>>137 不満顔で何も答えない僕を見て、亀井はもう一度言った。
「もうすぐ梅雨じゃん?」
「もう入ってるよ」
「そうなの?」
「そう」
「ふーん、で、雨って降るじゃん?」
亀井は軽くスルーした。でも最近の僕は慣れたもんだった
「降るね」
「雨ってさ、何で降るか知ってる?」
「そりゃ、水の循環がどうこうとか、蒸発とか、凝結とか云々──」
「違うよ、そんな難しいことじゃ無いの」
「何?」
「雨が降るのは、地球に重力すなわち引力があるからなんです!(川平慈英風)」
「──それって、”雨が”じゃなくて”降る”の方の説明だろ」
「そうか!ってそれよりも」
亀井はまたスルーして、寝ている僕の方に近寄ってきた。
急に亀井は僕の両脇の床に両手をつき、半馬乗りになって言った。
「あんたは、引力って信じる?」
「そりゃ、信じるも何も──」
ゆっくりと体を倒した亀井の顔は、僕の顔のすぐ前まで迫っていた。
なおも亀井は顔を近づけて言う。
「あの時の事も、今のこの状態も、エリとあんたの引力のせいじゃないかな?」
僕は、このセリフどこかで聞いた事があるな、と思った。
そういう間にも、亀井は更に顔を近づて来る。
僕の瞳には、普段から黒い亀井の顔が、逆光で更に黒く写った。