1 :
名無し募集中。。。:
とりあえず立てとく
2 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 21:09:12.21 P
スレ概要
都内屈指の不良校「モーニング女学園」
そんな学園に通う彼女たちの笑いあり涙あり喧嘩あり喧嘩あり喧嘩ありの青春が綴られるスレです
3 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 21:11:07.50 P
登場人物紹介
田中れいな・・・モーニング女学園高等学校二年生。この物語の主人公。喧嘩が強く短気な性格だが根は優しい。
入学式の日に道重さゆみに一目惚れをし、以後ずっと想い続けている。
道重さゆみ・・・モーニング女学園高等学校二年生。この物語のヒロイン的存在。不良に絡まれているところをれいなに助けてもらう。
亀井絵里と付き合っている。
亀井絵里・・・学年は二年生だが、れいなやさゆみとは別の学校に通っている。れいなのライバル。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。喧嘩も強い。さゆみの幼馴染であり、恋人。
高橋愛・・・モーニング女学園高等学校三年生。学園の総番であり、カリスマ。
元は都内有数の進学校だった学園の権威を取り戻したいと思っている。
新垣里沙・・・モーニング女学園高等学校三年生。学園生徒会長。学園の荒廃を憂い、日々頭を悩ませている。
高橋愛とは旧知の仲。愛のことが好き。
久住小春・・・モーニング女学園高等学校一年生。新入生。通称「ダブルドラゴン」の一人。
チャイニーズ・マフィアを利用し、学園の崩壊を目論む。
光井愛佳・・・モーニング女学園高等学校一年生。新入生。通称「ダブルドラゴン」の一人。
関西弁訛りで分かりづらいがとても頭が良い。そんな彼女が小春と手を組む理由とは!?
李 純・・・チャイニーズ・マフィア。
銭 琳・・・チャイニーズ・マフィア。
4 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 21:12:20.87 P
それぞれの喧嘩スタイルの設定とその理由(最新版)
田中れいな・・・アルティメット(ベースとなるスタイルはない)
亀井絵里・・・空手(正統派二枚目のイメージから)
高橋愛・・・バレエをベースにしたオリジナルの実戦型武踊
久住小春・・・カポエラ
光井愛佳・・・コマンドサンボ
ジュンジュン・・・レスリング
リンリン・・・カンフー
5 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 21:13:04.08 P
6 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 21:14:04.06 P
7 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 21:15:42.39 P
8 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 21:59:07.83 P
春。
今日が学園のスタートである。
この物語の主人公、田中れいなにとっては、この学園で過ごす二度目の春ということになる。
思い返すに、去年はれいなにとって最低の一年だったと言える。
彼女の通う「モーニング女学園高校」は、昔は都内で5本の指に入るほどの人気校だった。
だが相次いだ教師や生徒達の不祥事に塗れ、いまや荒廃した学校に成り果ててしまった。
窓ガラスをはじめとした学校にある備品は壊されていない方が珍しく、
壁にはスプレーで、先進気鋭の画家として将来有望と思われる生徒達による
激しい自己主張が行われた後が残っている。
強いてこの学園の良いところを挙げるとするならば、
自分のように所為「素行の優れない」とされる女子たちに好かれる要素が多く、
あとは…制服が可愛い、ということくらいだろうか。
かといって当のれいな自身はこの学園を嫌っている、というわけではなかった。
堅苦しいほどに建前で埋め尽くされた校則などはないし、世間の評価がどうであれ、
自分が過ごす分には、れいなにとって息苦しくない環境であることに間違いはない。
そう思っていたれいなだったが、それでもこの学園に入学してからの一年間は、最悪であったと言わざるを得ない。
というのも入学早々、些細なことで上級生同士の抗争に巻き込まれてしまったからだった。
三日三晩の大立ち回りの末、結局、れいなは当時二年生の現「総番」高橋愛とともに当時の三年生を打ち倒し、
不可能とされていた「下克上」を成し遂げたのだった。
その結果、学園内のみならず、他校の生徒からも一目置かれる存在になってしまい、
知らない人から突然握手を求められたり、夜に出歩くだけで木刀を持った人達に囲まれるようになってしまった。
9 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 22:00:27.63 P
れいなはそんな昨年の出来事を思い出し、自分の思い描いた高校生活はこんなはずではなかったと、
今年度ともに一年間過ごすことになるであろう机に突っ伏したまま、溜め息を吐いた。
なぜ彼女は故郷の博多を離れ東京の高校に入学したのか。
中学時代からやんちゃだったれいなは、本人の望まないところで広まってしまった悪名のおかげで
恋人どころか、友達すらいない青春を送る破目になってしまったのだった。
(自分のことを知らない土地へ行って、真っ当な青春を送ろう)
そうれいなは考えたのだった。
しかし、とれいなは思う。
自分が今さりげなく吐いた一つのため息でさえ、教室の空気が一変し、
彼女の前の席に座っていた生徒に至っては、びくり、と肩を震わせた。
どうやられいなのささやかな願いが叶えられることは難しいようだった。
現実とは、常に残酷なものだ。
「ごめん、びっくりさせてしまったと!?」
れいなはその生徒に慌てて自分でも驚くほどの可愛い(と思う)声でそう話しかけたが、その生徒は何故自分なのか、と
言わんばかりの速度で立ち上がり、今にも泣き出しそうな声と表情で「すみませんでした!」と言い放ち教室を出て行ってしまった。
(はあ、どうしてこうなりよう…)
れいなは頬杖をつきながら、転びそうになりながら走って行くその生徒の後姿を見送った。
10 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 22:02:31.49 P
そうしていると、入れ替わるように一人の女の子が元気良く教室に入ってきた。
「あれ、れいなもう来てたの?久しぶりだね、元気だった!?」
突然の彼女の登場に、れいなはしどろもどろになりながら「おう」と小さい声で返すのが精一杯だった。
全身の血が一気に逆流をはじめる。認めたくはないが、自分の顔は恐らく、
恥ずかしいほど真っ赤に染まっているだろう。
(さゆみちゃん、相変わらず可愛いっちゃんね・・・)
教室に入ってきた彼女の名前は道重さゆみ。れいな自身、悔しいほどに自分でも分かりやすい反応を周囲に晒してしまったが、
れいなは、道重さゆみのことが好きなのだった。
この学園の生徒には珍しい、黒い髪に白い肌。清楚な顔立ちに、小さめだが形の良いぷっくりとした唇。
その唇が自分と会話するために動いている。れいなはそう考えただけで嬉しくなった。
彼女とこうして出会えただけでも、この学園に入学した甲斐があったと、れいなは思う。
一年前。
れいなは故郷の博多から上京して、都内の高校に進学した。
入学式を無事済ませ、しばらく学園内を探検気分で歩き回っていたれいなだったが、思わぬ場面に遭遇する。
2階から1階へ階段を降り、新校舎と旧校舎をつなぐ渡り廊下を通ろうとしたときだった。
短い悲鳴が聞こえ、れいなは目を向ける。
それは、上級生達に絡まれている、自分と同じまだ学園に慣れていない新入生(身なりと風貌でそう判断しただけのことだが)の悲鳴だった。
11 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 22:04:18.59 P
「おいお前、誰の許可があってそんなでかいリボン着けてるんだ?」
「いえ、そんな…だって服装は制服以外自由じゃ…」
「自由だぁ?校則にでかいリボン着けていいです、なんて書いてないよな?」
一人の女がそう言うと、他の2人が笑いながら同調した。
「こいつ、自分のこと可愛いとでも思ってるんじゃないか?」
「お仕置きが必要かぁ?」
女が言ったお仕置きという言葉に、肩と声を震わせながら消え入るように道重さゆみが言う。
「ご、ごめんなさい、すぐに外しますから!もう…許してください」
それを聞いた3人の女は、最上の楽しみを見つけたかのように笑みを浮かべた。
「許すわけねーだろ、お前!とりあえずそのリボン没収な!」
女のうちの一人がさゆみのリボンに手を掛けようとしたのと、れいなが女たちに飛び掛ったのはほぼ同時だった。
今後の学園生活のことを考えると、出来ることなら目立つ行動は少しでも避けて通りたいれいなだったが、
こういうときには、頭よりも体が先に動いてしまう。
自分にどんな理由があったとしても、困っている人を見捨てるようには出来ていない。
それが博多一の喧嘩猫――田中れいななのだ。
12 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 22:07:39.96 P
女はそれぞれ木刀と、棘の生えた拳に嵌めるサックで武装していたが、れいなにとっては些細なことだった。
れいながまず目標に定めたのは木刀女だった。
ゆったりとした構えから、一瞬にして最高速へ到達し、一撃で標的の命を奪う。
れいなの動きは、まさに猫科の生き物そのものだった。
木刀を持った女は、死角から飛び掛ったれいなに馬乗りになられ、顔面に振り下ろされた拳の一撃で気を失う。
「て、てめえ!いきなり何しやがる!」
その様子に気が付き、怒りと怯えの区別が付いていないように叫んだのは、サックを嵌めた女だった。
喧嘩の最中に吠えるなど、自らの負けを認めているようなものだと、れいなは心の中で思った。
狩人に虚勢は必要ない。獲物を仕留める爪と、牙。どちらがより優れた爪牙を持っているかを、生と死を天秤に賭けて競い合う。
――それが「喧嘩」だ。
対照的に、突如現れたれいなに躊躇無く攻撃を仕掛けることが出来たのは、素手の女の方だった。
恐らく、木刀女も含めた3人のうち、一番喧嘩に長けていたのはこの素手の女なのだろう。
木刀女もサック女も、まるで使えない。武器を持っただけで、仲間と群れることで、自分が強くなった気になれる手合いだ。
もしこいつが武装していたら少しはましな喧嘩になったかもしれないと、れいなはそう思いながら、
素手の女の首を後ろから、その細い腕で締め上げた。間もなく、女はぴくりとも動かなくなった。
サックを嵌めた女は、まだ状況把握に苦しんでいるようだった。
れいなは身体が大きいというわけではない。むしろ小柄で、一見、華奢にすら見える。そんな女に一瞬にして二人の仲間がやられたのだ。
もはや立ち向かうことも、逃げることも出来なくなっていた。
