【目薬】DRIFTING。【小説風】

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1名無し募集中。。。
前スレ

http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1093261470/

前回遅いペースで小説書いていたら落ちました
また挑戦します
改めてよろしく
2名無し募集中。。。:04/08/29 01:05
DRIFTING GIRLS。

第一部

━1━

目覚まし時計が鳴った。カーテンの隙間から光が漏れている。
寝室。石川は横になったまま手を伸ばし、目覚まし時計を止めた。
そして目を閉じたまましばらく動かない。今日が始まった事を確認しているのだ。

ダンスレッスン。ぼんやりとした頭で繰り返す今日の予定。
それまで見ていた夢の風景が、一瞬にしてスタジオまでの道のりとスタジオ内の風景に変換された。
夢の余韻は取り戻せない。少し落胆しながら起きる石川。
しかし夢を思い返そうとはしなかった。きびきびとした足取りで洗面所へ向かう。

歯を磨きながら携帯電話をチェックする。辻からのメールが来ていた。
“梨華ちゃん今日の仕事なに?”変顔写真は送信されていなかった。
3名無し募集中。。。:04/08/29 01:05
卒業が間近になった頃から辻は、石川に対して妙に素直な態度を見せていた。
二人にとって、その関係が特別なものであり、そしてそれは、
同じ仕事場で働いているという理由から来るものだけではない事を辻は実感したかったのだ。

大人っぽくなってきたよね、と石川が言う度に辻はなおさらそれを意識した。
変顔送信を止めたのも辻が考えた大人への意識だった。
勿論石川自身もそれに気付いた。

「でも、やっぱり無いなら無いで寂しいかな。」
そう思い、石川は今日の予定を告げる内容のメールと自分の変顔を送信した。
今日の予定に、ダンスレッスンだけではなく、辻がこのリクエストにどう応えてくれるか、
それを待つ事も加わった。

身支度を整えると石川はスタジオへ向かうタクシーに乗った。

午前九時七分。
4名無し募集中。。。:04/08/29 01:06
━2━

レッスンスタジオに使われている大和ビルは、都内だが人の通りが比較的に少ない場所にあった。
モ娘。を始めとして、松浦亜弥、後藤真希など他のハロプロのタレント達も常に利用していたが、
ファン、いわゆる追っかけの連中にはまだ見つかっていなかった。

信頼のおけるスタッフによって管理された三階立てのスタジオは、警備も行き届いていて、
メンバーもリラックスして仕事に望めた。
リラックス出来る仕事場、という価値はとても有意義な事だった。
リラックスした状況からいかにして、コンサートやテレビ収録の本番へ自分を切り替えられるか、
この集中力こそが重要だからだ。

一階にある会議室。男と女が言い争いをしていた。
「今日ダンスを一通り合わせるのは・・・ギリギリですね。」
「ギリギリなんですよ。すでに。出来れば今日完成させてほしい。」
「無理です。いいものを目指さないというなら可能ですけど。」
「いいものじゃなくてもいいですよ。とりあえず今日完成したものを撮影して・・・」
話を最後まで聞かずに女の方が立ち上がり、そのまま部屋を出て行った。
5名無し募集中。。。:04/08/29 01:06
「夏先生、ちょっと・・」
男は腕組みをして椅子に深くもたれかかった。
そして、先刻からのやり取りを立って見ていた夏のアシスタントに言った。
「呼んで来てよ。先生を。話途中なんだから。」
アシスタントの女は黙って部屋を出て行った。

男は煙草をくわえた。部屋に残ったもう一人の男が話しかけた。
「藤野さん、言い争っても解決にはなりませんよ。
 夏先生はいつもギリギリにいいものを仕上げてきたじゃないですか。」
くわえかけたタバコを口から離して男が言った。
「いいものとかどうでもいいんだよ。俺は、上から今日仕上げて来いって言われて来ただけなんだから。
 それを伝えたら、あの女が表現者ぶって機嫌損ねたんだろ。
 森川、お前も俺みたいに仕事に距離感持ってやった方がいいぞ。」

部屋のドアが開いて夏が入ってきた。
「失礼しました。今日中に仕上げます。可能です。」
6名無し募集中。。。:04/08/29 01:06
それだけ言うと夏は部屋を再び出て行った。
藤野は森川に向かって誇らしげにうなずいて見せた。

夏は会議室のドアを閉めると、思い詰めた表情でロビーの方へ向かった。
ひんやりとした色のプラスチック製の長椅子に腰掛けると軽くうつむき、そしてまた前を向いた。
「浅村さん。モーニングはいつ来るんだっけ?」
後ろに立っていたアシスタントに聞いた。
「あと三十分くらいで集まりはじめると思います。」

夏はそれを聞くと、またうつむいて何か考え始めた。

午前九時二十七分。
7名無し募集中。。。:04/08/29 01:07
━3━

大和ビル地下駐車場の警備室。
小奇麗に整理された室内には香水の匂いが舞っている。
平井は朝食のパンを食べ終わると手を丹念に拭いた。
神経質な性格をよく表わしていた。

スタジオの入り口は正面玄関だけでなく地下にもあり、
利用者は特別な理由が無い限りは、この地下駐車場にある入り口から入ってくる事になっていて、
正面玄関は普段は閉じられていた。

関係者以外の車は駐車場に乗り入れる事を禁止されていて、
タクシーで来た場合は寸前で降りてから徒歩で来るように決められていた。
これらはファンを始めとして外部に情報が漏れない為の手段だった。
8名無し募集中。。。:04/08/29 01:07
ざわざわと駐車場内が騒がしくなってきた。
「モ娘。ご一行様が到着されたんだろう。ふん、ガキ共が。」
平井がテーブルの上にあった成人雑誌の類を丁寧に仕舞いこみながら呟いた。

五期と、藤本を除く六期メンバーが駐車場内にぞろぞろと入ってきた。
新垣が早口に言う。
「まこっちゃん、タクシーの中で寝過ぎだから。」
小川が寝ぼけ眼で体をかきながら言う。
「ガキさんが起こしてくれなかったらアタシあのまま寝てたね。」
横から高橋がボソリと言った。
「っていうか運転手さんが起こしてくれるっしょ。」




沈黙の余白を道重が埋めた。
「あーテレビの電源切り忘れたかも。」
高橋が言った。
「何かテレビやっとったっの?」




亀井はただニコニコと笑っていた。
9名無し募集中。。。:04/08/29 01:08
歩きながら一人携帯電話をいじっていた田中はふと足を止めて振り返った。
紺野が地下の天井を見上げていた。
「ポンちゃん、どうしたと?」
その姿勢を変えずに紺野が言った。
「ん・・・今、揺れなかった?」
全員が足を止め紺野の方を向いた。
「あ、何でもないみたい。気のせいだね。行こうか。」
再び全員が歩き出した。

