機械首都メガロポリスから離れた郊外。草の茂る丘の上で、貧しい身なりをした
母(中澤裕子)と娘(辻希美)が、夜空を見上げている。
光の軌跡を描いて、飯田鉄道の急行列車が、メガロポリス駅に向かって降下して
くる様子が見える。
希美「お母しゃん、あれ・・・」(夜空の急行列車を指差す)
中澤「飯田鉄道の急行やね。山向こうのメガロポリスにやって来た今日の最終列車や」
希美「どこから来たのれすか?」
中澤「うーん・・・あれは776形みたいだから、飯田星雲の母星が始発やないか?」
希美「・・・・・・」(さっきから震えている希美)
中澤「寒いんか、希美?」
希美「ふぁい・・・」(洟を垂らす希美)
中澤「そろそろ冬や。冷え込んできたな」(希美を包み込むように抱き、家に向かって歩き出す)
雪が降り始める。歯をガチガチと鳴らす希美。
中澤「あーあ。機械の体やったら、寒さなんて気にせんでもええのにな・・・」
希美「機械の体だったら、とっても長生きできるのれすよね?」
中澤「そうや。部品の交換さえ、まめにやってりゃ千年くらいは軽いで。せやけど
うちら庶民は、機械の体なんて買えんから、せいぜい百年が限界やな」
希美「機械の体はお金持ちしか買えないのれすね」
中澤「お父さんが生きていれば・・・希美にも機械の体を買ってやれたんやけど」
(目を閉じて、悲しそうに言う)
希美「お父しゃんは、人間が機械の体を買うことに反対して暗殺されたんれすよね?」
中澤「・・・・・・」(沈黙で答える)
積もり始めた雪に足跡をつけながら、貧しい母娘は家に向かって歩き続ける。
貧しい母娘の住むバラック小屋が見えてくる。駆け出そうとする希美を制する中澤。
中澤「家に入ったらあかんで!」(緊張した声を出す)
希美「・・・?」(訳が分からずキョトンとする)
中澤「こっちへ来るんや、早く!」(岩場の洞窟の方へ走り出す)
中澤の体を一筋のレーザー光線が射抜く。崩れ落ちていく中澤。
希美「お母しゃん!」(駆け寄って、すぐさま中澤の半身を抱き起こす)
中澤「逃げるんや、希美・・・母さんはもうダメや・・・」
希美「嫌なのれす!」(激しく首を振る)
中澤「母さんの最後の話を聞くんや。ええか・・・飯田鉄道の超特急999号に
乗れば、いつか機械の体がタダでもらえる惑星に着くそうや」
希美「ううっ・・・」(中澤の体を抱えて歩き出すが転んでしまう)
中澤「今までは夢みたいな話やから希美には黙っとったけど、父さんは確かにある
と言ってたんや。希美・・・あんたはまだ若い。なんとか飯田鉄道999に
乗って、機械の体がもらえる星に行くんや。そうして、うちや父さんの分ま
で長生きするんや・・・約束やで」(次第に声がか細くなっていく)
希美「わ、分かったのれす。約束するから死なないれ欲しいのれす!」
中澤「ああ希美・・・もう一度、顔をよく見せて。・・・お別れよ、希美」
(希美の腕の中で息絶える)
希美「お母しゃん! 死なないれ、死なないれくらさい! ののは一人ぼっちに
なってしまうのれす!」(涙と鼻水で顔をグシャグシャにして泣きじゃくる)
間もなく希美は、遠くの方に機械化馬に乗った大男たちの姿をみとめる。