中澤とよっすぃー最後のからみ

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1 
どきどきするね〜
???なぜ吉澤だけなの。
3ピカチュウ:2001/04/15(日) 11:38
からみと聞くと、妖艶な光景が浮かぶんだが・・・
4またりん:2001/04/15(日) 11:38
おれはよっすぃと石川のからみに萌えたぞ
以外と激しい関係だったのね
5 :2001/04/15(日) 11:39
一触即発! わら

サラダ記念日なのに・・・
7 :2001/04/15(日) 11:40
よっすぃーの回答に中澤シカト
8名無し娘。:2001/04/15(日) 11:42
>>5四人囃子発見。
9名無し娘。:2001/04/15(日) 11:43
僕の弟が円盤に乗ったよ

チャーミーとの絡みが一番(・∀・)イイ
11またりん:2001/04/15(日) 11:51
よっすぃ、辻、加護、司会の知がアイドルならぬ発言を

チチココ(笑)
13名無し募集中。。。 :2001/04/15(日) 11:52
ガチンコ(ワラ
14名無し娘。:2001/04/15(日) 11:56
これでもう永久に中澤と吉澤は会話することはありません
15名無し娘。:2001/04/15(日) 12:00
そんなことより、MUSIX予告で映った安部の腹の方が問題だろ
16名無し娘。 :2001/04/15(日) 12:02
>>15
 確かにそうだ
17名無し娘。 :2001/04/15(日) 12:03
 さ〜〜て、中澤が消えたし、これで楽しいモー娘。になるぞ!
18名無し募集中。。。:2001/04/15(日) 12:04
( ^▽^)<○○んこ!
19名無し娘。:2001/04/15(日) 12:05
どうりで最近マタニティドレスみたいな衣装ばっかしだと思ったら・・・
20名無しギャル:2001/04/15(日) 12:06
さらばばばぁ
21名無し募集中。。。:2001/04/15(日) 13:32
後藤ヲタはバカだ。
卒業していく奴を誹謗中傷して何になる?
後藤ヲタはクズだらけだということを
露呈しているだけだよ。
後藤にはそんなクズヲタしか
ついていないと思われてるよ。
後藤ヲタは酷い、やりすぎだと
他メンヲタも引いてるよ。
22名無し募集中。。。:2001/04/15(日) 14:24
さらばばばばばばばばばばばあぁぁぁぁぁ!!
23てすと:2001/04/16(月) 02:54
てすと
24名無し募集中。。。:2001/04/16(月) 03:49
ん?ここはエロ小説スレじゃないのか!?
25てすと:2001/04/16(月) 23:22
てすと
えすと
26て・・・すと:2001/04/17(火) 01:13
テストの部屋
27てすtp:2001/04/18(水) 01:34
てすてs
28lo:2001/04/20(金) 02:04
29名無し募集中。。。:2001/04/21(土) 01:12
30名無し募集中。。。:2001/04/21(土) 21:58
31名無し募集中。。。:2001/04/22(日) 04:59
32名無し募集中。。。:2001/04/22(日) 13:37
33黄板:2001/04/22(日) 16:34
ここ?
34log0076:2001/04/22(日) 23:27
>>33
yes
35黄板:2001/04/22(日) 23:35
マジデー
>>24は俺なんだよねー。
エロ期待して良い?(藁
36ちこりーた。:2001/04/23(月) 08:56
あなたがいない あなたがいない
オーブンのふたを開けた
あなたの丸焼きはない

孤独な私 たわけな女
名古屋に遊びにおいで
私の親戚は来ない

逝ってよし!

レイプだレイプだ!男をレイプしよう!
どうせならキムタクみたいな男がいいな
でも逆に殴られそうだな!
めがね君ならどうかな?
そうだ!
めがねくんにしよう!

セリフ(誰かやらせろ!だれもやらせるやつはいねえのか!
    だからおまえらはカスだっていうんだよ!)

あなたは来ない あなたはこない
自分の家に放火し
あなたは消火に来ない

逮捕されたい 逮捕されたい
裸で街を歩いた
だけどみんな無視するの

逝ってよし!

レイプだレイプだ!男をレイプしよう!
どうせなら円楽みたいな男がいいな
でもすぐに癌で死にそうだ
山田君ならどうかな?
そうだ!山田君にしよう!
セリフ(山田 クンニ だなんてっ ポッ)
37nanasi:2001/04/23(月) 09:39
名曲だな
38名無し募集中。。。:2001/04/24(火) 03:19
(・∀・)タン♪ タ タラリラタン♪ タ タラリラタン タ タラリラタン♪
39名無し募集中。。。:2001/04/25(水) 02:02
40名無し募集中。。。:2001/04/25(水) 21:31
41名無し募集中。。。:2001/04/26(木) 01:26
(・∀・)ホゼムクンダ
42名無し募集中。。。:2001/04/27(金) 01:46
43名無し募集中。。。:2001/04/28(土) 04:38
44名無し募集中。。。:2001/04/28(土) 21:00
(・∀・)ホゼム ナゼスル?
45log0076:2001/04/28(土) 23:45
-143-

ひとみは父親を押しのけるようにして部屋に入る。
部屋の窓は、色褪せたカーテンで閉じられていた。
そのためか部屋は薄暗く、湿っぽい空気が漂っている。
部屋の真中に配置されているベッドのそばのカーペットには、ひとみの
母親が首をつったときに垂れ流した汚物の染みが残っている。
ひとみは、埃っぽい部屋を裸足で歩き進み、部屋の右手にある暖炉の前
で立ち止まる。ひとみ以外の全員は、入り口から様子を窺っていた。
石川が部屋に入りひとみに歩み寄る。
ひとみは暖炉のそばに立てかけてある火掻き棒を取った。
「……ひとみちゃん。」
石川がそっと声をかけると、ひとみは振り向いた。まだ、15歳のひと
みなのだろうか、それとも5歳のひとみなのだろうか。石川は息をのむ。
「ずっと……自分で閉じ込めてたんだ。お母さんに…虐待…された事。」
15歳のひとみだ。石川は、ひとみの口調と言葉から判断する。
石川とひとみ以外の全員は「虐待」という言葉に驚く。和田も、ひとみ
の父親もだ。
「聞かせて、ひとみちゃん。」
唖然となっている2人を通り越して平家も部屋に入る。
46log0076:2001/04/28(土) 23:45
-144-

ひとみは手に取った火掻き棒を暖炉に戻して、自分が5歳のときにこの
部屋で体験したことを淡々と語り始めた。

母親が二人目の子どもを妊娠した頃、父親が長い出張のため、あまり相
手に出来なかった事が引き金になったのか、あの頃の母親は酷く不安定
で、ちょっとした事で身体を壊して部屋に引き篭もり、ひとみとはろく
に顔も会わせてくれなかった事。

そして、寒い冬のある日の昼下がり。和田は外出しており、当時雇われ
ていた家政婦は地下室の掃除に励んでいた。ひとみが寂しさから母親の
部屋にこっそりと入り込むと、当時の母親には珍しく、ベッドに寝込ま
ずに暖炉のそばで椅子に座り本を読んでいて穏やかな感じであった。
ひとみは嬉しくて、母親に言葉をかけ始めた。
が、しばらくすると、母親の雰囲気が緩やかなものから張り詰めたもの
に変わっていくのを幼いながらも肌で感じた。
母親はひとみを床にうつ伏せにさせると、ひとみの着ていたワンピース
を手繰り上げて背中を露出させ、暖炉にくべられて熱を持った火掻き棒
を取った。
火掻き棒を背中に押し付けられる寸前に母親は、助けて、と呟いた。
火掻き棒がひとみの柔らかい白肌にほんの一瞬だけ押し付けられた。
47log0076:2001/04/28(土) 23:46
-145-

ひとみの背中の肌が焼け、皮がむけ、皮下から白い――うっすら血を帯
びた――脂肪が現れる。
その直後の事は、ひとみは覚えていないと言う。
恐らく子どもとしては想像もつかないほどの痛みに気絶してしまったの
かもしれない。
ひとみが目を覚ますと、母親は笑顔だった。ほんの少し前まで毎日見て
いた笑顔だ。
ひとみの背中の火傷は、母親によって、ガーゼを当てられていた。
その日以来、身体の調子が良い時に限って母親はひとみを快く通すよう
になった。が、実際は、ガーゼを新しく替えると追い出すような目つき
と言動でひとみを罵っていた。
当時、ひとみがあの部屋で色濃く記憶しているのは、自分の背中が焼け
る匂いと、ガーゼが暖炉で燃やされる匂いだけで、不思議と母親の匂い
に関する記憶はないと言う。

