1 :
名無し娘。:
逝ってよし
2 :
名無し娘。 :2000/10/18(水) 03:13
便秘中なので当分寝れそうにありません。
3 :
名無し娘。 :2000/10/18(水) 03:15
こういうスレ立てる奴ってかまってほしいんだろうね。
結婚しようか?
4 :
小説 :2000/10/19(木) 00:59
エスパー真希
萌える草木を横目に見て、私は勾配の急な登山道をひたすら歩いていた。
もう少しで頂上だった。しかし、私は道を逸れて草の上にへたり込んだ。
「ここで休憩しようよ。5分でいいから」
私の声に、前を行くふたりは立ち止まって、呆れ顔で振り向いた。
「一番若いくせに」
「ねえ」
お構いなしに、私は背負っていたリュックサックを下ろし、水筒を出した。
乾いた喉を、冷たい飲茶で潤した。
「ああ、生き返った」
「しょうがないなあ」と言いながら市井ちゃんが私の横にきた。「さっき
休んだばっかじゃん」
「飲む?」と言って私は水筒を差し出した。
市井ちゃんは受け取ると、一気に飲み干しそうな勢いで飲みだした。
「あ、ちょっと待ってよ」
「もう、いい加減にしてよ」と圭ちゃんが眉をつり上げてどなった。
「こんなんじゃ、いつまで経っても着かないでしょ」
「着くよ、そのうち」と市井ちゃんが言った。「そんな怒んないで、圭ちゃんも
こっち来て座りなよ」
市井ちゃんは私の味方になったようだ。圭ちゃんはしばらく憮然としていた
けれど、やがて、私たちのそばにきてリュックを置いた。
雲に隠れていた太陽が顔を出し、光を降り注いだ。草と土の香りに包まれて、
私は新鮮な空気を大きく吸い込んだ。
「来て、良かったでしょ?」
「うん」
「まあね」
山に登りたいと最初に言ったのは私だった。おととい、学校の連休を利用して
どこかへ行こうという話になったとき、海に行きたいと言った圭ちゃんに対し、
私は山がいいと言った。
結局、市井ちゃんが決めることになって、山になった。
「登山なんて、この先しないだろうから」と市井ちゃんは言っていた。
私たちは3人とも合唱部で、それぞれ学年が違っていたけれど、いつも
一緒に行動していた。
太陽がふたたび雲に覆われて、私たちの場所に陰ができた。風がひんやりと
して気持ちよかった。
「それじゃあ、夢でも語り合いますか」と市井ちゃんが言った。
「なんだ突然」
「市井の夢はシンガーソングライターになることです」
市井ちゃんはそう言って、自分で拍手をした。山の空気がそうさせたのか、
市井ちゃんはやけにご機嫌だった。
「圭ちゃんは?」
「えっと、そうだな」ちょっとの間、考えてから圭ちゃんは答えた。「吉澤
ひとみになりたい」
「は?」
「吉澤ひとみって?」と私は訊いた。
「知らない? ほら、日曜9時のドラマに出てる、女優の」と市井ちゃんが
教えてくれたけど、私は「知らない」と言った。
「でも、なんでまた?」
「だって、あの顔にあのスタイルだったら、それだけで」
と途中で言葉を切って、圭ちゃんはひとりでうんうんと頷いた。
「市井は市井のままでいいな」
「私も私がいい」
「それで?」と圭ちゃんが言った。「後藤の夢は?」
「え〜、なんだろう」
私はずいぶん悩んだあげくに「長生き」と答えた。
20分ほど休憩したので、私はすっかり元気を取り戻した。
「あと少し、がんばっていくぞ」
と言って真っ先に立ち上がり、先頭を歩き出した。
そんな私を見て、ふたりともくすくす笑っていた。
しばらく歩きつづけると、木々の生い茂る小道を抜け、見晴らしのよい
場所に出た。いくつもの峠が望め、私たちが目指す頂上もついに見えた。
道が開けていて傾斜も緩やかなところだった。
緊張が薄れた私は、幅の広がった道の端に進み、崖の下を覗いてみた。
底は深く、見えなかった。足を踏み外すとどうなるか、考えるまでも
なかった。しかし、私はそこを離れなかった。
「……吸い込まれそう」
後ろからついてきていたふたりが、ようやく追いついた。
「おい、危ないぞ」と市井ちゃんが私を見るなり叫んだ。
私はふたりの方を向いて両手を振った。
「私は今、崖っ縁に立ってまーす」
市井ちゃんは急に真顔になって私に向かって走ってきた。
そのとき、私はこの状況で最もやってはいけないことをやってしまった。
足を滑らせた。強風に煽られたというわけでもないのに。
買ったばかりのトレッキングシューズを履いた私の足が地から離れた。
その瞬間、いろんなことが頭を巡った。
長生きしたいと言っときながら、私は何やってんだ、とか。
吉澤ひとみってそんなに美人なんだろうか、とか。
私がもしトム・クルーズだったら、とか。
私が死んだら合唱部から一年生部員がいなくなるな、とか。
落ちていく私を、崖の上から見ている市井ちゃんの顔が見えた。
次の瞬間、落ちていく私が見えた。
「ごとぉ―――!」
圭ちゃんが私の隣に駆け寄ってきて崖の下に向かってそう叫んだ。
私は、空を見上げた。雲が綿菓子のように見えて、とても美味しそうだった。
「真希ちゃんの笑顔はいつも私たちに勇気をくれました。真希ちゃんと過ごした
