昼ドラ小説『紅緋色の花』

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1名無しさん@1周年
第一話

「やっとウチにも、人並みの幸せってもんが手に入ったわ・・・。
 桔平さん、ほんまによくしてくれてん。」
ヴォーグをふかしながら、市松模様の着物を着た裕子は、
短大時代からの友人、保田に呟くようにそう言った。
「よかったじゃない。裕ちゃん、今まで苦労のしっぱなしだったもんね。」
保田は、シナモンスティックでティーカップを弄んでいる。
駅前の喫茶店。ふたりは、窓際の席にいる。
裕子は、着物の渋い柄がよく似合っていて、
無造作にまとめてある髪の乱れ具合からは、大人の色香が漂っている。

専門商社のOLだった裕子は、上司との不倫の末みごもった。
相手の男性と散々話あった結果、認知を受けずに女の子を出産した。
その後13年間、娘・希美とふたりきりの生活を送っていた。

京都のちいさな呉服屋で働いていた裕子は、
仕事の関係で知り合った染色家と結婚することになった。
若く、才能溢れる彼は、端整な顔だちで和服が似合う優しい人だ。
多感な年頃の希美も、 「素敵なパパができた」とはしゃぎ、桔平になついていた。
家族3人、仲良く暮らしていけそうだった。

しかし、夫には、裕子も知らない一面があった。
2名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 20:34
なんと裕子は・・・・・・・・・。
3名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 20:48
有効はアホいう{日本人は頭が悪い}日本人は議長が多い日
4月5日は体の誕生日になら対立しましょう
4名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 21:03
彼は嵯峨野に工房を持っていて、昼間はいつもそこにいて作業をしていた。
希美はその工房を気に入っていて、学校の帰りによく遊びに行っていた。
和紙をすいたり、染料をいじる父の姿が、希美は好きだったのだ。

「なんだのんちゃん、また来たのか」
桔平は、セーラー服を着て走りよって来る希美に笑いかけた。
「おとうさん、今日も染料の名前教えてね。
「のの、染色のお勉強、もっとしたいの。」 ウソだった、、、。
希美は父親のそばに、少しでも長くいたい一心だった。
母親がいる家ではなく、この工房でなら、父親を一人占めできる。
そう幼い彼女は無意識のうちに悟っていたのだった。

萌葱色の染料で汚れた手を洗い終えた桔平は 畳の上に腰を下ろした。
「希美、こっちにおいで」
工房のなかにいる猫とじゃれあっていた希美は、
忠実な犬のように、セーラー服の赤いリボンを揺らせて 父親のもとへ駆け寄った。
5名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 21:21
これおもしろい。好み。
がんばって書いてくださいね>作者さま
6名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 21:36
いいね。
楽しみにしています。
7名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 21:46
アブない父娘に萌えー。
8名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 21:54
キッペイってやっぱ羅王だよね?
9名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 21:58
 頑張ります。

           by作者
  
10名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 22:18
ちょこんと桔平の横に希美が座る。
希美は、父に教わったばかりの染色の知識を披露してみせる。
「お父さん、紅緋色ってキレイだね。
お母さんみたいな大人の女の人にぴったりの色。
ののも、似合うようになれるかなあ。」
そう言って、桔平の肩にもたれかかる。
煽情、という言葉などおよそ知らない少女が
無意識のうちに放つエロチシズムを、
大人である桔平が感じないはずがなかった。
桔平の中に熱いものがほとばしった。

「希美はもう、紅緋色が似合う大人だよ。」
そう言うと同時に桔平は希美に覆い被さり、
プリーツスカートの中を 乱暴にまさぐった。
不意をつかれた希美は、畳に倒れ込んでしまう。
「お父さん、いやっ、、。」
切な気な顔で抵抗する希美だが、むしろこうなることを
望んでいたのかもしれない、、、。
11名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 22:23
やっぱりこっちの方向に走ってしまうのか・・・。
そろそろ別な系統の小説をキボンヌ
12名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 22:29
書きたいように書いてくだされ>作者さん
13名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 22:53
工房の外の桜の木の下に、人影があった。
夫にお萩を差し入れに来た裕子だった。
萌黄色の地に、蓮の花の柄の、、、、
夫が自分のために染めてくれた生地の着物を着た裕子だった。
彼女は、工房の前に立ち尽くしていた。
「ああ、なんてこと、、、ウチ、どないしたら、、、」