二人の間に、不思議な静寂が訪れる。
ヘビに睨まれたカエルとは、まさにこのことだろう。
だがこの学園に潜む狩人の真の最上位は、ヘビではないのだ。
ヘビを狙う猛禽類でもない。
冬眠を邪魔され猛る巨大なヒグマや、百獣の王ライオンでもない。
猫でもない。それはモーニング女学園高等学校「総番」と呼ばれる存在。
れいながこの後目の当たりにすることになる、この学園に君臨する帝王。
それを動物にたとえるとするならば、それは――。
狂犬。
13 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 22:14:51.25 P
「おい、何お前ら一年坊にやられちゃってんの?信じらんないんだけど」
「狂犬」は、れいなが歩いてきた道の反対側、つまり「旧校舎」の方から現れた。
モーニング女学園高等学校は、敷地内に2つの校舎が存在する。
しかし旧校舎といっても、新校舎に比べ特別古いというわけではない。
建てられた順番に差があるというだけで、設備にもこれといった違いはない。
設立当初、華やかな学園の校風に惹かれ多くの生徒が集まり、新校舎が増設されたが、、
まもなく学園は荒れ果て、入学希望者が少なくなり、生徒数は大幅に減少した。旧校舎はその名残で、今は公にはもう使われていない。
そこに目をつけた「狂犬」は、旧校舎を使用できる権利を持つのは自らの学年である3年だけ、とした。
教師ですら立ち入ることは許されなかった。といっても自らの給与のためだけに働く教師達にとって、
授業の行われない旧校舎にわざわざ赴く必要はないし、
むしろ彼らにとって、不良を一箇所に集めておける都合の良い「隔離施設」として機能しているのだ。
3年の横暴が許されているのは、互いの利害の一致からなるものだった。
そうした事実を踏まえれば――今、旧校舎かられいな達のほうへ歩いてくる女達は自動的に、
都内各地から集まった不良達の巣窟であるモーニング女学園、その学園の覇権を握っている最上級学年だ、ということになる。
もちろん、学園に入学したばかりであったこの時のれいなは、そんなことは知らないのだが。
14 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 22:45:17.20 P
サック女の学年はこの春で2年になる。彼女にとっての今年度最大の楽しみは、
入学式に浮かれた気でいる新1年を虐め抜くこと、になるはずだった。
昨年は自分たちが、現3年にそうされたからだ。これはその憂さ晴らしであり仕返し、というわけだ。
初めの標的は迷うことなく決めることが出来た。
この学園に不釣合いな黒髪の女。呼び止めたときに聞こえてきた高い声。振り向く整った顔立ちに、自分を見つめる澄んだ瞳。
全てが、サック女を苛立たせた。その女の全てを、壊したくなったのだ。
だが今となっては、自分でも何故あそこまであの黒髪が気に入らなかったのか、もう思い出せない。
旧校舎に一番近い位置だったことにも気付いておくべきだった。
そもそもあの女に手を出したことが失敗だったのかもしれない。彼女は、そう後悔の念を抱き始めた。
サック女は3年達の顔を知っていた。彼女は不幸なことに、知りすぎていた。
だから彼女たちが現れても、逃げることも出来ずにその場にうずくまり、宙に視線を漂わせていることしかできなかった。
旧校舎から現れた集団は、ただの3年というだけではない。奴らは、「総番」のグループだ。
つまり、この学園で一番強く、そして、イカれてるということだ。
奴らが、新1年にナメられるという醜態を晒した者をどう処罰するのかも、当然知っていた。
サック女は落ちていた木刀が拾い上げられたことを、影の様子だけで確認した。
影の足音が目の前で止まる。
影は躊躇うことなく、手に持ったそれを振り下ろした。
15 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 22:55:21.93 P
「何だてめーは」
サック女は、影が発した言葉の意味を理解するのに、数秒の時間を要した。
影と自分の間に立つ女の声を聞いて、ようやく状況を理解することになる。
「お前こそ、動けんやつに何しよると!」
田中れいなは、女にそう言い返す。だが、振り下ろされる木刀を止めるために両手を使ったのは失敗だった。
そのことにれいなが気付くのと、腹部に鈍い痛みが訪れたのはほぼ同時だった。
「くっ…!」
女がれいなに蹴りを叩き込んだのだ。
れいなは意識を失いそうになるほどの痛みをなんとか堪える。
足の力が抜け切ってしまったが、木刀を掴んでいた両手だけは離さなかった。
れいなは女の蹴りの反動をそのまま利用し、木刀ごと女の体を引き寄せ、相手の耳に噛み付く――つもりだったが、
女は木刀を咄嗟に離し、左の手を変わりに差し出すことで、なんとかそれを防いだ。
女の手から血が流れる。
れいなは口に入った液体と固形物を床に吐き出し、奪った木刀を女に向けて構えた。
反撃は失敗に終わったが、武器を奪うことには成功した。それでも、優勢に立ったわけではない。
れいなは自分が額に脂汗をかいていることに気が付いた。
少しでも気を抜くと、先程の蹴りの痛みに負けそうになる。
「てめえ…」
女の口がそう小さく動く。
その瞬間、れいなは木刀を振り下ろした。
決して勝機を見出したわけではない。
この僅かな隙を逃したら、次は無いと思ったのだ。
16 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 22:59:15.45 P
それがれいなの失敗だった。
れいなは女の力を見くびっていたわけではない。
女の力が、れいなの予想をはるかに超えていただけだった。
女はあろうことか、振り下ろされる木刀ごと、れいなの腕を狙って蹴り上げた。
れいなの耳には、自分の骨の軋む音が聞こえていたが、すでに腕の感覚はなくなっていた。
まるで、紙バサミか何かの鋭利な刃物で腕を切り取られてしまったようだ。
足には力が入らない。れいなの体が、蹴られた衝撃で後ろに流される。
目には、女が肘を突き出した格好で加速し、懐に飛び込んでくる姿が見えていた。
それがこの喧嘩の終わりだった。
女が繰り出した攻撃は、たったの三撃。れいなにとって、これほどまで相手の存在に圧倒され、打ちのめされた経験は一度も無かった。
女がゆっくりと、れいなに近づいてくる。
れいなを見る女のその目は、敗者を見下すものではなかった。
蚊を払った後かのような、涼しい顔を浮かべている。
女にとってこれは、喧嘩ですらなかったのだ。
(くそったれが…)
せめてそう言ってやりたいれいなだったが、どうやらもう口を動かすことも難しいようだった。
17 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 23:04:32.64 P
「も、もうやめて下さい!」
そう叫んだのは、黒髪の女だった。
「元はといえば、私が悪かったんです!私がこの学園のこと何も知らなかったせい…私のせいでこんな…」
その場にいる全員が、黒髪の女を見た。
れいなも同様にその女を見た。
れいなは、彼女は既にこの場から逃げ出しているものと思っていたが、そうではなかった。
想像するに容易い事だったが、彼女は今までこうした喧嘩に巻き込まれたことが一度も無かったのだろう。
彼女は目の前の状況に腰を抜かしたまま座り込んでしまっていたのだった。
もしかしたら、人の血を見ることすら初めてかもしれない。
18 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 23:11:50.45 P
「何だって?」
その様子を見て取った女――「狂犬」は、表情を変えずに言う。
「聞こえねーな」
女の声を聞き、黒髪の女は、自分にその場にいる者の注目が集まったことに少しの安心と、少しの恐怖を感じた。
それから、少しだけ語気を強めて言った。
「まだあなたの気が済まないなら、その人の代わりに私を――気が済むまで殴って」
その場にいる者たちは皆、彼女の、リアリティの欠片もない陳腐なドラマや映画によくありがちな発言に、呆気に取られたに違いなかった。
ぽっかりと口を開けていた者もいたかもしれない。それほどまでに、黒髪の女が演じた役は滑稽だった。
その理由は3つある。
1つ。黒髪の女の制止など、そもそも誰も聞き入れるはずが無いということ。
女たちは女たちの望むとおりに動いているだけだ。誰かの許可を得る必要はどこにもない。
つまり、れいなを殴ることも黒髪を殴ることも、女たちの「気まぐれ」に過ぎない。
2つ。彼女の愚かなまでに勇ましい発言は、悲しくなるほど、彼女のへたり込んだままの姿勢と不釣合いだったことだ。
3つ。そして彼女の先にいる相手の女の本性が、恐ろしいまでに――「狂犬」であることだった。
19 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 23:19:11.35 P
廊下中に不気味なまでの笑い声が響く。
「お前、いい女だな」
女が声を発した。それを機に、今まで無表情だった女の顔に、初めて表情が形作られた。
目には赤い線が走り、口角が吊り上がると、隠されていた牙が剥き出しになった。
だらりと右に垂れた獲物の味を確かめるための長い舌に気が付くと、それをゆっくりと左へ動かして、口にしまう。
それからがちがちと、不気味な音を鳴らして牙の感触を確かめた。
殺し甲斐がある――。
その生き物は人間にも分かるように、人間の声でそれだけ言うと、獲物の方へ歩き出した。
れいなはその女の様子を一番近い位置で見ていた。
その結果、自分が戦慄を覚えたことに気が付く。
自分が今、目にしたものは、人が人でなくなる瞬間だ。
そしてその生き物が何をするつもりなのか、れいなには想像がついた。
その結末も。
だが彼女はあくまで田中れいなだった。
彼女が田中れいなであるからして、彼女はこの状況においてもまだ、恐怖を手放すことが出来た。
それゆえ、彼女は最も田中れいならしい選択をする。
てめえ、待ちやがれ。
れいなは立ち上がりながら、そう威勢よく啖呵を切ったつもりだったが、音の代わりに口から血があふれただけだった。
れいなの体に残っていたダメージは、彼女の想像以上に深刻なようだった。
女に蹴られ失った腕の感覚は、鋭い痛みを伴って戻ってきた。
だがそれよりも耐え難いことは、断続的に訪れる眩暈と吐き気だった。、れいなは再び、その場に倒れこみそうになる。
だが彼女の強い精神が、彼女の性分が、それを許さない。
れいなはふっと息を1つ吐き、目標を定めて走り出した。
20 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 23:23:36.92 P
れいなが目を覚ますと、そこは保健室のベッドの上だった。
どうやら自分は気を失い、ここへ運び込まれたようだった。
窓のそばに二人の女が立っている。
二人はれいなの様子に気が付くと、彼女のほうに近づいてきた。
「気が付いたかい?」
髪の短いほうの女が、れいなに笑顔でそう声をかける。
横にいたもう一人の女は、髪こそ綺麗な茶色に染まっていたが、どこか育ちのよさを感じさせる佇まいだった。