日々を、私たちは一生忘れません」
合唱部の部長の安倍さんが悼辞をのべていた。葬儀に参列した生徒たちが皆、
私のために泣いていた。一度も話したことのない人まで泣いていた。
私はそのなかに圭ちゃんの姿を探したけれど、見つからなかった。
式から帰った私は、制服のままベッドに倒れ、眠った。そして、夢を見た。
夢の中で、私は市井ちゃんと会った。「長生きしろよ」と市井ちゃんは私に微笑んだ。
「市井を殺して生きてんだから」
目が覚めると、目の前にお母さんの顔があった。
「大丈夫?」と訊かれた私は「何が?」と言ってベッドから起きた。
「夕飯できてるから、着替えてきなさい」
「は〜い」
お母さんはドアの前で立ち止まり、私を振り向いて「紗耶香」と言った。
私は「何?」と表情をつくった。お母さんは私をじっと見つめたあと、
「何でもない」と言って部屋から出ていった。
私は制服を脱いだ。折れそうなくらい細い腕に、しばらく見とれていた。
次の日の学校で、私はいつも通り合唱部の練習に参加した。慣れない
市井ちゃんのパートに戸惑いながらも、なんとかこなすことができた。
圭ちゃんはきてなかった。圭ちゃんと同じクラスの安倍さんによると、
授業も休んだらしかった。
正直に言って、圭ちゃんが私の死でそこまで落ち込むとは思っていなかった。
そして、市井ちゃんが死んだのに、思いのほか冷静な自分にも驚いていた。
しかし、それはきっとこのカラダが市井ちゃんのカラダだからだろう、と私は
窓ガラスに映る姿を見て思った。
市井ちゃんは死んだけど生きている。だから私は落ち込まないのだ、と私は
心でささやいた。
私が死んでから一週間目の夜、携帯が鳴った。圭ちゃんだった。
「元気?」と圭ちゃんは言った。
「そっちこそ」と私は言った。
圭ちゃんの声は意外に明るかったので、私は安心した。それから私たちは
顧問の先生の悪口とか、最近聴いている音楽のこととか、他愛のない話を
延々とつづけた。
「なんか紗耶香、しゃべり方が後藤みたい」と圭ちゃんが言った。
「ちょっとね……真似してんだよ」
私がそう応えると、しばらく圭ちゃんは黙ってしまった。それから「そういえば、
山降りるとき、紗耶香ひと言も話さなかった」と言った。
「そうだっけ」
「そうだよ」
下山中のことは、よく覚えていなかった。意識が飛んでいたのだろう。
「ねえ紗耶香」
突然、圭ちゃんの声が重たくなった。
「私ね、こんなこと言うの変だと思うし、言っちゃいけないってわかってるんだけどね、
でもね、なんか私、後藤がいなくなってね……」
「何?」
「……ホっとした」
私は小さな声で「うん」と言った。そして、「明日、学校くる?」と訊いた。
「昼休み、一緒に弁当食べようよ」
圭ちゃんは「いいよ」と答えた。
真希が死んでから1ヶ月が過ぎた。私は紗耶香としての生活にも慣れ、学年トップ
だった市井ちゃんの成績を維持することはできなかったけど、それなりに
がんばっていた。私の周りにはいつも人がいて――それはかつて市井ちゃんがつくった
友達だったが――私は誰に対しても市井紗耶香を演じて接しつづけた。
その日、私は後藤家にお邪魔した。線香をあげた仏壇の前で手を合わせた私は、
真希のお母さんに、つまり私のお母さんに「この顔、ボーっとしてますよね」と言った。
お母さんは遺影をいとおしそうに見つめた。
「その写真ね、あの子がとても気に入ってたの」
「そうなんだ」
そんなことはない。あいかわらずいい加減なことを言う親だ、と私は思った。
うむ。。。。
期待sage
しかしブックマークするとスレ名が(泣
21 :
名無し娘。 :2000/10/20(金) 14:55
おもしろい。
確かにスレ名をもうちょとどうにかしてくれ
期待sageです。。
>>20 そんなん自分で適当に変えればいいじゃないか(ワラ
sage
日曜の夜、私は市井ちゃんが高校に入学した日からつけていた日記を見つけた。
私はそれを、読むか読むまいか迷うことなく読みはじめた。
一年生のころの市井ちゃん。それは私の知らない市井ちゃんだった。
何もかもがうまくいかなくて悩みつづけたこと、合唱部に入って圭ちゃんという
信頼できる友達ができたこと、明るく振る舞う毎日のなかで新しい自分を
見つけたこと、などが書かれていた。
一日を大切に生きていた市井ちゃんを知った。
二年生になった市井ちゃんが、私と会う日に近づいてきた。私はいったんトイレに立ち、
用を済ませてからつづきを読んだ。
「5月21日。晴れ。合唱部にやっと一年生が入ってきた。名前は後藤真希。
初日からいきなりやる気なさそうな態度をみせた。顔はまあまあ」
私と初めて会ったときのことは、そう書かれていた。
私はさらに読み進んだ。「後藤」という文字が頻繁にあらわれた。
後藤は遅刻が多い。後藤はわたしが教えたことを本当にわかっているのか。後藤は
一年前のわたしだ。後藤は――。
「明日は山登り。楽しみで今夜は眠れそうにない」
日記を閉じたとき、空はすでに明るくなっていた。
私は「頭が痛い」という理由で学校を休み、昼過ぎまで眠った。
sage