入り口の横にある警備室のドアから平井がカギを手に持ち出て来た。
「あ、おはようございまーす。お疲れ様でーす。」
七人が声を揃えて言った。
平井が笑顔で答える。
「おはよー。今日は早くからなんだね。頑張ってね。」
「ありがとうございまーす。」
10名無し募集中。。。:04/08/29 01:08
平井が入り口をカギで開ける。七人はもう一度礼を言うとスタジオ内に入っていった。
その後姿を見ながら、平井はそれまでの笑顔を崩さないまま小声で呟いた。
「オツカレサマデースだと。疲れてなんかいないよ。バカにしやがって。」
七人の最後尾にいた紺野が足を止めて振り向いた。
平井は今の言葉が聞こえたのかと思い一瞬慌てたが、紺野が自分の方を見ていない事にすぐ気付いた。

また紺野は上を見上げていた。
メンバーも今度は気に留めず階段を昇り始めていた。

平井は警備室に戻り、カギの匂いを消そうと手を拭いた。

午前九時四十三分。
11名無し募集中。。。:04/08/29 01:08
━4━    

スタジオに向かう空調の効いたタクシーの中で飯田は、ぼんやりと窓の外を見ていた。
今さっきまで、卒業後について事務所で打ち合わせをしていて、
これからどんな仕事がしたいんだ、と聞かれて思わず黙り込んでしまった自分を思い返していた。

「卒業後?歌手ですよ。」とバラエティ番組で言った様には言葉は出なかった。
急に一人ぼっちになった気分だった。タクシーが信号待ちで止まった。

窓の外ではコンクリートの上で陽炎が震えている。
矢口が手招きをしている。
その幻に自分はどう答えたらいいのだろうか。自分は今まで何処にいたのだろうか。
タクシーが走り出そうとしている。自分はこれから何処に行くのだろうか。


幻ではなかった。慌てて運転手に止めてもらい、車を降り近づく。
日差しを手で遮りながら矢口が言う。
「やっぱりカオリ。」
「どうしたの?」
「コンビニ寄ろうと思って。」
12名無し募集中。。。:04/08/29 01:09
コンビニはスタジオから歩いて数分の所にあったが、
メンバーが直接このコンビニを利用する事は禁止されていた。これもスタジオ利用が外部に知られない為だった。
矢口はスタジオから距離のあるコンビニを見つけ、タクシーを降りたところだった。
「行くなら早く行こう。結構時間ギリギリだから。」

コンビニに入ると冷たい空気が体を貫いた。飯田はその温度差に軽くめまいを起こした。
矢口は氷のみを手に取ってレジへ向かう。
それだけの為に・・・と飯田は軽く苛立った。

矢口が振り返って聞いた。
「カオリは何も買わないの?」
飯田が矢口の顔を見ずに答える。
「ああ、大丈夫、大丈夫。」
13名無し募集中。。。:04/08/29 01:09
コンビニを出て、飯田は強い日差しに体を押さえつけられそうになって思わず黙り込んだ。
矢口は早速大騒ぎしている。
「熱いー。どうかしてるよ。ホント。」


いつも笑い転げている矢口。
矢口はいつかは来る卒業の事を考えているのだろうか。
そいて、今いる他のメンバーにしても何を考えてるのだろうか。
それを分からない自分は今まで何をやってきたんだろう。



・・・・・リ、・・・・オリ、・・・カオリ、カオリ?


矢口が呼んでいた。
「・・・ん?ああ、何?もう行く?」
「今日交信一回目ね。大丈夫?暑いからね・・・。」
時計を見て矢口が言った。
「ギリギリだね。タクシーまた拾うよりこのまま行った方が早いね。」

二人は足早にスタジオへ向かった。

午前九時五十分。
14名無し募集中。。。:04/08/29 01:09
━5━

中澤は台本を見返しながら深呼吸をした。あと数分で生放送のラジオの本番が始まる。
慣れたレギュラー番組ですら毎回緊張をする中澤だったので、今日の特別番組に対する緊張は尚更だった。

「緊張するんですね。中澤さんでも・・・いや変な意味じゃなくて。」
コーヒーを持ってきたもう一人のパーソナリティが話しかける。
中澤はコーヒーを受け取ると、笑顔を見せて言った。
「緊張・・しますよ。物凄く。何故かそう見られないですけど。」
「いつも堂々とされていられるから。何でも来い、みたいなね。」
中澤は無言で首を横に振って否定した。

「まもなく本番でーす。」
ブースの向こうから声がして、中澤の身が引き締まった。
ヘッドフォンを耳に当てスタッフの指示を待つ。
15名無し募集中。。。:04/08/29 01:10
「本番行きまーす。・・・・3,2,1,・・・」
スタッフのキュー出しに次いで音楽が流れる。
ブース内外共に緊張感が走るが、中澤は自分の事で手一杯だった。

スタッフから合図を受けて、パーソナリティが喋り出すと、
中澤は改めて深呼吸をした。
「みなさん、こんにちわ。今日のこの時間は・・・・・」
喋りながらウインクをするパーソナリティ。中澤は引きつった笑顔を返した。
「・・・・え〜、それでは、今日のこの特番にふさわしい素敵なパーソナリティを、
 もう一人紹介しましょう。中澤裕子さんでーす。」

飛び跳ねる様な柔らかな声を中澤の声が引き継いだ。重く。
「こんにちわ。中澤裕子です。」
重くなった空気を、関西人の本能で瞬時に読み取った。そして一言。
16名無し募集中。。。:04/08/29 01:10
「・・・あれ?」

その絶妙の間に、緊張感に満ちていた空気が和んだ。
「あれ?じゃないですよー。中澤さん。今日はよろしくお願いしますね。
 えっと・・・裕子さんでいいですよね?」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
重さから一転して広がった和んだ空気を感じ、安堵の気持ちを覚えながら中澤がそう答えた。

それからは、当人が自分らしいと思える、そして人が求める、
言葉に淀みの無いいつもの中澤裕子だった。

午前十時二分。
17名無し募集中。。。:04/08/29 01:10
━6━

スタジオでダンスレッスン用に使われるのは、主に二階にあるリハーサル室だったが、
三階にも同様にリハーサル室があり、こちらは二階のそれよりも大きな部屋で、
大人数の場合やPA機材などを利用する場合に使われた。

メンバーの誰よりも早くスタジオに来ていた吉澤は、
この大きなリハーサル室の真ん中で寝転びながら一人で絵を描いていた。

つい数分前、五、六期のメンバーが挨拶に顔を見せた所だった。
顔を見るなり体をすり寄せてきた小川を軽くあしらい、拗ねた表情をわざとさせた。
頭をぽんぽんと叩き慰めると、いかにも他の用事に手一杯という素振りを見せ、
無言でメンバーを部屋から追い払った。
18名無し募集中。。。:04/08/29 01:11
吉澤が仕事以外の時間にメンバーと話す事は殆ど無く、大体が絵を描いているか、
本を読んでいるか、音楽を聴いてるかだった。
それは仕事への、自分が感じる新鮮さを保つための方法だと吉澤自身は考えていた。

白い紙に色鉛筆をでたらめに走らせ続けていると、
自分の気付かなかった何かが解放されている様な気持ちになった。

描いた何枚かの絵を吉澤が満足気に眺めていると、ドアを開け藤本が入ってきた。
「あー、よっすぃー来てたんだ。」
「うーん。」
「絵描いたんだ、見せてよ。」
藤本が近づいてくると吉澤は絵を裏返しにして言った。
「あーあーまだまだ。出来てないから。それからでいいっしょ。」
19名無し募集中。。。:04/08/29 01:11
「ああ、まあいいけど。皆揃ったから集まれって。」
「分かった。先行ってていいよ。」

