愛はパワーだよ!

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1名無しさん@1周年
ゴトモナはゲーハーだよ!
2名無しさん@1周年:2000/06/22(木) 01:07
意味がわからん
3徹夜組:2000/06/22(木) 01:12
俺もわからん
4名無しさん@1周年:2000/06/22(木) 01:40
時枝ユウジの右ィ!!
5名無しさん@1周年:2000/06/22(木) 06:05
素敵なスレをありがとう
6名無しさん@1周年:2000/11/01(水) 19:45
 
7夜行:2000/11/11(土) 22:31

 さっきまで所々に黒い地肌を見せていた田畑は、列車が山に近付くにつれて、白い雪で覆われた大地
との境界線を徐々に失っていった。
 流れていく景色は、線路脇の灯火が照らし出す若干の起伏を見せる雪原の白さと、その向こうの暗闇
だけだったが、私にとっては決して退屈なものでは無かった。
 薄暗い車内、間近な雪しか見えない外、そしてそれらに挟まれた窓硝子。そこには、車窓の下に設け
られた出っ張りに肘を置いた私と、向かい側の席に座る少女が映っている。
 前の停車駅からこの車両に乗り込んできたその少女は、圭織と名乗った。
 硝子を介して圭織の様子を窺うと、彼女は赤い網に包まれていた蜜柑を一つ取り出し、お世辞にも器
用とは言えない手付きで皮を剥き始めるところだった。

「お一ついかがですか?」
 長い黒髪に包まれた白く整った顔。寒さで凍える事など無さそうな、赤い唇が少し笑っている。
 私は礼を言って圭織から蜜柑を受取った。案に外して綺麗に剥かれたそれは、大輪の菊の花を思わせた。
8夜行:2000/11/11(土) 22:32

 圭織は、歌手をしていたと言った。私については牧場で勤めている、とだけ言っておいた。牧場と聞いた
途端に彼女は目を輝かせ、しきりと私の話を聞きたがったが、話すほどの事は無い、とキツくならない程
度に断った。正直なところ、話して聞かせたい気持ちも有ったのだが、それ以上に圭織の話を私は聞きた
かったのだ。
 圭織は語り始めた。かつては女性ボーカルグループの一員だった事、デビュー時の苦労話、追加メンバ
ーとの軋轢、仲間の脱退、初のミリオンセラー、続く脱退、更に追加されるメンバー、三度の脱退騒動、そ
して解散──。未だ二十歳にもならない彼女の波乱万丈な数年間は非常に興味深かったが、それ以上
に、くるくると変わる彼女の表情に私は大きく惹きつけられていた。
 楽しかった事を話す時は腕を振り上げ、苦しかった時を思い出してはさも深刻そうに眉間に皺を寄せ、悲
しかった事を回想している時は目に涙さえ滲ませていた。
 持参してきた文庫本「遠野物語」は、既に不要な物となっていた。
9夜行:2000/11/11(土) 22:33

 ふと会話が途切れた。車内の冷えた空気が頬を刺す。
 圭織は先程までの快活さを潜め、両手を腿の上にきっちりと揃え、ただ静かに座っていた。伏せ気味の
瞼、長い睫毛、少し赤みを帯びた目尻、濃過ぎず薄過ぎない目下の隈。その目がゆっくりと上げられた。
 私が見ていたのに気付いて、圭織は少し驚いた表情をした。それでも私は、彼女の目から視線を逸らす
気にはなれなかった。

「圭織は人をじっと見る癖があって、初対面の人によく誤解されるの。気持ち悪いなんて言われた事もある。
凄く悲しかった。カメラが回っているのは分ってたけど、泣いちゃうくらい、本当に悲しかった」
 少し泣きながら、でも懸命に彼女は話した。目の淵が更に赤みを増した。
 こんな綺麗な瞳で見つめられて何が不快だと言うのか? 圭織を悲しませた心無い加害者に、激しい憤
りを覚えた。
 私は圭織の真っ直ぐな視線を受け止めながら、手に持った「遠野物語」の山女の描写を思い出していた。