れいなに懐疑的な視線を送る一方、彼女の回復力に驚いてもいるようだった。
「あんたたちは?」
れいなの短い問いに、二人が答える。
「私は、高橋愛。こっちのは、新垣里沙。私たちが君をここまで運んだの。
しかし君も災難だったね。入学式初日から喧嘩に巻き込まれるなんて」
「ホント、ここはひどい学校だわね」
「喧嘩?ああ、そういえば…」
れいなはさっと辺りを見回した。
どうやら、あの女はいないようだった。
確かに、あの化け物の強さを身をもって知ってしまったれいなには、あの出来事は災難だとしか言いようがなかった。
そしてれいなは、頭に浮かんだ当然の疑問を口にした。
21 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 23:27:33.52 P
「そうだ、あいつは?どうなったと?」
「アイツ?ああ、藤本さんのことか。ハハッ、君は本当に面白いコだね」
高橋と名乗った女は少し笑った後、れいなが怪訝そうな顔を浮かべているのを見て、すぐに言葉を紡いだ。
「いや悪い、藤本さんのことをあいつ呼ばわりできるのなんて、この学園じゃ君だけだよ」
「愛ちゃん、本題に入りましょう」
もう一人の女、新垣里沙が、腕を組みながら、少し難しげな表情を浮かべて言った。
「あなた――いえ、田中れいなさん。私たち、あなたのことは知ってるの」
「れいなを?そういえばお前、なんでれいなの名前知っとうと?」
れいなはいつもそうしている通りに、極めて普通に、そう問い返した。
だが新垣は普段そうされる事がなかった――否、そうされすぎるため、極めて普通に、彼女の無礼と方言を正した。
「お前、じゃないでしょ。私たちはあなたより1年先輩なの。それからシットウト?じゃなくて、知ってるんですか?よ」
「ふん。そんなん知らんし。それから、都会の言葉は気持ち悪くて好いとらん。
まあいいや、それよりれいなの質問にも答えんかいな」
「ああ、ちょっと二人とも!」
高橋は、二人の静かな衝突――というより、二人とも別段憎しみをこめて言い合ったわけではなく、
れいなは少し口が悪く、新垣は少し頭が固い。そんな二人が普通に会話をしただけのことではあったが――
それを止めるため、再び交渉役を買って出た。
22 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 23:43:40.03 P
高橋は言葉を選ぶようにして、続けた。
「君は藤本さんに体当たりをしたあと、意識を失った。君の身体はもう限界だったんだ。
無理もない、君が喧嘩した相手はあの『狂犬』だからね」
「…あいつ、有名人だったのか」
どおりで、とれいなは納得した。彼女をもってしても、あそこまで恐ろしい奴は見たことがなかったからだ。
「あの人は、残念なことにこの『モーニング女学園』で最も強い。
そしてさらに残念なことは――その力を正しいことに使えないんだ」
「そんな生ぬるいものじゃないわ。札付きのワルよ」
新垣が、高橋の後に続いた。
「彼女は学園での自分の権力を利用して、学園にクスリを持ち込んだの。スピードとか呼ばれる、覚せい剤の類ね。
学園の生徒は、それを多額で購入することを強要されたわ。断ればもちろん、想像も付かないほど酷い目に合わされる。
標的になったのは主に当時の一年生、つまり私たちの代だったの。そしてそれは今も続いてる」
れいなは黙って聞いていた。
――クスリ。よくある話だが、よくある話と言うことは…それだけ厄介な話だということでもある。
れいなはそのことを知っていた。
「…警察には?」
「もちろん、伝えたわ。でも槍玉に挙げられるのは常に彼女のグループの末端だけ。そのうち、まともな捜査も行われなくなったわ。
裏で繋がっているのかもしれない。警察…いえ、もしかしたら、もっと大きな何かと」
ありがちな話には、ありがちな結末が待っているものなのだった。
23 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 23:46:48.22 P
「それにね。例え藤本さん一人がいなくなったとしても、この学園の根本が悪だということは変わらない。
きっとすぐに代わりになる奴が現れる。だから私たちは…この流れを断ち切らなきゃならない」
新垣がそこまで言うと、高橋が頷いた。
「私たちはこの学園に『革命』を起こそうとしている。まあ、レジスタンスみたいな感じかな」
レジ打ちのダンスとは何のことだろう、とれいなは一瞬思ったが、高橋の意図することは、れいなにも理解できた。
つまり高橋は、藤本という女を倒し、その代わりとなる存在――『総番』に、自分がなると言っているのだ。
力と権力を持ち、それを正しいことに使うために。
「だかられいな、君の力を貸してほしい」
「はあ!?」
24 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 23:54:39.88 P
れいなは、自分の体から血が抜けていくのを感じた。
無理もない、彼女はこうした不良たちの抗争を避けるために、この学園に入ったのだ。
これでは博多にいたときと同じだ。何も変わらない。
なぜ自分はもっと早くこの場から逃げ出さなかったのだろう。
こうなることは十分予想できたはずだ。助力を乞われそうなことも、もしそうされたら、自分は断りきれないことも。
だがれいなは諦めなかった。
普通の青春を過ごしたい。そのことが、れいながこの学園生活に望む、唯一の願いだったからだ。
「なんでそこでれいなが出てくるとよ!?というか、あんたらも見たやろ!?れいな、あいつに手も足も出んかったやん!」
「それでも、君は勇敢に立ち向かった。あの『狂犬』相手にあそこまで戦える人は、この学園には君しかいない」
高橋が、噂どおりだ――とでも言わんかのような表情を浮かべる。その後に、新垣が続く。
「さっきも言ったとおり、私たちは君の事を知ってるのよ。少し調べたら、あなたのことはすぐ分かったわ。
何でも地元じゃ、『博多一の暴走明太子』って言われてたらしいじゃない」
「言われてない!なにそのネーミングセンス!ありえんし!」
れいなの反撃は、さらに大きなカウンターパンチをもらうことで終了した。
何だ明太子って。れいなは眩暈を起こしそうになった。
結局、自分の人生は、青春は…こうなる運命だったのか。
25 :
名無し募集中。。。:2009/08/31(月) 23:56:04.71 P
高橋が続ける。
「君が嫌がる気持ちも分かる。出来れば私だって、事情も知らない入学したての君に、こんなことは頼みたくなかった。
でも、だからこそ君にしか頼めない。これは学園の勢力図に組み込まれてない君だから頼める…あー、何て言えばいいのかな」
つまり、と高橋は前置きしてから言った。
「2年で一致団結して、3年の連中と立ち向かう。そんな方法も確かにあるかもしれない。
でもそれじゃ、学園の覇権を握る勢力が、3年から2年に入れ替わるだけ。この意味、れいなにも分かるでしょ?」
れいなは、上級生に絡まれていた黒髪の子のことを思い出す。
「…2年も、いいやつばかりってわけじゃないってことやね」
「そう。さらに残念なことに、現2年には『狂犬』のように圧倒的な『カリスマ』を持った奴がいないんだ。
仮に3年を倒せたとしても、力と権力は分散されて、今度は『総番』の座を得るための争いが始まる。
そんなことになったら、学園内どころか、他校の生徒や、もっと大勢の人を巻き込むことにもなってしまう。
失敗したときのリスクも高くなる。造反を起こした2年は、学園にいられなくなる。
このことは、極めてスマートにやり遂げなくちゃならない。
私たちは2年でも3年でも、新入生でもない…どこにも所属しない勢力として、この学園の実権を握る。
そしてこの学園を正しい方向へ導く」
26 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 00:01:02.75 P
高橋は、弱者を守るため強者に立ち向かった、れいなの姿を思い出していた。
「――そのことが出来るのも、この学園では君だけだ。だから、れいな…君の力を貸してほしい」
そこまで聞くとれいなは、高橋の強い意志と自分の青春を天秤にかけながら、はあ、と1つため息をついた。
「先輩たち、学園のことはよーく、考えてるみたいやけど…れいなのことは全く考えとらんね」
「…すまない」
れいなが自分たちのことを『先輩たち』と呼んだことに気付いた高橋が、自らの痛みをこらえるようにして言う。
本来ならば自分たちのような『先輩』が、れいなのような新入生たちに不自由なく、楽しんで過ごしてもらえるような学校――
そういったものを作り上げなくてはならないのだ。
高橋は、自らの不甲斐なさを強く戒めるように、れいなに深く、頭を下げた。
「…こんな学園で。本当にすまない」
そんな高橋の様子を見たれいなは、自分もそろそろ、腹をくくる必要があるようだと、そう思った。
「勝算は」れいなは言った。「あるとかいな」
27 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 00:03:54.86 P
3人の表情が変わる。この時点で、彼女たちは同じ目的を持つ仲間となった。
「タカハシ先輩、見たところあんたはそこそこやるようやけど…隣のアラガキ先輩は、ペンを持っとるほうが似合っとうよ」
「ニイガキよ。間違えようがないでしょ。それから、悪かったわね…あなたのように野蛮でなくて」
憎まれ口を叩くれいなに、新垣が嫌味で返した。
「つまり、ニイガキ先輩は戦えないということっちゃね。となると…れいなと、タカハシ先輩。
たった二人で、あの化け物と」
戦うのかいな――そう言おうとするれいなを、高橋が遮った。
「何言ってるの、れいな。あいつと戦うのは私一人だよ。そこまでれいなに頼むつもりはないから、安心して。
れいなは、彼女の取り巻きが邪魔をするようだったら、それを止めてくれればいいから」
れいなは、さも当然かのように発した高橋の言葉の意味を理解するのに、少しの時間と、多くの推測を要した。
れいなも体の大きいほうではなかったが、彼女――高橋も負けず劣らずの体格しかない。
彼女のスカートから覗く、太腿に付いた筋肉――あれが見掛け倒しでなかったとしても、あの『狂犬』に勝てるとは、とても思えない。
れいなの脳裏に『狂犬』の、血走った赤い目がよみがえる。
あんな化け物に、高橋は――『タイマン』で挑もうというのだ。正気の沙汰どころではない。
そんなれいなの様子を見て、新垣が口を開く。
28 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 00:05:31.73 P
「分からない、って顔をしてるわね。無理もないわ、あなたはまだ、愛の強さを知らないのよね。
いい?田中さん――あなたをここまで運んだのは、誰だと言ったか覚えてる?
意識を失ったあなたは、危うくあの狂犬に喉笛を噛みちぎられるところだったのよ」
彼女の言葉を聞き、そうだ、とれいなは思う。
体当たりをして自分は意識を失ったことまでは聞いたが、その直後のことは聞いていない。
遮二無二突っ込んだだけで、あの狂犬を倒せるはずはない。当然、予想外の反撃を受けた狂犬は怒り、そして――。
そして、高橋がそこに現れた?
