LIFE IS KICK

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56吉澤・ソーパランチャイ
「おつかれ〜もういいや。ローに繋げるコンビネーションは
こうやってやるんだよ。おわかり?」
立てなくなった練習生を見下ろすようにして矢口が言った。

(『こうやってやるんだよ。』だと?あんな一方的にやられたんじゃ、
何されたかもわかるわけないだろ…)
その光景を見ていた吉澤は矢口の態度に若干の苛立ちを感じると共に、
嫉妬にも似た対抗心を抱いた。
(私だったら今やってもあんな風にいいようにやられない。)

矢口のスパーを見た帰り吉澤は自分の神経の高ぶりに戸惑っていた。
実際、目の前の矢口の強さは感嘆に値するものだった。
おそらく今の自分とは各段の実力差がついてしまっているのかもしれない。
しかし冷静になる事ができない、自然に全身が震え出してしまう。
もう、2度と戻る気はない。
頭ではそう思っていたのに、体がそれを認めてくれなかった。
その夜、吉澤は石川の留守電にメッセージを残した。
「私もう1度やれるかもしれない…。梨華の言う通りジムに戻ることにしたよ。」