>>476 その時、亀井は、たぶん生まれて初めて恋をした。
教室や廊下でその男子を見かけるたびに、亀井は声をかけた。
その男子もいつも(少し厳しめの説教を含めた)やさしい言葉を亀井に掛けてくれていた。
亀井は、色々な恋のおまじないを試した。
ミサンガ、手紙、消しゴム、鉛筆、枕の下に写真、青の呪文、エロイムエッサイムetc。
でも、いざその男子の前に立つと、亀井はモゴモゴしてしまっていた。
しかし、あの日、親友の新垣があの男子の頬にキスをしていたのを目撃した時から、
亀井は変わった。積極的になった。積極的になれた。
それは、あの男子を新垣にとられると思ったから?あるいはその逆?
亀井は、これまで散々悩んで、結論を出していた。
あいつにフラれたら(今度はあいつとライバルになるけど)豆さん一本に絞ろう──と。
新垣はというと、せっかく出来た『娘。』ヲタ仲間であり、ヲタ友達であり、ヲタメイトであり、
初恋の人であるその男子を、親友とはいえ、亀井に渡すわけには行かなかった。
一度、亀井の脅迫で離れはしたものの、その間が更に新垣の想いを深くして、
あの男子は新垣にとってかけがえの無い、本当にかけがえの無いものになっていた。
過去を振り返った亀井と新垣は互いの顔を見て、うん、とコンタクトした。
新垣と亀井は男子の両隣に座り、もう一度、視線を合わせ、言った。
「ねぇ、私と亀、どっちが好き?」
驚きの後、その男子は瞳を閉じて考え込み、しばらくして瞳を開き新垣と亀井に言った。
その後の言葉を聞いて、新垣と亀井は言葉を失った。
しばらく放心状態になった後、先に新垣が正気に戻って、
自分のバックから光る金属を二つ取り出し、一つを亀井の左手に装着した。
新垣はそれを右手に着け、二人合わせてその男子の顔に振り下ろした。
「「このバカ!!」」
新垣と亀井の瞳に涙は無かった。