もしも隣の席が徳永千奈美だったらreturns

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209 ◆sjehs7tfE6
今日は2学期の始業式だ。眠い目を擦りながら教室に入ると、後ろから
誰かに肩を叩かれた。振り返ると頬に指が当たって、首が曲がらない。
「やーい、ひっかかったー!」
「…何だ、徳永かよ」
隣の席の徳永がちょっかい出してくるのは、いつものことだった。
「何だ、じゃないよ。いつもお茶目な千奈美ちゃんでしょー」
「…お前、また黒くなったんじゃねぇ?」
「あーっ、レディにそんなこと言ったらいけないんだもんにー!」
「レディだぁ!? 今俺の視界の中にはレディと呼べる女は見当たらんがなぁ」
「もう、バーカ!」 徳永はおもいっきりあっかんべぇをしていってしまった。
徳永との会話はいつも漫才みたいで、3年で同じクラスになってからのちょっとした楽しみだった。

「よーし、今日は新しい学級委員を決めるぞ。学級委員、あとよろしくな」
1学期の学級委員が出てきて、お決まりの文句を言い始めた。
「では、学級委員に立候補したい人は挙手して下さい」
受験を控えた大事な時期だ。案の定誰も立候補なんてしない。
学級委員をやりたいなんて、よっぽどの物好きか切羽詰まって内申を上げたい奴
だけだろうと俺は思ってた。ほっとけば誰かが手を挙げるさ。
隣の徳永は、早速爆睡モードに突入している。相変わらず気楽なもんだ。
しかし、いつまでたっても立候補者は現れない。業を煮やした先生は、よりによって
俺を指差した。
「おい、田中。お前やってみないか?」
マジかよ!?と思っていると、このままではまた学級委員をやらされる羽目に
陥りそうだった1学期の学級委員が、早速「田中」と黒板に書いた。余計なことを…
すると、1人の女子が目を輝かせて手を挙げた。
「はいっ!あたし、徳永さんがいいと思います」
「徳永」という単語を耳にして、寝ぼけまなこの徳永が黒板を目にすると、
そこには自分の名前が
「えぇー!無理無理、あたし学級委員なんてできないよぉー!!」
いきなり立ち上がって大声で叫ぶ徳永に、教室中が大爆笑。
まったく、よだれくらい拭けよ…
210 ◆sjehs7tfE6 :2008/01/31(木) 22:02:31.86 O
その後、男女とも2〜3人の候補者が挙がり、投票で決めることになった。
配られた紙を前にして考えていると、ふと徳永の姿が目に入った。
いつになく真剣な顔で名前を書いている徳永。
と、視線を感じたのか、こっちを振り返って素早く紙を隠した。
「もぉーっ、見ないでよ!すけべ!!」
「お前のなんて見るか、ばーか」
俺はいいことを思いついた。女子の欄に「徳永」と書く。男子は当然俺以外の
奴の名前だ。あいつが学級委員に選ばれて慌てふためく様を想像すると、思わず
にやついてしまった。

投票結果は接戦だった。俺ともう1人の男子、徳永ともう1人の女子が同点で並んで、
最後の1票を残すのみとなった。
(頼む、他の奴の名前であってくれ!女子は徳永でいいから…)俺は神様に祈った。
隣に目をやると、徳永も真剣な眼差しで黒板を見つめている。多分こいつも俺と
同じことを考えているのだろう。
緊迫した空気の中、最後の1票を開いた女子の学級委員は、何故かクスッと笑った後
高らかに発表した。
「男子、田中君! 女子、徳永さん!」
俺は椅子に崩れ落ちた。これから冬休みまでずっと雑用の毎日かよ…
隣を見ると、徳永は実にあっけらかんとしていた。大声で騒ぎ立てると思ってたのに、
なんか調子狂うなぁ…
211 ◆sjehs7tfE6 :2008/01/31(木) 22:05:57.08 O
ホームルームが終わると、早速徳永が話しかけてきた。
「なんかめんどくさいことになったね。でも、いちおうよろしくね」
「ああ、やっと席替えでお前の隣りから解放されたと思ってたのにな」
「またまたぁ、ホントは嬉しいくせにー」
徳永はいつもの笑顔で俺の肘をつついてくる。俺がこんなに落ち込んでるっていうのに…
そこへ、さっきの女子の学級委員と徳永を推薦した子がぱたぱたと走ってきた。
「千奈美ぃ!これ、あんたが書いたんでしょ!?あんた字汚いからすぐ分かっちゃった」
そう言って、徳永の目の前に1枚の紙切れを差し出す。
「あっ、ちょっと、ねぇ返して!」
いきなり動揺した様子の徳永とその女子が揉み合っていると、俺の足元に紙切れが
ひらひらと落ちてきた。
「おい、これ落ちた…」
「駄目っ!!」
徳永が慌てて紙切れを奪い返す。よく見ると顔が真っ赤だ。
「…見た?」
徳永は瞳をうるませて俺のことを睨みつけた。初めて見る切ない表情に俺は圧倒されて
気がつくと首を横に振っていた。
「そう…」
徳永はそれ以上何も言わずに、紙をくしゃっと丸めると、そのまま教室から出ていってしまった。
「あっ、千奈美ちょっと待って!」
女子達は俺の方をちらちら見ながら徳永の後を追いかけて走っていった。
(なんなんだ、いったい…)
俺は何が起こったのか訳が分からずに、その様子をただ呆然と眺めていた。
ちらっとしか見えなかったけど、その紙には汚い字で確かにこう書かれていたんだ。

男子 田中
女子 徳永



勢いで書いてしまってあまり出来は良くないですけど…
次書く時はもちっといい作品にしますので