 長き黒髪を梳りてゐたり。顔の色きはめて白し。
 身のたけ高き女にて、解きたる黒髪はまたそのたけよりも長かりき。
10夜行:2000/11/11(土) 22:33

 目的地はまだまだ先で、到着は明け方近く。

 窓の外は暗く、殆ど何も見えない。たまに景色が変わるのは、凍てついた木々が山を視界から遮る時くらいだ。
「雪が好きなの?」
 突然、圭織の方から話しかけてきた。私が相変わらず、飽きもせずに窓の外を見ていたせいかもしれない。
「うーん。雪そのもの、って言うより、この列車の窓から見る雪景色が好きなんだ」
 すると、私の言葉を確かめるように、圭織が上体を傾けながら窓の外に目を遣った。しかし表情は変わらない。
「圭織は好きじゃないんだ、雪」
 圭織が再び私に視線を戻す。
「雪より、雪が解けて出来た水が好き。だから、見るなら、ひんやりとした水が流れ込む池や川がいいな」
「ふーん、そうなんだ」
「綺麗な水のある場所なら、一日中見てても飽きないと思う。そんな所でイモリが浮いたり沈んだり…」
「イモリ? 身体が黒くてお腹が赤い、蜥蜴みたいなアレ?」
「そう。イモリは綺麗な水にしか棲めないんだよ」
 そう言いながら、圭織は静かに目を瞑った。かつて見た水のある景色にでも、想いを馳せているのだろうか。
11夜行:2000/11/11(土) 22:33

 ぎぃ、と列車が停止した。もう、いくつ目の停車駅だろうか忘れてしまった。
 この駅にも、乗り込んでくる客はいなかった。
 ホームの中央に設けられた待合室が目の前に見える。窓から薄ぼんやりとした明かりが漏れ、周囲に
積もった雪を照らしている。
「誰もいない」
 思わず口を突いて出た言葉がそれだった。ホームに積もった雪は踏みしめられた跡も無く、少し離れた
場所に見える改札口にも人気が無い。
 駅員達は部屋に篭って出て来ないだけなのだろうか。
「ここから先は、ずっと、こんな感じだよ」
 圭織が事も無げに言う。そして、目を丸くしている私を見てか更に続けた。
「圭織の故郷は雪で──」
 しかし、車輪の軋む音で彼女の声はかき消されてしまった。
 列車は次の駅に向けて、再び動き出した。
12夜行:2000/11/11(土) 22:34

 座席に深く掛け直し、列車の振動に身を任せる。あれから日付は変わったが、今のところ些かの眠気
も感じない。
 また外が見たくなり、息で曇った窓をてのひらで拭いてみた。
 そう言えば、圭織は何処で降りるのだろうか、まだ聞いてなかった気がする。さっき聞きそびれた言葉
の続きは何だったのだろうか。雪、故郷が雪で──。
 不意に窓の外が真っ暗闇に変わった。雪が見えない。車内の蛍光灯が明るさを増したような気がした。
「一つ目のトンネル」
 開いた左手の薬指を右掌で折りながら圭織が言う。二つの目の指を彼女が折った時、行く先を聞いて
みよう。
 私の目的地は、トンネルを五つ潜り抜けた先にある。
13夜行:2000/11/11(土) 22:34

 また一つ暗渠のような洞を潜りぬけた。
「りんねは何処で降りるつもりなの」
 不意に圭織が尋ねて来た。
 トンネルを過ぎる度に次々折られる指を見つつ、さり気なく彼女の行く先を聞きだす機会を窺っていたの
だが、事もあろうに向こうから先手を打って来るとは思いも寄らなかった。
 相変わらず真正面からこちらを見ている圭織に対して下手な誤魔化しは効きそうも無く、私は狼狽を押
し隠しつつ、「花畑駅で降りるつもり」と答えるので精一杯だった。
「じゃぁ次のトンネルを抜けたらお別れだね」

 今や圭織の指で曲げられてないのは薬指のみで、やや下に傾けられた左のこぶしは、指きりげんまん
を躊躇う子供のような心細さを漂わせており、少しだけ私の胸を痛ませた。
「そうだね。でも、次のトンネルに差し掛かるのは、まだまだ何時間も先だよ」
 今度は私が聞く番だ。視線にやや力を込めて圭織を見つめ返す。
「圭織は何処へ帰るの?」
14娘。:2000/12/11(月) 15:06
ここに来てたんかァ。
続きは…、また別のところなの??
15名無し娘。:2000/12/12(火) 09:23
こんにちは。
ここで終わらせたいです…
16名無し娘。:2000/12/13(水) 11:12
…やっぱり(羊)に逝きます。
17娘。
>>16
了解。羊で頑張ってね☆