裕子はよろめきながら、逃げるようにその場を後にした。
袱紗に包んだ重箱は、途中、どこかに落としてしまった。
目からは涙が溢れ、止まらなかった。
そんな自分の顔を、華奢な手で被いながら、
裕子はがむしゃらに走った。
14名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 22:57
工房の外の桜の木の下に、人影があった。
夫にお萩を差し入れに来た裕子だった。
萌黄色の地に、蓮の花の柄の、、、、
夫が自分のために染めてくれた生地の着物を着た裕子だった。
彼女は、工房の前に立ち尽くしていた。
「ああ、なんてこと、、、ウチ、どないしたら、、、」

裕子はよろめきながら、逃げるようにその場を後にした。
袱紗に包んだ重箱は、途中、どこかに落としてしまった。
目からは涙が溢れ、止まらなかった。
そんな自分の顔を、華奢な手で被いながら、
裕子はがむしゃらに走った。

裕子が家にもどってから3時間後、希美が帰ってきた。
15名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 22:59
2重カキコ、失礼。

        by作者
16名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 23:02
「あー、今日も部活で疲れちゃった。
木下先生ったら、のののことばっかり怒鳴るんだよー」
冷蔵庫を開けて、牛乳を取り出しながら希美は早口に言った。
心無しかいつもよりも饒舌なのは、母親への罪悪感からだろうか。

裕子は、娘と顔を合わすことができない。
「早う、宿題やってしまいなさい。
お夕飯ができるまでに終わらすんやで。」
やっと、それだけの言葉を口に出した。
「はあーい。今日の御飯なあに?お母さん」
・・・・この子はなんで、何もなかったようにふるまえるんやろ。
事の重大さが分かってないんや。
それだけ子どもってことや、かわいそうに・・・・。
裕子は心のなかで呟いた。
そして希美のもとへ走りよっていって抱き締めた。
17名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 23:33
そして希美のもとへ走りよっていって抱き締めた。
「おかあさん・・?」希美は不思議そうに呟いた。
裕子の懐にある匂い袋の香りが希美を包む。
「お母さん、のの、けんちん汁が食べたいな!」
空気を変えようとしたのだろうか、
それとも無意識にか、希美は無邪気だ。
裕子は娘の言葉で我に返った。
「けんちん汁やな、わかった!
希美が嫌いなニンジン、いーっぱい入れてやろっ。」
とおどけてみせた。
・・・うちがしっかりせんとどないするの?
希美を守ってやらんと・・・。
18名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 23:42
その夜遅く、裕子は夫に話を切り出した。
「あんな、桔平さん、、、ウチ、見てしもうたんよ。
あんたが希美に恐ろしいことを、、、。」
俯いて、彼女の着ている浴衣のりんどうの色のように、
裕子は泣き出しそうだった。
ぽつりぽつりと言葉を発するたびに、
自分の声が震えているのが分かった。
だが、裕子は続けた。娘のために、言わなくてはいけない。
「お願いだから、もう、あんなこと、せえへんといて。」
涙を目に溜めながらも、今度はきっぱりと、そう言った。
少しの沈黙の後、夫が口を開いた。
「俺の仕事は、自分のインスピレーションと感性だけが頼りなんだ。
俺が良い作品を作るためなら、あんなことくらい目をつぶるのが
芸術家の女房ってもんだろ?お前なんかに、何がわかる?!」
夫の口調は、普段のものとは比べものにならない程、
荒々しく、冷たかった。
「、、、、ひどい、そんなっ、、、。」
とうとう裕子は泣き出してしまった。
そんな裕子を桔平は、乱暴に押し倒した。
「お前にもしてやるよ。それで文句はないだろう?!」
「やぁっ、、、」
こんなにも屈辱的な経験を、裕子は今まで味わったことがなかった。
19名無しさん@1周年:2000/07/10(月) 23:42
ゆうちゃんは気丈だぁね。
20名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 00:27
放課後の体育館。6時30分、、、部活動終了の時間だ。
バレーコートから支柱が外されてようとしている。
一年生の希美は、落ちているボールを拾い集めている。
「はあー、、、」ため息をついた。
その途端、「ごつん」という音がした。
後ろを振り返ると、バレーボールを持った先輩・後藤がいた。
「こぉらー、何ぼーっとしてんだよ!何か悩みでもあんの?
よかったら相談にのってやるよ。」
ぶっきらぼうだが、優しい後藤、、、。
元気のない希美にとって、後藤の存在は嬉しかった。

