>>144 次の日の早朝、亀井と新垣はまだ誰もいない教室にいた。
新垣は自分の机にうつ伏せになって、目を擦りながら聞いた。
「どうしたの亀ちゃん?こんな朝早くに──ムニャムニャ」
「──」
新垣も亀井も、朝は早い方では無かった。
しかし、亀井はいつもの朝とは違い、真剣な表情で新垣を睨んでいた。
「──豆さん」
「何?亀ちゃん」
うつぶせたままの新垣に、亀井は話し出した。
「あいつとは、どんな関係なの?」
「──あいつって?」
新垣は、心当たりがありながらも、とぼけて答えた。
亀井は一瞬ためらって、聞いた。
「昨日の夕方、豆さんとキスしてた、あいつ」
「えっ!?」
新垣は驚いて椅子から飛び起きて、亀井に聞いた。
「み、見てたの?」
「見てた」
亀井は、うつむいてそう答えた。
混乱する新垣と、うつむいたままの亀井は、
開け放した窓から入り込む朝もやに包まれた教室で、しばらくそのままだった。
亀井が決心した様子で、新垣に言った。
「前にさ、エリ、好きな人がいるって言ったじゃない?──あれさ、あいつなんだよ」
「うえぇー!?」
新垣は、また激しく驚いた。
>>248 「およよ、およよ」
おかしな動揺を続ける新垣に、亀井は言った。
「豆さんにさ、お願いがあるの」
「──な、何?」
「あいつとは、もう話さないで欲しい。会わないで欲しいの」
そう言った亀井の目尻はつり上がっていた。いつもと違う、真剣な表情。
新垣は動揺を声に出せないでいた。亀井は続けた。
「私ね、あいつの事が好きなの。──豆さんの事も」
後半部分を聞き漏らした新垣は、んっ?と聞き直した。
「とにかく!あいつとの接触は以後禁止ね!」
「えぇぇぇ!何でよ!」
新垣と亀井は、親友とは違った新しい関係──恋敵を手に入れた。
新垣は亀井に言った。
「スポーツマンシップにのっとり、正々堂々と勝負しようよ」
──のっとり?──作者はこのスレの事を思った。
亀井は新垣に、勝ち誇った顔をして、お嬢様風味で言った。
「フンッ!正々堂々ですって?片腹痛いわ」
「かたはら?──難しい言葉知ってんねぇ、亀ちゃん」
新垣はいつものように突っ込んだ。亀井は続けて言った。
「バラしちゃっても良いのかな、あの事」
「うわ、ちょっ、おま!くぁああwsぜdtgyよしこgwt」
新垣は、また激しく動揺した。
新垣が『娘。』のマジヲタだと知っているのは、家族とあいつと亀井だけだった。
学校でバラされたりしたら、自称活発でキュートで通っている自分のイメージに
傷が付いてしまう、そんなんされたら生きていけない、新垣はそう思った。
新垣は亀井に従うしか無かった。また机に突っ伏す新垣の脳裏にあいつの顔が浮かんだ。