当時僕は保育園くらいだったと思う。
保育園には友達はいたが僕は遠くから通園バスで通っていたので
近所に友達は少なく、1人で公園で遊ぶことが多かった気がする。
その日もいつもの様に砂場で1人で遊んでいた。
砂場で山を作っていた。当時はそれが非常に楽しかった。
しかし、山を誰かが踏み潰した。
「お前いつも1人だな。」
近所の子供みたいだ。良く見る顔だけど僕は話したこと無かった。
僕はその子を見上げた。
「いいじゃないか。別に。」
「お前生意気なんだよ!こうしてやる。」
その子は僕に掴みかかった。その場で取っ組み合いになった。
お互いの髪を引っ張ったり、頬を抓ったりした。
小学生くらいの女の子が走って来て僕らを引き離す。
「何してるの?止めなさい、仲良くしなさいよ!」
その子は僕らに言った。小学生にしては大きな女の子だ、綺麗な顔立ちとロングヘアーが印象的だった。
「なんだよ、この暴力女!」
取っ組み合いをしていた子は走り去った。
「君、大丈夫?」
「うん、でも今日はもう帰るよ。」
「家どこ、お姉さんが送ってあげるよ。」
女の子は僕の手を引き、家まで連れて行ってくれた。
「ここだよ、僕の家。」
「あれ、隣なの?君。知らなかった…全然。これから仲良くしようよ。君何て名前?」
「山本和樹…カズキ…」
「そう、カズ君って言うの?宜しく。私はカオリ…飯田圭織。」
それが僕とカオリさんの初めての出会いだった。
その後、僕らはまるで姉弟の様に共に時間を過ごすことが多くなった。
年月は流れ…僕が小学6年生の時事件は起こった。
僕は友達と帰宅中だった。しかしその時僕は見てしまった。
警察署から出てくるカオリさんを…この頃彼女は町で不良娘と罵られ、奇異の眼で見られていた。
万引きはする…喧嘩はする…しかも暴走族のヘッドだった…
何人病院送りにしたか、数え切れない。
彼女は町での評判は最悪だった。彼女が通るとシャッターを閉める店まであった程だ。
入店拒否の店はその倍以上あった。彼女が入っただけで評判が下がるらしい。
でも僕は彼女がそんな悪い人には思えなかった。
帰りが遅い親の代わりに夕食を作ってくれたし、寝込んだ時は看病もしてくれた。
何より一緒に遊ぶのが楽しかったし、カオリさんがしてくれる話はとても面白かった。
それに恐喝、いじめの類はカオリさんはしなかった。
「じゃあカズ、また明日な。」
「うん、じゃあね。」
僕は帰る方向が違うので友達と別れた。
そして、来た道を戻りカオリさんに近づく。
「カオリさん…」
「あ、カズ君、恥ずかしいとこ見られちゃったね。」
手には酒とタバコが握られている。恐らく万引きしたのだろう。
「どうして、そんな物?カオリさん、タバコ吸わないし、お酒も飲まないよね?」
カオリさんは寂しげな表情を浮かべ、口を開く。
「これ、カオリのじゃないんだ。お父さんの…」
「え?カオリさん凄く強いんでしょ?そんなこと…」
以前カオリさんの怖そうな後輩が僕のことをガキ呼ばわりした時カオリさんは凄く怒った。
そして、胸倉を掴んだだけで怖そうな後輩を僕に土下座させたこともある。
カオリさんは寂しそうに首を横に振った。