>>392 次の日曜日、亀井は早朝からハイテンションだった。
前の晩にあの男子から電話で海に誘われたからだった。
男子の言うには、海でサーフィンとかボディーボードするらしい。
朝食のテーブルに座り、亀井はひとり、想像をふくらませていた。
あの男子と2人きりの海。波とたわむれる2人。まぶしい光。そして──うへっ。
いきなり笑い出す亀井を見て、母親は、ははーん、という顔をした。
ソファーで新聞を読む父親は何も気付かず、突然笑い出すのはやめなさい、
と亀井を叱って、また新聞を広げ直した。
鈍感な父親を見て、母親が亀井に言った。
「パパだけ何にも知らないのね、エリの今日遊ぶ相手。
本当に友達なわけ無いのにね、エリ」
「そうだね、ってヲイ!」
何で知ってんの?という顔をして亀井は母親に突っ込んだ。
「そうなの?」
父親は新聞をたたみ、不安そうにそうつぶやいた。
引きとめようとする父親を振り切り、待ち合わせの場所に着いた亀井は、
水着やお弁当などを詰めた大きなカバンを下げ、迎えの車を待っていた。
あの男子の話では、いとこの兄ちゃんの車に一緒に乗せて行ってくれるらしかった。
いとこの兄ちゃんには彼女がいて、一緒に来るらしい。
亀井はそんな事も気にせず、あの男子との2人きりの浜辺を想像していた。
クラクションを鳴らすステーションワゴンに気付いた亀井は、その車に近づいた。
後部座席からあの男子が出て来て、亀井の荷物を持って、車に運んだ。
亀井は、運転席にその兄ちゃんと、助手席にその彼女を見た。
助手席の彼女が窓から顔を出し、手を上げて亀井に言った。
「おいっす!」
亀井は、その彼女に見覚えがあった。