時を戻して現在。
ひとみは一旦息をつく。ひとみの話を聞いていた全員があまりの酷さに
耳を塞いで逃げ出したい気分になった。が、ただ一人、石川はその話を
聞いても眉一つ動かさなかった。酷い、と思わないわけではなく、ひと
みはなぜ母親の部屋へ向かうようになってしまったのか、という疑問の
ほうが大きく膨れ上がってしまったのである。
48log0076:2001/04/28(土) 23:48
-146-

後藤は走っていた。
寝坊をしてしまったのである。自分に腹を立てる余裕もなく、人ごみを
掻き分けてひとみの家に向かっていた。

石川は疑問をぶつけようと口を開きかけた。
「ひとみちゃ…」
「ひとみちゃん、疲れたでしょう。リビングで休もう。」
平家はひとみの手をとって優しく語りかける。石川はそれもそうだ、と
口をつぐんだ。
ひとみは虚ろな目で平家に顔を向け、頷きかけて、びくりと身体をのけ
ぞらせる。頭を抱えて、膝を着いた。「もう……、いや…」
「ひとみちゃん、落ち着いて。深呼吸して…」
平家は冷静に対応する。
石川はひとみの背を撫でるぐらいしかできない。原因を作り、解決する
術もわからず、ただそばにいてやることしか出来ない自分に、石川は嫌
悪を募らせる。
「熱いよぉ…」
ひとみが、身体的にはすっかり失せているはずの傷の痛みを訴え始める。
5歳の人格が戻ったのである。
49log0076:2001/04/28(土) 23:50
-147-

痛みを訴えながら手足をばたつかせ始めたひとみを、石川と平家は抑え
る。部屋の外にいたひとみの父親や和田、そして家政婦らもそれに手を
貸す。
「熱い……、助け…て…」
ひとみの目尻から耳へと涙が伝う。脈絡なく突き出されたひとみの手を
石川が両手で優しく包んだ。石川はその手を祈るように、自らの額に引
き寄せる。
ひとみは視線の先の石川に安堵を覚えたのか、一気に力を緩めた。
石川は、タイミングを見計らったようにして、
「どうして……、お母さんの部屋に行ったの? 怖く、なかったの?」
「お母さんが…」
ひとみは鼻をすすりながら呟く。全員がひとみの言葉を待つように息を
のむ。
「甘えたかった……、お母さんが好きだったから……、熱いのも我慢で
きた…でも…でも…嫌いだった…」
ひとみは自分で言った言葉に再び咽び、泣いた。
石川は、ひとみを抱き起こして、力いっぱい抱きしめる。

「平家さん……、ひとみちゃんは…」
石川はベッドに眠っているひとみの額をそっと撫で、平家に顔を向ける。
平家の後ろには、ひとみの父親と、和田と、中澤達がいた。
50log0076:2001/04/28(土) 23:52
更新
51名無し募集ちう:2001/04/29(日) 20:17
佳境ですかな保全
52名無し:2001/04/30(月) 01:54
-132-から-142-はどこにある?
53名無し募集中。。。:2001/04/30(月) 04:54
(・∀・)ナルホード ソウイウスレカァ ...カエル!
54名無し募集中。。。:2001/04/30(月) 21:54
55名無し募集中。。。:2001/04/30(月) 22:07
56名無し:2001/05/01(火) 01:11
>>55 ありがとう。
57名無し募集中。。。:2001/05/01(火) 20:00
58名無し募集中。。。:2001/05/02(水) 04:36
...
59log0076:2001/05/02(水) 23:33
-148-

平家はしばらく考え込んでから、
「楽観しすぎかもしれないけど、大きな壁は越えたような気がする。」
「本当ですか?」
石川の顔から思わず笑みが零れ出しそうになる。
平家も、頬を緩めて、再び引き締め、
「でもね、肝心なのはこれから。それだけは…」
と言いながら、後ろにいるひとみの父親たちに身体を向けた。「忘れないで下さい。」

同じ頃、後藤はあともう少しでひとみの家へ辿り着こうとしていた。
後藤の進行方向の数十メートル先に、大きな黒い車が見えた。窓にはスモークが貼られて
いる。黒いスーツを来た大男が、少女を無理やり車に引き込もうとしているように見えた。
「あの人…」
と、後藤は呟いて足を止める。
よく目を凝らして見ると、ひとみの家で見たことのある家政婦の安倍であった。
肘を掴まれた安倍は表情険しく訴えた。
「痛っ……、やめてください……。」
「誰かぁ! 誘拐ですよぉ!」
後藤の声が辺りに響く、黒いスーツの男は素早く車に乗り込み、去っていった。
60log0076:2001/05/02(水) 23:34
-149-

「大丈夫ですかぁ?」
後藤が安倍に駆け寄る。
「うん、ありがとう。」
安倍は顔を伏せがちに頷く。
「これからよっすぃ〜の家に出勤ですか?」
「ううん。今日はお休みだよ。」
「そうですか、じゃあ……。」
後藤がそう言いかけると同時に、安倍は踵を返して歩き始めていた。
後藤は、安倍が曲がり角に消えるのを見届けて、再びひとみの家に向かった。

安倍と後藤がいなくなったあとすぐに、先ほどの黒い車が戻ってきた。
スモーク張りの窓が開いて、中に乗っている人物が顔を出す。
透き通るような白い肌に、サングラス、少年とも少女ともとれるショートカットが、ゆっ
くり口を開いた。
「今叫んでたのは?」
未成熟な、少し高めの、少女の声。そのくせ、酷く存在感を持っていた。
運転席に座っている黒スーツの男が分厚いファイルを取り出し、答えた。
「後藤真希、15歳、吉澤ひとみのクラスメートです。」
「ふぅん。」
と、少女は一瞬だけ顎をしゃくり、口元をにやつかせる。
61log0076:2001/05/02(水) 23:34
-150-

後藤がひとみの家に着いた頃には、ひとみ以外の全員は居間でテーブルを囲み、ひと休み
をしていた。
後藤は、ひとみの父親に威圧されながらも挨拶をし、石川と共にひとみの部屋に向かった。
部屋に着くまでは、互いに一言も発さなかった。
後藤は椅子をベッドのそばに引き寄せながら聞いた。「本当に、治ってくの?」
「平家さんは、これからのケアが肝心だって言ってました。」
「ケア…」
と、後藤は石川に視線を移しつつ、ひとみの寝顔を見つめる。ほんの少しだけ、良くなっ
ていくかもしれないと思わせてくれるような安らかな寝顔。
「ねぇ……、ちゃんとよっすぃ〜の事、めんどうみなよ?」
後藤の言葉の唐突さに、石川は返答にまごついてしまう。
ほんのしばらく、間が空いて、石川は頷いた。が、後藤に視線を合わせなかった。

ひとみが目覚めたのはそれから半日ほど経ってからであった。
「遅刻するよぉ!」
ひとみの第一声は、一同を安心させた。
起きた後、落ちた体力で学校に行ける筈もなく、ひとみはベッドに横になっていた。
石川が食事を持って部屋に入ってきた。ひとみの部屋のすぐ外には平家が立っていた。
62log0076:2001/05/03(木) 00:49
更新
63名無し募集ちう:2001/05/03(木) 01:23
ありゃまだもうひとやまありそうだな保全
64名無し募集中。。。:2001/05/03(木) 23:44
65名無し募集ちう:2001/05/04(金) 21:39
保全
66ログ:2001/05/04(金) 23:20
-151-

平家は部屋に入ろうとはせず、ドアに背をつけて息を殺していた。
石川はその事を知っている。承知の上で、ひとみの前に食事をひろげ始める。

数十分ほど前。
台所で、ひとみの食事を用意していた石川に、平家が声をかけた。
「協力してくれない?」
「なにをですか?」
「ひとみちゃんに、ここ何日かの記憶があるのか、確かめるの。」
食事を盛り付けている石川の手が止まる。
「そんなこと……、今はひとみちゃんが元に戻ったんだからいいんじゃないですか?」
「元に戻ったとは限らないの。大きな壁は越えたって言ったけどね。それに、なにも
今までのことを話せってことじゃないわ。」

再び時を戻して、ひとみは用意された食事を摂りながらふと呟いた。
「ね……、梨華ちゃん。」
「なんですか?」
67ログ:2001/05/04(金) 23:21
-152-

