LIFE IS KICK

このエントリーをはてなブックマークに追加
61吉澤・ソーパランチャイ
練習の本格的な再開は吉澤にブランクとの葛藤を余儀なくしていった。
頭で考えるような動きができない。
サンドバックを蹴ると以前のような足に跳ね返ってくる衝撃が
無くなっていたしパンチにも体重が乗らず重い攻撃が出せない。
しかし、なによりも吉澤を困らせたのは顔面の反応速度の低下だった。
「梨華、マス付き合ってくれないかな?」
そろそろいいだろう。
そう思い練習再開から数日ほどして吉澤はパンチだけのマススパーリングをしてみることにした。
――― まあ今は昔みたいにはできないだろうけど
その程度に考えていた吉澤は2年間のブランクがどれだけ大きいか
実感する事になる。
もらうはずのないような捨てパンチまでもらってしまう。
石川は選手兼トレーナーではあるが元々トレーナーが本職だ。
その石川が明らかに手を抜いているのに、だ。
「疲れてるんじゃない?練習再開したばかりだし
 今日はこのくらいにしておこうよ…」
余りにも無防備でパンチをもらってしまう吉澤を心配しての石川の言葉だったが吉澤は笑顔で答えた。
「大丈夫、1日でも早く調子取り戻したいから。」

結局その日、吉澤は石川のパンチにほとんどまともな対応ができなかった。
しかし心配する石川をよそに吉澤は少しも落ちこむことなく驚くほど元気だった。
まるで今この場にいられる事が自分にとっては最上の幸せだと言っているかのように。