お待たせしました、前スレで展開された小説のログを貼っていきます
「私が気づいてないと思ってるの、あなた最近みうなと・・・・・・・・・」
「俺疲れてるんだよ・・・もう寝かせてくれ・・・」
そういうと旦那はそそくさと寝室に行ってしまった。
まいは仕方なく、夫の脱ぎ散らかしていったスーツを片づけハンガーにかける。
広めのリビングにはまいが一人取り残された。
まいは急に淋しくなり、夫を追いかけ寝室に向かった。
そしてダブルベッドでこちらに背を向けて寝る夫の隣に潜り込んだ。
「ねえ・・・」
夫からの返事はない。
「ねえ・・・まだ起きてるんでしょ?・・・・・・ごめんネ疑ったりして。」
まいがそう言うと、夫はぶっきらぼうに
「わかればいいんだよ。それよりもう寝かせてくれ。」と布団を引き上げた
まいはそれでも夫に後ろから抱きついた。
「抱いてくないの?」
夫はこっちを向かない。
「明日早いんだよ。それにお前もつわりひどいんだったら寝ろよ。」
まいは構わず後ろから夫の手を取った。
「でもホラ、触ってみて。お腹もう少し膨らんできたの。」
まいは夫に最近ふくらみが目立つようになってきたお腹を触らせ
その手を少しずつ上に引き上げ、胸のあたりに持ち上げた。
まいの胸はもともと豊満な方であったが、今は妊娠中とあって更に大きくなっていた。
しかし、夫はそんなまいになんとなく嫌気がさし
「明日早いんだよ!!それに俺だってお前の身体心配してしないんだからな!」
とまいを一喝した。
けれどその言葉に心という心はこもってなかったようにまいには聞こえた。
その日、まいは仕方なく泣き寝入りした。
そしてそんなある日、買い物途中に気分が悪くなったまいは
帰り道の途中にあるバス停のベンチに座り込んでしまった。
自宅のマンションまではまだかなり距離があり
タクシーで帰るにしてもこの辺りにはタクシーの通りがない。
途方にくれていると、頭上から誰かの声がした。
「具合でも悪いんですか?」
みあげると、そこには金髪で男性らしい顔つきをした
とても美しい女性がたっていた。短く切られた髪はやけにさわやかで
顔立ちからして女性だとはわかるものの、なんとなく男性的な雰囲気が漂っていた。
「あ、いえ・・・大丈夫です」
まいは何とかそう返事をしたが、とても大丈夫ではない事は一目瞭然だと思われた。
その女性はちょっと考え込んでいたが、やがて意を決したように
「私の家はこのすぐ近くなんですが・・・ちょっと休んでいきませんか?」
と言った。
まいはビックリしたように顔を上げ
「いえ、そんなにお手数をかけてしまっては・・・」
と言ったが、その女性は
「いいんですよ。私も帰る途中なので・・・さ、どうぞ」
と、まいに向かって手を差し出した。
「どうも・・・有り難うございます」
まいは、いつもならばそう簡単に見ず知らずの人に付いて行くような事はしないのだが、今日ばかりは特別だった。
それだけ、気持ち悪さは耐え難いものになっていたのだ。
「気を付けて下さいね」
その女性は、まいの体を優しく気遣った。
その好意が、まいの渇いた心に水を与えてくれたような気がして、まいはとても安らいだ気持ちになっていた。
「あの、貴方のお名前は・・・」
まいはおずおずと訊ねた。
「申し遅れました、私は吉澤ひとみと申します」
その女性はそう名乗った。
ひとみのマンションは本当にすぐ近くだった。
たった徒歩3分ほどの距離だったけれど、ひとみはその間もずっとまいの様子を気遣って
手を取りながらゆっくりと歩を薦めた。
そして大通りの裏に通り一本入ったとろこにある近代的な建築のマンション。
そこがひとみの住まいだった。
マンションに入るとひとみはオートロックを開け
中のエレベーターで5階まで進み、2重になっているロックをまた開けた。
