夢のあとに

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1作者不詳
2名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:44
「お疲れさまでしたー」
番組収録が終わり、スタッフが撤収を始める。
タレントもそれぞれ帰り支度を始める。
「あ・・・このアトひま?」
ジャニーズのなんとかと言う名前も知らない人が声をかけてきた。
「何か?」
「いや・・食事でもどうかと思って」
「すみません・・まだ仕事があるんで」
「あ・・そう。ごめんね。また」
3名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:45
帰ろうと楽屋へ歩き出す。肩越しに後ろで話す声が聞こえる。
「加護ちゃん固いんだよなぁ」
「しっ!聞こえるぞ」
十分聞こえているが何の反応も示さずそのまま歩いていった。
そして楽屋へ行き、帰り支度をした。
マネージャーの運転する車に乗り、家へ帰った。
仕事はもう終わりだ。
4名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:46
家に着いてテレビを見ながらくつろぐ。
テレビではCD売上ベストテンみたいな番組をやっていた。
「今週の一位は・・・」
「加護亜依さんです!」
「三週連続おめでとうございます」
それを見ても加護は何の反応も示さなかった。
退屈そうにテレビのチャンネルをころころ変えていた。
5名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:46
たとえCDの売上が一位でも、沢山の番組にレギュラーとして出ても、
ドラマや映画の主役の依頼があっても、
加護は退屈だった。
加護は一人だった。
何も楽しくなかった。
6名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:47
テレビの上に置いてあるフォトスタンドを手にとって見る。
写真には左から加護、吉澤、矢口、中澤、安倍が写っていた。
ため息を一つつく。
そんなに時間がたっていないのに、まるで大昔のように感じた。
みんな、いなくなってしまった。
7名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:48
加護も本当はもう芸能界など引退したかった。
加護にとって悲しい思い出しか残っていない。
しかし加護は重い十字架を背負ってこの業界に居続けなければならなかった。
少なくとも加護自身はそう思っていた。
安倍、矢口、後藤という十字架を背負っている。
加護は自分にそう言い聞かせていた。
そして、中澤の分も。
8名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:48
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9名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:49
加護は寝坊した。走ってテレビ局へ急ぐ。
「ああ・・もう10時半!」
雨が降っていて傘をさしながら走る。パシャパシャと音を立てながら急ぐ。
息を切らしながらようやく待ち合わせ場所までやってきた。
待ち合わせ場所には一人、吉澤が傘をさして下を向いていた。
「す、すみません・・今朝頭痛が酷くて」
大嘘だった。昨晩遅くまでレンタルビデオに夢中になっていたのが寝坊の原因だった。
吉澤が加護に気がついた。
「おはよう」
10名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:50
「おはようございます・・」
加護は申し訳なさそうに言った。
加護は一人足りない事に気がついた。
「あれ・・矢口さんは?」
「それが・・まだ来てないの。何度も電話してるんだけど、出ないよ」
吉澤は手に持った携帯電話を見せながら言った。
時間に厳しい矢口が遅刻なんて珍しい・・加護はそう思った。
11名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:50
「昨日の事とかで何かあるのかなぁ」
吉澤がポツリと言った。
「あ・・昨日の・・・安倍さんの話しかぁ」
加護はそう答えた。
そして二人は雨の中、じっと矢口が現れるのを待っていた。
12名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:51
しかし待てど暮らせど矢口は現れなかった。
「中澤さんに電話してみようか」
吉澤が沈黙を破って話した。携帯電話で中澤に電話をかける吉澤。
加護その様子をじっと見ていた。
吉澤は何も言わずに電話を切った。
「ダメ・・留守電になっちゃうよ」
二人はそろってため息をついた。
13名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:52
「雨も酷くなってきたし、中で待ってようか」
吉澤はそう言ってテレビ局の入り口を指差した。
加護は小さく頷いて、吉澤と共に中に入っていった。