学校の近くのファーストフード店で、
希美は恥ずかしそうに話はじめた。
「あ、あのー、あたし、す、す、好きな人が、、。
でもぉ、ののがその人のこと、好きになっちゃダメで、、、」
遮るように、後藤が口を開いた。
「お前相変わらずしゃべるのもトロいねー。
学校の先生とか、好きになっちゃったの?
誰?寺田とか?うわっ、ダメだよー、あいつは。
生徒喰いまくってるから。」
早口でそうまくしたてると、持っていたピスタチオを口に入れた。
「え、っと、そうじゃなくて」
希美は、説明しようとした。
しかし後藤はその後も、寺田の悪行の数々を語るばかりだった。
希美は、相談する相手を間違えた、と思った。
21名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 00:56
姐さーん、ファイト!
22名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 01:29
裕子は、従姉妹のみちよに 相談を持ちかけた。
待ち合わせ場所は、子どもの頃から
2人がよく行っているお好み焼き屋だった。
待ち合わせの時間よりも10分早く着いた裕子は、
紫陽花の柄の着物を着ている。
とりあえずひとりで手酌をする。
・・・・みっちゃん、この話をしたら、きっと困ってまうなあ。
でも、誰かに話聞いてもらわんと、ウチ、おかしなりそうなんや・・・

5分後、みちよがやって来た。
「おー、裕ちゃん。今日もごっつきれいやなあ。」
いつも通り、みちよはからからと笑う。
たばこの火をつけながら、淡々と裕子は返す。
「おおきに。せやけど、ウチは世辞が嫌いや。」
「なんや、機嫌悪いなー。なんかあったん?」
みちよはいささか心配そうに裕子の顔をのぞきこんだ。
よく見ると、裕子の瞼は赤く、腫れぼったかった。
23名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 01:37
ほうほう
24名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 01:43
「どうもこうもないわ。」
裕子がそう言ったところで、店員が注文をとりにきた。
みちよは豚玉、裕子は桜海老を頼んだ。

ジュージューという音をたてる鉄板を挟んで、
ふたりは他愛もない話をした。
みちよは、裕子が、何か大きな問題を抱えていることを、
なんとなく感じていた。
「で、今日ウチを呼び出したんわ、訳があるんやろ?」
みちよは切り出した。
裕子は、「実はなぁ、、、」と、
消え入りそうな声で、事のてん末を話した。

みちよは、裕子の告白の最中、じっと下の方を見ていた。
そして、話が終わるとポロポロと涙をこぼした。
「なんで、、、、ひっく、、、そ、そんなことになったん?
あんた、、、えぐ、、、昔っから、、、、男見る目、
なかったもんなぁ、、、じゅる、、、」
みちよは子どものように泣きじゃくりながらも、
裕子を気遣って、憎まれ口をたたいた。
裕子は、そんなみちよのあたたかさに、少しだけ救われた気分だった。
25名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 01:59
希美は、母への罪悪感を感じながらも、
桔平のいる工房へ通いつづけていた。
今日も、桜の林を抜けて、嵯峨野の工房に向った。
胸は激しく鼓動を打っていた。
手には、調理実習で作ったマドレーヌを持っている。

