1 :
名無し募集中。。。:
以下前スレの転載
「絵里、絵里」
石川梨華が絵里を呼んだ。夜の散歩から帰ってきたばかりの絵里は不機嫌極まりない。明日は大切な日だ。
石川梨華もえらく不機嫌そうにタバコをふかしていた。
「明日は王女の誕生日パーティー」
「…」
「そこで裏切り者を始末しなさい」
石川梨華は徐に絵里の鼻先に紙面を突き出した。
「27人。パーティーが終わってから一晩で27人」
「…」
「いけるわね?」
絵里は無言でリストを受け取った。
「本当に、馬鹿ばっかり。27人もよ?これも全部、あの王女のせい。見せ掛けばっかり華やかで、中には狡猾な毒蛇を飼ってる」
梨華は、誰に聞かせるともなく、吐き捨てるように言った。
「裏切り者はパーティーの次の日、王室の庇護の下に船に乗って海に逃げる。 27人全員。だから明日じゅうに、全部始末しないといけない」
ぐしぐしと、乱暴にたばこに火を揉み消すと、新たにまた火を点ける。憎しみが燃える。
絵里はつぃと唇を突き出し、もうよそ事を考えていた。
「この仕事をあなた一人に任せるのは、何もあなたを信用しているからじゃないのよ」
イヌに餌をあげただろうか。
「アナタが一番ましっていうだけ。他が本当に無能だから」
今日は月が青かったっけ。
「腕なら間違いなくあんたが一番なんだし。でもあんただって」
はやく明日にならないかなぁ―――
梨華はまだ一人でぶつぶつと言っていたが絵里はもう飽き飽きして、眠りについた。明日はめでたい日だ。王女様が生まれて、16年目の日。闇の中の小さな、反政府組織の隠れ家の一つにも、その日を待ち望んでいた人がいるのだ。
誕生パーティー。
それは華やかなものだった。巨大な空間。厳ついシャンデリアが何百と吊り下がったホールに、一人じゃあ1年かかったって食べきれないご馳走が並んでいる。
物凄い人、人、人。各界の著名人なんかが軒並み出席している。この中の何人が、この日を、この見栄えに劣らないほど望んでいただろうか。
ただの日が、ただの人がたまたま生まれたという意味を無理やり与えられて、そして国中がお祭り騒ぎを始める。なんて奇妙なことだろう。
誕生パーティー。
それでもだ。王女の誕生を、心から喜び生きがいにしている者が信じられないくらい、多くいるのだ。
王女がこれほどまでに美しくなければ、少しは変わったかもしれない。もっと形式ばって、粛々として理性的な誕生日パーティーになったかもしれない。
これほど人々の狂気を煽ることも、憎しみや殺意や血を降らしめることもなかったかもしれない。
表向き、財界の名士である梨華も、このパーティーに当然のように参列する。ただ彼女は、この会場に少なからず渦巻いている憎悪を、最も多く吐き出している一人だ。
梨華の付き人という名目で来た絵里に、今日ターゲットになる人物を一人一人確認させる。絵里は興味なさげに、辺りを見ているだけ。
やがて司会者の挨拶が入り、王女が登場した。会場が暗くなり、王女にスポットライトが浴びせられる。会場にいた何千もの人が溜息を漏らす。その美しさに。
このパーティーのもようは全国にテレビ中継されているとか。いったい全国でどれだけの人が息を飲んだろう。
王女の煌びやかな、桜色のドレスには、何百ものダイヤが鏤められている。胸には燃えるようなルビーのブローチ。
しかしそんな衣装も、王女の美しさを引き立てる道具でしかない。何にも増して美しいのはその人だと、この瞬間に立ち会った殆どの人が思ったろう。
その漆黒の瞳。透き通るような白い肌と滑らかなライン。少し上気した頬の間に、秀でた鼻梁。艶やかな黒髪。
王女が登場してから会場の雰囲気は変わった。しかし梨華と絵里は相変わらずだった。梨華は王女の姿なんて見るのも嫌だという風だし、絵里も興味なさそうにしている。いくつかのセレモニーの間も二人はずっとそうして時を費やした。
セレモニーの終了後、歓談の時間が設けられる。しかし王女と口をきけるのは、大量の出席者の中でも本当にごく一部だ。梨華は迷わず王女の前へ歩み出た。
「おめでとうございます。王女様」
梨華が満面の笑顔で言う。不器用な人だなぁ、と絵里は思った。梨華の、わざとらしいまでの笑顔の中には剥き出しの敵意が浮かんでいた。ありありと憎悪の念が見てとれて、本来美しいはずの梨華の笑顔が醜かった。
「ありがとう。石川さん。また、お世話になるわ。宜しくね」
王女が梨華に返す。梨華の敵意を読み取っていた彼女の返事は、しかし穏やかなものだ。その表情も、他と相対するときとなんら変わらない、美しい肌理の細かい笑顔。
「王女様に更なる幸のあらんことを」
梨華が呪詛のように呟く。王女はまたニコリと笑って頷いた。
6 :
名無し募集中。。。:2005/07/29(金) 00:38:30 0
さゆ愛してるよ
それから王女の視線が絵里を捕らえる。彼女の表情が一瞬、すべての格式を取り払ったかのように無邪気に華やいだ。ほんの一瞬のことで、誰も見ていなかったが。絵里だけはその表情を見逃していない。それで充分だった。
絵里は少しだけすまなそうな顔をした。
(ごめん、さゆ。今晩、ちょっと遅れるかもしれない)
王女はそれを読み取る。残念そうな、不安そうな顔を覗かせた。それもほんの一瞬。それきり、梨華と絵里と王女さゆみの間にやり取りがなされることはなかった。
パーティーがそろそろお開きになろうかという時には王女はもう奥に下がっていた。出席者たちは陽気に喋り続ける。梨華は、この数時間後には絵里に殺されるであろう、元仲間の一人と談笑していた。絵里は綺麗な会場の中で一箇所だけについた壁の染みが気になっていた。
パーティーが終わった。
「いきなさい」
梨華が絵里の肩を押した。言われなくても、いきます。絵里は目だけで梨華に抗議した。
お祭り騒ぎの後には何かしら、浮ついた気分が残る。男は明日の出奔にも一廉の希望を抱いていた。連合組織への裏切りがばれているとは、露ほども思っていなかった。夜の道を、男を乗せた車はひた走る。
「やはり、王女さまはお美しいなぁ」
陽気に運転手に話しかける。運転手も息をまいて同意する。そんな風にして、たわいもなく、すべてが上手くいく。そんな予感がしていた矢先だった。
車が急停車し、男は前につんのめった。
「何してるんだ!!」
運転手に怒鳴りつける。
「人が…」
運転手がフロントガラスの前を指して恐る恐る言う。
男がそれに従って前を見た、その瞬間、その顔は凍りついた。走行中だった自動車の前にどうどうと立つ、その小柄な、少女の顔を男は幽かに見知っていた。
連合組織の中でも最強と謳われた暗殺者。亀井絵里。
彼女が今、自分の前に立っているということはつまり組織に自分の裏切りが既にばれているということ。そして、自分の命が、もう無いということだ。
絵里は無表情で車に近づいた。
「轢け」
男が運転手に言う。
運転手は驚いたが、只ならない雰囲気に動?しアクセルに力を込めた。その瞬間、既に少女の姿は視界には無かった。
運転手が狐につままれたように、車を発進させる。バックミラー越しに主人を見て、運転手の顔は固まった。
車の屋根から真っ直ぐ、刀が突き出している。それが、主人の頭頂から垂直に突き刺さり、男は既に事切れていた。
その刃が抜かれ、男の身体が前倒しになる姿をバックミラー越しに見た運転手は、訳もわからない悲鳴を上げ車を走らせた。
既に絵里はいなかった。
絵里は次々と仕事をこなしていった。
夜の闇に紛れて。しくじったことなど、一度も無かった。
それは、絵里がこうして生きていることが証明している。
21人目のターゲット。
その前に、絵里は対峙していた。
「絵里」
「れいな…」
ターゲットは、まだ年端もいかない、調度絵里と同じくらいの少女だった。
れいなと呼ばれた彼女は、絵里と同じ密偵であり、かつて絵里のパートナーとして
数々の仕事を共に成功させた。
「なんとなく、絵里がくるんじゃないかって、おもっとったよ。
パーティー会場で絵里を見たとき、なんとなく」
「…」
「派手にやってきたみたいやね。血の匂いがプンプンする」
絵里は変わらず口元に微笑を湛えて、れいなの顔を見ていた。
れいなの顔は、どこかしら清々しくもある。
「れいな、ごめんね。あんまり話してる時間はないの」
「昔はとろい絵里のせいでいろいろと大変だったけど、成長したね」
「…」
「今じゃ、最強のアサシン、か」
「…」
「ねぇ、絵里。石川さんは私たちを『裏切り者』って呼んだ?でもね。殆どの組織が、もう石川さんを見限ってるよ。王女の手が廻ってね。 ただ、アンタが怖くて誰も表立って行動はできないだけ。絵里、石川さんについてたって、得なんて無いよ。あの人には才能がない。
その点で、王女の方が遥かに賢い。私たちと一緒に来ない?絵里が来れば、みんな歓迎する…」
「れいな。時間が無いの。早く剣をとって」
れいなは大きく溜息を吐いた。
「絵里って昔からそうっちゃ…。何考えてるのかわからん…」
絵里が血塗られた刀を翳す。
今日だけで20人の血を吸った刀。絵里の人生をそのまま表したような、血みどろの刀。
れいなも刀を構える。彼女は絵里の先輩格で、謂わば先生に当たる。そして、もっとも良き友でもあった。
れいなは友達だった―――
絵里は、動かなくなったれいなを見ながら呟いた。
友達だった。ただ、絵里には「友達」がいったいなんなのか、よくわからなかった。
れいなの胸からまだ温かい血がどくどくと流れている。頼りなく、夜の街の路地裏に、黒い血は染み入っていった。絵里は、れいなの胸に口をつけ、彼女の血を啜った。締め付けられるような気がした。それが友達ということなのだ。
あと6人。
絵里は再び、夜の闇の中に消えた。
さゆみはホテルの一室でじっと待っていた。
ベッドに腰掛けて、何をするわけでもなく、じっと待っていた。彼女の誕生日は十二時の鐘と共に終わった。それでも彼女は待っていた。1時、2時、3時。時間はのんびりと、確実に経っていく。
一日の疲れを早く癒さなければならない。なのに彼女は、寝ようとしなかった。昨日は誕生日だったけれど、今日はそれよりも大切な日だ。それは、彼女の仕事の面で。だから少しでも休まなければならないのに。
3時の合図から、1200以上の秒針の音を聞いたとき、静かにさゆみの部屋の戸がノックされた。ほんのわずかな音。しかし神経を研ぎ澄ましていたさゆみは直ぐに聞き取った。
「絵里?」
部屋の奥のベッドの上から呟かれたさゆみの声は、普通ならドアの向こうまで聴こえるはずがない。しかし、返事があった。
「うん…」
くぐもった、押し殺した声。
さゆみは、やっとでその声を聞き取ると、嬉しさにニヤけそうになるのを必死で抑えながら、冷厳な調子で言った。
「待って、今開けるわ」
それから、枕元にあったリモコン式の鍵で、ドアを開けた。
恐る恐る、絵里が扉を開けて入ってきた。
「遅い」
絵里は、バツが悪そうに頭を垂れている。
「ごめん…」
さゆみは尚もベッドの上から見下ろすように絵里を見ている。
「もう眠いの」
「ごめん…」
「明日も早いの」
「ごめんね?さゆ」
絵里が頭をあげてさゆみを見た。おねだりでもするみたいに、小首を傾げてみせる。その姿を見て、さゆみもつと黙ってしまった。
絵里には今日も仕事があった。それは彼女が部屋に入ってきたときに鼻を突いた血のにおいで、充分わかっていた。そして、その仕事の中身も、さゆみには大方の予想がついていた。
それでも絵里が来てくれたことが、さゆみには堪らなく嬉しいのだから。
怒ったふりをしている自分が、随分子供っぽく思える。もう殆ど、さゆみの目は笑っているのだ。
暫くお互いに黙っていると、どちらからともなく、表情が崩れてきた。
飯事はお終い。時間がないのだから。さゆみが、優しい調子で手招きする。絵里はひょこひょこと従って、さゆみの脇まできた。
「絵里…血がいっぱいついてる」
「あ、うん」
「シャワーくらい浴びてくればよかったの」
「でも、それだともっと遅くなっちゃったよ?」
そうね、と呟いてさゆみが笑う。
それから絵里の手を引いて、ベッドの上にあげた。自然絵里の身体が引き寄せられて、抱き合うような格好になる。それがどうにも照れくさくて、絵里は下のほうばかり見ている。
「絵里―、プレゼントは?」
さゆみが絵里の耳元に口を寄せて言う。また絵里がバツの悪そうな表情で俯いた。
「その、急に仕事はいっちゃって…それで」
それを聞いたさゆみが頬を膨らます。
「なんだぁ、楽しみにしてたのに」
「ごめんね…」
「うそうそ。始めっから期待なんかしてないよ」
さゆみがクスクス笑いながら言うのに、今度は絵里が旋毛を曲げる。しかしすぐに
「絵里が今日来てくれただけで嬉しいの。それだけで、最高のプレゼント」
と切り替えされては照れ臭いやら何やらで、やっぱり顔があげられない。
「あと何時間一緒にいられる?」
絵里が尋ねる。
「そうね、六時半には起こしにくるから…2時間かな」
「そっか」
ベッドの背にもたせかかったさゆみの胸に顔を埋める絵里。秒針の打つのが随分早く思えてしまう。さゆみにしても同じで、だから絵里の背中に回した手には自然、力が入る。
「どんな仕事してきたの?」
「……」
「誰を殺したの?」
絵里がより強くさゆみの胸に顔を押し付けた。いつになく、甘えただなとさゆみはぼんやりと考える。暫くして絵里がぽつりと呟いた。
「友達」
さゆみの目がほんの一瞬だけ見開かれる。しかし二人しかいないこの部屋で、その表情を見た人はいなかった。穏やかな調子を崩さないように、さゆみが言う。
「そっか…友達…。それって、れいな?」
「うん」
胸に顔を埋めたまま、くぐもった声で言う。
さゆみの歯がこすれる。ギリリと、ほんの微かな音が静かな部屋に響く。耳のいい絵里にはその音がはっきり聴こえたけれど、聴こえないふりをした。
さゆみは今のやりとりだけで、ほとんどの事情がわかった。自分が手を引いて石川梨華を裏切るように仕向けた、明日船に乗って逃げる予定だった27人の組織幹部達。そのすべてが、今日死体となって見つかるだろう。自分の苦労は全て水の泡になったのだ。
しかもその中には絵里の只一人の「友達」でありさゆみの友達でもあったれいなも含まれているのだ。
「今日、意外と暇になったかも。いや、逆に忙しいかな」
船はもう出せないだろう。
れいなが、船出を楽しみにしていたのを思い出す。海を超えて知らない世界を見てみたいと無邪気にはしゃいでいた。
海外だってどこも似たようなものなの、そう言ったさゆみにれいなは憤ってみせた。彼女の言った「知らない世界」は、今思えば「人殺しの自分のことを誰も知る人がいない世界」だったような気がする。
「27人、全員?」
なおも尋ねるさゆみに、絵里は不機嫌な声を出す。
「もう、そんな話やめようよ」
「そうだね、ごめん」
このことはさゆみの中である程度まで予想できたことだった。謂わば一つの賭けだったのだ。
さゆみの国。さゆみの専制に対する反政府組織との地下闘争は、王女である彼女の優位の裡に進んでいた。活動家の多くは戦意を失っていた。
巨大な組織は今や形骸化し、連合同士の繋がりも随分薄くなった。石川梨華を筆頭とする強硬派グループを除いて。
そこも撲滅までにはそれほどの時間は掛からないはずだったが、絵里の存在が、彼らの一つの生命線となって今に繋がっていた。
その人間離れした能力と冷徹さと。狙われたものは最早命は無いと思って間違いはない。組織の人間は誰も表立って梨華に歯向かえない。梨華の傍らに常に絵里がいるからだ。
それでも、さゆみは試してみたのだ。絵里の唯一の「友達」れいなを利用して。
或いは彼女が、絵里と石川梨華を切り離してくれるかもしれない。そうすればあとは簡単に運ぶ。絵里のいない石川梨華なんて虫けらのようなものなのだ。
しかし結果絵里はあっさりとれいなを殺した。さゆみには解らなかった。絵里にどうしてそこまで石川梨華に義理立てする理由があるのか。
27人の死はまた裏切りへの抑止効果となるだろう。戦局は、大幅に引き戻されたといわなければならない。
さゆみはそっと手を伸ばし、ベッドの脇にある鏡台の引き出しを開けた。絵里は相変わらずさゆみの胸の中でじっとしている。
今、ここで終止符を打てば全ては終わるだろうか。亀井絵里の死が地下に報じられればものの一月で、組織を一掃できるのではないか。他にてこずる要素がなくは無いが、絵里の存在は大きすぎる。
さゆみは鏡台の引き出しからナイフを取り出し、そっと絵里の背中に宛がった。
絵里の背中が静かに上下している。微動だにしない。
さゆみは同じ体勢でじっとしていた。おかしい。絵里が自分の殺気に気付かないわけはないのだ。ましてや首筋の直ぐ後ろにナイフ。最強といわれた彼女は敵に後ろを取られたことなど一度もない。
「…絵里、寝たの?」
さゆみが尋ねる。自分の心臓が早鐘のように打っているのがわかる。それだけで、絵里に猜疑心を起こさせるのには充分なはずだ。
「いいや」
絵里は相変わらず、くぐもった声で答えた。
さゆみの鼓動が、尚も早まる。
今は刀を持っていないとはいえ、彼女がその気になれば、ナイフを落とし、逆に自分を殺すくらいのことは造作ないはずだった。
「さゆ」
絵里がすっと頭をあげた。鼻の先数センチに突然絵里の顔が現れ、ドキリと心臓が踊る。
「私、さゆにだったらいいよ?」
「え?」
「さゆにだったら殺されてもいい」
「……」
さゆみは静かに腕を下ろし、ナイフを鏡台の上に投げ出した。
どこまでも、絵里の考えていることがわからなかった。ただ、間近にある彼女の姿が、たまらなく愛おしくなるばかり。さゆみは再び自由になった両手で、もう一度絵里を強く抱きすくめた。
「絵里…どうして石川梨華のところにいるの…?」
さゆみの目は深い。たいていの人ならば一目で、その人の感情や性質を見抜いてしまう。何者も見透かしてしまう漆黒のレンズ。それでも絵里だけはわからない。
絵里の両目はさゆみのそれも軽く飲み込んでしまうほどの、底知れない闇を孕んでいるのだ。
絵里は応えない。ただじっとさゆみの目を見返している。
「ね、もし石川梨華が、私を殺せっていったら私も殺すの?」
一つ一つ言葉を確かめるようにしてさゆみが言った。
「それはないよ」
絵里がすぐに返す。
「絶対にさゆは殺さない」
「どうして…?」
困惑した表情を浮かべるさゆみに対して、絵里の表情はごく穏やかだった。
絵里がもぞもぞと這い上がってきて、逆にさゆみを抱きすくめると、そのままベッドのシーツの中にさゆみを押さえ込んだ。それから内緒話でもするみたいにさゆみの耳に口を当てて囁く。
「さゆが一番大切だから。一緒にいたいから」
さゆみは耳に感じたその響きの心地よさに、半ば身体の自由を奪われて、憑かれたように強く絵里の身体を抱きしめた。
すべてにおいて不可思議だった。自分にとって大きな障害である絵里。政治家として、一国の主として、取るに足らない存在であるべき一人の少女。華やかな自分とは似ても似つかない、血塗られた少女に今抱きすくめられている。
この腕を放したくないと強く思う。何を考えているのかわからない、自分にとって最も危険な存在かもしれない絵里の腕の中にいることに多大な安心感と安らぎを感じる。
いっそ、このまま全てのしがらみを捨てて、永遠に二人だけの世界に住んでいたい―――
「外が明るくなってきちゃったね」
絵里がいうのを聞いて、やっとさゆみもそれに気付いた。
時間は確実に経っていた。もう随分と明るい。日が出始める頃までには絵里は既にこの場所を出ている必要があった。
「絵里…」
「んー?」
「私もね…私も絵里と一緒に居たいの」
絵里の表情が嬉しそうに緩む。
「うん」
それから二人は暫くの時間を、何をするでもなく抱き合って過ごした。それは二人にとって何にも替えがたい、幸せの時間。
「あ、もういかなきゃ」
「絵里…」
「ね、さゆ。次いつ会えるかな?」
「…わかんない。絵里のせいで、予定が随分狂うだろうから」
さゆみが冗談めかして言うと、絵里がぽてっと頬を膨らませた。それも直ぐに笑顔に戻る。
その表情はどこか名残惜しんでいるのだけれど。
それから起き上がって、ベッドを降りる。外は明るく、空は晴れていて清清しい朝の様相をしている。
「長居しちゃったみたい」
絵里が笑う。もう臣下やホテルの従業員は起き出して忙しなく働いている時分だろう。
ここから見つからずに抜け出すことは、絵里にしか出来ない芸当だ。いくらさゆみが事前に人払いをしていたとはいえ。
「見つからないでね」
さゆみが言う。絵里が頷く。
本当はもっと永くいたい。ずっと居たいのだけれど。
「あ、絵里ちょっと」
そういってさゆみが絵里を手招きする。何かと絵里がさゆみに近寄る。側まで来ると、もっと近づくようにと手真似で指示した。絵里がさゆみに顔を寄せる。
その絵里の唇に、さゆみがさっと自分の唇を被せた。
ほんの一瞬。触れ合った感触は柔らかく、甘く。
一瞬わけがわからない顔をする絵里。その後に、耳まで、真っ赤になってしまう。そんな絵里を見てさゆみはクスクスと笑うと
「またね」
と告げた。
絵里は真っ赤な顔のままコクリと頷くと、いそいそと部屋を出て行った。
絵里の居なくなった扉を暫く眺めていたさゆみの額には幸せの余韻が広がっている。しかしそれも数分、そうしていると薄れだし、そして消えた。
少女としてのさゆみが、王女としての彼女に変わる。
さゆみは静かに考えた。
今回の27人の死は、抵抗組織とのことにも影響があるが、それ以上に政治上での問題が大きい。死んだメンバーの中には財界の大物も含まれていたのだ。経済や国際関係の上でも予期せぬ波及が現れかねない。
自分が仕向けたこととはいえ、拙いことになった。人選の誤りがあったことも否めないが、それ以上に、石川梨華、そして絵里のことを甘く見ていたきらいがある。
どちらにせよ、絵里は自分にとって最も危険な存在――
やがて臣下の一人が慌てた様子でさゆみを起こしにきた。
さゆみは落ち着いている。彼が慌てている理由を知っているからだ。
諜報部には既に入っている情報だが、まだ新聞には載っていない。世の中の人は、何が起こったのかも知らず、王女の誕生日パーティーの余韻に浸っているのだ。
船を出す予定を全て取り消したさゆみは、公式なルートでその情報が入るまでの間を通常の政務を行うことで過ごした。その間、この事態が引き起こしうるあらゆる状況に対する対応をシュミレーションしていたことは言うまでもない。
「やってくれますね、石川梨華も。陛下、このあと、どうなさいます?」
さゆみが最も信頼を寄せる腹心である紺野あさ美も、既にことの事情を大方で把握していた。そして次なる行動を模索している。彼女はいわば王宮付きの密偵で、さゆみの殊遇を受けて闇の仕事を一手に引き受けている。
地下組織との抗争も彼女の双肩に預けられ、彼女の功績によって優位に立ったとさえいえる。あさ美は今回の事態を受け、どこか浮き浮きしていた。血が騒ぐのだろう。彼女も種類は違うとはいえ、絵里と同じように人の道からは外れていた。
もっともそれは女王であるさゆみにも言えることかもしれないが。
「あまり楽観視はできないわ。マスコミには出来るだけ口封じして。世間を煽るような報道は一切やめさせること。それと、紺野、できるだけ急いで『亀井絵里』を殺して」
さゆみは厳然と言い放った。
よく晴れていた。
日に日に日差しはその強さを増していく。もう梅雨もすっかり明けた。後は迫り来る夏を待つばかり。
絵里は一人、繁華街を歩いていた。その顔にはいつの笑みが浮かんでいる。
件の27人殺害の事件は世間では同時多発通り魔事件として報道され、世を震撼させた。被害者同士の繋がりや、全員が王女の誕生パーティーの出席者であることなどは一切報じられなかった。
ただその圧倒的な事件性、しかも被害者の中に幾人か、人々によく知られた人が混ざっていたことが大きな衝撃となって世間を走った。テレビや新聞では連日連夜そのことが報道された。しかしその内容はいつもどこか偏っていた。
梨華はあの日、随分と上機嫌だった。珍しく絵里に労いの言葉すらかけた。
彼女は既に普通ではなかった。活動を興した当初の燃えるような正義感、王政の廃止に向けた情熱はどこかに消えていた。ただ裏切り者の死を悦び、それを充てに酒を飲んでは笑っていた。絵里の目から見ても、すでに梨華は壊れていた。
しかし絵里にとってはそんなことはどうでもいい。もともと石川梨華という人間にさしたる興味があるわけではなかったのだ。
そんなことよりも今こうしている時が大事だった。
さゆみの誕生日の夜に渡せなかったプレゼント。それを買いに街までやってきた。
さゆみへのプレゼント選びには本当に難儀する。絵里ではとても手がでないような高価なものもさゆみは簡単に手に入いれることができる。何といっても、王女なのだ。
絵里はさゆみの誕生日の何日も前からずっと考えていたのだが、結局決められず、直前まで引き伸ばしてしまった結果渡すことができなかった。
今日はきちんと見つけて、次に会うときに渡そうと心に決めてきたのだ。お日様も後押ししてくれている。
いろんなお店に入っては、あれでもなしこれでもなしと悩み続ける絵里の姿を見て、誰が先日の大量殺人事件の犯人だなどと思うだろうか。
絵里は邪気なく、一心にプレゼント選びを続けた。
少し路地に入ったところに小洒落た店を見つけた。
とりあえず中に入ってみると、店内に処狭しと並べられた人形、縫いぐるみ。それにいろいろの調度品がある。アクセサリーなんかも置いてある。店に響くラジオが流行りの歌をながしていた。
「あ、可愛い」
思わず小物を手にとって見ていると、奥から初老の店主らしき人が出てきて
「いらっしゃい」と愛想よく笑った。
「こんなのあげたらさゆ喜んでくれるかな…」
可愛らしいモノが並んでいる。
普段メディアに開かれるときのさゆみはいつも澄ました笑みを浮かべている。王女さまの気品とでも言おうか。しかし実際はまだ齢16。普通の女の子らしく、可愛らしいものに目がないのだ。それを知っているのは絵里だけなのだけれど。
「プレゼントかい?」
「そぅです」
「これなんかどうだい?幸せを呼ぶ人形だよ」
そういって店主が示したのは、木彫りの、奇妙な顔をした人形だった。なんというか、可愛くない。
「うー…」
あまり反応のよくない絵里に、おやダメかい、ととぼけた調子でいう。
そこでふと、絵里の視界に一体の縫いぐるみが映った。
一抱えもある灰色のイヌの縫いぐるみ。
「さゆに似てる…」
円らな目が真っ黒で、どこか遠くを見ているように見える。整った目鼻立ち。
(そういえばさゆってばイヌに似てるかも)
絵里のイヌのイメージといえば飼い犬のアルであり、その子は飼い主の自分が言うのもなんだけれどあまり可愛くなかったので、今まで思いもしなかった。だけどそういえばさゆみはどこかしらイヌっぽい。
見れば見るほどそのイヌがさゆみに見えてきて、絵里の目はその縫い包みに釘付けになった。
オススメ商品を一蹴されて旋毛を曲げていた店主も、そんな絵里を見ると商魂逞しく能書きを垂れる。
「おぉ、そっちに目つけたかい。なかなかどうして、目が高いじゃないか。そりゃあうちのカミさんの手縫いでね。世界に一つしかないってなもんさ」
それを聞いて絵里は嬉しくなった。
世界に一人しかいないさゆにみに似た、世界に一つしかない縫い包み。何となく、凄く素敵なことのように思えた。
「おいくら?」
「うん、6780円」
「ふぇ…」
高い。少なくとも絵里にとっては目が出るほどの大金だ。
しかしどうしても、これがいい気がする。そのまま絵里は10分ほど悩んで、そして買った。念のためにおろしておいた貯金をはたいて一括払い。
「毎度ありぃ」
店主がニコニコ笑ってその縫いぐるみにリボンをかけた。
店内のラジオがいつの間にかニュースに変わっていた。今時分、ニュースで放送する内容は決まって件の殺人事件の話題。それまで陽気だった店内が瞬間暗い影に包まれる。
「しかし物騒な世の中になったもんだね。嬢ちゃんも気をつけなよ」
店主が品を受け渡し際絵里に言った。絵里は曖昧に頷いた。
大きな縫いぐるみを抱えて来た道を戻る。
これを渡したらさゆみはどんな顔をするだろうか。似てるといったら怒るだろうか。そんなことを考えながら歩くと、弥が上にも気分は弾む。