絵を見られるという事は、秘密を知られてしまうような恥ずかしくにやけた感覚があった。
藤本が部屋から出て行くのを見て、吉澤はカバンに一枚ずつ絵をしまいこんだ。

吉澤は階段を降り二階へ向かった。

午前十時七分。
20名無し募集中。。。:04/08/29 01:11
━7━

「先生、モーニング全員、リハーサル室に集まりました。」
一階ロビー。一人で考え込んでいた夏に、二階から降りてきた浅村が声をかけた。
夏は無言でうなずいた。

地下から入ってきたメンバーの誰もが、
ロビーで観葉植物の陰に隠れて物思いにふけっていた夏には気付かず通り過ぎてしまう所だった。

「おはよう。」と声をかけられてようやく気付いたメンバーは、挨拶を返すだけで、
誰もそれ以上の特別な話をしようとはしなかった。
夏はその表情だけで、他の何も寄せ付けない状況である事を感じ取らせていたのだった。
21名無し募集中。。。:04/08/29 01:11
特別な不安を感じたメンバーは、今日のレッスンが始まれば、
自分の不安も解けるだろうし、夏の表情も柔らかくなるだろうと考えた。
そしてレッスンの成果次第か、と考え直して、いつもより早めにジャージに着替え、
レッスンを待つ体勢を整えた。

飯田と矢口は、特に夏との関係が長い事もあり、表情の変化を敏感に感じ取った。
そして後輩メンバーに対し、早めにリハーサル室に集まろうとうながした。
実際には自分達が一番遅れていたのだが、誰も、藤本でさえもそれを指摘しなかった。
それ程までに飯田と矢口が夏の変化を、メンバーに更に生々しく伝えたのだった。

夏は誰に言うわけでもなく「よし。」と声を出すと立ち上がって、
二階への階段を上り始めた。
夏への通達を済ました藤野が降りてくる所だった。
22名無し募集中。。。:04/08/29 01:12
藤野が言った。
「あ、お疲れ様でした・・・というより先生はこれからが仕事ですね。
 じゃあ、さっき言った様に今日までに・・よろしく。あとは森川が今日のマネージャー担当なんで・・・。」
すれ違いざま、思い立ったように夏が言った。
「やっぱり藤野さんも少し話しを聞いていってもらえますか。すぐ済む事なんで。
 この後の仕事は・・・」
「ああ、いや少しなら。何か・・・」
「ええ、すぐ済みますから。」

二階リハーサル室。メンバーは浅村の指示によってストレッチを始めていた。
ドアを開けて夏と藤野が入って来た。
先ほど挨拶を済ました藤野がいる事にメンバーは疑問を感じた。
23名無し募集中。。。:04/08/29 01:12
メンバーの多くは藤野に好印象を持っていなかった。
藤野は事務所のスタッフの中でも、マネージャーなどと違い、
普段から一緒に行動する事の多い人間ではなかった。
メンバーにとっては、自分達のいない場所で自分達の将来を勝手に決めてしまう、仮面の陪審員だった。

メンバーの警戒心が強まった中、夏が口を開いた。
「ストレッチやったままでもいいから聞いてもらえるかな。
 今日、始める前にちょっと話があるんだけど・・・。」

夏の表情は今までとは違い明るくなっていた。

午前十時十一分。
24名無し募集中。。。:04/08/29 01:12
━8━

トイレから戻ってきた加護が言った。
「何や?これ」
テーブルの上に散らかる菓子の類。

辻がぶっきらぼうに答えた。
「見りゃ分かるじゃん。お菓子でしょ。」

「何で散らかってるんやって事。」
加護が菓子を片付けながら言う。

それを阻止して辻が言う。
「ちょっと。食べてる途中。」

大きなため息をついて加護が椅子に座った。
25名無し募集中。。。:04/08/29 01:13
控え室。二人はダブルユーとしてグラビアの撮影スタジオに来ていた。
数日前から二人は口げんかを繰り返していた。

言い争いの時間は日を追う毎に短くはなっていた。
結局、それはどちらかがため息をついて終わった。
そして数分後にはどちらかが短い争いに再び火を点けるのだった。
火種は常に些細な事で、言葉尻だったり、ふとした仕草だったりだった。

この争いのそもそもの発端が何だったのか、二人はすでに覚えていなかった。
ただ、互いに残る後味の悪さのみを引きずっていた。

加護のため息を聞いた辻は、くすぶってる火種をまた意識した。
そして口を開きかけたが、すぐに止めて同様にため息をついた。
26名無し募集中。。。:04/08/29 01:13
二人の潤滑油になる事の多いマネージャーだったが、
今は打ち合わせで席を外していた。

辻がテーブルの菓子を掻き分けカバンを拾いあげた。
必要以上に大きな音を立てたので加護が思わず辻を見る。
視線を感じた辻も加護を見返したが、
二人ともに何の言葉もなく、すぐに視線をそらした。

辻は携帯電話をカバンから引っぱり出してメールをチェックし始めた。
“今日の仕事はいつものスタジオでダンスレッスンだよ。
 ののは撮影だよね。がんばってね。あいぼんによろしく。”

石川からだった。
石川には加護との最近の関係について伝えてはいなかった。
石川に無駄な気遣いをさせたくなかった。
27名無し募集中。。。:04/08/29 01:13
辻は改めて“あいぼんによろしく。”を見直した。

辻は数日前から加護に何度も電話をしようとしていた。

「仲直りしよっか。」
「仕事何だっけ。」
「一緒に行こっか。」
「・・・・・・」

電話で話しかける内容をあれこれと考えるだけで、結局携帯電話を放り投げる。
どうせすぐ会うし・・・と思って携帯電話をしまいこむ。
貼ってある加護と撮ったプリクラを見たくなかったのでカバンの奥へ奥へと押し込める。

メールなら・・・と思い直しても、カバンの奥から引っぱり出す手間を考え止める。
それを毎日繰り返していて、今朝も例外ではなかった。
28名無し募集中。。。:04/08/29 01:14
同時送信されていた画像には、目をつむり大口を開けた石川の、精一杯の変顔が映っていた。

辻はそれを見て口元を緩めた。

もう一度“あいぼんによろしく。”を見直した。

そして加護と二人で撮ったプリクラを手で軽く触れると、
そっぽを向いている加護に、気まずさを押し殺して呼びかけた。
「・・・あいぼん。梨華ちゃんから・・、ほら。」

加護は無言で椅子から立ち上がって、辻の隣に近づいた。
29名無し募集中。。。:04/08/29 01:14
辻は加護が見やすい様に携帯を上下左右に傾けた。
加護がそれに合わせて首を動かしながら言った。
「・・・ん。・・大丈夫。見えるから。」

