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3 :
名無し募集中。。。:02/08/25 19:07
6999
4 :
名無し募集中。。。:02/08/25 19:07
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つめたくなくてひろくてすいててぜったいおぼれないプールを出して。
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(___ノ| |:.;./ あがるぼん・・・・・・
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8 :
ジェット ◆1VZFRNi2 :02/08/25 20:22
こんなの認めん!
9 :
名無し募集中。。。:02/08/25 20:23
ワラタ
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15 :
名無し募集中。。。:02/08/26 07:32
唐突やな
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モンモン娘危機一髪
第一回
夏目房の進 夏目漱石の孫、漫画評論家。
ときどき親子漂流教室の司会も務める。
滝沢繁明 日本最大の男性アイドル事務所ヤーニー事務所に所属する
男性トップアイドル。お猿の絵を描くのがうまい。「ヤー
ニちゃんのお猿」。同じ事務所に所属するツバメくんと大
の仲良し。
鈴木あみこ 日本人なのになぜかメキシコ国籍を持つ不思議な女。最近
すっぴん写真集を某出版社から発刊した。
原た泰三 最近、石原軍団を首になった浅草人情喜劇出身のトリオコ
メディアン逆さ金時の一員で自宅で光しいたけを栽培しな
がらトリオを経済的にバックアップする。実は日本ハム創
業者の実の忘れ形見。現在の社長は赤ん坊のときにすり替
えられた偽物である。
モンモン娘 いつも太鼓を叩きながら悶々としている性的欲求不満女の
集団。実は人間ではない。公安のブラックリストにのっている。
井川はるら いやし系、グラビア美女
第二回
モンモン娘の魔手を逃れた夏目房の進は東京を離れるいい口実が出来た。
彼が出入りするテレビ局から夏目漱石についてレポートをやらないかと
打診を受けたからである。出張先は那古井の温泉である。
そのことはまったく彼にとってはわたりに舟だった。
モンモン娘のモンモン三号こと安部なつみかんと云うのは
仮の名前で実は北朝鮮出身のキムキムという本名の
暗殺者だったからである。
薄汚いジャージ姿を好むのは本国でのマスゲームに
あまりにも慣れ親しんだせいだったからだ。
彼女が男が陥りやすいどんな誘惑の方法を使って
夏目房の進に近づいたのかはここでは書かない。
第三回
そして北朝鮮の秘密工作員というのも
仮の姿でまだこの地上が混沌としていたときに
人間とそうでないものが地上に存在していたときの
生きている形骸だった。
どんな力が成し遂げたのかは知らないが、
妖怪、魑魅魍魎の類は暗い地下に
封印されていたがモンモン娘は]
人間の姿を借りてこの地上に生息し続けていた。
そして悪事を繰り返していた。
扉が間一髪でしまったとき安部なつみかんは
地獄の幽鬼のようにどす黒いこの世の中の
邪悪なものをすべてこね合わせたような瞳で
夏目房の進を憎々しげにみつめた。
しかし手遅れだった。
すでに列車は出発して彼と彼の安全を確保して
彼は旅の旅情に身をゆだねていたからである。
第四回
列車がカーブを曲がるたびに車窓の
窓枠がぎしぎしと音を立てる。
遠心力で肘に変な力が加わって
肌がこすれる感じである。
そしてそのたびに列車が走ることで
生ずる薫風が頬を心地よくなでていく。
夏目房の進は車窓に肩肘をかけていたので
列車の振動が伝わって心地よい。
自分の髪を後ろになでつけていくようだった。
この列車の着くさきにはモンモン娘なんかは
住んでいない。
モンモン娘のような邪悪なものは
東京に残してきた。
第五回
モンモン娘の罠に陥ったことをひどく恥じていた。
人間の女に騙されたのなら
まだいいのだが相手は妖怪である。
おんなを使って身体を押しつけてきたのだ。
不愉快だった。妖怪め。
夏目房の進は気分を変えるとかばんの中から、
そこに入っている帝国地理院発行の五万文の一の
地図を膝の上に広げて余を待つ
温泉の印をしかと確かめてみる。
温泉の名前は那古井温泉である
。塵埃を離れた清涼の地に
モンモン娘などという不浄の生き物はいない。
神が姿を変えた森の魚や清冽な滝が余を待っている。
第六回
しかしそういう美しいものを思いながら
あのもんもん娘の姿が頭をかすめたので
余は不愉快になった。とくにあの安部なつみかん、
余は自分の土地の名義をあやうく
奪われるところだった。
そこで余はまた頭をふるってそのいやな思い出を
振り払うのだった。あの清らかな景勝の地の
ことを考えようと思った。
すると緑の樹木の中にひっそりと隠れすむ滝や、
霊験あらたかな神泉がまたまぶたに浮かぶのだった。
自然の人智を越えた驚異で作られた巨岩に
囲まれた温泉の薬効あらたかなる香りも
目の前にあるようだった。
第七回
途中で列車は停まって窓の外に弁当売りがやってきた。
余は峠の釜飯と素焼きの土瓶に入った茶を買った。
窓越しに弁当売りに千円札を一枚出して
百二十円のばら銭を弁当売りは余に手渡した。
そのとき列車はまたごとりと鉄車を回して動き出した。
走りゆく後方に首からかけた弁当のかごが
軽くなった弁当売りの善良な姿が小さくなっていき、
余の旅はまた始まった。
列車の中でうとうとして目がさめると
目の前に座っていたじいさんは余の隣の男と話しを始めている。
この爺さんはたしか前の前から乗った田舎者である。
頭がカラスウリのようにはげ上がっている。
白い開襟シャツは黄色じみている。
足には汚れたゴム長をはいている。
発車間際に素っ頓狂な声を出して乗った爺さんは突然、
余の前の空いている席に座って大事そうに
第八回
抱えていた和竿を自分の横に置いていたのだけは
記憶に残っている。
和竿の横には竹で組んだ古雅な魚駕籠が置いてあった。
隣の男がいつ乗ったのかは記憶にない。
野蛮人のような顔をしているのに
分厚いめがねをかけて神経質そうに
自分のかばんを後生大事に抱いていたから
最初は銀行員かと思った、
それでもなければ司法試験の受験生かも知れない、
しかしそうでもないらしい。そして挙動不審である。
邪悪な表情をしていれば犯罪者である。
よくテレビドラマに出てくるではないか。
凶悪な脱獄犯が生まれ故郷に戻って来る設定が。
故郷が純朴であればあるほど
浮き世離れしていればいるほどドラマの効果は上がる。
第九回
しかしそれは想像の世界のことで
その男が犯罪者であることはないだろう。
めがねの中のぎろりとした目がそわそわと動いている。
そして彼を貧書生だと判断した理由は
かばんから出した粗末な仮綴じの
論文を読み始めたからである
。それがなぜ論文だったかと云うと
紙片の最初のほうにオスカー・ワイルドのキリスト教と
のかかわりと書かれていたからである。
とすると学校の教師か、
余にはひどくつまらないものに思われてその男に
興味も払わずこれから訪ねる温泉のひなびた素晴らしさを
思い描いてその男どころではなかったのである。
第十回
余は目が覚めてからも狸寝入りをして目を
つぶったまま相席のふたりの世間話に耳を傾けていた。
余が起きて聞き耳を立てていることをふたりが
意識しないほうがふたりが自由に話して
おもしろい話が聞けるのではないかと思ったからだ。
知らないあいだに知らない状況に置かれ、
名乗り出るのも鬱陶しいということもあるだろう。
余がうたた寝をしているあいだに
このじいさんと若い男はずいぶんと懇意になったらしい。
しかし実際はふたりの世間話と思っていたのが
田舎者のじいさんのほうが一方的に若い男に
教訓をたれているかたちだった。
このじいさんは余が行く田舎温泉の住人らしい
。毎日つり三昧の生活をしているのかも知れない。
第十一回
ここで懇意になったのではなくて
前から知り合いだったのかも知れない。
じいさんが和竿を持っていたのは
どうやらつりが好きらしいからだった。
ずいぶんと使い込んだ修練のあとがあった。
それからじいさんは、つまりつりの話から始めて、
二二六事件の雪の日の話しに及んで、
それから女というのは恐ろしいものだ
というところに話を持っていった。
実際、どういうふうにおそろしいのかと
云うと女の持っている超自然的な話から始まって、
女自身の恐ろしさ、そして女が恐ろしい状況を
引き起こす恐ろしさに話がおよんだ。
そのあいだ若い方はその話を謹聴していた。
いまさらそんな話しを聞くまでもない。
余は安部なつみかんのために
随分と恐ろしい思いをしたのである。
第十二回
余もその話が人ごとだと思えなかったので
自分の意識が覚醒していることを悟られないかと肝を冷やした。
別にそんな必要もないのだが。
余はときどき漂流親子教室の司会などと
いうことをしてテレビカメラと
一緒に数組の親子と無人島に行き、
ロビンソン・クルーソーのようなことを
やっているのだが、
それに目をつけた新宿追分けのラーメン屋で
かつぶしラーメンを食べに行こうと
よく誘うテレビ東京のディレクターが
モンモン娘と一緒にテレビに出ないかと
第十三回
零段論法を開陳した。
ほとんど理論にもならない強引なものだった。
とにかくモンモン娘の中で室蘭の田舎から
出て来た女でまだ福寿草の芽が出たような娘で
安部なつみかんと云う女がいる。
最近、お塩学ぶという俳優と
彼の自宅マンションで
一夜を過ごしたのだが今が食べどき、
料理のし時とまるで食材のように
不埒な話しをまくし立てている。
それでも余もそう思われてこの企画に
選ばれたのかと思い少し不快になった。
そしてそのときは彼も安部を人間だと
思っていたのかも知れない。
ラーメン屋でその話を聞いたのだが
第十四回
、いいような悪いようなあいまいな返事を
しているとその男の背後にラーメン
のゆでじるの湯気でけむって
よく見えなかったうしろの方に河童みたいな顔を
した女がにやにやにやけている。
それが安部なつみかんを見たはじめだった。
口には焼き豚がくわえられていた。
焼き豚はいい色で焼き上がっている。
湯気の向こうにある安部なつみかんは
ただただラーメンをすすっている、
なつみかんの横にはからになった
ラーメンのどんぶりが
ふたつも重ねられている。この雌豚が。
余は心の中でつぶやいた。
第十五回
ディレクターの話しによると
そのテレビ番組と云うのは
東京の日本橋から二千円の所持金を
持った何組かの男女がペアになって
室蘭までその所持金だけで到着して
その順位を競うものだった。
もちろん出場者は見栄麗しい乙女と
ますらおばかりである。
余がどうして選ばれたかわからなかった。
そして安部なつみかんがである。
千円だけで日本のはじの方に
ある室蘭まで行けるはずがなく、
それなりの工夫が必要でそこが
第十六回
その番組の面白味となる。
余やほかのタレントたちが
東京タワーの真下に集められ、
そこから出発するのだ。
最初は誰と組んで辺境の地、
室蘭へ出発するか決まっていなかったが、
番組の司会者がお互いの相手を
見つけるように言うとそれぞれの
男女のタレントたちがつぎつぎとペアになっていった。
どこで彼らのあいだに面識があるのだろう。
その内情を詳しく調べたら芸能界、
相姦図が出来るかもしれない。
しかし、安部なつみかんだけは