「…まさか」
れいなは、一つの結論に至った。
自分が生きたままここに運ばれたということと、目の前にいる高橋に怪我をしている様子も見当たらないということは――。
狂犬は――近づく高橋の姿に気が付き、牙を収めたのだ。
あの血に飢えた化け物が、獲物を目の前にしながら、肉を食らうことをあきらめた。
にわかには信じがたいことだが、あの狂犬は、高橋のことを――。
れいなが出した結論を、新垣が代わりに、口にした。
「間違いないわ。狂犬――藤本は、愛と戦うことを恐れてる」
29 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 00:07:19.53 P
教室から出て行ったれいなを、二人は窓越しに見つめていた。
「これでよかったのかしら」新垣は難しげな表情を浮かべる。
「れいなに協力してもらうことかい?」
高橋が答える。
「彼女は、自分が危険を冒すことになっても、他人を助けることが出来る子だ。里沙も見ていたじゃないか。
現に、私たちに手を貸してくれた。心配するな。まあ少し、口が悪いところがあるかもしれないが」
「そのことじゃないわ。いえ、口の悪さはどうにかしなければならないけど…。
愛、あなたが一人で戦うと言ったことよ」
なんだ、そんなことか――といった顔で、高橋は言う。
「今更何を言ってるんだ。私は負けるつもりはないよ」
高橋は自分の言葉に、少しの不安を抱いたのかもしれない。
もう一度、自分に言い聞かせるように頷きながら、同じ言葉を口にした。
「そう。負けるつもりはない」
30 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 00:10:02.75 P
れいなは高橋たちとの会合を終え、新校舎の正面の入り口から出て、学園の敷地内を歩いていた。
モーニング女学園のキャンパスはとても広く、生徒数の少なさも相まってか、とても閑散としている。
中央に設置されている噴水は、本来の役目を忘れてしまったかのように今は稼動しておらず、
学園の荒廃ぶりを引き立たせることに一役買っていた。
歩道にはタバコの吸い殻や空き缶、燃やされた教科書や答案用紙のカスのようなものが、無残に散らばっている。
そうした陰惨を極めた学園の風景を、れいなは地元でも見慣れてはいたが――今は少し、憂鬱に似た何かを感じずにはいられなかった。
――こんな学園で。本当にすまない。
れいなは、そう拳を握り締めながら自分に頭を下げた高橋の姿を思い出す。
(あんたのせいやないやろうが…)
この学園をここまで退廃させた責任は、この学園の生徒全員にある。
もちろん、『狂犬』のように特殊な人間もいるが、皆、それぞれが少しずつ、同じようにして――この惨状を招いたのだ。
そして、そんな風景を見慣れているということは、自分も今まで気付かずにそう過ごしてきたに違いない。
つまり、自分の責任だとも言えるのだ。
そんなことをれいなは思いながら、さらに少し進んでいくと、一際大きな桜の木の下に女の人影があるのを見つけた。
その美しい黒髪には、見覚えがあった。
31 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 00:22:26.18 P
れいなが彼女に気が付いたのと同様に、彼女もれいなの姿に気が付いたようだった。
彼女はやや緊張した面持ちで、こちらへ近づいてくる。
彼女の黒い髪が、さわやかな春風を受け、さらさらと音を立てるようにしてそよぐ。
その姿に、れいなの胸がとくん、と音を立てた。
れいなが彼女を初めて見たときにも感じたことだったが、彼女の姿は、この学園には似つかわしいものではなかった。
この学園に彼女が入学した経緯は、れいなにはわからない。
彼女はこの学園に、何を求めたのだろうか。
そして、汚れのないあの瞳は、この学園の荒んだ様を見て、何を思っただろうか。
れいなは今まで、何も思わなかった。れいなが過ごしてきた人生では、それが当たり前でさえあったからだ。
しかし、今、れいなはこう思う。
せめて彼女だけは、この学園のように――いや、自分のようにはなってほしくはない。
このときれいなは、命を懸けて彼女を守ることに決めた。
32 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 00:28:55.28 P
「あ、あの!さっきは助けてくれて、ありがとうございました」
黒髪の女の子――道重さゆみと名乗った彼女は、れいなに頭を下げた。
「い、いや、気にしなくていいっちゃけど…」
それより、とれいなは続ける。
「もしかして、れいなが来るのをここでずっと待っとったと?」
「は、はい…あの、どうしてもお礼が言いたくて。保健室にも様子を見に行ったりしたんですけど、何だか深刻そうだったからここで…。
あの、怪我は?もう大丈夫なんですか?」
「うん。さゆみちゃんが、れいながあの3年にやられそうになったとき、大声で止めてくれたけんね。
れいなも助かったとよ」
そうれいなが言うと、さゆみは大きく首を横に振った。
「い、いえ、それは…わたしもなにかしなきゃって思ったんだけど、腰が抜けちゃってて立てなかったから、
あんな感じになっちゃって…やだ、恥ずかしい」
さゆみは、そのときの自分の姿とその場の空気を思い出し、恥ずかしげに俯いた。
れいなは、顔を真っ赤に赤らめているそんな彼女の姿を見て、にしし、と笑った。
「たしかに、あいつらにとっては、ちょっとだけマヌケに見えたかもしれんね。
でも何もせんよりはしたほうがいい。決して恥ずかしいことではないとよ。立派やった」
33 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 01:28:58.31 P
ありがとう、とさゆみが言う。
「この学校、怖い人ばっかりで…。でも、れいなはなんだか違うね。話してみてわかったけど、すごく優しいし」
「え、優しい!?れ、れいなが!?」
「うん。…あれ?なんか変なこと言った?」
いや…、とれいなは言った。喧嘩に明け暮れる毎日を過ごしてきたれいなにとって、そんなことを言われたのは初めてだった。
今度はれいなが、顔を赤らめることになってしまう。
「…れいなとは、いい関係が築けるといいな」
「う、うん…れいなも、そうなってほしいと思っとうよ」
二人はしばらく、そうして和やかな雰囲気のまま会話を続けていたのだったが――
れいなが、自分たちのほうへ近づいてくる女の存在に気付く。
遅れてさゆみも気が付くと、さゆみは彼女を一際大きい声で呼んだ。
どうやらその女は、彼女と親しい存在であるらしいことがわかる。
「おーい、絵里、こっちだよー!!」
「いやーごめんごめん、バナナの皮が道に置いてあるもんだからさ、バナナってあんなに滑るのかっていうくらい転んじゃったよ。
そんなバナナな話が…って、ソチラのヒトは?」
絵里と呼ばれた女が、れいなに視線を送る。
「あ、絵里、紹介するね。こちら、れいなっていってね、さっきわたしが困ってたところを、助けてくれたの」
34 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 04:03:35.16 O
お、また復活したか続き楽しみ
35 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 06:32:55.45 P
その話を聞き、絵里が、呆れたというような表情を浮かべる。
「ひょっとして、入学式早々、絡まれたの?ハァ〜…だから絵里は、さゆに『こんな学園』には入ってほしくなかったんだよ。
私と同じ学校でもよかったし、他にもこんなとこよりはもっといい学校たくさんあるんだよ?なんでわざわざこんな…」
黙って様子を伺っていたれいなだったが、絵里という名前の女の軽すぎるノリは、どうも好きになれそうになかった。
そして、そんなことよりも…れいなには、彼女が発した『こんな学園』という言葉を素直に聞き流すことができなかった。
特に、高橋のこの学園に対する想いを知ってしまったあととなれば――。
もしさゆみがこの場にいなければ、殴りかかっていたかもしれないなと、れいなはそんなことを考えていた。
「絵里にはわからないだろうけど、この学園だっていいところはいっぱいあるよ。例えば…ほら、見てよこの制服!かわいいでしょ」
そう言いながらさゆみが、ティーン雑誌の人気モデルのように、かわいらしい仕草でポージングをしてみせる。
「あー、ホントだ。すごくカワイイねぇ」
れいなは、絵里がここに訪れてからはずっと腕を組んだままだった。
今にも舌打ちをしてしまいそうなほど、退屈でもあった。
先程まで自分と話していたさゆみが、ヘラヘラした女と親しげに話していることも、彼女の苛立ちを一層引き立たせていた。
それだけであれば、短気なれいなの性格であっても、まだ我慢ができたのだが――。
絵里は、そんなれいなの様子に気が付いていた。
36 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 06:36:32.67 P
「――ッ!?」
れいなが、いつのまにか自分の目の前に移動していた絵里の姿に驚き、後方へ飛び退く。
(こいつ…!)
電光石火。れいなは決して、目を瞑っていたわけでも、油断していたわけでもない。
れいなは、女――絵里が自分にとって敵なのか味方なのかという判断をまだ下していなかったため、
いつ絵里が妙な動きを見せたとしても、すぐに対応ができるように構えていたつもりだった。
だが、絵里は――そんなれいなを前にして、一瞬で、彼女の警戒範囲外から、言葉通りれいなの『目と鼻の先まで』移動して見せたのだ。
つまり、絵里がその気ならばいつでもれいなを攻撃することが出来た、というわけだ。
『主導権はこちらにあった』ということを、れいなだけにわかるよう、挑発してみせたのだ。
この時点でれいなには、絵里がどういった『喧嘩』をするのかはわからなかったが、彼女が相当な使い手であるということは明らかだった。
「てめえ…」れいなの猫のような目が、冷たさを放ちながら絵里を捉える。
「ちょ、ちょっと絵里!何してるの!」さゆみが焦りながらそれを咎める。さゆみは、絵里の意図には気付いていないようだった。
「いやー、さゆよりも、彼女の方が制服が似合ってるもんだからさ、つい近くで見たくなっちゃって…」
『制服が似合ってる』。『こんな学園の』、という意味である。ここが、れいなの限界だった。
「おい」れいなが、初めて絵里に向けて声を発した。「絵里っていったっけ?あんた、入学式なのに制服着とらんようやけど?」
「うん、それがどうかしたの?」
絵里は、ヘラヘラと笑ったまま続けた。「さっきも言ったけど、来る途中に転んで制服が汚れたから、着替えたんだよ」
「…まあ、今この場じゃ『そういうことにしておく』とよ」
37 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 06:38:58.15 P
その言葉を聞いた絵里が、れいなが言葉に含ませた意味に気が付く。
少し、軽率すぎたか――服はちゃんと、着替えたのにな。
絵里の顔から笑みが消え、今度は殺意の篭った表情をれいなに向ける。
「…何のことか、分かんないな」
「お前の学校、どこなのかようしらんけど」れいなが続ける。「お前には、この学園の制服の方が似合いそうやね」
「…行こう、さゆ」
絵里はさゆみの返事を待つことなく踵を返し、来た道から正門へ歩き出した。
「絵里!もう!」さゆみは絵里の姿を見た後、れいなに振り返る。
「本当にごめんね、れいな。絵里ってふざけてああいうことしちゃう人なの。不愉快に思っただろうけど、嫌いにならないであげて」
「そうやね」れいなが答えた。「ああいう奴は…れいな、大好きっちゃん」
「もう、れいなまで…」
さゆみは困ったような表情を浮かべる。絵里はもう遠くへ行ってしまったようだった。
「本当にごめんね。明日からこの学校で、一緒に頑張ろうね!それじゃあ、また明日会えるの、楽しみにしてるから!」
その言葉にれいなが頷いたのを見て安心したのか、さゆみは小走りで、絵里のあとを追っていった。
れいなの、さゆみと話していたときの楽しかった気分は、今はどこかへ消えさってしまっていた。
『狂犬』に『レジ打ちのダンス』、そして今度は――『ヘラヘラ女』。
博多にいた頃と同じどころか、もっとハードな学園生活になりそうだと――れいなはそう思った。
38 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 06:46:34.11 P
次の日。
学内に設置された掲示板に、大勢の生徒たちが集まっていた。
掲示板に貼られた一枚の紙を見ながら、何やらざわめき立てている。
「…まだあの『狂犬』に挑もうという酔狂な奴がいるとはな」
「『高橋愛』。お前、知ってるか?」
「いや、聞いたことないね。どうせただの命知らずだろう。とんだ大バカだ」
生徒たちがそう騒ぎ立てる様から少し離れるようにして、れいなとさゆみもそれを眺めていた。
れいなも、掲示板を見た。貼り紙の内容にはこうあった。
『学園の邪悪、『藤本美貴』に天誅を下す。
ルールは私、高橋愛と1対1の決闘形式で執り行う。
立会人は生徒会会長代理、生徒会副代表・新垣里沙が務める。
正義を恐れぬのならば、明日、第一体育館へ来い』
すべてを読み終わると、少しの時間を置いて、さゆみが口を開いた。
「れいな、これ…」
「…ああ。あの先輩達、生徒会の人やったんやね」