駄菓子屋の店先にさゆみのブロマイドが下がっている。さゆみは、つまりそういう存在なのだ。王女であり、一種のアイドルでもある。ただそこに映っているどのさゆみも、清楚なドレスを着てすました顔をしていた。
今手の中にある縫いぐるみと、絵里の良く知る無邪気なさゆみの表情と、ブロマイドの中のさゆみとのギャップが可笑しくて絵里は一人笑った。
町外れまできて、電車に乗って戻ろうかとも思ったけれど、少し歩きたい気がして歩くことにした。繁華街を過ぎるととたんに人通りは減り、静かな通りになる。それが何とはなし、好きなのだ。
カンカンと照り付けていた太陽の光はいつしか弱まっていた。日はもう直ぐにも西の空に沈みそうで、赤いおぼろげな光を放っている。
ふと、違和感を覚えた。
妙な気配がする。殺気だ。前方に一人、後方に二人。既にすぐそこまで来ている。絵里ははたと立ち止まった。視界に一人の男が入る。
「本当にこいつが亀井絵里か?」
男は絵里に姿を確認されたことがわかると、その殺気を抑えようともせずに近づいてきた。
「間違いないはずだ」
背後からも男の声がする。振り返らなくてもわかるが、もう一人いるはずだ。三人ともギラギラとした殺意を放っている。
辺りには人影が無い。気が付けば道はうら寂しい細い通りで、車も通りそうになかった。絵里は大きな縫いぐるみを抱えたまま前方の男を見据えた。
「しかし、イメージと随分違うな。縫いぐるみとは…」
「ああ、噂はやっぱり噂だったみたいだな。100メートル先から狙撃したスナイパーが返り討ちにされただとか…。今俺たちがここまで近づくまで全く気付かなかったんだからな」
男達は言いながらじりじりと距離を詰める。
「でも仕事は仕事だ。悪く思うなよ」
いうや否や、一斉に三人が絵里に飛び掛った。
一瞬の虚が生まれる。三人の男が刃を突き出したとき、その切っ先にあったのは縫いぐるみだけだった。絵里を見失って一挙にパニックに陥る。数瞬。やっと一人が冷静さを取り戻した時には、既に一人の首は掻き切られていた。
血しぶきが舞うなか、二人の視界に再び絵里が現れる。
相変わらず絵里には、口元に浮かべられた静かな笑み以外に表情はない。
「なるほどな…」
体勢を立て直した男が呟く。
「丸腰というわけじゃなかったのか。それにしても、コイツはすげぇ…噂以上だ…」
また二人、じりじりと距離を詰める。今度は二人が波状に刃を突き出す。一人目の剣をかわした絵里は、そのまま後ろの男に向かった。返り討ちにしようと剣を振り上げた時、既に絵里の短刀は二人目の男の心臓を貫いていた。再び血しぶきが上がる。
最後の男は、既に自分が生きて帰れるなどとは思っていなかった。
ただ殺し屋としてのプライドが、絵里に刀を向かわせた。
果たして、この男もあっけなく倒れた。背後から一突き。それは彼の短くない人生の中で想像したどの最期よりも不名誉なものだったろう。無念を抱いたまま、この男も静かに事切れた。
辺りは再び静かになった。
日はその八分方を地平に隠し、青紫色の靄のような心許ない光だけを空に投げかけている。
遠くから夕轟きが聴こえた。寂かに、風が吹く。
絵里は男達の仏には目もくれず、ただ綿が溢れ、それが血によってどす黒く染め上げられている縫いぐるみを見ていた。
さゆみにそっくりだと思ったその縫いぐるみは、ちょうど頭を割られ夥しい血を流して息絶えた一個の死骸に見える。
けれどその顔に残された両目だけが、何時までも凛とした光を放っていた。
(こんな縫いぐるみ渡したら、さすがのさゆでも怒るかな…)
自嘲気味にそんなことを考え笑うと、何故だか寂しくなった。
短刀を鞄の中に仕舞い、その縫いぐるみを抱えて歩き出す。夏になりきらない夜の風はまだ少し、冷たかった。
「そう、失敗したの」
部下の報告を受けたさゆみは、静かにそう呟いた。
先日下した命令の結果、向かわせた三人の殺し屋は三人とも返り討ちにあって血の海に沈んだ。そのことを聞いたさゆみの内には、自分でも気付かない、微かな安堵があった。絵里はまだ生きている。
傍らで一緒に聞いた紺野が溜息を漏らしながら言う。
「だから言ったじゃないですか。無理だって。亀井絵里は普通じゃないんですよ」
「じゃあアナタが行く?」
さゆみが冷めた声で言った。
「私でも、無理です」
「怖いの?」
さゆみの鋭い視線を軽く受け流しながら紺野が言う。
「陛下が行けと仰るならいきますよ。ただ、無駄です。それだけです」
さゆみは暗鬱な表情を浮かべて物思いに耽った。
事件の波紋は至る所に広がっていた。国民の治安に対する不安が徐々に膨れ上がっている。報道管制を敷いているからこそ尚更。治安の不安は生活の不安。政府への不満に直結する。
まだ圧倒的な支持率を誇っているとはいえ、それはかなり危険なことだった。
国民は犯人の逮捕をもとめる。しかし、実行犯として絵里を捕まえることは出来ないのだ。見掛けは可愛らしい少女の絵里。
もし絵里が犯人として面に出れば「あんな女の子に一晩で27人を殺すことなんて出来るわけはない。警察の出鱈目だ」と、そんな風に国民が思うことは殆ど疑われない。
市民とはそんなものだ。そしてその感情が、より一層の政府への不信感に繋がりかねないのだ。
それに絵里を拘束すること自体、先の殺し屋のことを思い合わせても不可能に近かった。それこそ、軍隊でも出動させない限り。
経済にも多大な波紋が及んだ。事件翌日の外国為替市場では通過の急落が起こり、軽いパニックの状態に陥った。それは一事的なものではあったが、国民の不安と同調するように、持ち直した後もじわじわと後退を続けている。
これきりということは無いのだ。
石川梨華がいて、絵里がいる限り、第二、第三の事件が起こる可能性は至る所にある。それは何にも増して経済へのダメージを増やすことになるだろう。
延いては国家体制にまで影響が及ぶこともあり得ないとはいえない。彼らの狙いは正にそれなのだから。
なんとしても、絵里を暗殺し、「次」の発生を防がねばならない。
絵里以外の誰かを犯人に仕立て上げて、一先ず国民感情を抑えてみてはどうだろうか。ふとそんな事が浮かんで、直ぐに打ち消す。そんなことをすれば一挙に、自分の立場は失墜しかねない。リスクが大きすぎる。
そんな馬鹿げた考えが一瞬でも浮かんだ自分は、疲れているのだろうか。
慌ててはいけない。まだそれほど大きなうねりが来ているわけではないのだから。冷静に考えれば、まだ状況は、遥かに自分に有利に運んでいるといえる。何しろ国民は熱狂的にさゆみを支持している。近隣諸国とも比較的友好な関係を保っている。
しかし、何かしら得体の知れない不安が、いつもさゆみの脳裏にあった。小さな棘に命を奪われるのではないかという漠然とした不安。
そして何より、自分の中で、絵里の存在が多きすぎることへの不安。
「何にしても、反政府組織は勢いづくでしょうね。そして石川梨華の影響力はますます強まる。たった一人、亀井絵里という存在のために。彼女をまず第一に暗殺する考えは間違ってはいないでしょうが…」
「……」
「一度こちらに寝返った連中がまた舞い戻る可能性があります。それに、テロの警戒も必要になってくるでしょう。陛下、お言葉ですが、何故あの27人をわざわざ矢面に立たせ、殺させたのですか?」
紺野の言葉に、さゆみの心臓はどきりと脈打った。
まさか、それが絵里を試すためだったなどとは、口が裂けても言えない。結果今の事態を招いたことは全てにおいて、自分の判断ミスに起因しているのだ。もちろん連中が死んだことによる利益は、こまごまとした部分ではあった。それを加味して27人を選んだのだ。
しかし、それ以上の揺動が起こった。
質問に答えないさゆみに何を察したか、紺野は仕切り直すように口を開いた。
「一人だけ」
「…?」
「一人だけ、亀井絵里を始末できる可能性のある人がいます。その人で無理なら、多分この国には亀井絵里に勝てる者はいないでしょう」
「誰?」
「名前は後藤真希といいます。先日殺された、地下では亀井に続いてNO.2と言われていた…田中れいなの姉です」
「れいなの…?」
さゆみの脳裏に一瞬、れいなの顔が過ぎる。
「ただ我々に協力するかどうかはわかりません。今はどこの組織にも所属していないはずで、仕事もしていないらしいので」
「いいわ。会ってみたい。連れてきて」
「わかりました」
絵里は一人血みどろのまま家に帰った。家と言っても梨華が地下活動を行うために使う鉄筋の古い建物。絵里には決まった家などない。ともかく、その門戸を潜った。かび臭いにおいがする。
「お帰りなさい…亀井さん!?どうしたんですか、その血…」
出迎えた少女、久住小春は絵里の血塗られた姿を見て吃驚して叫んだ。
絵里はそんな小春に、少し照れくさそうに笑って見せた。この少女、小春のことを絵里は梨華と違って、好きだった。
身寄りの無い体で最近梨華に拾われた小春。梨華はゆくゆくはこの娘に、第二の絵里となれるよう訓練を施す気でいる。しかし彼女の目は疑うことを知らず、純粋だった。
梨華のすることを正しいことと信じ、梨華を慕い、絵里を慕っている。彼女は勤勉で、独学ながら教養もあった。王政の廃止という梨華の本来の目的は、諸外国を辿ってみても、歴史の必然であると思われる。彼女はそれを一心に信じていた。
絵里の目にも、小春の姿を見ている限りにはそれが正しく思えた。
「大丈夫。ちょっと転んだだけだよ」
「全然大丈夫じゃないですよ!そんな血だらけで…」
小春が絵里の身体に触れようとする。それを慌てて制した。絵里の身体には傷なんて一つもない。それを小春に知られることが、嫌だった。
「大丈夫だから。何ともないって。それより石川さんは?」
「石川さんは会合に出かけられました…。本当に大丈夫ですか…?」
小春は頑なに制する絵里をまだ心配そうに見つめている。
そんな小春の姿に絵里は少しだけ微笑みかける。さゆみと、今はもういない、れいな以外で絵里が心から笑うのは小春の前だけだった。もっとも、いつも口元に貼り付けている無機質な笑みとの違いに小春自身は気付いていないけれど。
「大丈夫大丈夫。そっか、石川さんは居ないの」
絵里はそれを確認すると、鞄に無理やりねじ込んでおいた縫いぐるみの残骸を取り出した。
最早一見しては一体何なのかわからない。ただの布と綿の塊に見える。しかもそれが黒い染みによって汚れているのだ。小春はそれを見て神妙な顔をした。
「何ですか?それ…」
「ん、ちょっとね。どうしよっかな、これ…」
小さく潰されたそれを広げてみると、歪な全貌が見えてくる。
「あ、縫いぐるみ…」
小春が思わず呟いた。
頭と胸から綿の飛び出した縫いぐるみは、何ともグロテスクな格好をしている。
「そう。最初は可愛かったんだけどね…アルのオモチャにでもしようかな」
小春はそんな絵里の独り言をじっと聞いてから言った。
「あの、あたし縫いましょうか?」
「ふぇ?」
「あたし…結構得意なんですよ、こうみえて」
絵里は申し出に驚いて小春の顔をじっと見た。胸を張りながら少し照れている小春の姿がなんとも言えず可愛らしいと思った。手の中の縫いぐるみと小春の顔を見比べる。彼女は既にやる気まんまんという風をしている。
「じゃ、お願いしようかな。私じゃぶきっちょだからとても」
「はい、任せてください!」
小春が満面の笑顔で言う。絵里は手の中のいびつな縫いぐるみを差し出した。
「じゃ、亀井さんはお風呂に入ってきて下さいね。どろどろですから。その間にご飯の準備しておきますね。これは、明日までには縫い上げます」
勇んでいう小春が可笑しくて、絵里は微笑みながら彼女に従った。梨華には財界人としての表の顔があるため、大きな家を持っている。この基地は、事実上小春の家だった。
彼女は何も知らない。実際梨華の活動に何か与しているというわけではなく、この家での梨華や絵里の身の回りの世話をして暮らしているだけだった。彼女自身は、早く活動に加わりたいと切望しているのだけれど。
勿論絵里が殺し屋、しかも最強の殺し屋であることなど、知る由も無い。
そのままでいて欲しい。時々、そう思うことがあった。絵里は小春がれいなに似ていると思うことがあった。れいなは、一級の殺し屋として冷徹に仕事をこなすくせに、普段ひどく感情的だったり、涙もろいところがあった。
「殺し屋のくせに」色んな夢を抱いていて、それをいつも絵里や、さゆみに話し聞かせていたものだ。絵里は、そんな不思議なれいなが好きだった。
しかしれいなを、この手で殺した。
何となく、予感がする。いつか小春も、自らの手で殺さなければならないという。それとも彼女が自分以上の使い手に育って、逆に自分が彼女に殺されるか…
小春に、殺し屋になって欲しくない。しかし、梨華によって彼女の未来へのレールは既に敷かれていた。
湯船に漬かりながら、絵里はぼんやりと考えた。
いつも絵里の考えには纏まりがない。それに矛盾撞着が至る所にあるのだが、それでも絵里はよく考え事をする。漠然とした未来のことや、過去のこと。眠るように穏やかだったれいなの死に顔。さゆみの笑顔。
自分は明日死ぬかもしれない。どうして自分が今まで生きてきたのか解らない。過去に何百という人と、命のやり取りをした。しかし自分は一度も殺されず、相手は全て死んだ。
幼い頃の、殆ど無い思い出の中に、絵本の記憶があった。
正義の味方が、悪を打ち負かすという絵本を、沢山読んでいた気がする。どれでも、必ず正義の味方が勝った。悪人の勝利など、ありえない。しかし絵里は生きている。自分の中に迸るような闇を、悪を感じるのに。
自分は明日死ぬかもしれない。それは正しいことなのかもしれない。
風呂場の壁にひび割れた鏡があった。
映しこまれた自らの顔には、未だ少し、血がこびりついている。
じっと自分の顔を見ていると、絵里にしては難しい考えが、だんだん湯気の中に溶けていった。そこに残った思いは、実に単純明快で、そして絵里とってもっとも確信できること。
(さゆに会いたいなぁ…)
少し上せ加減で、髪を拭きながら浴室を出ると、小春が、足のぐらつくテーブルの上に美味しそうなシチューを乗せているところだった。
翌朝絵里が起きだすと、小春は約束どおり縫いぐるみを仕上げていた。
綿は詰めなおされ、血の染みもあまり目立たないくらいまで落ちている。
「亀井さん、おはようございます!見てください、なかなかじゃないですか?」
言われてまじまじと見る。買ってきた時とあまり変わらないくらいの見栄えがする。素直な、感嘆の溜息が漏れた。
「うわぁ、凄いね…完璧じゃん。汚れとかどうやって落としたの?」
「えっとそれは、手もみ洗いで…すいません、完璧には落とせませんでしたけど…」
「いや、いいって。本当に…ありがとうね、小春」
これならプレゼントとしてさゆみに渡せる。そう思うと踊り上がりたい様な嬉しさがこみ上げてきた。小春のほうでも、そんな真に嬉しそうな絵里の顔を見ると、嬉しく、誇らしくて、照れくさい。
「どういたしまして」
小春はもじもじと照れ笑いをしながらいった。
二人で朝食を食べる。傍目には普通の姉妹の朝食風景に映ることだろう。そのくらい、二人の席には自然な空気が流れていた。
昨日と違って空は晴れていない。食卓に流れるラジオが、嵐の接近を告げている。
「その縫いぐるみ…誰かのプレゼントですよね?」
小春が、恐る恐るという調子で口を聞いた。
普段小春は絵里のことをあまり訊けなかった。謎だらけの絵里。しかもどこかしら触れがたい、表現の及ばない空気を常に纏っている。それで、別に怒られたわけでも、冷たくされたわけでも無かったけれど、尋ねられなかった。
たまに何か訊いても、それが絵里にとって答えにくいことであれば、曖昧に笑って黙り込む、それが常だ。以前小春が、絵里の仕事の内容について尋ねた時もそうだった。
けれども、この縫いぐるみの話くらい、訊いてもいい気がしていた。何と言っても自分はそれなりに功労者なのだし。
絵里が普段寝泊りする部屋は、コンクリートの壁がむき出しになり、簡易ベッドが組み立てられているだけの狭い部屋。絵里がこんな可愛らしい縫いぐるみを持ってきたことは、小春を酷く驚かせた。それは、小春の知らない絵里だったから、尚更気になったのだ。
絵里はそんな小春の悶々とした考えを他所に、別段何と言うこともなく、上機嫌に「うん」と言った。
小春の中の絵里が、また変動する。
「やっぱり…。それって、誰にですか…?」
言った後、少し拙い気がした。自分なんかが、あんまり出しゃばりすぎたんじゃないだろうか。しかし絵里は相変わらず、気にするでもなく、少し上を向いて誰かの顔でも思い出すような素振りをしてから、嬉しそうに言った。
「大切な人」
「そ、そうですか…」
絵里の言葉を受けた小春の胸が、ドキリと脈打つ。始めて見る表情だと思った。心から嬉しそうな。
一体、絵里にこんな表情をさせる相手は、どんな人なんだろう。謎だらけだった絵里のイメージは、より一層の謎に塗り固められてしまった。
しかし妙に胸がじりじりする。どうしてだか解らないが、小春は先ほどの絵里の表情を見てから、不可解な胸のうずきに戸惑っていた。
ガタガタと、風が雨戸を叩く音がする。
「風、強いですね…」
妙な雰囲気になってしまった自分自身を取り繕うように小春が呟いた。
「そうだね、雨が降り出す前にいかなきゃ」
「え、今日も何処かへいくんですか?」
「うん」
絵里はそれだけ言うと、「ごちそうさま」と呟き、食器の類を片して、出かける準備を始めた。
それから、玄関口に立った絵里に小春が言う。
「気をつけてくださいね」
「うん。小春、本当にありがとう」
絵里は笑顔で手を振って出て行った。風は相変わらず唸りをあげている。小春の胸中に、何かしら解らないいやな予感があった。
暫くすると、梨華が帰ってきた。
「はー。風、強っ!」
髪の毛がぐちゃぐちゃになっている梨華は、そのくせ、どこか楽しそうだった。
「おかえりなさい、石川さん」
小春が出迎える。梨華は小春に向かって笑って見せた。
「絵里は?」
「入れ違いで、さっき出かけました。何か用事があったみたいで」
それを聞いて少し胡乱がった表情をする。梨華にも皆目絵里の用事なんて思い当たらないからだ。あまり勝手な行動は控えて欲しいのだが。
「ま、いいわ。それより小春、あなたに初仕事があるわよ」
梨華は笑顔を作ってきっぱり、言い放った。
「本当ですか!?」
小春は梨華の言葉に、思わず叫んだ。嬉しさに、先ほどの嫌な予感のことなど、瞬間に忘れた。
絵里の用事とは他でもない。プレゼントをさゆみに渡しに行こうとしていたのだ。その為この嵐はおあつらえ向きだった。
さゆみは王宮にいる。王宮は、最も忍び込むことが難しい建物で、だからさゆみと会うためには、いつもさゆみが外泊をしている時を狙うしかなかった。
しかし絵里は、どうしても早く、プレゼントを渡したかった。昨夜の思考が思い起こされる。自分はいつ居なくなるかわからない。それは、縫いぐるみにまだ薄っすらと残った血の染みを見るにつけ、実感される。
一生懸命縫ってくれた小春のためにも、プレゼントを渡せないときっと後悔するだろうから。
絵里は過去に二度、王宮に忍び込んだことがあった。しかしその二度は、王宮に「紺野あさ美」が居ないことをさゆみ自身から聞いての潜入だった。絵里自身、その紺野という人物がどんな人なのか知らなかったが。
さゆみが言っていた。「紺野がいるときには王宮に来ちゃだめ。凄く危険だから。でも普段は殆ど王宮にいるんだけどね…」
恐らく今日もいるだろう。それでも絵里は、風の中を颯爽と王宮へ向けて駆けていった。
「紺野、後藤真希の件はどうなっているの?」
さゆみは、窓の外で荒れ狂う風をぼんやりと見ながら言った。
「コンタクトは取れました。近々返答があるでしょう」
「そう」
個人的に、さゆみは後藤真希について調べていた。それは驚くものだった。
まだ自分が幼い頃、父、つまり先代の王が政権を握っていた頃に彼女は闇で暗躍していた。父の代は今よりもずっと国内が荒れ、だから闇に蠢く力も強かった。
その中で、真希は死神と恐れられ、圧倒的な冷徹さと残虐さから、その力を得たものが実権を握るとさえ言われていた。さゆみは父の代のことを全く知らなかった。
そんな人物がもし絵里の暗殺を請け負ったら、なるほど、絵里に勝てるかもしれないと思った。絵里は死ぬだろう。
絵里が死ぬ。それは王女である自分にとって今最も望ましい事である。それなのに、それを思うだけで、胸を裂かれたような苦しみが襲う。二度と絵里の笑顔を見れなくなる。絵里の胸の中で眠れなくなる。絵里と唇を交わすことも、出来なくなる。
不安定だった。王女としての自分のために、延いてはこの国のために必要なことなのだ。なのにどこかで、真希に仕事を断って欲しいとすら思う自分がいた。可能性はあった。真希はここ数年、誰からの仕事も請けていない。
「陛下…顔色が優れないようにお見受けしますが…?」
紺野が言う。さゆみは相変わらずで窓の外を見ていた。風が、気侭に、乱暴に遊んでいる。残忍に、しかし優しく。絵里に似ている…
「平気。少し一人にして」
「御意」
王宮はとてつもなく巨大で、堅牢だった。巨大な門には常に10数名の守衛がいるし、そこ以外は20メートルもある巨大な城壁に囲まれていた。絵里は、いつもこの壁を攀じ登るのだが、見晴らしの利く城壁を登るのは一番苦心する。
時間との戦いになる。しかしこの日は嵐のお陰もあって、城の周りに人影はなかった。
壁を攀じ登り城の中に入っても、危険には変わりない。昼夜問わず、精鋭の警備兵が常に巡回している。見つかってはいけないのだ。もし見つかって、警備兵を殺しでもすれば、二度と城への侵入は出来なくなる。物音を立てず、静かにことを運ぶ必要がある。
絵里は一度、城の見取り図をさゆみに見せて貰ったことがあった。もちろんそれは最重要の部類に入る国家機密なのだが。一度見た絵里の頭の中には、城の隅々までの経路がインプットされていた。さゆみはその絵里の特異な性質を知っていて、「一度だけ」見せたのだ。
そのお陰で、絵里は城への侵入が可能になったといえる。
さゆみの部屋から出されたあさ美は、自室に戻ろうとしていた。そこに近寄る影がある。
「あさ美ちゃん、お疲れ様だね」
妙に朗らかに言うこの人物は新垣里沙といった。
「新垣サン。次の市街遊行のとき、しっかり王女を守って下さいね。どうも嫌な予感がします」
この新垣里沙は、闇の顔である紺野に対する、表の顔という存在だった。
紺野は決して人々の前に姿を現すことはない。闇から闇に抜け、闇に消える存在。それに対し里沙は、王女付きの宰相として、腹心として全国民に認知されたナンバー2だった。政務の監督や、会見担当などもこの若き奇才に任されていた。
紺野は決して表に出てはいけない存在だった。だから公務の時、王女を側で守ることは出来ない。それがいつも彼女の心配の種だった。いつ何時、王女の身に危険が降りかかるかわからない。
しかし自分以下、闇の力無しにはその護衛はいつも心許ないのだ。
「それは心配いらない。なんせ王宮の精鋭がガッチリと守るからね。それよりも…」
里沙には彼女なりに思うところがあった。国の政治において中心人物であり、最も重要な位置にいるといっていい里沙。しかし王女の信頼は、いつも紺野の次だった。いつでもナンバー1になれない。
王女はいつも側にあさ美を置いて、自分には仕事をさせた。それは里沙の中に燻る大きな不満だった。そしてそれは、あさ美に対する不信へと形を変えている。
同期で、共に天才的な手腕を持っていたからこその、微妙な関係が二人の間にはあった。
「王女の身に何か起こるような、不安要素があるっていうの?」
里沙が眉を潜めて言う。
「いえ、今は…。しかし何が起こるかは分からないでしょう?それに、近いうちに大きなうねりが訪れるような、嫌な予感がします」
「そう、心しとく」
「新垣サン、今、変な物音がしませんでした?」
突然紺野が言う。
「特に何も聴こえなかったけど?」
「何か…鼠の足音のような…」
それを聞いた里沙は再び眉を顰めて、声を出した。
「はぁ?猫じゃあるまいし、そんなもの聴こえるのなんてあさ美ちゃんだけだよ、バカバカしい…風の音だよ」
「調べさせてください。陛下が心配です。やはり私は陛下のお側にいることにします」
そう言うと、来た道に踵を返して、スタスタと歩きだした。
残された里沙は大仰に溜息を吐いてみせる。
「困った変人だよ、全く…」
「陛下、お変わりありませんか?」
再び目の前に現れた紺野に、さゆみは不機嫌な声を出した。
「一人にしてっていったでしょ?」
「しかし…妙な気配がします。或いは侵入者かも。陛下の御身が心配です。どうかお側にいることをお許し下さい」
それを聞いたさゆみの心臓はドキリと跳ねた。侵入者、もし本当なら、絵里しか考えられなかった。この王宮にどうどうと侵入するような…バカは。
「わかった。気をつけるわ。でも、やっぱり一人にして。お願い」
「…分かりました。くれぐれも、お気をつけください」
紺野は再び部屋を出て行った。
縫いぐるみを抱えた間抜けな侵入者は、抜け道を通り屋内まで侵入していた。さゆみがいる部屋は大体の目星がついているが、何せさゆみ専用という部屋だけで10以上あるのだからあてにはならない。
しかも先ほどから、何かしら城全体の緊張感が増している。あるいは自分の侵入がばれたのかもしれない。
さすがに、一つ一つ部屋を回ってさゆみの所在を確認する暇は無いと考えた絵里は、ある部屋を目指した。その部屋は、王宮の奥にある。
「さゆみ以外は誰も入ることが許されていない」さゆみの部屋。目指す場所は其処だった。小さな部屋にベッドと、さゆみのお気に入りの小物などが置かれている、謂わばこの広いさゆみの「家」の中で唯一のプライベートルームにあたる。
絵里は抜け道を通って近くの部屋まで来ると、窓の外を伝って、その部屋に入った。やはりさゆみは居ない。しかしもう潮時だった。場内には、はっきりと、自分に向けられた敵意の所在が認められた。これが紺野あさ美なのだろう。
早く戻らなければならない。絵里は縫いぐるみに手紙を沿え、そっとベッドの上に置くと、素早く部屋を抜け、建物を抜け、風の中に消えた。
さゆみは絵里が来ることを待っていたのと同時に、自分に会いに来れば紺野に見つかるであろうことを思って胸が割れそうだった。
もし、紺野と絵里が戦うことになれば、絵里が勝つだろうが、ここは何千もの自分の臣下が住まう王宮なのだ。絵里でも生きて出られることはまず無い。
不安と、期待と、妙な興奮と冷静な思考とがごちゃごちゃに混ざり合った激しい頭痛の裡に、さゆみは時を過ごした。
しかしその時間が、紺野の声によって終わる。
「陛下ご無事ですか」
ドアの外から紺野が言う。
「ええ…」
「気配は去りました。ご無事で何よりです」
それだけ言うと、紺野はまた何処かにいってしまった。
さゆみの肩からがっくりと力が抜ける。きっと絵里は、紺野がいることに気付き、諦めて帰ったのだろう。よかった…。しかしどこかで、酷く落ち込んでいる自分がいる。絵里の顔を一目でいいから見たかった。
かと思えば、狡猾な自分が言う。絵里を始末する絶好の機会だったのに、勿体無いことをした。さゆみは酷く疲れていた。
嵐がために外は暗い。それに雨も降り出してきた。なんとも心許ない気分が襲う。さゆみは何時でも一人ぼっちだった。一人には慣れきっているつもりだった。一人でいることが、さゆみを強くした。
しかし今、彼女の心は不安に苛まれていた。寄る辺無い不安。揺れ動く不安。
一国の主として、そんな自分が許せなかった。一つの信念を貫き通すことが、何千万という国民の命の代償として自分の肩に課せられた義務なのだから。
さゆみは覚束ない足取りで、自室に戻った。とにかく早く休みたかった。
自分だけの部屋。自分にとって最も落ち着けるこの部屋に入る。辺りは真っ暗だった。照明をつける。
ちょこんと、ベッドの上に縫いぐるみが座っている。
灰色のイヌの縫いぐるみ。愛らしく、小首を傾げて、さゆみの顔をじっと見ていた。
不思議な感覚に襲われる。どうしてこんなところに、こんな物が…
手にとってみると、手紙が舞い落ちた。それを見て、全てを理解した。
『Dear.さゆ
お誕生日おめでとう。プレゼント、遅くなってごめんね。
怒らないで欲しいんだけど、この縫いぐるみ、さゆに似てない?
