サイレン

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1名無し娘。
呼び声
2名無し娘。 :2000/10/16(月) 23:42
うるせえええええええええええ
3名無し娘。 :2000/10/16(月) 23:46
「──ユニット、ですか? あたしと保田さんとで……」
不思議そうに吉澤が繰り返した。
その横で保田が難しそうな顔をしている。
「後藤は? 後藤はいないの」
中澤は曖昧に笑った。
4名無し娘。 :2000/10/16(月) 23:50
保田は、随分久しぶりに事務所に訪れていた。
事務所はひとけがなく寒々としていた。
本棚が乱れていたり事務所の隅に埃が積もっていることに気付く。
荒れていた。
保田たちの前では見せないが、中澤は随分と激しく仕事をしているようだった。
5名無し娘。 :2000/10/16(月) 23:54
少しみないあいだに痩せたと思う。
表情も決して明るくない。
「ヨッスィーとあたしとでユニットかぁ……イメージしにくいなぁ。ねぇ?」
おどけたように言った保田を、中澤は遮った。
「二人っきりやない」
6名無し娘。 :2000/10/16(月) 23:58
吉澤と保田は顔を見合わせた。
「でも、今日呼ばれたのってあたしたちだけですよね?」
「うん……ね、裕ちゃん。どういうこと?」
「明日」
中澤は人差し指を一本、立てた。
7名無し娘。 :2000/10/17(火) 00:01
「明日わかるから──」
8名無し娘。 :2000/10/17(火) 00:04
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9名無し娘。 :2000/10/17(火) 00:15
モーニング娘。──その言葉を聞くとき人々はときめきと不安を感じた。
かつて彼女たちが華々しく活躍していた頃の自分を思いだしてはときめく。
そして彼女たちの凋落ぶりをみて盛者必衰という諺を思い出し不安になる。

今やモーニング娘。とはそういう存在だった。
10名無し娘。 :2000/10/17(火) 00:20
殆ど分裂に近いような形で解散したと思ったら、かつてのメンバーを集めての再結成。
メンバーも四人が芸能界から引退し、一人が死亡し、一人が重傷を負って入院している。
今やモーニング娘。という名前は昏い不吉なものの代名詞であるかのようだった。
世紀末の見せた喧噪の幻。
モーニング娘。とはもはや懐古すべき存在だったのだ。
11名無し娘。 :2000/10/17(火) 00:22
有り体に言ってしまえば、こうだ。
『大衆はモーニング娘。に飽きてしまった』のだ。
タイアップをとっても立て続けにTV番組に出演を決めてもセールスに結びつかない。
実にそれをひしひしと感じてるのは中澤だった。
モーニング娘。が所属している芸能プロダクションの社長の中澤だった。
12名無し娘。 :2000/10/17(火) 00:23
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13名無し娘。 :2000/10/17(火) 00:29
翌日。保田と吉澤は中澤の運転するセダンの後部座席にいた。
中澤はナビゲーションシステムとにらめっこしながら危なげな手つきで運転している。
実際運転も危なっかしい。落ち着かないことこの上ない。
なのに隣の席の保田は熱心にスコアに目を落として音程をとっていた。
足で自然にリズムを刻んでいる。吉澤は無言でスコアに目を落とした。
14名無し娘。 :2000/10/17(火) 01:12
「なんか面白い……つんくさんの音じゃないねコレ」
ぼそっと保田が呟く。
「え? そんなの判るんですか?」
「あの人、スキャットの使い方がワンパターンじゃない?」
「は……はあ……」
15名無し娘。 :2000/10/17(火) 01:19
「そういうものなんですかね……」
「……いや、あたし一人の考えだから間違ってるかも」
「っていうか、音符だけでどんな曲かわかるなんてやっぱ保田さんすごいっすねー」
「……」
「ったぁっ。なんっなんで殴るんですかっ」
16名無し娘。 :2000/10/17(火) 01:22
ブレーキの音が響いた。
「着いたで」
中澤が外に出る。二人も続いて車を降りた。
レコーディングスタジオというより──ただの個人の居宅だった。
唖然とした二人に構わず中澤はどんどんと門の中に入っていく。
17名無し娘。 :2000/10/17(火) 01:45
表札には『稲葉』とあった。
「ね、これってアレですよね。T&Cの」
吉澤の問いに保田は頷いた。
「確か今、ボイストレーナーやってるって聞いてたんだけど……」
「もったいないですね。歌うまかったのに」
18名無し娘。 :2000/10/17(火) 01:47
「……そうね」
保田は目を伏せた。