携帯を動かす手を止めて辻がぼそりと言う。
「・・・ね、梨華ちゃん。あいぼんによろしく。って。」
「・・・うん。」

石川のふざけた表情を二人はただ真剣に見つめていた。

控え室のドアが開いた。
「じゃ、辻も加護も準備して。撮影行くよ。」

部屋の空気が一瞬にして変化した印象を受け加護が言った。
「おーし。じゃ、のの。行こう!」
辻もそれに答える。
「うん!・・・あ、ちょっと待って。」
30名無し募集中。。。:04/08/29 01:14
辻は携帯のカメラを自分に向けると、目を半開きにし、鼻の穴と口を全開にしてシャッターを切った。
そして“ありがとう梨華ちゃん。”とだけ文字を打つと、送信ボタンを押した。


・・・・・・・・・・“送信できませんでした。”


もう一度送信ボタンを押した。


・・・・・・・・・・“送信できませんでした。”


マネージャーが言った。
「辻、あとにしなさい。みんな待ってるから。」

「・・・うん・・・。」
辻は不思議な思いを残したまま携帯電話をテーブルに置いた。

辻は加護と手をつなぎ撮影現場へ向かった。

午前十時十七分。
31名無し募集中。。。:04/08/29 01:16
━9━

しばらく放送が続き、中澤は再び空気の変化を感じ取った。
ブースの外の人の行き交いが多くなっていた。

一人のスタッフが足早にブース内に入ってきた。
そして中澤とパーソナリティに紙を渡すとすぐにまたブースを出て行った。

パーソナリティの顔が真剣になる。
「・・・ええと、すいません。ここで臨時ニュースが入ったので、
 報道フロアの方へ切り替えたいと思います。・・・どうぞ。」
パーソナリティがカフを下げる。中澤が紙を見て言った。
「地震速報・・・都内であったと書いてありますけど、揺れましたか?」
「・・・うーん、分かんないですね。」

「番組の途中ですが臨時ニュースをお伝えします。本日午前十時・・・」
「中断十分なんで休憩して下さい。」
ニュースが流れ出したが、すぐにスタッフの声がかぶさった。
32名無し募集中。。。:04/08/29 01:17
ブースの外へ出た二人にスタッフが話しかける。
「分かりませんでしたね。全く。」

「・・・・・局地的な地震で、被害の詳細は詳しく分かり次第お伝えします。
 もう一度繰り返します。本日午前十時十五分頃、都内〇〇区〜〜で局地的な強い地震が起きました。」
全員がニュースに集中する。

「・・・えー、申し訳ありません。ただ今入った情報によりますと、
 本日午前十時十五分頃、都内〇〇区〜〜で起きた強い揺れの原因は地震ではなく、
 爆発で起きた振動によるものだという事です。・・・」
スタッフがざわめき出す。
「テロか何かかな。怖いね全く・・・。」

「・・・・爆発の原因は未だ分かっていません。大きな被害にあったのは、
 〇〇区〜〜の大和ビルです。」
33名無し募集中。。。:04/08/29 01:17
中澤は意識が遠のいた。いつも使っているレッスンスタジオの名前だった。
ニュースを聞こうとするが、スタッフの言ったテロという言葉が自分の中で生々しく蘇り邪魔をする。
レッスンスタジオと周囲の景色を思い返すが、すぐにテロの響きが黒く塗りつぶす。

「・・・・被害の詳しい状況に関しては分かり次第お伝えします。
 もう一度繰り返します。本日午前十時十五分頃、〇〇区〜〜の大和ビルで爆発があった模様です。
 爆発の原因は分かっていませんが、爆発で起きた振動により、強い揺れが局地的に起こり・・・」

中澤は青ざめた顔でマネージャーの元に近づいた。
「姐さん。まだ何も分かってないから、落ち着いて。きっと、会社からも連絡あるから。」
早口で中澤が聞く。
「電話は?してないの?」
「事務所に?じむ・・」
「じゃなくて、スタジオに。今日はスタジオに誰か居るの?居ないよね。」
「スケジュールは分からないよ。スタジオには・・・」
34名無し募集中。。。:04/08/29 01:18
落ち着いた態度を見せるマネージャーに中澤はいらついた。

「番組、あと一分で再開しますが、番組短縮です。ニュースを引き続きやるそうです。
 じゃ、スタンバイよろしくお願いします。」
スタッフが二人の会話を制した。
言葉を噛み殺した中澤にマネージャーが言った。
「今電話するから。ラジオの方、お願い。」

ブースに入る時にパーソナリティが声をかけた。
「知ってる場所なんですか?」
「はい。」
とてもそういう心境ではなかったが何とか笑顔を作って、一言、そう答えた。
35名無し募集中。。。:04/08/29 01:18
そして二人は無言でブース内の椅子に座り、ヘッドフォンを耳に当てスタッフの指示を待った。
「・・はい、ニュースをお伝えしました。番組の方は予定を変更して、
 まもなく終了する事になります。その後はニュースをお伝えする事になります。
 中澤さん。今日はありがとうございました。短い時間でしたけどね。
 また、こういう機会があったらいいですよね。」
「はい、そうですね。・・楽しかったですよ。また是非、ご一緒したいですね。」

懸命に言葉を見つけて喋る中澤だったが、意識はブースの外で電話をするマネージャーの方に向いていた。
電話を終えたマネージャーは中澤に向けて両手で×の印を作って見せた。

「・・・では、またの機会にお会いしましょう。」
続けてパーソナリティは目で合図をして、言葉のタイミングを計ろうとした。
「・・・さよーならー。」
しかし結局、中澤はその声を出せずにただ手を震わせていた。

午前十時三十六分。
36名無し募集中。。。:04/08/29 01:18
━10━

普段は人通りが多くない大和ビルの周囲に今は人だかりが出来ていた。
車の通りも滞り、交通整備の警察官の声がクラクションの音とヒステリックに交差する。

人ごみを分け入り大和ビルに救急車とパトカーが近づこうとするが、
その速度は非常にゆっくりとしたものだった。
パトカーの中から警察官が大声を出し、人をどけようとするが、殆ど効果は無かった。

痺れを切らしたように、遠目の距離に止められた数台のパトカーから走ってきた警察官が、
人と人の間に体を押し込み、どうにか隙間を作る。
速度を上げた救急車とパトカーが大和ビルに近づく。
37名無し募集中。。。:04/08/29 01:19
しかし、正確には大和ビルのあった場所に、だった。
そこには大きな穴しかなかった。
瓦礫すら見当たらず、スプーンでくり抜かれた様に、地面の土や石がむき出しになっていた。

あっという間に立ち入り禁止の看板が、大和ビルのあった場所を取り囲む線を作った。
更には中が見られない様に大きな囲いが立てかけられていった。

囲いの中で警察官と救急隊員達が会話を交わす。
「どうしたらいいんだ。これから・・・」
「連絡がある。すでに爆発物処理班は他の場所にも不審な物が無いか探しに行った。」
「ここには本当に何も無いのか?」
「見て分かるだろう。爆発した後だよ。」
「死体は?」
「俺は爆発したとか聞いてないぞ。」
「不審者の情報は無いのか?」
「俺に聞いても分からないよ。」
「死体は?」
「お前しつこいな、見れば無いのは分かるだろう。」
「じゃ我々は何の為に来たんだ?」
「俺に聞いても分からないよ。」
「どうしたらいいんだ。これから・・・」
38名無し募集中。。。:04/08/29 01:19
囲いの外では防護機材を着用した救急隊が、
集まっていた野次馬に対し、放射線のチェックを始めていた。
そして囲いの内側に彼らが入ってくるのを見て、警察官と救急隊員達は生きた心地がしなかった。
放射線に対し自分たちが裸同然である事に今更ながら気付いたからだった。

