LIFE IS KICK

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54吉澤・ソーパランチャイ
矢口真理。
彼女は吉澤がプロとして3回戦で試合していた頃に練習生として入門してきた。
当時の矢口は今と正反対でもっと地味な感じだったし、
ジムに練習に来た時もどこか自信なさげで、端の方でサンドバックを叩いている。
そんな感じのイメージしかなかったので、
目の前にいる矢口は吉澤にはまるで別人のように見えた。

「はい、かーん!」
矢口は依然としてへらへら笑いながら自分の口でゴングの音マネをした。
それと同時にキックには不釣合いな飛び跳ねるようなステップを踏み出し、
相手の周りを回り始める。
「攻撃してくれなくちゃ、スパーになんないよー。」
やや、遠目の間合いでステップを踏んでいた矢口は相手を挑発するように言った。
矢口からは一切手を出すそぶりはない。
(何のつもり?攻めないのか…?)
吉澤がそう考えていると練習生が攻撃を始めた。
左ジャブ、右ストレート、左フックと基本的なコンビネーションを
繰り出すものの矢口は口元に笑みを浮かべたまま、
それらをスウェーやパリング等の上半身や腕の動きでかわし、
グローブを自分の顔の前にかざし、来い来い。という仕草で相手を挑発する。
やはり矢口の方から攻め手に回る気配はない。