みんなに嫌われていたので
じっとその場に立ちつくしていた。
それともお塩学がいなかっただろうか。
第十七回
しかしそのことも気にならないのか、
にやにやにやけていたけど。
その姿は醜悪だった。
しかしちょっぴり哀れみを
さそうものもあった。
余にも相手が見つからなかった。
するとするすると
安部なつみかんは余のそばに寄って来て
「お供をしてもよろしいでしょうか」
と言ってやまねのような目で
余を見つめてにやにやと笑った
。内心、余は気味が悪かったが、
余も相手がいなかったので
仕方なく同意をしたわけだ。
二千円の軍資金では一日では
室蘭まで行けない。
最初の宿は松島だった。
第十八回
芭蕉がああ、
松島や松島やと詠んだ景勝の地である。
駅から降りるとデイレクターが待っていて
どこか場末の宿屋に泊まるように言った。
そして五万円を渡した。
その様子はテレビカメラには写っていない。
駅のそばに宿屋はいくつかあった。
なかなか敷居の高い、立派な宿もある。
しかしそんな宿に泊まれば番組の主旨にあわない。
見ている人間が面白くない。
ぶらぶらと歩いているとゴミ箱の上で野良猫が
余と安部なつみかんをじっと見ているよつ角があって
そこを曲がると少しさびれたところになった。
その通りには汚い建物しか並んでいない。
第十九回
そこの角から三軒目に
「一度きり」
と妙な看板が大きく掲げてある汚い安宿があった。
これなら番組の主旨にも合っていると思ったので
ちょっと振り返って安部なつみかんに
一晩ここでどうですか、
と聞くと例の薄気味悪い笑みを
浮かべて安部もここでいいと言うので
思い切ってずんずんそこへ入った。
夫婦でも恋人でもないので
別々の部屋をとろうと思ったのだが
下女が出て来て竹の三番などと言われて、
ふたりはやむを得ず竹の三番に通されてしまった。
その旅館の一番北側の布団部屋の隣の部屋だった。
第二十回
その和室の部屋で余と安部なつみかんは
ぼんやりと向かい合って座った。
個人的な話を聞こうかとも
思ったがお塩さまのことを
聞くのもなんだと思ったので黙っていた。
最近の押尾学には超自然的ななにかが
加味されたような気がすると誰かが言っていたが
それは妖怪と交尾した結果だと気づいた人間は
余をのぞいては誰もいないだろう。
その妖怪のために余は大変な目に遭ったのだから。
部屋に入ったときにはすでに
汚い部屋の真ん中に魔法瓶と湯飲みがふたつ、
茶饅頭が三個置かれている。
部屋に入ってボストンバッグをおろしたとたんに
安部は茶饅頭をとってがつがつ食い始めた。
そして自分で魔法瓶からお茶を
つぐとぐびぐびと飲み始めた。
余は安部の閨房の中での狂態を連想した。
お塩学とのあいだに繰り広げられた
男と女の肌の絡み合いをである。
妖怪が生身の男にとりつく姿をである。
第二十一回
安部は腹がくちくなると
バッグの中からブラシを取り出して髪をすき始めた。
安部の女を感じさせる背中が余のほうを向いていた。
余は窓際に行き、
撫りょうをなぐさめるために
窓の下を通る人間を観察していた。
すると下女がお風呂の準備ができました、
と言って来た。
今まで髪をとかしていた安部がふり返って、
変な笑みを浮かべて、あなたからどうぞと
気味悪く笑うので余はボストンバッグの
底に入っていたタオルを持って
薄暗い廊下の奥へ行った。
そこに風呂はなくて下に下りていける階段がある。
そこの階段をおりると小さな小さな広間があって
壊れたゲームの機械がたくさん置いてある部屋に
入ってその向こう側が上がる階段になっている。
第二十二回
余はその向こう側に行くと
階段を上がって行き、風呂場があった。
天井は裸電球ひとつで照らされている。
だいぶ不潔なようであった。
田舎の風呂にありがちなかび臭いにおいがした。
余は服を脱いでじゃぶんと湯の中に飛び込むと
顔を洗い熊のようにタオルでごしごし、
こすった。入ってみるとちょうど
よい湯加減でかびくさいことも気にならない。
そして安部なつみかんが「あなたからどうぞ」と
言って気味の悪い笑みを浮かべた姿が
額の斜め上三十センチのあたりに
浮かんでやはり気味の悪い気分がぶり返した。
湯の中に入ってうとうとしていると
湯に入っている自分の乳のあたりに何かが見える。
第二十三回
金色をした毛玉のようなものだった。
しだいにそれが姿をあらわし湯の表を破って
六十センチぐらいの矢口が浮上してきた。
余は矢口の頭のてっぺんのところを片手で押さえて
水中に沈めるとぶくぶくと空気の泡を発生させながら
矢口は風呂の底に沈んだまま浮かんでこなくなった。
それからまた湯船につかっていると
天井のほうで人の気配がした。
上を見上げると真っ裸の紺野が天井に
へばりついて首だけこちらをむけて舌を
第二十四回
ぺろぺろと出している。やもりめ。
余は舌打ちをした。
汚かったが我慢をして風呂のお湯を
口いっぱいに含んで水鉄砲のようにして
紺野に吹きかけると、紺野はへばりついていた
天井から洗い場のほうに落ちて
ぎゃと声を発したので手早く洗い桶で
お湯をすくって一挙に流すと
排水口から温泉とともに流れていった。
余の平和は再びおとずれた。
また余はまったりした
湯の中にふたたび浸って太平楽を楽しむ。
鼻歌までも口ずさんでいた。
第二十五回
脱衣場の前の廊下がみしりみしりときしむ音がする。
なにか遠慮をしているようだった。
そして脱衣所のドアを開ける音がする。
脱衣場の横には便所があった。
どうやら便所に入ったようだった。水を流す音がする。
ドアを用心深くしめる音がする。
脱衣所の棚に何かを置いた音がする。
かちゃりと音がして腕時計が置かれたようだった。
それからベルトをはずすとき聞こえるこすれる音がする。
服を地べたに落とす音がする。
少し変な息づかいが聞こえる。
それから風呂の戸が半分ほど空いて
安部が身体の半分をのぞかせた。
安部なつみかんは全裸だった。
第二十六回
「お背中を流しましょうか」
安部の目は半分うるんでいた。
どうやら酒を飲んだらしかった。
口元はだらしなくゆるんでいる。
この女は男なら誰でも良いらしかった。
これは人妻温泉か、と余はうろたえた。
少し垢の浮かんだお湯に
安部なつみは片足からそろそろと入ってきた。
安部なつみの内股が見えた。
肉付きがよくてバランスが
くずれてしわの出来ているところもよく見えた。
「ちょうどよい湯加減だわ」
二メートル四方あった。
安部は湯船のはじから入ってきた。
第二十七回
安部なつみはタオルで
顔を吹きながらお湯の表面を
立てないように移動してくると
余から三十センチ離れたところで
にやにや笑いながら
余の太股のところに手をかけた。
最初は太股の上のところに
安部のぶっくりした手が置かれているようだったが
少し手の位置がずれて中に寄って来たような気がした。
「疲れていらっしゃるでしょう。按摩をしてさしあげるわ」
「結構です」
余はあわてて風呂を出て自分の部屋に戻ると
部屋の中で腹這いになってさっきの興奮をさめるために
新聞を読み始めた。
それから冷蔵庫の中のビールを
飲もうとするとすでに一本なくなっていた。
安部が飲んだに違いない。
それから女中が宿帳を持ってやって来た。
第二十八回
宿帳には夏目房の進 東京生、夫と書いてある横に
夏目なつみかん室蘭生、妻と書いてある。
誰がこんなことを書いたのかと猛烈に抗議すると、
「奥様が」
と女中はいいわけめいたことを言った。
「まあ、いいよ」
余が面倒臭いのではらばいになったまま
手を振ってそのままにすると女中は不満気な顔をして
出て行こうとするから冷蔵庫から
出したビールは別料金にしてくれ
と叫ぶとなんの返事もないので聞いていないのかもしれない。
宿の入り口に入るところまでは
テレビカメラが回っていたが
それからそのあとはふたりは
テレビカメラに写らないのでここでの宿での生活で
安部なつみかんは本性を現すかもしれないと余は思った。
たばこ盆のそばにある週刊誌を手元にひきよせてみると、
すごいタイトルの記事が目についた。
「誰とでもすぐに寝る女。安部なつみかん」と書かれている。
第二十九回
その内容はあまりにもひどいのでここには書けない。
それを読んでいると部屋の戸があいて
安部なつみかんが入ってきた。
「お背中をお流ししましたのに」
安部の顔は湯でほてったのか少し赤みがかっている。
余はうつぶせになったまま顔を畳みに強く押しつけた。
この呼吸困難感がたまらない。
風呂からあがった安部なつみかんは浴衣を着ていた。
それから電話を見つけて電話をかけはじめた。
モンモン娘に電話をかけているらしかった。
そのきんきん声が耳について
夏の終わりのせみの鳴き声のように聞こえる。
しかし余はすでにふたりのモンモン娘を殺している。
矢口と紺野をだ。電話の相手は他のメンバーかも知れない。
第三十回
夕飯を食ってすっかり腹がくちくなっていると、
それから女中がまた入ってきた。
大きなふとんを一組かかえている。
格子縞のいまにもすり切れそうなふとんだ。
部屋の真ん中にそのふとんをひろげた。
「ふとんが二組、何故ないんだ」と抗議すると、
ご夫婦ではないんですか。
部屋が小さいのでふたつはひけません
とかもっともらしいことをいう。
そのうち番頭が今いませんので詳しいことはわかりません。
帰ったら番頭に来させましょうなどと
逃げ口上を言って出て行った。
出て行くとき女中は足で障子を開けた。
ずいぶんと器用な足だ。そのショックで
床の間に置いてある熊の彫り物ががくりと揺れた。
第三十一回
余はかばんの中からポケモンのパジャマをとりだした。
いつも外で寝るときはこれがなければ寝られない。
これが世の魔物から余を守ってくれるのだ。
黄色のタオル地のそのパジャマを畳の上で
ひろげていとおしそうに見ていると、
隣のほうで安部は柔軟体操をはじめた。
安部なつみかんの浴衣の裾ははだけて
太股があらわになっている。なかには
背中を畳みにつけて足のさきを
頭のほうに向けてえびのようなかたちをする体操もある。
パンティもはいていないようだった。
余は少し気になったので聞いてみた。
寝ていた身体を反転させて、
なにを着て寝るのかと、その浴衣で寝るのかと、
すると安部なつみかんの答えは意外だった。
真っ裸で一糸まとわぬ姿で寝ると言った。
第三十二回
そのほうが気持ちいいと言った。
「わたし、疲れたから寝ます。
電気を消してください
余は安部のいうとおり電気を消した。
安部は浴衣のひもをとくと真っ裸になった。
そして大きなふとんに横になると向こうをむいた。
暗い部屋の中に豚の死骸のような安部の
裸体が向こうを向いて横たわっていた。
堅い畳の上で寝るのはいやだった。
余もポケモンのパジャマを来て安部の横に
身を横たえた。
安部は暑いのかけだるそうに
ちわで自分の方に風を送っている。余は仰向けで天井をじっと見つめていた。
「世の中には人間以外の、人間によく似た高等生物がいると思いますか」
「どういう意味だ。この雌豚」
余は天井を見つめながらつぶやいた。
その問いを口には出さなかった。
第三十三回
「ふふふふふふ」
雌豚はまた意味もなく薄気味悪く笑った。
余は風呂場での出来事を思い出した。
風呂の湯船の中に沈んでいったミクロの矢口、
天井にへばりついていたヤモリ女、紺野、
みんな人間じゃなかった。
余は額のあたりに冷や汗が浮かんだ。
それでいて金縛りに会ったように身体が動かない。
「あなたの知らない世界がいろいろとあるんですよ。くくくくく」
「なにを、言う、この雌豚」
「女の身体には穴がいくつあるかわかりますか」
「・・・・・・・」
「わたしの身体には特別に穴があるんです。冒険してみます」