って思ったら、なんかすっごく可愛く思えちゃって。
ちょっと汚れちゃったんだけど、ごめんね。
さゆー会いたいよー。今日もほんとは会いたかったー。でも、またね 絵里』
さゆみの肩がわなわなと震える。縫いぐるみを思わず抱きしめる。
怖いぐらいに、愛おしさが溢れてくる。絵里のことしか、考えられなくなる。
私も会いたい。はやく会いたい。一緒に居たい。ずっと一緒に居たい。溢れ出した思いは、止まらない。どんどん溢れて、さゆみの心を、身体を飲み込んでしまう。もう、何もかもいらない。王女であることも、国も、何もかも捨て去って、ただ絵里と居たい。
二人で暮らしたい。小さな家で、毎日キスをして、抱き合って。何も遠慮することもなく、愛していると伝えたい。この世界が終わってしまってもいい、絵里と居たい!…
さゆみの肩はガタガタと震えていた。あまりにも、自分の考えが恐ろしかった。絵里に対する、溢れる想いが恐ろしかった。本当に、今の自分は全てを捨て去りそうな気がした。世界を棄てて。
外は相変わらず、激しい風が吹き荒れていた。それに雨が、強く窓を打つ。
自分は、飲み込まれてしまう。嵐のような絵里への愛おしさに、飲み込まれ全てを失ってしまう。王としての巨大な責任を全て放棄して、逃げ出してしまう。何千万の国民の命を、戯れに消してしまう…
恐ろしさに、身体の震えは止まらず、歯はガチガチと鳴った。悪寒がする。このまま、潰れてしまうのではないかと思うくらい。
一人ではいられない。一人でいれば、絵里のことしか、考えられなくなる。
潰れてしまう―――
紺野は自室で一人本を読んでいた。今日は嵐で、外に出かける用事も中止せざるを得ない。これからのことをじっと考えるのに、折りよく風が吹いてくれたものだった。
コンコンと戸がノックされた。紺野がパッと顔を上げる。
「紺野…」
その声に驚いて、慌ててドアを開ける。
「陛下!」
さゆみは、何か思いつめたような、病的に青白い顔をして紺野の顔を見ていた。そんな顔ですら美しいと、紺野は思った。
「今日は、一緒にいて…」
さゆみはぽつりと呟いた。その目は、どこか焦点が定まっていないようにも思える。
「わかりました」
紺野は静かに、さゆみを部屋に促した。
転載終了
作家さん前スレ落としてしまってスマンです
是非こちらのスレに続きを書いて下さいませ
なんだこのスレ
とりあえず保全しとこっと
ほ
尻だったら亀井かな…
すっかりしくった
保存もしてなかったからどうしようかと思ってたけど
>>1ありがと
これから気をつけます
暴風雨の中、絵里は隠れ家に戻ってきた。申し訳程度のコンクリートの屋根の下で飼い犬の、(といっても首輪もしていない、半野良状態だが)アルが縮こまっていたので、一緒に家に入る。
鍵は閉まっていたし、明かりもついていない。小春もいないようだった。
こんな嵐の中、どこにいったのだろう。そう思いながら、アルの餌を作る。
絵里には料理なんて出来ないので、冷蔵庫の中から残りらしいものを引き出して、かき混ぜてアルの鼻先に突き出すだけなのだが。
風や雨は、夜が更けるにつれ強まっていった。
さゆみはもうプレゼントを見ただろうか。どんな風に思っただろう。本当は、一目さゆみに会いたかった。だけれども、王宮の中ではさすがに、無理がある。
さゆみも、自分と同じように思っていてくれたならば、どんなに嬉しいか知れない。
アルが、自分の作った餌をいかにも不味そうに食べる姿を見ながら、絵里は一心にさゆみのことを考えていた。
それから何をするでもなく、ぼんやりとしている。鉄筋製とはいえ、随分古いこの家は強い風を受けてミシミシと悲鳴を上げていた。小春はまだ帰らない。恐らく梨華と一緒にどこかに行ったのだろうが…
戯れに時計の秒針の音を数えてみた。ところが200程もいくともう分からなくなってしまう。そんなことを何度も繰り返していくうち、いつしか0時を回っていた。
不意に扉が開かれる。勢いよく、梨華が入ってきた。
「ぷはっ、あぁーぐちょぐちょ…」
季節はずれな黒い皮のコートを纏った梨華の全身は激しい雨に晒されしとど濡れていた。それに雨と風にかき回された髪が、なんとも滑稽な形をしている。
「絵里、帰ってたのね。どこに行ってたの?」
梨華は些か興奮気味な、やけに弾んだ声色で言った。絵里は「ちょっと」とだけ応えた。
そんな絵里に、梨華は深く詮索するでもなく、部屋に入るとハンガーにコートを掛け、タオルで髪を拭い出した。始終、どこか嬉しそうだ。
梨華から少し遅れて、また扉が開く。小春が入ってきた。
絵里は小春の顔を見て驚いた。いつもの溌剌とした元気さが、かけらも残っていない。普段血色のいい肌は青白く、酷く憔悴している。梨華とは対照的だ。
小春は、普段なら欠かさない挨拶も忘れて、幽霊のようにふらりと部屋に上がりこんだ。その全身もやはりずぶ濡れになっている。梨華はそんな小春を見て、さも楽しそうに微笑んでいた。
一瞬顔を上げた小春と絵里の目があった。その瞬間、小春が、何かに怯えたような目になり、そしてすぐに顔を下げる。絵里の胸が、微かにズキリと痛んだ。
「何があったんですか?」
思わず絵里が尋ねた。梨華は嬉しそうに言う。
「今日、小春の初仕事してきたのよ。やっぱり、私が見込んだ通り、よくやってくれたわ。おめでたい、お赤飯炊こうかしら」
梨華がニコニコ笑いながら言うのを横目に置いて、もう一度小春をみた。なるほど、それで事情は分かった。小春は初めて、人を殺したのだ。
随分唐突だと思った。まだ彼女は何の訓練も受けていないはずだし、梨華が一体何を思ってそんなことをさせたのかよくわからない。とにかく、小春は、梨華や絵里が携わっているこの世界の闇の部分を、突然突きつけられ、その一員であることを求められたのだ。
彼女にとって、どれほど大きく天地が入れ替わったか知れない。
「ご飯にする?今日は疲れただろうから、私が作るけど?」
梨華が小春に明るい調子で言う。
小春は顔を上げ、戸惑いに瞳を揺らせた後
「いえ、いいです…今晩は休みます、すみません…」
と、幽かな声で呟いて、のろのろと自室に歩いていった。
小春のいなくなった居間でも、梨華は上機嫌だった。冷蔵庫からお酒を取り出すと、勢いよく缶のタブを開ける。
「大分応えたみたいね。でも、直ぐに慣れるわ。ね、絵里、あの子最初は随分躊躇してたけど、さすがね。思い切りがいい。まだ何も教えてないのに、ターゲットを一突きで殺せたのよ」
梨華は次々とお酒を胃の中に流し込みながら、矢継ぎ早に話し続けた。
「先が楽しみだわ。訓練次第で、絵里、あなたくらい、強くだってなれるわよ」
絵里が梨華の目をじっと見据える。梨華にも、どこかいつもと違う感じを覚えた。
「ナニ?怒ってる?仕事を小春に渡したから?」
「別に怒ってません…」
「そうよね。あなたは怒ることなんか無いわね。それに泣くことも…いつも不服そうに笑っているのが絵里、あなただわ」
「……」
風は収まる気配が無い。相変わらずミシミシと建物が軋む。梨華も相変わらずで美味しそうに酒を飲んだ。
「随分小春が気に入ってるんですね」
「うふふ…小春はね、大物になるわよ。私の意志を継げる。あの子なら…理想を遂げてくれると思うの」
梨華は少し落ち着いた声で、絵里の顔を覗いながら言った。口元には笑みを貼り付けたまま。
絵里は黙って聞いた。やはりどこかいつもと違う。
「あの子の目は、ね、綺麗でしょ?」
「綺麗ですね」
「純粋で、何処までも透徹した目をしてる。それに強い意思のある目」
梨華はいつしか、どこか遠くを見るような目つきに変わっていた。相変わらず酒のペースは速い。
「私みたいに薄汚れた、腐りきった目とは違うわ。あの子は頭がいい。あの子なら目的を見失うことも迷走することもないって信じてる…」
それを聞いて絵里は思わず梨華の顔を凝視した。周りが思っていても、梨華自身がそんな風に考えていたとは思わなかった。梨華がここまで、現在の自分を受け入れているとは思わなかった。
「ふふ…意外そうね…。私だってたまにはおかしくなることもあるのよ…。そう、今はちょっとおかしいの。酔ってるからかしらね。どんな状態が正常なのかも、忘れちゃったけどね…」
言いながら梨華は、やけに上品に笑って見せた。
「小春を試してみた。ちょっとした賭けね…。理想の実現の為には血も、悪も必要だってことをあの子はまだ知らなかったから…。でも私は賭けに勝ったわ!あの子は相手を貫いた時も、ガタガタ震えてたけど、でも、その目の光を失わなかった。
極限状態でもまだ先を見つめられる。だから任せられるの。私なんかより、遥かに強い心の持ち主だから、きっと…あの子が…」
梨華がふと言葉を切った。ぼんやりと風の音に耳を済ませていた絵里に、不意に音が届かなくなった。風が少しだけ凪いだらしい。
「喋り過ぎたわね…。忘れなさい」
「…忘れます」
絵里は記憶力だけは無駄にいい。一度みたもの、一度聞いたことは決して忘れないのだ。それは暗殺者として役だつ、その為の能力として絵里に備わっていた。
しかし、覚えていようと忘れようと絵里には関係なかった。興味のないことだから。
「絵里、あんたもいい目をしてるわね」
「そうですか?」
「ええ、そうよ。あんたの目は、小春とは真逆。一片の光も無い、何処までも透徹した純粋な暗闇ね。どんな光にも照らされることがない、宇宙みたいな深い闇…。羨ましいわ。私もせめてあなたみたいな目を持ちたかった」
「……」
風が凪いだと思うと、部屋は妙に静かだった。死んだように、物音が途絶える。時計の秒針の無機質な音ばかりが大きく響く。酔いの回りきった梨華が時々漏らす吐息まで、やけに無機質だった。
最期の缶を空けた梨華が立ち上がる。その顔はのぼせ上った色をしていたが、表情はまだしっかりとしていた。
「私も休むわ。明日からまた忙しくなりそうだし。…あなたは興味ないでしょうけど、今日小春が殺したのは私の表の世界での敵でね、王室との癒着で何代も続いてきた実業家。腰の重い王室もそろそろ怒髪天をつくころだわ」
梨華は一度言葉を切って、相変わらず不服そうな笑みを浮かべている絵里の表情を確かめてから続けた。
「もしかしたら直接私たちに刺客を差し向けることも。何があるかわからない。…もし、何かが起こったら、私はどうでもいいから、あなたは小春の側に居なさい。あなたと居れば安全だからね。いい?わかった?」
「はい」
絵里の返事を聞いた梨華は、満足そうに自室に下がっていった。
再び居間に絵里は一人残された。
梨華もさり、風も止んでいるため、ひどく静かだ。
ふと、生気のある音を聞いた。アルのものではない。
小さな息遣いが聴こえる。小春の部屋から。小春はまだ起きているらしい。
何を思ったのか、絵里本人にさえよくわからなかったが、絵里は席を立つと、小春の部屋の扉を潜っていた。
読むのが面倒な俺にあらすじを教えてくれ
保全手伝うから
59 :
名無し募集中。。。:2005/07/29(金) 06:39:22 0
それでも私はBに応募します
60 :
名無し募集中。。。:2005/07/29(金) 06:42:13 O
61 :
名無し募集中。。。:2005/07/29(金) 09:30:08 0
電気も点けていない暗い部屋で小春は机に突っ伏していた。気配を感じたのだろう、俯いていた顔が少しだけ震える。その背中は、あまりにも小さい。
「小春…」
絵里の声を聞いて、今度ははっきり、その小さな両肩が震えた。
絵里は、来てみたものの、どうすればいいのか分からなかった。闇に沈んだその心許ない背中に、かける言葉を知らない。
「亀井さん…私…」
小春は、絵里に背を向けたまま、ぽつりぽつりと言葉を漏らした。
「震えが止まらないんです…手が、さっきからずっと…生暖かい血が、いっぱい私の手について…洗っても洗っても、落ちないような気がして…」
絵里は小春の直ぐ後ろに立って、じっと聞いた。
「頭の中では、わかってたつもりでした…。血を伴わない革命なんて無いって。だけど、怖くて…相手の力が、凄い力だったのがどんどん抜けて、だらんとしたのが、全部分かったんです…。私は、本当に正しいことをしているのかって、もう訳がわからなくて…」
絵里には分からなかった。小春の感覚も、戸惑い悩んでいる今の気持ちも。初めて人を殺したのがいつだったか、絵里には思いだせない。物心のついた時分には既に絵里の側には血のにおいがあった。
「石川さんが、言いました…。あなたがやらなくても絵里がやるだけだって…。誰がやろうが、事態は進む、その過程で絵里一人に手を汚させて、理想の遂行なんて…。その通りなんです…」
相変わらず口が達者だなと、絵里はずれたことを考えていた。
「でも、やっぱり……。手が、血にまみれて、どんどん、腐り落ちていくんじゃないかって…このまま私の全身が腐って崩れてしまうんじゃないかって、そんな気がしてくるんです…」
小春の肩がまた震えだす。机の上に置かれ、祈るように組まれた手もガタガタと震えていた。絵里が、すっとその手に自らの手をその手に重ねる。小春の冷えた手の感触がする。次第に小春の震えは収まった。
「小春…私は馬鹿だから…今なんていってあげたらいいかわかんない。だけどね、きっといつでもそんな風に悩んで、何が正しいのか模索していくのが、いいことなんだと思う…」
「……」
「いつも正しいことに向かって欲しい。自分で考えて、自分の正義の為に戦って欲しい…。石川さんの言いなりにはならないで。いつでも小春自身のこと、好きでいて欲しいって、私はそう思うの」
それから、決して私みたいにならないでほしいと小さく付け足した。
小春の冷たい手が、絵里の手の温度に触れて次第に元に戻っていく。絵里は、手の中の小さな手に、確かに彼女の鼓動を聞いた。なるほど、梨華の言葉に違わず、強い子だと思った。
「本当に亀井さんは…殺し屋なんですか…?」
側にまで来た絵里に、やっと届くくらいの震える声で小春は言った。小春の横顔に、その目に、涙が光ったのを絵里はみとめた。
「…うん」
絵里の返事とともに、小春の頬を一筋、涙が伝った。
「人を殺すことを何とも思わない…人の感情も持っていない冷血人間だって…殺人機械だって石川さんが言ってました…」
「…その通りだよ」
「じゃあなんで…」
「手…こんなに温かいんですか…?」
「なんで、そんなに優しいんですか……なんで…」
縫いぐるみを渡したときの、真に嬉しそうだった絵里の笑顔が過ぎる。
小春は何か、思いつめたように肩口の絵里を見上げた。その両目は涙に濡れていたのを、暗闇に目の利く絵里はっきりと見た。
「そんなに…綺麗に笑うんですか…?」
「小春…?」
「ごめんなさい…私何だか…」
「疲れてるんだよ。もう休みなよ…」
小春は絵里の言葉に、静かに頷いた。それから、立ち上がり、ベッドに上る。絵里はその姿を確認し、部屋を出ようとした。
「亀井さん…あの、お願いがあるんです…」
言われ、振り返る。小春はベッドに寝たまま、絵里の方を見ていた。
「その…私が眠るまででいいんで…手を、握っていてくれませんか…?」
絵里は無言で小春の側に寄ると、だらりと垂れたその右手を、両手のひらで包み込んだ。
それを肌で感じ取った小春はそっと目を閉じる。
「ごめんなさ…我がままで…」
「いいよ。ずっと握ってるから…。安心して、おやすみ?」
「石川さんが…亀井さんに剣を教えてもらいなさいって…私、できるでしょうか…?」
「うん…強くなれるよ。小春は…誰よりも強くなれる…」
程なくして小春は静かな寝息を立て始めた。
風も雨もすっかり止み、窓の外からは薄っすらと月の光が差し込んできた。絵里は小春の手を握りながら、じっとその光を見つめていた。朝が来るまで、じっと。
>>1-47乙です
>>作者さん乙です
ミラクルアサシンの初仕事 詳しく読みたかったです
ho
ガチなのにさゆえりって人気ないね…
さゆえり活性化切望
涙が出た
70 :
名無し募集中。。。:2005/07/29(金) 15:32:02 0
ほ
71 :
名無し募集中。。。:2005/07/29(金) 17:08:13 0
ぜん
72 :
名無し募集中。。。:2005/07/29(金) 17:11:26 O
えりりん殺しやだったのかよ!
よかった〜次スレ立ってて
今度は絶対落とさない!
74 :
名無し募集中。。。:2005/07/29(金) 19:17:31 0
週末ho
>68
誰かさゆえりスレ立ててくれないかな
過去や現在はもちろん未来まで期待できるのに…
76 :
名無し募集中。。。:2005/07/29(金) 20:56:45 O
エロいよねこの2人
さゆえりスレ立てても荒らされるもん
ほ
じゃぁ保全がてら
このスレでさゆえり画像とか話とか募集かけます
さゆえりすとのみなさん、ふるってご参加ください
参加いたしません
(´・ω・`)
ほ
83 :
名無し募集中。。。:2005/07/30(土) 00:06:34 O
俺もさゆえり画像欲すぃ
84 :
名無し募集中。。。:2005/07/30(土) 00:19:05 0
さゆ愛してるよ
ほ
えりの方がさゆの事愛してるよ
87 :
名無し募集中。。。:2005/07/30(土) 02:49:22 0
ho
88 :
名無し募集中。。。:2005/07/30(土) 02:51:48 O
えりりんの圧勝
ナルシスキモブッサーグロ重は小川辺りと競ってろ
ze
91 :
名無し募集中。。。:2005/07/30(土) 05:39:53 0
ホス
ほ
从*・ 。.・)<紺野、昨夜はありがとうなの
ho
95 :
名無し募集中。。。:2005/07/30(土) 12:16:38 0
ze
n
ノノ*^ー^)人(・ 。.・*从
ほ
「お久しぶりです、後藤さん」
首都圏内のとあるホテルのロビー。紺野あさ美は、視界に入った待ち人に声をかけた。
「んぁ、紺野、久しぶりだね」
後藤真希は無表情に紺野の顔を見据えると一言、そう言う。紺野がよく知っている、真希の仕草。その、感情の読めない目も、その癖いつも肌に感じる威圧感も、真希のものだった。
「相変わらずですね」
「そうでもないよ」
紺野の言葉に、真希は表情を変えることなく言った。紺野にはその言葉は些か意外だった。しかし詮索などしている暇は無い。
「陛下がお待ちです。こちらへ」
声が周りの宿泊客や従業員に聞こえないよう、低く潜めて言ってから、歩き出す。それに真希も続いた。
「しかしホテルに呼び出されるとはね。女王様がこんなところにいるなんて知れたらさぞかし大変だろうに」
「あなたを王宮に入れるわけにはいきませんからね」
歩きながら話す。真希は平然としていた。相変わらず何もかもに無関心な目をしている。紺野は、そんな真希に常に注意を払っていた。
紺野と真希の関係は少し複雑だった。紺野がまだ密偵として未熟だったころ、まだ王宮にも雇われていなかった時分に二人は出会った。
国は荒れ、共和派の反政府組織は大きな勢力として常に政府の脅威でありつづけた。血みどろの市街戦も幾度となく展開され、まさに国は内戦状態に陥っていた。真希はそんな反政府組織に雇われたアサシンとして、次々に政府要人や、王室派の密偵を暗殺していった。
あさ美は、その頃の「死神」と言われた真希につき、直接様々なことを教わったのだ。謂わば真希はあさ美の師匠にあたる。
あくまで仕事の一環というスタンスで結ばれた師弟関係は、紺野が成長すると自然に解消された。そして後に、王宮に雇われることになった真希とあさ美は敵対することになる。
「最近はまったく仕事をしていないと聞きますが?」
「してないね」
「どうしてですか?嘗て死神と恐れられたあなたが」
「べつに。最近平和だからね。フリーの殺し屋なんかじゃ食いっぱぐれるから」
紺野には、すぐにそれが口からの出任せであるとわかった。
あさ美が王宮に雇われてから、つまりさゆみが王女として実権を握ってから、戦局は一気に変わった。次々と反政府組織は潰され、僅か数ヶ月の間に内戦状態にあった国内は平定された。そのとき、闇の中心にいた真希も前線から姿を消したのだ。
彼女は、しばしば雇い主を変えたことはあったが、報酬の金額によって変えるということはなかった。もしそうであれば王室が真っ先に彼女を雇い、一気に国を平定していただろう。彼女は酷く気まぐれだった。
「それを聞いて安心しましたよ」
「というと?」
「陛下は報償には糸目をつけないと仰ってましたから」
「ふぅん…」
嘗ての師と、敵同士になり、そしてまた、今度は雇い主として真希に会う。紺野の胸中には不思議な感覚があった。誰よりも真希の強さを、その冷酷さを知っている。そして、真希が如何に危険な人物であるかもよく知っていた。
心配な事がある。数日前、嵐の夜のさゆみの様子、それが今紺野にとって最も心に蟠る一事だった。あの夜、さゆみは酷く不安定だった。いつでも冷静さを失わないさゆみが、王女として天性の手腕を持つさゆみが、あの夜だけは、嵐に怯える少女のように儚かった。
さゆみが政権を握ってから、紺野がそんな王女を見たのははじめてだった。そんな風になった理由に、何も思い当たることがない。それが一層紺野を不安にさせた。
今、真希とさゆみを会わせることが、さゆみに悪影響を及ぼさなければいいが…。それ程、真希は紺野にとって危険な人物だった。
「こちらです。陛下に会う前に、刀は預かりましょう」
紺野が真希に手を差し出す。真希は無言で、懐に仕舞ってあった一振の刀を差し出した。
「もう一本あるでしょう?あなたは二刀使いのはずですから」
「一本は人にあげた。だから今はそれしか持ってないよ」
紺野は真希の目を見た。嘘を言っているのかそうでないのか、真希の目からは何も読み取れない。真希が紺野以上の実力者である、という以前に、それは真希の特質でもあった。
ただこの場で真希が嘘をつく理由はない。紺野は仕方なくそう判断し、王女の待つ部屋の戸を開けた。
さゆみは、じっと真希とあさ美の入ってきたドアを見つめていた。
「後藤真希を連れてまいりました」
紺野が告げ、真希を前に促す。真希は、相変わらずの無表情でさゆみに一礼し、王女の前に歩み出た。
「ありがとう」
さゆみの目と真希の目が、暫くの間じっとお互いを見据えていた。
102 :
名無し募集中。。。:2005/07/30(土) 17:48:48 O
携帯から、さゆ
ごっちんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
从*・ 。.・)
さゆみは一目で真希に対し警戒を強めた。見透かせない目をしている。その目を見ただけで相手のことをすべて見透かせるはずのさゆみの目にも真希の内側は見えなかった。
絵里とは種類が違う。絵里がさゆみの光を全て飲み込む闇の目をしているとしたら、真希は、さゆみの光を全て透かしとおしてしまう、霞のような目。
「率直に言うわ。あなたにして欲しい仕事があるの」
真希がまだじっとさゆみを見ていた。
「殺し屋、亀井絵里を暗殺して欲しい。これはあなたにしか出来ない仕事よ」
さゆみの言葉をすべて聞いてから、真希は目を閉じ、こめかみを掻いた。
「はぁ」
わざとらしい溜息を吐く。
「亀井絵里のことを知ってる?」
「まあ、聞いたことくらいはね」
「あなたの妹…田中れいなを殺したのが亀井絵里だってことは?」
真希の全身を覆う空気が変化した。どんな感情かは、さゆみにもあさ美にも読み取れなかったが。怒気とも殺気とも違う。紺野の刀のつばがカチリと鳴る。
「それなりに事情は知ってますよ。あたしも一応は地下で生きてる身なんでね」
真希の雰囲気が変化したのはごく一瞬で、すぐにその空気も紛れてしまった。紺野は静かに息をついた。さゆみは真希を挑発している。感情を出させようとしたのだが、それは危険なことだ。
「あなたは暫く仕事をしていなかったそうだけど、どうかな?報酬は言い値で出すわ。悪くない仕事だと思うけれど。もちろん、成功したらの話だけどね」
あさ美は真希の横でさゆみの言葉を聞くごとにハラハラした。さゆみの悪い癖だ。
真希は相変わらずこめかみを掻きながら、話を聞くでもなく聞いている。
「そのことなんですけどね、王女サマ」
真希が口を開いた。
「妹は何で死んだんでしょうね?」
「……」
「このあいだ殺された連中は皆それなりに地位や社会的立場があったし、死ぬことで王室に多少なりと利益があったみたいですね」
「後藤さん!!」
あさ美が慌てて叫んだ。さゆみはつと黙り込む。真希の言葉の中に間違いはない。
「反政府組織の裏切り者なら他にも沢山いた。あえてその人たちを選出したのは今、直接利益を生むことができたから。只一人、あのメンバーの中で、ただの一介の殺し屋だった妹を除いてね」
さゆみが口をむんぐと結んでいるのを見ながら、真希は尚も続けた。
「まるで、『亀井絵里』にわざわざ殺させたみたいな、ね。わざわざ、誕生日の次の日に船を出すようにしていたのも、連中が一同に集まるパーティーを利用して、殺させやすくしたみたいだ」
「…随分、知っているのね。でも空想が過ぎるわ」
「何で妹はそのリストに入っていたんでしょうね。妹は社会的地位なんてない、ただの殺し屋だ。妹が死んだことで得た利益なんて無いでしょう?それがずっと不思議でね」
紺野が瞬時に刀を抜き、真希の首元にその切っ先をあてがった。部屋の空気が、一挙に緊張感を増す。
「口が過ぎますよ。後藤さん」
真希は微動だにせず、横目で紺野を一瞥してからまたさゆみに向き直った。
「紺野」
さゆみに言われ、しぶしぶ刀をおろす。真希はまた口を開いた。
「別にあたしは、だからどうこうって気はないですよ。ただちょっと不思議でね。…妹が亀井絵里に…『石川梨華』に殺された理由が…」
石川梨華の名前に、さゆみ、紺野共に違和感を覚えた。それよりも今、真希の考えていることがまったく解らないことが酷く不気味だ。
既に敵意をむき出しにしているあさ美と、唇を閉ざして真希を睨みつけているさゆみ。既に契約の雰囲気では無かった。しかし真希が不意に笑みを漏らした。
「そんなに警戒しなくてもいいですよ。別に仕事を請けないって言ってるわけじゃないんだ。ただ仕事をする前には知っておきたいんでねぇ。どうですか?王女サマ」
さゆみがすっと息を吸い込んでから言った。
「田中れいなは組織側の強力な密偵として、彼らにとって重要な人物だったわ。彼女が改心したことで、組織の士気を下げる効果を期待した。それで渡航のリストに入れたの。彼女のことは、残念だったわ…」
「…なるほどね」
室内の緊張感は僅かだけ緩んだ。真希は少し考える仕草をしてから言った。
「興味はありますよ。最強だっていう亀井絵里に。前線を退いた身ですけどね。戦ってみたい気はある。ただ、もう少しだけ考えたいんで、返事はまた今度にしたいですね」
「……わかったわ。いい返事を期待してます」
真希はさゆみにニコリと微笑んだ。
「じゃあ、失礼します」あさ美から自分の刀を受け取ると、そういって真希は部屋を後にした。
部屋に残されたさゆみとあさ美には、何ともいえない空気だけが残った。王女に対する真希の態度は、ふてぶてしく、あさ美の血圧は上がっていた。コケにされたような感覚。
さゆみは一向そんなものは気にしてはいなかったが、それよりも不気味な雰囲気を纏った真希を捉えかねていた。手応えもない。
「やはりあの人を連れてきたのは間違いだったかもしれません…」
あさ美が呟いた。しかし、どちらにしても絵里に対抗しうる力であるのは間違いないのだ。
冷静さを欠いているあさ美に対して、さゆみはあくまで冷静だった。
「実力は…確かにありそうね。ただ、油断できない人物だわ」
「はい…」
「断る可能性はあるかしら」
「わかりません。昔から、彼女は何を考えているのかわかりませんでした。ただ…亀井絵里に興味を持っているというのは、どうやら本当みたいですね」
「後藤真希を計算に入れるのはやめるわ。彼女が仕事をしてくれるなら、それでいい。ただ信用には値しないの」
「そうですね」
「別の策も練っておく必要があるわ」
「…はい」
さゆみの思考は複雑だった。真希は確かに只者ではない。
絵里を倒せるだろうか。それはわからない。でももし真希が仕事を請けたとすれば、絵里の死の可能性を遥かに増すことになる。真希によって絵里が殺される。それが今本当に私の望んでいることなのか…わからない。
さゆみの不安定な心は、顔に出さない今も続いていた。れいなのことを尋ねられたとき、さゆみの心には激しい波がおこった。
またれいなのことを思い出す。さゆみにとっても、絵里にとっても大切な友達だった。そのれいなを、殺したのは、絵里と自分であることは間違いではない。今更、後悔しているのだろうか…
真希はホテルを後にし、街外れの小さなビルの一室に戻っていた。
「ただいま」
「おかえり、ごっちん」
出迎えたのは、亜弥という名の少女だった。真希が闇の仕事から離れてから、一緒に暮らしている。亜弥も嘗て闇にいた人物だが、今は手を引いていた。
「どうだったの。噂の王女サマの依頼は。王女サマ綺麗だった?」
亜弥がニコニコ笑いながら訊く。真希もへらっと笑ってみせた。
「うん。そぅとぉ美人だったよ」
それを聞いて亜弥がぽてっと頬を膨らませる。しかしそれも直ぐに引く。
「で、どうだったの?依頼は、やっぱり亀井絵里の暗殺?」
「うん」
「請けるの?」
「あは、まさか…依頼なんか関係ないよ。れいなを殺した亀井絵里はどっちにしてもあたしが殺るから、ね」
「れいなちゃん、か…」
明るい調子でいう真希に、亜弥の表情は少しだけ曇った。真希の表情に、かつての死神の片鱗が見えた。
「それにね、あと二人、れいなの墓前に手向ける首が見つかったよ」
変わらず笑顔でいう真希に、亜弥は少し恐ろしくなった。
「…誰?」
「亀井絵里でしょ。それと直接命令を出した、石川梨華」
「石川梨華って、ごっちんの…?」
「うん、大昔のパートナー」
真希は自分の刀を取り出すと、それを抜き、刀身を翳しながら言った。
「……あと一人は?」
「うん、…王女さゆみ」
真希は口元に薄ら笑いを浮かべたまま、その名前を口にした。
110 :
名無し募集中。。。:2005/07/30(土) 20:56:17 0
イイヨイイヨー
面白くなってきたなぁ
112 :
名無し募集中。。。:2005/07/30(土) 21:27:22 O
王女もか…
エロ小説しか読まなかった僕ですがハマリました
えりりんvsごっちん激しく楽しみ
115 :
名無し募集中。。。:2005/07/30(土) 23:02:34 0
ノノ*^ー^)<ほぜんですよ?
保全
ほ
ho
119 :
名無し募集中。。。:2005/07/31(日) 03:25:05 0
age
テンポがいいね
角川スニーカー文庫辺りの人より上手いんじゃないか
122 :
名無し募集中。。。:2005/07/31(日) 07:23:03 O
こりゃ面白くなってきたわ
ミラクルの「何でこんなに…」のとこで泣いたぽ
てか作者何者?今まで何書いた人だ?
123 :
名無し募集中。。。:2005/07/31(日) 09:48:38 O
面白いね
みきよしや中澤姐さんも登場するのかな?
