飯田とりんね
関西は今晩放映
マターリ逝くよ
4 :
夜行:2000/10/25(水) 17:14
さっきまで所々に黒い地肌を見せていた田畑は、列車が山に近付くにつれて、白い雪で覆われた大地
との境界線を徐々に失っていった。
流れていく景色は、線路脇の灯火が照らし出す若干の起伏を見せる雪原の白さと、その向こうの暗闇
だけだったが、私にとっては決して退屈なものでは無かった。
薄暗い車内、間近な雪しか見えない外、そしてそれらに挟まれた窓硝子。そこには、車窓の下に設け
られた出っ張りに肘を置いた私と、向かい側の席に座る少女が映っている。
前の停車駅からこの車両に乗り込んできたその少女は、圭織と名乗った。
硝子を介して圭織の様子を窺うと、彼女は赤い網に包まれていた蜜柑を一つ取り出し、お世辞にも器
用とは言えない手付きで皮を剥き始めるところだった。
「お一ついかがですか?」
長い黒髪に包まれた白く整った顔。寒さで凍える事など無さそうな、赤い唇が少し笑っている。
私は礼を言って圭織から蜜柑を受取った。案に外して綺麗に剥かれたそれは、大輪の菊の花を思わせた。
5 :
夜行:2000/10/25(水) 17:14
圭織は、歌手をしていたと言った。私については牧場で勤めている、とだけ言っておいた。牧場と聞いた
途端に彼女は目を輝かせ、しきりと私の話を聞きたがったが、話すほどの事は無い、とキツくならない程
度に断った。正直なところ、話して聞かせたい気持ちも有ったのだが、それ以上に圭織の話を私は聞きた
かったのだ。
圭織は語り始めた。かつては女性ボーカルグループの一員だった事、デビュー時の苦労話、追加メンバ
ーとの軋轢、仲間の脱退、初のミリオンセラー、続く脱退、更に追加されるメンバー、三度の脱退騒動、そ
して解散──。未だ二十歳にもならない彼女の波乱万丈な数年間は非常に興味深かったが、それ以上
に、くるくると変わる彼女の表情に私は大きく惹きつけられていた。
楽しかった事を話す時は腕を振り上げ、苦しかった時を思い出してはさも深刻そうに眉間に皺を寄せ、悲
しかった事を回想している時は目に涙さえ滲ませていた。
持参してきた文庫本「遠野物語」は、既に不要な物となっていた。
6 :
夜行:2000/10/25(水) 17:15
ふと会話が途切れた。車内の冷えた空気が頬を刺す。
圭織は先程までの快活さを潜め、両手を腿の上にきっちりと揃え、ただ静かに座っていた。伏せ気味の
瞼、長い睫毛、少し赤みを帯びた目尻、濃過ぎず薄過ぎない目下の隈。その目がゆっくりと上げられた。
私が見ていたのに気付いて、圭織は少し驚いた表情をした。それでも私は、彼女の目から視線を逸らす
気にはなれなかった。
「圭織は人をじっと見る癖があって、初対面の人によく誤解されるの。気持ち悪いなんて言われた事もある。
凄く悲しかった。カメラが回っているのは分ってたけど、泣いちゃうくらい、本当に悲しかった」
少し泣きながら、でも懸命に彼女は話した。目の淵が更に赤みを増した。
こんな綺麗な瞳で見つめられて何が不快だと言うのか? 圭織を悲しませた心無い加害者に、激しい憤
りを覚えた。
私は圭織の真っ直ぐな視線を受け止めながら、手に持った「遠野物語」の山女の描写を思い出していた。
長き黒髪を梳りてゐたり。顔の色きはめて白し。
身のたけ高き女にて、解きたる黒髪はまたそのたけよりも長かりき。
7 :
夜行:2000/10/25(水) 17:15
目的地はまだまだ先で、到着は明け方近く。
窓の外は暗く、殆ど何も見えない。たまに景色が変わるのは、凍てついた木々が山を視界から遮る時くらいだ。
「雪が好きなの?」
突然、圭織の方から話しかけてきた。私が相変わらず、飽きもせずに窓の外を見ていたせいかもしれない。
「うーん。雪そのもの、って言うより、この列車の窓から見る雪景色が好きなんだ」
すると、私の言葉を確かめるように、圭織が上体を傾けながら窓の外に目を遣った。しかし表情は変わらない。
「圭織は好きじゃないんだ、雪」
圭織が再び私に視線を戻す。
「雪より、雪が解けて出来た水が好き。だから、見るなら、ひんやりとした水が流れ込む池や川がいいな」
「ふーん、そうなんだ」
「綺麗な水のある場所なら、一日中見てても飽きないと思う。そんな所でイモリが浮いたり沈んだり…」