石川は、否応なくひとみの放つ一語一句に過剰に反応してしまう。
平家は、ひとみの記憶が失われていたとしても、それはそれで昨日までの出来事がま
た起こるという事を懸念しなければならない。記憶があったとしても、虐待の傷を埋
めていくには時間がかかる、とも言っていた。
石川はひとみの次の言葉を待つ。
ひとみが食事をどかして、ベッドから立ち上がり石川の前に立った。
ひとみは、石川をじっと見据えたかと思うと、肩に手を置いて、石川をベッドに座ら
せた。ひとみは膝をつき、石川の傷のついたほうのふくらはぎに触れる。
『5歳の』ひとみがつけてしまった傷だ。
石川はドキリとする。
思わずひとみの腕に触れる。
言葉は出てこない。
苦々しく眉をひそめる。
「ごめんね…」
と、ひとみの呟いた言葉で、石川はひとみの記憶を有無に気づいた。同時に、ひとみ
が背負っていかなくてはならないものにも。
石川はひとみを抱きしめ、その肩先で涙を流した。
「大丈夫です…大丈夫です…」
68ログ:2001/05/04(金) 23:21
ジュウクニナッテハジメテノコウシンナノ
69Wiz:2001/05/05(土) 02:38
 誕生日おめでとう
 ついでに更新がんば
70名無し募集ちう:2001/05/05(土) 04:25
泣 保全   ナゼナマエカタカナ?
71名無し募集ちう:2001/05/06(日) 03:10
コソーリ脱出して保全
72名無し募集中。。。:2001/05/06(日) 20:34
73log0076:2001/05/06(日) 23:25
-153-

「じゃ、行ってきます。」
ひとみはローファーを履きながら、後ろにいる石川に向かって微笑んだ。
石川も、それに応えるように薄く笑う。
ひとみが扉の外に消えると、石川はその度に胸を熱くした。
再び訪れた、穏やかな日常にである。
ひとみが再び学校に通うようになって、三週間が経った。
学校の友人や、後輩たちは、変わりなく接してくれているという。

一旦自分の部屋に引っ込んだ石川は、毎週木曜の部分に赤い丸のつけられた机の上の
卓上カレンダーに目をやり、少し沈んだ顔つきになる。
唯一以前と変わってしまった点といえば、週に一回、平家を向かえてひとみにカウン
セリングを施してもらうというところだ。
ひとみは逃げることなく、カウンセリングには積極的に向かっていた。
逃げてばかりでは快方には向かわないとわかってはいても、石川はカウンセリング中
にひとみが見せるつらそうな表情に耐えられなかった。
石川は机の周りに散乱している紙くずを拾い上げて、全てを千切ると、ごみ箱に入れ
た。
74log0076:2001/05/06(日) 23:25
更新
75名無し募集ちう:2001/05/07(月) 02:31
じらすねえ保全
76名無し募集中。。。:2001/05/08(火) 00:18
77名無し募集中。。。:2001/05/08(火) 19:26
78名無し募集中。。。:2001/05/09(水) 05:05
79log0076:2001/05/09(水) 23:35
-154-

書斎。
和田は重要な書類を片付けていた。
机の引出しを開け、なにかが引っかかった事に気が着き、中に手を突っ込み、探る。
何か四角いものが手に収まり、和田は思い切って、引っこ抜いた。
手のひらに収まる、四角いプラスチック製の箱から、3本のチューブに包まれた銅線
が出てきた。
和田は一瞬で盗聴器だと判断する。
息を殺し、書斎を探し回り始めた。

キッチン。
「圭ちゃん、なにしてん?」
踏み台を足に敷き、棚の奥を除いていた保田に、入ってきた中澤が声をかける。
「なんでもないよ。」
保田は棚から頭を出して、踏み台から降りる。
「せや、やっぱ最近屋敷の周りに黒塗りの車徘徊してるわ。和田さんに言うとったほ
うがええなぁ。」
「その車、誰乗ってるか…」
と、保田が言いかけたのを中澤が不思議そうに見るものだから、
「わかるわけないよね。」
保田は笑い声を含ませて、ごまかすように言うとキッチンを出て行った。
80log0076:2001/05/09(水) 23:37
更新
81名無し募集ちう:2001/05/09(水) 23:46
保田ー!保全
82名無し募集中。。。:2001/05/10(木) 03:40
83名無し募集中。。。:2001/05/10(木) 22:57
84名無し募集中。。。:2001/05/11(金) 20:26
85log0076:2001/05/11(金) 23:45
-155-

夜。
「ただいまぁ〜。」
部活を終えたひとみが帰ってきた。中澤が出迎える。
「おかえりなさいませ。」
「うん。先ご飯にするから。」
「はい。」
「……梨華ちゃんは?」
ついこの間までは、石川は毎日のように出迎えてくれたのだが、最近はめっきりなくなっ
た。中澤には悪いと思いつつも、つい聞き返してしまう。
「今、掃除中です。」
そのことを察していないわけではない中澤は、言葉に棘なく返した。
ひとみは、ありきたりな返答に納得するよう努めるかのように頷いて、階段を駆け上がった。

日付が変わった頃、ひとみの父親と和田は居間でワインを飲んでいた。
ひとみの父親は、再び日本で仕事をするようになっていた。
和田は昼間発見した盗聴器を入れた封筒を、テーブルに載せ、ひとみの父親のほうへ滑らせ
た。
ひとみの父親は中身を確認して、和田を見据えた。心配そうな、苦々しい面持ち。
「心配するな。」
と、ひとみの父親は喝入れした。しかしながら、瞳は憂いで溢れていた。
86log0076:2001/05/11(金) 23:46
-156-

「石川。」
保田が、石川の部屋をノックする。
部屋の中からばたつく音が響いて、止む。
「どうぞ。」
保田はドアを開けた。開いたドアの隙間から寝巻き姿の石川が顔を覗かせる。
「もう寝ちゃうの?」
「最近、寝不足なんで…」
石川は目を逸らし逸らしに答える。ドアは、いつ閉じてもおかしくないかのように惑う。
「石川…」
「保田さん。」
ほぼ同時に言葉がぶつかる。沈黙。
「今日は……、ほんとに疲れてるんで…ごめんなさい。」
石川は返答を待たないままドアを閉じてしまう。
保田は小さく舌打ちをして、自分の部屋に帰っていった。

石川は、保田がなにを言おうとしているか感じ取ってしまっていた。
そして、それを言われる事で自分の決意が緩んでしまいそうな事もである。
石川は、ベッドに潜り込み、照明を落とした。
87log0076:2001/05/11(金) 23:47
更新
88名無し募集ちう:2001/05/12(土) 10:41
なんなの なによ ハラハラ保全
89jttks003.zaq.ne.jpさん:2001/05/13(日) 00:37
>>88
ワラタ
90名無し募集中。。。:2001/05/13(日) 21:14
91名無し募集中。。。:2001/05/14(月) 17:59
92log0076:2001/05/14(月) 23:20
-157-

ひとみは、自分の部屋で宿題に励んでいた。
学校を欠席していた間、授業はいつも寝過ごしていた後藤が作ってくれたノートを読んで、
プリントの問題とにらめっこをする。
ようやく問題を片付けると、部屋を出た。
階段を半分降りた時、ひとみは保田と石川の声を感じ取る。
小さくしか聞こえないが、確かに二人の声だ。
立ち止まって会話を把握しようとするが、もう終わっていた。

ひとみは、洗面台の前に立って、鏡を眺めていた。
その時だけ、肩まで伸びた髪が、鬱陶しく感じて、思い立ったように引出しから鋏を取り出した。
後ろの髪に、顎先に合わせて、鋏を入れかける。
「あ…」
声に驚き、ひとみは手を止める。
見ると、ちゃんと閉じていなかったドアの向こうに、Tシャツとジャージ姿の保田が立っていた。
保田の視線はひとみの手にある鋏に釘つけられていた。
「あ、あ……、これ違うよ。」
ひとみは慌てて、鋏を背に隠す。間もなくして、付け加えた。
「圭ちゃん……。髪、切ってもらえるかな?」
保田は、薄く笑い、小さく頷いた。
「失敗しても、知りませんよ。」
93log0076:2001/05/14(月) 23:20
-158-

洗面台に、新聞紙が広げられ、その中央に、ひとみは椅子を置き、座った。
保田は新聞紙の真中に穴をあけ、ひとみにかぶせる。
無造作な美容師だなぁ、とひとみは頬を緩ませた。

保田は、霧吹でひとみの髪を湿らせ、さっそく鋏を入れ始めた。
ちょきり、という音の合間に、ひとみと保田の声が挟まれる。
「でも……、どうして急に?」
保田が一旦手を止めて、ひとみの髪を櫛でとかしす。
「……気分転換、かな。」
「そう、ですか…」
しまった、と保田は心の中で叫んでしまう。
ごまかすように、鋏を動かしていく。
しばらく、会話が止む。
「最近さ…」
ひとみが顔を上げ、目の前の洗面台の鏡を見据える。保田は、鏡の中のひとみをちらりと見る。
「梨華ちゃん、おかしくない……?」
保田は、返事をしないで、鋏を進ませる。そして、鋏を置いた。
「あの娘は、お嬢様の事が……、大好きなんですよ。」
言った保田の表情は穏やかだった。ひとみは頬を熱くして、慌てて言い返した。
「し、質問の答えになってないよ。」
94log0076:2001/05/14(月) 23:22
更新です
95HIP☆HIP:2001/05/15(火) 16:55
だれかこの「石川家政婦と〜」の第95話から143話まで載ってるとこ
知ってる人いない?オレ、久々にここきたら144話になってんだもん。
誰か教えてー!!
96名無し募集中。。。:2001/05/16(水) 04:16
97名無し募集中。。。:2001/05/16(水) 17:59
98流離乃民:2001/05/16(水) 19:37
−95−から−120−はどこにあるか
知ってるヤツはいないか?
99名無し募集中。。。 :2001/05/16(水) 19:39
本人に聞けよそんなもん
100log0076:2001/05/16(水) 23:35
-159-