しかし、工房のなかに足を踏み入れた途端、
希美の足が止まった。
父と自分だけの特別な空間に、知らない女性がいた。
大きな目の美しい、きれいな黒髪をたたえた人だった。
その女は希美に気付くと、こちらに向ってきた。
「はじめまして。ののちゃんでしょ?
いつも先生から聞いてます。かわいいかわいいって。」
カオリというその女は、ニコニコして話かけてきた。

希美は、なぜだかその女に敵意を感じた。
26名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 02:49
今日はもう寝るね。
おやすみ。

        作者。
27名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 09:51
いい感じですね。
ところで昼ドラなんだから昼間にあげたら。
13時ぐらいにさ。
28名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 22:02
そうかー。
昼ドラだもんねー、昼はちょっとだめなのよねー。
ごめんね。

というわけで、夜にあげる昼ドラ。
はじまりはじまりー。
            作者。
29名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 22:03
裕子は、かすりの着物を着て、
昼間の家の中でひとり、白百合を活けている。
「ぱちん」と茎を切る。
・・・ウチが希美を守るには、どないしたらええんやろか。
やっぱり・・・・・。
裕子は、ある決意をした。

桔平の工房でカオリと出会った希美は、
カオリの存在について父親に問いただした。
「お父さん、あの背のおっきい女の人は何なの?
のの、やだ。ここはお父さんとののだけの場所だもんっ。」
おっとりしている希美には珍しく、桔平に激しく怒りをぶつけた。
全部言い終わった希美は、軽い息切れをしている。
桔平には、そんな希美の様子が、とてもかわいらしく映った。
そっと希美を抱き寄せ、頭をぽんぽんと叩いて
「なーに言ってるんだ。あの人はただの弟子だよ。」
と優しく言った。
希美は、その言葉に安心して
桔平の胸に、(背伸びをして)うっとりと顔を埋めた。
30名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 22:10
耽美やねぇ
31名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 22:12
泣ける
32名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 22:19
裕子は、保田に電話をした。
保田は医療関係の卸の会社のOLをしている。
「トゥルル・・・トゥルル・・・はい、保田です。」
金曜日の夜、いつものように保田は家にいた。
「あ、裕子やけど、、、あんた〜、いい加減男できんのー?」
「うっさいわね。私は理想が高いのよっ!、、、で、なんの用?」
スーパーのチラシに鉛筆でしるしをつけながら、保田は言った。
「あ、うん。ちょっとな、折り入って頼みたいことがあってなぁ。実は、、、」

3日後、ふたりは保田の会社の近くの喫茶店で落ち合う。
「はい、裕ちゃん。これ、頼まれてたもの。」
保田は、テーブルの下から紙袋を渡す。
「おおきに。ほんま、悪かったなぁ」すまなそうにそう言った。
「いいってば。ほら、早くしまいなよ。
でも、裕ちゃん、本当にそれでいいの?」保田は遠慮がちに聞いた。
エスプレッソを飲み干してから、裕子は
「もう、こうするしかないんや。」と、
静かに、しかし力を込めて言った。
33名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 23:09
嵯峨野の工房の近くの林で、
希美とカオリは桔平に言われて桜の皮を剥いている。
このふたりが作業をすると、
殆どカオリが仕事をして、希美はお手伝いという形になってしまう。
美大生のカオリは、細い体に似合わず、力持ちだ。
「ののちゃん。先生のこと、好きなの?」
出し抜けにカオリは、希美に聞いてきた。
「な、なに言ってるんですかっ。お父さんには、お母さんがいます!」
あたふたしながら、希美は答えた。
「うふ、隠してもカオリ分かるもん。
だって、カオリも先生のこと、好きだから、、、。」
桜の木の近くにあるタンポポの花を摘みながら、カオリは言った。
「でもね、ののちゃん。先生って、とっても悪い人なの。
あっちこっちに、いっぱい女の人作ってるの。知らなかったでしょ?」
勝ち誇ったようなカオリを、希美は(見上げる格好で)にらんだ。
父の噂について、否定したい気持ちもあったが、
それ以上に、ショックが大きかった。
34辻狂い:2000/07/11(火) 23:12
・・・桔平って誰??
35名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 23:17
羅王、という説がどこかでありましたが、
・・・・辻狂いさん、ということにしておきましょうか?
36名無しさん@1周年:2000/07/11(火) 23:19
作業を終えたカオリは、帰っていった。
帰り際、希美に見えないように、
ふたりがくちづけを交わすところを、希美はしっかりと目撃した。
初めての恋の相手である父に裏切られた気持ちでいっぱいだった。
泣いている希美のところに、桔平がやって来た。
「どうした、希美?何かあったのか?」
優しく桔平は言うが、希美はその優しさがまやかしであることを、
気付いてしまっていた。
「なんでもない」と、家に帰ろうとする希美に、桔平は
さっきカオリとキスをしたばかりの唇で、触れようとする。
「やめてっ」希美は抵抗するが、今度は押し倒されそうになる。
とっさに近くにあったノミを取って、
桔平の頭部を思いきり殴った。

