吉澤ひとみ著「私が抱いた女」

このエントリーをはてなブックマークに追加
107名無し募集中。。。
>>89から

軽く触れるだけのキス。小さな子供がするような。
何にも言わずにそんなキスし続けながら美貴の部屋に入って、ようやく舌を入れる事が出来た。
場所はどこでも良かったんだよ。私の部屋でも、汚い物置部屋でも。
ただ誰にも見られず安心して抱き合えるとこなら。一番近いのが彼女の部屋だった、それだけ。
抱き合ってキスしてても足りない、もっと体全部で触れたい。そう思ったら自然と服を脱いでた。
こういう場合は相手の服を脱がせていくのが常なんだけど、この時だけは違ってさ。
美貴も理解したのか自分で脱いでくれて嬉しかったな、同じように感じてくれたんだなって。
お互いに最後まで脱ぎ終わると突然彼女が飛びついてきた。飛び乗ったの方が正しいかな?
まるでコアラみたいに抱きついて来たんだ。一瞬驚いたけど、それもすぐ喜びに変わったよ。
だって彼女の全てに触れていられたんだから。

そのままベッドに行って、朝まで眠らずに美貴を抱いていた。
してる間も言葉らしい言葉は何も話さなかった思う。
時々美貴の声が漏れていたし、私の荒くなった呼吸もやけに大きく聞こえてたはず。
なによりも美貴の体と私の体が溶け合う音が響いてて。
あの時の私たちには言葉は要らなかったんだよ、体だけが必要でさ。
それからも何度か抱いた、いや違うかも。
私は美貴を抱きしめたかったんだ。

当時彼女に何があったのか何を考えていたのか、未だにそれは分からない。
これを読んでくれてる人たちは余計に分からないかもしれない。
ただあの瞬間、目が合った瞬間。美貴は私を求めてくれた、私も美貴を求めた。
これだけは確かだと言い切れる。

私は「藤本美貴」であろうとする彼女の強くて儚い瞬間を決して忘れない。
求められるなら喜んで杖になる。全力で支えるよ。
両手を広げて待ってる、貴女が望む限りいつまでも。
だからいつの日か言葉にして欲しい。

『そっと口づけて ギュッと抱きしめて』