保田は切り落としたひとみの髪を新聞紙で包みながら、
「石川は、この家から出ようとしてるのかもしれません。」
「……なんで?」
保田の視線が、再び鏡の向こうのひとみを捉える。
ひとみも鏡の中の保田の顔を見る。寂しい、笑顔が浮かんでいた。
保田は、くずかごに新聞紙を詰め込んだ。
「あくまで、想像です。じゃあ、私寝ます。」
「ありがと…」
考え込んでいたひとみは、気のない返事を返す。

真夜中。
石川は、目を覚ます。部屋の外に、人の気配を感じた。
暗い部屋の中、素足をカーペットの上で滑らせて、手探りでドアに辿り着く。
夜中の屋敷内は、不気味だ。
できれば、部屋の外には出たくないところだが、泥棒が入りこんでないとも言い切れない。
石川は、じっと息を殺し、足音が遠のいたのを確認して、そっとドアを開けた。
「……。」
隙間から、暗い廊下を窺う。
「梨華ちゃん。」
突然の声。
石川は声が出なくなるほど喉がひきつる。
101log0076:2001/05/16(水) 23:35
-160-

そして、声の主に見当をつけて、大きく息を吐いた。
「ひとみちゃん……?」
ドアから踏み出して、ドアの陰を見ると、暗闇にジャージ姿のひとみが立っていた。
「ごめん、起こした?」
「いえ……。」
石川は再び部屋に引っ込みかける。
ひとみがドアに手をかけて、留めた。
石川は思わず顔を上げてしまう。視線の先には石川を見つめるひとみの顔があった。
見慣れないショートカットのひとみに、石川は声を漏らした。
「髪…」
ひとみは髪の事には答えなかった。
「話が、あるんだ…」

部屋に入ったひとみは、背を向けてる石川に話し始める。
「あのさ……、梨華ちゃん、最近元気ないね。」
ひとみはいきなり核心をつきたくなくて、つい意味のない質問をしてしまう。
石川は、一向にひとみのほうを向こうとはしない。
ひとみは、耐え切れなくなる。
102log0076:2001/05/16(水) 23:36
-161-

「ねぇ……、辞めようとしてる?」
石川は、答えなかった。
「いやだよ…」
ひとみは石川の前に回り、肩を抱いて揺さぶった。
石川は断じてひとみに顔を向けようとはしなかった。
肩を抱くひとみの手から逃れ、
「もう、決心しました。今週中に、辞表を出します。」
「なんで? わかんないよ…」
「出てってください。もう、おやすみにならないと遅刻しますよ。」
石川は語気強く吐き捨てて、ひとみの背を押した。
「梨…」
部屋を追われたひとみが振り返った頃には、ドアは閉じられていた。
ひとみはしばらく立ち尽くす。

朝。
ひとみは一睡もしないまま、学校へ行く準備をした。
「いってきます……。」
ひとみの後ろにいる保田が問い掛けた。
「なにかあったんですか?」
「やめるんだって……。」
「え?」
ひとみは駆け出して、玄関を開け放ち出て行った。
103log0076:2001/05/16(水) 23:37
更新

>>95
>>98
120〜144なら…>>55にあるけど
他はいまんとこ用意できない…
104名無し募集ちう:2001/05/17(木) 00:35
石川なんでやねーん保全
105名無し募集中。。。:2001/05/17(木) 07:26
106名無し募集中。。。:2001/05/18(金) 02:01
107log0076:2001/05/18(金) 23:20
-162-

書斎。
ひとみの父親は会社に行く準備を終え、立ち上がった。
「和田、慎重にな。」
「……はい。」
和田は歯切れ悪く答えた。
ひとみの父親が部屋を出ると、すぐにPCに向かって、操作しはじめる。

「あの…」
靴を履いていたひとみの父親の背に、石川の高い声がかかる。
ひとみの父親は踵を返し、低い声で聞き返した。
「なんだい?」
「お渡ししたいものがあるんです。」
と、石川が封筒を取り出す。
「夜にもらう。すまない。」
ひとみの父親は疲れたような顔つきを見せて息を吐き、玄関を出て行った。

石川が振り返ると、保田が険しい顔つきで立っていた。
石川は、視線を逸らしながら、会釈して通り過ぎようとした。
保田が石川の腕を掴んだ。
「どうして辞めるの?」
「もう、決めた事ですから。保田さんには……、関係ないですから。」
108log0076:2001/05/18(金) 23:21
-163-

保田の平手が石川の頬を打つ。
石川は、少し後ろに下がって壁にもたれる。
「ちょっと、なにしてんねん?」
偶然居合わせた中澤が慌てて二人の間に入る。
「私には関係ないよ。でも、お嬢様は……、違う。」
保田は、石川に向かってはっきりと言い切った。
石川は黙ったまま、うつむいたきりである。
中澤は状況がつかめずに、ただ石川と保田のほうへ視線を移すばかりだ。
間もなくして、保田はその場を去っていった。

保田は、荒々しい足音を立てて廊下を歩いていた。
洗濯物を抱えて出てきた安倍と飯田にぶつかりそうになる。
「あっぶないなぁ、もう…」
と、言いかけた安倍を、保田は通り過ぎかけながら、きつく見据えてしまう。
安倍は思わず息を止めてしまった。
「圭ちゃん、どしたんだろう……。」
飯田は保田の後姿を見ながら呟く。

屋敷の中には、今までなかったぐらいの不安と緊張感が溢れて始めていた。
109log0076:2001/05/18(金) 23:22
更新
110名無し募集ちう:2001/05/19(土) 14:02
溢れる保全
111我輩は名無しである:2001/05/19(土) 16:08
読んでても先がわからない・・・。
本当にこれからどうなるんだ・・・
112名無し募集中。。。:2001/05/20(日) 05:37
113名無し募集中。。。:2001/05/20(日) 23:55
114名無し募集中。。。:2001/05/21(月) 14:20
115我輩は名無しである:2001/05/22(火) 18:08
         がんばって
116log0076:2001/05/22(火) 23:26
-164-

学校。
ひとみは、席につき、硬い表情で一点を見据えている。
「よっすぃ〜?」
ひとみの視界いっぱいに、後藤の顔が映りこんだ。
「なに……?」
「元気ないな、って。せっかく髪切ってイメチェンしたのに。」
「そうかな…」
ひとみは愛想笑いを混じらせる。
頭の中は石川の事でいっぱいだった。
辞める、とはいってもいきなり家を出ることはないだろう。
わかってはいても、不安だった。

正午を過ぎた頃。
石川は、和田に頼まれて、食事を伴い書斎へとやってきた。
「ここに置いていきます。」
「あぁ。」
和田はPCから目を離さないまま、キーボードやマウスを操りながら返す。
石川は、しばらくその光景を見やり、出て行った。
117log0076:2001/05/22(火) 23:26
-165-

同じ頃。
学校では、昼休みが終わろうとしていた。
「よっすぃ〜、行こう。」
後藤が、ジャージを入れた袋を抱えながら呼びかける。
ひとみは、勢いよく立ち上がった。
「今日は、もう帰るよ。」
後藤が聞き返す前に、ひとみは鞄を片手に駆け出していた。


書斎。
和田はPC横に添えつけられていたFAXが吐き出した紙を取り出し、目を配せる。
険しい表情で、重々しく息を吐き、携帯を取り出し、ひとみの父親へとかけた。
「もしもし。残念ながら……、社長の憶測通りになるかもしれません。」
電話口の奥で、ひとみの父親がため息をつく。
「そうか……。わかった。早めに戻る。」
「……はい。」

「吉澤ひとみさんですか?」
学校からの帰り道、少女の声に、ひとみは呼び止められ、振り返った。
見ると、一人の少女が立っていた。
声を聞かなかったら、少年と勘違いしていたかもしれない。
茶髪のショートカットに、黒の薄いサングラスをつけていた。
服装は、黒のロングコートに、黒のパンツという重苦しい格好である。
声をかけてきた少女はゆっくりひとみに近づいた。
背は、ひとみより少し低い。
118log0076:2001/05/22(火) 23:27
更新