まいはそのやけに厳重なセキュリティに驚いていた。
中に入ると殺風景ではあったが整理整頓された10畳はあるリビングが広がっていた。
ひとみは部屋の様子に驚いて中に入ることを躊躇しているまいの背中に優しく手をあてがうと
「中にソファでもあるんで休んでいって下さい。何か飲み物でも入れます。」
と言って、キッチンに向かった。
まいは遠慮しつつも、気分がまだ悪かった為にその黒い革張りのソファに腰をかけた。
するとキッチンの方から声がした。
「貧血?」
まいは、それに対して何故か
「あ・・・はい。」
と嘘をついた。
どうしてなのだろうかまいにもわからなかったけれど
妊娠している事をそして結婚している事をひとみに知られたくなかった。
そして、左手の薬指にあった指輪をこっそりと外し鞄にしまい込んだ。
そして、まいは
「どうせいずれバレちゃう事なのにね・・・」と自嘲気味に笑い
まだ外からじゃわからないお腹の子供に小さな声で話しかけた。
それが聞こえたのか聞こえなかったのか
「え?」
とひとみは言うと、マグカップに2つ暖かい紅茶を入れて運んだ。
そして、ソファに座っているまいの隣に腰掛けた。
ひとみはまいにマグカップを渡し、まいをマジマジと眺めた。
「細いねぇ〜・・・」
ひとみは半ば呆れ気味にそう言って笑った。
「え・・・?」
「だから貧血なんて起こしちゃうんだよ。」
ひとみはマグカップを取るとそれを一口飲んだ。
「ごめんなさい・・・」
謝るまいに吉澤はこう言った。
「謝る事ないよ。何?身体弱い?」
「ううん・・・全然平気。」
「じゃ、たまたま?」
「うん・・・まぁ・・・・。」
まいはそう言って言葉を濁した。
するとひとみがまいの右手をそっと取り上げた。
まいはそんなひとみの行動にドキドキした。
「え・・・?何?」
「いやぁ・・・ちゃんと家事こなしてる手だなぁって思って。
一人暮らし?」
まいはそんな事を聞かれて、何故か慌てて首をブンブン縦に振った。
そんな不自然なまいを見て、ひとみはさも気にすることなく笑った。
「なんだよぉ〜、そんな変な事しないよ!しかも独身の一人暮らしの女性にさ。」
まいはその言葉を聞いてゴクリと唾を飲み込んだ。
そして無意識に視線はお腹の上にいってしまっていた。
「ん?なんだぁ?」
それに目ざとくひとみは気付いたが、まいは
「ううん。何でもない。」
と言って、慌てて紅茶を一口飲んだ。
と、その時ピンポーンとインターホンが鳴った。
その音ひひとみは立ち上がり
「ちょっとごめん。」とソファを立ち上がった。
そして、インターホンを取ると「おう。」と一言言って戻ってきた。
「お客さん・・・?」
まいがそう聞くと、ひとみは
「ううん、同居人。」と返した。
すると間もなくドアのベルが鳴り、ひとみはまた立ち上がり
玄関のロックを開けた。
「ただいまー。ってアレお客さん?」
「あ、そこで貧血起こした女の子。しんどそうだったから連れて帰ってきた。」
「貧血ってそんな事言っちゃって、またかわいい女の子連れて帰ってきたんでしょ?」
「本当だって顔色真っ青で気分悪そうだったんだ。」
振り向くと、そこにはスタイルのやけにいい髪の長い女性がひとみと一緒にいた。
まいは慌てて立ち上がり
「すいません、お邪魔してます。でも、帰ります。もう。」
と鞄を取り上げ、帰ろうとした。
すると、ひとみはまいの肩を掴み、「あー、まだ休んどきなって・・・」
とまいをまたソファに押し戻した。
ひとみはもう一人の女性を指さし
「アヤカ。同居人」と紹介すると、今度はそのアヤカという女性にまいを紹介しようとした。
ところが、まいはまだ自分の名前を名乗っていない。
「えっと〜・・・名前聞いてなかった。」
まいは敢えて自分の旧姓の名字を名乗る事にした。
「まい。里田まい。」