傘をたたみ、がらんとした広いロビーの隅にある長い椅子に座る。
そこでまた二人で黙って矢口を待ち続けた。
14名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:52
「収録って何時からだっけ・・」
加護がふと思い出して吉澤に話しかけた。
「もう始ってる・・・」
吉澤が時計を見ながら話した。
二人は顔を見合わせ、またため息をついた。
「どうしたらいいんだろう」
吉澤の顔色に焦りが出てきた。
15名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:53
ずっと待ち続けたが結局矢口は現れなかった。
困った二人は何度となく電話を繰り返す。しかし誰も出ない。
「どうしよう」
吉澤が困った顔をして加護に言った。
「中澤さんの家に言ってみる?」
吉澤の提案に加護は頷いた。
二人は立ちあがり、中澤の家に向った。
16名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:54
中澤の家に着いた二人。
「あれ・・・」
ドアに手をかけた吉澤はカギがかかっていない事に気がついた。
吉澤と加護は顔を見合わせた。
「こんにちは」
吉澤がゆっくりと部屋に入っていく。加護もそれについていった。
部屋の中は静かだった。
17名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:54
部屋の中には誰もいなかった。しかし中澤のバッグは部屋に残されたままだった。
中澤の携帯電話もそこにあった。
吉澤と加護の二人はどうしたらいいのか分からず、とりあえず座って待ち続けた。
突然、中澤の携帯電話が鳴った。
「びっくりしたぁ」
加護は中澤の携帯電話を手に取った。
画面にはレコード会社の人の名前が表示されていた。
「ど、どうしよう」
加護は焦って吉澤の顔を見た。
18名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:55
「どうしようって・・・とりあえず出る?」
吉澤はそう言って加護の手から電話を取った。
「もしもし・・」
吉澤は電話に出た。
加護はじっと様子をうかがっていた。
「あの・・・私、吉澤です」
吉澤は事情を説明した。
「え・・・何ですか?」
吉澤の顔が曇った。
「自殺!?」
19名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 20:59
「はぁ・・・はい・・分かりました」
吉澤は力の抜けた返事をして電話を切った。
「なんだって?」
加護は身を乗り出して吉澤に聞いてみた。
吉澤はうつろな目をしながら答えた。
「矢口さんが・・・矢口さんが・・・」
20名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 21:05
話しの内容を聞いた加護は呆然としていた。
「そんな・・・」
ずっと中澤や安倍と共に行動してきた加護には理由は十分に理解出来た。
それだけにやりきれない気持ちだった。
中澤が矢口に神経質になっていた事も理解できた。
「中澤さんは?」
「それが・・病院から居なくなって・・それきりだって」
21名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 21:11
「え・・・?」
信じられないといった顔の加護に吉澤は続けた。
「居場所もわからないし連絡もとれないって」
「とりあえずレコード会社の人がどうするか検討するから自宅で待機しろって」
吉澤は涙目になりながら言った。
「加護ちゃん・・・どうなっちゃうんだろう?」
加護は何も答えられなかった。
22名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 21:17
それから一周間ほど自宅で加護は待っていた。
中澤から突然の連絡があった。
「あいぼん・・ごめんな」
「大手のプロダクションにアトをお願いしておいたわ。ごめんな」
加護の話しを一切聞かずに一方的に話しをして電話を切った中澤。
中澤からの連絡はそれきりだった。
加護は大手のプロダクションに移籍した。
加護だけ。
23名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 21:18
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24名無しさん@1周年:2000/08/08(火) 21:23
「中澤さん・・どこへいっちゃったの?」
加護はフォトスタンドの写真を見ながら寂しそうに言った。
「中澤さんと一緒だから、この世界に戻ってきたのに」
「一人にしないでよ・・」
加護は苦しかった。
それでも芸能界に居続けなければならなかった。
中澤が戻ってきたときに居場所が無いと困るだろう。
加護は中澤が戻ってくると漠然と信じていた。
25名無しさん@1周年
おおおお!!再開おめでとうございます&ありがとうございます!!
前作の終わり方が気になっていたので続きが読めることになって
嬉しいです。本作も波乱万丈の展開になりそうですね。
頑張ってくださいね。