242 :
名無し募集中。。。:
>>239 Sec1 『出会い』
それはある雨の日のことだった。
「急がなきゃ!遅刻しちゃう!」
雨の中を傘もささずに走る一人の少女。
彼女の名前はローラ。もっとも本名ではない。どういうわけか周囲の人間にそう呼ばれているうちに、それが彼女の『あだ名』になった。
今では彼女に関わる大半の人間が、彼女のことをそう呼ぶ。
彼女は自宅から、アルバイト先のパン屋へと走っていた。自宅に帰って少し遊び過ぎたせいで、時間がギリギリになってしまった。
雨だというのに…急がなきゃ。
243 :
名無し募集中。。。:2011/02/19(土) 21:23:19.88 0
>>242 「どうしよう…間に合わなかったら…店長に叱られちゃうよぉ…」
雨の中、夢中で走るローラには周りが見えなかった。
『ドンッ!』
彼女は横から出てきた人にぶつかってしまった。尻もちをつくのは回避できたが、カバンの中身が飛び出してしまった。
「ああっ!…私の手帳がぁぁ…」
携帯電話、財布、ハンカチ、そして彼女の大事にしていた手帳…みんな雨にぬれてしまった。彼女は慌ててそれを拾いあげて
乱雑にカバンの中に戻すと、
「ごめんなさい!」
の一言もなしに、再び走り出した。
走って、走って、息が切れるぐらい走って、ローラは滑り込みギリギリで何とかパン屋に到着した。
244 :
名無し募集中。。。:2011/02/19(土) 21:24:11.07 0
>>243 「あぶなかった…セーフ!」
控室で雨にぬれた服を着替えながら、ローラはさっき落としたカバンの中身を確認してみることにした。
「ああっ…もう…最悪!」
せっかく綺麗にシールを貼り直した手帳の表紙が、雨にぬれてしまっていることに気がつく。
「ああ、れいながぁ…びしょびしょだぁぁ…れいな、ごめんねごめんねごめんね…うぅっ…」
245 :
名無し募集中。。。:2011/02/19(土) 21:25:03.27 0
>>244 れいな、というのは彼女の友達のことではない。モーニング娘。の田中れいなのことである。何を隠そう、ローラは彼女の大ファンなのだ。
自宅に帰って、さっきまでローラが一体何をしていたかといえば…
「キラキラふゆのシャイニーシャイニーGIRL〜♪」
そう、モーニング娘。の曲を聞きながら、一人で歌ったり踊ったりしていたのだった。ローラにとって、どんな友達と遊んでいる時間より、
一人で田中れいなの『まねごと』をしている時間が、一番楽しい時間である。もっとも、この趣味は誰にも言わない、秘密の趣味。だから…
『まねごと』をしている間のローラは、いつもより体がゾクゾクする、不思議な快感に取りつかれてしまっている。
「あっ…あん…れいなぁ…」
体の中が熱くなって、少しだけ危ない気持ちに襲われそうになることもよくある。妄想し始めると止まらなくなるけど、今はまだダメ。後で…
いっぱいいっぱい妄想しようっと…
そんなことを考えながら、『れいな』になったつもりで歌ったり踊ったりしているうちに、あっという間にバイトに行く時間になってしまった。
「れいな…また後でね。後でいっぱい遊ぼうね。大好きだよ!」
246 :
名無し募集中。。。:2011/02/19(土) 21:25:45.26 0
>>245 そんなことがあった後だというのに、ローラの大切な手帳が、雨にぬれてしまった。
「家に帰ったら…ちゃんと新しいシール貼るからね。れいなごめんねごめんねごめんね…」
ローラはそう呟きながら、着替えを済ませてレジへと向かった。
247 :
名無し募集中。。。:2011/02/19(土) 21:26:31.96 0
>>246 雨の日のパン屋は客足もまばらで、ローラにとってはヒマな一日になってしまった。
「あーあ、ヒマだなぁ…まっ、いいか。ヒマでも給料はもらえるし」
時計を見ると、もうすぐ閉店時間だった。お店の決まりで、閉店時間が近づいたら売れ残っているすべてのパンに『2割引』の
シールを貼らなくてはいけない。ローラは残っているパンの袋に『2割引』のシールを貼りつけ、店内の値札を差し替えて、そして外を見た。
「雨なんだから、もうお客さん来ないよ、きっと…あーあ、早く帰りたいなぁ」
ローラの頭の中には、まださっき落とした手帳のことが引っかかっていた。せっかく新しく貼った田中れいなのシールが、雨にぬれてしまったからである。
「うぅ…れいなに悪いことしたなぁ…」
別に田中れいながその事実を知るわけはない。ないのだけれど、ローラは心の中で彼女に何度も何度も謝っていた。そして、彼女の意識が少しだけ飛んで…
「あぁ…れいなに会ってみたいなぁ…一緒に寝てみたい…っていうか一緒に暮らしたい…膝枕してヨシヨシしたいなぁ…」
と、『妄想の世界』へと入っていくのである。