桔平の頭からは、大量の出血があった。
37名無しさん@1周年:2000/07/12(水) 00:02
作業を終えたカオリは、帰っていった。
帰り際、希美に見えないように、
ふたりがくちづけを交わすところを、希美はしっかりと目撃した。
初めての恋の相手である父に裏切られた気持ちでいっぱいだった。
泣いている希美のところに、桔平がやって来た。
「どうした、希美?何かあったのか?」
優しく桔平は言うが、希美はその優しさがまやかしであることを、
気付いてしまっていた。
「なんでもない」と、家に帰ろうとする希美に、桔平は
さっきカオリとキスをしたばかりの唇で、触れようとする。
「やめてっ」希美は抵抗するが、今度は押し倒されそうになる。
とっさに近くにあったノミを取って、桔平の頭部を思いきり殴った。
38名無しさん@1周年:2000/07/12(水) 00:05
工房の扉を開けた裕子は、呆然とした。
そこには夫が頭から血を流して倒れていて、
傍らには娘がしゃがみ込んで嗚咽している。
桔平はどうやら、もう息がないようだった。
「お、おかさぁん、、、うっ、、どうしよぉ、、
おとぅさんが、、、、」
裕子に気付いた希美が、顔をあげた。
涙でぐしゃぐしゃの、真っ赤な顔をしている。
裕子は希美のもとに駆け寄った。
そして、希美を包むように、しっかりと抱き締めた。
「大丈夫や。おかぁちゃんが守ってやるさかい。
あんたはなぁーんも心配することないんやで。」裕子も泣いている。
しかし、赤ん坊にするように背中をぽんぽんと叩き、
30分ほど、ずっとそうしていた。
希美の嗚咽は、おさまってきた。
裕子は希美を家に帰し、ひとり工房に残った。

「ウチがやる前に、希美があんたを殺してしまったなぁ」
桔平の遺体に向って、煙草をふかし、裕子は冷たくそう言った。
袂からは、保田からもらった紙袋の中身
、、、、青酸カリの瓶がのぞいている。
39名無しさん@1周年:2000/07/12(水) 00:10
おおぉ…
40名無しさん@1周年:2000/07/12(水) 00:15
なぜ保田が青酸カリをもってるんだ?
41名無しさん@1周年:2000/07/12(水) 00:56
<40

保田は医療関係卸業のOLです。
薬は在庫から失敬しました。
42名無しさん@1周年:2000/07/12(水) 00:57
<40

  32参照。
43名無しさん:2000/07/12(水) 00:57
44名無しさん@1周年:2000/07/12(水) 01:07
<41 42

なるほど、そういうことですか。
45名無しさん@1周年:2000/07/12(水) 01:40
裕子はその後、淡々と処理をした。
桔平の遺体は、工房の裏の林に埋めた。
夫の私有地のその林は、他人に荒らされる心配もない。
かつて愛しあった男を、こんな形で葬ることに対して
多少の罪悪感はあった。
しかし、不思議なほど、彼への執着はもうなくなっていた。
それよりも、娘のことのほうが、よっぽど心配だった。

