>>76 学校の周り、川沿いの道、コンビニ、公園…何度歩き回ってみてもどこにもれいなの姿はなく、
少年は疲れた足を引きずりながら家へと向かっていた。玄関にどっかり座りこむ。
「ただいま」
「あ、○○!一昨日が見てたでしょ福岡旅行のアルバム。父さんがね、あの夏祭りに今年行ってみないかって。」
「…夏祭り?」
「そう、長島さんトコの子といったでしょ?」
大きく動悸が打つ。バラバラになっていた、あの夏の記憶が繋がっていくのを感じた。
何度も頭をめぐっていた言葉。小さな頃のれいなの泣き顔。繋いだ、手。
少年は勢い良く立ち上がると、今脱いだばかりのスニーカーに再び足を突っ込んだ。
「かあさん!なんにも言わずに金貸してくれ!」
「はぁ?」
「なんつーか、1人の女の子の命っつーか人生か何かがさ、かかってんだよ!頼む!この通り!」
「えぇ?!なにをわけのわかんないことを…」
驚き戸惑っている母のかばんからひったくるように財布を取り出し、いくらかお金を抜き取ると
「すまん!許してくれー!」と叫びながら少年は走り出した。
少年の頭には、「まさかなぁ」という気持ちと同時に、「多分そこだ」という確信があった。
気持ちより先に体が動くというのは、こういうことなんだな、と
どこかで冷静に感じながら足を前へ前へと走らせる。
約束の、場所。
そこで必ず、俺とれいなは出会うんだ。もうきっと、手を離したりしないだろう。
駆け込むように乗り込んだバスは、空港へと向かっていた。