39 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 06:50:20.36 P
「れいな、ここにいたのか」
そんな会話を二人がしていると、いつの間にか側へ来ていた高橋が、二人にそう声をかけた。
れいなもそれに気が付き声を上げると、隣にいたさゆみが、ぺこりと高橋に挨拶をする。
「ああ、君はこの前の――」
高橋は一度、さゆみを見た。
彼女の勇気のことは、高橋も知っていた。
さゆみも同様にして、高橋がれいなを助け、介抱したことを知っていた。
それでもなお、さゆみが高橋に対し少し怯えた様子を見せたのは、物騒な貼り紙の内容を見たからであろう。
「…ということは君たちも見たんだね。しかし、あれで意味通じるかなぁ」
高橋は二人を安心させるために、少しおどけながらそう言った。
「意味は分かるけど、タカハシ先輩、時間を書き忘れてるっちゃよ」
ああ、しまった――れいなの指摘に対し、そんなことを言っていた高橋に、近づく影があった。
40 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 06:52:29.77 P
「――高橋」
その影の発した声に、高橋の表情が一瞬だけ強張る。
『狂犬』――藤本美貴。高橋にとっては、この世で一番忌むべき声であったに違いない。
周りにいた生徒たちは、高橋がその場に来ていたことには気付かなかったが、
そんな生徒たちでも、このときだけはびくりと体を震わせ、藤本のほうを見た。
彼女のことは、畏怖を抱くべき対象として――よく知っていたからだ。
高橋はその声にも臆することなく、集団の一歩前へと出る。
昨日のことを思い出したのか、さゆみの少し怯えた様子に気付いたれいなは、さゆみをかばうように、高橋の少し後ろに続いた。
狂犬――藤本は、自らの仲間である取り巻きの集団を、目だけで一歩下がらせる。
すると自然に、藤本と高橋だけが対峙する格好になった。
危険すぎるほど張り詰めた空気が、二人の間に立ち込める。
「猿が字を書くとは思わなかった。言葉の意味はわかってやっているんだろうな?」
冷たい眼差しのまま、見下ろすようにして高橋を睨む。
「当たり前だ。――時間はその、書き忘れちゃったけど」
高橋はそういいながら、れいなに一度、視線を送る。
れいなには、高橋がその視線が何を求めたのかは伝わっていた。
れいなが戦うことになるであろう、後ろにいる連中のことを、今のうちによく観察しておけ――ということだ。
高橋は再び藤本に視線を戻した。
「明日の昼、12時。それでいいか?」
藤本は即答する。
「無論だ。なんなら、今この場で始めても構わんぞ。猿の芸なら、見せられて退屈ということはないからな」
41 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 06:55:27.02 P
「それは面白い冗談だわ。あなたはその猿に倒されるのよ」
綺麗に切り揃えられた栗色の髪をなびかせながら、新垣がその場に現れた。
藤本は陰湿な眼差しを保ったまま、新垣にもそれを向ける。
新垣は邪悪なそれを避けるようにしながら、高橋のすぐ横に並んで立った。
「成程。猿に知恵を与えたのはお前か。前の生徒会長とは寝飽きて、今度は猿に鞍替えというわけか?節操のない女だ」
「…下品すぎる口だわね。あなたには似合っているわ」
「ふん。せいぜい、吠えていろ。私に逆らうということがどういうことか、いずれ貴様にも教えてやる。
そうそう、お前の後ろにいる女たちにもな」
藤本はれいなとさゆみに視線を送る。
高橋は、その視線を受けて今にも飛び掛かりそうになっているれいなを手で制した。
「じゃあな。せいぜい、楽しませてくれよ。前生徒会長――吉澤のように、な」
藤本はそれだけ言うと、嗜虐に酔いしれる悪魔のような笑みを浮かべながら、その場を後にした。
42 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 07:03:27.66 P
「――ふう。愛、当日まで衝突は極力避けないと駄目よ」
『狂犬』の後姿を眺めながら、新垣が嘆息する。新垣が、そう愛を嗜める。
「仕方ないじゃん。向こうから突然、こっちに来たんだから。それに、言い返してたのは里沙だけじゃないか」
「だって、言われたままじゃ悔しいじゃない」
その様子を見ていたれいなが口を開く。
「あの、先輩たち…生徒会の人やったと?さっきあいつも、そんなようなことを言っとったけど」
「そういえば、れいなには言ってなかったっけ。里沙は生徒会の副会長なんだ」
「ええ…形だけはね。でも残念だけど、今の生徒会はなんの権限も与えられてないの。藤本に全部、奪われてしまったわ」
新垣が、悔しそうに口を閉ざす。
43 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 07:55:07.08 P
「生徒会は、藤本にはめられたんだ。覚せい剤事件の話は、れいなにもしただろう」
れいなが黙ったまま頷いたのを確認してから、高橋が後を続ける。
「当時の生徒会だって、黙ってみていたというわけじゃない。
当時の生徒会長――吉澤さんは、立派な人だった。
彼女は人望も厚くて、表立って『狂犬』に立ち向かえる、学園の英雄だったんだ。
だけど突然、事件の首謀者は生徒会長…そんな根も葉もないデマが流れてね。
そんな噂のせいで、吉澤さんは徐々に追い詰められてしまった」
「きっと、その責任をとるつもりだったのね。彼女は一人で『狂犬』に挑み、そして――」
新垣は一度口をつぐんでから、
「そこから先の話は、言いたくないわ。ごめんなさい――」
とだけ言った。
44 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 08:50:03.90 O
今日はロンハーか
楽しみだ
45 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 12:25:58.53 0
あげときましょか
46 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 13:38:53.90 O
お昼あげ
47 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 14:24:21.03 O
れいなが空手やりたかっただと…
48 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 18:27:57.96 O
れいな見てるな
49 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 19:26:45.85 0
重くなった空気を換えるように、さて…と大きく1つ前置きをしてから、高橋が言う。
「里沙」
高橋が目で合図をすると、新垣がさゆみの肩を抱くようにして、言った。
「行きましょう、さゆみちゃん。そろそろ授業が始まるわ」
「は、はい」さゆみは軽く頷くと、まだ少し怯えた様子のまま、れいなに向かって言った。
「…れいな、危ないことはしたらだめだよ」
「うん」れいなはさゆみの抱いた不安を少しでも和らげようと、強く頷いてみせる。「わかっとう」
さゆみはまだ何か言いたげな様子を見せていたが、新垣がもう一度、行きましょうと言うと、ゆっくりと歩き出した。
その場に残ったれいなと高橋は、しばらく二人の後姿を眺めていた。
「危ないこと、か」
高橋はおもむろに、さゆみの言葉を自分で口にしてから、れいなに言った。
「たしかに、さゆみちゃんの言うとおりだ。『狂犬』に弓を引いた以上、私もいつ吉澤さんのようになるかはわからない。
さゆみちゃんが言ったことは、まったくもって普通の反応さ。…れいなはどう?恐ろしいかい?」
「いや」れいなが短く答える。「楽しみやね」
ややあってから、私もさ、と高橋は言った。
「里沙がどう考えてるかはしらないが…実のところ、この状況を少し楽しんでる自分に気が付くことがある。
れいなと私は…結局のところ、そういう人間なのさ。つまり…生徒会には向いてない」
50 :
代理投稿中。。。:2009/09/01(火) 20:16:22.45 0
高橋の軽めのジョークに、れいなはにやりとだけ笑った。
だけど、と高橋。
「もう一度、確認しておくよ。降りるなら今のうちだ。
藤本は君たちのことも言っていたが、今この件から手を引けば、目を付けられることもないだろう。
そうすればれいな…君は、彼女――道重さゆみを守っていくことだけに専念することもできる」
「愚問やね」れいなが続ける。
「知ってしまった以上、もう見て見ぬフリはできん。先輩一人で片付く問題じゃないとよ。
それに、れいなは、欲張りやけん。先輩たちに恩を売っておいて、
それからもちろん、さゆみちゃんにも指一本触れさせん。
先輩たちが、この学校をどんな学園にしてくれるのか、楽しみやし」
「そっか」高橋が答える。何かを思い出したようでもあった。
「あちらを立たせれば、こちらが立たず。八方美人タイプは…嫌われるよ」
51 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 21:12:28.75 P
「れいなの目に、『狂犬』の仲間はどう見えた?」
高橋が再び、口を開く。
れいなは、先程見た取り巻きの連中の顔を思い出した。
「体に無駄な肉がついとらん。あいつら全員、ボクシング経験者やろ」
「そう。よくわかったね。でも、ただの経験者ってわけじゃないよ。
中学時代の素行の悪さがたたって、大会に出場できなくなった挙句、この学園に流れついたんだ。
実力は都でも上のほうだ」
「チョロいね」れいなはすぐさま答える。「れいなの敵ではないとよ」
「それは、頼もしいね。…顔は覚えた?」
れいなは、黙ったまま頷く。高橋はそれを見て満足げな表情を浮かべた。
「…それじゃあ、任務を与えるよ――」
52 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 21:53:39.70 P
「新垣先輩は、高橋先輩とはどういう関係なんですか?」
れいなと別れた後、新垣と二人で新校舎を歩いていたさゆみは、彼女にそう問いかけた。
「ただの、幼馴染よ。幼稚園から、高校まで同じ。腐れ縁ってやつね」
「それじゃあ…もう随分長い付き合いなんですね」
うん、と新垣が小さく頷く。
「愛は昔から無茶をする子でね。私が口だけは達者なもんだから、よく上級生にいじめられることもあったんだけど、
必ず、愛が助けに来てくれたの」
「それはきっと、新垣先輩のことが好きだからですよ」
「ええ、そうね。自分で言うのもあれだけど、たぶん半年位前までは…そうだったかもしれないわね」
新垣のトーンダウンした様子に、さゆみも気が付いた。
「…なにか、あったんですか」
「なにっていうわけじゃないんだけど。さっき、生徒会の話したでしょう」
ええ、とさゆみが頷く。
53 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 22:50:57.07 P
「昔は私だけでなく、愛も生徒会にいたの。愛は吉澤さんとともに生徒会を牽引する役目をしていた。
うちの学校には生徒会選挙がなくて、生徒会役員による投票で毎年の生徒会長を選出するんだけどね。
決して、愛のことを嫌っていたというわけではないわ。ただ、当時は人望、リーダーシップ、行動力、積極性――
そういったことを考えると、吉澤さんの方が会長にはふさわしかったの。
愛にはその補佐をしてほしかった。そう思った私は、吉澤さんに票を入れた。
愛はこの学園をよくしたいと、ずっと言っていたわ。きっと、生徒会長になりたかったでしょうね。
でも、私の一票差で、吉澤さんが選ばれた。愛はそんな生徒会に愛想を尽かして、生徒会から離れていったわ。
昔の、話だけどね」
新垣の表情が愁いを帯びる。
「で、吉澤さんがああいうことになってしまって。生徒会は事実上、解散を余儀なくされた。
それを見かねた愛が、また協力してくれることになったってわけ。
愛の学園に対する思いは本物だったの。私が間違っていたのよ。
でも、そのこと気付くのが遅すぎた。同時に、私にとって一番大切なものを失ってしまったわ」
「でも、また戻ってきてくれたじゃないですか」
そう言うさゆみに、新垣は首を横に振る。
「いいえ、八方美人は嫌われるのよ。さゆみちゃん、あなたにも人生の先輩として、1つ忠告しておくわ。
おせっかいかもしれないけど…自分にとって一番大切なものはなにか、それをよく考えて。
あなたは、私のようになってほしくはないから。…それじゃあまたね、さゆみちゃん」
さゆみはいつの間にか、自分の教室の前に立っていた。
さゆみにとって、一番大切なものは、もう決まっている。
亀井絵里。彼女のいない人生など、考えられない。さゆみは素直に、そう思っていた。
しかし、それでもわからないのは…それほど好きなのに、自分はなぜ彼女と同じ学校にしなかったのだろう、ということだった。
――…自分にとって一番大切なものはなにか、それをよく考えて。
先程聞いた新垣の言葉が、教室に入った後もまだ、さゆみの耳に残っていた。
54 :
名無し募集中。。。:2009/09/01(火) 23:55:31.83 O
代役乙
55 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 01:26:53.52 O