保田にも歌こそが世界をねじ伏せると思っていた無邪気な頃があった。
正直なことを言えば今だってそうだ。
だが──志半ばで挫折する者はあまりにも多い。福田も石黒も──
19名無し娘。 :2000/10/17(火) 01:59
「なにしてんねん。時間ないねんで。早よしいや!」
「ほんまや。早よ早よ! いくらなんでもあんたら遅すぎや」
中澤と稲葉の声がダブルで掛けられる。二人ともすでに2階にいた。
「行こうか」
「ハイッ」
20名無し娘。 :2000/10/17(火) 02:00
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21作者無精 :2000/10/17(火) 02:05
再開させて頂きました。作者不詳さまの夢のあとにの設定にのっかって、後日談を書かせて貰ってます。
夢のあとに:http://www.interq.or.jp/yellow/hiuga/morning/novel/dream.html
イントロダクション:http://www.interq.or.jp/yellow/hiuga/morning/novel/dream2.html
勝手に続編を書くなどかなり僭越で申し訳ございません。続きは明日以降更新します。
22名無し娘。 :2000/10/17(火) 06:17
、、、別人ですか。
23作者無精 :2000/10/17(火) 19:06
>>22 残念ながら。
24名無し娘。 :2000/10/17(火) 22:28
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25名無し娘。 :2000/10/17(火) 23:15
「失礼します…」
保田と吉澤は挨拶をしながら扉を開けた。
間取り的に先ほど中澤と稲葉が窓から顔を覗かせていたあたりだ。
真っ白な部屋だった。四面を壁で囲まれている。家具ひとつない。
上方に明かり採りらしい小窓が見える。
26名無し娘。 :2000/10/17(火) 23:22
勢い余った保田はドアのノブに捕まったまま数歩、つんのめるようにして部屋にはいる。
その後ろから吉澤が部屋を覗き込んだ。
「……あれ? 誰もいませんね?」
「間違えちゃったかな?」
苦笑いしながら保田は振り返った。
27名無し娘。 :2000/10/17(火) 23:24
「……うわ……」
そのまま保田は絶句する。扉のある壁は一面、真っ黒な機材で埋められていた。
どれも見覚えのある機材だった。
この部屋はレコーディング・スタジオと同等の、否、それ以上の設備を備えていた。
「だぁれ……?」
28名無し娘。 :2000/10/17(火) 23:33
よく知っている声だったような気がして、保田は部屋を振り返る。
ゆらりと人影が立ち上がった。痩せた身体をしている。
忽然と部屋に現れた人影に保田は驚いた。
「アナタこそ誰よ?」
声が喉に張り付いてうまく出てこない。冷や汗がシャツの中をしたたり落ちていく。
29名無し娘。 :2000/10/17(火) 23:37
「あたしはあたしだよ?」
人影はゆっくりと振り返った。
シーツのように真っ白でシンプルなワンピースのすそがふわりと揺れる。
さらさらな髪が綺麗な円を描いて広がり、元に戻る。
その顔を見て、保田は思わず後じさった。肩が吉澤にあたった。
30名無し娘。 :2000/10/17(火) 23:39
「……あんたら何やってんねん」
中澤の声で保田は我に返った。
「裕ちゃん……」
「なんやねん幽霊でも見たような顔して」
「だって……だって……なっちって……え? どうして? どういうこと?」
31名無し娘。 :2000/10/17(火) 23:41
「なつみちゃんなぁ、ごめんなぁ、もうちょっとここで待っとりやー」
中澤が声を掛けると、安倍は奇妙に表情のない顔でコクリと頷いた。
まるで安倍を隠すかのごとく中澤は保田を部屋の外に追い出すと後ろ手で扉を閉めた。
「……」
「……」
32名無し娘。 :2000/10/17(火) 23:45
「こんなに早く会わせるつもりはなかってんかどな」
中澤は保田から視線を逸らせて頭を掻いた。
保田は中澤の肩を掴み、無理矢理自分の方を向かせた。
「どういうことよ? 説明してくれるんでしょうね?」
中澤は、軽く肩をすくめてみせた。
33名無し娘。 :2000/10/17(火) 23:49
「まずな、あのコのことはな、みんなには内緒にしていて欲しいねん」
「なんでよ! だいたいなっちって退院してから消息不明って……」
くってかかる保田を中澤は一喝して黙らせた。
「やかまし。それをこれから説明するから。吉澤も、ええな?」
睨まれて、吉澤は無言で頷く。その視線には中澤が今まで見せたことのない気魄があった。
34名無し娘。
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