>>248 「えらい事になっとる」
今日は雨が降っていたので、僕は教室の中で弁当を食べていた。
で、僕の机の上には弁当箱が3つ。新垣と亀井が目の前に並んでいた。
双方の腕は僕の方に伸ばされ、その先には玉子焼きが箸でつままれていた。
「「はい、あーん!──んっ!?」」
新垣と亀井は同時にそう言って、その後、同時にお互いを睨んだ。
「ちょっと、亀、邪魔しないでくれる?」
「豆さんこそ、そのマズそうな物体を引っ込めたら?」
「玉・子・焼・きです!」
「それにしては、真っ黒コゲでしてよ、おーっほほほ!」
「チッ!」
勝ち誇った顔で言う亀井に舌打ちをする新垣の玉子焼きは、なるほど真っ黒だった。
対して亀井の玉子焼きは、色つやもよく、さすが毎日自分で弁当を作っているだけあった。
「新垣、無理しなくて良かったんだぞ。いつもみたく、お母さんに──」
「いーや!味はおいしいから!見た目だけだから、おかしいのは!」
そう言って、また新垣は僕の方に腕を伸ばした。亀井も負けずに伸ばした。
クラスの周りの視線が痛い。特に男友達からの視線が痛い。
僕、あとでいじめられるかも──そう思った。
「「ほら、早く!」」
2人に促されて、僕は同時に2つの玉子焼きを口に含んだ。
うっ──複雑な味がした。
「「どう?」」
そう聞いてくる2人に僕は言った。
「あまじょっぱい」
>>341 亀井の玉子焼きはしょっぱすぎて、新垣のは甘すぎた。
「うそー!エリ、砂糖と塩、間違えたのかな?」
亀井はアフォだった。
「甘ーいでしょ?がっばがっば入れたから、砂糖」
新垣も、なにげにアフォだった。
「でもさ、両方一緒に食べたら、丁度良くない?」
そう言う新垣に、僕は両方の玉子焼きをちょっとちぎって食べさせた。
「ううぇー!あまじょっぺー」
新垣はやっぱりそう言って悶えながら笑った。
亀井がムッとした。
「エリも!エリも!」
そう言う亀井に、僕が同じ様に口に含ませると、亀井はゆっくりと噛み始めた。
「モグモグモグモグ、──ウェーウェー」
亀井はあまりのまずさに、普段より更に頭をおかしくした。
3人がお茶でそのまずいモノを流し込んだ後、新垣が僕に聞いた。
「どっちの玉子焼きがおいしかった?」
負けずに亀井が聞いた。
「エリのだよね?」
目をキラキラさせてそう聞く2人に僕は、
「──どっちもおいしいよ」
そう答えた。
「「ブーブー!」」
新垣と亀井は揃ってブーイングしながらも、うれしそうだった。
僕と新垣と亀井の間には笑顔が戻っていた。
誰が誰を好きとかはとりあえず置いといて、友情一番──そう思った。