「イモリ? 身体が黒くてお腹が赤い、蜥蜴みたいなアレ?」
「そう。イモリは綺麗な水にしか棲めないんだよ」
そう言いながら、圭織は静かに目を瞑った。かつて見た水のある景色にでも、想いを馳せているのだろうか。
8 :
夜行:2000/10/25(水) 17:16
ぎぃ、と列車が停止した。もう、いくつ目の停車駅だろうか忘れてしまった。
この駅にも、乗り込んでくる客はいなかった。
ホームの中央に設けられた待合室が目の前に見える。窓から薄ぼんやりとした明かりが漏れ、周囲に
積もった雪を照らしている。
「誰もいない」
思わず口を突いて出た言葉がそれだった。ホームに積もった雪は踏みしめられた跡も無く、少し離れた
場所に見える改札口にも人気が無い。
駅員達は部屋に篭って出て来ないだけなのだろうか。
「ここから先は、ずっと、こんな感じだよ」
圭織が事も無げに言う。そして、目を丸くしている私を見てか更に続けた。
「圭織の故郷は雪で──」
しかし、車輪の軋む音で彼女の声はかき消されてしまった。
列車は次の駅に向けて、再び動き出した。
【飯田@ME】
□プッチモニが踊る舞台の袖で座っている姿
□ミッキーマウスマーチを加護と歌いながら廊下を歩く後姿
□ワイルドにキムチを食う姿
さぁ張り切って800まで自作自演するか。
(´ー`)y-~~~~~~~~~~~~~~~~~~
座席に深く掛け直し、列車の振動に身を任せる。あれから日付は変わったが、今のところ些かの眠気
も感じない。
また外が見たくなり、息で曇った窓をてのひらで拭いてみた。
そう言えば、圭織は何処で降りるのだろうか、まだ聞いてなかった気がする。さっき聞きそびれた言葉
の続きは何だったのだろうか。雪、故郷が雪で──。
不意に窓の外が真っ暗闇に変わった。雪が見えない。車内の蛍光灯が明るさを増したような気がした。
「一つ目のトンネル」
開いた左手の薬指を右掌で折りながら圭織が言う。二つの目の指を彼女が折った時、行く先を聞いて
みよう。
私の目的地は、トンネルを五つ潜り抜けた先にある。
ほぜんです
>>13 書き込んでくれてありがとう
でも、これからは自分で維持するから、他の小説を守ってあげてね
それから、ここは一応ネタスレ(というか独り言スレというか)にする予定なのでよろしく
飯田さん オチが浮かばないよ この話
おねモー。出るかな飯田さん
これは、わたしの大先輩、中澤裕子さんに聞いたお話です。
先日モーニング娘。の一部のメンバーだけで、ちょっとした合宿をしたそうです。
特訓合宿とかそこまで大袈裟じゃないけど、泊りがけのミーティングのようなもの、だったとか。
参加者の内訳は、中澤さんと矢口さん、辻さん、加護さん。そう、ミニモニ+1って感じですね。
他にはマネージャーさんと二人のカメラマン兼運転手兼賄い役のスタッフさんが同行したので合計七人。
場所は、東京から貸切バスで8時間走った、まぁ田舎ですね。そこの一軒家で行われたそうです。
絵に描いたような田舎の家でねぇ、一応掃除はされてるんやけど、なんか全体的に古臭い感じで。
壁紙は所々はげているし、電気が点いてても薄暗ぁい感じで、夜中にお手洗いに行くのは子供やなくても
遠慮しときたい、言うくらい薄気味悪い雰囲気やった。
部屋割りは、うち、矢口、辻と加護、スタッフさん二人、マネージャーさんで五部屋。
「矢口ー、うちの部屋来ーへん?」
「うーん、ごめん裕ちゃん。今日は疲れたから寝るよ」
「ののちゃんと一緒の部屋やー!」
「辻は中澤さんといっしょがよかったです」
女の子(笑)四人やとまぁ賑やかなものです。
こんなやりとりしてる内に、午後10時を回ってました。
中澤さんの部屋だけは、少しみんなと離れていたそうです。
部屋にはテレビもラジオも無くて、暇な時に読もうと持ち歩いていた本も、その時に限って家に忘れて来てしまった。
仕方なしに中澤さんは、自室にこもってお酒をチビチビと飲んでたそうです。
ミニモニの三人は未成年だからつき合わせられないし、スタッフも珍しく下戸ばっかりだった。
そんなこんなで、寂しーい独り酒ですね。自然とピッチも上がって来たそうです。
まぁそうすると、お手洗いが近くなる訳ですが、ご多分に漏れず中澤さんも催してきた訳です。
