ベルリン( ● ´ ー ` ● )の詩

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289天使は瞳を閉じて
「またテレビかなんかの企画なの?」
「そーゆーこと」
飯田が笑って後藤に合図する。
「音楽!」
後藤がキューを出す。
娘。たちのダンス。
ゴスペル調の曲を手拍子しながら歌う。
間奏に入ったところで、
娘。が声をそろえてメンバーの名前を呼ぶ。
「ひとみ!」
「ビックになりたーい!」
「梨華!」
「ハッピーになりたいです!」
「リーダー!」
「モーニング娘。がいつまでもみんなに愛されること。
それが飯田圭織の夢でーす!」
「圭!」
「もっともっと歌がうまくなって、
みんなに夢をプレゼントできるようなライヴがしたい!」
「真里!」
「ビッグになっていっぱい歌いたい!
感動をあなたに。そこんとこ、よろしく!」
「希美!」
「いつかこの街を出ていくぞっと!」
290天使は瞳を閉じて:02/02/09 02:12
娘。のクラップ・ハンズが一瞬、止む。
辻があわてる。
「あああ、ゆめですよ。夢。本気にしないでねっと!」
笑いながら手拍子が再開されて、女の子たちは、コンを見る。
「コン…こん、の…あさ美です」
「あさ美!」
「えっ、あの、あの…」
「夢だよ、夢。ここのパートはうちらの夢を語るとこだから」
矢口がこっそり教える。
「えっと、人間を立派につとめあげたい!
悲しいことは、報告書に書きたくない!
しあわせになりたいですっ!」
全員、はぁ? っとした顔をしていると、飯田がフォローした。
「…なんかわかんないけど、ま、いっか!」
「亜依!」
「夢いっぱいで、ございます!」
「もうホーム・シックにかかってるんじゃないの?」
真里が冷やかしてつっこむ。
「違いますよーだ!」
「真希!」
「まだ14才だけど、はやく大人になるぞ!」
その後に続いて天使ID、ABがしゃべりだす。
「いつも、人間を暖かく見守っていたい。
たとえ、私達の存在に人間が気づかなくても、
私達は、いつまでも、いつまでも、」
「みんなー! 今日はありがとねー!」
真里が観客に手をふる。
「またライヴで会おーねー!」
圭織を最後に娘。が舞台から小走りで去っていく。
残される天使ID、AB。
ふっと淋しそうな顔を一瞬見せ、
そして、幸福そな天使の微笑みに戻る、
天使ID、ABが手帳を広げる。
291天使は瞳を閉じて:02/02/09 02:29
「その街はとても奇妙な街だった。小さな街なのに、
すべてのメディアがそろっている。
ちょっとしたら、この街は、
街という生物の進化の最終段階なのかもしれない。
もうひとつ、奇妙なことに、
街はドーム状の透明な壁によっておおわれている。
私達天使はなんでもないが、
人間達は、そこから外へは出られない。
ただし、外は放射能によって大気が破壊されたため、
紫外線や宇宙線などの直接攻撃で、もし飛び出せば、
人間は間違いなく二日ともたないだろう。
人々を宇宙線やかつての放射能から守ったのは、
この透明な膜らしい。
なのに人々は、信じられないことに、
この壁の外へ出たがっている。
モーニング娘。にかけて紺野あさ美という、
変な名前になった天使ID、KONは、
モーニング娘。のリーダーの口添えで、
なんとか娘。としての生活に溶け込んだ。
街は幸福だ。
明日にも、わたしは受け持ち区域に戻ろうと思う。
わたしは、書くべきことがなくて困っている」