書き込みは嬉しいけど、ageちゃ嫌や…
119名無し募集中。。。:2001/05/23(水) 03:47
>>118
何も書いてなくても嬉しいのか?(ワラ
120名無し募集中。。。:2001/05/24(木) 01:21
121FUCK YOU:2001/05/24(木) 20:34
hayaku kousin sitehosii
122log0076:2001/05/24(木) 23:42
-166-

少女はひとみの前に立って、改めて聞いた。
「吉澤ひとみさん?」
ひとみはまつげを伏せて、頷いた。
後ろを振り返って、近づきかけてたボディーガードに手を上げ、制止させた。
「あなたは、誰なんですか?」
ひとみが聞くと、少女は口元をふと緩ませるだけだった。
少女の態度に、ひとみは憮然とする。
少女を無視して、通り過ぎると、雑踏に紛れない声の大きさで少女は言った。
「早ければ今日か明日にはまた会えるよ。」
ひとみは振り返る。
少女はボディーガードを押しのけて、人ごみの中に紛れ、消えた。

「ただいま。」
ひとみは息を弾ませて、玄関を開ける。
ふと顔を上げると、エントランスの中央にある階段の踊り場にちょうど石川が立っていた。
ひとみは、とりあえずほっとする。
「お帰りなさいませ。早退ですか?」
石川は、いかにも仕事という感じで言葉を並べた。
明らかに確信的な態度である。
が、ひとみは、腹を立てようとはせず、どこかあきらめたような笑顔で石川を見つめた。
石川は、「失礼します」と、ひとみの視線から逃げるように背を向けた。
123log0076:2001/05/24(木) 23:42
更新
124黄板:2001/05/26(土) 02:25
あぶないあぶない
125名無し募集中。。。:2001/05/26(土) 12:07
126名無し募集中。。。:2001/05/27(日) 00:41
>>124 何が?
127名無し募集中。。。:2001/05/27(日) 23:43
128名無し募集中。。。:2001/05/28(月) 23:47 ID:???
129我輩は名無しである:2001/05/29(火) 18:23
早く更新求ム
130log0076:2001/05/29(火) 23:22
-167-

吉澤家の屋敷のトイレ。
少女の声が響く。
「今週中ですか……、いえ、なんでも……。この日のためにやってきたから…」

ひとみは制服を脱がず、ベッドに座りぼんやり空を眺めていた。
石川がいなくなったら――
「うそつき。」
ひとみは重く呟く。
ついこの間の約束があっさり破られた事に焦燥を隠し切れない。

屋敷の前に、後藤が追い払った黒塗りの車が再び現れた。
車の後部座席には、先ほどひとみに声をかけた少女がいる。
添え付けの携帯が鳴り、運転手が素早くとる。
「社長、電話です。」
少女は携帯を受け取った。
「もう? 手が早いね…さすがに。ま、相手が相手だもんね…」
少女は携帯を耳に当てながら屋敷を冷静な顔つきで見据える。
携帯を切り、運転手に返した。

運転手が振り向かないまま言った。
「社長、たかが一人の人間のために何ヶ月もこんな事をするのは…」
「私にとって、圭ちゃんは会社以上だよ。先代には悪いけど。」
少女は、バックミラーを睨みつけた。
131log0076:2001/05/29(火) 23:22
-168-

「石川。」
階段に手すりをかけようとしていた石川の手が止まる。
振り向くと保田がいた。
石川は今朝殴られた頬が痺れるような錯覚に襲われながら、
「なんですか…」
「今朝のこと。殴った事は、謝るよ……。」
「……そうですか。」
石川は踵を返そうとする。保田は慌てて石川の肘を掴む。
「だから待ってって。あんた、また一人で深く考えすぎてるよ。この間のことはアンタのせいじゃ…」
石川は首を振る。

石川の中では、ひとみの傷をえぐってしまうきっかけを作った、という事実は変わらなかった。
考えるたびに、自信を無くし、ひとみのそばにいるべきではないと思い込むようになっていた。
そばについて支える、という約束も愚かに思えた。

石川は早口に、唱えるように吐露する。

「いないほうが良かったんです…」
石川はきつく目を閉じ、泣き出しそうになるのを防いだ。
132log0076:2001/05/29(火) 23:23
-169-

「違うよ…」
保田の、石川の肘を掴む手に力が入る。
「石川、あんたは気づいてないだろうけど、お嬢様はアンタを必要としてる。
そばにいるって言っておいて置いてかれるほど嫌な事ないよ。」
石川は苦々しく顔をしかめる。
保田に矛盾を突かれて、黙り込む。

「石川、考え直して……。お嬢様のそばに…」
「できない…できないです…」
「ヘタしたら、誰もいなくなるんだよ。」
「えっ?」

「またケンカしてるんか?」
エントランスに、中澤の声が響いた。
張り詰めていた空気が少し緩む。
「仲直りだよ。」
保田は、柔らかい表情を見せて答える。
受けた中澤は疑わしげに石川を見上げる。石川は即答した。
「仲直りですよ。」
「ほならええけど。そろそろ夕飯の準備すんで。」
中澤はキッチンへ向かった。保田は後ろに着いていく。

――ヘタしたら、誰もいなくなるんだよ
保田の言葉が妙に引っかかって、石川はしばらく考え込んだ。
133log0076:2001/05/29(火) 23:24
更新
134名無し募集ちう:2001/05/29(火) 23:38
保田カッケー!保全
135 :2001/05/31(木) 11:50
136名無し募集ちう:2001/06/02(土) 01:30
こんなときにも保全
そろそろエロいシーン等が読みたいんだが。
なんかいい作品はないか?
138我々の戦い勝ちませう:2001/06/03(日) 18:22
>>137
同感。
139名無し募集ちう:2001/06/05(火) 00:34
どうだろう。
140しょーーーーーりの:2001/06/05(火) 11:23
エロい作品ね・・・
そろそろ俺も読みたいなぁ・・・
141ぷrtっ:2001/06/07(木) 20:33
ってゆーか早く更新しろよ
logよォ。
さっさとしろっ
142シュール君:2001/06/07(木) 20:37
   ____      ____________
   (___ λ   /読まれないよい小説と読まれるクソ小説
  ⊂●⊃/\__) <  幸せな読者はどっち?
¶   | / @    \
( )   \=/  ___ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| |  /   |  γ。。o ヽ
ヽヽ-    (_ノ___ノ
   |
   |   |
143log0076:2001/06/07(木) 23:10
和田の携帯が鳴る。
相手はひとみの父親だ。
「社長、状況は?」
【よくない。データが流出していた。損害は免れそうもない。特に本社はな。】
「そうですか……。」

静かな夕食の時間があっさりと過ぎていった。
テーブルに向かっているのはひとみだけだ。
食事をしながら、石川にチラリチラリと目を配る。
石川は、ぼやりとした目つきでひとみにすら気を配っていなかった。

屋敷前にひとみの父親が乗り込んだベンツが着いた。
車が停車すると、すぐに降りて屋敷に向かう。

静かな屋敷内に玄関が開く音が響いた。
間もなくして、ひとみの父親が、食堂に入ってくる。
いつになく神妙な顔つきの父親に、ひとみはつい漏らした。
「どうしたの?」
「今すぐ全員、リビングに来てくれ。」
144log0076:2001/06/07(木) 23:11
ひとみの父親の指示どおり、ひとみ、石川、和田、中澤、飯田、保田、安倍がリビングに集まった。
和田は、さりげなく入り口を塞ぐようにドアの前に立つ。
合図を受け取ったかのように、椅子に座ったひとみの父親が口を開いた。
「話がある。三日前から重要なデータが他所の会社に流れ出していた。
今週中には、会社は損害を受ける。もう避けられない。」
力強く放たれた言葉のあと、部屋がしんと静まる。
中澤が歩み出た。「クビですか?」
ひとみの父親は頷いた。「その可能性のほうが大きい。」
「そうですか……。」
「まだ話がある。君たち家政婦についてだ。」
「クビ以外になにか?」
「屋敷内から盗聴器が見つかった。」
事情を知っているひとみの父親と和田以外の全員が息をのんだ。