安部はそういうと余の手をとり自分の汗ばんだ乳房の上にはわせた。
「うううう」
余は熱病にうなされた。
安部のなせるままにしかならない。
56 :
ソニンびしょびしょ:02/08/27 16:33
第三十四回
しかし身体は動かない。
「まず、この穴に」
雌豚は余の手をとり彼女の身体の一部に入れた。余の手は粘液で汚された。
「ううう、この粘液女、雌豚め。雌豚め」
「ふふふふふ、まだ最初じゃないの。お楽しみはまだまだあるのよ」
いつの間にか、雌豚安部はこちら側を向いている。
余は口では表せない恐怖と甘美な快感に身を硬直させた。
余の手が二つ目の雌豚の穴に運ばれたとき。余は叫んだ。
「お塩さま、お塩さま」
するとどうしたことだろう。
淫乱女雌豚の姿から安部の姿は恥じらう乙女の姿に変わり、
恥ずかしそうに浴衣を胸の前で合わせて乙女座りを
して恐れを抱いていいる目で余を見ているではないか。
これが妖怪モンモン娘の姿を見たはじめだった。
余はじいさんと若い男の話しているのを
聞いていて妖怪にあったことを思い出していた。
57 :
ソニンびしょびしょ:02/08/27 16:34
第三十五回
いくらなんでもこれから訪ねる那古井の
地にはモンモン娘のような妖怪はいないだろうと思う。
那古井は水と緑に囲まれた景勝の地である。
その温泉も有名である。
過去には日本の名泉五十に選ばれている。
なによりも余がじいさんが訪ねた土地である。
疲れた人の生命力をふたたび取り戻させてくれる
空気が良い、水が良い、食べ物が良い、
風景が良いという那古井の土地に
モンモン娘のような不浄な妖怪がかかわるはずがない。
これまでたびたび余の前に
あの妖怪どもが姿をあらわし悪さをするのは余に
関係があるだろうか。しかし余と人間とは別の
世界にあるモンモン娘を結びつける鍵はいっさいない。
余はじいさんのことで那古井の地に行くだけである。
列車で同席したじいさんと若者は女のこわい話しから
58 :
ソニンびしょびしょ:02/08/27 16:35
第三十六回
始まってじいさんが得意とする釣りの話しに変わっていた。
その前には226事件の話しもはさまっていた。
じいさんは若い頃は日本橋の方の問屋に
勤めていたらしい。
その頃に226事件があったらしい。
その日は朝から雪が降っていてラジオから禁足令が出たそうだ。
しかしじいさんの向かいに座っている
挙動不審の若者にそんな話しをしても
若者にはとんとぴんとこない。
それからじいさんの話しは自分が日本橋の問屋で
働いていたとき意外と出世したことを、
処世訓として話し始めた。
おらはなにも言わずにもくもくと働いただ。
59 :
ソニンびしょびしょ:02/08/27 16:35
第三十七回
みんな給料が安いとか
、休みが少ないとかぶつぶつと言っていたがな。
おらはそんなことは一言も言わずにもくもくと働いただ。
それで上の奴がこいつは見込みがあるとか思ったんだろうな。
じいさんの自慢話しは続いた。
学問もそうだろう。こつこつとやるのが一番だ。
挙動不審の若者はじいさんの問いかけに
肯定も否定もしなかった。
余はじいさんの論が本当かどうかかなり危ぶんだが
別に反論も浮かばなかった。
同じ席のふたりはなによりも余が目を
つぶって寝ていると思っているに違いないのだから、
ことりとも動くことは出来ない。昔、余にこんなことが
あったのを思いだした。学校時代、
バスで上高地のほうに学年全体が旅行したことがある。
その観光バスの中にはカラオケの装置がしつらえてあって、
バスガイドが歌詞が書かれた本を持っていて、
それに対応したカセットも全部そろっていて
その伴奏で歌を歌うことが出来る。
クラスの中でも出しゃばりの
ワハハ本舗の柴田のような顔をした女が
60 :
ソニンびしょびしょ:02/08/27 16:36
第三十八回
そのマイクを握ると後ろのほうを
振り向いてカラオケ大会を始めようよ。
指名を受けた人は必ず歌わなければならないのよ
。歌った人は次の人に指名しなければならないんだから。
先生から歌ってよ。と喚くと突然、担任の手に渡した。
担任は高橋真理子の桃色吐息を歌って
次の生徒にバトンタッチした。
そのときである余が目をつぶって寝たふりをしたのは。
そんな生徒が何人かいた。余はこの状態を思い浮かべながら、
突然そのときのことを思い出したのである。
釣りの話しをしながらじいさんは
自分の横に置いてあるクーラーボックスを
あけると中から冷えた桃をとりだして
目の前の若者に勧めた。
「泰三さん、くえや」「ありがとう」若者はその桃を受け取った。
余は薄目を開けてその様子を見ていたが、
その男の名前が泰三ということを知った。
61 :
ソニンびしょびしょ:02/08/27 16:37
第三十九回
しかし、その名前もすぐに忘れてしまった。
「ほら、新聞紙」じいさんは新聞紙も渡した。
若者はもらった桃をむきながらその皮を足下に
広げた新聞紙の上に落とした。
じいさんも同じようにした。
ふたりで五個くらいの冷えた
桃を食ってそのかすを新聞紙にくるんで足下に置いた。
「おじいさん、竜田川ではどんな魚が釣れるんだい」
竜田川というのは線路にほぼ平行に流れている川の名前である。
山の中の川にしては水量が豊かで水は清らかである。
62 :
ソニンびしょびしょ:02/08/27 16:38
第四十回
「やっぱり、鮎じゃな。
ここは水の流れが急じゃから身がしまってうまいんじゃ。
それにほかの川でとれた鮎より、身体の色が少し青っぽいんじゃ。
駅の隣に山海亭という料亭みたいのがあるじゃろ。
あそこで釣った魚を焼いて食わせてくれるし、
そこからこんろを借りれば川端でも焼いて食えるんじや」
若者はその話しに多いに興味を持ったようだった。
余も同時に興味を持った。
「おじいさん、那古井でつりの名人と言ったら誰なんだい」
若者は歯をむき出してカップ酒を口にしながら言った。
ゴリラが喜んでいるようだった。
いつの間にかじいさんと若者はカッブ酒を買って口にしている。
そうだな、じいさんはたばこ入れからきせるを取り出して磨きだした。
「わしがそうだと言ったらいいんじゃがな。
わしよりも名人がいる。まだ若い」
「おじいさん、誰なんだい」
「しかも、女じゃ」「おじいさん、
人が悪いな。早く教えてくださいよ」
63 :
ソニンびしょびしょ:02/08/27 16:39
第四十一回
「鈴木の本家の一人娘がいるじゃろう。
鈴木あみ子お嬢さんだ」
そのとき余は鈴木あみ子と
言われても誰のことだかよくわからなかった。
那古井のひとつ前の駅で若者とじいさんは降りて行った。
その駅で三分ぐらい列車は停止した。
機関車の車輪の回る音が止まると
ときどき動力車のボイラーの蒸気を抜く音が聞こえる。
その合間に川のせせらぎが聞こえるのだ。
この駅にいて川のせせらぎの音が聞こえると
いうことは川の水量が多いのか。
ここが静かだということだろうか。]
そのほかの音としては鳥の鳴き声が
聞こえるだけだったからだ。
また列車が出発しようと
する少し前に余の乗っている車両に誰か乗って来た。
列車の入り口から客車の中央にその人が立ったとき、
余は自分の目を疑った。
tumannne-yo
65 :
ソニンびしょびしょ:02/08/27 16:40
第四十二回
なんでこんな人がこんな田舎に来たのだろうか。]
その人の姿はまるでグラビアの女王のようだった。
身体の線がはっきりとわかる軽い着心地の服を着ている。
天の羽衣が地上に降りて来たときはこうなのかも知れない。
そのくせその顔立ちは慈愛に満ちていて
白衣の天使のようだったのだ。
前方の通路の中央に立つと客車の中を見渡している。
この車両の中には余しか座っていない。
余と目が合うと彼女はにっこりと笑った。
彼女は列車の中を歩いて来ると
余の斜め前の方の通路をはさんだ
向かい側のところに席をとった。
このさきで彼女は降りるのだろうか。
余は思った。次の那古井の駅が終点である。
当然、彼女も那古井の駅で降りることだろう。
と云うことは彼女も那古井の
どこかの温泉宿に泊まるのだろうか。
第四十三回
那古井の地で彼女が何をするのかわからないが、
彼女とそこでまた出会うかも知れないのだ。
余の期待はいやがおうでも高まった。
余は座っている彼女の姿をちろちろと盗み見た。
そこで余の足下にあのふたりが残して行った、
桃の食いカスを包んだ新聞包みがあることを思いだした。
この包みをグラビア女王らしい、
彼女はどう思うだろう。
きっと公共心のない男と思うかも知れない。
窓から捨てるか。いや、待てよ。
この汽車は進行している。
汽車から捨てればゴミが舞い戻って来て
また列車の窓にぶっかって
窓は汚れてしまい彼女に悪い印象を与えてしまうだろう。
そうだ。そこで余は思いついた。
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第四十四回
便所から捨てればいい。
便所の大便のふたから外に落とせば
ゴミはレールの上に落ちるだろう。
まだ新幹線などがこの世に現れない時代の話しだった。
大便も小便もタンクにためて施設に持ち帰ることなどせず
レールの上にまき散らかしていたのである。
だから駅のそばでは便所に入ることは出来なかった。
余は照れ笑いをしながら新聞のインキのにおいの
ついた包みを持ちながら便所への通路に向かった。
そのあいだ余の耳の片隅にはニイニイ
という変な音がかすかすに聞こえていたのだが
空耳だとばかり思っていた。
列車の中の便所の戸を開けて中に入ると
どこからかニイニイという耳障りな音が
また聞こえ始めた。
第四十五回
便所の中は一メートル五十センチ四方の木の箱で
真ん中にふたをしめてある木のふたがある。
その前の壁にはしんばり棒がついている。
右斜め後ろには小さな洗面台が置いてあって
その下に便所掃除のための柄のついたたわしだとか、
じょうろだとか、吸盤のお化けのようなものが
掃除のために置いてある。
余は自分の耳に神経を集中させた。
音がしている方向がどこか、しょっちゅう間違えている。
パトカーのサイレンの音がしても関係のないほうに顔を向ける。
でもこのときはここだろうとあたりがついた。
便所のすみにしか盲点はない。
壁の向こう側から音がしているとは思えない。
余はおそるおそる、掃除道具の置かれている
ほうに顔を向けた。たしかにニイニイと
第四十六回
アブラゼミのような音が聞こえる。
余は大きな吸盤の柄をとるとそっと持ち上げてみた。
そのときだった。その物体は凶暴になったときのグレムリンか、
フライングキラーフイッシュか、
便所のすみから急に飛び出して
余の顔のほんの数十センチ横を通り過ぎて
便所の斜め上方にへばりついて、
ニイニイと鳴いている。単細胞生物め。
余ははきすてるように言った。
最初の攻撃に失敗するとまた
便所の壁にへばりついてニイニイと鳴いているしか能がなかった。
それは体長二十センチほどのモンモン娘の新垣だった。
ステゴザウルスは脳が分散されて存在すると云われている。
巨大な身体をコントロールすることが出来ないからだ。
新垣はほんの二十センチほどの肉体の中には小脳しかなかった。
第四十七回
ホルモン調節と生存欲求しかなかった。
余は吸盤を取り上げると壁にへばりついた新垣に押しつけた。
新垣の口にはピラニアのような歯がついていて
やはりニイニイと鳴いている。
余は吸い付いた新垣を便器のふたを
開けるとその中に入れた。
下には走り去るレールが見える。
吸盤をふると新垣はニイニイと
叫びながら地べたにおちて行った。
さよなら妖怪。余はつぶやいた。
余は何事もないふりをして余の席に戻った。