ひとみは、それを聞いてアヤカに同じ口調で
「まい。里田まい。」と言うと、ニヤッと笑い
「まいちんかぁ〜・・・。幾つ?」と年まで聞いてきた。
「二十歳。」まいが答えるとひとみはそのニヤニヤしたままの顔で
「二十歳の一人暮らしって事は・・・学生?」と聞いてきた。
まいは思わず首を振ってしまい、ひとみに「じゃ、何?」と聞かれ
その後、すんなり嘘をつけなくなってしまった。
そして、その場に居づらくなったまいは鞄を持ち、「失礼します。」
と言って、二人をよけて玄関を飛び出した。
残された二人は顔を見合わせるとお互い首をかしげあった。
まいはエレベーターを待っている事ができずに
階段を降り、そしてマンションの外に出た。
まいは、マンションの外で息を整えると、さっきの5階あたりを見上げた。
不用意な嘘。
どうして夫の事や子供の事を隠してしまったんだろう。
まいは急に罪悪感にかられ、お腹にそっと右手を当ててさすってみた。
服の上からじゃわからなけど、触るともう膨らみを感じる。
まいはその見えない胎児に向かって「ごめんね・・・」と謝った。
そして何故か「もう少し・・・もう少しだけこのまま待って・・・」とも呟いた。
あと半年後には生まれてくる子供。どんどん大きく膨らんでいくお腹。
それでもまいはバレるまでひとみに嘘をついていたいと思った。
「また、会えるよね?」
最後に今度は5階の方を見上げて心の中で呟くまい。
そしてゆっくりと歩き出しマンションを離れ自宅に戻っていった。
その日、夫は帰ってこなかった。
夕食の支度もして待っていたが、連絡も全くなく
気が付くと、まいはソファでうたた寝をしていた。
目が覚めたまいが時計を見ると、長針は1時と2時の間だった。
まいは立ち上がり、自分の携帯を確かめるとメールが一件入っておりそれは夫からのものだった。
『今日は接待で帰れない。』
それだけの短いメッセージ。
まいは仕方なく、シャワーを浴びた。
シャワーを浴び、脱衣所に戻るとそこには洗面所の鏡があった。
まいは裸のままその前に立ち、自分の身体をマジマジと眺めた。
こうして見ると、体つきが少しずつ変わってきている。
まいは大きくなってきた両胸を右手でそっとさすると、
左手で円をなすように胸を優しく揉み、そして乳首にそっと触れた。
その時点でまいは妙に敏感になってしまい、
今度は右手をお腹から下へ移動させ、秘部にあてがった。
そこはすでに十分な湿り気を与えており、まいはその一番敏感な部分を指で弄んだ。
「ハァッ・・・」
まいの口元から吐息が漏れる、少しずつ大きくなっていく快感にまいは溺れそうになった。
そして、まいは目を開け目の前の鏡を眺めた。
すると目に入ってきたのは自分の膨らんだお腹だった。
まいは急に正気に返った。
「あたし一人で何やってんだろ・・・」
そして昼間会ったひとみの事を思い出した。
「こんなお腹じゃ・・・きっと・・・」
まいはひとみの前で裸になった自分を想像し、ひどく気が沈んでいった。
「それに・・・人妻って知ったら・・・」
まいは鏡から立ち去り、パジャマを着ると部屋のあかりを消していき
そのままベッドに潜り込んだ。
そして眠りにつくまでずっとひとみの事を考えた。
「明日・・・会いに行こうかな・・・。」
まいはゆっくりと眠りに落ちていった。
「目が腫れてる…」
翌朝、まいは洗面所の鏡に映った自分を見てそう呟いた。
いつもは早起きして朝食を作り旦那を送り出すのだが、
今日はその旦那が居なかったので、朝寝坊してしまった。
そのせいだけで腫れてるのではない事を、まいは分かっていた。
「フゥ…」
簡単に朝食を済ませ、少ない洗濯物を干し終わったまいは大きなため息をついた。
いくら優しくされたとはいえ、何故女性に対して変な感情を持ってしまったのだろう…?