しかし、放射線はどこからも全く検知されなかった。
全員がただ無言で立ち尽くした。

大和ビルの跡地も、かすかに起こる風が石をわずかに転がすだけで何も言わなかった。

午前十一時九分。
39名無し募集中。。。:04/08/29 01:19
第ニ部

━1━

「ストレッチやったままでもいいから聞いてもらえるかな。
 今日、始める前にちょっと話があるんだけど・・・。」

夏の表情はいつもの様な柔らかさを取り戻していたが、
藤野が居る事にメンバー達は不安を感じた。

「藤野さんには、話を聞いてもらいたいから残ってもらいました。
 だから心配しなくても大丈夫。みんなの事じゃなくて私自身の話だから。」
それを聞いてメンバーは少し安心した。
何の話か知らないという意味で、自分達と藤野が今は同じ状況なのだ。
藤野が、そして会社が決めた、自分達に関する何かではないのだ。
40名無し募集中。。。:04/08/29 01:20
夏が話しを続ける。メンバーはストレッチをすでに止めていた。
「振り付け・・・。今までコンサートとか新曲とか色々やって来たけど、
 今回の・・今やってる曲が最後のレッスンになります。」

その場に居た全員が表情を硬直させた。わずかの間沈黙が続いた。
最初に喋り出したのは藤野だった。

「どういう事ですか、先生。私は何も聞いてませんよ。」
「すいません。急に決めてしまって。会社には、私が直接話します。
 藤野さんには今日わざわざ来て頂いたので、ここでお話しました。」
「まるで私がやめろと言ったみたいじゃないですか。私が原因みたいじゃないですか。
 少なくとも会社はそう判断するでしょうね。」
「藤野さんが原因ではありませ・・・」
夏の話を聞こうとはしないで藤野が続ける。
「私が今日中に仕上げてくださいと言ったのが原因なんでしょう。
 それは私ではなく会社の判断であって命令ですよ。
 それをちゃんと会社側にも説明してもらわないと・・・・」
「勿論分かってますよ。
 藤野さんがご自分のせいだと思われるだろうと思ったから、話を聞いてもらったんですよ。」
「じゃ俺のせいだと言いたい訳ですね。」
「いえ、藤野さんのせいではないからこそ聞いて頂いたんです。」
41名無し募集中。。。:04/08/29 01:20
言い争う二人をメンバーは黙ったまま見つめた。
互いに顔を見合わせる事は無かったがメンバーが感じる不安は同種のものだった。
ただ一人、吉澤だけはスタジオの隅まで行きしゃがみ込むと、ストレッチを再開した。

その時、紺野がぼんやりとまた中空を見つめた。
藤本が、この状況に気を紛らわせたかった思いも含めて紺野に聞いた。
「どうしたの?」
「あ・・藤本さん、やっぱり今揺れてますよね?」
顔をしかめて藤本が聞き返す。
「揺れてるって、地震?」
地震という言葉を聞いた他のメンバーも反応をする。
意識を空気に傾ける。

遠くの方から太鼓の様な音が聞こえてきた。小刻みに震える低音。
最初に音を拾ったのは耳だった。
聞こえるのを確認した次の瞬間に音は体に到達した。
42名無し募集中。。。:04/08/29 01:20
次いで音は全てを飲み込む様な重さに変わった。
地面が波の様に揺れる。
空気が枯渇した様に体を締め付ける。
それは振動というよりも大気が熔解される様な感触だった。

やがて揺れも音も波が引く様に静かに、中空に再び吸い戻されていった。

体を溶かす揺れと締め付ける様な空気の圧迫感に対し、
その場に居た誰もが目を閉じしゃがみ込んでいた。
体の奥に残響が残っていたが、すでに揺れは納まっていた。

矢口は恐る恐る目を開けた。何も見えなかった。恐怖を感じ、思わず声を上げる。
「ちょちょちょちょちょっと。みんな。みんな。」
横の方から小川の落ち着いた声が聞こえた。
「停電ですよ。きっと。」
43名無し募集中。。。:04/08/29 01:21
それを聞いて周りも安心したのか、一斉に口を開き始めた。
「ああ怖かった。震度幾つぐらいだろ?」
「凄い音だった・・・。」
「今のそんなに大きくなかったやろ。」

皆はざわめき出したが、すぐに紺野の冷静な声が制止した。
「まだ余震があるかもしれない・・・。」

その不安を誘う一言で、また室内は静かになった。

リハーサル室には窓が一つも無かった。
室内に沈黙が広がった。
44名無し募集中。。。:04/08/29 01:22
その状況に我慢出来なくなって矢口がまた声を出した。
「ちょっと〜。みんな何処にいるの〜?
 おいら怖いよ〜。」
矢口は暗闇の中で、小さい体を使って誰かに触れようとする。
しかし体がすくんでいて殆ど動きが取れなかった。

「大丈夫ですよ。矢口さん。」
石川の声が矢口の耳元で聞こえた。矢口は声のする方へ体を寄せた。
石川は矢口の手を見つけるとそっと握りしめた。

やがて暗闇に目が慣れてくると、不安も同時に緩んできた。
矢口は石川に、まるで赤ん坊の様に身を預けていた。
「よしよし、まりっぺ。」
冗談めかして石川が言うと、矢口は泣き顔で石川を叩いた。
45名無し募集中。。。:04/08/29 01:22
そのやり取りをまるで合図の様にして、再び皆がざわめき出した。

亀井がぽつりと呟く。
「今の地震なんですかねえ?」
すかさず藤本が言う。
「地震以外あり得ないから。」
高橋が言った。
「でもあんまり揺れとらんかった。」
それに全員が反論しようとするが、思い返してとどめた。

小川が高橋に続けて言った。
「うん、揺れた感じはそんなにしなかったね。何かこういう感じ。」
小川が身振りで表現しようとするが到底無理だった。
それを見て藤本が半笑いで言った。
「ふふん、よく分かんないね。」
言い終わると藤本はスタジオの隅に一人でしゃがんでいる吉澤に近づいた。
そして何も言わず自分も隣に座った。
46名無し募集中。。。:04/08/29 01:22
「見て。まだ震えとる。」
田中が誰に見せるともなく手をかざした。
新垣が興奮気味に同調した。
「怖かったよ。何か・・音が凄かった。」

呆然と突っ立っている道重を横から飯田が軽くこずいた。
「大丈夫?」
「ああ、はい。」

「ちょっと様子を見てきます。みんなも待ってて。」
浅村の声。ドアを開ける音がした。
スタジオの窓は数える程しか無かった。
リハーサル室に通じる廊下にも窓は無かったが、非常灯の明かりが差し込んできた。
また全員の緊張感がわずかに解けた。
47名無し募集中。。。:04/08/29 01:23
メンバー達は恐怖を感じながらも不思議な高揚感を感じ日常の変化を楽しんでいた。
しかし藤野の一言がそれをまた現実に戻した。
「じゃ、私は会社に戻りますから。
 夏先生、先の件は考え直してくれる様にお願いしますよ。」
「藤野さん。私は中途半端は嫌いなんです。
 今日中に仕上げろと言われたら私はプロですから仕上げます。
 しかし、しこりを残したままそれ以降続けるのは無理なんです。」
「ああ、そうでしょうね。しこりを作ったのは私でしょうね。」
言い争いがまた始まりかけたが、地震に対する恐怖と不安への疲れがそれをすぐに止めた。