れいなが早くも退場したのは残念だけど
124 :
名無し募集中。。。:2005/07/31(日) 11:15:26 0
でも何故か存在感はあるれいにゃ
125 :
名無し募集中。。。:2005/07/31(日) 12:07:58 0
ho
ほしゅ
ホシュ
128 :
名無し募集中。。。:2005/07/31(日) 16:04:55 0
age
保全
130 :
名無し募集中。。。:2005/07/31(日) 17:59:47 0
期待しつつ保
保全
hoze
ほ
134 :
名無し募集中。。。:2005/07/31(日) 20:52:06 0
あげますよ
メントスひっでぇ
ほ
ごっちんがイっちゃっててオモシロス
絵里は朝から上機嫌だった。さゆみに会える。
この日、首都圏に程近いとある都市が、発祥150周年の記念式典を行う。それにさゆみが特別に参加することがわかったのだ。誕生パーティー以来、さゆみが公の場に登場するのは久しぶりだった。
夜にさゆみのもとに訪れることが出来るかは、まだ分からない。しかしともかく、さゆみの姿を見れることが、それだけで絵里にとって嬉しいことなのだ。一緒にいられる時間があれば、尚のこと。
小春はそんな絵里のことを不思議そうに見ていた。朝いつもなら自分の方が早く起きて朝食の準備をするのに、今日はすでに絵里が台所に立っていた。鼻歌らしき独り言をつぶやきながら。
「亀井さん、今日はどうしたんですか?随分嬉しそうですね」
「んー?」
ニンマリと笑って振り返る絵里。
「べーつにー。何にもないよー。あご飯作るからちょっと待っててね」
ますます分からなくなる小春だった。
嵐の夜の次の日から、小春はときどき絵里に剣を習うようになった。ところが絵里はその殆どが我流で、理論もへったくれもないために小春にはちんぷんかんぷんだった。
絵里は物凄いスピードで動く。視界から消えたと思ったら背後から刀がニョッキと出ていて「やってみて」と笑顔で言われたって、できるわけがないのだ。
梨華はそんな絵里に呆れかえって、絵里と共に彼女自ら基本を教えることにした。
「まったく…絵里の動きって、無駄が多すぎるのよ…。田中れいなに何を教わってたの…?」
梨華が絵里にそんな風に言ったことがあった。不意に絵里は仏頂面になってしまったのが小春には不思議だった。田中れいなという人物のことを小春は知らない。
「…れいなは、教えたがりだったんですよ」
絵里はそれだけ言って、すぐに小春の指導に戻った。昔れいなに言われたことを(何一つ絵里自身は実践していなかったが)思い出しながら、丁寧に小春に教えた。
小春の成長ぶりは梨華も絵里も目を見張るようなものだった。身体能力は高く、飲み込みも早い。そしてなにより状況判断力があって機転がきいた。絵里はそんな小春を複雑な思いで見つめ、教えていた。
そんな風にして、小さな風が立ち始めた予感だけを感じる、穏やかな数日が過ぎていた。
だからこの日の特に上機嫌な絵里のことが小春にはよくわからなかった。
絵里が自信満々に差し出した、なにやら得体の知れない料理を一口食べる。それまでの思考が中断され、ただひたすら思った。
これから絶対、食事は自分が作ろう、と。
蒼褪め引きつった顔で「おいしいです…」という小春に、絵里はうれしそうに笑ってみせた。
「さーてと、そろそろ行こうかな…」
自分のつくった料理を小春がすべて平らげるのを見届けてから、絵里が言った。破壊的な料理に魂の抜けかかっていた小春も、その言葉に引き戻される。
「あれ、今日もどこかにいくんですか?」
「うん、今日は…S市のお祭りに」
「あー、そういえば今日ってS市の150年式典でしたね。わーいいなー。出店とかあるのかな」
「どうだろうね。でも結構おっきなお祭りみたい」
何せ王女が直々に訪れるような祭典なのだから、そうだろう。それを聞いた小春が表情を輝かせる。
「亀井さん、あの…私もいっちゃ、だめですか…?」
小春は少し不安そうに絵里に尋ねた。もし絵里が仕事でいくのなら、足手まといになるし付いていくわけには行かないのだが、今日は絵里に仕事はない。
初めて仕事をしてから、梨華によって一応絵里のパートナー見習いということにされた小春は、絵里の仕事のことも把握しておくようになった。
ただの遊行なら、自分もいってみたい。ただ絵里が誰かと遊びに行く姿なんて想像もできなかったから、嬉しい返事など期待はしていなかったのだが。
「ん?いいよ、一緒にいこっか」
絵里が一瞬キョトンとしたあと、特に気にする風もなくそう言ったのを聞いて小春は花のような笑顔になった。
「ありがとうございます!!あっ、準備してきますね!」
部屋に駆け込んだ小春の背を見ながら「小春はお祭り好きだったのかぁ」などと、トンチンカンな感想を漏らす絵里だった。
とんちんかんえりりんキャワス
更新キテター
1日中待ってたぞー
さゆみは里沙と共に、車でこの日の式典会場であるS市に向かっていた。公に開かれた式典であり、カメラクルーもかなりの数が入るため、紺野は同行できない。里沙が紺野に対して優越感を感じられる数少ない場面だ。
それにしても、里沙には悩みの種が多くあった。
王室と長年にわたって関わってきた財界の大物であった山崎氏が暗殺されたのが、先週の嵐の夜。経済界にも、また国民の間にも多大な波紋を生んだこの第二の事件に、さゆみは全く腰をあげようとしなかった。
「陛下、ヤバイでしょう…。27人事件に続いて山崎会長まで…。そろそろ本格的に、組織の掃討に乗り出すべきだとおもいますが」
さゆみはそれを聞いて、面白くなさそうに窓の外に視線をやる。
「まだ、時期じゃないわ」
「しかし山崎さんは王室にとっても大事な財源だった…」
「新垣はそう思う?私はあの男が死んでよかったと思ってるわ。犯人側に感謝してるくらい」
それを聞いて里沙の眉毛は飛び上がった。車内なのだから、だれも聞いているわけはないのだが、それでも辺りを見回してしまう。
「陛下、お慎みください…」
「私は早くあの人と関係を絶ちたいと思ってたの。王室と財界との何代ににも渡る癒着。そんな悪しき伝統を早く無くさないと、真にいい政府にもならないし、国民の信用も得られないわ」
さゆみは飄々という。里沙は溜息をついた。
「仰ることは最もです。陛下が先代までに残された王宮の毒を吸い出そうとしていることはよくわかりますが…実際に山崎グループの株価が暴落したりで、混乱状態になってるんですよ」
「平気よ。そりゃ、一時的にあそこはダメージを被るでしょうけどね。頭でっかちで無能の山崎会長が居なくなった方が、将来性があるわ。若い優秀な人材は持ってるんだから。それにあの企業が独占してたいくつかの市場で競争が始まる。
国にとっては、長期的に見ればいいことばかりよ」
そう言い張られてしまったは、ぐぅの音も出ない里沙。確かにさゆみの目指したものはこれまでの悪習の棄却であって、山崎会長の死と、それに伴う癒着の解消はいいことなのかもしれない。
しかし、一人の人間が殺されたことによって生まれた状況、それを「いい事」としてしまうことに里沙には抵抗があった。どこかしら、狂っているという気がしてならない。
「それじゃあ、このまま犯人追求にも力を入れないおつもりですか?」
そう言った里沙の顔をさゆみはじっと見つめた。ドキリとする。あまりにも美しいさゆみに見つめられると、誰でもそうなるものなのだ。一部の例外を除いて。
「犯人は反政府組織の者であることは目星がついてるのよね?それならそのことは紺野の範疇よ。あなたが気にする必要はないわ」
言われて里沙もつと黙りこんでしまった。ここでも紺野あさ美だ。
「それよりもあなたには諸外国のことを注意していてもらいたい。治安が安定して数年…やっとこの国の信頼が得られそうになってきたとき、これだもの。何か動きがあるかもしれないわ」
そう言われてしまっては、里沙には反駁の余地も残されていない。里沙自身にもしっかりとすべき仕事はあるのだ。所詮あさ美とは種類の違う人間。
「…分かりました。十分に注意しておきましょう。確かに不穏な空気が無いわけではありません」
さゆみはその返事を聞き満足そうに微笑んだ。その顔を見られただけで、全てがよかったような気がしてしまう。さゆみの、魔力なのかもしれない。里沙はぼんやりとそんなことを考えた。
暫くの沈黙。里沙が口を開いた。
「今日のS市のセレモニーのことを紺野が随分心配していました。地下組織の動きが俄かに活発化している中で、陛下の御身にもしものことがあるのでは、と。先王のこともありますし…。しかし、陛下。この新垣、命に代えても陛下をお守りしますので、どうかご安心下さい」
それを聞いてさゆみはフッと笑みを漏らした。
「私は父上のように殺されたりはしないわ。でも、ありがとう。頼りにしています」
里沙は典型的な文官で、紺野のように常に臨戦態勢にあるわけでもない。護身術は収めてはいるものの、それほど優秀というわけではなかった。だからこそ、さゆみには里沙の言葉が嬉しかった。
里沙もあさ美同様、さゆみが政権を握ってから取り立てた人材だった。彼女は人一倍さゆみに忠誠を誓いよく働いてくれた。さゆみは文官として天才的な手腕を持つ里沙を、あさ美とは違う意味において信頼していた。
セレモニーの会場に近づくと、物凄い人の波と陽気な音楽が聞こえてきた。
本来なら厳粛に執り行う式典なのだが、王女の来訪を喜んだ地元市民たちが、独自に盛大な祭りを開催したのだ。それほど王女は人気があった。わざわざ王女の姿を一目見るために遠くからやってくる人も少なくは無い。
普段はひっそりとした港湾都市であるS市はこの日、異様な熱気に包まれていた。
登場人物はもう増えないかも…出ても斬られ役とか…ゴメソ
昨日更新した時点でミラクルさんの存在をすっかり忘れてたくらい
もう訳わかんなくなってきてるので…
147 :
名無し募集中。。。:2005/07/31(日) 23:57:35 0
乙です今ぐらいが読者としても把握しやすい
いったん浮上させておきますね
いちいち上げるなよ
まさか下から順番に落ちると勘違いしてないよね
150 :
名無し募集中。。。:2005/08/01(月) 00:31:14 0
人のこという前に自分の名前欄直せよ
リo´ゥ`リ<けんかはやめて〜
乙かれー
乙です
クォリティ高ほ
保全
ほ
ぜ
む
ほ
わくわくする
ほ
「うわぁ…凄い…」
小春は思わず声を漏らした。S市に入った途端、埋め尽くされる人、人、人。
S市の内輪な行事のはずなのに、どうかんがえても普段S市に住む人口を遥かに上回っている。市街地も大変な活気で、商店街やショッピングモールは目が回るほど忙しそうにしていた。
街の広場や空き地には所狭しと出店が並び、完全に夏祭りの様相だ。
これもすべてさゆみのお陰だった。
さゆみは午前中、市のホールでセレモニーに出席している。このセレモニーも出席の希望者が信じられない数にのぼり、抽選まで行われた。
セレモニーの終了後には、さゆみは市長に案内され、S市の市内や、寺社めぐりをすることになっていた。このため、さゆみを一目みようと、近隣都市はおろか、遥か遠くからも訪れる人が後を断たなかったのだ。
至る所でさゆみの写真や、グッズが売られている。「王女様命」等と書かれた鉢巻を巻き、さゆみの写真入を団扇や、はっぴを来た一団が、本当に石を投げれば当たるくらいいた。
あまりにも異様な光景に小春の表情は引きつっている。その横で絵里は(あ、あの団扇欲しい)などと暢気に考えていた。
「それにしても凄いね。こんな賑やかなお祭りだとは思わなかった」
絵里が笑顔で小春に話しかける。すると引きつっていた小春の顔も途端華やいだ。
周りは関係なく、今絵里と一緒にお祭りにこれたことが本当に嬉しいことなのだ。
「そうですね。びっくりしました!」
「これからどうする?」
「えっと…取りあえず何か食べませんか?」
小春が眩ゆい笑顔で言うのを聞いて、絵里も微笑み頷く。お祭りといえば屋台めぐり、そんな公式が小春の頭のなかにはすっかり出来上がっていた。
絵里は、祭りの会場に仕事をしにきたことはあっても、祭りを楽しんだことなど一度も無かったが。
昔、仕事でれいなと一緒に来たことはあった。仕事だというのに何が楽しいのかれいなはやけにはしゃいでいたものだった。今、そんなことを思い出すとやけに懐かしくて、祭りも悪くないと思い始めていた。
小春に手を引っ張られ、人ごみの中に紛れ込んでいく。小春は本当に嬉しそうだった。やっぱり、小春は祭り大好きっこだな、と妙に得心した絵里は、繋がれた小春の手の温度が上がっていることには気付いていない。
ともすれば逸れそうになるくらい、人いきれの波は凄まじかった。小春は小さな身体を巧みに使って人の間を潜り抜けていく。絵里もそれにならった。
人ごみや、狭い場所にいると絵里の心は落ち着いた。絵里がいつも人の命を狙っているのと同様に、絵里の命も常に狙われている。刀で襲ってくる相手に対して、絵里にはらんら対処の必要は無かった。絵里は、自分に向けて襲ってきた人間を、殆ど反射的に斬る。
しかし、遠くからの狙撃には充分な注意が必要だった。いち早く相手の殺気を感得しないことには、弾丸をかわすことは出来ない。
人ごみにいればその心配は薄れた。絵里は背が低いから、周りに人がいるだけで人間の盾にすることが出来る。はっきりとそんなことを意識しているわけではないが、人ごみが落ち着く理由は正にそれだった。
今日の絵里の本来の目的はさゆみである。しかし、さゆみが出てくるのにはまだ時間があることを、周りの人の話から知った絵里は、前を嬉しそうに歩く小春の背を見ながら、今、この時間を楽しもうと思った。
不思議な感覚だった。絵里には、さゆみといるとき意外に「楽しみ」を感じたことなど無かった。喜びを感じたこともなかった。れいなと一緒に居た時も、一度も楽しいと実感したことなどない。
絵里には「楽しみ」が一体何なのか、わからなかった。今この瞬間も、自分が楽しいのかどうか、わからない。しかし楽しみたいと思った。小春の姿を見ていると、楽しさや嬉しさが、自分にも分かるのではないかと思える。
今思えば、れいなと居た数年間は、楽しかったのかもしれない―――
「遅いよごっちん!早く!」
一方同じS市の同じ祭り会場で、声を張り上げているのは亜弥だった。後に続いた真希が疲れきった声で言う。
「熱いよー…亜弥ちゃん、ちょっと休もうよ…」
「何言ってんの!まだ30分も歩いてないじゃん!」
「だってさ、人多すぎ…」
「人が多くてこそのお祭りでしょ!?」
この二人も祭りに来ていたのだ。真希は亜弥に引っ張られていやいやだったが。普段から無気力な真希の顔は、本当に気力を使い果たした憔悴した顔になっている。只でさえ炎天下。そこにむさ苦しい男たちが大量にいるのだから無理もない。
「何で亜弥ちゃんはそんなに元気なのさ…」
「何言ってるの。祭りよ!祭り!それに王女様も見れるっていうしー」
「王女様ならこの間会ったしなぁ…」
「だから、ごっちんばっかりずるいじゃん!王女様って超キュートなんだもん。生で見れるなんて感激!」
「……亜弥ちゃんって、ミーハーなのね」
真希は人からよく「何を考えてるのかわからない」といわれるのだが、真希にしてみれば亜弥のほうがわからない。そもそもなんでS市の記念式典の余興みたいなお祭りに(といっても規模はすさまじが)わざわざ浴衣を着てくるんだ…。
「あー、チョコバナナ食べたい!ごっちん、チョコバナナ!」
はしゃぐ亜弥の声に、真希は大仰に溜息を吐いた。
「はいはい、チョコバナナね…。買っといで…」
正午に近づき、日はさらに真希を苦しめるみたいに燦燦と輝き出した。
(;^▽^)<ちょっとあんたたち、どんだけ暇人なのよ!
乙保
ミラクルイイネー
小春オタになりそう・・・
いつも続きを期待してますほ
ワクテカ
ho
173 :
名無し募集中。。。:2005/08/01(月) 22:43:30 0
ほしゅ
ほ
ほ
177 :
名無し募集中。。。:2005/08/02(火) 01:34:06 0
おそらくヲタの罵り合いだろうと思って開いたこのスレ
オモスレー!一気に読んぢゃった
深夜のho
ホシュ
保全ですフォー!!!!!!!!!!!
( ´ Д `)<おまいら皆殺しだぽ
ぽ
ほ
わくわくほ
185 :
:2005/08/02(火) 13:31:57 0
_ ∩
( ゚∀゚)彡 続き!続き!
⊂彡
ほ
ぜ
188 :
05001030295856_ad:2005/08/02(火) 16:35:13 O
ホ
189 :
:2005/08/02(火) 17:14:42 0
ゼ
( ^▽^)<37564!
ほ
紺野はこの日、他にすべき仕事があったにもかかわらず、S市に来ていた。仕事はすべて部下に任せて。
王女が心配だった。先日の嵐の夜から紺野の内に蟠って抜けない不安が、昼夜彼女を苦しめた。もし王女の身に何かあれば、生きていくことなどできない。
ましてや、そのとき王女の側に自分がおれず、盾になることも叶わなかったというなら、尚更のことだった。
さゆみの側に居ることは出来ない。それならばせめて、さゆみを見守り、非常時には少しでも早く彼女の元に駆けつける必要があった。
さゆみを殺させてはいけない。先王のように……
先代の王は、今日のさゆみと同じように街に降り立ったとき、何者かによって射殺された。過激派の反政府組織の仕業だろうと目されていたが、結局犯人は捕まらなかった。
思えばこのことが、すべてのきっかけだった。
先代の治世、この国は内戦状態にあった。諸外国で次々と王政打倒の報せが届くや、国内の民主派、共和派の活動も勢いづき、激しい抵抗活動を繰り返した。国民の多くもその活動に賛同し、もはや王政打倒も目前まで来ていた。
国王は組織の掃討を銘打って国内に軍を出し、市街戦を展開した。無関係な市民までが次々に犠牲になる。その惨状に、国王はあまりにも無頓着だった。
王室の支持は低下の一途を辿り、反政府組織は正義の味方のような扱いを受けた。市街戦やゲリラ戦に慣れない国王軍に対し、組織側は真希のような人材を擁し、国王軍を追い詰めていった。
諸外国も、民主派の国と王党派の国とに別れ、次々と干渉し、正に泥沼の状態だった。
そんな、民主派の圧倒的有利の戦局を一転させたのが、皮肉にもこの国王暗殺だった。
組織側はそれを完全勝利の証と考え、一気に王宮に攻め上る算段を立てていたのだが、国民の中には、王の死に罪悪感を感じずにはいられないものが少なくなかった。
そして、そんな民衆の中に微かに燻っていた忸怩の心を、一気に膨らませたのがさゆみの存在だった。
王の死に嘆き悲しむさゆみの姿がテレビを通して全国に報じられると、途端に国民は酷い後悔に襲われた。それは、そのさゆみの圧倒的な美しさによるところが大きいが。
組織の中にも、さゆみの首をも取り、王家の血を根絶やしにしようとする急進派と、さゆみを保護し、政府だけを掌握しようとする穏健派との意見の衝突が起こる。
それまで、殆ど一枚岩だった組織側の足場は俄かに緩みはじめていた。
さゆみは前王の死後、すぐに戴冠し、僅か12歳で新しい王となった。
誰もが予想だにしていなかった。さゆみが、これほどまでに天才的な手腕を持っていることなど。
意見の衝突から、組織が王宮を攻めあぐねている間に、さゆみは先ず市街から軍を撤退させた。度重なる市街戦にあえぎ苦しんでいた市民は、そのことを酷く喜んだ。
俄かにさゆみを支持する国民の声は強まっていく。さゆみは諸外国の干渉を退け、壊滅状態だった内省を立て直した。
家柄だけで何代も続いた政府要人を次々に退陣させ、あさ美や里沙のような才の在る若い人材を登用する。その間も、あくまで内乱を終結させたい、国内平和の訴えをマスメディアを通して行い国民の多くの心を掴んだ。
その一方で、軍に変わる組織、あさ美を頂とする密偵型の組織を秘密裡に常備し、分裂の兆しのあった組織の指導者たちを次々と逮捕していった。
こうして、王の暗殺から僅か7ヶ月。地下組織はその指導者の多くを失いバラバラに離散して壊滅した。さゆみが、内乱の終結を宣言したのが、その一月後。すでに国内にある組織は反逆者の残党と呼ばれ、国民は圧倒的にさゆみを支持していた。
さゆみは王朝始まって以来の神童と呼ばれ、誰しもがその前に頭を垂れた。
あさ美はそのときのことを一つ一つ思い出していた。
さゆみは全てにおいて完璧だった。一部の隙も無い。初めてさゆみに会ったとき、あさ美は心を奪われた。一生を捧げようと思わせるものをさゆみは確かに持っていた。
さゆみが政権を握ってからの3年余り、国内はそれまでが嘘のように平和になった。それが今、小さな揺るぎをみせているような…。不気味な感覚があさ美を苦しめる。
就任以来さゆみの弱い姿を一度も見たことが無かったあさ美にとって、その予感は妙なリアリティを持って襲い掛かる魔物だった。
S市のある高層ビルの上であさ美はじっとさゆみが出てくるのを待っていた。この場所からはある程度市内が見渡せる。眼下に見える無数の人たちは、お祭り気分に酔いしれ、さゆみがセレモニーを終えるのを今か今かと待ちわびていた。
僅か3年。国民は皆、平和の感覚に浸りきっている。
さゆみの身に何かがあるという可能性は極めて低かった。先代の時世とは状況も違う。すべてはあさ美の取り越し苦労となることが充分に予想された。
あさ美自身も切にそれを願っている。
梨華を中心とした反政府組織は、国民の支持が得られない今、そうして表立って行動することに何の意味もない。もし今、王女を暗殺でもしようものなら、全国民が一丸となって組織を叩き潰すだろう。
しかし、もう一つ可能性があった。それは、王女を信望するあまり、妖しげな宗教法人の体をした、さゆみの狂信者たちだった。その数は年々増えている。彼らには理屈などない。
或いはさゆみに危害を及ぼす恐れが、無いとは言えなかった。
紺野は思考をいったん中断させ、深い溜息を吐いた。
自分でも、心配のし過ぎであると分かっていた。眼下の人々は平和に浮かれ、何も心配事など無いように見える。それが、少しだけ羨ましかった。
一方で、そんなあさ美に比べれば本当に何も考えていない絵里は、小春と共に色んなものを食べ歩いていた。器用に人並みの間を潜り抜けながら。
小春は相変わらずはしゃいで、いろんな物に目移りする。絵里はといえば、食べ物があるだけで、あとは人が多いだけで、それの一体何が楽しいのやらまったくわからなかった。
しかし、小春は楽しそうにしている。いつも愛らしい笑顔を振りまく小春が、今日はその笑顔を何倍にも輝かせていた。
(むむ…、お祭りって奥が深いな…)絵里は考える。まさか、小春が、自分といられることでそんな風に笑っていることなど、予想の端にも上らなかった。
お祭りの楽しさを理解するには、絵里は圧倒的に経験地が足りない。
小春が、ある出店の前で立ち止まった。今日何回目のことかわからない。
目を爛々と煌かせてその屋台を見つめ、それから犬のような上目遣いに絵里の顔を見つめる。絵里の目にその屋台の昇りが映った。
「ん?射的?」
「ハイ!」
小春が嬉しそうに言う。今日の小春は、普段以上に子供っぽいと思った。でもそれも、悪くはない。
「あの、あれ!15番の景品が、すっごい可愛いんです!」
見ると15と書かれた札の上には小さな犬の縫いぐるみがちょこんと腰掛けている。この間、さゆみに渡したものとは、随分見てくれが違うけれど、なるほど、可愛らしいものだった。
また絵里の頭の中に、さゆみの顔が浮かぶ。
さすがにプレゼントはもう見ただろう。いったいどんな風に思ってくれただろうか。
それから、そのプレゼントを渡せたこともすべて、小春のお陰だったことも思い出す。彼女にも、きちんとお礼がしたい、そんな気がした。
「よし、じゃああたしが取ってあげる」
絵里が言うと、小春の表情は、弾けてしまいそうなくらいの笑顔になった。
「本当ですか!?」
「ていっても…私射撃って苦手なんだ。石川さんだったら簡単に落とすんだろうけどね」
「そうなんですか?」
「うん、石川さんはスナイパーだから。銃を握ると凄いよ」
「そうなんだ…知らなかったです、剣も教えて貰ってたから」
「あの人なんでも出来るからね」
さて、と絵里はおじさんににお金を私、コルク銃を受け取った。絵里は暗殺者ではあるが、剣意外はからきしダメで、銃も練習をしたことはあったが、れいなに呆れられて見捨てられるくらい下手だった。
とはいえ、今ここでは、小春の為にあの縫いぐるみを取ってあげたい。一晩徹夜までして縫ってくれた小春に、そんなことでお礼ができるとは思っていないが、せめて。
絵里が弾を込め、立てかけてある番号札に狙いを定める。小春が期待の眼差しで絵里を見つめる。
バンッという軽い音と共に放たれたコルクの弾は、明後日の方向に飛んでいった。
「……」
「……」
弾はあと2つある。絵里は無言で2つ目の弾を詰めた。お日様は随分と強い光を照りつけている。
絵里が再び狙いを定める。
もう一度放たれた弾は、今度は番号札の遥か上を。
「……」
「ま、まだあるからね」
絵里が慌てて言う。三度絵里が弾を込め始めたときには、小春は全く当たる気はしていなかった。だけど、それでも期待してしまう。
自分の為に一生懸命になってくれる絵里の姿が、それだけで堪らなく嬉しかった。
絵里は今度は直ぐには構えず、深呼吸なんかをして精神を統一している。その姿がなんともコミカルで小春は思わずクスクスと笑った。
絵里がむっとして振り向く。
「あ、当てるよ!今度は当てるから」
小春はそんな絵里に、柔らかく微笑んで見せた。もう当たろうが、当たるまいが、そんなことはどうでもいい。
絵里がまた狙いを定める。その表情はいつになく真剣だ。
また、バンという軽い音と共に弾が放たれた。
弾は緩やかに飛んでいき、札を倒した。
絵里が思わず拳を握る。小春も歓声を上げた。
「おっ、当たったねお嬢ちゃん。おめでとう!やぁ、一発目撃ったときゃ、こっち飛んでくるんじゃないかってビクビクしてたよ」
店のおじさんがそんな軽口を言いながら、景品袋を漁りはじめた。
絵里は満足感からか満面の笑みで振り返る。小春は思わずそんな絵里の背中に抱きついた。
「当てたのは22番だね。ほい、景品!またどうぞ」
それを聴いて凍りつく絵里。よく見れば、確かに自分は15番を倒してはいない。初めて標的を射損じた…
小春は、それでもいいと思っていた。何番でも、絵里がとってくれたものなら嬉しい。
しかし、おやじさんが差し出した景品を見て、小春の顔も凍りついた。
それは、某漫画アニメでおなじみの「ぬらりひょん」という妖怪のキーホルダーだった。
景品を受け取った小春は呆然とそれを見つめていた。他にもいろいろあったろうに、どうしてよりにも寄って「ぬらりひょん」なのか…
そもそも如何してこんなマニアックなものが景品の列にあったのかも、よくわからない。
そんな小春を見て絵里はひどく気まずくなった。
「あは、はは…やっぱ射撃って難しいね。今度石川さんに教えて貰おうかな…」
そんな気は毛頭ない。バカで不器用な絵里に剣以外のものが扱えるはずもなかった。
「あ、でもそれってよく見ると、結構可愛くない?ほら、なんか…小春に似てる」
デリカシーのかけらもない絵里を、小春はじと目で睨む。
絵里はただ苦笑いしながら、小さくなるしかなかった。
「うん…なんだ、その……ごめんね?」
小春の様子に、思わず小さくなって謝った絵里の姿を見て、小春もふと噴出した。
「そんな、全然怒ってなんかないですよ。亀井さんが小春のために取ってくれたんだもん…。私、すっごい嬉しいです!」
不意にもとの笑顔になっていう小春に、絵里はほっと息をついた。
(なんだ、小春もやっぱりちょっと似てるって思ってたんだな)
絵里の思考はだれにも読めない。しかし、それは只単に絵里がバカ過ぎる所為だとは、まだ誰も知らない。
小春は絵里がそんな風に考えていることは露知らず、そのキーホルダーを強く握り胸に押し当てた。宝物になるかもしれない。可愛くはないけど…
そのとき誰かが叫んだ。
「王女様が出てきたぞー!」
好き勝手動いていた人々が急に動き出す。物凄い勢いで移動を始める。ざわついていた辺りが、物凄い声になって音を掻き消した。どんどん人の層は分厚さを増し、ぼんやりとしていた絵里と小春は、あっという間に人波の中に飲み込まれてしまった
天然えりりんキャワワ
キテター
ho
203 :
名無し募集中。。。:2005/08/02(火) 23:37:31 0
保全ING
ageてしまった…orz
乙保
ほ
ぜ
ん
出かける前の保守
出勤前の保守
ho
212 :
:2005/08/03(水) 10:33:51 0
ze
んぁ
保
田
大
サ
|
カス
ワクテカ
ほ
ぅ
223 :
名無し募集中。。。:2005/08/03(水) 21:09:23 0
p
224 :
名無し募集中。。。:2005/08/03(水) 22:12:50 0
ho
ho
ほ
ほ
ほぉ
229 :
名無し募集中。。。:2005/08/03(水) 23:49:30 0
あげあげ
ho
「ああ、行っちゃったよ…」
先ほどの声と共に大移動を開始した人波。亜弥はその中に紛れてどこかに行ってしまった。ぽつんと取り残される真希。
そもそも、王女が出てきたといっても、セレモニー会場から出てきただけであって、この場所からは随分離れている。歩いて回るのだから、そうとう時間はかかると思うのだが…。
ともかく真希は一人でぼんやりとしていた。
「帰ろっかな…」
どうせ亜弥もいないのだし。
しかし勝手に帰ったら帰ったで、亜弥が怒り出すだろう。結局真希は適当に亜弥を探すことにした。
と、ドンという衝撃とともに誰かにぶつかった。自分よりも少しだけ小さい体。
「あ、ごめん」
振り返ると、女の子が尻餅をついていた。女の子、それは小春だった。
真希が手を差し出すと、少し困惑した顔で真希の顔を見つめ、それからその手を取って立ち上がった。
「すいません…ぼーっとしてて…」
小春が言う。
「いや、あたしもぼーっとしてたから…。熱いからね」
人の流れが、真希と小春の脇をどんどんと流れていく。小春は、どこにいくでもなく、そわそわと辺りを見回している。真希はじっと小春の目を見つめていた。
「もしかして、誰かとはぐれちゃったの?」
真希の言葉に、小春がぱっと顔を上げた。真希がじっと自分を見ていたことに気付き、少しだけ、恥ずかしくなった。
「はい…人ごみに巻き込まれちゃって…」
「あはっ、実はあたしもなんだよねぇ。いやー困ったもんだね、こう人が多いと」
「そうですよね…」
小春がまた沈んだ顔で俯いた。折角のデートなのに…そんな風に心の中だけで呟いて。勿論絵里にそんな気が全く無かったことは知っていたけれど、それでもよかった。
絵里に誰か、自分ではない『大切な人』がいることも知っていたけれど…。
真希はそんな小春を上からじっと見ていた。
感情が読みやすい子だなぁ。そんな感想を抱く。でも、真希はその目が気に入った。純粋で透徹した目をしている。
ちょっと、れいなに似ている――
「あ、どうもすみませんでした…」
そういって、小春は真希の前から離れようとした。真希が呼び止める。
「ちょっと」
「はい?」
膝を折って何かを拾い上げる真希。その手の中を見て、小春は慌てて引き返してきた。
さっき絵里にとってもらったキーホルダー。どうやらぶつかった拍子に落としたらしかった。
「君の?」
「あ、そうです。すいません、有難うございます!」
慌てて真希の手からそれを受け取る。危く無くすところだった。これは絵里にとってもらった、大切な物だ。
その何とも珍妙なキーホルダーを慌てて、大切そうに手にする小春の姿に、真希は何故だか楽しくなった。
「変わった趣味してるねぇ」
半笑で言う真希に、小春もどことなし、恥ずかしそうに肩をすくめる。
「でも、結構可愛いね、それ」
そういってあははと笑う真希は、一体本心で言っているのか、からかっているのかもよく分からなかった。だけど小春はそんな真希の笑顔を見て、綺麗だと思った。
どこか全ての物に対する冷たさを宿した目。何を考えているのか、全くわからないその目に、小春は絵里と同じものを見た。何か徹底したクールさが、真希の目を綺麗にみせた。
「ねえ、どうせこう人が多いと、探し人もそうそう見つからないからさ、一緒に回らない?」
「え?」
「あたしの相方も多分王女様が来たっていう方に流されてったと思うし」
言われて、小春は考える。絵里は人が動き出したとき、ふと目を放した間に人波に巻き込まれてどこかへいってしまった。絵里のことだから、今でもころころと人波の中を転がっているのだろう。
お互いに誰かを探している。しかも多分二人とも人が動いた方向にいるのなら、別にわざわざ離れて探す必要もない。この時小春は真希に対して、妙な親近感を抱いていた。
それから、王女様。
テレビや新聞などでは度々その姿を見たことがあるが、直接見たことは一度も無い。凄く綺麗な人だということは知っているが。
王女は自分たちの活動にとって、最後の敵になる人物だ。その手腕、荒れ果てていた国内を一挙に統治してしまった主君としての腕前は小春も充分に承知している。名君であることは疑われない。
しかしやはり、王政の打倒は行わなければいけない。制度として王の主権が認められている限り、先王のような傍若無人がいつ発揮されようとも知れないのだ。
王女さゆみを、一目この目で見ておくことは、今後に有益なことかもしれない。
「はい、じゃあ一緒に」
結論の出た小春は笑顔で真希に答えた。真希も笑顔を返し、二人は歩き始めた。
この時はまだ小春には、一部も真希を疑う気持ちなど無かった。彼女が全ての元凶になることなど、知る由も無い。
ワクワクドキドキ
あとで読む保
寝る保
ho
更新キテター
239 :
名無し募集中。。。:2005/08/04(木) 12:13:25 0
保守
ほ
241 :
:2005/08/04(木) 13:49:51 0
っ
し
ゃ
ほほい
のほい
ほ
HAPPY END STORYでお願いしますね〜
女王と王女の違いってなに?
女王は女の王様
王女は王族の女
でいいんだよね?
