「ねぇ、君。山本君でしょ?」
「ああ…うん。」
僕は口から心臓が飛び出しそうになった。
は、話し掛けてきた?矢口さんの方から?しかも僕を知ってる?
心臓の鼓動が聞こえてきそうなほど気持ちが高まる。
僕の額に汗が滲んだ。いや、額と言わず全身に…
「ぼ…僕のこと知ってるの?」
「うん。学年トップの山本君でしょ。凄いなぁ、トップなんて普通取れないよ。」
「あ、ありがとう。僕はそれしか取り柄がないから…矢口さんみたいに人気もないし。」
「え?おいら別に人気者じゃないよ。そんなに可愛くもないし。」
矢口さんは笑いながら違う違うと手を振る。
十分可愛いよ…その仕草1つ1つが僕の思考を麻痺させる。
話しているだけで心臓が爆発しそうだ。このまま時間が止まればいい…僕はふと滑稽な事を考えた。
そんな事あるわけないのに…僕らしくもない非論理的な考えだ。
「山本君、これから宜しく!勉強で分からない所があったら教えてね。」
「うん…僕でよければ。」
矢口さんは僕に優しく微笑んだ。その可憐な笑顔に僕の脳はアイスクリームのように溶ろけそうだった。
僕は今日を記念日にしたい。憧れの矢口さんと話せたこの日を。
矢口記念日…単純なネーミングだけど、それが一番相応しい。
「そうだ。今度一緒に勉強しない?」
「いいけど…」
「本当?約束だよ。や・く・そ・く♪」
矢口さんは僕と指切りをした。彼女の柔らかく暖かい指の感触が伝わって来る。
僕は今日ほど、学校が楽しいと思った日は無い。