列車の中ではやはり例のグラビア美女が物思いにふけている。
余はすっかりその姿に見とれてしまった。
自分のかばんの中にあんず酒が入って
いたことを思い出して鞄の中を探る。
しかしなぜ余の行くところに妖怪モンモン娘が
第四十八回
出現するのだろうか。
余にはその答えを見つけることが出来ない。
鞄の底のほうを探ると堅いものが指先に触れた。
しかし、あんず酒ではなかった。
少し離れたところに座っていた
グラビア美女がその姿を見て微笑んだ。
「なにを探していらっしゃるのですか」
それがその女の声を聞いたはじめだった。
「なにか、飲もうと思って」
余はモンモン娘の一匹に襲撃されたことは言わなかった。
「ちょっと待ってください」
彼女は横から缶入り飲料を取り出した。
「これを飲んでください。
いっぱい持っているんです。スポンサーからもらったんです」
それしはお茶だった。余は恭しくそのお茶を受け取った。
余は缶のプルトップを引っ張る。
余は余のじいさんの茶の飲み方を思い出した。
普通の人は茶を飲むものと心得ているが、あれは間違いだ。
舌頭へぽたりと載せて、
清いものが四方に散れば
第四十九回
のどへ下るべき液はほとんどない。ただ馥郁たる匂いが
食道から胃のなかへしみ渡るのである。歯を用いるのは卑しい。
水はあまりにも軽い。
玉露にいたってはこまやかなること、
淡水の境を脱して、あごを疲れさすほどの硬さを知らず。
結構な飲料である。眠られぬと訴えるものあらば、
眠らぬも、茶を用いよと勧めたい。云々。
じいさんは羊羹についてもしゃべっている。
しかし余はその茶をぐびぐびとバカボンのパパのように飲んだ。
飲み終わって余は深呼吸を一つした。
すると例の美女は余の顔を見て満足気にほほえんだ。
「ありがとう」「どういたしまして」
余は彼女と旧知のあいだからのような気がした。
余は彼女の名前を知りたかった。
「お名前はなんと言うんですか」「井川はるらともうします」
「那古井に逗留するのですか」「ええ」
「どういう目的で」しかしはるら嬢は
那古井を訪ねる理由を言わない。逆に余が
なぜここに来たのか聞いてきた。
第五十回
余もその問いに答えることが出来なかった。
お互いに答えることの出来ない秘密を胸に抱いたまま
ふたりはある距離を保っていたのだった。
汽車は那古井についた。余は那古井に
着いたら真っ先にしようと思うことがあった。
出るとはるら嬢は駅の隣の料亭に行った。
余は駅を出ると目の前には数え切れない
杉の木が視界を覆った。
川のせせらぎの音が身体に静かに響いてくる。
はるか向こうには緑の山が幾十にも重なっている。
はやりの言葉を言えばマイナスイオンが
山々の木々から発せられ
、ここを訪ねる人を直撃している
。駅の前は旧街道になってい車が
一台通れるかどうかという細さだった。
駅を出た直後に大きな看板が立っていて
第五十一回
那古井あゆ釣り場と書かれていて
大きな岩がくり抜かれていて
その下に道が出来ていて川に
降りられるようになっている。
ふり返って駅とその隣に建っている料亭を見ると
まるで民芸品の家のようにみえる。
駅のうしろも山が重なっている。
霧雨の中を遠くでとんびが飛んでいた。
余はそのトンネルをくぐって中に入った。
崖のようなところにはところどころ巨岩が
むき出しになっていてそのあいだを木が
はえていて根を横に張っている。
まるで猿飛佐助が修行をした
ようなところだった。
しかしその階段の途中から折れ曲がって
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こいつあふぉか??
第五十二回
いて広場のようになってい
大きな屋根のついた調理場のような施設があった。
そこは下に炭を焚けるように
なっていさしたままの鉄ぐしもある。
ここで釣り人は釣ったあゆを焼いて
食べるのかも知れない。
こんろは料亭さるひこで貸し出しますと
張り紙が張られている。
余は列車の中でのじいさんと
若者の会話が気になっていたのだ。
那古井一の釣りの名人がいる。
それが女で。鈴木あみ子ということを。
じいさんはその女が女釣りきち三平と
呼ばれるぐらいだと言っていた。
余は鈴木あみ子が見たかった。
たとえその本人に会えなくても
あみ子がいつも釣りをしている場所が
どんなところなのか知りたかった。
春雨の中を余はその階段を下りて行く。
第五十三回
川のせせらぎの音はますます大きくなる。
雨具が必要なほどの雨ではない。
川底になればなるほど巨岩が多くなる。
そして余は目を疑った。
大きな岩の上で三メートルほどの
竿を振っている人影があった。
確かにそれは女の子だった。
「釣りきちあみ子」余は心の中で
つぶやいた。確かに彼女は魚神であった。
彼女は竿を投げ込む。
そしてゆっくりと竿を半周させて上げると
若鮎が糸のさきにかかっているのだった。
余は彼女の立っている岩の横で手を叩いた。
「あなたは」「あなたが釣りきちあみ子さんですか」
「ええ、どういうことですか。
わたしはたしかに鈴木あみ子といいまいが」
第五十四回
「列車の中で聞いたんです。
那古井で一番の釣りの名人がいるって」
すると途端に鈴木あみ子の顔は不愉快な色が浮かんだ。
「誰から聞いたんですか」
「おじいさんですよ。
きっとここの土地の人だと思います」
「まったく、余計なことを言って
、わたし不愉快ですわ。
きっとほかにもいろんなことを
言ったんでしょう」そう言いながら鈴木あみ子は
自分の釣りの道具をしまい始めた。
「余がいるから不愉快になったんで釣りをやめるんでしょうか」
そんなことはないわよ。ただやめたいだけ」
「自分のことを知っている人が横にいるのがいやなのですかな」
「いいえ、釣りというのは微妙なものなんです。
気がちるわ。わたしの釣った鮎あげます」
第五十五回
そこで鮎が焼けるんです。コンロもあるし、
わたしも暇だから、そこで鮎でも食べて帰るわ」
どうも鈴木あみ子を怒らせたみたいだったが、
鮎をただで食べさせてくれるという。
あみ子は大岩の上から降りると階段を漁果を
持って上がっていった。
余も彼女のあとを上がっていく。
調理場につくとガスの入ったコンロに火をつけた。
「東京から来たんですか」「ええ」
「わたしのことを釣りきちなんて誰が言ったの」
あみ子は釣った鮎を串刺しにしながら手で塩をつけた。
調理場の横では自然の沸き清水が常時、
竹のパイプのさきからちょろちょろと流れている。
あみ子は鮎の串を灰に刺した。
初対面の余に鮎の塩焼きを
ごちそうしてくれると云うのは
どういうことだろう。
余に信を置いたのだろうか。
第五十六回
鮎は脂がしたたり落ちて行く。
そのとき余の背後からいっせいに
多数の小さな怪物が躍り出てきた。
怪物はみんな凶暴な歯を持っている。
あみ子は身構えるとそこらへんに
ある数十本の鉄ぐしを余の背後に投げた。
ぐきゃ、にいにい、ぐきゃ、にいにい、
そこには数十匹の新垣がいた。
あみ子の投げた鉄ぐしは
新垣のひたいに刺さり絶命した。
余が後ろを振り返ると草陰にいた
新垣が飛び出して来て余の指にかみついた。
余は手を振った。かみついた新垣は離れない。
「それっ」あみ子が鉄ぐしを投げると
新垣の額に命中してぐぎゃ、
にいにいとうめいて地べたに落ちた。
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104 :
あいぼん :02/09/01 00:02
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第五十七回
「それっ」
あみ子が鉄ぐしを投げると新垣の額に命中して
世を噛みついていた力を失って、
ぐぎゃ、にいにいとうめいて地べたに落ちた。
妖怪にいがきはそこら中に数十匹が死んでいた。
あみ子の投げた鉄ぐしの命中率は恐ろしいほどだった。
しかしなかには絶命せずに仰向けになって
足をぴくぴくさせてうめいている(ё)もいる。
余の(ё)が噛みついた指からは
三十秒に一度くらいのわりで血がぽたりと
一滴のしずくになって落ちて行く。
第五十八回
それを見て瀕死の新垣(ё)
の中の一匹はこの世の中に
]これほどおもしろいものはないというような顔を
してにやにや笑っていた。
その笑いには安部(●´ー`●)と同様なものがあった。
余はふつふつと怒りと憎悪、
この世の中でそれらのすべての
暗黒面のものがわき上がって
そばにある手頃な石を取り上げると
余の不幸をせせら笑っている(ё)の顔面に
全力でもってうち下ろした。
「この野郎。この野郎。
(ё)死ね。死ね」
何度も何度も(ё)の顔面に石を打ち当てた。
気づくと(ё)の頭部は灰の中に埋まっている。
そしてその顔はやはり不気味に笑っていた。
第五十九回
「どうなされたんですか」
すずやかな声がして余がうしろを
ふり返るとさっきの列車の中で出会った井川はるら嬢が
そこに立っている。
横ではつりきちあみ子が処置なしという表情を
して両手を大きく広げてみせた。
井川はるら嬢がそこに来たときには(
ё)の死骸はまるで空気に同化したように
霧となって消えてしまった。やはり妖怪だ。
と余は思った。しかし神が創りたもうたこの世に
妖怪が同化することは納得がいかない。
「指から血が出ていますわよ」
「どうということはないです。
第六十回
これも正義のためですから」
「わたしがやっっけたんじゃない」
あみ子はうそぶいた。
井川「ちょっと、待って」
井川はるら嬢は余のそばに余って
来て余の指の傷を見る。
その噛みあとに興味を持っているようだった。
余「たいした傷ではありませんよ」井川
「でも、ちょっと傷口を
洗ったほうがいいんじゃないでしょうか。
でも、どんな獣に噛まれたんですか」
余「それはちょっと説明しにくいんですが」
第七十回
余があみ子ちゃんのほうに助けを
求めると勝手にしてよ、というような表情を
つりきちあみ子はした。
井川「この清水がたまっている岩風呂で
指を洗ったほうがいいですわ」
あみ「だめよ。そこに書いてあるでしょう。
この水は岩清水を集めたきれいな水です。
飲み水にするのは自由ですが、
ここで洗い物などをして
水を汚すことは絶対にやめてくださいってね」
あみ子は鉄ぐしをもてあそんでいる。
あみ子の釣ったあゆはさっきの戦闘で
すっかり灰や泥まみれになって
第七十一回
食べられなくなっていたので
あみ子ちゃんはそれらを
ゴミ箱の中に捨てた。
井川「上にある山海亭に行けば、
そこで傷口を洗って、
絆創膏でも貼ってもらえるんじゃない」
余「そうします」
余と井川はるら嬢がまた石造りの階段を上がって
行くと
つりきちあみ子は自分の釣り道具をまとめて
余たちのあとをついて来た。
あみ子「待ってよ。わたしも駅の
水道でつり道具を洗うから」
第七十二回
川岸から階段を上がって
また上まで行くと那古井の景色が一望できる。
春雨に煙る杉木立を見ると余はまた
人間界と仙界の境に来たのだという思いがした。
仙界には少しおきゃんなつりきちあみ子がいる。
そして人間界から美しい乙女が訪ねてくる。
そして言い忘れたことだが
妖怪たちが余の周囲を渉猟している。
駅の前に来たところから
あみ子は自分の釣り道具を洗うと
言って駅の水道に行った。
この駅にはここの川で釣りをする
第七十三回
人間のために簡単な洗い物が出来るように水道設備が
外についているのだった。
余と井川はるら嬢は長年のすすですすけた
これぞ民芸品という感じの料亭山海亭の前に立った。
噂によるとこの宿は日本の民芸運動の先駆者、
浜田正治の家を五年がかりで
この那古井の地に移築したという。
梁の古木は三百年前のものだと言われている。
大きな看板のうしろにある障子を