裕子が家にもどると、明かりがついていなかった。
希美が心配になって居間に駆け込み、電気をつけると
部屋の隅にうずくまる希美の姿があった。
「おかぁさん、、、」
裕子の帰宅に気付いた希美は、安心したのだろう、また泣き出した。
裕子は希美と隣合って座り、慈しみに溢れた表情で
「大丈夫。あんたがしたこと、誰にも言わんといたらええねん。」
そう言って慰めた。

しかし、希美の涙の理由は、
殺人を犯したことに対してだけではなかった。
母の大事な人を奪ってしまったことへの罪悪感、
そしてなによりも、
裏切られたと知った今も父への想いを断ち切れないでいる
苦しさを感じているのだった。
46名無しさん@1周年:2000/07/13(木) 01:27
こんばんわ。
昼ドラなのに、今日も昼にあげられませんでした。
「昼ドラテイスト」ということで、夜にあげても
あたたかく見守ってくださいね。

                 作者。
47名無しさん@1周年:2000/07/13(木) 01:28
希美が義父・桔平を殺してから2ヶ月が過ぎた。
あの出来事があってから、希美は、
精神的に大きなダメージを受けてたため、情緒不安定になっていた。
だが最近は、大分心の傷は癒えてきたようで、
時折、急に泣き出してしまうことを除いては、
いつもの希美に戻っていた。
母・裕子との関係も、今まで通り良好だ。
今週末には親子ふたりで、奈良にいる希美のいとこに会いに行く予定だ。
希美は、バレー部の新人戦にむけてのレギュラーに選ばれた。
はりきって、毎日トスの練習をしている。

・・・何もかもが、桔平がいなかった頃に戻ろうとしていた・・・

そんななか、部活の最中に希美が倒れた。

48名無しさん@1周年:2000/07/13(木) 01:33

保健室には、力持ちの安倍先輩が担いでいってくれたらしい。
30分後、希美は保健室のベッドの上で意識を取り戻した。
「あ、れ?どうして こんなとこに いるのだろ」
希美の呟きで、保健の先生がベッドサイドにやって来た。
「気分はどうですか?軽い貧血だから大丈夫だと思うけど。」
吉澤先生は、いつもクールだ。彼女は、しごく事務的な物言いする。
「成長期だから、貧血って起こりやすいんですよね。
せっかく保健室に来たから、何か体のことで心配な点があったら
言ってください。」
早口に、吉澤は続けた。
「心配事、、、えーと、何かあるかなぁ。
あ、そうだ。せ、生理が遅れてて、、、、、。」
恥ずかしそうに希美はそう言った。
吉澤は、クスっと笑って
「ダイエットなんかをしてたり、性交渉をしていない限り、
なんの問題もありませんよ。成長期ですからね、不規則なんですよ。」
と言った。

・・・・セイコウショウ、赤ちゃんができるってこと?
希美は、吉澤に動揺を悟られないようにするので必死だった。
49名無しさん@1周年:2000/07/13(木) 01:46
希美の義父・桔平は、行方不明ということになっていた。
裕子は、「突然夫が姿を消してしまったが気丈な妻」を、
周囲の人に対して演じていた。
希美が桔平を殺したことは、保田と従姉妹のみちよしかしらない。

昼下がりのオープンカフェで、裕子はジンジャーエールを飲んでいる。
桔平が死んでから、こうやってひとりで過ごすことが多くなった。
元来、友人と楽しく飲んだりすることを好む裕子だが、
秘密を抱えたまま、人つき合いをしていくことに、疲れを感じないはずはない。
麻でできた象牙色の日傘を傍らに置いて、花村満月を読む。
今日は、白地に朝顔の柄の浴衣を着ている。
蝉の声を聞き、裕子はふと顔をあげた。
「夏、やなぁ、、、。」
50名無しさん@1周年:2000/07/16(日) 01:25
「はーっ」
お手洗いのなかで希美はため息をつく。
希美の生理はもう3ヶ月も遅れていた。
いくら成長期だからといっても、これは尋常ではない。
・・・いつも規則正しく来てたのに、おかしいよね。
バレー部の矢口先輩に電話してみよう・・・希美は思った。
気さくで男性経験が豊富らしい彼女、希美のチョイスは妥当だろう。