なるほど。
で、王様の奥さんはお妃様か
251 :
名無し募集中。。。:2005/08/04(木) 22:01:59 0
〃ハヾヽ
川VvV) /\__,ヘ ニャー♪
(|└┘|づ─∞ )) ノノハヽ|
‖_ ‖\〃 (´ ヮ`*从ー''〜
∪ ∪ ∞ (ノ(ノーヽ)
ほ
にゃ
ほぃ
寝ほ
256 :
名無し募集中。。。:2005/08/05(金) 02:36:49 0
ホス
ホシュ
258 :
名無し募集中。。。:2005/08/05(金) 04:42:37 0
ホッシュ
ほ
っ
け
262 :
:2005/08/05(金) 11:28:06 0
sage
ほ
し
す
な
の
し
ま
270 :
名無し募集中。。。:2005/08/05(金) 18:53:18 0
へ
小春とはぐれてしまった絵里は、人ごみの中をふらふらと歩いていた。
一応小春を探そうと、人の流れに逆流してみようとはするのだが、いかんせん圧しが弱い。そのため、流れにのせられてどんどんと運ばれていった。
さゆみの気配はまだしないから、さゆみがここに来ているということはないだろう。最もさゆみがこの場に現れたなら、この程度の騒ぎではすまないだろうが。今頃は式場から出て、ゆったりと街に向かって歩いていることだろう。
その時に間に合えば、別段問題はない。
しかしどんどん押し流されていく。小春も自分を探しているかもしれないと思うと申し訳ないのだが。
と、そこで逆流しようとしていた正面から、誰かに突き飛ばされた。というよりは、猛烈な勢いで流れてきたその人と正面衝突してしまったのだ。
「アイタタタ…」
顔面を抑えるその人と、尻餅をついた絵里。しかし周りではそんな絵里のことを気にする人もいなくて、今にも踏んづけられそうだったので直ぐに立ち上がった。
ぶつかった相手を見る。何故か夏祭り気分で浴衣を着た、綺麗なお姉さんだった。
「うぁー…ごめんね、君…」
謝りながら、顔を上げたその人が、絵里を見た瞬間凍りついた。その姿を見て、絵里の身体にも緊張感が走る。相手は、一見、お祭り気分の能天気なお姉さんだが、その実只者で無い気配を持っている。
「亀井…絵里…?」
その言葉が、その相手、亜弥から発せられたとき、絵里は素早く懐に隠し持っていた短刀を手に取った。自分の名前を知っている、それはつまり彼女も闇を生きる人間であることを意味する。
絵里が途端に殺気を放ったのを感じ、亜弥は慌てて制した。
「ちょっと、ちょっと待って…亀井絵里だよね?」
「……そうです。あなたは…?」
「私は松浦亜弥っていって…元あなたと同業の…って、そんなことはどうでもいいよ!」
亜弥の脳裏に最悪の場面が過ぎった。それは、はぐれてしまった自分のパートナーである真希と、今目の前にいる絵里が鉢合わせる場面。
今の真希は何をしでかすか分からない。長く一緒に居た亜弥でさえ、真希のことがよくわからなかった。今ここで絵里と鉢合わせれば、こんな白昼の人ごみの中でも、命のやり取りを始めないとは言い切れなかった。
最強の殺し屋と死神、そんな二人が喧嘩を始めれば、一体巻き添えを食って何人死ぬかわからない。
そんな場面を想像するだけで、亜弥の表情は蒼褪めていった。
「ちょっと来て!」
突然亜弥が絵里の手を取ると人の流れる方向へ歩き出した。
「え?えええ?」
訳が分からなくなる絵里。
目の前の人物、亜弥が只者ではないことは、自分と同業、つまり闇の人間であることで納得はいった。しかし亜弥には自分に対する敵意らしきものは無く、自分の命を狙いにきたのでも無いらしかった。
ならばそれでおさらばのはずなのだが、何故か手を取られて連れていかれようとしている。
「えっと、あの…何ですか?」
絵里が思わず尋ねると、亜弥が精一杯の作り笑顔で答えた。
「ほ、ほら!もうすぐ王女様が来るって!あたし見たことないからさぁ、楽しみで…一緒に見に行こうよ!現役バリバリの君の話とか興味あるしぃ」
「はぁ…?」
何かしら凄い勢いで捲くし立てる亜弥に、絵里は言葉の一つも返せず連れていかれた。
「や、でもですね…ちょっと人とはぐれちゃって、探さなきゃいけないんで…」
絵里が小さな声で言って、来た道を引き返そうとすると、また亜弥が手を掴んだ。
「だーめー!!!だめ、だめ!そっちに行っちゃだめ!!お化けが出るよ、怖―い怖い…」
何だろうこの人。暑さでやられちゃったんだろうか。そういえば顔もどこか蒼褪めていて体調も良さそうじゃないな。綺麗な人だけど変な人だ。
絵里はそんなことをのろのろと考えている間に、自分の身体が随分引きずられていることに気づいていない。圧しが弱い絵里は人の圧しにもめっぽう弱かった。
亜弥の勢いに流されるまま、気がつけば広場の外れまで来ていた。
「ホラ、いい加減そんなの仕舞ってよ!あたしは松浦亜弥。今は闇の仕事はしてない一般ピーポーなんだからね!」
絵里が先ほどから手に握っていた短刀を差し、亜弥がいう。
「はぁ…」
絵里はすごすごとそれを懐に仕舞った。
なんというか、よくわからない展開になってきた。そう思いながら。
>>248-249 なんというか、女王さまより王女さまの方がさゆっぽいかなっていう
イメージで決めてしまった。申し訳
一応蛇足説明というか、(この話にでてくる)みなさん、先代のときの王女さまの時代のさゆみの印象が強くて
愛称みたいな感じで王女様って呼んでる、みたいな
だから家臣の紺野とかは(女王)陛下ってよんでる、みたいな
我ながらひどいこじ付けだ
>>247 ノノ*´ー`)
275 :
名無し募集中。。。:2005/08/05(金) 20:59:50 0
乙〜
>>274 パタリロも本来は陛下だけど響きが良くないって理由で、タマネギ部隊に殿下って呼ばせてるよね^^
乙ほ
真希と小春はなるたけ人の少ない、日陰の多い道をセレモニー会場へ向けて歩いていた。
小春のたっての希望で人ごみのなかを散々探したのだが、絵里も亜弥もみつからなかった。そろそろ、暑さで顔に死相の浮いてきた真希を気遣って、二人はいったん人捜しを中断することにした。
小春の顔は浮かない。折角のお祭りも、絵里と一緒に居なければ意味が無い。それでも小春は前向きに考えることにした。この人ごみの中で絵里を見つけるのはそうそう出来ることではない。
それならば先に王女を見に行って、人が散ってから絵里を探すのも悪くない。今日は少ない時間だったけれど、それでも絵里と一緒にいた時間をすごく楽しむことが出来た。絵里が自分のために、キーホルダーもとってくれた。
「いやーしかし王女さまはすごいねぇ。こんな人を集めちゃってまぁ」
真希が小春に話しかける。先ほどから真希は小春に対してよく気さくに話を振っていた。寧ろ真希にとって興味があるのは王女ではなく小春だった。
「そうですね…凄い人だって思います…。この国を、平和にしてくれた…でも」
真希は話ながら小春の表情を逐一観察するうち、あることに気付いた。彼女はさゆみの魔力に囚われていない。さゆみの手腕や実力を認めながらも、冷静に全体を見ようとしている。
国民の殆どがさゆみに熱狂している中で、小春のような子供は珍しかった。
真希は話しているうちに、ますます小春のことに興味を持った。この子の目に、未来はどのように見えているのだろう。きっと光に満ちた世界が広がっているに違いない。
真希の頬にふと笑みが浮かんだ。
この子に闇を見せてみたい。強烈な憎悪や、絶望を突きつけてみたい。そのとき、この美しい目がどんな色に変わるのか見てみたい。或いは、それでもこの目が透明の光を湛えていたならば、自分のような闇の存在は真に消滅するだろう。
妹は、闇に飲まれて、消えてしまった。嘗ての相棒は、闇に飲まれて今彷徨っている。いずれこの手で、消すだろう。この娘は、どうだろうか。
「そういえば、君どんな子と来てたの?恋人?」
真希が面白そうに言う。小春の頬がほっと赤み刺した。
「いや、別に…そういうのじゃないです。先輩、そう、先輩です」
「へぇー、それにしちゃ、頬っぺた真っ赤だねぇ」
「からかわないで下さいよ…」
ふと、真希が顔を上げた。さゆみが来たようだ。そういう気配がする。さゆみの放つ存在感、空気はわかりやすい。それを感じたのだ。
「王女が来たみたいだよ」
呟いた真希に小春が不思議そうに辺りを見回した。誰も騒ぎ立てている様子はない。
「どうしてわかるんですか?」
その問いに真希はふふふと鼻を鳴らした。
「大きくなるとわかるよ。あはっ」
子供でも相手にするような物言いに小春は頬を膨らました。
それから、少し物思いに耽るような仕草をする。自分はまだまだ小さい。背丈も、想いも。まだ何一つ自分の力で成し遂げることができないのだ。
「私も強くなりたいな……亀井さんみたいに」
ふと、小春が口の中だけで呟いた言葉は真希の耳に微かに届いた。ようやっと辺りの人がざわめき始めた。王女が近くに来ていることが人伝に伝わってきたのだろう。
「亀井、絵里…?」
「え…?亀井さんのこと、知ってるんですか?」
「ん、いや…ちょっと聞いたことある気がして。どこでだったかな…」
小春はその言葉が少し腑に落ちなかったが、真希がニッコリと笑って話を絶ったのに流される。
「ほら、王女様きたみたいだから、いってみようよ」
「…はい」
奇妙な縁だと思った。この場所に、亀井絵里が来ている。そして王女が。この少女が絵里のことを先輩とよんだなら、それはどういうことだか、真希にもわかった。
面白い。この少女をれいなに似ていると思ったとき、その奇妙な縁に真希の背筋はぞくぞくと蠢いた。絵里とさゆみ、れいなの友人、だった。
人の群れがいよいよ騒がしくなって来た。殆ど叫んでいるような人もいる。もうすぐさゆみが現れる。
さゆクルー
( ^▽^)<どうなるんですかー!?
深夜の保全
从*・ 。.・)<王女みずから保全
保全なの
おは保
ほ
も
さ
o0o
8 _8_
/ ̄ ̄ ̄ ̄\
/ 亀 |
| |
| =- -ー |
| * l´ `l * |
| 'ー┼-┼' |
| | | |
| ノ ヽ /
\____/
ぴ
ho
ze
n
no
ドキワクソワソワ
ほぅ
保全
ほ
ほ
ほ
ほ
ほ
ほ
っ
保全
308 :
名無し募集中。。。:2005/08/07(日) 03:24:23 0
物凄い人垣だった。さゆみは、S市長、それに新垣に伴われて町を見て歩いていたのだが。しかしそれどころの騒ぎではない。さゆみの行く手の左右には、十重二十重に人が列を作り、王宮と地元の警備員が必死に道を作っていた。
さゆみはそんな人たちに、清楚な笑顔を振りまきながら、市長や里沙と話しつつ歩いた。
あちこちから叫び声にも似た王女への歓声が上がる。
「活気があっていいものですね」
さゆみが市長に言う。
「いえ、普段はこの辺りも静かなものでして。これも全て陛下の御姿を一目見ようと集まったようです。いえ、私もこんなに賑やかなS市を見るのは何十年かぶりで御座います」
年老いた市長は、表情をだらしなく緩ませながら応えた。さゆみを案内するという仕事は、既に人生も終盤に差し掛かった彼にとって最も記念すべき、誇るべき仕事だった。
「そう。嬉しいわ」
里沙はその間も辺りへの注意を怠らなかった。王宮の精鋭がさゆみらの周りを何重にも警備しているが、万に一つも、誰も近づかせてはならない。
先代のときとは確かに状況は違う。しかし、先代が街を歩いても、これほどの人が集まることは無かった。一人一人が何を考えているのかは分からないのだ。
その時紺野も、ビルを降り、人垣の中をさゆみを追いながら動いていた。いつでも飛び出していけるように。いち早く殺気を察知できるように、常に辺りの無数の人へ意識を集中させることを怠らなかった。
同じ頃、絵里と亜弥、それに真希と小春もこの人垣に紛れていた。
絵里一人では到底人垣を超えることなど出来ず、分厚い人の壁に弾かれて王女を一目みることも叶わなかっただろう。しかし亜弥がいたことで、それは可能になった。
強引に人の群れに押し入り、一番先頭に二人、首だけを出せる状況を生んでくれた。この図太さは亜弥の最大の武器でもある。訳のわからない亜弥に翻弄された絵里も、この時ばかりは亜弥に感謝した。
調度その向かいに、真希と小春はいた。彼女達は何故か、苦労することも無く最前列に立てた。強運なのか、はたまた真希の放つ雰囲気を人々が無意識のうちに忌避したのか、それはわからないが。
小春ははじめて王女を見ることに興奮していた。その姿は一目見たものを虜にしてしまうという。どんな空気を纏っているのだろうか。
その横の真希は、別段王女には興味が無いため、手持ち無沙汰に辺りを見渡していた。人が多い場所はどうにも気分が悪いのだが、見ているだけならば面白い。本当にいろんな連中がいるのだ。
純粋に、熱烈に王女を慕っているらしいものが殆どだが、その中にもいろいろな人間が居る。よからぬ想念を抱いているものが少なからずいて、そんな人を見つけるたび、真希の口の端は吊り上った。
ふと、向かい側の少し離れた場所に目をやると、人と人の間から亀のように首だけを覗かせた亜弥の姿を見つけた。
(なにやってんのさ、亜弥ちゃん)そんなことを思いつつ、さらに横に目をやると、そこには亜弥と同じように首だけを覗かせた少女。亀井絵里がいた。
真希は直接絵里の姿を見るのは初めてだった。写真では見たことはあるものの、実際にどんな人物なのか、知らなかった。
何故か自分の相方の隣にいる絵里の顔をよく観察してみる。なるほど、その目は、綺麗な、透き通った闇の色をしている。
周りの連中の考えていることは手に取るように分かるのに、絵里の考えていることはよく分からなかった。そもそも、今日一体何のためにこの場に現れたのかも分からない。
まさか王女を手にかけるつもりで来たのなら、小春は連れてきまい。まだ小春はそんな大仕事の一端を担えるほどには大きくない。
真希と同じように、紺野あさ美は群集の中に絵里の姿を見つけ愕然としていた。あさ美も絵里の姿を直接見たのはこれが初めてだったが、その、殺し屋独特の気配は疑いなく絵里のものだった。
あさ美の背に一気に緊張が走る。亀井絵里が、ただこの場にいるとはとても思えない。しかし、絵里が身をおいている組織が、王女の命を狙うということも考えにくかった。一体彼女が、何故この場にいるのか…
紺野の不安は膨らみ、動悸で胸がはち切れそうになる。絵里の姿を見つけてから、万が一に備えて、紺野は絵里から目を離さなかった。もし、最悪の状況であるならば、刺し違えても王女を守る。
紺野の頭の中では繰り返しその場面のシュミレーションが行われた。
いよいよ王女が来た。人々の歓声がどんどん高まり、ついには周りの音が何一つ無意味になるほどの絶叫に変わった。小春や亜弥、それに絵里も、期待に胸躍らせた。紺野は、不安と焦燥に包まれながら、身体をさらに緊張させた。
真希は高みの見物を決め込むように、小春や絵里の様子を、笑みを浮かべながら覗っていた。
王女が現れる。
前に市長、脇に里沙を従えて、ゆっくりと歩いてくると、人々はいよいよ狂わんばかりになった。桃色と白の涼しげなドレスを纏い、しなやかな物腰で一歩一歩歩いてくる。
あるものはそのあまりの美しさに嘆息し、あるものは興奮のあまり意識を失った。
小春の目にもその姿が映った。メディアを通しては知っているはずだった。しかし実際に目の前にしてみると、その圧倒的な存在感はどうだろう。蠢惑的なオーラ。一分の隙もない仕草。一国の王として、これほど完成された姿があるだろうか。
さゆみの姿を一目みた小春は、素直に感嘆した。
しかし、さゆみに囚われることは無かった。
その美しさも、王としての気品も纏う雰囲気も、全ては小春の想像の上をいっていた。しかしそれは小春の頭の中で、理解出来ることだった。理性を失うことはしなかった。ただ、相手はあまりにも巨大な敵であると、再認識したにすぎない。
脇でその様子を具に見ていた真希はひとつ、満足そうに笑った。
さゆみは歩きながら、辺りをの人の顔を見ていた。真希の姿を見つけ、身体を固くする。真希こそ、一体何のために来たのか分からなかった。もっとも、真希自身にもよくわかっていないのだが。
それから、反対に視線をやったとき、その目に、絵里の姿が映った。
とたん、さゆみの全身が浮かび上がってしまうかと思われた。堪らなく、嬉しくなる。まさか絵里が、S市にまで赴いて自分に会いに来てくれることは想像していなかった。
それにこの人混みは充分に予想されただけに、下手をすれば一目見ることも叶わなかったはずだ。
それでも絵里は来てくれた。
ほんの一瞬だった。
さゆみと絵里の視線が交わされる。二人にしか分からない、視線だけの会話。この、何の確証も無い会話だけが、二人を繋ぐ唯一の約束だった。
絵里がその嬉々とした視線の中に、あらん限りの意味を込める。
(会いたかった。一目見れて嬉しい。プレゼントは受け取ってくれたかな?)
さゆみのクールな表情も、その一瞬だけは、愛らしい少女のそれに戻った。
(私も、絵里!プレゼント、凄く嬉しかった。話したいことがいっぱいあるの)
(今晩、会いに行っていいかな?)
(勿論。待ってる!)
それは本当にほんの一瞬。二人の中にはいおうようの無い充足が残った。今晩の逢引の確約も、言葉ではどこにも存在していない。二人の目の中にだけ、その約束はあったのだ。
二人にとってそれは充分過ぎる確かな約束だった。
絵里とさゆみの一瞬の目配せ。それは誰にも気付かれない秘密の会話。
そのはずだった。
しかしこの時、この大群衆の中で二人だけ、その親密な目線の交配に気付いた人物がいた。
真希は、その一部始終を見て、呟いた。
「なるほどねぇ…そういうこと」
自然に笑が込み上げてきた。
あさ美はその瞬間を目の当たりにし、我が目疑った。王女と敵である暗殺者との間に行われたアイコンタクト。見間違いだと思いたいが、あさ美ははっきりとその瞬間を目にしてしまった。
「どういうこと…?」
わからない。頭が混乱して、何がなにやらわからない。簡単なことのような気がしている。しかしどうしても、ある考えをあさ美の頭が、身体が認めようとしない。全身をくまなく悪寒が走り、大量の冷や汗を浮かべて、あさ美は暫くその場に佇んでいた。
王女を守る責務も忘れて。
王女が通り過ぎ、辺りが冷めやらぬ興奮の中にも落ち着きを取り戻してきたとき、小春は隣でクスクスと笑う真希の姿に気付いた。
「どうしたんですか?」
「いや、ね。ちょっと面白いことを思い出しちゃって」
首を傾げる小春をよそに、真希は思った。
これは、想像した以上に面白いかもしれない。
向こうで首を出したままのびている絵里にもう一度視線を寄せる。
(さあ、どうやってあの二人を絶望のどん底に突き落としてあげようか…)
その時よくやく小春が、絵里の姿に気付き、駆け出した。
ふと顔を上げた絵里が小春の姿を見つけ、それから真希の姿を見つけた。お互いの視線が一瞬交錯するが、互いに、その目の中の感情は読み取れなかった。
深夜にキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
いよいよ対面か・・・
乙〜
あとで読ませてもらいますね 乙〜
乙保
乙
スリリング
ワクドキだね
さゆえり頑張れ
こはー
フォォォーーーー!!オモシロス!!
ごっちんオソロシス
最後はみんな幸せに・・・なるよね?なってくれ!
更新キテター
GJ!
ごっちんが圧倒的に手持ちのカードが多いけど
そこに松浦、紺野がからんでくるかなぁ〜
新垣がポイントっぽいけど
作者GJ!
327 :
名無し募集中。。。:2005/08/07(日) 16:25:46 0
ワクテカ
ほ
ze
か
保全
保全
ほ
ho
保
ほ
寝保
陸上おわた
続きが気になって眠れない
保全
ほ
も
さ
ほ
も
だ
ち
ん
こ
リd*^ー^)ゝこりゃ申し訳ない
「亀井さん!こんなところにいたんですか!?気付きませんでした」
「小春、ごめんねぇ」
側に駆け寄ってきた小春に絵里は笑顔で話しかけた。
「ところで、あの人は?」
絵里が真希の方を向いて言う。絵里の隣にいた亜弥が真希に駆け寄り、ばっちりと目の合ってしまった絵里と真希を交互に見返しながら白い顔をしていた。
「あ、えっと、何か誰かとはぐれちゃったそうで、一緒に回ってた…あ、名前、聞いてないですね?」
小春が真希に言うと、真希は亜弥の肩に手を置きながら笑った。
絵里は真希の目をじっと見ている。
「名前、ね。また今度あったときにでも教えるよ。ふふ」
「え?」
「そういうことで、あたしの相方も見つかったから、じゃ、またね」
真希は、最後に小春、そして絵里に交互に微笑みかけ、踵を返して行ってしまった。
「あ、いっちゃった…」
小春が真希の背中をぼんやりと見送る。その横で絵里が小さな声で「後藤真希」と呟いた。
とりあえず何もなかったことに安堵した亜弥は真希の後をひょこひょこと付いていった。
「ごっちん、さっきの子、誰?」
「誰って、知らない子」
真希は喋りながら嬉しそうな顔をしている。それが亜弥にはどうも訝しい。
「それより亜弥ちゃんは何で亀井絵里と一緒にいたのさ」
いわれて亜弥はギクリと肩を震わせた。
「いや、何か…ごっちんに会わせると危ないことしそうな気がして…会っちゃったけど」
「あはは、いくらあたしでもこんな人混みの中で襲い掛かったりしないよ」
「う、うん…そうだよね。はは…」
「それに面白いもの見つけちゃったしね」
「面白いもの?」
真希は満足そうに頷くと、言葉を続けずに来た道を帰っていった。亜弥は黙ってその後に続く。祭りの続きを楽しもうなどという気は、既に亜弥の中からは失せていた。
夕方になると、あれだけ居た人も大分まばらになっていた。本来の夏祭りならば、夜にかけて盛り上がってくるものなのだが、今回はメインイベントが昼に終わってしまったから。
とりあえず再会したあとも暫くは絵里と小春とで屋台巡りをしていたが、それもいっぱいになった。
「お祭り、終わりみたいですね…」
「そうだね」
「今日楽しかったです。有難うございました!」
改めてそう言われると、さすがの絵里もなんだか照れくさくなった。それで、他所を向いて頭を掻いてみせる。そんな姿が可笑しくて、クスクスと笑う小春。
夕日が、きついオレンジで、S市全体を淡く照らし出していた。
「帰りましょうか」
「あ、ごめん。今日ちょっと用事があるんだ。先帰っててよ」
絵里が、穏やかに笑いながら言った。小春の目に夕日が入り、キュッと目を細める。絵里の顔も、横から夕日に照らされて、何かしら幻想的なほど、美しく感じた。
「そうなんですか…じゃあ、帰ります…」
絵里の用事は、いつも謎だった。たいていは石川に聞いても、誰にきいても知っている人はいない。そして小春も、どうしても本人に尋ねることは出来なかった。
「有難うございました…」
小春は名残惜しむように暫く絵里の顔を見つめた後、振り向いて帰っていった。絵里はその後姿を、変わらず穏やかな顔でじっと見つめていた。
後藤真希のことが気になった。絵里自身その姿を見るのは初めてだったが、顔くらいなら知っていた。梨華の昔のパートナーで、死神。絵里がまだ地下で名前を売る以前の話なので、直接関わりあったことはない。
しかも彼女は前線を退いて数年経つという。何故今頃、こんな場所に現れたのだろう。ただ遊びに来ただけ?しかし、真希が最後に小春に言った台詞、また今度会ったときに…、この台詞がいったい何を意味するのか。
考えてもよくは分からなかったが、嫌な予感だけが過ぎった。小春に近づいたのには何か意図があってのことだろうか。梨華が溺愛する小春と、真希が出会うというのは、偶然にしては出来すぎている気もする。
夕日がだんだん沈むにつれて、絵里のそんな思考も薄れていった。難しいことを考えるのは得意じゃない。
それよりも、さゆみが待っている。
人通りの少なくなった夕闇のS市を、絵里は駆け出した。
乙〜
コウフンスルス
キタコレ!
乙保
保
ほ
も
さ
ぴ
え
ん
す
( ^▽^)dd
ほ
371 :
:2005/08/09(火) 08:46:05 0
│
ほ
374 :
名無し募集中。。。:2005/08/09(火) 12:20:07 0
る
す
た
377 :
名無し募集中。。。:2005/08/09(火) 14:55:09 0
い
ん
( ^▽^)dd
dd
dd
保全
ho
ri
e
mo
n
やっとさゆえり
ほ
ぞ
ぬ
一文字保全されると次思わず考えちゃう
ほ
し
395 :
:2005/08/10(水) 09:04:42 0
の
き
ん
398 :
名無し募集中。。。:2005/08/10(水) 12:24:20 0
め
だ
い
S市内のとあるホテル。海に面した高層ホテルの最上階の一室で、さゆみは窓から外の景色を眺めていた。入り組んだ海岸線と、所々にみえる灯台。漁船の漁火や、客船の煌びやかなライトが夜の海岸に光る。
窓を少し開けると、潮の匂いがした。
海の向こうは黒々と深く、空の闇と溶け込んで見渡せない。その遥か向こうに異国の地があると、頭ではわかっていても、そこは何か、この世ならぬ場所へ続いているように思える。絵里の瞳の中の闇を思い出した。
ずっと、絵里を待っていた。昼間、絵里の姿を見た瞬間から、もう絵里のことしか考えられなくなっている。
この大洋の向こうの、誰もいない、何も無い世界に絵里と二人きりでいけたなら、どんなにか幸せだろう――
今日はホテルを貸しきっている。王室の関係者や警備兵が巡回してはいるが、普段より人の数は少ない。
しかし、単純なつくりのホテルに忍び込むのは大変なことだろう。主だった通路にはしっかりと夜通しの番がついているのだ。
昼間の約束を、絵里が守らないわけはない。しかし、いつも不安になる。絵里が自分の部下にもし捕まりでもしたら。
そんなさゆみの心配は、程なく露と消えた。
「さゆ…」絵里の小さな声がした。ドアの向こうから、押し殺した声。それでもさゆみはすぐにその声を聞き取った。弾かれたようにドアに向かい、開け放つ。
相変わらずの、愛らしい笑みを浮かべた絵里が、小さく立っていた。
「絵里!!」
さゆみは、そのまま絵里の腕の中に飛び込み、きつく抱きしめた。
絵里も嬉しそうに、さゆみの背中に手を回す。二人はそのまま、部屋の中になだれ込んだ。潮風がふうわりと二人の髪を撫ぜる。
「絵里…来てくれてありがとう。本当に、嬉しい…会いたかった」
ベッドに倒れこんだ二人は、そのまま、抱き合いながら言葉を交わす。
「うん、私も会いたかったよ」
さゆみが、また強く強く絵里を抱きしめる。今日の彼女は、ひどく子供じみていた。何か怖いものに怯えでもしているように。絵里はそんなさゆみのことを不思議に思った。
「…どうしたの?さゆ」
さゆみが顔を上げ、満面の笑みになっていった。
「えへへ、なんかね…もう何か、本当に嬉しくて。今日だって、外泊だったけどS市だし、絵里は来てくれないって思ってたの。だから…」
しかしその笑顔も、どこかしら儚く見える。
「なんか、興奮しちゃった。こうやって絵里を抱きしめるの、久しぶりだもん…」
その言葉に、絵里の顔は赤らむ。さゆみの笑顔がどうしようもなく眩しくて、心の底から、嬉しさがこみ上げてきた。
「誕生日プレゼント、ありがとう。すっごく可愛い。大好きだよ。なんかもう、私の宝ものになっちゃった」
さゆみが耳元で囁くと、絵里は擽ったそうに身を捩った。
「あのね…えっと、その、気に入ってもらってよかった…。何かさゆって何でも持ってるから、どんなのが喜んでもらえるのかよくわかんなくて…」
「うふふ、そんなの。絵里がくれたものなら何だって嬉しいよ。何だって、私の一番の宝物…。宝石とかドレスとか、そんなの誰かにあげちゃってもいいくらい」
「さゆ…んっと…」
ん?とさゆみが絵里の顔を覗きこむ。その距離は僅か数センチ。絵里は何となく言いづらそうにすこし逡巡してから言った。
「あの縫いぐるみね、さゆに似てない?」
さゆみはそれを聞いて、ふっと噴出した。そんなことを躊躇して言う絵里がたまらなく可愛く思う。
「それ、どういうこと?……でも、いいや。可愛いし。私って犬に似てるの?」
「うん、何かあれ見た瞬間、さゆだ!って思っちゃって、それであれしか無いって思っちゃった」
さゆみが笑ってくれたのに安心して絵里も笑顔になる。
「そっか…嬉しい。絵里、大好きだよ」
「ん…」
さゆみが絵里の額に額を合わせる。絵里はまた照れたように視線をずらした。
「絵里の誕生日のとき、楽しみにしててね。12月だからまだ大分先だけど…」
「うん…先だね…」
潮風が、少し開いた窓からわっと舞い込んできた。二人の間の、高まりきった熱を少しだけ冷ましてくれる。
二人は同時に思った。絵里の誕生日の日まで、今のような関係が続けられるだろうか。
絵里は小さな予感を抱いていた。その日まで、きっと自分は生きていない。この国を揺るがす小さな波の音が聴こえていた。それは昼間見た、さゆみに熱狂する人々や、小春の真っ直ぐな瞳や、後藤真希の姿を思い出すにつけ、思えた。
こうしてさゆみを抱きしめ、彼女の笑顔を独り占めにしていられる時間が、あとどれくらい残っているだろうか。そう考えると、胸が張り裂けそうになってくる。
「さゆ、今日疲れたでしょ?休まなくていい?」
「絵里…ね、私、絵里とこうやってると、疲れなんてどんどん抜けてくんだよ。不思議。何だか、すごく落ち着くの」
「そっか…」
「そうだ、一緒にお風呂入ろうよ!今日暑かったでしょ。絵里だって汗かいたよね?」
「ええ!?お風呂!!?」
不意のさゆみの提案に、絵里がばたばたと慌てだした。
「え、えええ、いいよ。さゆ、入ってきなよ」
「だーめ。一緒に入るの」
「うへー…」
逃げ出そうとする絵里を両手でしっかりと抱え込むと、さゆみは起き上がった。
絵里を引きずりバスルームへ。浴槽にお湯を張り、二人で鏡の前に立つ。絵里は何を想像してか、ゆでだこのように真っ赤になってすでに上せていた。
そんな絵里の横で、さゆみはゆっくりと衣服を脱ぎ始めた。
「もう、そんな照れることないでしょ。女の子同士なんだから…」
「いや、だってさゆ、あ、や、うん、いや、ええ…」
「何言ってるの…?さ、絵里も早く服脱いで…」
促されて絵里も仕方なく、服を脱いでいく。隅に縮こまって。なるべくさゆみのほうを見ないようにするのだが、如何せん大ききな鏡に丸写しになっているので、どうしても視界に入ってしまう。
手際よく、上品に服を畳みながら脱いでいくさゆみの横で絵里はもたついている。
その、あまりにも美しいさゆみの裸体が視界に入ってしまっては、誰でもそうならないわけがない。
そもそも絵里は普段あまり風呂に入ることが無い。野宿することも多いし、梨華の隠れ家に一応住んでいる形ではあるが、本来決まった家が無いのだから。
少し罪悪感もあった。さゆみのような美しい少女と、自分のような(文字通り)汚い人間が一緒にお風呂なんかに入っていいものか。絵里の思考はいつも、そんな下らないところでくるくると回っている。
既に服を脱ぎ終えたさゆみが、先に浴室に入っていった。
「絵里も、はやく!」
さゆみがいったん視界にいなくなったことで幾分落ち着いた絵里は、促されるままにぱっと服を脱ぎ、浴室に入っていった。
湯気の中にさゆみがいる。まるで神話に登場する女神さまのように、神々しいまでの美しさ。彫刻のように美しい、均整のとれた曲線と、湯気に見まごうような白い肌。その透くような肌の色は、この世のどんなものにも喩えにくい秀絶のものだった。
そしてその顔は、真っ直ぐ絵里の方を見て、愛らしく、無垢な微笑みを湛えている。
絵里はその姿を、魂を奪われたように見入ってしまった。本当に、人間だろうか。そんな馬鹿な考えまでが浮かんでくる。
「絵里…本当に絵里って綺麗ね…」
さゆみはそんな絵里をよそに、絵里の姿に見とれていた。
二人は妙に気恥ずかしく微笑みあって、それからシャワーを浴びた。お互いが背中を流し合い、一度に二人でシャワーを浴びると、二人でお湯の張った浴槽につかる。
愛する人が目の前に、すぐ近くにいる。
白い湯気のせいかしら、それがすべて夢の中の出来事なんじゃないかとさえ思えた。不安になる。笑顔が、もっと見たくて、二人は浴槽の中で抱きしめあった。
「絵里ってどうしてこんなに綺麗なんだろう…」
さゆみが絵里を抱きしめながら呟く。
「さゆのほうが…ずっと綺麗だよ…」
「うふふ」
絵里は少し考え込むような仕草をしてから言った。
「私は綺麗じゃないよ…いつも血に汚れてるもの。何百人か知れない血が…もうこびりついて離れないんだよ…」
「絵里…」
「プレゼント…あの縫いぐるみね、ちょっと汚れてたでしょ…?ごめんね、あれも血なの。プレゼントを買ったときに、何か変な人たちに襲われて…」
それを聞いたさゆみの顔が一瞬青白く染まる。胸が詰まったように、苦しそうに俯いてしまった。
「さゆ…?ごめんね…?」
絵里は不安げにさゆみの顔を覗きこんだ。
「違うの…違う…。ごめん、私が…」
「さゆ…?」
「その三人…私がよこしたの…。私が…絵里を殺すために」
さゆみは、胸のうちの毒を漏らすように苦しげに呟いた。
セセセセツナス…!!
言ってもうた!
ほ
乙保
410 :
名無し募集中。。。:2005/08/10(水) 20:55:31 0
乙葉
411 :
名無し募集中。。。:2005/08/10(水) 21:56:19 0
保
ほ
亀井はかわいくなった。
田中はかっこ良くなった。
道重はどうだ?
やばい面白すぎ
保全もせず毎日読んでるだけなのでたまにはホ
★ノハヽo
<从*・ 。.・)> さゆがいちばん可愛い
) )
(((( > ̄ > ))))
oノハヽ★
ヽ(・ 。.・*从ノ フゥゥゥゥーーーーー!!!
ノ ノ
((( < ̄< ))))
ほ
 ̄∨ ̄ (´´
oノハヽ★ (´⌒(´
⊂(・ 。.・*从≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
⊆⊂´ ̄ ⊂ノ (´⌒(´⌒;;
 ̄ ̄ ̄ ズザーーーーーッ
ho
ma
420 :
:2005/08/11(木) 09:59:22 0
ze
リd*^ー^)<保全ですよ?
从*・ 。.・)<保全なの
从 ´ ヮ`)<保全っちゃ!
ほ
初めて読んだけど一瞬羊と間違ったかと思った
作者天才!