おつかれいな
56 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 06:05:40.38 O
なんとなく気になるスレ
57 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 07:49:47.24 P
出発前にあげ
58 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 08:50:15.08 O
労働前にあげ
59 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 13:32:12.51 O
こっちがおちてどうする
60 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 14:18:09.74 0
体育祭を書いている者です
最近忙しすぎて書けませんでしたごめんなさい
主の作品にも期待してます
61 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 15:55:28.46 O
気長に待ってる
62 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 18:56:18.07 O
スレを諦めたのかと思ってた
とりあえず昔のを貼ったりしてお茶を濁していこう
規制のないPにクラスチェンジしたから初期のようにちょっとずつすすめるわ
それといるかわからないけど規制で話あげられないって人もしいたらまとめページのテンプレスレで教えてくれ
63 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 20:36:58.04 P
その日の夜。
女は仲間とはなれて一人、校内にいた。
女は仲間との賭けに負け、学校内に設置された自動販売機で飲み物を買いに行かされていたのだった。
制服のポケットから硬貨を取り出したが、そのうちの何枚かが手からこぼれ、あたりに音を立てて散らばる。
「ちっ、ついてねえなあ…」
女はそういいながら、いそいそとそれを拾い始めた。
「…ここにもおちてるっちゃよ」突然、女の後ろから声がかかる。
「ああ、ありが…」
女は咄嗟にそう返そうとしたが、すぐに異変に気が付いた。
こんな夜更けに人がいることもそうだが、そもそも校内に残ってる奴などいるわけがないのだ。
女はそれを知っている。だからこそ女もこうして、まだ学園内に残っていたのだから。
女はすぐに飛び退き、その姿を見た。
猫のような目が、暗闇に浮かんでいた。
64 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 21:19:41.80 P
「ここにもおちてるっちゃよ」
れいなは、女にそう声をかけた。
先手必勝が定石だったが、早いうちに相手の実力の程を計っておこうと考えたのだった。
女はすぐに、両の手で拳を作り、それを顎の辺りで構えた。
れいなは構えない。
だらりと両手を下げたままだ。
正確には、れいなはこの時点で構えている。
れいなが『喧嘩』のときにいつからそうするようになったのかはわからないが、
そのほうが咄嗟に早く動けるという、彼女なりの構えなのだ。
女はそのことを知らず、また、気付くこともできない。
女は二度、左右に首を振ってフェイントをかけた。
それでも動かないれいなの姿を見て――相手が素人だと、女はそう判断したのかもしれない。
試合から離れすぎたのか、それともこの『喧嘩』を試合よりも簡単なものと考えたのかもしれなかった。
ジャブから試合を組み立てるべきだったのだ。いつもそうしていたように。
女が選択したのは、右の大振りのストレート。
れいなの体が、自然に反応する。
首だけを動かし、それを易々とかわすと、自らの右の拳を相手の顎にあわせた。
女は白目をむきながら、がくりと、ひざから崩れるようにしてその場に倒れた。
――こんなもんか。
れいなは一つ息を吐く。
昼、れいなが見た取り巻きの数は5人。高橋がれいなに下した指令は、
決戦当日――つまり明日までに、その数を出来るだけ減らしておけ、というものだった。
まだ時間はある。このまま行けば、おそらく、自分の役目は日をまたがずして終わるだろう。
そう考えると、れいなは再び、暗闇に身を潜めた。
65 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 22:11:56.78 P
「どうなってやがる。あいつら、ジュースすら満足に買ってこれねえのか?」
一人の女が声を荒げる。始めに教室の外へ出た仲間の帰りを待ち始めて、すでに30分が経過していた。
様子を見に行かせたもう一人も、10分は経つがまだ帰らない。
モーニング女学園の敷地がいくら広いといっても、自動販売機などそこら中にある。
もちろん、彼女たちのアジトと化している旧校舎にも同様だ。
おそらく、いつも通りに――マリファナを肺に入れ過ぎたに違いない。
「仕方ない。全員で探すぞ」
3人はやおら立ち上がると、教室を後にした。
辺りは暗く、所々にある外灯の明るさだけが学園を照らしている。
当然のことだが、夜更けの学園に人の気配はない。
周囲をざっと見回したが、近くに仲間の存在は見当たらなかった。
3人はそれぞれ、これは探すのに骨が折れそうだと思いながら、
おそらく、仲間は旧校舎からグラウンドを挟んだ先にある自販機コーナーに行ったのだろうと当たりをつけ、歩き始めた。
66 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 23:04:15.35 O
続き待ってる
67 :
名無し募集中。。。:2009/09/02(水) 23:57:30.74 P
しばらくして――3人がグラウンドの角を1つ曲がったところで、いるはずのない人間がそこにいることに気が付く。
外灯の下に、見慣れない制服を着た女が立っていた。
「なんだ?あいつは…」
3人は近づくにつれ、女の顔が認識できるようになる。
女は、不気味なほど、ニコニコと笑っていた。
「てめえ、何勝手によその学校に入ってやがる。ここが誰のシマだと――」
一人の女が声を上げる。
「…んー。匂う、匂うなぁ」女も口を開く。
「シンナー。吸ってたんでしょ。さっきのやつは、マリファナだったけど」
「!?てめえが…」
仲間を――。
3人は、すぐさま女を取り囲んだ。それでもなお、その女はヘラヘラと笑っていた。
68 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 01:19:59.41 O
上げ
69 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 04:58:35.38 0
おはよ
70 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 08:08:18.67 O
外でも作れるようにノートPC買うか
71 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 08:45:59.88 O
念入りに
72 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 13:24:17.20 O
お昼
73 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 14:09:40.91 O
昼おわり
74 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 15:05:52.79 0
何かしらんけど面白い
75 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 16:15:46.68 O
一年との対決楽しみ
76 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 18:09:52.56 O
小春の大暴れが見たい
77 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 18:47:56.45 O
ちょっとは宣伝できてたかな
78 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 19:41:47.85 O
期待あげ
79 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 20:22:02.00 P
おかしい。れいなは身を潜めたままそう思い、携帯電話で時間を確認する。
30分はとうに過ぎて、40分が経とうとしていた。
れいなのいる位置からでも、旧校舎の一室に明かりが点いたままなのがわかっている。
つまり、奴らはまだ学園内にいる可能性が高い。
ここでシビレを切らしてむやみに歩き回り、その結果、あいつらと鉢合わせになる状況も考えられたが、
それでも、さっきの女程度の力しかない奴らが4人いたところで、なんとかなるだろう――と、
れいなはそう考えると、旧校舎に向けて歩き始めた。
ほどなくしてれいなは、路上に一人、女が倒れているのを見つけた。
れいなは駆け寄り、顔を確認する。顔中が殴られた痕で腫れ上がっていたが、昼間にも見た『狂犬』の仲間に違いなかった。
するとさらに旧校舎側のほうから、何者かが争っているような声が聞こえてくる。
れいなはそちらのほうへ、勢いよく駆け出した。
80 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 20:44:51.16 P
「おまえは…」れいなは一人の女がそこにいるのを見た。「こんな時間に、ここで何しよっと?」
女もれいなに気が付く。
「やあ、君か」女は場違いなほど、明るい声を発した。
「そこに転がってる3人は、お前がやったっちゃね?」
女は、さも当然かのように答える。
「そうだよ。こいつらはゴミだからね。掃除してあげてるんだ、さゆのために」
「ふん。私刑執行人――パニッシャー気取りってわけやね。おめでたいやつったい。・・・さゆみちゃんが知ったら悲しむとよ」
れいなの言葉に、女の目に一瞬だけ殺意が篭ったのを見て取った。
女が口を開く。
「君もこいつらみたいに、シンナー・パーティーに参加するつもりだったのかな?」
「馬鹿言うなっちゃ。れいなはこいつらに用があって――」
そこまで言うと、れいなは口をつぐんだ。
れいなの言葉を遮るようにして、女がヘラヘラと笑い始めたからだ。
「ああ、いいよ何も言わなくて。絵里は全部分かってるんだ。君がどういう人間かってこともね」
女――絵里は、顔に笑みを張り付かせたたまま、ゆっくりとれいなの方へ近づき始めた。
「・・・なるほど。昨日の続きがしたくて仕方ない、って顔しとうよ。どうしようもないアホやね」
アホ――。れいなの発したその言葉が、引き金を引く合図となった。
81 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 21:26:56.28 P
絵里が、地面を強く蹴る。
「――ッ!」
次の瞬間、鈍い音を放ちながら、絵里の右の中段回し蹴りがれいなのわき腹を捉えた。
れいなはそれを左腕で防いだが、その蹴りの重さに顔をしかめずにはいられなかった。
れいなは追撃を避けるため、すぐさま下がって距離をとる。
「へえ」
絵里が、関心した、というような表情になる。
「今のを防げるとは思わなかったよ」
そう言いながら再び、絵里が跳躍する。
左足で大きく踏み込み、それをそのまま軸にして、今度は体を半分だけ回転させた。
右足を抱え込むように丸め、勢いをつけてそれを突き出す。
まるで大砲のように打ち出されたそれを、れいなは持ち前の超人的な反射速度で避けて見せたが、反撃をするまでには至らない。
絵里の攻撃はどれも当たれば致命、と言えるものであり、ガードをしたとしてもそれは変わらない。
そのことは、れいなが今しがた左の腕でもって学んだことである。
服を脱げば、大きな青いアザが出来ていることだろう――。
そうれいなが考えたところへ、再び、右足がうなりをあげてとんでくる。
前腕の骨がみし、と軋む。
これはまずい、とれいなは思った。
このままでは間もなく――折れるだろう。
82 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 21:45:40.29 P
「ああ、痛そうだねえ」絵里がれいなの姿を見ながら言った。
「今日は左を下にして寝られないね。君カワイソウ」
ふう、とれいなが1つため息をつく。
「・・・空手か、その蹴り方」
「そうだよ。よく知ってるねぇ。どう?痛かった?絵里の蹴りは」
「・・・そんだけ『太い足』に蹴られたら痛いに決まっとうやろ」
絵里の二の腕と太腿は、その端麗な顔立ちからすれば、少し不釣合いとも思うほどに膨れている。
だがそれは、彼女のそれ以外のプロポーションが整いすぎていることの裏返しでもある。
彼女の肉体は洗練されていた。
鋼のごとく己の肉体を鍛え上げるという――戦闘での勝敗のみならず、自己鍛錬にも重きを置いた『空手』という格闘技において、
彼女はそういった意味で『空手道』に熟達していると言えよう。