確かにひとみは中性的というか、どちらかといえば男性っぽい美しさがある。
だからといって、彼女の前で裸になる事まで想像するとは…
ブンブン
まいは頭を左右に二、三度振って、パンッと両の手で頬を挟んだ。
「だめだめ。この子の為にもしっかりしないと」
少し大きくなったお腹をさすりながらそう言うと、まいは物置から掃除機を取り出し、
帰ってくるやも分からない主の為に我が家をキレイにし始めた。
それから1週間くらい経ったある日、まいは近所のショッピングセンターに来ていた。
夕食の材料を選んでいると、不意に肩を叩かれた。
「まい…さんでしたよね?」
その少し拙い女性の声に振り向くと、あの日ひとみのマンションで会ったアヤカだった。
「…アヤカさん?」
「あーやっぱりそうだ。あれから具合はどう?」
「ええ、まぁ」
まいは突然の出会いに驚き───いや、アヤカを通してひとみを思い出して、
鼓動が少し早くなっていくのを実感した。
「よっすぃが心配してたよ。ちゃんと帰れたのかなぁ…大丈夫かなぁ…って」
「ひとみさんが?」
アヤカは笑顔で頷いてこう続けた。
「ああ見えて彼女、結構繊細で気を遣うコなんだよ」
ひとみがあの後も自分の事を気にしてくれていた。
その事実がまいにとってはとても嬉しかった。
やっぱりダメだ…彼女の事は考えないようにしていたのに、
そんな事を聞いちゃうとダメだ…
もう一度会いたい…
「ひとみさん、今は家に居るの?」
まいはドキドキしている自分を悟られないように、アヤカにそう言った。
するとアヤカは少し眉間に皺を寄せてこう言った。
「昼間はずっと家にいるわよ。でも夜になったら出て行くから。」
まいはそのアヤカの表情の変化が少し気になった。
そういえばひとみは普段何をしているんだろう。
まいは自分自身の事をひとみに隠していたが、ひとみの事もまいは何も知らなかった。
まいはふと厳重なセキュリティだったひとみのマンションを思い出した。
「ひとみさんって・・・何のお仕事されてる人なんですか?」
途端にアヤカの表情が曇る。
聞いちゃいけなかったんだろうか・・・。
それでもアヤカは心配そうな顔になったまいを見てもう一度笑顔を向けた。
「いずれわかるわよ。」
まいはみぞおちのあたりがキュッとなる感覚を覚えた。
そして、反射的に手を下腹部のあたりにあてがった。
そんなまいの行動にアヤカが気付いたかどうか定かではなかったが
まいはそんな自分の行動に気付いて、もっていた鞄であわてて腹部を隠した。
あれから一週間。
胎児も成長したのかお腹も一回り大きくなってはいる。
ただ元から痩せてたおかげで今の段階だと外から見ても注意して見ないと察しがつかない程度だった。
けれども来週になると5ヵ月になり、辛いつわりから解放される代わりにお腹の方は目に見えるほど大きくなる。
今のまいにとっては日々つきまとっていた吐き気よりも、大きくなる妊婦のお腹の方が大問題だった。
まいは考えた。いずれバレるかもしれない。それにあと半年後にはこの子を出産して益々会えなくなる。
それでも今の自分の気持ちを優先させたい。会いたい。
バレるまでの間・・・短い間でも夢が見たい・・・。
まいはもう一度聞いた。
「アヤカさんはこれから・・・?」
「あ、あたしは今日は今から仕事よ。」
今行くと二人きりで会える・・・。
まいはひとみに会いに行く事にした。
まいはアヤカと別れると、お腹の周りを締め付けないワンピースを着ていたが