ハァハァ
保全
ノノ*^ー^)<保全ですよ?
ho
保全
まめな保全は読者が多い証拠
ho
从*・ 。.・)<ほっ
ほんとに今更だけど、れいな瞬殺してごめんねれいな
いつも保全ありがとう
夜、あさ美は王女が宿泊するホテルの前に来ていた。
本来彼女はこの場に現れるべき人間ではなかった。
「おい、何だお前は」
ホテルの前で警護していた二人の王宮兵士があさ美に声を掛ける。あさ美は、青白い顔を少し不快に歪ませて男達を見上げた。
あさ美の存在は、つまりそのようなものだった。さゆみの側近でありながら、闇の存在である。だから一部の高官や要人を除いて、王宮内でさえあさ美や、その下にある組織大系を知らないのだ。
「新垣さんに通して貰えますか?紺野が来たといえばわかりますので…」
「ちょっと待て、こんな時間に。怪しいやつだな…」
「どうでもいいんで、早く新垣さんに通して下さい」
疑わしいという素振りを見せていた兵士たちだが、あさ美の静かなプレッシャーに只ならぬものを感じ、一人がホテルの中に慌てて駆け込んだ。
彼らにとっては里沙も、充分手の届かない大人物なのだ。もし本当に里沙の友人であったら。そう考えると、恐ろしくもなる。
暫く待っていた。夜風が気持ちよく、海の方から吹いてくる。
あさ美はその風を身体に受けて、じっと海のほうを睨んでいた。
やがて、先ほどの兵士が里沙を伴って出てくる。門に残っていた兵士は、里沙が直接出てきたことに驚いて目を見張った。目の前の、一見ただの少女であるあさ美が、それほど重要な人物だったことを示しているのだ。
「あさ美ちゃん、いったい何しにきたの?とりあえず、ロビーに」
里沙は門兵に一言礼を言い、あさ美を伴ってロビーに入っていった。
「わかってると思うけど、ここはあさ美ちゃんが来るような場所じゃない。陛下は公務でこちらにいらっしゃったんだから…」
「わかってます。しかしどうしても、陛下にお伺いしたいことがありましてね。陛下との謁見を望みたいのですが」
里沙は、話しながら、やけに青白いあさ美の顔色が気になっていた。そして、その言動も、おおよそあさ美らしくない。
「あのね…そんなこと、認められるわけないじゃん。だいたい陛下はもうお休みだよ。悪いけど、帰って。明日には王宮に帰るというのに、どうして」
「いえ、帰れませんね。一つ陛下にお伺いを立てるだけです。ただ急を要するので、是非とも今日、陛下にお会いせねばなりません」
「………わかってるの?ここではあなたに立場なんて無いんだよ?私のいうことが聞けないならどうなるか」
「どうなるんですか?力ずくで通ればいいですか?」
「……」
あさ美は明らかに普段と違った。里沙にも容易に分かるぐらい、何かに殺気立っていた。こんな一般のホテルの中で『力ずくで通る』なんて正気の沙汰ではない。
あさ美の目は虚ろで、酷く疲れている印象を覚えた。
「……わかったよ。陛下は最上階にいらっしゃる。でもそのお伺いを立てたらすぐに帰りなさい。あなたにここに居られることはよくないことだから」
「ありがとう、新垣さん」
あさ美はそういうと里沙の脇を抜け、エレベーターに乗り込んだ。里沙が慌てて後を追う。あさ美一人でいっても最上階につくまでに守衛につまみ出されるのが落ちだ。
エレベーターの中でも二人は無言だった。あさ美は相変わらず、ぴりぴりとした空気を放っている。
「ここから上は階段でしか上がれないようになってる。陛下は最上階の一番奥のお部屋でお休みだから。くれぐれも陛下の休息の邪魔は」
言いかけて、つと黙りこむ。あさ美がじっと里沙の顔を見つめていたからだ。思えば、里沙はナンバー2ではない。あさ美こそがそうなのだ。と、そう考えたとき、自分の言動がいかにも筋違いなものに思えた。
実際あさ美の視線はそんな里沙を詰っていたのではない。しかし、里沙のあさ美に対するコンプレックスは、しばしばこんな感情を引き起こした。実際には、二人の立場は同等なのだ。
「わかりました。ありがとうございます」
それだけ言ってあさ美は一人歩いていった。この先にはもう守衛もいない。
王女の部屋まで辿り着いた。
あさ美の脳裏に昼間のことが過ぎる。はっきりと張り付いて、頭を離れない図像。さゆみと亀井絵里が交わした親密な視線。そのとき、見たことも無い綻びを見せたさゆみの表情。
それを振り払うように、ニ、三首を左右に振って、部屋の戸を叩こうとした。
と、そこでふと気付いた。中から水音がする。さゆみは今風呂に入っているらしい。
それならばさゆみが上がるまで待つ必要があるだろう。あさ美は戸を叩くのをやめ、じっと待った。
誰もいないフロアは静かで、集中すればするだけその水音がはっきりとあさ美の耳に届く。
おかしなことに気付いた。
さゆみと、自分しか居ないフロアのはずなのに、話し声が聴こえる。
しかもそれは、さゆみの部屋の中から…
更新キタ-
今日はここまでかな?
クライマックスに近づいて気持ちが高まってきてるからか
1回の更新が短く感じるw
うおわわぉぉぁ!!
ゾクゾクする!ヒヤヒヤする!
うあぁぁぁああああ
絵里、恐ろしい紺野さんが来るから早く逃げてー!!
紺野なら確実に絵里の気配に気づく
しかし絵里はさゆみに夢中で気づかない。。。ガクガクブルブル
乙!
ho
ze
乙
どんどん面白い
ほ
449 :
:2005/08/12(金) 13:08:26 0
ぜ
450 :
名無し募集中。。。:2005/08/12(金) 13:56:52 0
この物語に似合う主題歌みたいな
テーマ曲みたいなのあったらいいな
ほ
453 :
:2005/08/12(金) 17:27:32 0
れいな生き返ってれいな
れいな双子にしちゃえw
小春は早めに死んで欲しい
小春は生きろ
なんか息詰まる感じ!
ほ
ze
ho
ze
o
n
思えばいちゃつくさゆえりが書きたかっただけなのに…
さゆみはガタガタと震えていた。温かい湯船に浸かっているというのに、顔を蒼白にして。
自らの口から出た言葉が恐ろしかった。すべては事実だった。そして、それは王としての自分がとった、何一つ間違いのない行動。
しかし、一人の人間として、自分は既に壊れている。愛する人を殺そうとすること。しかも彼女が、自分のために、自分を想ってくれていたそのときに。そのことを、彼女自身に伝えたこと。
どこまでも自分自身が呪わしく、薄汚れていると感じた。
湯船に沈みそうなくらいさゆみは頭を垂れていた。顔を上げることが出来ない。絵里の顔を見ることが。もしそこに、自分を責苛むような絵里の目があったなら、もうこのまま自分は死ぬと思った。
しかし絵里の表情はあくまで穏やかだった。いつものように、口元に少しだけ寂しそうな笑みを湛えて。
「さゆ……そんなに、怖がらないで。気にしないでいいよ…わかってたから」
絵里の言葉に、さゆみの肌がびくりと震える。それが小さな波紋となって、絵里のもとに届いた。
「さゆと私は、敵同士だから。だからさゆが、私のこと、殺さないといけないこと分かってるよ。さゆが私のことを殺そうとしてることも、分かってる」
絵里が、さゆみの頭に、それから頬に、指を這わせる。
「ねえ、顔を上げて?」
絵里がさゆみの顎に指を這わせ、優しく持ち上げた。さゆみの視界に絵里の顔が戻ってくる。その穏やかな表情は、たださゆみを戸惑わせた。
「……絵里、私…おかしいのかな…?今でも、私は絵里を殺そうとしてる…こんなに愛してるのに…」
絵里が静かに首を振った。
「さゆが苦しんでる。それを知ってて、こんなことするのは卑怯だよね…。でも、私は死なない…死ねないよ。さゆに会えなくなるのが嫌だから…」
「死なないで。絶対、死なないで。私だって、絵里と会えなくなるなんて絶対嫌…。どんなに私が殺そうとしても、絶対、死なないで…」
絵里はふっと笑って言った。
「死なないよ」
さゆみもその笑顔につられ、青白い顔に無理やり笑顔を作った。既に思考は纏まっていなかった。ただ、どこまでも優しい、どこまでも広い絵里の笑顔に安堵し、寄る辺無い不安に苛まれていた。
「やっぱり…私、おかしいね。だって何言ってるかわかんないもん…。もう、何がなんだかわかんない…」
さゆみの目から、ぽろぽろと涙が滴る。絵里は、そっとさゆみの肩を抱き寄せた。それから、さゆみの頬を伝う雫にそっと唇を寄せる。そうするとさゆみの瞳からは、次々と、とめどなく涙が溢れてきた。
暫くそうしていた。さゆみは、絵里の素肌に身体をぐったりと預けていた。直接伝わる肌の温みが、お湯の温かさよりもずっと熱く二人の心を行き来する。
さゆみの顔にも、血の通いが戻ってきた。いつものような、愛らしい頬の赤みも帰ってきた。
それから二人は言葉少なに浴槽を出た。二人寄り添って。片時も離れたくはないと、強く思った。
さゆみがバスタオルで絵里の身体を拭う。絵里はさゆみの身体を。擽りあって、少しだけ笑いあった。
浴室を出てベッドに登ると、どちらからともなく、抱き合う。
少し開いた窓から流れてくる潮風が、二人の火照った身体を心地よく冷ましてくれた。
「ね、絵里、綺麗でしょ」
窓の外に広がる港湾の夜景を指してさゆみが言った。
「綺麗だね…。私こんな高いところに来たの初めてかも」
「ふふ…。ね、絵里。あの海の向こうが見える?」
「見えないよ。何処までも海が続いてるみたい」
「そっか、絵里には水平線が見えるんだ。さすがだね。私には真っ暗で、空と海の境界線が見えないよ」
その真っ黒な景色を二人は暫し眺め続けた。
「あの海の向こうにはね、何があると思う?」
「外国…かな?よくわかんない」
「あの向こうにはね、絵里。私と絵里の、二人だけの世界があるんだよ」
さゆみが悪戯っぽく笑って言う。絵里は意味がわからず、きょとんとしてしまった。
「そこではね、毎日絵里と私が一緒に暮らしてるの。毎朝隣で目を覚まして『おはよう』って。それから一緒に朝ごはんを作って、歌を歌って、散歩に出かけるの」
楽しそうに話すさゆみに、絵里も嬉しくなって笑顔で聞いた。
「そこには王様もいないし、敵もいないし…私と絵里しかいないんだよ。あとはお花が咲いてて、森があって、蝶ちょや、動物が沢山いて…」
「すごいね。私とさゆだけの国かぁ…」
「そう!そこでずっと一緒に、お婆さんになっても一緒に、のんびり暮らすんだよ。毎日一回は『愛してる』って言うよ。それで、絵里も私に言うの」
「うへへ。恥ずかしいなぁ…」
「絵里、愛してるよ」
「うん」
「愛してる…」
「うん…」
「ねえ、絵里も言ってよ!」
「恥ずかしいよ…」
「だめ!言うの!」
「うへー、うんと、じゃあ…愛して、る…?」
「ぷっ…あはは、何それ…」
一頻り笑いあい、じゃれあった後、さゆみが小さな声で話を続けた。
「でもね…その国にはいけないの。船を出しても、泳いでも…どこまでいっても、辿り着けないの」
「そっか…」
冷たい風がもう一度二人の肌を撫でた。すっかり湯冷めした二人には些か冷た過ぎる。さゆみが開いていた窓を閉めた。
「私は王のなに…王だから、その国に行く切符が貰えなかった。誰よりも、罪深い王だから…」
「さゆ…」
「れいながいつも言っていたの。海の向こうにいってみたい、誰も知らない土地にいってみたいって。そのときは、『世界中にもう誰も知らない土地なんてないよ』なんて、冷めたこと思ってた。でも今だったら、れいなの気持ちがよくわかるの…」
「……」
「でも、そんなれいなさえ、私は殺した」
「違う…れいなを殺したのは、私だよ」
「ううん、れいなは、私が殺したの。絵里…本当は血に汚れているのは私の方。私のせいで、どれだけの血が流れたか分からない。れいなもやっぱり、私が殺したんだよ…」
「さゆ……」
「それでも表向きは綺麗な顔して…ニコニコ笑って国民に手を振って…。こんな王が、夢の国への切符なんて手にできるわけ、ないよね…」
「さゆ…でも、さゆが内戦を終わらせなかったら、もっと血は流れたよ。私はよくわからないけど…さゆはいい王様なんだって思う…」
一生懸命に話す絵里にさゆみが微笑む。
「絵里、無理しなくていいよ。絵里ってばそんな話には疎いでしょ?」
「うぅ…」
「私はね…神様でもなんでもない…。なのに、指一本も動かさなくても、この国の人を全て殺すことが出来るの。でも、どんなに汗をかいて動き回っても、この国に恒久の平和を齎すことなんてできない…」
「でもさゆが王様になって、この国は平和になった…」
「幻なの」
「え?」
「今の平和も、私という存在も…夢の国も…全部幻なの…」
「……」
さゆみが絵里の顔を覗きこむ。絵里は何だかよく分からない表情で考え込んでいた。何を考えているのか、さゆみには分からない。しかし、絵里の心の中には一片の闇も無いことを知っている。
闇は、絵里そのものだ。それは全てを飲み込み、消し去ってしまうような。抗いがたい魅惑的な闇。
この現実世界も、この国も、渦巻く憎しみも、全てを飲み込んでくれたなら、どんなにかいいだろう。さゆみは思う。絵里に飲み込まれて、絵里の中に消えて、一つになれたならどんなに幸せだろうと。
不意に絵里はさゆみを真っ直ぐ見て言った。
「さゆ…やっぱり私には、よくわかんないけど…。でも、愛してるから、さゆのこと、愛してるから。幸せになって欲しいよ…私が、私のせいで苦しめてるのかもしれない、けどさ…」
その言葉はさゆみの心を満たすのに充分だった。また、俄かに体温が上がり始める。鼓動が早まる。
「絵里、私今幸せだよ?こうして絵里と一緒にいられる今が一番幸せ…幸せ過ぎて苦しいよ」
「そう…うんと、そうじゃなくて、ね…」
「もう!いいじゃない。わかってるよ…わかってる。現実を見ますよ。はい、絵里と一緒にいられる時間はあとちょっとだけ。数時間だけ。そしたらまた敵同士ですよ。わかってるもん、そんなこと…」
「だから、今が大切なの…。幸せをいっぱい感じたいの。いいでしょ?」
「うん…」
さゆみがまた絵里に飛びつく。絵里は上手くかわされたような気がして釈然としなかったのだが、とにかくさゆみに触れていると、そんなこともどうでもよくなる。
今日のさゆみは酷くアップダウンが激しいし、いつも以上に子供じみていると思う。普段気負いすぎている反動か、それとも自分のせいなのかは分からないが…。
さゆみが絵里の肩に額を預けて、しみじみと漏らす。
「このまま、お日様が昇らなければいいのに…」
「うん…」
「なんて、王が言う台詞じゃないね」
自嘲気味に笑うとまた少し身体を離した。
それから不意に絵里に口付けする。吃驚して身体を躍らせる絵里。さゆみの予想通り、絵里の顔が真っ赤に染まっていく。
それを見てさゆみがクスクス笑う。それから少し寂しそうに呟いた。
「なんで絵里ってキスするとそんなに照れるの?いつもしてるのに」
「や、だって…ほら、恥ずかしいじゃん。なんかさ…」
さゆみがわざとらしい溜息を吐く。
「これじゃあ、いつになったら先までいけるのかなー…」
「さ、先…!?」
一気に絵里の熱が上がる。そのままオーバーヒート。さゆみが笑う。真っ赤になって魂の抜けた絵里に、ここぞとばかりキスの雨を降らせ、押し倒した。
「さ、さゆ…ちょっ、ちょっと待って!!」
さゆみは押し倒した絵里の胸に顔を埋めて、相変わらずクスクスと笑っていた。
「いいよ。私は絵里から来てくれるの、待ってるから」
「えぇ!?」
「早くしてね。誰かに取られちゃっても知らないから…」
「ええぇえええぇぇぇ!!!?」
「もう、冗談だよ。私が絵里以外の人とそんなことするわけないの。第一、王女だしね。絵里以外の人には、触れさせだってしないんだから…」
それでも、さゆみは思う。二人が、あとどれくらい生きていられるかは分からない。二人が生きている限り敵同士であるならば、死の匂いはいつでも側にある。
(本当に早くしてくれないと…いつ死んでしまうか分からないんだから。絵里も、私も…)
「でも、早くね?」
「うぅ…なるべく善処します…」
その答えに満足したさゆみは、そのまま絵里の胸の中にうずくまった。絵里もさゆみの背中に腕を回し、優しく撫でる。こうしてみると、本当に子供のようで、普段の毅然とした振る舞いが痛々しくさえ思える。
さゆみは神様じゃないし、超人でもない。まだ16歳になったばかりの、幼い、いとけない少女なのだ。
朝日が昇り始めるまで、ずっと絵里はさゆみの髪や、背中を撫でていた。さゆみは静かな寝息を立て始めている。さゆみの寝姿は、亡き親以外では絵里にしか見せない。そのことを絵里は知らなかったが。
あさ美はドアの外から、一部始終を聞いた。浴室から出てきたさゆみと「亀井絵里」の会話の一部始終を。二人の会話が途絶え、さゆみの寝息が微かに聞こえだしたとき、あさ美はがっくりと膝をついた。
もう、何も考えられなかった。考えることが億劫だった。自分が何故ここにいるのかも、自分が何者なのかも。
一枚の扉に隔てられた向こうが、何かしら異世界のように思えた。そこにいるさゆみは、普段の冷静で毅然として万能な、あさ美のよく知るさゆみとは全く違った。愛らしい16歳の少女だ。
その扉は異次元狭間のように、何者の侵入も拒んだ。
ただあさ美にとって絶望的な「音」だけを外部に漏らして。
あさ美は暫く呆けた後、ふらふらと立ち上がった。全身に夥しい汗をかいて。辛うじて残った理性が必死に叫ぶ。今の自分に、今の混乱しきった自分に正しい行動はとれない。だから今は行動すべきではない、と。
来た道を戻る。不快な塊が全身を廻っているようだった。
さゆみの心には自分など、一片も無かった。さゆみは、亀井絵里を愛している…
その想念が真っ先に駆け巡った。そのことが、僅かな理性をして、今の自分が異常であると考える充分すぎる理由だった。
自分は忠実な家臣だ。そんなことではない。そんなことではないはずなのに、その本能に近い慟哭の他には何も浮かばなかった。
裏切り、でもない。憤りでもない。
あさ美の心を今一言で表すならば、胸を裂かれるような悲しみがあるだけだった。
むう・・・とりあえず接触はなかったか
今日は早く寝て次回も楽しみにしよう
更新キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
接触あるのもそれはそれでいいけどこの方がこんこんらしくて俺は好き
乙です
>463
ワロス 乙です!
>どんなに私が殺そうとしても、絶対、死なないで…
あ〜〜なんかグッときた…セツナスギス
好きなのに敵って謎だな
それとも逆か
これに関する回想部分みたいなのがそろそろ欲しいよ
ho
ただただイチャつくさゆえりもいいけどこういうのもイイ!!
泣けてくる
保全
ho
保全
ho
485 :
YahooBB221087124006.bbtec.net:2005/08/13(土) 16:27:40 0
名前を変えたら売れるかもw
大分?
切なすぎてちょっと涙でた
ze
n
ho
to
mi
493 :
名無し募集中。。。:2005/08/13(土) 22:49:40 0
尻対決なら亀井だろ
ウエストなら道重だけど
てかここはエロ小説スレか?
>493
読んでないなら読んだほうがいい
保全
ほ
ほ
>>477 忘れとった!
やっぱ不自然だわな…
言われなかったら書かずに最後までいくとこだったよ ありがとう
そのうち書きます
里沙はホテルのロビーであさ美を待っていた。あさ美の様子も気になったし、あさ美がさゆみに伺いを立てるというその内容も気になった。
それほど緊急を要することであれば、場合によってはすぐに自分も動けるようにしておかなければならない。
しかしあさ美はなかなか戻って来なかった。それほど長く、さゆみと話し込んでいるのだろうか。もう夜も遅く、ホテルの従業員も寝静まっている。
ようやくあさ美が降りてきた。
里沙が飛びつく。長くいすぎたことに、憎まれ口の一つでも叩こうと思って。しかし、一目あさ美を見て、驚かされることになる。
その顔は来たときよりも更に蒼白で病的にやつれていた。目には生気も感じられず、足元は覚束ない。
「あさ美ちゃん!!」
思わず、支えるように手を差し出した。
「ああ、新垣サン…」
「どうしたの!?ちょっと、大丈夫?陛下は?何があったの!?」
里沙の矢継ぎ早な質問に、あさ美はただ虚ろな目で、引きつった笑みを浮かべただけだった。
「お話は?いったい何の話だったの!?」
「大丈夫ですよ…全部、ちゃんとわかりましたから…」
何か吐き棄てるように、苦しそうに呟くあさ美に里沙はますますわけがわからなくなる。
「陛下の身に何か…!?」
「それは、大丈夫…です。陛下は今お休みになられました…」
あさ美の脳裏にさゆみの無防備な寝息が木霊する。唇を噛み締めた。遣る瀬無い悲しみのために。
「それでは…これで帰ります…」
ふらふらと出口に向かおうとするあさ美を、里沙はあわてて引き止めた。
「ちょっと待って!そんな状態で…そんなフラフラで帰れるわけないじゃん!泊まってきなよ。私の部屋、来ていいからさ」
その言葉にあさ美は些か驚いて、里沙を見返す。
「……私がここにいてはまずいんでは?」
「そんな場合じゃないよ。あさ美ちゃん、普通じゃないもん…。役職なんて関係ない、立場とかじゃなくて友達として、同期の親友として言ってるの!」
あさ美は青白い顔のまま、じっと里沙を見つめた。
本当に、裏の無い、悪意の無い人だと思う。しかし今、その言葉に少し、心が軽くなったのも事実だった。
真剣な眼差しであさ美を見つめる里沙。さゆみのことも心配ではあったが、それよりも今は目の前にいるあさ美のことが心配だった。
あさ美はまた、青白い顔にふっと笑みを浮かべた。
「そっか…ありがと、里沙ちゃん…私も今ちょうど……役職なんて忘れたいと思ってた」
不意に砕けたあさ美の物言いに里沙も幾分安心し、その手を取った。
「あさ美ちゃん、もう休もう…また明日からも、しなきゃいけないことは山ほどあるんだから…」
「本当に、そうだね…」
二人はそのまま里沙の部屋に来た。ちょうどベッドは二つある。里沙があさ美に一方のベッドを使用するよう促すと、あさ美も素直に従った。
「里沙ちゃん、一つ、いい?」
「ん?」
「聞くまでもないことかもしれないけど……里沙ちゃんは絶対に陛下を信じる?陛下についていく?」
あさ美の意外な質問に里沙は眉を潜めた。
「何言ってるのあさ美ちゃん…そんなの、当たり前じゃない…」
「どんなことがおこっても…?」
「私は何が起ころうと、陛下についていく。陛下をお慕いしているし、陛下の為ならばこの命、いくらでも差し出すよ…」
「そう…安心した…」
「あさ美ちゃん…?」
「私も同じだよ。何があっても、私は陛下のもとにある…」
あさ美はうわ言のように、自らに言い聞かせるように数度呟いた後、ベッドに入った。里沙の中には、得体の知れない不安だけが残った。
数時間後、空が白み始めたときあさ美は床の中で、亀井絵里の気配を感じた。このホテルを離れようとしている気配を。消してしまわなければならない、そう思っていても身体はいうことを聞かず、動いてはくれなかった。
周りに見える全てが悪夢の中にあるような気がした。何一つ、イメージすることが出来ない。得体の知れないどろどろとした黒い塊が常に視界を塞いでいる。幽かに残った意識が、それはあさ美自身の心だと訴えていた。
夜が明ける。あさ美の隣で、里沙が静かな寝息を響かせていた。
>>493 エロ書けないんだよスマン
でもエロもないのにいつも保全してくれてありがとう
むほおおおおおおお
ドキドキさせるなぁ
まだまだ期待保全
新垣サンと里沙ちゃんの使い分け方がゼツミョ!
エロはないけどアクションシーンあるからそれでいいや
亀井の訳の解らない強さってところが結構気に入ってる
>>498 無くても、無いほうがいいかなって思ったりもする
おとさせないぞ
エロ
このテンションがたまらないからこのままで
ho
510 :
名無し募集中。。。:2005/08/14(日) 10:14:04 0
ホス
ワクドキ
心理描写が巧みなので、どの登場人物にも共感できるなぁ
ごっちんとぁゃゃとりかちゃんは別だけどw
リd*^ー^)<俄然強めに保全ですよ?
514 :
名無し募集中。 。 。:2005/08/14(日) 12:20:30 O
亀キャワ
念のため
ほ
す
ぴ
た
ho
ze
保全
ho
ほ
po
ma
e
ho
re
>>506 うひーどないしよう
終わってから外伝みたいな感じで書いてもいいっちゃいいんだけどね…
翌朝。亜弥が彼女達の部屋で目を覚ますと、すでに真希は起きだしていた。昔使っていたマントをはおい、皮の手袋をしめ刀を取っていた。前線を退いていらい、亜弥は久しくそんな真希を見ていない。
「おはよう…ごっちん、どこかいくの?」
「ああ、亜弥ちゃん、おはよう。ちょっと王宮にね」
「え…?」
「ほら、れいの依頼、返事をしてこようと思って」
「え、じゃあそのかっこ…。ごっちん、その話請けないって言ってたじゃん…」
「気が変わった」
真希は口元に薄く笑みを貼り付けて言った。胸騒ぎがする、が亜弥はそれを口に出すことは出来なかった。真希のすることに、亜弥は口を出せない。
「じゃ、行って来るよ。まだS市から戻ってないかもしれないけどね」
「あ、待って…」
「んあ?」
思わず呼び止めた。ここ数日の真希は普通じゃない。何かとんでもないことを考えているという気がしてならない。王女を殺すと言った時点でそれは「とんでもないこと」なのだが…。
それよりももっと、破滅的なことを――
問い詰めたかった。出来れば真希の口からそれは単なる誤解で、仕事として依頼を請け、それを真っ当するだけだと聞きたかった。王女の暗殺も、私的な復讐として、真っ向から挑むに過ぎないと。
もしそうでないのなら、真希を諌めたい。自らも破滅導くということが、今の真希にはさも当然のように思えた。
しかし、何も言えない。亜弥は、自分が真希に何の影響力もないことを知っていた。亜弥にとって真希がすべてであるというのに…。不等号の関係。しかし棄てることは出来ない。
「気をつけてね…」
やはり、それだけ口にすることしか出来なかった。
「うん」
真希は、起き抜けの亜弥の唇をさっと掠めると、風のように静かに部屋を出て行った。亜弥の目に不安が揺れる。やがて、床を出た亜弥は、一人どこかに出かけた。
あさ美は絵里がホテルを抜け出したあと、一足先に王宮に戻っていた。午前中にさゆみが里沙と共に帰ってくることになっている。あさ美はそれを出迎えなければならない。
さゆみの顔を見るのは辛かった。
自分が一体何を思っているのか、あさ美にはまだ分かりかねていた。さゆみを慕っていることは今も間違いないことだった。しかし、さゆみは女王としてはあるまじき行為、敵組織の密偵と通じるという、いわば国民すべてに対する裏切りを行ったのだ。
ただ、臣下としてとるべき行動は何かを只管に考える一方で、その態度に徹しようとする自分に違和感を感じていた。
本来なら今朝、ホテルを出た絵里を自らの手で消すのが最善の行動だったろう。それは自分が絵里に勝てるかどうか、という問題ではない。
その機会を逸した今、絵里を早急に、全力を持って消さなければならない。それはさゆみ自身が下した命令でもあるのだ。そして、さゆみの王としての無自覚と不埒を窘める。
とるべき行動はわかっている。理解はしているのに、どこかで、引っかかりがあった。それがいったい何に拠るものか分からないことが不愉快でならない。
王宮についたあさ美は、まず直属の部下に一言侘びを入れた。本来なら昨日王宮に残ってしなければならなかった政務。それを全て部下に任せて出てきたのだ。
部下はそのあさ美の侘びの言葉に、逆に感謝すらした。
あさ美はまだ若い。しかしあさ美は部下に信頼されていた。
もともと王宮にはお飾り程度の密偵組織しかなかった。それを、さゆみの命令であさ美が纏め上げた。今やその活動においては国の正規軍とも肩を並べるような強力な組織を。
その全てをあさ美が作り上げたのだ。部下の誰もがあさ美の手腕を認め、そして誰もがあさ美の王女への忠誠を認めていた。
その意味では、まだ先代の頃の王宮仕官が多く残っている「表」でトップに抜擢された里沙よりも、はるかに恵まれているといえた。王宮内には里沙を内心でよく思っていない古株の仕官が少なくない。あさ美には何の関係もないことだったが。
そんな部下の一人が、再びあさ美の元にやってきた。報告を聞いたあさ美の表情には戸惑いの色が浮かぶ。後藤真希が来たというのだ。
後藤真希を王宮の中に入れるわけにはいかない。あさ美は戻ったばかりの王宮を再び後にした。真希は王宮の巨大な門の前で、王宮の上に聳える塔の、更に上を流れる綿雲をぼんやりと見ていた。
>>450 なんか爽やかな曲のイメージがいいなー
みすちるの「君が好き」とか ベタヤケド
>>524 エロもないのにこんな話紹介してくれてありがと
いつもお世話になってるよ
乙です!
リアルタイムで読めるなんて、起きててよかったよ
乙ほ
乙です
ほ
ごっちんコワス
ほぜん
ho
そういえばこの小説、タイトルあるんだっけ?