「・・・そんな挑発にはノらないよ」
そう言ったところで絵里は、れいなの目が猫のよう――いや、猫そのものになっていることに気が付いた。
次の瞬間には、『昨日絵里がれいなにしたときと全く同じよう』に、れいなが絵里の目の前まで迫っていた。
先日の意趣返しをしたかったのは、れいなも同じなのであった。
83 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 22:07:13.30 P
絵里はれいなの足を止めるべく、体を下げながらも、ややカウンター気味にれいなの左の内股を蹴り上げる――
つもりだったが、それはあえなくかわされる。
絵里はすぐさま左足をそのまま足刀の形に切り替え、れいなの右奥のひざを狙って振り下ろしたが、
れいなはあろうことかそれを――助走もなしに、絵里の頭上を飛び越えてかわした。
その動きは、並みの体操選手でも出来る芸当ではない。
絵里が『空手道』を通じて自身の体を『凶器』に鍛え上げたのに対し、れいなの体は――
いや、れいな自身が『凶器』なのである。
反撃が来る――。
絵里はすぐさま構えを直し、相手の様子を窺う。
掌底。絵里は、張り手のように振り下ろされたそれを、左腕でガードする。
それに合わせて、右の正拳をみぞおちに打ち込もうと構えていたのだったが――。
絵里の左腕に、炎で焼かれたかのような激しい痛みが奔る。
84 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 22:36:37.91 P
「ぐッ――」
絵里はたまらず、後方へ飛び退く。
見ると、腕から血が流れている。
れいなの放った一撃は掌底ではなく――爪。
それは空手の打撃にもある『熊手』という打ち方に似ていた。
『熊手』とは、掌底打ちの形から指の第一関節と第二関節を折り曲げながら相手に叩き込む打撃技である。
指を折りたたむことで力を込めやすく、また打撃面を減らすことで、目標に衝撃が分散されにくい。
つまり、拳と平手を同時に打ち込むような技だ。
だが本来、空手の裏技の1つとして数えられていた『熊手』は、
爪で耳をそいだり、指を相手の口に引っ掛けて倒すといったような危険な用途も含んでいた。
空手が『武術』から『武道』へと形を変えていく内に、そうした使い手は減ってしまったが――。
れいなの一撃は、まさにそれだった。
「これでお前も、左を下にしては寝られんね――」
闇夜を照らすようにして、れいなの目が、不気味なまでに鈍い光を放つ。
85 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 23:26:57.73 P
「それそれ。その目だよ」絵里が笑いながら口を開く。
「よくない目だ。猛獣の目だよ、それは」
「ふん。何が言いたいっちゃ」
「空手をやっていても、街のクズどもと戦っても――そんな目をしてるやつはいない。君はまともじゃないんだよ」
「前にも言ったやろ。お前にはこの学園の制服の方が似合ってる。
つまり、こんな状況でまだヘラヘラできようお前も――れいなと似たようなもんっちゃろ」
その言葉に絵里が頷く。
「・・・そうだよ。絵里だって、まともじゃない。でもそんな絵里を、さゆは愛してくれる。好きでいてくれるんだ。
だから絵里は、さゆを守るって決めてるんだ。せめてさゆだけはこんな風になっちゃ、だめだからね」
そこまで聞くと、れいなは合点が言ったかのように、1つだけ頷いた。
「なるほど。ますます、れいなと同じやね。ただ…さゆみちゃんがお前を愛してるって?それは自意識過剰すぎるやろ」
「・・・何を言ってるの?絵里とさゆは付き合ってるんだよ?」
「な、なッ!?つつつ、付き合ってるやとッ!?さゆみちゃんと!?お前がッ!?」
「そうだよ。ディズニーランドにも行ったことあるし」
夢の国――ディズニーランド。
田舎から都会へ出てきた者にとって、扇情的とも言えるその響きは、れいなの心を激しく揺さぶった。
マグニチュード7,0。
さゆみちゃんと、このリンゴの皮の腐ったような女が――夢の国でデートやと!?
夢の国では、クソッタレなことに――彼女と手をつなぐことが法律によって許可されているらしい。
れいなは自分の手を見た。同時に、さゆみの白く細い指を思い出す。
86 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 23:42:43.96 P
あのさゆみちゃんと、手を――。
「れいなは・・・」
れいなが、ゆっくりと口を開く。絵里はその声を黙って聞いている。
「れいなは――お前がさゆみちゃんを守るって言ったときに、もしかしたら共に歩むことも出来ると、そう思っとった。
やけどそれは勘違い。生かしておく理由が消えた」
黙っていた絵里が、今日一番の面白いことを見つけたかのように笑い始めた。
「なるほど、そういうことか。それなら絵里も手加減はもうしないよ。君みたいなガチャ蝿がさゆに近づきたがるのは分かる。
でもそれはさゆにとっては、よくないことだからね」
「お前にとっては、やろ」
「絵里にとっても、だよ。だって絵里とさゆは――付き合ってるんだから」
「・・・クソッタレが!」
れいなが、激しく咆哮する。
それからの二人の喧嘩は、深夜中続いた。
どちらかが死んで棺桶に入れられて、火葬場に運ばれる姿を見届けないことには、互いへの怒りを抑える理由がない。
そういう状況ではあったが、幸いなことに――れいなはまだ、本来の目的を忘れてはいなかった。
深夜の学園に、黒塗りのベンツが何台か、滑り込んでくる。
87 :
名無し募集中。。。:2009/09/03(木) 23:51:52.79 P
「なん?あれ…」
二人はすぐに建物の陰に隠れ、そこから頭の半分だけを覗かせて様子を窺う。
「警察?」れいなが口を開く。
「バカじゃないの。Sクラスの黒塗りベンツといったら…アレだよアレ」
れいなは、絵里の言葉を聞き、もう一度車のほうに目をやった。
確かに車内から降りてくる者たちの人相を見るに、堅気のものではないようであった。
「ここは本当に酷い学校だねぇ。あんなやつらも日常的に出入りしてるの?」
絵里がれいなを見ながら言う。
「れいなに聞くなっちゃ。それより…」
れいなは車を見たままだった。
車から降りた男たちは、周りを気にしながら、車のトランクに手をかけた。
「あいつら…」
そのトランクから引きずり出されるようにして出てきたものは、人間だった。
口と、両の手首や足首を後ろで繋ぐようにしてガムテープが巻かれている。
れいなは、その人を知っていた。
いつもの制服姿とは違い、見慣れない寝間着姿ではあったが、見紛うはずもない。
「まさか、新垣先輩…!?」
88 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 03:32:54.01 O
落ちるぞ危険
89 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 06:47:03.42 P
れいなから報せを受けた高橋は、すぐに家を飛び出した。
高橋は、今日、新垣と別れるまでのことを思い出す。
授業が全て終わったあと、新垣を家まで送り届け、こうして自宅へ戻ってきたのだったが。
――まさか、こんなことまで仕掛けてくるとは。
藤本が策を労せねばならないほどに――高橋を恐れているという新垣の推測は当たっていたのだ。
高橋は、唇をかむようにして、自分の愚かさを悔やんだ。だが、彼女の胸の痛みは、一度ではない。
高橋は常に、新垣を守ってきた。
新垣は幼い頃から、利発で頭の良い子だった。
しかし、その幼い外見とは裏腹に発せられる正論過ぎる正論は、しばしば周囲の人間の反感を買った。
「どうして私が悪者なの?私は正しいことを言っているのに」
幼い頃、高橋は新垣にそう聞かれたことがある。
「里沙ちゃんが悪いわけじゃない。里沙ちゃんは正しすぎるんやよ」
高橋は新垣にそう答えた。新垣はそれでも、腑に落ちないといった表情を浮かべていたのだったが。
90 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 07:51:58.18 P
新垣は――里沙は、自分のように間違えることがない。
高橋にとって、新垣はいつでも正しかった。
自分がしばしば道を踏み外そうとするときには、決まって里沙が正しい方向へ導いてくれた。
新垣が高橋に憧れると言ったのと同じように、高橋はそんな新垣に憧れていた。
だから高橋は新垣を守ることにした。
彼女が正しいことをし続けられるように、
そしてそのために自分の力を使えば、自分も道を誤ることはないのだと。
それから数年が経ち、二人は同じ高校へ進学した。
新垣は腐敗した学園の体制を変えるため、生徒会へ籍を置いた。
高橋は新垣を守るために、その矢面に立つため――生徒会長になることにした。
だが、新垣は自分以外の人を生徒会長に選んだのだった。
もう守られる必要がない。
新垣にそういわれたような気がして、高橋は彼女の元を去ることを選んだ。
そのことが、高橋の胸の痛みだ。
どうして彼女のそばにいてあげなかったのだろう。高橋は未だに思う。
結果、仲間だった当時の生徒会長も、生徒会も、学園も――高橋は、全て失った。
自分以上に学園を愛していた新垣の悲しみは、どれほどだっただろうかと、高橋は思う。
いや、それでもまだ1つは残っている。高橋にとって、最も大切なもの。
今それが失われようとしている。
もう失うわけにはいかない。
高橋は、全力でそれを取り戻すことを自らに誓った。
91 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 08:45:53.34 O
あげで
92 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 12:30:12.15 O
あぶない
93 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 14:25:36.73 O
しかしれいなは創作しやすいキャラだな
94 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 15:32:48.90 O
強いれいな好き
95 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 17:24:40.64 O
あげあげ
96 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 18:58:11.22 O
うえうえ
97 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 19:58:21.32 O
帰宅中
98 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 20:52:09.84 P
男たちは旧校舎の裏を抜け、旧体育館へと、新垣を連れ込んだ。
れいなと絵里は、その様子を後ろから付けていた。
「一体、どうするつもり?」
絵里が小さな声でれいなに向かって言う。
「30分…いや、20分もすれば高橋先輩が来る。れいなたちはそれまでやつらを見張ってなきゃいけん。
それに、いざとなれば…」
「やめときなって。あいつらはただのクズじゃない。クズの中のクズたちだ。
関わったら最後、骨になるまで付きまとわれるよ」
「ふん。怖気づきよったか。さっきまでの威勢はどこいったっちゃね」
「お生憎様、絵里は君ほどイカレてないの。知り合いならともかく、見ず知らずの人を助けるなんてごめんだね」
「新垣先輩はさゆの知り合いやろ。お前がびびってる言い訳にはならん」
それはそうだけど、と絵里が言ったところへ、れいなの携帯電話が振動で着信を知らせた。
「高橋先輩だ」れいなが携帯を開きながら絵里に言う。
「誰だか知らないけど、お早いお着きで。まだ15分しか経ってないよ」
『れいな?里沙はどこに』れいなの携帯の向こうで、すぐに高橋がそう言った。
「旧体育館。先輩はそこに連れてかれ――」
れいながそこまで答えると、ぶつり、と音を立てて通話が途切れた。
99 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 20:55:22.52 P
男たちは新垣の口に巻かれたガムテープだけ剥がすと、その場へ新垣の体を乱暴に投げ捨てた。
新垣は受身を取れずに、床にしたたか体を打ち付ける格好になった。
だが新垣にとって一番の問題はそのことではなかった。
「…私をさらってどうするつもり?あなたたちの望みどおりにはならないわよ」
「お嬢ちゃん、声が震えてるやないか。強がるもんやないで」
一人のやたらとガタイのいい男が、奇妙な関西弁を交えながら言った。
「この学校は本当にいいところやさかい。ええ商いができる。それを邪魔されるとなぁ、ちぃとばかし困るんや」
「!?やはりあなたたちが、覚せい剤を!?」
「お嬢ちゃん、覚せい剤、なんて格好のええもんとちゃう。ウチらはこう見えて清廉潔白で通ってんねん。
ウチが扱ってるのはダイエット食品や。そうやったな、ショウジ」
ショウジと呼ばれた男が手を後ろに組み背筋を伸ばしたまま、ええ、そうですとそれに答えた。
新垣はそんな二人を睨み付けた。
「あなたたちは、本当にクズだわ。いいえ、クズ以下よ。あなたたちのおかげで、この学園が…私たちがどうなったか!!