再び沈黙がリハーサル室を包んだ。

吉澤はいら立った様にすっくと立ち上がると、部屋を出て行こうとした。
「・・まだですよね。レッスン。」
出て行きしな振り返り、夏にそれだけ言うと、廊下の暗闇に消えていった。
48名無し募集中。。。:04/08/29 01:24
ここまでが前スレ
少し手直ししました
49名無し募集中。。。:04/08/29 01:25
━2━

揺れが納まったのを感じて、森川はテーブルの下から体を出した。
二階、休憩室。普段はメンバーやスタッフの休憩の場として使われる事の多い部屋だ。

真っ暗な室内、森川はため息をついた。
森川はレッスンが終了次第、メンバーを次の仕事場であるテレビ局へ連れて行く役目が残っていた。

ライターの火を点けるとぼんやりとした明かりが広がった。
部屋の隅に行って明かりのボタンを何度か押してみたが反応は無かった。
北側に面した、この部屋唯一の窓はカーテンによって遮られている。
50名無し募集中。。。:04/08/29 01:25
森川は不思議に思った。
未だに体の奥底にまで重い振動が残っている。
そして、とてつもなく大きな地震を感じてテーブルの下に潜り込んだというのに、
全く部屋は乱れていなかったのだ。
テーブルの上にはメンバーの荷物が投げ散らかされていたが、これはいつもの事だった。

カーテンが暗闇の中で、外の光を受けて鈍く光っていた。
そこに、これまで見てきたこの部屋の風景と、今現在の風景のわずかな差異を感じた。
そして、それは決して気味のいい感覚ではなかった。
部屋が暗いからそう感じるだけだ、と森川は思い直してカーテンを引いた。
51名無し募集中。。。:04/08/29 01:25
━3━

吉澤はリハーサル室を出て、廊下の冷たい壁を手の平で小気味良く叩きながら、
会議室に向かって歩いた。
会議室を過ぎた先にある階段付近に点けられた非常灯が、
わずかにぼんやりとした光を放っていた。

夏と藤野の言い争い。
自分に直接関係のない出来事の殆どは実に馬鹿げた事だと思い、関わりたくはなかった。
自分は教えられた事を自分の出来る通りにやる、それだけ。

吉澤は自分のそうした感覚を改めて実感した。
そして、今それを行動に移した自分にちょっとした優越感を感じていた。

会議室の前まで来て、吉澤は一階の方から物音がするのを聞いた。
スタジオ内はいつもより静かに感じた。
52名無し募集中。。。:04/08/29 01:26
会議室を通り過ぎ、階段の下を覗き込む。

浅村がブレーカーを調べに行ったのかもしれない、
そう思って会議室の方へ戻りかけたが、また、今度は何かをひっくり返すような音が聞こえた。

吉澤はリハーサル室に戻ろうと迷いかけたが、
すぐに思い直し、もう一度階段の方へ向かった。

下に見える踊り場にだけ非常灯の光が溜まっていた。
他は塗りつぶされた様に暗く静かだった。
吉澤は無言で階段を降りはじめた。

スタジオ一階も二階同様に暗く静まり返っていた。
元々人通りは多くない場所に立てられたスタジオではあったが、
それでも当然、車の行き交う音などは一階に行けば聞こえると吉澤は考えていた。
そして正面玄関のある一階には、そこから光が差し込んでいるはずだった。
53名無し募集中。。。:04/08/29 01:26
不思議に感じた吉澤はロビーを横切り正面玄関へ向かった。
ロビーの非常灯に照らされてシダの葉が光っている。

正面玄関は、薄い壁で遮られ、曲がり角になっている先にあった。
一階でメンバーが出歩きしても外からは見られない為の配慮だった。

吉澤は壁に手を突き、顔だけを正面玄関の方へ覗かせた。
一階に広がる不自然な暗さの原因はシャッターが閉じられていたからだった。
シャッターの重い金属の色が吉澤を不安にさせた。

その時、また物音が聞こえた。今度はより近く、
一階の会議室からである事がはっきりと分かった。
不安をいち早く取り払いたい気持ちで、吉澤は駆け足で会議室に向かった。

会議室のドアを軽くノックする。何の音も返ってこない。
吉澤はためらいつつも会議室のドアを開けた。
54名無し募集中。。。:04/08/29 01:27
ここも他と同じ様な暗闇を覚悟していた吉澤だったが、
ドアを開けた瞬間に目の前があまりにもはっきり見えた事に驚いた。
そしてその光景にも。

浅村がうつ伏せになって倒れていた。
その光景を縁取る光が、懐中電灯特有の黄色味がかった物だと分かった吉澤は、
光の出所へ顔を向けた。

光は吉澤の顔にその向きをすぐに変えた。
眩しさに顔を背けて吉澤は、ドアを後ろ手にしながら後ずさったが、
懐中電灯を持った手はすぐに吉澤の胸ぐらを引っぱると、そのまま部屋の中へ引きずり込んだ。
引きずり込まれた勢いで吉澤は前のめりになって、そのまま倒れこんでしまった。

光の持ち主はドアを閉めると、吉澤を再び照らした。
体勢を立て直しつつ吉澤は震えた声で聞いた。
55名無し募集中。。。:04/08/29 01:27
「誰ですか?」
「他の人達はどうしたか教えてくれ。」
それはいつもの穏やかな警備員の平井の声だったが、
明らかな不自然な状況を感じた吉澤はこの質問に答えるのを戸惑った。

「みんな・・は、あの・・・」
平井は吉澤に顔を近づけてゆっくりと言った。
「お前、はっきり喋れよ。何が起きてるのか知らないのか?」
その口調に吉澤は嫌悪感を感じた。平井にそうした感情を持つのは初めての事だった。
「・・何って、停電が地震であって・・・」
「もう、いい。お前は喋るな。」
そう言って懐中電灯を持った手を振り上げた。

吉澤はすぐに身を背けたが、状況が把握出来ずに立ちすくんだ。
平井は足を伸ばし吉澤に蹴りかかった。
その時、暗い室内に懐中電灯の光がでたらめに散らばった。
「あっ。」
56名無し募集中。。。:04/08/29 01:27
平井が、落とした懐中電灯を拾おうとした隙に、吉澤は横をすり抜けドアを押し開けた。
ドアを開けた向こうからもまた懐中電灯の眩しい光が広がった。
「助けて!」
吉澤はそれを見るとすぐになりふり構わず叫んだ。

平井は懐中電灯を拾い上げると、もう一つの光の持ち主に浴びせた。
光が交錯する。

もう一つの光の持ち主は森川だった。
森川は吉澤を自分の後ろにかばって言った。
「・・平井さん?あんた何やってるんだ?」
「何もやってませんよ。何も。」
吉澤が森川の背中越しに言った。
「浅村さんが・・・」