あけて井川はるら嬢が声をかけると
宿にいた従業員がみんな一斉に
こちらを向いた。それらの顔はみんな同じだった。
大きな川o・-・)紺野と小さな紺野が
いっせいにこちらを向いた。
第七十四回
大きな紺野は帳場に座っている。
七十八パーセントに縮小された
小さな紺野たちは一階の食堂で
忙しく働いていた。この二階が宴席になっていて、
一階の奧の方が宿と調理場になっている。
井川「おかみさん。この人がけがをしたんです。
傷を洗って、絆創膏を貼ってもらいたいんです」
紺野「どれどれ」大きい紺野は余のそばにやって
来ると余の傷口を眺めた。
大きい紺野「みんな、こっちに来て」
するとその場所にいた五、六匹の小さな紺野たちは
余のそばに未確認小動物のように
集まって来て円陣になって、
第七十五回
余の傷口を見つめている。
大きな紺野「みんな手桶に水を
持ってらっしゃい」
すると一斉に小さな紺野たちは
宿の奧のほうに走って行った。
そして木製の手桶に入った水と
きれいな手ぬぐいを持って来た。
余「自分でやります」
余はその清涼な水の中に自分の手を入れると
傷口からほんの少しだけ血が出た。
余は取り出した手を手ぬぐいでふくと
それは出来ないので井川はるら嬢に
絆創膏を貼ってもらった。
第七十六回
余の心臓は少し動悸を覚えた。
食堂のあがりかまちに腰掛けながら
余は妖怪(ё)におそわれたことを
話そうかどうか迷っていた。
余の横には井川はるら嬢が座っている。
食堂では縮小サイズの紺野さんたちが
机の上を忙しそうに拭いたりしている。
帳場に座っている大きな紺野さんは
宿帳を見ながらしきりに大きな五目玉のそろばんを
使って計算している。大きな紺野さんも、
小さな紺野さんもみんなちょんまげを結っていて、
はぐれぐもの息子がかけているような
第七十七回
ひもで耳にかける丸めがねをかけている。
大きな紺野さんの後ろには大きな水槽があった。
井川「大きな水槽ですね。それに大きな金魚」
紺野「ここまで育てるのは大変だったのよ。
あら、忘れていた」
大きな紺野さんは
そう言って立ち上がると
便所の便器を掃除するような棒のさきに
ナイロンたわしのついているものを
とりだして大きな水槽の内側を掃除し始めた。
中では七十センチあるくらいな金魚が泳いでいる。
大きな紺野さんは愚痴を言い始めた。
紺野「これでなかなか大きな宿だから
掃除をするのも大変ですよ。
第七十八回
そのうえにこの水槽の掃除を
しなければならないし」
余「でしたら、金魚を川にでも
放してさしあげけたらよろしいのに」
すると紺野さんの目は
しだいにうるうると潤んで来た。
紺野「なにを言うんですか
。あなた」
どうして大きな紺野さんが
動揺したのかわからない。そのとき、
入り口の障子がどんどんと叩かれた。
紺野さんはますます動揺して
紺野「あなたたち、表に出てくれません。
第七十九回
会いたくない人が来ているんです」
その様子があまりに哀れだったので
余と井川はるか嬢は表に出た。
そこにはあみ子ちゃんと
見知らぬおばさんが立っていた。
「今日は休業しますと
張り紙をしておいたのに」
井川「そんなことを言って。
中では紺野さんが働いていますよ」
するとおばさんはいまいましそうな顔をした。
「また、あの妖怪が出て悪さをしているんだ」
余「この人は」
あみ子「この山海亭のオーナーよ」
第八十回
余「じゃあ、中で働いている
大、小、合わせた紺野さんは一体誰なのよ」
「だから妖怪だと言っているでしょう」
余と井川はるか嬢が
食堂の中をふり返ると
こには紺野さんたちはいずに
川o・-・)帳場のところには
大きなかぼちゃとごほうときゅうりが置いてある。
そのうしろの大きな水槽では
巨大な金魚がゆうゆうと泳いでいる。
井川はるら嬢はこの事態にひどく
興味を持っているらしかった。
井川「こんなことはよくあるんですか」
第八十一回
「そうよ。この前なんか、
うちが百年前から継ぎ足し継ぎ足し使っている
鰻のたれが少なくなっていると思って、
奧のたれの入った瓶を見張っていたのよ。
そうしたら、夜中に誰かがたれの
入った瓶の前でたれをぺろぺろ
めているのよ。
そのふり返った顔を見たら驚いたわ」
余「誰だったんですか」
「飯田かおりだったのよ」
余はこの料亭を離れて
山に登ることにした。
余は鈴木あみ子ちゃんは町まで用事があるので
行くという。
第八十二回
余は鈴木あみ子ちゃんが
何者なのか、そのときはわからなかった。
ただ釣りのうまい女の子とい印象
しかなかったのだ。
そして余の指のけがを治療してくれた
井川はるら嬢は観海寺という寺に行くという。
彼女とも余はここで別れなければならない。
余は心残りを感じた。
初対面とはいえ彼女に
指のけがの治療をしてもらい
彼女の顔は余のそば二十センチまで近づいた。
まったく生理的に嫌悪を感じている人間に
そんなことまでしてくれるだろうか。
と同時に彼女が独身なのだろうかと
いうことが頭をもたげた。
第八十三回
その質問をうまく聞くことが出来るだろうか。
余「お一人ですか」
これは一人旅かということを意味している。
と同時に結婚しているかということを
聞いたつもりだったが、
自分ながらこんなときに
知恵が回らないのでいやになる。
しかし井川はるら嬢は
そのことに気づいたようだった。
井川「わたしまだ結婚していないんです」
その言葉を聞いて余の顔は
自然にほころんだかも知れない。
第八十四回
鏡がそこに置いてあったら余は赤面したことだろう。
そしてその言葉に本来なら喜んで
いいはずなのに余の心の
どこかにはまたあらたな疑念が生じてきた。
余「もしかしたら、
あなたは誰か運命の人に
会いにここに来たのではありませんか」
そのぎこちない表情や子供っぽい質問に
井川嬢は表情をくずした。もしかしたら余が
井川はるら嬢に好意を持っているということを
知っているのだろうか。
井川「運命の人、そんな人はいませんわ。
第八十五回
もし、いるとしたら運命の骨董品かしら。
うふふふふ」
井川はるら嬢の謎めいたほほえみは
余を魔界の迷宮に導き入れる。
余は彼女の心の中に入って行きたい欲望を感じた。
彼女の心の中に隠された言葉を口から
発せられる言葉とともに外界に引き出したいと思った。
しかし彼女はなにも答えない。
井川はるら嬢はおそらく
投宿していると思われる宿へと向かった。
余は山を登っていかなければならない。
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第八十六回
山路を歩きながらこう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。
綺麗な花には陥穽がある。とかく人の世は生きにくい。
生きにくいと感じると、やすいところへ引っ越したくなる。
どこへ越しても住み難いと悟ったとき、詩が生まれて、画が出来る。
そして余は過去に戻りたくなる。突然の美女に出会ったこと、
そして最近、妖怪につきまとわれていることが余を哲学的にしていた
。人の世の苦難や陥穽は人を哲学的にする。余はさらに考える
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。
やはり向こう三軒両隣にちらちらするただの人である。
ただの人が作った人の世が住み難いからとて、越す国はあるまい。
あれば人でなしの国へ行くばかりだ。
人でなしの国は人の世よりも住み難かろう。
その上美しい人が手招きすればもとの国にも戻りたくなるだろう
第八十七回
越すことのならぬ世が住み難ければ、住み難いところをどれほどか、
くつろげて、つかの間の命を、つかの間でも住みよくせねばならない。
ここに詩人という天職ができて、ここに画家という使命がくだる。
あらゆる芸術の士は人の世をのどかにし、
人の心を豊かにするがゆえに尊い。ただ最悪の場合、
人の世を嫌悪するあまり妖怪の国に足を
踏み入れるおそれもないとは限らない。危ない、危ない。
また遠い場所にあって向こうから弓でも鉄砲でも
届かないふるさとを訪ねるというくつろぎかたもある。
それが旅行である。住み難い場所にいては息抜きも必要だ。
それが場所だけとは限らない。
遠い昔に思いをはせるというのは
身体の半分をつかの間の住みやすい場所に置くことでもある。
その場所はすでに固まっている場所である。
固定されて変化も進歩もない場所やものである。
現実世界の余になんの弓矢もはなつことができない。
第八十八回
お化け屋敷に入った観客がお化けや
怨霊が実はアパート代も満足に払えない貧乏役者だったり、
]幼稚園の保母さんになるための学校に通っている
女の子だということを知っている。
つまり画や詩のほかにも便利な道具はある。
考古学や歴史学というもそんなものだろう。
しかしそこには創造はない。
その場所に何かの乗り物に乗って行くだけだからだ。
デイズニーランドに行って
ビッグマウンテンや海賊屋敷に行くようなものである。
芸術の面から言えば住みにくきおのが世から、
住み難きわずらいを引き抜いて、
ありがたい世界をまのあたりに移すのが詩である。
画である。あるは音楽と彫刻である。
こまかに言えば写さないでもいい。
ただまのあたりに見れば、そこに詩も生き、歌もわく。
着想を紙に写さぬともきゅうそうの音は胸裏に起こる
第八十九回
丹青は画架に向かってとまつせんでも
五彩の絢爛はおのずから心眼に写る。
ただおのが住む世を、かく観じ得て、
霊台方寸のカメラにぎょうき混濁の俗界を
清くうららかに収め得れば足る。
このゆえに無声の詩人には一句なく、
無色の画家にはせつけんなきも、
かく人生を観じ得るの点において、
かく煩悩を解脱するの点において、
かく清浄界に出入し得るの点において、
またこの不同不二の乾坤を建立しうるの点において、
我利私欲のきはんを掃討するの点において、
千金の子よりも、万乗の君よりも、
あらゆる俗界の寵児よりも幸福である。
世に住むこと二十年にして、住むにかいある世と知った。
第九十回
二十五年にして明暗は表裏のごとく、
日のあたる所にはきっと影がさすと悟った。
三十の今日はこう思っている。
喜びの深きとき憂いいよいよ深く、
楽しみの大いなるほど苦しみも大きい。
これを切り放そうとすると身が持てぬ。
かたづけようとすれば世が立たぬ。
金は大事だ、大事なものが殖えれば寝る間も心配だろう。
恋いはうれしい、うれしい恋いが積もれば、
恋をせぬ昔がかえって恋しかろう。
旅に明け暮れる気楽な日々が重なれば、
妻や子供の拘束もうらやましかろう。
うまい物も食わねば惜しい。
少し食えば飽きたらぬ。
存分食えばあとが不愉快だ。
余の考えがここまで漂流してきた時に、
余の右足は突然すわりのわるい角石の端を踏みそくなった。
第九十一回
平衡を保つために、すわやと前に飛び出した左足が、
仕損じの埋め合わせをするとともに、
余の腰は具合よく方三尺ほどな岩の上におりた。
肩にかけたショルダーバッグが腋の下から踊り出しただけで、
はるら嬢からもらった
缶入りのお茶や大事なものはなんともなかった。
立ち上がる時に向こうを見ると、
路から左のほうにバケツを伏せたような峰がそびえている。
む杉か檜かわからないが根本から
頂きまでことごとく青黒い中に、
山桜が薄赤くだんだらにたなびいて、
つぎ目がしかと見えぬくらい靄が濃い。
少し手前に禿げ山が一つ、群をぬきんでて眉に迫る。
はげた側面は巨人の斧で削り去ったか、
鋭き平面をやけに谷の底に埋めている。
天辺に一本見えるのは赤松だろう。
枝の間の空さえはっきりしている。
行く手は二丁ほどで切れているが、
