★なっち熱演のドラマを見て涙した人の数2→

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135しゅんなち
−− 「最後の夏休み」外伝 −−
〜 あの夜、柊平の想い 〜

ドーン・・・パラパラパラ・・・。
夜空に花火玉が砕け散る音がする。
遠くの方で色とりどりの光が、一瞬で広がっては消えていくのが見える。
「もう始まってるみたいだね」
「うん」
「行くぞ!」
「うん!」
大きく頷くと俺の手を握ってくる。
俺も祐子の手を強く握り返す。
人混みの中で2人、離ればなれにならないように。
打ち上げ花火がよく見える場所を目指して、無意識のうちに早くなる足。
その手は少し汗ばんでいた。
136しゅんなち:2001/08/25(土) 00:24 ID:PFCLXhSg
「きれい・・・」
祐子が呟く。
その声とその横顔は花火の音が鳴り響く度、一つの場面として心に納められていく。
それはまるでシャッターを切る音みたいに。
たくさんの人たちの表情を、様々な色に染めながら、空いっぱいに。
花火が散っては消えていく度に、夏の思い出が心のネガへと焼き付けられていく。
「本当に・・・綺麗だ」
祐子に見とれていた俺は、自分の言った台詞に我に返り、赤面し、俯いてしまう。
「うん。本当に・・・きれい」
うっとりとため息混じりに言う祐子。
しばらくの間、俺たちは可憐に咲き乱れる夜空の花に見入っていた。
137しゅんなち:2001/08/25(土) 00:25 ID:PFCLXhSg
「打ち上げ花火は下から見ても、横から見ても丸いって知ってるか?」
「え? なんで? 横から見たら平べったいでしょ?」
「違う違う」
「うそ」
「本当だ。線香花火はどこから見ても丸いだろ? それと一緒」
「あ、そうか」
納得したように祐子は頷き、少し首を傾げて微笑んだ。
その笑顔は、花火なんかとは比べものにならないくらい、綺麗で・・・。
綺麗すぎて・・・儚くて。
「今度、線香花火したいな」
それを聞いた俺は明日にでも線香花火を買ってくるだろう。
138しゅんなち:2001/08/25(土) 00:25 ID:PFCLXhSg
花火大会も終盤に近付いた頃、俺は長居しすぎていることに気付く。
「祐子、体は・・・大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
そう言いながらも、尋常でないほどに額と頬に汗をかいている。
その汗の量は夏の暑さのせいだけじゃない。
「帰るぞ」
「まだ、もう少し」
「祐子、お前・・・」
「お願い」
俺の手を取ると力を籠める。
そして立っているのが辛いのか、体を預けてきた。
「あと・・・5分だけだぞ」
「うん」
その5分の間に、この花火大会は終わりを迎えた。
消える直前のろうそくのように、激しく、連続して打ち上げられ、夜空に散っては消えていく。
線香花火の終わり方が、力を失って静かに消えていくのとは大違いで。
その激しさが、終わったあとの余韻を一層切ないものにした。
139しゅんなち:2001/08/25(土) 00:26 ID:PFCLXhSg
「来年も、また来れたら来たいな」
「なに言ってんだよ。来年と言わず、毎年連れて来てやるよ」
帰り道、俺は祐子をおぶったままそう答えたが、
その体重があまりに軽くなっていることにショックを受けていた。
「下から見ても、横から見ても、打ち上げ花火はやっぱり丸い・・・」
「ん? ああ」
「だったら・・・」
「だったら?」
「上から見ても、やっぱり・・・丸いんだろうね」
「・・・・・・」
思わず、足を止めそうになったのを辛うじて堪える。
一瞬の空白の後、俺は言った。
「明日、線香花火しような。どっから見ても、本当に丸いかどうか」
「うん・・・」
声では辛うじて平静を装いながらも、胸の中はこみ上げる感情でいっぱいだ。
「疲れたから、ちょっとだけ眠っても・・・いい?」
祐子の声が、背中を通じて俺の胸に響く。
顔を見られないことが、せめてもの救いだった。
「寝ろよ。病院までちゃんと連れて帰るからさ」
「ごめん、ね」
「いいから」
「うん・・・ありがと。今日は本当に楽しかった」
程なくして、首もとに感じられていた息使いが小さな寝息に変わる。
俺は声にならない嗚咽を漏らしながら、歩き続けた。
祐子が打ち上げ花火より高い場所に行く日が・・・どうか来ませんように、と祈りながら・・・。