あえてそれを脱ぐと、お腹の目立たなくなるような服を選んだ。
まいはそれを着たせいで、腹部を少し締め付ける事になった。
するとその瞬間に突然吐き気が襲ってきた。思わず口元を押さえ屈み込みそうになる。
それでもまいは「ごめん・・・苦しいけど我慢して・・・バレちゃうまで夢見させて・・」
と言うと呼吸を整え、そのまま家を飛び出しひとみのいるマンションに向かった。
ひとみのマンションに向かう道中、まいは道中にあるパン屋でいくつかのベーグルを買っていった。
時間的にちょうどひとみのマンションに着く頃には昼食を取る時間になるはず。
まいはつわりでここのところ食欲がなかったが、この日は珍しく何か食べれそうな気がしていた。
少しの距離を歩きマンションの下に辿り着くと、まいは小さく深呼吸をした。
そして、締め付けられているお腹に触れる。
「こんなママでごめんね・・・」
まいはそう呟くとマンションの中に入り、偶然にも覚えていたひとみの指先通り部屋番号を押した。
ピンポーン
程なく受話器を取る音が聞こえる。
このマンションにはインターホンにモニターがついている為ひとみにはまいの姿が確認できたらしい。
「おお!!」
ひとみはインターホン越しにそう言うと、マンションのオートロックを開けた。
まいはそのひとみの声を聞いた瞬間に一瞬だけ息が止まりそうになった。
そして、その緊張感を抱えたままエレベーターに乗って5階へ向かった。
5階へつきエレベーターの扉が開くと、そこにはひとみがもう待っていた。
まいは予想外の事に動揺したが、一呼吸置いて
「こないだはお礼もろくに言わず帰ってしまってすいませんでした。」
とペコリを頭を下げた。
ひとみはそんなまいを見て
「元気になったんならそれでいいんだよ!」
と笑い、まいの背中に手をあて廊下を通りマンションの中に招き入れた。
まいは背中から伝わってくるひとみの体温を感じながら、
少しずつお腹の子供への罪悪感が何故か和らいで行くのを感じていた。
部屋に入ると早速買ってきたベーグルを差し出した。
「これ・・・こないだのお礼・・・。」
ひとみはそれを受け取ると中を見て歓声をあげた。
「うぉー!ベーグルじゃん!好きなんだよ、ココの!」
「よかった。」
「それに昨日から何も食べてないし。何か飲み物入れるから座りなよ。」
ひとみはベーグルの入った袋を抱えキッチンに入っていった。
まいはそれを確認すると、こないだ座ったソファにゆっくりと腰をかけようとした。
と、まいはこの時初めて気付いた。
座る体勢になると、締め付けているお腹の部分が更に圧迫される。
どうしよう・・・。
途端に少し気分が悪なってくる。やはり少し無理があった。
するとキッチンの方から声がする。
「ジーンズ、似合うよね。」
「あ、そうかな・・・?」
まいは比較的冷静を装った声で答える。
「足も長いし、かっこいいんじゃん?」
「ありがとう。」
「モテそうだなぁ〜・・・・」
「そんな事ないない。」
まいは慌て首を振る。
そんな会話をしているうちにひとみがベーグルと飲み物を持ってこちらにやってきた。
「コーヒー、何か入れる?」
ひとみはテーブルにそれらを置いてまいに訪ねる。
「・・・・。」
「あれ?コーヒーダメ?」
まいは思わず黙り込んだ。医者から言われていた。「妊娠中はコーヒーは少し控えて下さい。」と。
「何か他のにしようか?」
ひとみがまいの顔を覗き込む。
覗き込んだひとみと目があったまいは、ふと我に返る。
