融政策)
が「日本のデフレとマクロ経済政策の役割」をテーマに、長期間続くデフレの様々な弊害
と対応策について語った。
中澤准教授は財務省出身。霞が関で経済分析をしてきた経験も踏まえての講演となった。
●日本は90年代からデフレだった
中澤准教授がまず示したのは、世界各国のインフレ率のグラフだ。
184カ国の1995年〜2010年の消費者物価上昇率を比較すると、多くの国が
2%〜20%程度なのに対し、日本だけはわずかながらマイナスの値になっている。
日本の名目GDP(国内総生産)を見ても、2010年度は480兆円弱で1991年
度の473.6兆円と同じ程度にとどまっている。物価の指標である「GDPデフレータ
ー消費者物価指数」も、2000年より前からマイナスの値のことが多く、中澤准教授は「日本は90年代からデフレと言ってよい」と結論づけた。
●デフレとハイパーインフレは親戚?
では、デフレだと何が問題なのだろうか。中澤准教授は「デフレは、好況と不況を繰り
返しながら成長していくという経済に対し自動調整機能が効かない状態。その意味ではハイパーインフレ(急激なインフレ)と遠戚関係にあるともいえる」と指摘した。
一見すると正反対の両者がなぜ親戚なのか?
「デフレだと、名目的には低い金利に見えても、お金の借り手にとっての負担感はデフ
レの分だけ重くなっている。この場合の借り手には、日本政府も含まれます。また、デフレ下でも労働者の賃金は急に下げにくいので、企業はリストラを進め、非正規雇用や失業
が増えます」と語った。実際、総務省の調査では、非正規雇用の比率は1994年に20%程度だったのが、2011年は35%まで増えている。
●デフレは椅子取りゲーム
中沢准教授は、生活を保障するはずの年金制度への影響も強調した。まずは、いわゆる「たまり」(年金のもらいすぎ)の問題だ。
年金の支給額は本来、物価の上下に連動して増減される。だが、1999年からの3年間は物価が下がったのに、政府は「高齢者の生活への配慮」を理由に特例で年金支給額を
下げなかった。その後も調整されず、2011年度までで合計約7兆円、本来の水準より多く支給されているという。
また、物価が上がっていれば適用される「マクロ経済スライド」(物価の増え幅から
0.9%分を差し引いた値を年金支給額の増え幅とする仕組み。実質的な支給額が減り、年金財政が安定する)も、デフレのため一度も発動されていない。
つまり、いったんデフレになると、インフレを前提に作られた年金制度が大きなダメージを受けることを力説した。
ソース:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/edu/news/TKY201206120300.html