夜中に暗い所を通ってお手洗いに行く。そんな事を考えるだけで憂鬱になって来る。あぁ、嫌だなぁって。
バナナと暗いところが苦手な中澤さんにとって、夜のはばかりは拷問に等しかったんですね。
いい加減我慢も限界になって来たので、仕方無しに重い腰を上げると、襖を開けて暗い廊下に出た。
ひたひた、ひたひた、と長い廊下を更に暗い方へ、お手洗いの方へ歩いて行った。
廊下は板敷きになっていて、縁側には一定間隔で柱が、ズラーっと並んでる。
左手には立派な庭が有った。夕方に見た感じでは色々ときれいな草花が植わっていて、みんなで見事
だなぁ、なんて言ってたんだけど、外灯が無いから今はまーっくらで何も見えない。
やっと目的地であるお手洗いの木戸が見えてきた。
そこで突然、中澤さん、ゾクーーっと来たそうです。寒気が。ゾクゾクっと。
うわっ、なんかなぁ、風邪でも引いたんかなぁ、明日に差し支えるなぁ、なんて思ったそうです。
で、気が付いたんですね。
なんか変だって。
違和感が有ったそうですよ。左眼の端の方に。
で、恐る恐る、左の方、庭の方ですね、そっちに首を向ける。
当然、真っ暗でなーんにも見えない。
ところが見えない筈の暗闇の中で、何かが見えるんですね。
少し離れた場所に、ぼんやりと。
なんだろうなーって目を凝らすと、真っ黒なかたまりみたいなのが立っている。
もっとよく見る。目が暗さに段々慣れてきて、それが人影だってわかって来た。
黒っぽい服を着て、腰まで髪が届いてる、そんな感じの人影だ。
泥棒?まさかこんな田舎で?
ははぁ、うちを脅かそうとしてスタッフが仕組んだドッキリやな、と中澤さんは思ったそうです。
その影の感じから、身近な人間では飯田さんの印象がダブったそうです。
中澤さんは「圭織か?来てたんか?」って呼びかけたんだけど、何度呼んでも全然反応が無い。
おかしいな── だんだん気味が悪くなってきた。
でも、なんとなく目が離せないので暫くじっと見ていたそうです。
10分くらい経ったかなー。ふと気が付くと人影は消えていたんですね。
で、木が一本そこに植わっているのが見えるだけだった。
風に吹かれて、ざわざわ、ざわざわ、と揺れている。
あぁ木と見間違えたんだなぁって強引に思い込むと、さっさと用を足して元の部屋へ戻ったそうです。
とりあえず辻ちゃんとあいぼんを怖がらせるのもなんだから、この事は黙っていよう、なんて考えてたそうです。
中澤さん、夜中に目が覚めたそうです。
襖の向こうに人の気配がする。誰?
まさか、さっきの…。
開けて確かめるなんて、怖くて出来ない。それで、襖の方を睨みながら、じっと息を潜めてた。
すると、聞こえてきたそうです。しくしく、しくしく、と誰かのすすり泣く声が。
この声は辻だ! そう思った中澤さんは慌てて襖を開けた。
目の下に頭が見えた。
「辻──」
じゃなかった。上半身だけの女が床から生えていた。
驚きのあまり、声も出なかったそうです。
少しの間、気を失っていたかもしれない。手が冷たくなってる。
既に、得体の知れない女の姿は消えていたそうです。
畳の上にへたり込んだ中澤さんの耳に、今度こそ間違いなく、ののちゃんの泣き声が聞こえてきた。
(ウチはリーダーや、しっかりせないかん)
「辻! どないしたんや!?」
するとか細い声で、「中澤さん……」と聞こえた。これは、絶対に辻だ。
「大丈夫か辻? 何があったんや?」
とにかく辻は泣くばっかりで要領を得ない。
取り敢えず辻を抱き寄せる。ひたすら背を撫ぜてなだめる事しか私には出来なかった。
その内、辻は話しだしたが、まるでうわ言のように、
「真っ黒な女の人がいるよ。口のとこだけ真っ赤な女の人がいるよ──」
と繰り返すばかりだ。
(ウチはリーダーや、しっかりせないかん)
私は自分を奮い立たせるように、声の限り叫んだ。
「辻! どないしたんや!?」
すると、か細い声で「中澤さん……」と応える声が聞こえてくる。間違いない、今度は絶対に辻だ。
探しに出るまでも無く、辻は直ぐに見つかった。部屋を出て直ぐの襖の裏側にしゃがみ込んでいたのだ。
「大丈夫か辻? 何があったんや?」
そう聞いても辻は泣きじゃくるばかりで要領を得ない。半ば引き付けを起こしているようにも見える。
止むを得ず抱き寄せ、ひたすら背中を撫ぜてやる。とにかく落ち着かせるのが先決だ。