「えー!希美、もう女なのーっ!?矢口ちょっとショック−☆
、、、、うん、わかった。明日検査薬持ってってあがるから。」
30分ほどかけて用件を切り出した電話で、矢口は快く相談に応じてくれた。
やはり薬局に妊娠検査薬を買いに行く勇気は、希美にはまだない。

翌日受け取った検査薬を使ってみた。
3分後、「+」の赤い印が浮き上がってきた。

母・裕子は希美の体の異変にまだ気付いていなかった。
しかし、いつかは母に話さなければいけない。
どういう結論を出すにしても、
13歳の希美ひとりで解決できる問題ではないのだ。
たとえ、胎児の父親が母の愛した人であっても。
51名無しさん@1周年:2000/07/16(日) 01:27

裕子は和室で針仕事をしている。
左手で自分の右肩を叩く、牡丹模様の着物を着た後ろ姿を
希美はじっと見つめ、やがて決心したように口を開いた。
「お母さん、話があるの」

「なんや?すいかでも切ろか。」そう言って振り返る母の顔は
すこし疲れているが、美しかった。
西瓜を食べながら希美は母に話を切り出した。
「赤ちゃんが、できたの」
裕子はあっけに取られ、その後1分の沈黙があった。沈黙の後、静かな部屋のなかに響いたのは
裕子の啜り泣きだった。
右手で顔を覆い、裕子は声を殺して啜り泣く。
希美はそれでも続けた。
「のの、赤ちゃんを産みたい」

裕子が顔をあげて希美にかみついてきた。
「自分、何ゆうとるのかわかっとるんか?」
母の口調はいつもよりも荒くなっている。
動揺しているのだろう。
泣きそうになりながらも希美は言った。
「本気だよ。お願い、赤ちゃん産みたいの!」
裕子はすっくと立ち上がり、無言で麸の向こうに消えてしまった。

52名無しさん@1周年:2000/07/16(日) 01:30
おいおいおいおいおいおいおいおい
53のの:2000/07/16(日) 03:03
さくしゃはん、
おわらせたいみたいれす。
54名無しさん@1周年:2000/07/16(日) 03:04
保田が裕子を旅行に誘った。
夫が亡くなってから沈みがちな裕子を気遣っての提案だった。
尾道で、名物のラーメンを食べながら
裕子は希美の妊娠について語りはじめた。
保田は、いたって冷静に、頷きながら黙って話を聞いた。
話が終わって、保田は言った。
「希美ちゃん、桔平さんのことがほんとに好きなんだね。
希美ちゃんは裕ちゃんの娘だもん。
一度言い出したらテコでも動かないでしょ?困ったねぇ。」
裕子はラーメンを片付けて、ビールを飲んでいる。
「そうやな。希美は頑固な子や。
無理に病院に行かせて、堕ろさすことも考えたんけやどなぁ。
いっそのこと、産ませてやろかと思ってんねん。
誰も知らん土地に行って、ウチの子どもとして育てんねん。
どうやろ?」
「裕ちゃん、ヤケクソだね。」
5554の前に55。:2000/07/16(日) 03:05
***間違えました。

裕子はかなり混乱していた。
希美のお腹のなかにいるのは、間違いなく亡き夫の子どもだろう。
それを、希美は産みたいと言う。希美も桔平を愛している、、、。
気付かないようにしていた事実だが、やはり裕子は傷付いていた。
昼下がりの庭でほおずきを眺めながら、裕子はぼんやりと過ごした。

裕子は、希美の告白を受けた翌日、彼女を病院に連れて行った。
近所におかしな噂が立つことを恐れて、大阪の病院を探した。
検査の結果、やはり妊娠は間違いなかった。
帰り道、アイスキャンディーを食べながらふたりは歩いた。
無言で駅までの坂道を下っている。
「お母さん、のの、赤ちゃん、、、」
希美の言葉の続きに予想がついた裕子は、遮った。
「やめてっ!これ以上お母ちゃんを苦しめんといてよ、、、」
裕子は絞り出すように言った。その姿は、希美にも痛々しく映った。
56名無しさん@1周年
こっちはもう続きやらないの?