爬虫類並みの脳みそしかないあなたたちには、到底分からないのでしょうね!!」
「酷いことを言い張りますなぁ、お嬢ちゃん。このご時勢、『リーマン・ショック』言うてな、
100年に一度の不景気やさかい、商いは大事なんや」
「なにが『商い』よ。人の弱みに付け込んで。あなたたちがやってることはただの脅迫と強要じゃない!
今に天罰が下るわ!」
新垣がそこまで言うと、今まで落ち着いていたガタイのいい関西弁男が、突如新垣の首を鷲掴みにした。
100 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 20:57:17.50 0
「ぐっ…」
息が出来ないほど、強い力で締め上げる。
「おうお嬢ちゃん!よく回る口やないか。お嬢ちゃんみたいな子は知らんやろうけどな、
女さらってビデオ回す、そういう『商い』もあるんやで!」
「…兄さん、その辺で」
ショウジと呼ばれていた男の言葉で、関西弁が手を放した。
げほげほ、と新垣が咳き込む。
「…私をさらったところで、何の意味もないわ。そんな些細なことで、愛が負けるはずがないもの」
「なんやて?」
「私をエサに、明日の決闘で愛が負けるよう仕組むつもりだったんでしょう?無駄よ。愛はそんな脅しには屈しない。
そして、愛が私と学園のどちらを選ぶかと言ったら」
新垣は少し考えてから、やはり考える余地はなかったと――少しの悲しみを持って言った。
「それは…火を見るより明らかだわ」
「…もしそうなったら、さっき言ったとおりにするだけや。
お嬢ちゃんみたいなかわいそうな胸の子を高く買い取る変態はたくさんおる。
わしらはそうならんことを祈るだけや、お嬢ちゃんのためにもな。
それからショウジ、その女にもう一度テープ巻いて黙らせとけ」
ショウジは、はいわかりました、とだけ言うと、スーツの上着からガムテープを取り出した。
新垣はその姿を見て、最低ね、とだけ言うと、
ショウジは、ごめん、とだけ言った。
101 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 20:59:20.71 0
そのときだった。
体育館の二階の窓を破って、一台のバイクが放り込まれた。
ガラスの破片を撒き散らしながら、何人かの男たちを下敷きにする。
やがてエンジンが停止し、一転して静寂に包まれる。
「な、なんや!!」
男はバイクを見たが、当然誰も乗っていない。
代わりに、扉を両手でこじ開けるようにして――、一人の女が入ってきた。
里沙は自分の目を疑った。
居るはずのない人が、来るはずのない人が、そこに現れたからだ。
新垣は、愛、と叫ぼうとしたが、口を動かすことが出来ない。
口にテープを巻かれ、両手足も巻かれている状態では、近寄ってその体に抱きつくことも、彼女の胸で泣くことも、今は出来ない。
高橋は新垣の様子を見て取ると、新垣が無事だったことへの少しの安堵と、彼女に手を出した者たちへの怒りを感じた。
「里沙」
高橋は『いつもそうしていた』ことを思い出すようにしながら、「今、助ける」と言った。
そして次の瞬間には、高橋は閃光のようになり、男たちに飛び掛っていた。
102 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 21:06:49.65 0
(クソが…!)
関西弁男は、地べたを這いながら辺りを眺めた。
仲間で無事だったものはもう一人もいない。自分も左腕があらぬほうへ曲がっていた。
何人かの仲間は尻尾巻いて逃げたが、外から聞こえてきた音から考えると、何が起こったのかは知らないが、
逃げおおせた者はいないだろう。ショウジの姿だけは見当たらないが、最早そんなことはどうでもいい。
作戦は失敗だ。この失態が知られたら、自分の組での立場は危うくなるだろう。
だが、と男は考えていた。
まだやることはある。
高橋愛を、明日の決闘の場に立てなくすることだ。
学園の恐怖の象徴である藤本が公衆の場で直接、体制に歯向かうとどうなるか――新垣里沙を人質にすることで、高橋愛を血祭りに上げ、
その場の生徒たちに知らしめるというのが一番効果的だったが、この際仕方がない。
――頭目も目を瞑ってくれるだろう。
幸い、二人はドラマで言うところの感動の1シーンを撮影中で、こちらには気付いていない。
男は懐から、バタフライナイフを取り出した。
103 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 21:24:15.05 0
次の日、12時、モーニング女学園第一体育館。
たくさんのギャラリーが集まる中を掻き分けるようにして、3人はそこに現れた。
「…それじゃ、行ってくるよ」
高橋が、残る2人に言った。
2人は何も答えない。
れいなの何か言いたそうにした様子に気が付いた高橋が声をかける。
「…れいな、君はそこで見ていてくれ」
「…でも、先輩――」
「…れいなには、本当に感謝してる。君を初めて見た日、君はあの藤本に恐れることなく立ち向かった。
この学園にいる者たちには誰も出来なかったことさ。君が勇気をもたらした。私もやっと、覚悟が出来たよ」
「そんな問題じゃない。今の先輩なら、れいなが代わりにあいつと戦ったほうが――」
「…れいな。君は立派に務めを果たした。あとは私がやる。――ちょっと里沙、そんな顔しないでよ」
高橋は新垣を見た。新垣は目を赤く腫らしたままだった。
「ごめんね、愛。いつもあなただけに無理をさせて。あなたを頼ることしか出来なかった、私のせい。
私が、もっとしっかりしていればこんなことにはなってなかった。昨晩の事だってそう――」
「…里沙」
高橋はそう言いながら、新垣の体を抱きしめた。
104 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 21:31:56.39 0
「ちょ、ちょっと、愛――!?」
「…里沙、君が無事でよかった。私はこの決闘の前に――その意味すら失うところだった」
「…ごめんね、愛。たぶん私はここで、あなたを引き止めるべきなのよね。でもそれは、頭ではわかっていても出来ない。
私はあなたに、もう離れていってほしくないから。…あなたがその体で戦うというのなら、私はあなたを信じるわ」
「あーっ!ごほんごほん!2人とも!」れいながわざとらしく咳払いをする。
高橋と新垣が、慌てて離れる。
「まったく、そんなだからあんなチンピラに刺されるとよ」
そういいながられいなが指で示した方向には――藤本がいた。
105 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 21:39:04.33 0
「別れの挨拶は済んだか?」
藤本が高橋を見ながら言う。周囲のざわめくギャラリーの熱気から抜け出して、昨日と同じように2人が対峙する。
「…待たせたね。これ以上は時間が惜しい。さっさと始めよう」
高橋は額の汗を拭いながら、藤本に言った。
「どうやらその様子じゃ、立ってるだけでやっとみたいだな」
藤本はそこまで言うと、にやりと笑った。
やっぱり、お前の差し金か――高橋はそう言おうとしたが、うまく言葉にはならなかった。
里沙やれいなには気付かれぬよう虚勢を張ってはいたが、藤本の言うとおり、それも最早限界であるようだった。
耐え難い寒気とかすかな眠気が、高橋の思考を奪い取ろうとする。
106 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 21:46:10.45 P
――まったく、そんなだからあんなチンピラに刺されるとよ。
確かに、れいなの言うとおりだ、と高橋は思った。
昨晩――新垣の無事を確認して、気が緩んだのかもしれない。
気が付いたときには、わき腹にナイフが刺さっていた。
それでも病院には行かず、新垣やれいなの制止にも耳を貸さず、点滴もなしに止血だけでここへ来たのは――
全て高橋の強い意志があるからだった。
――自分が生徒会から抜け出さなければ、学園がここまで堕ちることはなかった。
そう考えている高橋にとって――これは自身の贖罪でもあり、けじめでもあるのだ。
この戦いに、全てがかかっている。
朦朧とする意識の中でそう自分に言い聞かせると、高橋は大きく息を吐いた。
その様子を見て、藤本が再び高橋に何か言ったが、高橋の耳にはもう届いていなかった。
107 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 21:57:42.70 0
高橋は、つま先を真横に広げ、それを交差させながら立つ。
ゆっくりとかがみながら、その足を広げては左足と右足を交互に入れ替えるようにしてその場で2、3度跳ねる。
右手で体全体を引き上げるようにして両のつま先で立ち、その足を軸にして回転する。
両手を広げながら片方の足を持ち上げると、それはまるで一輪の花のようにも見えた。
その動きだけで、ざわついていた観客たちが、一転して静まり返る。
『白鳥の湖』だか『くるみ割り人形』だか、そんなこのはその場にいる者たちには分からなかったが――
そのエレガントな姿には、確かに見覚えがあった。
桜。
この学園の生徒たちにとって絶対不可侵の存在である、大きな桜。
まるでそれを見ているようだと、その場にいるものたちは思ったに違いない。
誰も高橋の舞いを邪魔しようというものは現れなかった。
血を求めてその場に集まった全員が、皆、食い入るようにその動きに見惚れている。
新垣も、れいなも――決闘の相手であるはずの藤本ですら、それは同じだった。
だが、相手が藤本でなければ、それだけでこの戦いは終わっていたかもしれない。
ここはウィーン国立劇場でもなければ、ベルリン国立劇場でもない。
そのことに藤本が気が付き、偽りのプリマを壇上から引き降ろそうと考えたのと――
その顔めがけて蹴りが飛んできたのは同時だった。
藤本の目の下を、高橋のつま先が掠める。
反応がもう少し遅ければ、藤本の頭は首ごと刈り取られていたことだろう。
「ふざけやがって…」
藤本は手で血を拭い、それを舌で舐めとると、目が赤く染まっていった。
そして次の瞬間には、跳ねるように高橋に向かっていった。
108 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 22:06:22.80 0
「新垣先輩。あの動きは…?」
れいなが、驚きを隠さず言った。
「あれが、愛の戦い方なの。愛は加減が出来ない子でね。私を助けようとして、危うく人を殺しかけたこともあったわ。
そのときは、私が泣きながら止めたんだけれど…」
新垣が続ける。
「それから愛は、幼い頃からやっていた『バレエ』の動きを取り入れるようになったの。力の勝手が分かるバレエなら、
人を殴るときにも加減も出来るって。そう言っていたわ」
「あれで、加減…?」
れいなは高橋をもう一度見る。藤本の攻撃を捌きながら、的確に攻撃を叩き込んでいる。
その素早い動きからは、とても怪我をしているようには思えなかった。
思えなかったが――。
「…おそらく、愛には――あまり時間がないのよ」
新垣はそう言いながら、自分の腕を強く握り締めた。彼女も、何かの痛みに耐えているようだった。
『タイマン』である以上、最早二人を止める術はない。
れいなは――殴ってでも高橋を止めるべきだったかと、そう思った。
109 :
名無し募集中。。。:2009/09/04(金) 23:18:46.83 O
続きわくわく
110 :
名無し募集中。。。:2009/09/05(土) 00:22:16.02 O
続き楽しみ
111 :
名無し募集中。。。:2009/09/05(土) 02:35:11.38 O
うむ
112 :
名無し募集中。。。:
こはよう