飯田鉄道999

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 機械首都メガロポリスから離れた郊外。草の茂る丘の上で、貧しい身なりをした
 母(中澤裕子)と娘(辻希美)が、夜空を見上げている。
 光の軌跡を描いて、飯田鉄道の急行列車が、メガロポリス駅に向かって降下して
 くる様子が見える。

希美「お母しゃん、あれ・・・」(夜空の急行列車を指差す)
中澤「飯田鉄道の急行やね。山向こうのメガロポリスにやって来た今日の最終列車や」
希美「どこから来たのれすか?」
中澤「うーん・・・あれは776形みたいだから、飯田星雲の母星が始発やないか?」
希美「・・・・・・」(さっきから震えている希美)
中澤「寒いんか、希美?」
希美「ふぁい・・・」(洟を垂らす希美)
中澤「そろそろ冬や。冷え込んできたな」(希美を包み込むように抱き、家に向かって歩き出す)

 雪が降り始める。歯をガチガチと鳴らす希美。

中澤「あーあ。機械の体やったら、寒さなんて気にせんでもええのにな・・・」
希美「機械の体だったら、とっても長生きできるのれすよね?」
中澤「そうや。部品の交換さえ、まめにやってりゃ千年くらいは軽いで。せやけど
   うちら庶民は、機械の体なんて買えんから、せいぜい百年が限界やな」
希美「機械の体はお金持ちしか買えないのれすね」
中澤「お父さんが生きていれば・・・希美にも機械の体を買ってやれたんやけど」
  (目を閉じて、悲しそうに言う)
希美「お父しゃんは、人間が機械の体を買うことに反対して暗殺されたんれすよね?」
中澤「・・・・・・」(沈黙で答える)

 積もり始めた雪に足跡をつけながら、貧しい母娘は家に向かって歩き続ける。
25雪の降る夜に・・・2:2001/05/17(木) 00:49
 貧しい母娘の住むバラック小屋が見えてくる。駆け出そうとする希美を制する中澤。

中澤「家に入ったらあかんで!」(緊張した声を出す)
希美「・・・?」(訳が分からずキョトンとする)
中澤「こっちへ来るんや、早く!」(岩場の洞窟の方へ走り出す)

 中澤の体を一筋のレーザー光線が射抜く。崩れ落ちていく中澤。

希美「お母しゃん!」(駆け寄って、すぐさま中澤の半身を抱き起こす)
中澤「逃げるんや、希美・・・母さんはもうダメや・・・」
希美「嫌なのれす!」(激しく首を振る)
中澤「母さんの最後の話を聞くんや。ええか・・・飯田鉄道の超特急999号に
   乗れば、いつか機械の体がタダでもらえる惑星に着くそうや」
希美「ううっ・・・」(中澤の体を抱えて歩き出すが転んでしまう)
中澤「今までは夢みたいな話やから希美には黙っとったけど、父さんは確かにある
   と言ってたんや。希美・・・あんたはまだ若い。なんとか飯田鉄道999に
   乗って、機械の体がもらえる星に行くんや。そうして、うちや父さんの分ま
   で長生きするんや・・・約束やで」(次第に声がか細くなっていく)
希美「わ、分かったのれす。約束するから死なないれ欲しいのれす!」
中澤「ああ希美・・・もう一度、顔をよく見せて。・・・お別れよ、希美」
  (希美の腕の中で息絶える)
希美「お母しゃん! 死なないれ、死なないれくらさい! ののは一人ぼっちに
   なってしまうのれす!」(涙と鼻水で顔をグシャグシャにして泣きじゃくる)

 間もなく希美は、遠くの方に機械化馬に乗った大男たちの姿をみとめる。