「警察に言い渡す前に個人的に話したい…」
ひとみの父親は椅子から立ち上がると、一列に並んでいる家政婦たちのほうへ向かった。
保田の腕が掴まれる。他の家政婦は目を見張った。
保田から臆している気配は感じられなかった。極めて冷静であった。
屋敷内にインターホンの音が響く。
145log0076:2001/06/07(木) 23:13
ひとみの父親は、インターホンを無視して言葉を続けた。
「君の過去を調べさせてもらったよ。」
保田は、さりげに掴まれた腕を外しながら、
「昔の事です。」
「そうだろうな。だが、君の仕事で泣いたものは少なくないはずだ。」
「盗聴はしていません。この家に来たのも家政婦として働くためです。」
「圭ちゃん……、どういう事やねん…昔の仕事て…」
中澤が頭を抱えながら保田の方を叩いた。
保田は、目だけを動かして部屋を一望する。
ひとみは大きな目を瞬かせている。
石川は、前で手を握ったまま、保田を凝視している。
飯田の姿が消えている。来客を迎えにいったのだろう。
安倍は、瞬きすらせず、保田を見据えていたが、目が合うと訝しげに外した。
保田は、大きな目を伏せて、薄く笑う。
「君じゃないんだな?」
ひとみの父親が保田を振り向かせる。
「はい。」
保田は、毅然と答えた。
146log0076:2001/06/07(木) 23:14
更新
147わっちょい!:2001/06/09(土) 11:06
この先どーなるんだ!?
盗聴器の犯人はもしかして・・・
あの吉澤と出会った少女か!?
148ガチンコ:2001/06/09(土) 15:45
と、その時!!!!!
149log0076:2001/06/10(日) 23:30
「信じよう。」
ひとみの父親は深く頷く。
が、険しい表情が崩れる事はなかった。
保田以外に見当がつく者がいないかったからだ。

「おじゃましま〜す。」
突如、場の雰囲気にそぐわない声がリビングに響き渡る。
声のするほうに目を向けてひとみは驚く。
昼間ひとみが出会った少女が立っていたからだ。

「君は…」
ひとみの父親が眉をひそめて少女を凝視する。
少女はひとみの父親の前に立つとサングラスを外して、顔を晒した。
端正で、それでいて大人びた顔つき。
血色が悪いと錯覚しそうなぐらい白い肌。
不敵に歪んだ口元。
「お久しぶりですね。半年前の会合以来ですか。」
ひとみの父親は黙ったまま少女を見据えている。
少女は、ひとみの父親のそばにいる保田のほうを向く。
目尻に軽く皺が寄った。
150log0076:2001/06/10(日) 23:30
「圭ちゃん。久しぶりだね。元気だった?」
保田は少女をきつく見つめるだけで答えなかった。
次第に、あきらめにも似た表情が浮かび上がる。
少女は踵を使ってぐるりと部屋にいる人物を見渡す。
ひとみを見つけて、くすりと声を漏らした。
「すぐ会えたね。」
「はぁ…」
ひとみは、少女が現れる前に繰り広げられたやりとりをまだ飲み込めきれていなかったためか、
歯切れ悪く返事する。
「今回は、大変なことになりましたねー。」
少女はひとみの父親に笑顔を向ける。
ひとみの父親は舌打ちを噛み殺して、冷静に答えた。「君には関係ない。」
「そうですかねぇ〜。
私はお宅の会社と切る気はないですよ。
まー、ウチだけとつながっていても損害は損害のままですけど。」
「その気遣いは嬉しい。
だが、今ここで話し合っているのは私たちの問題だ。帰ってくれ!」
空気が裂けてしまうのでは、というほどの怒号が響く。
同時に、保田が少女に平手打ちをくらわせる音が続いた。
151log0076:2001/06/10(日) 23:31
少女は二、三歩後ろによろめいた。
くくくと打ち震えるような笑いが、子どものような無邪気な笑いに変わる。
「やぁっと、かまってくれたね、圭ちゃん。」
「……紗耶香、なにが目的なの?」
少女――紗耶香と保田は見詰め合う。
紗耶香の表情から笑みが消え、悲哀が滲んだ。「戻ってきて。それだけだよ。」
保田はゆっくり首を振った。
「もう、あんな仕事はしたくない。
私が流した情報で死んだ人だっている。だから…」
「今さら?」
市井の目の色が攻撃的なものに変わる。
「ふつーの家政婦やったって、死んだ人は戻ってこないよ。
それに、私が会社継いでからそーいう仕事は一切やらせてない。
今日来たのは、圭ちゃんを迎えに来ただけ。ウチで家政婦として働きなよ。」
紗耶香は突然ドアに向かって走り出した。
一同の視線が一気にそちらに移る。
安倍が紗耶香に腕を掴まれていた。紗耶香が安倍の耳に口を寄せる。
「どこ行くの? スパイさん。」
152log:2001/06/10(日) 23:31
更新
153ひょう!!:2001/06/11(月) 20:41
天才だ。天才だよ。
logさん。
尊敬するぜ。
154名無し募集中。。。:2001/06/13(水) 07:00
よっすぃーってフタナリ?
155族!ゾクゾク:2001/06/13(水) 19:18
俺も小説書いてみたくなった。
あんたは本当に天才だよ。
logさん
156名無し募集中。。。 :2001/06/13(水) 19:19
あいつこんな所で書いてたのか
157B'z狂信:2001/06/13(水) 19:21
情けねえ
158log0076:2001/06/15(金) 23:23
「な、何言ってるんですか?」
安倍は、紗耶香に乱暴に掴まれた腕を振り、払いのける。
紗耶香は挑発するように顎をしゃくって、安倍を見据える。「すっとぼけんだ?」
安倍の表情に微かに動揺が見え隠れた。

「紗耶香、いい加減なこと言わないで! 私に話があって来たんでしょ?」
保田は紗耶香の肩を掴み振り向かせようとするが、紗耶香は石のように動かない。
構わずに、一旦離れた安倍のほうに向かった。
「圭ちゃん、なんでこの娘かばうの?」
「やっ…」
安倍は壁に押さえつけられる。
市井は手を緩めない。すっと安倍に顔を近づける。「正直に言えば?」
市井の吐息と鼻息が混じり、安倍に届く。
安倍は顔をそむける。
恐怖なのか図星なのか、表情は険しい。
「よせ。」
ひとみの父親が、市井を制した。
市井は素直に従い、安倍から離れる。
安倍はゆっくり顔を上げる。
安倍以外の全員が、本人たちも気づいていないぐらい疑わしい視線を安倍に向けていた。
159log0076:2001/06/15(金) 23:24
「なっち……。スパイって、嘘……だよね?」
飯田が、慰めるような口調で近づく。
安倍は、遠い虚ろな目で、淡々と言った。「ううん。本当だよ。私が、盗聴器しかけたんだ。」
市井は、やれやれという感じで息を吐き、壁に背をつけた。
保田は、あきらめたように肩を落とす。

「……なぜだ?」
ひとみの父親はまだ信じられないような表情だった。
安倍は口元に微かに笑みを浮かべ、ひとみの父親のほうを向き、話し始めた。
「個人的恨みですよ。
十三年前に、あなたが吸収した会社のうちの一つ、覚えてます?」
大きな安倍の瞳を眺め、ひとみの父親は目尻に皺を寄せた。
「そうか……。君の父親の会社だったのか。」
「父は、自殺しました。
お母さんに捨てられて、私は施設に入った。
あなたを、恨んだ。
15の時に、ある企業に拾われて、仕事を覚えました。」
「それで、うちに来たわけか…」
「正直、こんなに簡単に潜りこめるなんて思いませんでした。
名前だって、そのまま“安倍”にしたのに。
所詮、うちの会社なんてここに比べたらちっぽけだろうけど…」
「あの時の吸収合併は双方の話し合いの上での事だ。」
「だから咎められる筋合いはない?」
「……そうだ。」ひとみの父親は歯切れ悪く答えた。
160log0076:2001/06/15(金) 23:27
更新
今続いてる小説の中で一番!
162黄板:2001/06/18(月) 01:26
マリマン今どうよ保全
163名無し募集中。。。:2001/06/18(月) 18:16
あれからちょうど2ヶ月。。。久しぶり皆でBSラストライブ見ようぜ
164名無し募集中。。。:2001/06/18(月) 18:25
これがシアター?
165ななっすぃー:2001/06/18(月) 19:30
>>164
激しく違う
166IP1A0695.tky.mesh.ad.jpさん:2001/06/19(火) 22:17
age
167namaIP:2001/06/19(火) 22:34
期待age
168log0076:2001/06/19(火) 23:12
安倍の大きなガラス玉のような瞳がぎょろりと動き、ひとみの父親を捉える。
「冷たい、最低な人……。」
「なっち…」
保田が優しく問い掛ける。
安倍は、保田に顔を向けないまま、「圭ちゃん、いつから?」
「最近だよ。」
安倍の瞳が、長い睫毛に消える。口元が自然と緩む。
「嘘、お嬢様がおかしくなった時からでしょ?」

「おかしくなった」という安倍の言葉に、ひとみは素直に落ち込んだ。
避けようのない事実だとしても、できれば目をつぶって通り過ぎてしまいたい事実。
と、そのとき、ひとみの横から手が伸びて、手を握られる。
顔を上げると、手の主は石川だった。
石川は、保田たちのほうを向いていたが、ひとみには十分な安息感を与えていた。
そうだとしても、今後石川が吉澤家に留まる、というわけでもないが。