森川は懐中電灯を平井の横にうずくまってる黒い塊に向けた。
「何があったんだ?」
それは後ろにいる吉澤にも投げかけられた質問だった。
「何があったんでしょう。私も知りたいですね。」
平井はそう言うと倒れている浅村の上にかがみ込んだ。
57名無し募集中。。。:04/08/29 01:28
森川が近づこうとすると、ポケットから鈍く光る刃物を出して、浅村の首筋に寄せた。
「この部屋から出て行け。食い物は俺の物だからな。」
森川は近づく足を止めて言った。
「落ち着いて。平井さん。この状況をよく考えて下さい。
 誰かが来るまでは・・・」
「誰が来るんだよ!いつ来るんだよ・・。言ってみろ。」

その一言で森川を押し黙らせると、平井のヒステリックな調子は更に強まった。
「言えないだろう。言える訳がない。ああイライラする。
 二階にも食い物はあったよな。ああイライラする。持って来いよ。」

吉澤は二人のやり取りを呆然と見ていた。
無関心を装おうとしても、それが何に対するものかすら分からなかった。
何故平井は食べ物に執着しているのだろう。浅村はどうしたのだろう。
吉澤は得体の知れない不安を感じた。
58名無し募集中。。。:04/08/29 01:28
「よっすぃ?」
二階から降りてきた藤本の声だった。
吉澤は振り向くと、藤本の元へ駆け寄ろうとした。
「吉澤さん。」
小川も一緒だった。
「ああイライラする!さっさとしないからこうなるんだ!何人いるんだよ一体!」

吉澤はその平井の声を聞いて思わず足を止めたが、
藤本達は何が起きているのか疑問に思い、会議室に駆け寄った。
森川は二人が来るのを制止しようとして後ろを振り向いた。

その瞬間を見て、平井が襲いかかった。
森川の体に覆いかぶさる形になり二人は転倒した。
平井は馬乗りになって、刃物を持ったまま手を首に回した。

後ずさりする藤本達の足元に、二人が持っていた懐中電灯が転がる。
藤本は懐中電灯を拾い上げると、何のためらいもなく平井の頭に振り下ろした。
59名無し募集中。。。:04/08/29 01:29
固く鈍い音と共に、あっという間に平井の体からは力が抜け、
森川の体の上にそのまましなだれかかった。

藤本は平井の手からこぼれ落ちた刃物を蹴り飛ばすと、
突っ立っている吉澤と小川に喝を入れるように声を短くかけた。
「ほら、早く。助けるよ。」

三人は森川の体の上にかぶさっている平井を引きずりどけると、床にそのまま座り込んだ。
「ありがとう。」
森川は立ち上がってそれだけ言うと、懐中電灯を拾い上げすぐに会議室に走った。

三人は何が起きているのか分からず、座り込んだまま、
もう一つの懐中電灯を点けたり消したりした。
60名無し募集中。。。:04/08/29 01:29
「何をやってる!馬鹿!」
森川が会議室から顔を出し叫んだ。
「すぐに消せ!」

小川は普段聞きなれない森川のその怒声に驚き、
慌てて懐中電灯を切ると、自分の手の届かない距離にまで勢いをつけて転がした。
そして甘えた声でこう言った。
「吉澤さーん。どうなってるんですか。」
「全然分かんない。」

「みんなは暗いのが怖いからって三階に行ったよ。
 私たちも行こう。・・森川さん。警察に電話した方がいいんですか?」
倒れている平井を見て藤本が言った。

ほんの少し間があって、会議室から森川が暗い表情で出てきた。
「いや。電話はつながらない。」
そしてこう付け加えた。
「浅村さんは死んでいる。」
61名無し募集中。。。:04/08/29 01:30
三人は、自分達の座っているすぐ横にうつ伏せになっている平井を見て、すぐに体を遠ざけた。
「どういう事ですか?」
小川の問いかけに、森川は落ち着いた口調で答えた。
それは、自ら意識的に冷静さを保とうとしている様だった。

「まず落ち着いて。そして僕に付いて来て。
 でも、その前に・・・平井を・・」
「縛ればいいんじゃないですか。」
藤本のその提案を聞くと、森川は急いで会議室に戻りロープを持ってきた。
気絶している平井を四人で縛り上げると、森川は会議室に吉澤達を招き入れた。

浅村は仰向けになっていた。首を締めた跡が残っている。
顔色は部屋の暗さでよく分からなかったが、
焦点の合わない視線は何の反応も無く、まばたきをしなかった。
死んでいる、その言葉が三人の頭の中に繰り返し響いた。
62名無し募集中。。。:04/08/29 01:30
浅村の死体を見つめている三人に対し森川は言った。
「何も知らないのか。何が起きたか。僕もさっき知ったばかりだけど。」
「平井さんが殺したんでしょう・・。信じられない。」
「その事じゃなくて・・・。」

森川は懐中電灯を消した。すでに暗闇に慣れていた三人の意識は、
部屋の奥にある幾つかの窓にかかるカーテンに移った。

カーテンが受けている外の光に奇妙な感覚を覚えた。
二階会議室で森川が感じたのと同じく。
森川は窓に近づきカーテンを引いた。
63名無し募集中。。。:04/08/29 01:30
その頃、三階に向かったメンバー達も全く同じ景色を見ていた。

部屋に広がった光は、しばらくの間暗闇の中に居たメンバー達には眩しすぎる様だったが、
彼女達の言葉を飲み込ませたのは、決してそれではなかった。

そこには赤茶色く、ひび割れた皮膚の様な背中を向けている地面が広がっていた。
泥の様な重さは無かったが、砂の様なきめ細やかさも感じなかった。
のっぺりと広がったそれはどこまでも続き、そこかしこに歪な凹凸を作っていた。
そして、歪んだ地面に飲み込まれた様に、建物は何一つ見当たらなかった。
64名無し募集中。。。:04/08/29 01:37
とりあえずここまで・・・
前スレ読んでくれてた人来てくれるといいな
65名無し募集中。。。:04/08/29 01:45
なんか窪塚のドラマ思い出した
66名無し募集中。。。:04/08/29 02:15
それを元にしてるんじゃなかった?

自スレおめ乙期待sage
67名無し募集中。。。:04/08/29 03:15
目薬とDRIFTINGで検索できるスレタイにちょっとワロタ

いや、内容も面白いよ
68名無し募集中。。。:04/08/29 03:41
━4━

ブースから出た中澤は、スタッフのお疲れ様でしたという言葉に軽くうなずきながら、
マネージャーの元に駆け寄った。
「どういう事?電話・・。」
「うん、つながらないんだよ。全く。スタジオにね。会社は話し中。
 きっと無理だな。」

無理と言ったマネージャーを睨みつけると、中澤は椅子に倒れるように座った。
「無理ってのは混んでるからって事だよ。会社でも今大変なんだと思う。
 誰もいなかったらいいんだけど。ああ、次の仕事あるから。姐さん。」

次の仕事に向かう車の中でマネージャーが受けた電話は、事務所からのもので、
その仕事が中止になった事と、警察から調査協力の依頼が来たという事を知らせる物だった。
69名無し募集中。。。:04/08/29 03:41
マネージャーは先ほどスタジオに連絡をした事を伝えると、
すぐに調査協力で警察へ向かってくれと返された。
当然電話には事故の内容も含まれていた。