その内辻は、ぽつりぽつりと話し出したが、
「真っ黒な女の人がいるよ。口のとこだけ真っ赤な女の人がいるよ──」
と、うわ言のように繰り返すばかりだった。
(´ー`)y-~~~~~~~~~~~~~~~~~~
中澤さんは、あまりの怖さで体が固まっちゃてるののちゃんを背負って、矢口さんとあいぼんの部屋に行くことにしました。
家の造りがそうなってるから仕方ないんだけど、二人の部屋に行くには、変な影が見えた廊下をもう一度通らなくちゃいけない。
なるべく例の場所を見ずに、たーーっと一気に駆け抜ける。ぎしぎしぎしぎし。踏まれた板の軋む音が後ろから追いかけて来る。
やっとの思いで辿り着いた部屋で中澤さんが見たのは、平和そのものといった寝顔ですやすやと眠る二人でした。
中澤さんとののちゃんは、矢口さんの布団が余ってたのでそこに潜り込んだんですが、結局朝まで寝るに寝られずだったそうです。
寝起きを撮影しようと企んでたスタッフさん達は、中澤さんの部屋がもぬけの殻なので驚いたそうです。
昨晩の件でテンションが下がりっぱなしの中澤さんとののちゃんを置いて、元気いっぱいの矢口さんとあいぼん。
そんなちぐはぐ状態で合宿が上手くいくはずも無く、予定を早目に切り上げて、翌日に東京へ戻ることになってしまいました。
その後に有った、東京のスタジオでのお話です。
VTRの編集をするスタッフの傍らで写真のチェックをしていたスタッフのAさんが、うわ、っと急に叫んだ。
なんだよ、びっくりするじゃないか、って一緒にいたスタッフのBさんが笑いながら言うと、声を震わせながら
「これ見てみろよ」って写真の束を渡すんですね。
お前、まさか失敗したのか? そりゃやばいぞってBさんが言うと、
「違う!」って大声で返された。
じゃぁなんだよって聞くけど、
Aさんは、「とにかく見ろ」としか言わない。
仕方なく、一枚二枚と写真を見ていくうちに、Bさん、自分の顔が、さーっと青ざめていくのが分った。
その、渡されたどの写真にも、娘。四人以外にもう一人、居合わせた筈の無い女が写ってる。
しかも、その女は異様に背が高いのか、丁度口から上が見えないような写り方をしてるんですね。
黒い服を着た髪の長い女で、口が、こう、「にた〜っ」て感じで開いてて、それはもう、一度
見たら、目に焼きついて暫く離れないほど、気味が悪い笑い方だったそうです。
誰だよこれ…。そう言うのがやっとで、そのまま二人とも黙り込んじゃった。
結局、写真はどれも使えないし、合宿に関しては記事にも出来そうにない。
それで、事務所側でこの件は無かったって事になってしまい、合宿を契機に売り出すべく進んでた
ユニット計画も路線変更を余儀なくされてしまった。
それと、例の写真は、お寺で供養してもらった後、全部焼かれたそうです。
これね、本当に有った話なんですよ──
…本当は私がミニモニに入って、『メニモニ 女神裕子と三人の天使たち』になる予定だったものを…。
(´ー`)y-~~~~~~~~~~~~~~~~~~
33 :
拾遺:2000/10/31(火) 23:07
妄板の百鬼ども集う祭りに古くより用いたる唄あり
次に記すは自分の記憶に留まる限りの物なり
一 蝗害で真黄色に染まった空を見て詠める唄
一 市中を真夜中に駆け巡る怪しき火車を見て詠める唄
一 傷痍より流れいずる血で染め記されたるそれを見て詠める唄
また一つ暗渠のような洞を潜りぬけた。
「りんねは何処で降りるつもりなの」
不意に圭織が尋ねて来た。
トンネルを過ぎる度に次々折られる指を見つつ、さり気なく彼女の行く先を聞きだす機会を窺っていたの
だが、事もあろうに向こうから先手を打って来るとは思いも寄らなかった。
相変わらず真正面からこちらを見ている圭織に対して下手な誤魔化しは効きそうも無く、私は狼狽を押
し隠しつつ、「花畑駅で降りるつもり」と答えるので精一杯だった。
「じゃぁ次のトンネルを抜けたらお別れだね」
今や圭織の指で曲げられてないのは薬指のみで、やや下に傾けられた左のこぶしは、指きりげんまん
を躊躇う子供のような心細さを漂わせており、少しだけ私の胸を痛ませた。
「そうだね。でも、次のトンネルに差し掛かるのは、まだまだ何時間も先だよ」
今度は私が聞く番だ。視線にやや力を込めて圭織を見つめ返す。
「圭織は何処へ帰るの?」