高い所から赤い毛布が動いて来るのを見ると、
第九十二回
登ればあすこへ出るのだろう。路はすこぶる難儀だ。
土をならすだけならさほど手間もいるまいが、
土の中には大きな石がある。
土は平らにしても石は平らにならぬ。
石は切り砕いても、岩は始末がつかぬ。
堀崩した土の上に悠然とそばだって、
われらのために道を譲る景色はない。
向こうで聞かぬ上は乗り越すか、回らなければならん。
岩のない所でさえ歩きよくはない。左右が多角って、
中心が窪んで、まるで一間幅を三角にくって、
その頂点が真ん中を貫いていると評してもよい。
路を行くといわんより川底を渡るというほうが適当だ。
もとより急ぐ旅でないから、ぶらぶらと七曲がりへかかる。
曲がる外周にかかると谷底が見える。
谷底が崩れないように熊笹がはえている。
人為的に生えたわけではなかろうが、
これがなければ谷底に落ちてしまうかもしれない。
第九十三回
余は熊笹の茂みの中に青いノートが
うち捨てられているのを見つけた。
まるで余に見つけられるために
ここに捨ててあるようだった。
このノートに意思があるなら
余が来るまでここで待っていたのだろう。
意思があっても移動手段はなかったから。
その待っているあいだ一晩くらい雨に
うたれたのかもしれない。
そのノートは少しふやけている。
取り上げて見るとたーちゃんの日記と書かれている。
その内容はきわめて珍なるものだった。
たーちゃんの日記
つばめくんが大好きです。
僕はつばめくんがいなければ一日も過ごせません。
つばめくんに初めて会ったのは公園デビューの日でした。
僕もつばめくんもお互いに乳母車に乗っていました。
第九十四回
ふたりは乳母車に乗ったまま
お互いに顔を見合わせました。
つばめくんは幸せを運んでくる鳥です。
つばめはせっせとせわしく絶え間なく鳴きます。
つばめの鳴く声には休む暇もありません。
つばめは空をどこまでも登って行きます。
鳴きながら空を登って行きます。
つばめはきっと空の中で死ぬに違いありません。
つばめは口で鳴くのではないよ。魂で鳴くんだよ。
魂の活動が声に表れたものであれほど元気なものはないよ。
僕はシレーのつばめの詩も好きだ。
前を見ては、しりえを見ては、物欲しと、
あこがるるかなわれ。腹からの、笑いといえど、
苦しみの、そこにあるべし。
うつくしき、極みの歌に、悲しさの、
極みの想い、籠もるとぞ知れ。
つばめはなんでも知っている。
第九十五回
喜びも悲しみも知っている。
だから僕はつばめくんが好きなんだ。
得意不幸なときも絶頂のときも
つばめくんさえそばにいてくれれば
悲しみのときは悲しみをいやし、
幸せのときはしあわせを倍にしてくれる。
だってつばめは幸福を運んでくれるからです。
幸福の王子のお手伝いをしました。
不幸な詩人のところに金の薄板を運びましたし、
クリスマスプレゼントの
もらえない女の子のところにも金貨を運びました。
僕は幸せではありませんでした。
幸せではない僕のところにつばめくんはやって来ました。
いろいろな日々がありました。
でも、僕に、もうつばめくんは必要ではありません。
僕にも幸せが訪れようとしています。僕は魚をみつけました。
魚もまた神の贈り物です。魚ちゃんこんにちわ。
つばめくんさようなら。ありがとうつばめくん。
第九十六回
余は解しかねた。
このわけの解らないノートはなにを意味しているのだろう。
最後のほうには僕の可愛い甥っ子のあすかくんへ、
と書かれている。そしてその最後の五、六行の
ところには大きくばつがマジックインキで書かれている。
これを誰が書いたか想像してみた。
少なくても那古井の住人のひとりには違いないだろう。
この浮き世離れした温泉場に純朴な感情の起伏を発見した。
その感情の起伏というのも書かれている内容が喜びだとしたら、
大きくばつてんをつけられている部分が
肯定的な感情を否定された部分が
あるということを意味していないか。
余はこのノートを拾い上げてみた、
なぜかここに置いて行くのは惜しい気がしたからだ。
しかしまわりの景色はそんなことも
余の頭のどこかに押しやってしまう。
しばらく路が平らで、右は雑木山、
左は菜の花の見つづけである。
第九十七回
足の下にときどきたんぽぽをふみつける。
鋸のようなに葉が遠慮なく四方へのして
まん中に黄色な珠を擁護している。
菜の花に気をとられて、踏みつけられたあとで、
気の毒なことをしたと、ふり向いて見ると、
黄色な珠は依然として鋸のなかに鎮座している。
のんきなものだ。
このノートを破り捨てた
男か女の悲しみも無視して悠然とかまえている。
山に登ってから、馬には五六匹あった。
あった五六匹は皆腹掛けをかけて、
鈴を鳴らしている。今の世の馬とは思われない。
やがてのどかな馬子歌が、
春に更けた空山一路の夢を破る。
哀れの底に気楽な響きがこもって、
どう考えても画にかいた声だ。
声を先導にして馬の姿があとから現れる。
山路をひとり馬子が馬をひいてくるのかと
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第九十八回
思ったらそうでもなかった。
白い中に青や赤、黄といろいろな色が混じっている。
そのうしろからは紋付き袴を着た人たちがついて来る。
馬上には晴れ着を着た花嫁が乗っていた。
角隠しの下の白く塗った顔が喜びを押し隠すように
つつしみ深く下を向いている。
口元には晴れの日の喜びがおのずと表れている。
馬に乗って嫁入りをするのはこのあたりの風習か。
余はこの花嫁がお互いに好きあった相手と
結ばれているに違いないと確信をした。
その美しさに見とれてしばしその場に
立ち止まってしまった。
そして余の前を大名行列のように
その一行は通り過ぎて行く。
余はそこに木瓜の白い花を見るような気がした。
木瓜はおもしろい花である。枝はがんこで、
かつて曲がったことがない。
そんなら真っ直ぐかというと、
けっしてまっすぐでもない。ただ真っ直ぐな短い枝に
第九十九回
まっすぐな短い枝が、
ある角度で衝突して斜にかまえつつ全体ができあがっている。
そこへ、紅だか白だか要領を得ぬ花が安閑と咲く。
柔らかい葉さえちらちら着ける。
評してみると木瓜は花のうちで、
愚かにして悟ったものであろう。
世間には拙を守るという人がある。
この花嫁はその拙を守る人であろう。
人格が匂うということがある。
その精神作用が外見として、
表情言葉使いに表れるのはもちろんであるが、
匂いとして表れることはないだろうか。
それは大気を通じてなされるのではない。
その人のおこないを見たときいつか嗅いだことの
ある花の香りが懐かしく思いだされるのだ。
余は久しぶりで良い心持ちになった。
つい数分前になにかの精神の破綻を
第百回
きたした軌跡のあらわれたノートを
手にしたことが嘘のようである。
余は通り過ぎる美しい色彩と図の調和を見送った。
そして余はこの馬子が通り過ぎたあとに、
この東洋的美意識に支配されている
一幅の漢詩のような景色の中に、
異物となる点景を発見した。
さるすべりの木の根本が草が生えていず
土があらわになっている場所がある。
余の足っている場所からほんの十メートルも
離れていない場所だったが、
そこでひとりの若者が冬眠中のひぐまのように
背を丸めて地面の上に枯れ枝を使って画を描いている。
余はそのそばまで行ってみた。
その地面には一筆書きでおさるの画が描かれていた。
余がそばに行くまで若者は余の存在に気づかぬようだった。
彼が視覚的に支配する領域に
余の汚れた靴が侵入したとき若者は目を上げた。
第百一回
余「見事ですな。そのお猿の画は」
若者「このお猿の画は中国まで行って修行をしました」
余「誰に指示したのかな」
若者「ヤーニちゃんです」
余はなるほどと思った。
ヤーニちゃんとは、
巷間でヤーニちゃんのお猿として知られている。
古今を通じてお猿の画では第一級の画として知られている。
ヤーニちゃんはまだ十三才の少女である。
十三才にしてお猿の神韻を会得していた。
余「やはり、そうでしたか。
中国に修行に行かれたのですか」
余は尊敬の気持ちがふつふつと起こってきた。
しかし、そこに調和した精神の安息がなく、
雑音のようなものが存在していたこともまた事実なのである。
この画を描いている若者の精神
第百二回
そのものを表しているようだった。
余「今、馬の背に乗った花嫁が通りましたね。
花嫁姿のお猿を描けばいいのに」
するとどうしたことだろう。
若者の目はしぼったスポンジのように
みるみるとうるみはじめた。
そして余が持っていた捨てられていた
ノートに彼の視線はすいつけられた。
若者「なんで、そのノートを持っているんだよ。
捨てたのに、返せよ」
若者は余に飛びかかって来た。余は身をかわした。
余「十円玉でも、一円玉でも、拾ったもののものなんだよ。
ガチャポンのおまけだってそうなんだよ」
余もなんだか悲しくなって目からは涙が流れてきた。
若者「忘れたい思い出だから、捨てたんだよ。
燃やしちゃえば良かったんだよ」
余「なんで、そんなもの人の目につくところに捨てたんだよ。
第百三回
中身も読んじゃったよ。
幸せいっぱいの内容がうしろの方で
バツテンがひいてあるじゃないか。
急に不幸になったんだな。もっと説明しろよ」
若者「幸せな花嫁が通ってうるうるしていたのに、
悲しいことを思い出させやがって。
ひどい。ひどすぎるよ。
それは甥っ子の夏休みの宿題の作文を代わりに
書いてやったんだよ。でもでも、
悲しいことがあったんだよ。それで、それで」
余「それで、どうしたんだよ」
若者「悲しいことがあって、
バツテンをひいたんだよ。
俺には魚が逃げたんだ。うううううううう」
最後には若者の言葉は言葉にならなかった。
余も油断をしていた。
若者は余の持っていた
ノートを奪い去ると全速力で逃げて行った。
そのときには余の目は真っ赤に泣きはらしていた。
第百四回
余は自分が高校生のときにポケモンが
虐待されているかどうかで同級生と
激論の果てに殴り合いのけんかまでしたことを思い出していた。
余はふたたび山道を歩き出した。
余は絵の中を散策している。雲煙飛動の趣に身をゆだね、
蕭々としてひとり春山を行くわれもまたただ詩中の人にあらず、
歩き疲れて、足にまめができたのかも知らん。
満目樹梢を動かす雨雲が四方より顧客にせまる。
一休みしようかと思った。そばにわびさびた茶屋がある。
まるで炭焼き小屋のようだった。
「おい」と声をかけたが返事がない。
確か、ここは余の祖父がその昔、手には絵の具箱に画布、
心には堯季混濁の俗界をうららかに収めうる
霊台方寸のカメラを持って訪れたことのある、
影絵のように雨に包まれて薄き墨で描かれた
折り重なる山々の姿を背景にたたずむ茶屋ではないか。
軒下から奥をのぞくとすすけた障子が立てきってある。
向こう側は見えない。五六足の草鞋が
第百五回
淋しそうに庇からつるされて、
くつたくげにふらりふらりと揺れる。
「おい」とまた声をかける。返事をして
首を振り向いてこっちを向いたのは
土間の隅に片寄せてある臼の上に、
ふくれていたにわとりが目をさました奴だけである。
そしてその鶏はククク、ククク、と騒ぎ出す。
かまうことはない、上がるか。余がじいさまがその昔、
鶏の踏みつけた胡麻ねじと微塵棒をくり抜き盆の上に
入れて差し出された茶屋である。そのくらいのことは
許されるか。無断でずっと入って、
床几の上に腰をおろした。菓子箱の上に
銭が散らばっているところを見ると茶菓子を
出して商売をやっているのだろう。
なかから一人の婆さんが出る。
これがうちのじいさんが八〇年前に
出会った婆さんの孫だとすればまたおもしろい。興がわく。