「大和ビルは原因不明の爆発事故で消滅。
 大和ビルにいたのはモ娘。メンバー12人と夏、浅村、藤野、森川、警備員の平井。
 死体は見つかっていない。はい分かりました。」

電話の内容をそのまま隣にいる中澤にいち早く伝えるべく、
冷静に淡々とした口調で、マネージャーは電話を受けつつ言った。

中澤は青ざめた顔で泣き続けた。
電話を終えたマネージャーもかける言葉が見つからず、ただ車を警察に走らせた。
70名無し募集中。。。:04/08/29 03:42
警察につくまでには中澤は泣き止んでいた。というよりも自制したのだった。
「・・大丈夫だね。辻と加護もすでに来てるみたいだから。」
そう言ったマネージャーに、中澤はただうなずいて見せた。

警察に案内されたのは、テーブルと椅子が用意されただけの殺風景な部屋だった。
辻と加護は、見るからに泣きはらした不安げな顔で、数人の男と話をしている最中だった。
事務所のスタッフも何人か来ていた。

中澤とマネージャーは辻の隣に座ると、誰に向けるとも無く軽く会釈をした。
「すいません。お仕事中だそうで。
 事故のあった時間の前後に連絡を取っていたという事を事務所さんの方から伺ったもので。」
警察のその問いかけにマネージャーが答え始めた。
71名無し募集中。。。:04/08/29 03:42
「僕がスタジオに連絡したのはニュースを聞いた直後ですね。」
「具体的に何分か分かりますか?」
「えっと・・・」
「事故が起きたのは十時十五分ごろと見ています。報道が流れたのはその十分後くらいからです。
 その前後という事でいいですか?」
「ああ。はい。その時ですね。」
「つながりましたか?」
「いえ。つながりませんでした。」
「話し中でしたか?」
「話し・・・」
中澤はマネージャーに話しを託す格好となっていた。
隣にいる辻はすでに話し終えている様だった。

「大丈夫?」
「うん・・・・。」

「辻さん。もう一度話しを聞かせてもらえますか?」
「はい。・・でも、もう何もないですよ。・・・今話した事だけです。」
72名無し募集中。。。:04/08/29 03:42
それだけ振り絞った様に言うと辻は、顔をうつむかせて黙り込んでしまった。
そして、テーブルの下の中澤の手を握り締め自分の元へ引き寄せると、
涙を流してぼそぼそと呟き始めた。

「・・・梨華ちゃんに変顔送れなかった。・・・ありがとうって言えなかった。」
「・・・大丈夫。ここにみんなおるから。」
隣にいる中澤は、辻の手を軽くぽんぽんと叩くとそう言った。

テーブルには、石川から送信されたメッセージを映した辻の携帯電話が置かれていた。
73名無し募集中。。。:04/08/29 03:48
話が遅々として進みません・・・
プロット・・って言うんだっけ、はもうちょっと先まで考えてあるんだけど

窪塚ドラマの原作からチョロチョロと頂いてますがドラマは見ていません
74名無し募集中。。。:04/08/29 04:08
 
75名無し募集中。。。:04/08/29 05:06
乙〜
76名無し募集中。。。:04/08/29 09:05
77名無し募集中。。。:04/08/29 10:27
78名無し募集中。。。:04/08/29 12:32
79名無し募集中。。。:04/08/29 13:50
保全
80名無し募集中。。。:04/08/29 14:44
81名無し募集中。。。:04/08/29 16:08
82名無し募集中。。。:04/08/29 17:18
83名無し募集中。。。:04/08/29 18:30
いやん
84名無し募集中。。。:04/08/29 20:08
すもももももももものうち
スモモも桃も桃の内
85名無し募集中。。。:04/08/29 21:02
━5━

窓を開けると、吉澤は携帯電話を放り投げた。
携帯は宙を舞い、わずかに土けむりをあげて地面に突き刺さると、
そのまま動かなかった。

「つながんないし、持っててもしょーがないじゃん。」
吐き捨てる様にそう言うと、椅子に大きな音を立てて座った。

吉澤の、男勝りとされるはきはきとした言動に同調する事の多いメンバーだったが、
今回はその気配は全く無かった。

吉澤はテーブルに散乱しているメンバー達の荷物から自分のカバンを引き寄せると、
それに突っ伏して大きなため息をついた。
86名無し募集中。。。:04/08/29 21:03
二階会議室。平井によってもたらされた浅村の死と、外界の変貌。
地震以上の非日常的な景色が連続して、部屋にはだるさが漂っていた。

石川は吉澤の肩を軽く叩くと、先ほどから窓の外をずっと見ている飯田のそばに寄った。
「飯田さん・・。」
「・・うん。・・・石川、どうしよう。これから、どうなるんだろう。」
「・・・ごめんなさい。分からないです。
 ・・・でも、ほら。もうちょっと元気出しましょうよ。」

うつ伏せていた吉澤は起き上がると、
カバンを持って石川の前を横切り、部屋の入り口に向かいながらこう言った。
「馬鹿みたい。どうやってだっつーの。」

入り口付近の床に座り込んでいた高橋が声をかける。
「吉澤さん。何処行くんですか?外には何もありませんよ・・・。」
「知ってるよ。」
吉澤はそう言い残し、そのまま部屋を出て行った。
87名無し募集中。。。:04/08/29 21:45
更新乙
88名無し募集中。。。:04/08/29 22:30
今現在、外がどういった状況なのか誰にも分からなかった。
テレビ、ラジオは電源すらつかず、それは、停電が原因によるものだと誰もが理解したが、
電線すら見当たらなくなってしまった外を見れば、電気の復旧などとても考えられなかった。

スタジオ内にある電話も同様の事が言えた。
そしてメンバー達をもっと絶望させたのは、携帯電話も全くつながらなかった事だった。

森川と藤野の指示によって、メンバーはこの部屋で待機させられた。
しかし、その二人と夏、いわゆる大人達にしてもメンバーにしても、
自身の携帯電話が使用可能かどうかを確かめる事に、
しばらくの時間を費やした事に変わりは無かった。

浅村の死体はシーツをかぶせ一階ロビーに置き放していた。
平井は二階シャワー室のロッカーに軟禁された。
89名無し募集中。。。
気絶から覚めた時の平井の態度は一変していたが、それは諦めに近かった。

一階会議室の清掃をしていた時に、地震は起きたと平井は言った。
正確には、平井は地震とは言わず、“あれ”と指し示した。

“あれ”の揺れよりも、体に伝わる不快な圧迫感で気を失いかけたが、
もっと衝撃的だったのは、目の前で外の景色が、
まるで砂場の城を水で流す様に、一瞬で溶けて崩れ去った事だったという。

話を聞いたのは森川と藤野の二人だった。
リハーサル室にいた藤野も、すぐにテーブルの下に潜り込んだ森川も、
それを信じる気にはならなかったが、現に外には建物が見当たらず、
その事に関して平井を問い詰める気にはとてもならなかった。

何か異常な事態が起きた事を感じた平井は、
会議室に常備してある非常食や、
冷蔵庫の食料を盗み出し、車で逃げる事を考えた。