>>408 「藤本さん──」
「いよう!亀ちゃん」
名前を呼び合う藤本と亀井はドア越しに話し始めた。
「何で藤本さんがここにいるんですか?」
「何でって──デートよ」
藤本は隣に座る体の大きいお兄さんに聞こえない様に小声でそう言った。
「行くよ、後ろ乗って」
男子は亀井にそう言った。亀井はうれしそうに後部座席の男子の横に乗り込んだ。
走り出した車内、前の席では藤本さんとお兄さんがしゃべりあっていて、
亀井はずっと、隣に座る男子の事を見ている。
藤本が後を振り向き、亀井に言った。
「亀ちゃんが彼氏持ちだったとはね」
「ちょっと」
恥ずかしがりつつもうれしい亀井は、後を向く藤本の顔を前に向けさせた。
亀井と藤本は同じバイト仲間だった。
とは言っても、バイト以外では殆ど会わなかったので、
亀井は藤本が普段何をやっているのか、例えば彼氏がいるとかは、全然知らなかった。
「そんなんじゃ無いっすよ」
顔を見つめる藤本に男子がそう言うと、亀井は、えっ、という表情を浮かべ、
男子を見つめて言った。
「違うの?」
「違うっていうか、何ていうか──」
途端にドモる男子を見て、バックミラー越しに運転するお兄さんがニヤけた。
しばらく行って、お兄さんが男子に問いかけた。
「もうひとりの待ち合わせ場所はこの辺か?」
もうひとり?──亀井は嫌な予感がした。