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〈◎ノ◎〉 : 6).::;|
(00)ヽ ノ:;.,;::/
(___ノ| |:.;./ あがるのれす
∪∪ ||:.,|
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第百六回
「お婆さん、ここをちょっと借りたよ」
「はい、これはいっこうぞんじませんで」
「だいぶ降ったね」
「あいにくなお天気で、
さぞお困りでござんしょ。
おおおおだいぶおぬれなさった。
今火を焚いて乾かしてあげましょ」
余は写生帳を取りだして婆さんの横顔を
写していると雨があがったのか鶯が一鳴きした。
竈から煙突を伝って出た青い煙が軒端に
当たって崩れながらに、かすかな痕をまだ板庇にからんでいる。
「閑静でいいね」
「へえ、ごらんのとおりの山里で」
外には逡巡として曇りがちなる春の空を、
もどかしとばかりに吹き払う山嵐の、
思い切りよく通り抜けた前山の一角は、
未練もなく晴れ尽くして、老婆の指す方に峻厳と、
荒削りのごとくそびえる岩がある。
「あの岩は何と言うんだい」
170 :
ソニンたん:02/09/04 15:21
第百七回
「あの岩は天狗山と申します、
ここいらのものは雅儀の岩とも申しております」
「また何で雅儀の岩と言うんだい」
婆さんの話で大部時間を逆行している気分になる。
「楠雅儀があの天狗岩の中の洞窟に
隠れていたという言い伝えがあります。」
楠雅儀といえば南北朝の立て役者、
楠正成の三男だが。鎌倉時代のどろどろとした権力争いの
影響もこの人里離れた湯治場にはあるということと思える。
余はその天狗岩の来歴が忘却され、
土中に深く埋められて自分の存在意義を
問いただそうとしている欠けた
古伊万里のような気がしてそれを問わずにはいられなかった。
「何で、その中に隠れていたんだい。」
「戦でけがをして湯治に来ていたという言い伝えであります」
湯治場がどこにあったのかは知らないが
あの岩から湯治場へ行くのはかなり難儀なことだろう。
171 :
ソニンたん:02/09/04 15:21
第百八回
「ここいらで宿のある湯治場といったらどこなんだね」
「ここいらでは志保田さんの宿と決まっております」
楠雅儀も志保田の宿のそばの湯治場へ傷の手当てに通ったのだろうか。
「話はそのあとがございます」
「楠雅儀の話かい」
「楠雅儀のひそんでいる洞窟に村の娘が手助けにまいりまして、
その娘は身ごもったそうでございます。
そして生まれたのはこの余のものとも思われない美しい娘でした。
それが長良の乙女でございます」
「この村にはそんな美しい娘がいたんだ」
「ところがその娘に二人の男が懸想して、あなた」
「なるほど」
「ささだ男になびこうか、ささべ男になびこうかと、
娘はあけくれ思いわずらったが、どちらへもなびきかねて、とうとう
あきづけばをばなが上に置く露の、けぬべくもは、おもほゆるかも
という歌をよんで、淵川へ身を投げて果てました」
余はこんな山奥へ来て、こんな婆さんから、こんな古雅な言葉で
172 :
ソニンたん:02/09/04 15:22
第百九回、
こんな古雅な話しをきこうとは思いがけなかった。
「これから五丁東へ下ると、道ばたに五輪塔がござんす。
ついでに長良の乙女の墓を見てお行きなされ」
余は心のうちにぜひ見て行こうと決心した。婆さんは、
そのあとを語りつづける。
「志保田の家はその長良の乙女の子孫でございます。
今の志保田のお嬢様と前にいた志保田のお嬢様は村の占い師の話によると一番、
長良の乙女に似ているそうでございます。
わたしのお婆さんが昔、東京からいらした絵描きさんに
そんな話をしたことがあると言っていたのを思い出しました」
「それから、ばあさん、そばで変な男に出会ったよ。
お猿の画を描きながら泣いているんだ」
「それなら、滝沢のおぼっちゃまですよ。
まだ、志保田のお嬢さまのことが忘れられないでございますね。おほほほほ」
ばあさんはそう言って巾着袋のような口をすぼめて笑った。
「みんな昔、ここに来た絵描きさんが悪いんでございますよ」
173 :
ソニンたん:02/09/04 15:23
第百十回
その東京から来た絵描きというのは余がじいさんの夏目漱石なり、
そのことを言えば婆さんの目がまわるのではないかと思い黙っていた。
しかし、余のじいさんをばあさんはなんで悪者扱いするのか、そこがわからない。
********************
昨夕は妙な気持ちがした。
まず、井川はるら嬢の投宿する観悔寺へ行ってみた。
井川はるら嬢は相変わらずきれいだった。
なぜか井川はるら嬢は下はジーパンに上は
男物のシャツを着て観悔寺の納戸に入って
ほこりだらけになりながら寺の骨董を調べていた。
余ははるら嬢と寺の縁側にすわりながら庭にあった大きな石を見ながら言った。
はるら嬢「房の進さん、あそこに大きな石がありますわよね」
余「ええ、ええ、あります。あります」
余は井川はるら嬢に声をかけられてうれしかった。
はるら嬢「大きな石のあそこに渦巻きがありますね」
余「あります。あります」
はるら嬢「あれがなんだかわかりますか」
余「石だって最初は液体だったんじゃないですか。
174 :
ソニンたん:02/09/04 15:24
第百十一回
滞積岩として出来たものではないですよね。
だってあの文様には平行な成分がないもの。
だからマグマの状態のときに冷えていた小さな岩の固まりが入ったとか」
はるら嬢「違います。あれはある生命体の痕跡なのです」
余「生命体というと、化石ということですか」
はるら嬢「化石というのは死んだものですね。
もう生き返ることが出来ない。でもあの渦巻きは
生き返ることが出来るのです。不滅の生命体です」
余には井川はるら嬢の言っていることの意味が全くわからなかった。
しかし、はるら嬢がその目的がなんであるか仕事に
来ているということの証拠のように思えた。
彼女に男の影はない。決して男に会うために
ここに来たのではないのだ。余は安心した。
宿へ着いたのは夜の八時ごろであったから、
家のぐあい庭の作り方はむろん、
東西の区別さえわからなかった。
なんだか回廊のようなところをしきりに引き回されて、
しまいに六畳ほどの小さな座敷へ入れられた。
今様の旅館とはまるで見当が違う。晩餐をすまして、
175 :
ソニンたん:02/09/04 15:24
第百十二回
湯に入って、部屋へ帰って茶を飲んでいると、
アルバイトらしい若い女が来て床をのべよかと言う。
どうやら学校の春休みをとってこの湯治場にアルバイトに来ているらしい。
どうやらこの宿に泊まっているのは余一人らしい。
雀のお宿と言う絵双紙の世界に余は投げ込まれたような心持ちがした。
宿のそばを少し散歩してふたたび余の部屋に戻って来ると
すでにふとんはしかれていた。
例のアルバイトの学生がしいたのかも知れない。
しかし余は入り口のふすまのところで思わず
絶句して立ちすくしてしまった。
余のふとんの枕のところで枕の四方から
枕の形を整えている女がいる。
一つのところで枕の端をとんとんと叩くと逆の方へ行き、
また枕の端をとんとんと叩く、
今度はその隣の端を叩くというように四方を叩いて枕を四角にしている。
そしてたまに枕の上のところを赤ちゃんをあやすように手の平で叩いているのだ。
余「川o・-・)紺野さん」
川o・-・)紺野さんは不思議な表情をしてこちらを向いた。
余「なんでここにいるんだ。妖怪。
料亭山海亭に出現したと思ったらここに来たのか。妖怪、帰れ」
176 :
ソニンたん:02/09/04 15:25
第百十三回
川o・-・)紺野さんはまだ自分がなにを言われているのか、
まったく理解できないような様子でこちらを見ている。
余は右手でグーを作ると肩の上に上げた。ぶつよ。ぶつよ。
余は心の中で叫んだ。妖怪、川o・-・)紺野さんには苦々しい思い出があった。
突然、長ふし剛のマネージャーが余の事務所に
怒鳴り込んできたことがあったのである。
あんた、どんな、落とし前をつけてくれるんだ。余「なんですか。
急にわたしはあなたなんかとなんの面識もないんですから」
それから長ふし剛のマネージャーは早口でいろんなことをまくし立てた。
話しも前後していて感情的になっていていまいちよくわからなかったのだが、
要約してみるとこんなことらしかったのだ。
長ふし剛のコンサート会場での出来事らしかった。
長ふしのファンたちがコンサートの入場を待って
長蛇の列を作っていた。そこに出店が出来ていて、
その一角が空いていた。
やがてリヤカーを引いた中学三年生らしい女の子が
やって来てそのスペースの前でリヤカーを止めた。
そしてチョコバナナの屋台を作り始めた。
それが出来るとチョコバナナを売り始めた。
177 :
ソニンたん:02/09/04 15:26
第百十四回
ファンたちはチョコバナナを買い始めた。
それで店がそこそこ盛況になってくると突然、五本ののぼりをたてた。
そののぼりには長ふち剛、CD不買運動とでかでかと書かれている。
長ふちのファンがその女の子のまわりを取り囲んだ。
その女の子はチョコバナナを両手に持つと
凍ったようになってしまった。そして関係者、
つまり長ふし剛のマネージャが飛んで来たのだ。
「お嬢ちゃん、なんでこんなことをするんだよ」
「・・・・・」「とにかく、こんな変なのぼりは片付けようね」
「だめです」「なんでだめなんだ」「おこられちゃいます」
マネージャーは手を焼いた。後ろには大きな水槽があって、
七十センチの金魚が泳いでいた。女の子は時計を見ると、
時間だわと言って便器を洗うナイロンたわしがさきについた柄付きのものを
手にとると水槽の中に入れて水槽の内側を掃除し始めた。
てこでも動かない女の子をどかすにはこれしかないとマネージャは気づいた。
水槽のところに行き、五、六人で水槽を持ち上げようとした。
すると女の子の瞳はみるみる潤んでいった。
女の子の名前は川o・-・)紺野さんと言った。
川o・-・)「やめてください。金魚が死んでしまいます」
178 :
ソニンたん:02/09/04 15:27
第百十五回
「じゃあ、どけよ」
川o・-・)「こんなに大きく育つまでどんなに大変だったか」
水槽の中は清涼な水がたたえられていて
金魚は銀色かつ赤い鱗をガラスや銀食器よりも
美しく輝かせていた。その中の一人が
「残り物のジュースを入れちゃうぞ」
川o・-・)「やめてください。この水槽の水が汚れるとき
金魚は死にます。そしてわたしも死にます」
「だったらなんでこんなことをするのか、おじちゃんに教えてね。」
すると川o・-・)紺野さんは黙って名刺を差し出した。
川o・-・)「この人に頼まれたんです」
それで長ふし剛のマネージャーが余の事務所に
どなり込んで来たわけだ。
これが長ふし剛にけんかを売った女、川o・-・)紺野さんの顛末だった。
このことをこの場にいる紺野さんは知っているに違いない。
余「妖怪、余がお前たちのためにどんな迷惑を
こうむっているのかわかっているのか」
川o・-・)紺野さんは余をじっと見つめた。
しだいに目がうるうると潤んでくる。
179 :
ソニンたん:02/09/04 15:28
第百十六回
余も少し哀れの感情が浮かんで来た。妖怪と云ってもまだ子供である。
余「だいたいお前たちは何者なんだ」
すると川o・-・)紺野さんの姿は霧のよう
消えてしまった。
しかし、なぜ妖怪モンモン娘たちが余のまわりに出現するのか、
理由がわからない。妖怪というものは人間に害を加えるものである。
しかし、害を加えていると結論づけることが出来るだろうか。
