美貴の卒業がメンバーに伝えられたのは,コンサートの昼の回が終わった後だった。
みんな様々な表情で,いろんなな言葉をかけてくれた。
だけど一番知りたかった君の表情と言葉だけが見えないまま,分からないまま,
夜の部が始まる30分前に―――――
どうしても気になって探していると,誰もいないはずの部屋から声が聞こえた
そっと覗くと,そこには鳴咽をあげるように泣いている君の姿が
「し〜げさん」
ビクッと反応した君は,美貴を確認すると慌てるように涙を拭い背を向けた
「泣かないで」
「泣いて・・・ないです」
強がる君の後ろ姿が小刻みに震え,寂しいよと伝えてくる
後ろからそっと抱きしめると,泣きながら言葉をくれた
「卒業・・・おめでとうございます」
「ありがと」
美貴がここまでこれたのはきっと君のおかげだから
加入当初はこんな性格だから,いつもみんなと対立したり孤立してた。
そんな美貴に無邪気な笑顔で手を差し延べてくれてたね
怖くなかった?傷つけたりしなかった?
だけどその差し延べられた手に,これでもかってくらい救われたんだよ
くるっと振り返り,見つめる瞳は涙で濡れていて
まだ子供のようなあどけない瞳のままで
「また泣かしちゃったね」
「藤本さんはさゆみを泣かせっぱなしです」
「それは手厳しい」
『最近覚えたんですよ』嬉しそうに教えてくれた君の言葉でちょっとおどけてみるも
また俯いてしまった彼女
その顔を下から覗き込んで,優しく唇を重ねた
少し驚いた彼女をしっかり抱きしめる
「美貴はさ,1000回泣かせちゃうかもしれないけど,1001回笑顔にしてあげるから」
「・・・うん」
「ちょっと一緒にいる時間が短くなるけど,寂しくなったら呼んで?すっ飛んでくるからさ」
「はい」
泣きながら笑ってくれた
君の涙は守るんだと美貴を強くさせ
君の笑顔は優しく美貴を包み込み,明日への勇気を与えてくれる
その後の彼女のステージでのパフォーマンスはいつも以上に一生懸命だった
その姿から安心して卒業して下さいというメッセージが感じられる
アリーナのステージ上で君と手を繋ぎ歩く
二人の間に言葉はいらない
ただ君が微笑むから決めたんだ
この手はきっと離さない