ほ
あーーセツナス
ほ
ze
ra
ほ
ぜ
ん
さ
せ
555 :
名無し募集中。。。:2005/08/15(月) 23:40:07 0
て
く
れ
「後藤さん…王宮には来ないで欲しいと言ったはずですが…」
真希の姿を見つけたあさ美が漏らす。
真希はゆっくりと空からあさ美に視線を移し変え、にっと笑みを浮かべた。
「固いこといわない」
「…お話は場所を移して伺いましょう」
「いや、いいよ。例の話、請けることにするって伝えにきただけだから」
その言葉を聞いてあさ美の胸は疼いた。何よりも優先しなければならない亀井絵里の暗殺。自分には優秀な部下と軍がある。しかし平穏な世になった今、密偵とはいえ大部隊を動かすといった目だった行動はできないのが実情だった。
少数で暗殺しようとしても、勝てる相手ではない。しかし真希の協力があれば、その実現はぐっと引き寄せられることになる。
「そうですか」
あさ美がふっと、安堵の息を漏らした。
あさ美の顔色がどこかおかしいことを真希はすぐさま読み取っていた。その語気にも、やや普段のあさ美と違う、どこか読み取りやすい感情の流れを感じる。
何か酷く蟠っているようだ。これではそれほど冷静な判断はできまい。そう考えた真希は、口の端をまた吊り上げ、言葉を続けた。
「ただしね、私に任せて欲しいね。王宮の兵士と協力するなんてまっぴらごめんだよ」
「……あなたが必要ないというならば、私たちは手を出しませんが…しかし、確実にやってくれるなら、ですが」
その言葉に真希はカラカラと笑った。
「あはっ。あたしを誰だと思ってる?ま、でも前線を退いて久しいからね。勝てるかどうかはわからないね。だから準備もいろいろしなくちゃいけない。あたしのすることに口出ししないで。いい?」
「……確実にやってくれるのならば、手も口も出すつもりはありません。ただし、早く動いてもらいたい」
その返事に真希はニヤリと笑った。やはり今日のあさ美は、あさ美らしくないと思った。しかしそのお陰で、真希にとっては随分都合よく話が纏まった。
「そう、それならいいよ。じゃあ、それだけ」
「後藤さん、報酬は」
「ああ、そんなの、終わってからでいいよ。こっちも命がけだからね…お金を貰っても死んでちゃ意味ないし」
そういうと真希は踵を返した。
頭の中だけでクスクスと笑う。報酬なんて貰う気は全くない。確かに亀井絵里は殺すが、ついでに王女にも死んでもらうのだから。今からあさ美の怒り狂う顔が目に浮かぶようだった。
昔は自分のあとに犬みたいについてきた。今は王女の愛犬といったところだろうか。
(紺野、あんたは確かに天才だよ。その能力はね。でも、相変わらず馬鹿だね)
王宮から随分離れたところまで来ると、笑いを堪えきれなくなった真希は、高らかに声を上げて笑った。白昼の王宮通りを堂々と。
あさ美は真希の背中をじっと見送っていた。変わっていない、そう思っていた真希は確実に変わっていた。以前よりも一層不気味に。しかもその目には、以前のような真っ直ぐさが微塵も無い。
あれほど誇りを持っていた仕事にさえ、興味を失っているように見えた。今真希を突き動かしているものが何なのか、全くわからなかった。或いはそれは闇なのかもしれない。亀井絵里と同じように、全てをめくらにしてしまう無尽の闇……
一度自室に引き返したあさ美だが、すぐにまた表に出ることになる。さゆみが戻ってきたのだ。
さゆみと顔を突き合せたくはなかった。自分の今の不安定な状態では、さゆみに何かしら、不利益な言葉を投げかけてしまうのではないかと恐れた。
あさ美は今このとき、自分の感情の一切を殺すことに専念しなければならなかった。
護衛車数台に囲まれて、さゆみ、そして里沙を乗せた車がやってきた。王宮に残っていた有力な士官が列をつくりさゆみを出迎える。「表」の存在ではないあさ美は当然その列には加わらない。
さゆみと里沙が車から降りると、里沙の部下が留守の状況を説明するために二人に近づいた。といってもそんなものは通り一片の説明でしかない。
暫くいろいろな者から出迎えの言葉を受けたさゆみが門から場内に入ってくる。あさ美もやっと近づける時間になる。
「お帰りなさいませ、陛下」
あさ美はさゆみの前に頭を垂れ、その顔を見ないようにして言った。
「ごくろうさま、紺野」
里沙はそんなあさ美を見て複雑な気分になった。昨夜、あさ美はホテルに来ている。そして一度さゆみと謁見しているはずなのだ。しかしお互いの態度はどうにもよそよそしかった。
無論、本当は謁見などしていないのだから、さゆみはあさ美の姿を見るのは一日ぶりだったが。
さゆみの声を聞いたあさ美は顔を上げた。さゆみの顔を見る。今までとなんら変わらない、毅然とした美しい顔だった。その声も、あさ美の知っているさゆみに間違いない。
胸を抉られるような苦しみが襲う。
まるで昨日さゆみの部屋で聞いた幼い声、震える声、甘えた声、そんなものが、すべて幻だったんじゃないかと思えた。しかし、そのすべてをあさ美ははっきりと聞いたのだ。
決して人前で見せることのない姿。あさ美の前でも、絶対に見せない。亀井絵里の前だけで見せる姿……
昨日の会話から、あの密会が何度も行われていたものだということは予測できた。しかし今、あのようなことをしていた次の朝である今、こうして普段となんら変わらない態度をとられたことは、より如実にその裏づけとなった。
いつでもさゆみはああやって、亀井絵里の前で全てをさらけ出し、自分たちの前で王女の鎧に着替えていたのだろう。恐ろしく俊敏に。それはもう慣れたもので、自分たちには少しも変化がわからない。
まるであざ笑われてされているような気分だった。我が身を全て差し出して仕えているあさ美や里沙を、コケにして、高笑いするさゆみの幻が眼前に浮かんでくる。
あさ美はそんな一切の感情を殺そうと躍起だった。このままでは、さゆみに対する憎しみすら覚えかねなかった。さゆみを憎むこと、さゆみのもとを離れることは自分の存在を否定することにも等しい。
今、自分の中で爆発しようとしている無形の感情を、なんとしても押し留めなければならない。
「陛下、お疲れとは思いますがお話があります。こちらへ」
さゆみは、普段と同じあさ美の無表情の中に、ただならない何かがあることを読み取った。
その言葉の端々に、無理やり何かを、感情を押さえ込んだような不自然さがある。それが不信には思えたがともかく、話を聞くためにさゆみはあさ美の後を追った。
「私はこれで…」
里沙も、あさ美のただならない雰囲気を読み取っていた。この先は自分がついていってはならないだろう。直感でそれを感得した。王宮内にはさゆみとあさ美だけの世界が、確かに存在していた。
自分には、さゆみと二人だけの世界など存在しない。外であろうと、二人きりでいようと、どれだけ近くにいようと。
既に里沙の心中には諦めに近い感情があった。いつでもナンバー1はあさ美。そしてあさ美以外は、さゆみにとっては「それ以外」の存在だと。
さゆみがあさ美の後につきながら、里沙の言葉を受け、振り返る。
「新垣、昨日からずっとついてくれてありがとう。感謝しています」
さゆみはいってしまった。しかし里沙には、その言葉だけが拠り所だった。また、仕事をする為に歩き出す。今、里沙の考えていることはどうすれば一番になれるかではない。自分がさゆみの為に何が出来るか、それだけ。
>>544 亀井vs道重 ROUND and ROUND
(今決めた)
さゆみと二人きりになるとあさ美はすぐさま本題に入った。今、他のことを考えたくなかったし、少しでもさゆみといる時間を長くしたくなかった。こんな風に思ったのははじめてのことだ。
「先ほど後藤真希が来ました。亀井絵里暗殺の件、引き受けるそうです」
「……」
「それについて、彼女一人でやらせて欲しいということです」
さゆみは話を続けようとするあさ美を遮って言った。
「ちょっと待って。どうして一人で決めたの?」
「……」
「私はまだそのことについて何も言っていないわ。どうして紺野一人でその話を纏めたのか、聞いているの」
さゆみはいよいよ不審に思った。この軽率な判断はおおよそあさ美らしくない。決定権がすべて自分にある以上、自分に話を回さずにことを運ぶということはありえないはずだ。
「しかし陛下…一刻も早く亀井絵里を…」
「そんなことを聞いているんじゃない。何故私に通さず、勝手に話を取り決めたのか、それをきいているんです」
「それは…」
「しかも後藤真希は条件をつけた…。そんなことは私が決めることよ。違う?」
「仰る、通りです…」
あさ美は今更ながら、自分があまりにも軽率だったことに気付いた。ましてや全く油断のならない真希を相手に。あさ美の思考は混乱を来たしていて、正常には働いていなかった。
しかし、一方であさ美もさゆみの冷徹な言葉に不信感を抱かずにはいられない。目的を考えれば、さゆみを通そうが通すまいが、真希に依頼していたことに変わりはないはずだ。
条件にしても、真希がそれで仕事をしないというならば飲まざるを得ない。それほど大した条件ではないのだし。
さゆみが異常に怒っている姿にあさ美はどうしても亀井絵里の姿をかぶせてしまった。さゆみは内心では絵里が死ぬことを厭っている。真希が動いたならば、絵里が死ぬ可能性は高くなる。
まるで、その計画すべてがさゆみには気にいらないかのような。絵里が死ぬことへの不快を、今自分にぶつけているのではあるまいか…
さゆみがあさ美を睨みつける。あさ美は、それを強い視線で見返した。ふつふつと怒りが沸いてくる。さゆみの目が、自分にも、国にも向かず、ただ絵里のみに向けられていると、そう思うと内なる怒りは今にも爆発してしまいそうだった。
さゆみはあさ美の視線に内心で酷く驚いていた。あさ美はどんな時でも自分に対して忠実で、そんな視線を向けたことなどただの一度もなかった。今、あさ美の中に何か強い怒りが沸いていることを感じた。さゆみにはそれが酷く恐ろしくなった。
「いいわ…もう終わったことは仕様がない。どの道、後藤真希には仕事をしてもらわなければならないものね…」
さゆみがふと態度を緩めた。今にも吐き出してしまいそうだったあさ美の怒りが、ぎりぎりのところで止められる。あさ美自身が一番、それに安心した。そもそも、この状況下、悪いのは明らかに自分なのだ。
「申し訳ありません、陛下…。私が軽率でした…。どうか、お許しください…」
「もう気にしないで…。私もつまらないことで熱くなりすぎたわ…」
その言葉にあさ美は深々と頭を垂れた。
一瞬でもさゆみに敵意の視線を向けたことが、今更あさ美の心を激しく攻め立てる。どんなことがあろうと、さゆみに歯向かうことは自らの生きる意味を消すことなのだ。深く頭を下げながら、あさ美の身体は微かに震えていた。
「でも、注意だけは必要ね。私はやっぱり、後藤真希が信用できない…」
「……私も、陛下に同じです」
「紺野、もう顔を上げて…私はあなたを攻める気はないわ。あなたはよくやってくれているもの」
その言葉を聞いても、あさ美は頭を上げることが出来ない。ただそのままの体制で、捻り出すように言うのがやっとだった。
「勿体無きお言葉……」
乙
乙〜
ほ
川o・∀・) も
( ^▽^)<さぴえんす♪
dd
ff
574 :
名無し募集中。。。:2005/08/16(火) 14:15:54 O
言っちゃえよぽんちゃん!さゆが悪いよ!この裏切り者!レズ王女!って
さゆえりイキロ
微妙な荒れ模様でつね。
えりりん死んじゃヤダよー
あやごま萌え
ho
ほ
たんなる保全なら圧縮前のほうがいいぞ
関係が複雑になってきたな
相関図とかあると嬉しい
po
584 :
名無し募集中。。。:2005/08/17(水) 01:37:31 0
ze
相関図か…感情が色々と複雑だから難しいな
えりりん←好き→さゆ
これさえも合ってるかどうかわからん
ふつうに読んでれば複雑でもないと思うけど
そういう意味じゃなくて、
まだ完結してない話について、作者以外が断言するのって難しくない?
今後変わってくる可能性だってあるんだし
更新なかったのか 保
589 :
名無し募集中。。。:2005/08/17(水) 09:44:29 0
初めて来たけどエロ以外でも結構おもしろいな。
ho
ze
ri
593 :
名無し募集中。。。:2005/08/17(水) 15:36:56 0
n
594 :
名無し募集中。。。:2005/08/17(水) 17:05:56 O
ほぜりん
595 :
名無し募集中。。。:2005/08/17(水) 18:29:45 0
ほ
ぜ
んぁ
ほ
ぜ
んぁんぁ
ごっちん!
ほ
ぜ
ho
i
ho
ze
n
!
ほ
611 :
:2005/08/18(木) 13:11:08 0
ぜ
んぁ
んぁ
ぽぉ
あ
な
ま
618 :
名無し募集中。。。:2005/08/18(木) 20:03:14 0
落とせ落とせ
ho
zё
621 :
名無し募集中。。。:2005/08/18(木) 22:56:06 0
n
ho
ぜ
ぽ
ぜ
ん
ho
続きが気になる
630 :
:2005/08/19(金) 09:22:45 0
_ ∩
( ゚∀゚)彡 続き!続き!
⊂彡
保全
ho
ぜ
朝、絵里は隠れ家に帰ってきた。さゆみは珍しくぐっすりと眠っていて、絵里が出て行くときにも起きる気配は無かった。そのあどけないさゆみの寝姿に、絵里はたまらなく愛おしくなる。それで、一度だけ、触れるだけのキスをした。
さゆみが寝ていたとはいえ、絵里からしたのは始めてのことで、それが無性に恥ずかしくて絵里は部屋を飛び出した。その唇と、さゆみの愛らしい姿の余韻に浸りながら。
小春は夢現になりながら絵里のことを待っていた。昨日のお祭りでのことを思い出す。二人で、何気ない時間を共有したこと。絵里にとってもらったキーホルダーのこと。不思議な女性のこと。女王のこと。絵里の「用事」のこと。
いろいろな想いが小春の中に渦巻いた。確固たるものは何もない。確かに昨日自分は幸せを感じていた。しかし同時に、不安を感じていた。それははっきりしたものでは無く、漠然とした不安。
絵里や梨華とこうして他愛もなく過ごせる時間は、あといくらくらいあるだろう。もう、自らの手を血に染めてしまった。絵里や、梨華の本当の姿も知ってしまった今、平穏な日常など、絵空事でしかない気がする。
それでも、と小春は思う。真の平穏な日常を手にするためには、今逃げ出すわけにはいかない。自分がまだまだ強くなって、国を動かせるくらいに強くなれば、その先に、大きな戦いの先にきっと、絵里や梨華や、みんなとの幸せな暮らしができるのだと。
小春はいつも夢見ていた。いつか誰の目も気にすることなく、何の蟠りも、憎しみも無く三人で笑える日を。
玄関から戸の開く音が聞こえたとき、辺りには既に日の光りが差し込んでいた。小春はベッドを飛び起き、玄関に向かった。絵里が静かに戸を閉めていた。
「お帰りなさい!亀井さん!」
「うあっ、小春。起きてたの」
寝静まっているだろうと静かに帰ってきた絵里は声を掛けられて驚いた。小春は絵里の姿を見れたというそれだけで、ニコニコと笑っている。
「今起きました。疲れてますか?ご飯つくりましょうか?それともお風呂にします?」
「あ、いや、いいよ。うん…お腹すいてないから。ありがとう」
密かに言ってみたかった台詞を軽く絵里に流された小春は少しだけ不機嫌に。でもそれもすぐ元に戻った。
「昨日は本当にありがとうございました」
小春がニコニコと笑って言うのに、絵里は一瞬考え込む。
「昨日…?あ、ああ、いや、私何にもしてないよ」
「いえ、とっても楽しかったです!」
はきはきと言う小春に、朝から元気だなぁ、などと調子外れに考える絵里。そうしていると、奥の部屋から梨華が出てきた。
「あ、石川さん、おはようございます」
小春が真っ先に声を掛ける。梨華は小春に少し笑いかけて「おはよう」と言った後、神妙な顔つきになった。
「絵里、ちょっと来て」
何か真面目な顔で絵里を呼ぶ梨華の言葉に、朝の爽やかな空気はその色を失う。絵里は梨華がどうやら怒っているらしいことに気付いた。
素直に梨華の後に従う。小春はそんな両者の、急に重くなった空気に気圧されて何も言えずその背中を見送った。
二人が梨華の部屋に入ると、梨華は部屋の鍵を閉め絵里に座るように促した。
「絵里、昨日小春とS市の式典に行ったそうね?」
梨華は自らも腰を下ろしながら言った。
「はぁ、行きました…」
「…あなたがどこへ行こうと勝手よ。でも、小春を巻き込むのはやめなさい」
「……」
「小春はまだ表には出したくないの」
「……というと?」
「前にも言ったでしょ。小春はゆくゆくは私の後を継ぐ…。私たちの指導者になる存在よ。今は王宮にも私たちにも決めてが無い。私たちが攻勢に出れば何千万の国民が向かってくるし、王室にしても平和な世の中だけに大規模な掃討には打って出られないわ」
「そうですね」
「だから……今は溜めの時期なのよ。あなたや、他のアサシンをつかってじわじわと政府の力を殺ぐ。それに政府の人気も落として、最期に王女の暗殺。これには時間がかかるわ」
「……」
「今でもあなたなら王女を暗殺することも出来るでしょうけど」
「…」
「それは意味がないわ。確かにあの王女さえいなくなれば政府の機能は完全に麻痺する。政府自体を転覆することは容易だけれど…国民が黙ってはいない。また前以上の内乱が起こるのは目に見えてる…」
「そうでしょうね…」
「小春はね…、王女亡き後、この国の頂点に立つ存在なのよ。わかる?その為にも、小春は温存しなければならない。今のあの子にはまだその器は無いから、じっくりと育てなければならないの」
「…」
「今小春に死なれては元も子もないわ。王宮に目をつけられてもまずい。何せY崎会長を殺したのは他ならぬ小春なんだから」
「石川さんがそんなことさせたからじゃないですか…」
絵里の言葉に梨華はギロリと睨みつけた。
「…いったでしょ。あの子には成長してもらわなければならない。リーダーとして、全てを纏め上げる力を得なければならない。その為には手を汚すことも必要なことなのよ」
「とにかく、仕事以外であなたと共に行動することは小春をいらぬ危険に晒すことになる。だから、そういったことは慎みなさい」
「……でも」
「あなたは小春に剣を教えて、小春を守ればそれでいい。最後まで小春が立っていれば、それが私たちの勝利なんだから…」
絵里はその梨華の異様なまでの小春への期待を不気味に思った。梨華は全てを小春にかけている。それが当たるか外れるか、まだ分からないのに。小春に本当にそんな器があるのか、そんなことは誰にもわからない。
仮にも現在のリーダーである梨華のその盲信ぶりは、小春の器如何以前に破滅の予兆に思えた。
絵里の頭の中にふとある予感が過ぎった。
「……石川さんは、さっき時間がかかるっていいましたよね?」
「ええ…それがどうしたの?」
「私は…なんか、よくわかんないんですけど、近いうちに大きな波が来るような気がするんです」
「…どういうこと?」
「いや、わかんないんですけど……もしかしたら、石川さんが苦労して小春を育てても無駄になるかも…」
「その、根拠は何?」
「…いや、予感です」
「馬鹿にしてるの?」
「うーん…、や、まぁいいんですけどね」
例えば絵里には、昨日真希や亜弥に出会ったことが偶然とは思えなかった。嘗て戦乱の国内で、3強とよばれたうちの二人が、あんなところにいることが、さしも何かの兆候に思える。
そしてさゆみの態度も、今思えば何かしら追い詰められた感じがあった。小さな違和感。頭の悪い絵里には、そこに論理性を見出すことなど到底出来なかった。
そんな絵里を見て梨華も何かを感じ取った。頭の良し悪しはどうあれ、絵里ほどの実力者の「予感」というのは、そうそう無碍には出来ない。
梨華は絵里のことを信用してはいなかった。だけれども、その実力だけは、何よりも信頼していた。
「わかった、心に留めておくわ。でも、そんな『予感』じゃ、何に気をつければいいかもわからないわね…」
梨華は疲れたように溜息を吐いた。
絵里はここで後藤真希の名前を出すかどうか迷ったが、やめた。梨華にとってその名前は爆弾に近いもの。普段から激情家である梨華が、さらに冷静さを失うことは火を見るより明らかだった。
「そうだ、明日小春を幹部会に連れて行くわ。お披露目も兼ねて…絵里も行く?」
反政府組織の幹部会。梨華を筆頭とした各組織の代表が顔を連ねるその会合に絵里は何度か参加したことがあった。難しい顔をして難しい話をする連中。これほど退屈な場所があるとは知らなかった。
絵里はいつも梨華の横でぼんやりと座っていただけだったが、それだけでも酷く疲れたものだ。
「ええと…私は、遠慮しときます…」
「来なさい」
「うへー……」
程なく二人が梨華の部屋から出てきた。小春はその様子を心配そうに見ている。絵里の顔にはなにやら辟易したとでもいいそうな表情が浮いているし、梨華は別段いつもと変わったことはない。
「あ、石川さん、朝食作りますね?」
小春が恐る恐る言うと、梨華は嬉しそうに笑った。
「お願い。絵里もほら、貰いなさいよ」
「うぅ…じゃ、小春。私の分もお願い…」
「はい!」
三人での食卓。小春はこの時間が好きだった。小春の目から見ても、絵里と梨華は仲がいいとは言いがたい。お互いに、仕事の間柄と割り切っている感じがする。卓上でも会話は殆ど無い。
しかしそれでも、小春は二人のことが好きだった。
いつか、戦いを終えたとき、本当の家族のように三人で笑いあえる日を想わない時はない。梨華と絵里の間には好意は無い。しかし、信頼はあるように見えた。
小春はまだ、二人を疑ったことが無かった。
絵里がふと思い出したように小春に言う。
「小春―、このあと暇?」
「はい」
「剣の練習しようか」
「はい!」
それを聞いた梨華はひとつ絵里に頷いてみせた。言葉少ない朝食が終わる。空はよく晴れていた。
梨華は食事が終わるとどこかに出かけていった。彼女は普段は自宅にいるので、この隠れ家で過ごすことの方が少ない。表の顔の力がそれなりに大きい為、あまり隠れ家にいることはできないのだ。
それでも梨華は極力この場所にこれるようにし、小春のことを見るようにしていた。
気持ちいい陽光の中、小春と絵里は表へ出た。建物の外には川があって草生した川原は人目につきにくい。剣の練習にはもってこいの場所なのだ。
絵里は昨夜のさゆみとの約束を思い出していた。死なない。死なないためには、強くならなければならない。すでに他から見れば絵里は頂点を極めていた。しかし絵里は自分が強いと実感したことなど一度もない。
今よりももっと、強くなければならない。
お互いに木切れを拾って対峙する。
「いいよ、来て」
絵里の言葉とともに小春が突っ込んだ。思いの外、速い。直線的に絵里の頭を薙ぐように木切れを振るう。絵里は数歩後ろに下がり、それを交わす。すぐさま小春が踏み込んで2撃目、3撃目を放つ。
絵里はそのすべてをぎりぎりで避け、大きく後ろに飛び退いた。
「小春―、強くなったねー」
絵里が余裕の表情でいるのに対し、小春は肩で息をしている。それが小春にはなんとももどかしく思えた。まだ、絵里は木切れを握っただけで一度もそれを使っていないのだ。
「まだ…いきます!」
小春は言葉と同時にもう一度距離をつめた。と、思ったら視界の絵里が消えていた。混乱して前につんのめる小春の肩に、後ろから絵里が手を置いた。
「冷静さを欠いちゃだめだって…石川さんが言ってた」
「……」
小春は改めて次元の違いを思い知った。少し、動けるようになったからこそ、尚更絵里が遠い遠い存在に思えた。全身から力が抜ける。
「亀井さんって、本当に強いですね…」
背中からしんみりと言う小春に、絵里はなんだかよくわからず頭を掻いた。
「…そうでもないよ」
「そうですよ…。私も早く強くなりたいです。焦ったって仕様がないことは、分かってるんですが…」
「うーん…」
「でも小春はずいぶん伸びてるよ。こんな短期間でさぁ。本当にあせらなくったって、すぐ強くなると思うけどなぁ」
小春が振り返り、絵里の顔をまじまじと見る。その視線に絵里がたじろぐ。
「亀井さんって…いっつも結構適当ですよね…」
「そ、そんなことないってー…」
図星だった。そもそもが、絵里には他人の強さの尺度など無い。さゆみを除いて例外なく自分と戦った相手は死んだのだから。
「そうだ」
絵里がふと思いついたというそぶりを見せ、「ちょっと待ってて」といって隠れ家に戻っていった。
暫くして絵里が帰ってくる。その手には何やら細長い布包みがある。
「…何ですか?」
「小春にね、刀を貸してあげる」
「刀…?」
「そう」
そう言いながら布を解くと中から一振りの刀が現れた。見たところ普通の刀だが、何かしら吸い込まれるような精気を感じる。小春はしばしその刀に見入ってしまった。
「これは…」
「これね、私の友達の刀なんだ…。死んじゃったけど。貰ったわけじゃないから貸してあげるってのも変だけど、持ち主がどうせいないからね」
「…そうなんですか……」
「使ってみなよ。武器のこととか、私にはよくわからないけど。れいな…友達が、よく自慢してたから、名器だって」
小春は吸い寄せられるようにその柄を握った。しっくりと手に馴染む。不思議な高揚感があった。鞘から刀身を抜き出してみると、どうということはない、しかしえもいわれぬ不思議な輝きを放っていた。
「これは…すごい刀ですね…」
小春が思わず呟く。絵里は「そうでしょ」と言いながら内心で、本当にすごい刀だったんだ…、と驚いていた。
そもそも、そんな名器を使っても、れいなは絵里の前に敗れたのだし…。
「じゃあ、真剣で練習してみようか。その方が役に立つだろうし」
「え、真剣で、ですか…?」
「うん、私も自分の刀使うから」
「わかりました…」
「気を抜いたら死ぬかもよ」
「…はい!」
(・ 。.・*从
面白い
644 :
名無し募集中。。。:2005/08/19(金) 17:27:32 0
続きを読むのが最近の一番の楽しみ
読ませるねぇ
乙保です
648 :
名無し募集中。。。:2005/08/19(金) 21:33:03 0
==しおり==
ここまで読みました
破滅の予兆か…イイネェ
保
保全
h
i
(- 。.-*从
重さんお休み中なのね
ほ
ぜ
ほ
ぜ
660 :
名無し募集中。。。:2005/08/20(土) 13:14:58 0
ほ
っ
し
ゃ
んぁ
保全
ho
ze
保全
リd*^ー^)
从*・ 。.・) ほーっ!
保全
ho
ze
n
na
no
ハロモニ前ho
期待ho
679 :
名無し募集中。。。:2005/08/21(日) 14:22:22 0
ほっほっほっほっ
保全
ほ
682 :
名無し募集中。。。:2005/08/21(日) 19:26:19 0
も
リd*^ー^)
真希はすぐに自室に戻ってきた。しかし亜弥はいない。
「どっかいったのかな」
さして気にすることもなく真希は考えていた。これからどうすれば一番楽しめるか。大筋の考えは纏まっている。決してよくない真希の頭で、よく考えたものだと自画自賛の体で。
もしそれが計画通りに進めば、絵里、さゆみ、梨華はおろか、多くの国民を絶望に貶めることになる。そのさまを想像すると自然笑みが漏れた。
我ながら、随分と変わったと思う。昔の自分では考えられないような残酷さ。卑劣さ。
どうでもよかった。妹が、れいなが居ないこの世界のことなど。
今はどうやって、華々しく妹を葬るか、それだけが真希の全てだった。
妹のことを考えるとき、真希はいつも自分が、自分で無くなるのを感じた。昔梨華に言われたことを思い出す。
「ごっちんは本当に強いけど、最強だけど、唯一の弱点があるとすればそれは、れいなね」
あのときは梨華は笑っていた。自分が言った言葉に、それほど大きな意味があるとは思っていなかったのだろう。
れいなは弱点では無かった。何故なら、れいなの為に強くなったのだから。
妹の死を聞いたとき、自分は側に居なかった。平和な世になったと、れいなは強くなり、自分の助けは必要で無くなったと高を括っていた。
れいなの死に顔を見た時、辺りは暗くなった。平和は世の中も、強さも、全てまやかしだと気付いた。
今自分は不安定なのではない。確固たる目的を、れいなをはぶるという目的を持っている。ただその純粋な目的以外の一切にさしたる興味が持てないだけ。
それは亀井絵里にしてもそうだ。所詮「強さ」はまやかしに過ぎない。亀井絵里や、自分も、それにあさ美、亜弥、梨華そしてさゆみ。強いと呼ばれている人達のどこに「強さ」があるものか。
真希にしてみれば昨日絵里に寄り添っていた小春の方がよっぽど強く思えた。強さなぞ、脆弱なものだ。
そしてさゆみと絵里。二人の関係に感づいたとき、一切の迷いは無くなった。
れいなは頑なに絆や情を信じていた。真希が組織を離れるときにれいなが残った理由もそれだった。このままでは共に戦った仲間が皆捕らえられてしまう。最後まで戦いたい、と。
その夜真希とれいなは大喧嘩をした。そのことが今も悔やまれる。
無理やりにでも、れいなを連れてこればよかったのだ。
仲間や情を信じるれいなが闇の世界を生き残ることなど、土台無理な話だった。そして最後には、れいなが友と信じて疑わなかったさゆみに謀られ、絵里に殺された。
れいな、さゆみ、絵里の三人の間に何があったのか、真希は詳しくは知らない。そしてさゆみと絵里の間に交わされた親密な視線の意味も。
しかし、そんな全てが絵空事であることは分かった。そんな全てを、悉く破壊してみせることが、れいなへの弔いになるだろうことも。
思考を中断させる。れいなの事を考えることは、真希を高揚させる。それと共に、あらゆる憎悪と弱さを奔出させる。自分自身へのだけではない。この世の中全ての本質的な弱さを。
今は目的のために、しばしれいなへの感傷を置いておこうと思った。全てを遂げることが出来たなら、そのときにこそ、れいなの墓前にもう一度立とうと。
保
計画を遂げるに当たって、ある人物の力を借りようと思った。昔から大嫌いだった女。しかし今となっては、そんな感情などどうでもよくなっている。その女にこれから会いに行こうか、そう思ったとき、折りよく亜弥が戻って来た。
「ごっちん…早かったね」
「亜弥ちゃんどこ行ってた?」
「いや、ちょっと…ね。ちょっと」
亜弥の様子は不自然だった。しかし真希にはそんなことはどうでもよかった。これから自分が放つ言葉に、亜弥がどんな反応を見せるか、そんなことを考え、わくわくしていた。
「調度よかった。ね、亜弥ちゃん。美貴に会いたくない?」
亜弥はその名前を聞いたとたん、表情を凍りつかせた。
「美貴…。藤本美貴…?」
「そ、今から会いに行こうと思ってね」
亜弥は一瞬思考を失ったが、直ぐに思い出した。
「ちょっと待って…たんは、藤本美貴は死んだはずでしょ…?」
「いや、生きてるよ」
亜弥の中に藤本美貴の顔が蘇る。その表情はいつでも苛立たしげで、血に飢えた目をしていた。生まれついての殺人鬼、或いは、殺人狂の目。美貴が、生きている?
「だって、とどめ刺さなかったもん」
真希はまたにやりと口の端を歪めた。亜弥の驚愕に満ちた表情を楽しみでもするように。
o ノノハo
从*・ 。.・) ☆ノハヽ
( y/ 了 ノd*^ー^) /
|== |σ ο__ Y. ノ`_σ゛ <さゆは絵里が守りますよ?
|. ゜。 .| U \
⊃―.Ο し へ ∩
狂犬キタコレ
690 :
名無し募集中。。。:2005/08/21(日) 22:05:00 0
つ
ここできるのか。旅先から期待
今日初めて読んだ 最高だーな
693 :
名無し募集中。。。:2005/08/21(日) 23:45:40 O
ho
ミキティキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
696 :
名無し募集中。。。:2005/08/22(月) 02:23:48 0
保
全
れいなが早めに死んだ時は少し驚いたけど
各登場人物の行動を決定させるためのキーパーソンとして扱っててよいね
誰一人としてぞんざいに扱うことなく丁寧に描いているのでこれからが楽しみ
たーーーんっっ!
ho
701 :
名無し募集中。。。:2005/08/22(月) 07:16:59 O
ho
703 :
名無し募集中。。。:2005/08/22(月) 12:35:15 0
ze
リd*^ー^)<ん?
>その表情はいつでも苛立たしげで、血に飢えた目をしていた
ワロスコワス
ほー
707 :
名無し募集中。。。:2005/08/22(月) 16:49:19 0
ぜー
n
ho
po
ze
保全
ほ
リd*^ー^)
ze
ほぜn
ほ
ぜ
り
ho
ze
んぁ(´д ` )
从*´ヮ`)するっちゃ
( ´ Д `)ショパー
ほ
も
さ
っぷ
え
保全
わくわく
〃ハヾヽ
川VvV) /\__,ヘ ニャー♪
(|└┘|づ─∞ )) ノノハヽ|
‖_ ‖\〃 (´ ヮ`*从ー''〜
∪ ∪ ∞ (ノ(ノーヽ)
んー
ほい
れ
ho
ぜ
っ
た
ん
ら
る
ノノ*^ー^) うへへへっ
ほ
746 :
名無し募集中。。。:2005/08/24(水) 13:30:00 O
ほ
748 :
名無し募集中。。。:2005/08/24(水) 15:35:09 O
あ
ヌゴスギ。
狂犬登場とは、これまたホットだね。
ホットホット!!
555
ほ
川o・∀・) も♪
ё
ho
ぜ
n
758 :
名無し募集中。。。:2005/08/24(水) 23:47:55 0
ネーマダー?