「出て行ってくれ……。警察には伝えない。」
重い呟きが響く。ひとみの父親が安倍の腕を取り、追い出そうとしていた。
一瞬、安倍とひとみの目が合う。
安倍はひとみの父親から逃れて、「まだ、終わってません…」
169log0076:2001/06/19(火) 23:13
安倍が言葉を吐いてから、一瞬の出来事だった。

安倍はひとみのほうへ駆け出していた。
翻る安倍のフレアスカートから鈍い光が漏れる。
安倍の右手に、ナイフがあった。
ひとみは、後ろに下がったが、壁に背中を打つだけだった。
安倍のナイフが腹部にめがけて迫る刹那。

石川がひとみの身体を覆うように抱きつく。
石川の頭が、ひとみの顎を掠めた。
石川の髪の匂いがひとみの鼻腔に届く。

安倍が、石川の上にかぶさる。
同時に、ひとみは壁に押し付けられる。
石川の吐息が、ひとみの胸をジワリと暖める。

「石川ぁ!」
怒号と悲鳴の入り混じった保田の声。
後頭部を打ったひとみはふらつく思考を何とか留めようとする。
腕の中の石川がどんどん重たくなっていった。
足元が冷たい。
失禁してしまったのだろうか、と慌てて視線を落とすと、赤黒い血だまりができあがっていた。
170log0076:2001/06/19(火) 23:13
ひとみは、重くなっていく石川を支えきれずに尻を着く。
恐怖と衝撃で、思考が順番どおりに物事を伝えようとしてくれない。
石川の顔色がどんどん蒼くなっていく。
歯の奥ががたつき始める。
目と喉の奥が焼けるように熱くなり、涙が溢れ始める。
「梨、華……ちゃん?」
石川の血で汚れた指先でそっと頬を撫でる。
石川の、切れ長の目がうっすらと開き、ひとみを捉えたように思われた瞬間、石川の頭は支えを失ったように垂れた。

その後のことはひとみ自身はよく覚えていない。
ただ、無心に石川を抱きしめていた、という記憶だけが残っている。
消えゆく魂をつなぎとめておくかのように。

      ×   ×   ×

――半年後のある寒い朝、飯田圭織はバスに乗り込んだ。

「圭織?」
耳慣れた声に顔を上げると、バスのシートに座った中澤が本を片手に目を丸くしていた。
飯田は、中澤との再会に、テレくさそうに笑顔を向けた。

飯田がバスに乗り込んで、数十分後、窓の外に見える風景が殺伐とし始めてきた。

すでに、乗客は中澤と飯田だけであった。

終点を告げるアナウンスが流れ、中澤と飯田は顔を合わせたときの笑顔など欠片もない表情でバスを降りた。
171log0076:2001/06/19(火) 23:14
更新
172名無し募集通。。。:2001/06/20(水) 03:19
石川!?
173log0076:2001/06/21(木) 23:08
灰色のコンクリート製の壁で覆われた無機質な廊下を、中澤と飯田は歩いていた。
二人を先導するように、制服の警官が歩いている。
鉄製のドアに突き当たり、三人は中へ入った。

室内は、なぜかぼんやりと霞んでるようにも見えた。
アクリル製の壁の向こうに、一人の少女が座っていた。
ドアが閉まると同時に、少女がゆっくり中澤と飯田に顔を向ける。
安倍だった。
「久しぶりだね、裕ちゃん、圭織。」
屈託の内容に見える笑顔。
が、大きな瞳の奥は真っ黒な闇の気配を匂わせる。
それでも、中澤と飯田は澱みなく笑顔を返した。

3人は、今の自分たちの環境を話した。
特別な話題を避けようとしている、個々の私意が見えなくもない雰囲気。
面接時間が終わろうとしていた。
中澤と飯田は名残惜しそうに立ち上がる。
中澤が、アクリルの壁に密着して、安倍に問うた。
「……つらく、ないか?」
安倍は、一瞬口角を上げ、首を縦に振った。
「つらくないよ。
罪を犯したんだからさ。
当然の報いなんだよ。
三年なんて少なすぎると思うけどさ……。」
174log0076:2001/06/21(木) 23:08
半年前まで、「吉澤家」であった屋敷の前に、少女たちが立っていた。
後藤、辻、加護だ。
門には「売屋」というプレートが下がっている。
門の向こうに見える屋敷前の草は荒れ放題だ。
「そこ、なにやってんの?」
突然の声に、後藤、辻、加護は顔をこわばらせる。
が、声の主を見て、顔がほころんだ。
声の主は矢口だった。
遠くにいた矢口は、笑顔だったが、門の前に着き、屋敷のほうを見ると、微かに笑顔が翳った。
後藤たちの視線に気づき、無理やり笑顔を繕おうとしてもひきつるばかりだ。
主のいなくなった屋敷は、冷たく矢口たちの前に佇んでいる。

都心の外れの高台にある墓地に、一人の少女がいた。
白い墓石の間を歩き、目的の墓を見つけたかと思うと、片手に持っていたバケツから雑巾を取り出して拭き始めた。
一通り拭い終えると、線香や菊の花を入れ替え、手を合わせる。
「圭ちゃん。」
吹き込んでくる風音に紛れて、声が響いた。
呼ばれた少女――保田は振り返り、かけていたサングラスを外した。
黒コートの裾を風になびかせて、紗耶香が立っていた。
175log0076:2001/06/21(木) 23:08
更新
176名無し娘。:2001/06/23(土) 17:21
誰の墓なんだ!?
177log0076:2001/06/24(日) 23:16
「また、見つかっちゃったね。」
保田は、高台から見える街を見下ろしながら、笑った。
紗耶香も付き合うようにふっと笑って、保田の横に立ち、墓を見つめた。
「ICHII」と刻まれた、洋風の墓。
市井の父親が眠っている。
「圭ちゃんがお父さんの墓参りなんてね。」
市井はぼんやりと呟く。
保田は、サングラスを握り締めて、
「自分が荷担してたから偉そうには言えないけど、あんたのお父さんのやり方、好きじゃなかった。
でも、拾ってもらったことには感謝してるから……。」
「この半年どうしてた?」
紗耶香は、話の前後を無視して聞く。

保田は、思い出す。
半年前のあの日のことを――

「石川ぁ!」
自分の叫び声。
ひとみの腕の中に崩れる血まみれの石川。
両腕を、鮮血に染めて、佇む安倍。
部屋にいた全員が、あまりの光景に立ちすくんでいた。
「なにやってんの? 救急車呼びなよ。」
叫ぶとまでいかないぐらいの声の強さで紗耶香が的確な判断を下す。
保田は、石川に近づいて、出血した背中に手を当てる。
保田の手を押し返すように溢れる血。
178log0076:2001/06/24(日) 23:17
ひとみは――
「梨華ちゃん」と呼びかけるばかりだ。
石川からの返事はない。
気が着くと、石川の背中に当てた両手が血に埋まってた。

のち、救急車が到着して、安倍は警察へと引き渡された。
安倍は19歳。
刑はそれほど重くなることはないだろう、と誰となしに呟いたのを、保田は覚えている。

石川が手術室に入って一日が経とうとしていた頃、手術が終わった。
一命はとりとめたものの、傷が脊椎に及んでいたため、歩行が困難になることは避けられないと言う。
が、石川の意識が覚める事はなかった。

保田は、その日を境にひとみの前から姿を消した。


保田と紗耶香は墓を離れ、高台を下りていた。
「私から逃げるため?」
と、紗耶香は足を止める。
保田は薄ら笑いを浮かべながら紗耶香にデコぴんをかます。
「うぬぼれんじゃないわよ。
元スパイってのがばれたら、居づらいからね…」
「でも、石川って娘のそばにいたかったんじゃないの?」
保田は返答しないまま歩き出す。
179log0076:2001/06/24(日) 23:17
石川の手術が終わって一週間経った時のことだ。
病室で、ひとみの父親はひとみに決断を下した。
「一旦本社を離れて、海外の支社に移る。最低でも5年は向こうで過ごす。
今度はお前も連れて行くぞ、ひとみ。」
「梨華ちゃんは? こんな状態で置いてくの?」
ひとみは、ベッドに眠る石川に視線を移す。
きつく目を閉じたまま、全く目を覚ます気配を見せない石川。
ひとみは首を振った。
「……嫌だ。絶対いや。ほおっておけるわけないじゃん…」
「決まった事だ。それに、彼女は俺の友達の娘だ。悪いようにはしない。」
「置いてけないよ!」
「……二週間後に行くからな。」
ひとみの父親は振り切るように病室を出た。

