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288名無し娘。
 梨華は目の前の壁に両手をつき、くびれた腰を後ろに突き出して脚を開いた。
羞恥で頬が真っ赤に染まり、呼吸が荒くなる。
「ね、ねえ…
 もうやめようよ…」
 無駄だと分かっていたけれども、梨華は震える声で懇願した。
 …生放送の本番前、スタジオの薄暗いトイレの中。
梨華の足元にうずくまっているひとみはいつものように無言で準備を進めている。
 梨華は怯えた目で、その様子を見詰めながらもう一度言った。
「よっすぃ…。
 こんな恥ずかしい事、もう嫌だよ…。
 今度こそ我慢できないかもしれないし」
「……」
 彼女の声など全く聞こえていない素振りで、ひとみは手にした物を嬉しそうに見せてきた。
「ほら。できたよ。
 いつもより刺激倍増の強力なやつ」
「…うぅ…」
 梨華の小さな弱々しい心を絶望が踏みにじる。
また、あの時間を耐えなければならない。
何度経験しても慣れることなどあり得ない、恐怖と苦痛に満ちた時間を。
…でも仕方なかった。
悪いのはわたしなんだから…。
ひとみちゃんのプライドを傷つけたわたしが悪いんだから…。
これで許してもらえるのなら…、ひとみちゃんが笑ってくれるのなら…。
 梨華は毎回、そう自分に言い聞かせていた。
(ごめんねひとみちゃん、わたしがでしゃばっちゃって…
 それを良く思ってないのは知ってたよ、でも、事務所がどうしても……)
 グループに加入した時には確かにひとみの方が上にいた。
でも今は逆だった。梨華の方が強力に売り出して貰っていた。
その事に対する後ろめたさ、ひとみに対する罪悪感… …。
 ……生放送前の浣腸。
ただこれだけが、梨華がひとみの心に応えるために残された唯一のチャンスだったのだ。