首都にほど近いN宮という町がある。そこは内戦が終わった後も全国で最も治安が悪いとされる町。別名犯罪町とも言われる。ここでは世の動向など誰もが無関心で、日々を目先の快楽と、暴力に委ねて送っている。
大通りから少し離れた路地にある建物、その地下。
妖しい熱気と、血の匂いと、殺意に満ちた薄暗い一室に美貴はいた。何人もの取り巻きに囲まれて、ゆったりと椅子に腰掛け、トランプを繰っている。
テーブルに並べられたトランプの一枚を無造作に捲った美貴の額には不快の色が浮かんだ。
「美貴さま、どうなさいました?」
すぐ脇にいた鋭い目の男が声を掛ける。美貴は、それよりも更に鋭い目で男を睨み付けると溜息交じりに言った。
「嫌な客がきたみたい」
不意に戸が開いた。男達の視線が一気にそちらに集中する。そこには不敵な笑みを浮かべた真希が立っていた。
「さすが美貴、よく当たるね」
「真希…」
一瞬にして室内の緊張感は増した。男たちは今にも真希に飛び掛らんばかり、構えている。
「何しに来た?私に殺されにきたの?」
美貴が尚も鋭い目で真希を睨み付ける。真希はにやにやと笑い、暫く見合いが続いた。
「あはっ、そう邪険にしないでよ。久々じゃん」
真希がわざとらしく言うと、美貴の表情にも笑みが浮かんだ。
「久しぶりだね…あの時以来か…」
男達はどうやら美貴と真希が知り合いであるらしいことはわかった。しかし、真希に対する殺気は増している。美貴がそうであるから。
「あんたは変わらないね…昔の目のまんまだ。頼もしいよ」
真希の側に立っていた男が、その殺意をむき出しにして真希ににじり寄った。懐にナイフを隠して。しかし真希が一目、その男のほうを見ると、男はまるで蛇に睨まれたように動けなくなってしまった。
男には、真希の底の知れない実力が瞬時にわかった。
美貴はその男を横目で見ながら、半笑いに言った。
「やめときな…あんたらじゃ、勝ち目はないよ」
男は静かに頷いて引き下がった。
「藤本美貴の狂犬部隊は壊滅したって聞いたけど…」
「おかげさまでね」
「まだ、いいのを飼ってるじゃん」
美貴はその真希の言葉に目を見開いた。かつて美貴が飼いならしていた、美貴を慕い、美貴と同じく血と殺戮を好む狂犬部隊は、地下組織にあって最強の殺人集団と恐れられていた。そして真希は、美貴とその部隊を毛嫌いしていたのだ。
そもそもは、美貴も真希と同じく、反政府組織に雇われて内乱を戦ったのだ。その実力はすさまじく、死神の真希、亜弥と並び3強と恐れられた。しかし美貴とその部隊は、戦場で必要以上の残虐行為を繰り返すこととなる。
無関係の市民を面白半分にいたぶり、味方さえもその手にかけることがしばしばあった。
内戦が最終局面を迎える直前、組織の指導者は、政府転覆の暁には、美貴は必ず障害になると考え暗殺を画策した。そしてそのアサシンに選ばれたのが真希だった。
「あんたは私のすべてを毛嫌いしてた…。真希、変わったね…」
「ふふふ、どうでもよくなっただけだよ」
「そう…。それで、一体何の用なの?殺して欲しいならいくらでも殺してやるけど?」
真希は美貴の目を見て、また不敵に微笑んだ。
美貴には些かの興味が沸いていた。かつて、真希とはまったく馬が合わなかった。いや、美貴の持つ悪の美学を理解するものが殆どいなかった。幼馴染の亜弥でさえ、日に日に自分に嫌悪の視線を向けるようになった。
その代わりに、自分の周りには血に飢えた男たちが集まった。彼らは美貴を「美貴様」
と呼び、絶対的忠誠を誓った。
悪徳とは本能に立ち返ること。美貴は自分を絶対の悪と信じていた。破壊の欲望、残虐さへの嗜好、全ては純粋な悪の所業であり、それによって快楽を求めることが美貴のすべてだった。
男たちもまた同じだった。彼らはいつも美貴を血祭りにあげる日を夢見ていた。真に美しい美貴の肉体を屠り、苛むことを究極の願望とし、己の命よりも快楽を優先させる。
美貴にはさゆみと似た、しかし間逆の強烈なカリスマ性があった。美貴にとって思想や政治や闘争など、果てしなくナンセンスなことだった。
そんな美貴を毛嫌いしていた真希が今再び目の前に現れた。美貴は真希と戦い敗れて、死の淵を彷徨った。そのときの真希の目には一片の光があった。美貴にとって、その不純な真希の目は気に食わなかった。
しかし今、目の前に現れた真希の目には一切の光が無い。いや、一切に無関心なと言い換えたほうが適切だろうか。その目は、映ったすべてを柳のように透かしとおし、真希に何の影響も及ぼさない。
真希の目は、「見る」という純粋な目的以外のことを一切拒否しているように見えた。
昔の真希とは、違う。
「亜弥ちゃんも連れてこようと思ったんだけどね、会いたくないって」
「亜弥ちゃんが…まあ、嫌われてたからね…。で、用件は?」
「そうそう、面白い話があるんだよ」
真希の目に妙な煌きが走った。それは美貴ですら悪寒を覚えるような、得体の知れない煌き。美貴は真希を食い入るように見つめた。
「今の平和な世の中、あんたやそこの男たちは不満たっぷりでしょう?」
「…だったら?」
「もう一度、戦争を起こしたいと思わない?」
「なに…?」
真希が話終えたとき美貴は深いため息を吐くと同時に、軽い興奮状態にあった。
「やっぱりあんたは変わったね、真希。昔の面影もない」
「そんなことはどうでもいいよ。それより、どう?面白くない?」
美貴は少し目を閉じ、考えた。
真希は自分を利用しようとしている。それは明白だった。しかしそんなことはどうでもいい。この平和な世の中が、再び血の騒乱に陥れられる。それを思うだけで背筋がぞくぞくと踊った。
「これはあんたにしか出来ないんだよ。なんせ、あたしと戦って唯一死ななかった奴だからね」
「ふん、真希が止めを刺し忘れただけでしょ…」
「死んだと思ってたよ、正直。それにすぐ後でY浜の戦いが起こったからね。もう一度やる時間もなくあんたはどこかに消えた」
「私はしぶといんだよ…。いつでもそう、悪人はしぶといんだよ」
「で、どう?話に乗る?」
「ああ、面白いと思うよ。でも気に入らないのは…あんたは高見の見物ってわけ?」
「あたしにはあたしでやることがあんの」
「そう…」
美貴は一度あたりを見回した。美貴が真希に倒されたとき、狂犬部隊は頭を失い次々と捕縛されていった。そして殆どが処刑された。しかし数年でまた、美貴を同じように慕う人間がこれだけ集まったのだ。
彼らは真希の話を聞き、既に息を荒くしていた。
こんな小さな町に押し込められるのは、もう一秒だってごめんだ、と言わんばかり。
「ま、面白いね。乗った」
その言葉に真希は満足し、右手を差し出した。
美貴はその手を払いのける。
「あんたと握手なんて死んでもできないね」
「あはっ、そっか、そうだね。その右手、義手?よく出来てるね。ハジメマシテだ」
真希が外に出ると既に日は暮れていた。N宮の夜は眠らない。しかし、今日は妙に静まり返っていた。何かにおびえでもするように。
更新乙。
おもろいよ。
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
待ってたぜ!
乙ー
美貴様!
お前らだったら、道重・石川・後藤・藤本のどこにつくよ。
ほ
俺は何があっても王女についていくよ
さ
ゆ
み
ん
狂犬部隊オモシロス
最
777 :
名無し募集中。。。:2005/08/25(木) 15:21:59 0
乳
778 :
名無し募集中。。。:2005/08/25(木) 15:34:10 0
紺垣さゆみについてゆく
ノノ*^ー^)
782 :
名無し募集中。。。:2005/08/25(木) 19:28:11 O
保全
”∩ノハヽo∈ ∋oノハヽ∩”
ヽ(・ 。.・*从 从*・ 。.・)ノ
ヽ ⊃ ⊂ ノ
ほ
し
ゅ
ノノ*^ー^)
从*・ 。.・)
791 :
名無し募集中。。。:2005/08/26(金) 03:57:37 0
ほ
さゆラブ
ho
ze
n
de
796 :
ひみつの文字列さん:2024/12/12(木) 07:32:33 ID:MarkedRes
日本国またはアメリカ合衆国、もしくはその両方の著作権法に触れる内容であると疑われることから表示できません。
797 :
名無し募集中。。。:2005/08/26(金) 16:16:07 0
su
昔はこういうマルチもsageスレではきちんと下げてたのにな
ほ
こんな面白い小説あったのか
保全
〃
ノノ*^ー^) うへへへっ
804 :
ひみつの文字列さん:2024/12/12(木) 07:32:33 ID:MarkedRes
日本国またはアメリカ合衆国、もしくはその両方の著作権法に触れる内容であると疑われることから表示できません。
保
田
大
サ
保全
ほ
超名作
ぜ
n
ほ
815 :
名無し募集中。。。:2005/08/27(土) 17:01:08 O
ho
ze
818 :
名無し募集中。。。 :2005/08/27(土) 20:35:58 0
ノノ*^ー^)
保全
狂犬ほ
ノノ*^ー^) ニヤス
保守
(´ヮ `*从*。+゚
824 :
名無し募集中。。。:2005/08/28(日) 02:36:42 O
てす
ho
826 :
名無し募集中。。。:2005/08/28(日) 04:09:32 0
ほ
っ
し
保全
831 :
名無し募集中。。。:2005/08/28(日) 11:58:55 O
ほ
ぜ
ん
835 :
名無し募集中。。。:2005/08/28(日) 17:21:53 O
保全
〃
ho
狂犬ほ
ほ
841 :
名無し募集中。。。:2005/08/28(日) 23:11:07 O
てす
ほほほい
ふ
ほ
し
ネーマダー?
847 :
名無し募集中。。。:2005/08/29(月) 05:04:56 O
早く早く
焦らず騒がす
美貴の名前を聞いてから亜弥の中にあった不安はいよいよ大きくなった。
美貴は死んだはず。それも、真希と戦って敗れて。これまで真希に挑んで生きていたものを亜弥は知らない。そして美貴の死骸も亜弥は目にしたはずだった。
「首が無かった…まさか…」
美貴の死骸は首が無かった。美貴が、自分の部下に自らの服を着せ、その首をはねたのだ。誰も確認するものはいなかった。誰も真希がしくじるとは思っていなかったし、文字通りその日から美貴は消えたから。
しかし、生きていたとしたら…
亜弥と美貴は幼馴染だった。幼い頃は美貴は優しく、よく笑っていた。内戦カが始まるより前の話。
二人で剣の稽古をすると、いつも強いのは亜弥の方だった。一つ年上だった美貴はよく悔しそうにしていたものだ。
二人はいつもそんな風にして、何の変わりもない平穏な毎日を過ごしていたのだ。
亜弥は今でもはっきりと覚えている。美貴が変わってしまった日のことを。
二人がまだ子供だった頃、二人の乗り合わせたバスが転落事故を起こした。二人はそのとき死ぬはずだった。しかし、亜弥の命は美貴に救われた。崖の遥か下で炎上したバスの中、重傷を負った亜弥の元へ来る美貴。
思い出しても身の毛のよだつ光景だった。
一人無事だった美貴に生き残った瀕死の乗客たちが縋る。それを美貴は剣で切り捨て、ただ亜弥の元に駆けつけたのだ。その目には亜弥だけが映っていたのだろう。しかし朦朧とした意識の中で亜弥が覚えている美貴の目には、ただ炎が映っているだけだった。
亜弥はその光景に何かの終わりを感じた。自分と美貴の、楽しかった時間はそのとき永遠に終わりを告げた。
バス事故で生き残ったのは亜弥と美貴の二人だけだった。落ちたときに死んだ人も、美貴に切り殺されたものも、全ては燃えて灰になった。
その日から美貴は変わった。何かを執拗に苛むような攻撃的な目と、どこか不愉快そうな笑みをいつも湛えるようになった。
やがて内戦が始まったときには美貴は誰からも恐れられる殺人者として、闇世界を恐怖に陥れていた。亜弥はそんな美貴をただ見ていることしかできず、やがて自らも内戦の戦火の中に身を置くことになる。
反政府組織に美貴が身を置くと知ったとき亜弥はひどく驚いた。しかし今思えばそれも、美貴はただ激しい戦いと、血を求めていただけだった。亜弥は美貴に続くように組織に身を寄せた。
どれほど美貴が変わってしまおうと、亜弥は美貴の側を離れることが出来なかった。
真希と始めてあったのはそのときだった。
殺人鬼として恐れられていた美貴と、その美貴に匹敵する実力のある亜弥。二人に近づくものはいなかった。誰も内心で二人を仲間だとは思っていなかった。
しかし真希だけは何の物怖じもせず近づき、気に食わない、とはっきり美貴に言った。真希の存在は、亜弥にとって天地を返したような驚きだった。
内戦が激化するにつれて、亜弥、美貴それに真希は共に仕事をすることが多くなった。一応は美貴のパートナーは亜弥だった。真希には梨華という絶対のパートナーがいたから。
美貴と真希はいつでもいがみ合い、お互いに不快をぶちまけていた。亜弥と梨華が間に入って宥めるということは茶飯事としてあった。
真希はいつも冷静で、涼しい目をしているのに対し、美貴はすぐに激昂したものだ。
真希は美貴を否定した。真希は決して頭がいいというわけではない。だから具体的に何かを否定したわけではないが、真希にとって美貴の生きかたは生理的に不愉快なものらしかった。
亜弥は自分と美貴の間の狂った歯車の答えを、真希に見出すようになった。共に戦っていく中で亜弥は段々と真希に惹かれていった。いつも真希の傍らに梨華がいたとしても、それでよかった。
梨華が表社会の大企業である石川財閥の養女になり、暗殺業をやめ指導者となったとき、亜弥は真希のパートナーを買って出た。美貴との決別。それは決定的なものとなった。
パートナーを失った美貴は、殆どの仕事を単独で、勝手に行うようになり、自らを筆頭とする狂犬部隊を引き連れて命令を超えた残虐行動を繰り返すようになる。そして暗殺命令。
いわば美貴を狂わし、殺したのはすべて自分だと、亜弥は思っていた。
だから美貴の死体を目の当たりにしたとき亜弥は数滴の涙を落としたのだ。
しかしその死体すら、美貴のものでは無かった。
内戦が終わり、全てが終わったはずだった。亜弥は真希と共に暮らし、そのまま暮らしていくはずだった。
しかし、亀井絵里の暗躍、れいなの死をきっかけに、無事な生活は終わりを告げたのだ。
今、真希が再び美貴のところに向かった。いったい何をしようというのか、亜弥にはまったく、予想だにできなかった。ただ不安が、幾重にも折り重なって亜弥の心を責苛む。不安で潰れてしまいそうになる。
亜弥は王宮に向かっていた。どうしてだかは分からない。ただ、暗い思考を抱えて外に出ると、自然足がそちらに向いていたのだ。
亜弥は今はっきりと思い至った。美貴が狂ってしまったように、真希も狂ってしまったのかもしれない。
自分が側にいた、自分が愛していた二人の人が…
「あたし、人を狂わせる才能でもあるのかな…」
亜弥の独り言が吸い込まれた空は、すでに夕闇がかっていた。気がつけば王宮通りまで来ていた。この巨大な道に、人は殆ど歩いていない。
「そんな才能、いらない…」
亜弥がかつて組織に与していたとき、心を許していた人物の顔を一つ一つ思い浮かべてみる。真希と美貴。梨華。彼女は嘗て真希の最愛の人であったはずだ。しかし今、その命を真希に狙われている。
そして真希の妹で、いつも明るく、楽しく話してくれた、れいな。死んでしまった。
あと一人、自分にとって大切な友達の顔が浮かぶ。
その幻影の向こうには、巨大な王宮が闇に照らされて不気味に佇んでいた。
その最後の一人に、亜弥は藁をも縋るような気持ちで手を伸べていた。不安げな表情で王宮を見上げる。
「助けて、紺ちゃん…」
作者さんGJ!
紺野キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
あややがこんこんを訪ねて王宮に
オラ ワクワクしてきたぞ
乙
ワクドキ
KITA−!
860 :
名無し募集中。。。:2005/08/29(月) 13:30:45 O
保全するのはいいが、sageるくらいしろよな。
それぞれ人物が繋がってきたね〜ワクワク
保
ほほほい
ノノ*^ー^) 最近出番がありませんよ?
从*` ロ´)<・・・
更新キテター
保全
おもろい
ほほほほほい
ほぜん
うぉぉぉおおお
あややとこんこんにまで繋がりがー!!
ho
ze
ja
n
leno
〃ハヾ ハヾ ミ、
ノノノ *^)(.・ *从ヾ
と ノ ヽ つ
(_)) ((_)
ほ
ね
881 :
名無し募集中。。。:2005/08/30(火) 15:56:55 0
〃ハヾ ハヾ ミ、
ノノノ *^)(.・ *从ヾ
と ノ ヽ つ
(_)) ((_)
ほい
ノノ*^ー^)
ho
ze
n
ほ
ぜ
ん
890 :
名無し募集中。。。:2005/08/31(水) 03:15:42 O
これは現代日本じゃないよな
イメージ的には…戦国時代より
中世ヨーロッパあたりかな?
ho
ほ
ぜ
ノノ*^ー^)<ん〜?
ほ
从*・ 。.・)おほほほほっ
ほ
900いっちゃうね
最近保全ばっかりだからな
正直すまん…
次スレははちょっと書きためてから立てます
期待しとるよ
今一番期待してる小説スレだから保全もしたくなる
それはお前らも一緒なんだろうなw
ho
いつの間にか更新キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
毎回楽しみにしております
ほ
ぜ
ん
ze
n
ho
911 :
名無し募集中。。。:2005/09/01(木) 12:00:43 0
ウキ
えりりん
ほい
ほほい
( ´ Д `)んぁ
「これはまた、珍客ですね」
あさ美は開口一番にそう言った。亜弥から見たその顔はどこか青白く、不健康そうだった。あさ美から見た亜弥も、同様に疲れの浮いた顔をしている。
二人がこうして会うのは随分と久しぶりのことだった。あさ美にとって、亜弥の姿は真希とは違った懐かしさがある。
「そんな言い方しないでよ…久しぶりじゃん」
「そうですね、松浦さん…」
二人は王宮を離れ、城下の一角の酒屋に来た。真希同様、亜弥も王宮に入れるわけにはいかない人物だから。
城下には王宮官吏などが住む高級な場所とは別に、ごく貧しい下町がある。公式な立場にないあさ美にとって、過ごす場所は後者である。しかし、そこでのあさ美の力は大きい。
さゆみが表の人気を支えているとするならば、首都圏での「闇」の人気はあさ美が支えている。彼女はもともと、所得の大きな者よりも小さな者、追いやられた者、圧迫された者たちの力が最後には役立つと考えていた。
貧民や難民を省みない政治が先王のやりかたであり、それを崩そうとしたさゆみは、あさ美のそんな部分を奨励していた。
だから城下での王宮人気はほぼ揺ぎ無い。
この店は中でも日陰にある小さな店だが、王宮に入ってからのあさ美が落ち着ける数少ない場所になっていた。
「今日は二人ですか、紺野さん。珍しいですね」
マスターが気さくに声を掛ける。この一帯では紺野の立場は暗黙の了解として知られている。そして皆、王宮の最高実力者の一人でありながらその素性を表にせず、弱者に加担してくれるあさ美に敬意と憧れを抱いていた。
あさ美が亜弥をここに招いたことは、少なからず彼女に気を許しているということでもある。
「あんまり来たことなかったけど、この王宮都市にもいい所があるんだね」
亜弥が落ち着いた店内を見回しながら言うと、あさ美は少し眉を下げて言った。
「まだまだですよ…。この辺りも、少し隔てたところとの格差はまだ大きい。対立も根強くありますからね…」
「そっか…。紺ちゃん、なんだかかっこよくなったね」
「どういうことですか」
「いや、へへへ。ごめんね、忙しいのにわざわざ出て来てもらっちゃって…」
「いえ。私もちょっと気分転換したいと思ってたところです」
店内には穏やかな空気が流れている。あさ美と亜弥は性格も違えば、考え方も全く違う。しかし昔から妙に馬があった。
せっかちな亜弥にとって、あさ美の捉えどころの無い空気や、そのくそ真面目な性格が不思議と心地よかったし、あさ美も亜弥の無駄に明るい雰囲気が嫌いではなかった。
「それで、今日は一体どんな用ですか?」
あさ美がそう切り出すと、亜弥は言葉に詰まった。
様々に思うところがあってここにきたはずだが、考えは纏まらない。短い言葉に纏める術が全く思い当たらない。
「急に紺ちゃんの顔が見たくなった……じゃ、だめ?」
「だめです」
「にゃはは…相変わらずだなぁ…。でも、本当にそれもあるんだよね。何だかいろんな考えが入り乱れて…ふと紺ちゃんの顔を思い出したら会いたくなっちゃった」
その言葉にあさ美はどう反応したものか、何となく額を掻いた。
「ねぇ、紺ちゃん…。紺ちゃんが王宮に入ったって聞いたとき、吃驚したよ。でも今は何か合ってるかなぁって思う」
「そうですか」
「真面目だもんね。いつも『完璧』を求めてた。どう?今の仕事は、充実してる?」
「………」
一瞬、暗い思案顔になったあさ美の表情を亜弥は見逃さなかった。しかし、それに気付かないふりをする。すぐにあさ美が取り繕ったのがわかったから。
「『完璧』を求めてたのは……ポーズだったんです。あの頃はそうして自分に言い聞かせないとすぐに自分を見失った。何を目指すべきかわからなくなった…。だから…でも今はそれとはもっと別に大切なものが見つかったから、充実してます…」
「そっか…」
亜弥はその何か決然とした台詞に安心した。
「強くなったね、紺ちゃんは…」
亜弥とあさ美の関係は微妙だ。真希や美貴と共に三強と謳われ、真希のパートナーでもあった亜弥。そしてあさ美は真希の弟子であり、最後まで真希のパートナーとして認められることは無かった。
亜弥はそんなあさ美を、気の置けない妹のように思っていたし、あさ美も、師匠である真希とは違う、親しい気持ちで亜弥を慕っていた。
お互いの立場が変わった今でも、その頃の名残が二人の間にはなおあった。
「松浦さんは…あまり充実していない、という口ぶりですね」
そう言われて亜弥はどきりとした。
あさ美の能力は高く、真希が認めなかっただけで、誰もがその実力を認めていた。殊、情報戦や心理戦でのあさ美の力は当時から抜きん出ていた。
妹のような存在、そうであると同時に頼れる仲間でもあり、時には姉のように思えることもあった。
「なんていうか…紺ちゃんってすごいよ。表情一つ変えずにそういうことが言えちゃうとことか…」
苦笑しながら亜弥が言う。
「今何をしてるんですか?昔の仕事はもうしてないようですが…」
「ふふふ、してたら今頃敵同士だね」
今度はあさ美がどきりとした。もちろん表情には出さなかったが。
『敵同士』と言う言葉に、ある二人の姿が過ぎったのだ。亜弥にそんな意図は全くないことは明白だったが。
「普通に暮らしてる。普通に、人並みに…」
「今の組織は石川さんたちが仕切ってるんだってね。昔と比べれば随分と力は失ったらしいけど…紺ちゃんは今それと戦ってるの?」
「ええ…」
「昔の仲間と戦うのは辛くない?」
「さっきも言いましたが、昔の私には明確な目的は無かったんです。ただ強くなるために組織に…後藤さんの下に身を置いていた。だから仲間という意識なんて無かった」
「……」
「今思えば、それが後藤さんに認めて貰えなかった理由でしょうね。仲間云々はともかく、自分に理由が無くただ口癖のように『完璧』に執着していたことが」
「それが…今は自分の確かを見つけられたんだ。そしてそれが王宮にある…」
「そうです。だから私は戦います…あのお方のために…」
「紺ちゃんらしいっていうか、なんていうか…。でもやっぱり、強くなったんだね」
「どうでしょうね…」
あさ美の中には蟠りがある。それははっきりとした形を見せるほどに大きな物ではない。
しかしS市の夜依頼、その影は確実にある。そしてそれを抱えた今「さゆみの為」と繰り返し口にする自らの姿が、嘗ての『完璧』という雲を追い求めた自分の姿に重なる時がある。
お互いが、相手の心に何かしらを抱えているのを感じていた。しかしそれとなく悩みを打ち明けられた昔とは状況が違う。
「紺ちゃんは…」
亜弥は急に声を潜めて言葉を発した。それが一旦詰まった機会に、今一度辺りを見回す。他に客は居ない。マスターは奥で作業をしている。
「王女さまの為に……王女さまの命令で、ごっちんを雇ったの…?」
その言葉は一瞬、あさ美の表情を変えた。
「……どうしてそれを?」
極秘の情報。しかも前線を退いている亜弥が知っているということは、大きな情報漏洩のルートが存在する可能性を示していた。
「それは、知ってるよ…私今ごっちんと一緒に住んでるんだもん…」
「そうだったんですか…」
ひとつ、不安は消えた。しかし次の疑念がすぐに浮かぶ。亜弥の言葉の意図がいまいち読み取れなかった。亜弥と真希の関係はそれとなくは知っていたが、昔からそれは微妙なものだったから。
「後藤さんを雇ったのは……そうですね、じゃあこれも知っているでしょう。今、闇で暗躍している亀井絵里という存在を…組織の、石川さんの最後の切り札を」
「うん、知ってる…」
「彼女は…松浦さん達が居たころにはいなかった。しかし今、王宮にとっては最大の脅威です。
その実力も、まだ計り知れない部分がありますが、あの頃にもしいたら歴史も変わっていたかもしれない。それくらいの人物だから、強い後藤さんの力を借りることにした。ということです」
「ごっちんを利用して、亀井絵里とぶつけることにした…」
「まあ、言い方を変えればそうですね」
「でも……いや、…」
言葉に詰まった亜弥をあさ美は胡乱の眼差しで覗った。
「紺ちゃんはごっちんと最近会ってるよね?どう思った?」
「どう、とは?」
「昔と比べて…」
「……そうですね、昔と同じように、何を考えているのかわかりませんでした。その余裕そうな笑みも、手ごたえの無い目も…昔のままのように感じましたが…」
「違う…」
「え?」
「ごっちんは変わったよ…。昔のごっちんじゃない。昔よりももっと、何か、こう…危ない」
「………」
店内の空気は相変わらず穏やか。しかし二人の間にある空気だけが、張り詰めていた。緩やかに流れる音楽に掻き消えそうなくらい二人の声は小さい。側にいても普通の人になら会話の内容が聞き取れないのではないかと思われるくらい。
「ねえ、紺ちゃん…今からでもいい、ごっちんに仕事をさせないで…。今のごっちんは、何かとんでもないことをやらかしそうな雰囲気があるの…」
「……何か、知ってるんですか?」
亜弥はあさ美の目に、苦しそうに俯いた。
「言えない…。私も全部は知らない。ごっちんは話してくれないだけど…私の知ってることも、やっぱり言えない。紺ちゃんにも…」
「……」
「言えばごっちんを裏切ることになる…。私は…ごっちんを裏切ることだけは出来ない…」
あさ美が一つ、溜息を吐いた。張っていた空気が、ほんの僅かだけ緩む。
「『後藤さんを裏切ることは出来ない』…口癖でしたね。藤本さんが死んでからの…」
亜弥は思わずあさ美の顔を見上げた。あさ美は知らない。美貴が生きていることを。そして当然、真希が美貴と会い、何かをしようとしていることも。
あさ美の言葉は亜弥の内心を激しく掻き乱した。
そもそも始め亜弥の側には美貴がいた。ずっとそこにいると自分自身でもそう信じていた。しかし結果的に見れば亜弥は美貴を裏切り、真希のもとに来た。美貴の死は、亜弥にとってとても大きなものだった。
しかしそれでも真希を選んだのだ。そしてそれは二度と揺るいではいけない、そう誓った。今美貴が生きていたこと、そして真希が変わってしまったことは、云わば二重に、亜弥の眼前にあのときの苦悩を押し付けられたことに他ならない。
それを、あさ美の言葉を聞いたとき、はっきりと知覚してしまったのだ。自分は今揺らいでいる。真希を裏切ろうとする心が擡げている。それは決して、許されざることだ。
あさ美はそんな亜弥の苦悶の表情を見つけていた。亜弥の中にある葛藤の形も、おぼろげながら把握しはじめていた。
「私は…最初の、素直に後藤さんを慕っていた頃ならともかく、認めてもらえない苛立ちから後藤さんに不信感を抱いていました。調度後藤さんの下を離れた頃がそうでした。だから…そうした感情の残滓から後藤さんの変化に気付けなかったのかもしれません」
あさ美は不意に話だした。亜弥に語るような口調で、昔を思い出しながら。
「私にとって後藤さんはあまりにも大きかった。始めは素直に憧れていたけど…自分が強くなったと思うたびに後藤さんとの差が開いていくように感じました。だから未熟だった私は後藤さんを憎んでいたのかもしれない…」
「…紺ちゃん?」
あさ美は思った。そういえば真希は変わっていたのかもしれない。昔の真希には無かった、狡猾さが覗えたのも事実だ。そして昔以上の、不気味な雰囲気が確かにあった。
亜弥はそんな真希の変化に酷く戸惑っている。そして苦しんでいるのだ。
「松浦さんの気持ちはわかりました。後藤さんを…救って欲しい、そういうことですね?」
亜弥は一瞬目を見開いた後、静かに頷いた。
「私にとっても後藤さんは大切な人です…。今思えば、私は後藤さんの背中ばかり追いかけていた。出来ることならば私もそうしたい、だけど…」
「私の力であの後藤さんを救うことが出来るとはとても思えません…。それに…わたしにとっては今、後藤さんよりも、誰よりも大切な人がいます…。松浦さんにとって後藤さんがそうであるように…私は陛下をすべてに優先します」
張った空気は溶けた。亜弥があさ美を訪ねた理由をあさ美は了解した。そして一つの答えが出た。亜弥も、あさ美の考えをわかった。あさ美の、言葉の端々に微かに覗く苦しげな部分も、おぼろげにわかった。
亜弥とあさ美は昔から考えが全く違う。しかし、どこか似ている部分があった。今、二人は同時にそれを思い出していた。
「そっか…そうだね。紺ちゃん、ありがと。はっきりと言ってくれて…」
「……」
「少し、楽になった。紺ちゃんはやっぱり、頼りになるね…」
「私は…」
「んふふ、いいの。じゃあ、これは紺ちゃんと、紺ちゃんの大好きな王女さまの為に言うね。『気をつけて』もしかしたらごっちんが、また敵になるかもしれないよ」
「……わかりました」
「もしそうなったら、今度こそ本当に私たち敵同士になるね」
「松浦さん……」
「今、ちょっと実感した。私たちってやっぱちょっと似てるよね」
亜弥は席を立った。
問題は何も解決してはいない。しかしあさ美と、こうして話し合えたことは亜弥の気分を随分楽にした。そしてあさ美に感謝し、またあさ美に申し訳ないとも思った。
あさ美の方での問題は、自分では力になれない。王女のことを亜弥は何も知らないのだから。
「ちょっと届きそうに無い想いを抱えてるとことか」
亜弥がからかい半分に言うと、あさ美は酷く慌てだした。そんなあさ美を見て亜弥は柔らかく微笑む。
「また、会いに来ていいかな?」
「え、ええ…」
「今日のお礼がしたいし…そうだね、今度は何の気苦労も無く、普通に会えたらいいな。お互い」
「そうですね」
「じゃあ、本当にありがとね」
亜弥の背中を見送ったあさ美の中にも、小さな安心感があった。里沙といい、亜弥といい、自分は友人に恵まれているのかもしれない。
その関係は、いつ波に飲まれて消えるか知れない、死の匂いを伴っているとしても。
同時に、亜弥の言葉の中にいた真希の存在が不安の影を落とす。真希を救えるものならばそうしたい。しかし、もし真希がさゆみに危害を及ぼす存在であるとするならば…
敵にしたくはない。真希もそうだが、亜弥も。
希薄な友情。しかし敵になっても、命のやりとりをすることになったとしても、自分は彼女のことを友と思うだろう。
我ながら不器用だと思う。そして、そう思ったとき、何故か「あの二人」の姿が過ぎった。
ふぉー!
読んでて緊張するわ
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
複雑に絡まり合う人間模様にこの作品の奥深さを感じます
GJ!!
誰か死神狂犬コンビを止めてええええええ
やばいもうホント作者さん神すぎるわ
ho
ほ
ze
ワクドキ
ホ
作者って他に何書いた人?
狂犬がぐちゃぐちゃにしてくれたら面白いよな。
ho
从VvV)ぐへへへぇ