(●´ー`●)安部なつみは余と一夜の楽しみを
与えようとしたのかも知れない。
ます釣り場で(ё)新垣が余を襲ったのも塩焼きされている鮎を
食べようとしただけかも知れない。
そして川o・-・)紺野さんにいたってはまくらの形を整えてくれたのである。
すやすやと寝入る。夢に。
楠雅儀と長良の乙女が大きな白鳥に乗って
天狗岩の頭上を周遊している。そのうちに白鳥は地上に降り立つと
長良の乙女を湖のほとりに降ろした。
そこには大きな水に沈まぬ葉があって親指姫よろしく
乙女はその上に優雅に座って余の方を見て微笑んでいる
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〈◎ノ◎〉 : 6).::;|
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(___ノ| |:.;./ あがるのれす
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181 :
ソニンたん:02/09/04 15:29
第百十七回
そこで目がさめた。脇の下からあせが出ている。
寝返りを打つと、いつのまにか障子に月がさして、
木の枝が二三本斜めに影をひたしている。冴えるほどの春の夜だ。
気のせいか、だれか小声で歌を歌っているような気がする。
夢の中の歌が、この世に抜け出したのか、
あるいはこの世の声が遠き夢の国へ、
うつつながら紛れ込んだのかと耳をそばだてる。
その歌声は春風が木の葉にささやいているのかと思われる。
この細くつややかな調子は男性か、女性か。余はたまらなくなって、
われしらず布団をすり抜けるとともにさらりと障子をあけた。
向こうにいた。花ならば海棠かと思わるる幹を背に、
よそよそしくも月の光を忍んでもうろうたる影法師がいた。
しかし誰であるか、判然としない。あれかと思う意識さえ、
心に浮かばぬその刹那、廊下の角をまがって余の視界から消え失せた。
余の見た景色ははなはだ詩趣をおびている。
ー弧村の温泉、ー春宵の花影、ー月前の低唱、
ーおぼろ夜の姿ーどれもこれも芸術家の高題目である。
例の写生帳を枕元に取りだして一句ひねってみる。
海棠の露をふるふや物狂い
それから七八、発句づいてみたが眠くなって寝てしまった。
ここにいた女が長良の乙女に一番似ていると言われている
志保田の一人だけいる跡取りの孫娘だということをのちほど聞いた。
しかしまだ現物にはお目にかかっていない。
182 :
ソニンたん:02/09/04 15:30
第百十八回
障子がすっかり陽光でいろが変わってから寝床から抜け出した。
夢の名残がまだ残っているうちに右側の障子をあけて、
昨夜の名残はどの辺かなと眺める。海棠と鑑定したのは、
はたして海棠であるが、思ったよりも庭は狭い。
五六枚の飛び石を一面の青苔が埋めて、素足で踏みつけたら、
さも心持ちがよさそうだ。那古井はどこもかしこも山間の湯治場である。
しかし海も近い、従って宿は傾斜地に建てられるということになる。
温泉場は岡の麓ををできるだけ崖へさしかけて、
岨の景色を半分庭へ囲い込んだ一構えであるから、
全面は二階でも、後ろは平屋になる。縁から足をぶらさげれば、
すぐと踵は苔に着く。道理こそ昨夕は梯子段をむやみに上ったり下ったり、
異な仕掛けの家と思ったはずだ。
今度は左側の窓を開ける。
自然とくぼむ二畳ばかりの岩の中に貼る水がいつともなく、
たまって静かに山桜の影をひたしている。
二株三株の熊笹が岩の角を彩る。向こうにくことも見える生け垣があって、
外は浜から、岡へ上がる岨道か時々人声が聞こえる。
谷の極まるところにはまた大きな竹藪が、白く光る。
竹の葉が遠くから見ると、白く光るとはこのとき初めて知った。
183 :
ソニンたん:02/09/04 15:30
第百十九回
藪から上は、松の多い山で、赤い幹の間から
石塔が五六段手にとるように見える。おおかた寺だろう。
あれが昨日訪ねた井川はるら嬢が投宿する観悔寺である。
家はずいぶん広いが、向こう二階の一間と、余が欄干に添うて、
右に折れた一間のほかは、居間台所は知らず、
客間と名がつきそうなのはたいてい立てきってある。
客は、余をのぞくのほかほとんど皆無なのだろう。
しめた部屋は昼も雨戸を開けず、あけた以上は夜もたてぬらしい。
これでは表の戸締まりさえ、するかしないかわからん。
非人情の旅にはもって来いという屈強な場所だ。
余が祖父もここに泊まったのもさもありなんという感想だ。
ここの娘と余がどんな因縁で結ばれているのやら。
突然襖があいた。寝返りを打って入り口を見ると、
因果の相手のショートカットが敷居の上に立って
青磁の鉢を盆に乗せたままたたずんでいる。余はふたたび驚いた。
つりきちあみ子がそこ立っているではないか。
あみ子「まだ寝ているの。昨夜は廊下で歌なんか歌っていてご迷惑だった。
あなたはすっかり寝ていらっしゃると思っていたんですもの。
障子が開いてびっくりしたからすぐここを離れたのよ。
だって歌を聴かれたと思うと恥ずかしかったんですもの。」
余「いいえ。それよびっくりしたな。つりきちあみ子、
184 :
ソニンたん:02/09/04 15:31
第百二十回
いや、鈴木あみ子がなんでここにいるのだ」
あみ子「鈴木というのは戸籍上の名前、
ここらへんの旧家はみんな昔から続く屋号を持っているのよ。
わたしの家は志保多」
女は余が起き返ろうとする枕元へ、早くもすわって
あみ子「まあ寝ていらっしゃい。寝ていても話はできるでしょう」
とさもきさくに言う。余は全くだと考えたから、ひとまず腹這いになって、
両手であごをささえ、しばしば畳の上に肘壺の柱を立てる。
あみ子「ごたいくつだろうと思って、お茶を入れに来ました。」
余「ありがとう」
この女とは千年の知友のような気がする。
これも非人情の世界に生きて利害損得の圏外に
この世界を鑑賞しうるの宝珠にほかならない。
菓子皿の中を見ると、カステラの魚が皿の上で泳いでいる。
牛皮をどらやきで包んだお菓子だ。
皿の中に適度な隙間をあけて置いてあるのと
皿の青い色が作用して涼しげに見える。
185 :
ソニンたん:02/09/04 15:32
第百二十一回
あみ子「こんなのが川の方に行くと泳いでいるんですよ。
この前、変な妖怪が出て来て
あゆの塩焼き食べれなかったでしょう。そのかわり」
余「うん、なかなかみごとだ」
夏になればこんなのをつりに川は結構繁盛するのかも知れない。
あみ子「昔、あなたのおじいさまがここに泊まったことがあるんですって」
意外なところから矢が飛んで来た。
余はそれにかかわらず青磁の皿をじっとみつめる。
余「これはシナですか」
あみ子「なんですか」と相手はまるで青磁を眼中に置いていない。
余「どうもシナらしい」と皿を上げて底を眺めて見た。
あみ子「そんなものが、お好きなら、見せましょうか」
余「ええ、見せてください」
あみ子「家が古いですからそんなものは
たくさんあります。それに変な家訓も、伝説も」
余はそこで長良の乙女の伝説を思い浮かべていた。
目の前に立っているこの女が楠雅儀の直系であるというから
この家は鎌倉時代から続いていたことになる。
186 :
ソニンたん:02/09/04 15:33
第百二十二回
あみ子「あなたのおじいさまがここにいらしたとき
やはりいろいろと骨董をお茶と一緒にお見せしたそうですね。」
茶と聞いて辟易した。しかし余がじいさまも茶をすする犠牲を
忍んで骨董を見せて貰ったのだろうか。
余が辟易した顔をしていると風流を解せぬ男と思ったのだろう。
余「お茶って、あの流儀のある茶ですかな」
あみ子「いいえ、流儀もなにもありゃしません。
おいやならのまなくってもいいお茶です」
余「そんなら、ついでに飲んでもいいですよ」
あみ子「ウフフフフ。おじいちゃんは道具を
人に見てもらうのが大好きなんですから・・・・」
余「ほめなくっちゃあ、いけませんか」
あみ子「年寄りだから、ほめてやれば、うれしがりますよ」
余「へぇ、少しならほめておきましょう」
あみ子「負けて、たくさんほめてあげてください」
187 :
ソニンたん:02/09/04 15:34
第百二十三回
余「はははは、時にあなたの言葉は田舎じゃない」
あみ子「人間は田舎なんですか」
余「人間は田舎のほうがいいのです」
あみ子「それじゃ、幅がききます」
余「しかし東京にいたことがありましょう」
あみ子「ええ、いました、それも東京の中心で電波を出すところにいました」
余「夜も昼も電車が地面をせわしくまわっている場所ですね」
あみ子「電車にはあまり乗りませんでした。
おもに自動車で、タクシー券をよく使いました」
余「ここと都と、どっちがいいですか」
あみ子「同じことですわ」
余「こういう静かな所が、かえって気楽でしょう
あみ子「気楽も、気楽でないも、
世の中は気の持ちよう一つでどうでもなります。
蚤の国がいやになったって、蚊の国へ引っ越しちゃ、なんにもなりません」
余「蚤も蚊もいない国へ行ったら、いいでしょう」
あみ子「そんな国があるなら、ここへ出してごらんなさい。
さあ、出してちょうだい」と女は詰め寄る。
はたのものが見ていたら兄弟げんかだ。
余「長良の乙女の伝説を聞きましたよ。あなたは長良の乙女の、
つまり楠雅儀の血を引いているそうですね」
あみ子「まあ、そんなつまらないこと」女は急に不機嫌になった。
188 :
ソニンたん:02/09/04 15:35
第百二十四回
*****************
床屋「失礼ですが旦那は、やっぱり東京ですか」
余「東京と見えるかい」
床屋「見えるかいって、一目見りゃあ、ー第一言葉でわかりまさぁ」
余「東京はどこだか知れるかい」
床屋「そうさね。東京はばかに広いからね。
ーなんでも下町じゃねえようだ。山の手だね。
山の手は麹町かね。え?それじゃ、
小石川?でなければ牛込か四谷でしょう」
余「まあそんな見当だろう。よく知ってるな」
床屋「江戸っ子がなんでここにいるんでがす。
旦那に似た人をどこかで見たことがあるな」
余はぎくりとした。何もこの親方が握っている刃の
こぼれた髭擦りのためばかりではない。
床屋「あっしも前の親方から聞いたことなんで
はっきりしたことじゃないんでがすが、
この床屋もずいぶんと由緒のある床屋だそうでがすよ。
自分の働いているところでなんでがすが」
余「どういうふうに由緒があるんだい」
189 :
ソニンたん:02/09/04 15:36
第百二十五回
床屋「その昔絵描きのふりをして偉い英文学士がひげを
そりに来たという話を聞いたことがありますよ」
余「その英文学士の名前はわかるのかい」
余は冷や汗が出た。ここでわがじいさんの幻影と
遭遇するはめになるとはここに入るまで予想もしなかった。
余「おい、もう少し、石鹸をつけてくれないか、痛くっていけない」
床屋「痛うがすかい。私ゃ癇性でね、どうも、こうやって、
逆ずりをかけて、一本一本髭の穴を掘らなくっちゃ、
気がすまねえんだから、ーなあに今時の職人なあ、
するんじゃねえ、なでるんだ。もう少しだがまんおしなせえ」
余「がまんはさっきから、もうだいぶしたよ。お願いだから、
もう少し湯か石鹸をつけとくれ」
床屋「がまんしきれねえかね。そんなに痛かあねえはずだが。
全体、髭があんまり、延びすぎてるんだ。」
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あいぼん :02/09/04 21:52
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