「さすがですね。」
嘲りを色濃く含ませた紗耶香の言葉。
ひとみの父親は声のしたほうを見てため息をついた。
「また君か…」
「お父さん!」
と、ひとみが病室から顔を出す。
紗耶香を見つけて、落ち着きを取り戻し、会釈する。
180log0076:2001/06/24(日) 23:17
「嫌だよね。父親のわがままは。」
紗耶香は、ひとみの前に立って肩を叩いた。
「行くぞ…」
ひとみの父親は苦々しそうに目を細め、ひとみの腕を引いた。
紗耶香は、引かれていくひとみの手を握り、そっとささやいた。
「作る気があるなら、力になるよ。」
紗耶香の手からひとみの手が離れる。
紗耶香は、同情の眼差しを見せながらも、笑顔でひとみを見送った。

「和田。あとは頼んだぞ。」
ひとみの父親はひとみを車に乗せると、タクシーに乗り込み去っていった。
ひとみは、紗耶香に握られたほうの手の中にある名刺に目を落とす。
走り書いた字で、「自分の会社」と書いてあった。

ひとみは日本を離れる前日に、石川を訪ねた。
眠っている石川の耳元で囁いた。
「必ず迎えに来るからね。」
顔を離す。
石川の顔が少しだけ笑顔になったような気がした。

翌日、ひとみは日本から海外へと飛んだ。
保田は空港からひとみを見送った。
181log0076:2001/06/24(日) 23:18
保田と紗耶香は石川のいる病院へと向かっていた。
二人とも、一ヶ月に一回は訪ねていたのである。
「名刺? 何企んでるのさ?」
「企んでないよ。それに、もう終わったしね。」
思わず、保田は深刻な顔になった。
「なに考えてるの……?」

紗耶香は答えないで、サングラスの下で目を細めた。

「あの娘、一週間前に目ぇ覚ましたんだよね?」
「そう。でも、ぜーんぶ忘れちゃったみたい。とりあえず、保田さんって呼ばせるようにしたけど。」
すっかり来慣れた石川の病室。
保田は、当たり前のように入り、当たり前のように挨拶をしようとカーテンを開けた。
石川の姿がベッドから消えていた。
保田はベッド脇の置時計に目をやる。10時。
外に出すには時間が早すぎる。
病室を駆け出て広場に向かう。
182log0076:2001/06/24(日) 23:18
広場の外れにある大樹の下に、見慣れた二つの影を見つけて、保田は涙ぐんだ。
車椅子に座った石川、その後ろにいるのは、まぎれもない――

石川はぼんやりとした表情で一語一語確かめるように呟いた。
「……ひとみちゃん?」
「そう。私の名前。……どうしたの?」
「似た声で、迎えに来るって言われたことがあるような気がしたの。ひとみちゃん、だったの?」
ひとみは、答えないで、石川に笑顔を向ける。
石川も、解き放たれたように笑顔になる。

ひとみは石川の手を握った。
「ずっとそばにいるから。」
「……。」
「いや?」
「すごく嬉しい。」
183log0076:2001/06/24(日) 23:19
-完-
184log0076:2001/06/24(日) 23:19
苦節約一年……(長すぎ)
ようやく完結。

元はと言えば、「石川が家政婦だったら〜」みたいな感じのネタスレだったのに。
長々とグダグダと文章を書き連ねてきた所存であります。
登場人物、削ればよかったな、と今さら後悔。

出す意味ないやん、とかこのエピソード、確実にいらないなっていう部分が明らかにある。
(毎回そうだけど、今回は特に)

んな作品に、読む時間を費やしてくれた読者に感謝。

あなたの心には何が残りましたか? by 木村奈保子(いくつやねん)

残り三本
頑張ろう……

つうか……「-完-」失敗したのが唯一の後悔。
185ななっすぃー:2001/06/25(月) 00:16
おつかれさま!
感動シターヨ
186:2001/06/25(月) 04:24
残り三本てなんやねキミ
教えて
187黄板:2001/06/25(月) 14:53
おめでとう。。。
188じゃない:2001/06/25(月) 22:18
ネタスレだったのかよ!
189log0076:2001/06/26(火) 00:21
>>185
したーよ

>>186
http://natto.2ch.net/test/read.cgi?bbs=morning&key=981203964&ls=50
http://natto.2ch.net/test/read.cgi?bbs=morning&key=989849142&ls=50
http://www19.freeweb.ne.jp/novel/mmlover/cgi-bin/if/mibbs.cgi?mode=point&fol=bad&tn=0003
仮想には間借り気分で(管理人さんすんまそ…)
いずれモ板に移転

あと一本はまだ…

>>187
うい

>>188
駄文も広い意味ではネタ
190log0076:2001/06/28(木) 00:22
万が一のために保全
191log:2001/06/29(金) 23:19
再開
192名無し募集中。。。:2001/07/01(日) 14:53
キリンカップ感想スレ候補です
193名無し募集中。。。:2001/07/01(日) 14:55
まだ小説書いてたんかい…
194sagenaide:2001/07/01(日) 16:23
age
195log0076:2001/07/03(火) 01:27
wahday
196名無し募集中。。。:2001/07/06(金) 02:50
196
197名無し募集中。。。:2001/07/06(金) 06:18
このコンビ可愛さは反則まけだよ・・
中澤しかもってないあの感じ・・・
最高だね。
198log0076:2001/07/07(土) 02:22
よし、座輪
199 :2001/07/07(土) 23:06
200log0076:2001/07/08(日) 23:36
過去ログ
http://bad.adam.ne.jp/bbs/mibbs.cgi?mode=point&fol=log0076&tn=0003
すぺしゃるさんくすとぅ S⇔R
201log0076:2001/07/11(水) 01:59
ぶらぶらと
202log0076:2001/07/12(木) 00:18
「あ…」
靴を履き替え玄関を出た市井はつい声を出してしまう。
ちょうど、隣のドアから福田が出てきたところだった。
福田は市井と目が合うと軽く会釈をする。
が、話し掛けようとはせず、そのままさっさと歩いていってしまった。
「普通」なら、一緒に帰りましょうとかなんとか誘われるかな?と思い込んでいた市井は面食らう。
期待している自分自身にも、だ。
今まで拒んできたものが、実は自分が一番求めていたのかもしれない。
そして、自分が理想としてきた他人との関係を、今、福田がやってのけている。

――私、最高にかっこ悪い

市井は思い知る。

「明日香。」
市井は、福田に声をかける。
福田は立ち止まり、振り返った。顔は怒ってるようでもないが、笑っているようでもない。
じっと、市井の言葉を待っている。

「ありがと。」
市井は福田を通り過ぎ、駅のほうへと消えていった。
福田は不可解な表情のまま呟いた。
「変なの。」
203log0076:2001/07/12(木) 00:18
渋谷の、若者たちが集まるファッションビルのとある店の一角で、同じスカートに手を伸ばす少女が二人。
「「あ…」」
シンクロする声。
後藤真希と、矢口真里だ。
バツの悪そうに、お互い同時に手を引く。
「いいよ、はい。」矢口が、スカートを後藤におっつける。
「いいです。」後藤は意地を張り、スカートを元の位置にかけてしまう。
二人は背を向けて、店内の服全てに目を通す。
同時に店から出る。

矢口は横目で後藤をあおり、
「いいの? 学校サボって?」
「先輩こそ…」
「私は、いいの。」
「理由になってませんよ。」
矢口の舌打ちしかける音が、後藤の耳に届く。
沈黙。
二人は次の店に向かおうと思い、踏み出す。
同じ方向に。

矢口が思わずクスリと吹きだし、後藤もなんともいえない顔になりながらも、矢口に感化されてしまう。
「おごるよ。」矢口が顎で合図する。
204log0076:2001/07/12(木) 00:19
更新
205log0076:2001/07/13(金) 01:39
保全
206log0076:2001/07/16(月) 01:00
もう少し涼しくなって欲しいが
更新するよ…
207log0076:2001/07/17(火) 19:32
市井の腕に包まれている矢口の小さな背中。

突然、後藤の脳裏に屋上で見た出来事が甦る。
矢口と呑気にコーヒーをすする自分に呆れを通り越して笑い飛ばしてやりたい気分になる。

少しでも市井の事を吹っ切りたくて、こうして学校をサボってるのに――
なのに頭は市井の事で占領されてしまう。

ふつふつと湧き上がる後藤の怒りは、あっさりと表情に出る。
さすがの矢口も、つい指摘せずにいられなくなった。
「もしかして、むかついてる?」
「違う。違います…」
後藤は、しきりに手櫛で髪をいじりながら、うつむいた。
実際、矢口に腹を立てているわけでもないのだから、後ろめたさを感じる必要はないにしても、
矢口の顔をまともに見れなくなる。
208log0076
こーしん