「あ、あの・・・じゃ・・・ミルク・・・」
「オッケー。」
ひとみはまいの返事を聞くと、キッチンにミルクを取りに戻った。
絶対飲んではならない事はなかったが、念の為まいは妊娠がわかってからコーヒーを口にしないようにしていた。
けれどこの際そんな事は言ってられない。
少しくらいなら平気だって・・・。
キッチンから戻ったひとみはコーヒーのミルクを2つほどまいに投げてよこした。
まいはそれをキャッチすると、とりあえず1つだけコーヒーにそれを注いだ。
そしてひとみは「あー腹減ったよぉ。」と言いながら、こないだの時のようにまいの隣に腰掛ると
早速ベーグルに手を伸ばし、大口で一つ頬張った。
「うっめー。」
まいはそんなひとみに嬉しくなり、ホッと胸をなで下ろした。
ひとみはそんなまいを見て口を開く。
「食べないの?」
「え?」
「ベーグル・・・」
「あ、さっき食べて来ちゃった。」
正直、お腹のあたりが苦しくて食べ物を食べるような気分ではなかった。
「仕事先で・・・?」
「あ・・・いや・・・」
「嘘だよ、こないだそれ聞いて嫌われたからそういう事は聞かないよ。」
ひとみはサラッとそう言ってのけると、笑顔でまいの方を向いた。
ベーグルをあっという間に二つほど平らげ、ひとみはコーヒーを口に含んだ。
そしておもむろにまいに訪ねてきた。
「彼氏とかいるの?」
「・・・・ううん。」
「本当に?」
「・・・うん。」
「別れたばっかりとか?」
「・・・そうじゃない。」
「え?じゃ、全然?」
「うん・・・まぁ・・・」
嘘を突き通すまい。そしてまいは逆にひとみに聞き返した。
「ひとみさんは・・・?」
「ん?」
「誰か・・・付き合ってる人・・・」
「付き合ってる人はいないけれど・・・大切な人はいるよ・・・。」
ひとみの視線の先には一枚の写真。
まいはそれに気付いてひとみに恐る恐る訪ねた。
「あの写真の人・・・?」
「うん・・・真希っていうんだけど・・・」
「好きなんだ・・・。」
「うん・・・でも居なくなっちゃった・・・。」
「え?」
まいがひとみの方を見るとひとみは視線を写真に奪われているままだった。
「こないだね、まいちんが・・・俯いてバス停でぐったりしてるの見た時、
実は真希だと思ったんだ・・・。髪長くて背丈も近くて、顔あげるまでそう思ってた。」
まいはショックだった。
人違いだったんだ・・・。
ひとみは相変わらず遠い目をしていた。
さっきまでの話を聞きつつも、まいはそんなひとみの視線が淋しく
思わずひとみを抱きしめたくなった。
けれど、ちょうどその時お腹のあたりで何か蠢く感触を覚えた。
胎動・・・。
まいは思わずお腹に手を触れ、目を閉じる・・・。
ゴメン・・・
その時、まいの肩をゆっくりとひとみが抱きしめた。
まいはそんなひとみに動揺しつつも、お腹に触れていた手をひとみの背中に回した。
ひとみは何も言わずまいの手をとり、ベッドまで連れて行った。
まいの首筋辺りに顔をうずめる。
そしてひとみはまいをベッドに倒していった。
ひとみの息が髪にかかる。ひとみはもうさっきまでのひとみではなかった。
まいは言った。
「お願い・・・暗くして。それから・・・あんまりあたしの事見ないで。」
ひとみは何も言わずに立ち上がると部屋のカーテンを乱暴にしめていった。
そして部屋がお互いのシルエットが確認できるくらいの暗さになると
もう一度まいの元に戻ってきて、ゆっくりと服を脱がせていった。
どうなってもいい。
今、こうしていられるのなら・・・。