LIFE IS KICK

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70吉澤・ソーパランチャイ
その日吉澤は中澤から練習前に会長室へ顔を出すように言われた。
「調子良さそうやないか?思っていたよりええ感じやな。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
中澤は少し間をおくと吉澤の顔を見つめて言った。
「どうや、やってみるか。」
「やるって…何をですか?」
きょとんとした顔で尋ね返す吉澤に中澤は真剣な表情で答えた。
「その気があるなら次の団体交流戦の中にあんたの再デビュー戦を組もうと思う。」
「……」
吉澤の脳裏にリングに上がった自分の姿が浮かぶ、答えに躊躇する必要はない。
「はい、よろしくお願いします!」
再起戦が組んでもらえる。
吉澤は叫び出しそうになるのをこらえ、中澤への挨拶を済ますと足早に会長室から出ていった。
練習場へ向かう通路の所で石川の姿を見つけた吉澤は駆け寄ると思わず抱き付いてしまった。
「うああ!?なに?なに?」
「やった!試合が出来るよ!!」
「し、試合って。再起戦の事?」
「うん、次の興行で。相手はまだ決まってないみたいだけど見に来てくれるよね!」
「って言うか、あたしその試合のセコンドにつくと思うけど…」
笑顔でそう言う石川を見て吉澤は思わず苦笑いを浮かべた。
「そうだよね、そういえばそうだ。やばい…興奮し過ぎだって。ちょっと走って頭冷やしてくる。」
そう言ってジムから出ていこうとする吉澤に石川が声をかけた。
吉澤が振り向くと石川は右手を胸の前に持っていき、笑顔で拳を握り締めた。
それを見た吉澤は照れくさそうに頷くと、それから飛び出すようにして走りだした。